【第165-169号】岩上安身のIWJ特報!何よりガザ封鎖解除を 尊厳ある生への戦い~京都大学教授・岡真理氏インタビュー 2014.9.30

記事公開日:2014.9.30 テキスト独自
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(岩上安身)

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 2014年7月8日から50日間に及んだ、イスラエルによるガザ地区への攻撃。市民に多数の死者を出した、今回のイスラエルによる傍若無人な振る舞いを、岡氏が痛烈批判。パレスチナの歴史を振り返りながら、今回の攻撃の背景を読み解いています。

▲岩上安身のインタビューに答える京都大学教授・岡真理氏

 日本の大手メディアでは、「イスラム原理主義組織」と表記されるハマス。しかしハマスは、原理主義でもテロ組織でもないと、岡氏は語ります。ハマスとは、ファタハとは、そしてオスロ合意の持つ意味とは何か。必読の内容です。

 パレスチナで行われてきたことは、紛れもない「民族浄化」であると岡氏は証言します。そしてそれは、パレスチナ人の「痕跡」や「記憶」をもすべて抹消する「メモリサイド」なのだ、とも。パレスチナにおける虐殺の実態を証言しています。

 「現代のパレスチナ人こそが、2000年前のユダヤ人の末裔である」と岡氏は断言します。「シオニズム」に対する一般的な理解を覆すこの発言の真意とは!?「イスラエルの正体」を明らかにする驚きの告発!必読です!

【岩上安身のIWJ特報!】以下、冒頭部分を特別公開!

 停戦は絶対に必要、しかし封鎖解除も同時に行われなければならない——。岡真理氏はそう訴える。陸路、空路、海路を封じられた「監獄」に閉じ込められたガザの人々は、たとえイスラエルからの軍事攻撃がなくとも、常に人間の尊厳が奪われた状態に置かれているからである。

 岡氏が「ガザの人びとの8割は難民で、帰還権という基本的人権が60年以上も奪われている。1967年以降、ガザは軍事占領下にあり、完全に封鎖されている」と説明しているように、ガザで起きていることの原点には、イスラエル建国時の民族浄化があり、パレスチナ人の難民化があり、軍事占領があり、そして封鎖がある。

 今年7月8日、イスラエルはパレスチナ自治区ガザへの軍事作戦を開始した。50日間に及ぶ大規模攻撃によって、パレスチナでは2143人が死亡。そのうちの約7割が一般の市民だった。

 8月26日には、イスラエル軍とハマスの間で長期停戦の合意が結ばれたが、ハマス側が停戦の条件としていた、ガザの空港・港の再開を含む境界封鎖の全面解除は果たされなかった。そればかりか、停戦後、イスラエル軍はヨルダン川西岸の土地約400ヘクタールを接収すると発表。さらなる入植地拡大を目指す姿勢を明確化した。

 このあまりに傍若無人な振る舞いには、イスラエル支持のアメリカもさすがに苦言。米国務省当局者はパレスチナとの2国家共存を実現する上で「非生産的だ」と述べ、撤回を求めている。

 土地、命、そして自由を理不尽に奪われ続けてきたガザ。アラブ文学研究を専門とする岡氏は、ガザの人びとの姿に、尊厳ある生を求めて戦う者たちの物語を読む。形だけの停戦ではなく、即時の封鎖解除を求める岡氏に、お話をうかがった。

記事目次

  • 人が虫けらのように殺されている時、文学に何ができるのか
  • 「集団的自衛権」に踏み込む日本にとって「ガザ」は対岸の火事ではない
  • ハマスはイスラム主義政党であり、原理主義でもテロ組織でもない
  • オスロ合意のもとでも、パレスチナの土地を力づくで奪い続けてゆくイスラエル
  • メモリサイド~記憶の根こそぎの虐殺
  • パレスチナ国防軍は定期的に「芝を刈る」
  • 未来が見えない封鎖下の生活で増えてゆくパレスチナ人の人口
  • イスラエルの論理に立てば、ハマスも民家を攻撃してよいことに
  • 占領地での違法な封鎖と違法な集団懲罰に対する武装闘争
  • ユダヤ民族の離散と帰還という、イスラエル建国の『神話』の嘘
  • シオニズムを生み出したユダヤ人は、あくまでヨーロッパのユダヤ教徒
  • 現代のパレスチナ人こそは、2000年前のユダヤ人の末裔
  • 「先住民はいなかった。あとから来た」というでっちあげを、自ら信じこむ
  • パレスチナ難民は戦争難民ではない。戦争に先立つ虐殺、民族浄化による難民である
  • 1948年の「ナクバ(大災厄)」と呼ばれる民族浄化を直視することなしに、パレスチナ問題は理解できない
  • 毎日、コツコツと殺してゆく巧妙なジェノサイド ~大量殺戮以外報じないメディアの感覚の鈍磨
  • 「すべてのパレスチナ人の母親を皆殺しにせよ!」「『汝殺すなかれ』という教えは、ユダヤ人に関してだけだ」
  • アメリカはなぜイスラエルを『偏愛』するのか
  • アメリカのネオコンの中東での狙いはどこにあるのか
  • パレスチナ人を物理的にも形而上学的にも常に抹殺することでしか、国を維持できないイスラエル
  • 60年代以降になってイスラエルの国民統合のために利用されたホロコースト
  • イスラエルのユダヤ人はホロコーストの経験がない
  • ガザの南、エジプトの存在
  • パレスチナに同情的だった中東の国々が次々に打ち倒されている現実
  • 答えはシンプルである。何よりもイスラエルは封鎖と占領の終結を
  • プロ・シオニストのグローバル企業の不買運動

人が虫けらのように殺されている時、文学に何ができるのか

岩上安身(以下、岩上)「皆さんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。私は今、京都大学に来ております。

 私の手元には、『ホロコーストからガザへ』という本があります。この本をお書きになったサラ・ロイ(※1)さんという方は、ご両親がナチスのホロコーストの犠牲者です。強制収容所送りになりましたが、生き永らえました。サラ・ロイさんは、そうしたホロコーストのサバイバー(生存者)のお子さんでユダヤ人なのですが、ユダヤ人でありながら、イスラエルに対して、たいへん厳しい視線でガザの問題をお書きになっている。そういう学者です。

 この大変貴重な本の翻訳をされた何人かの先生のお一人が岡真理先生です。岡真理先生がお書きになった、『アラブ、祈りとしての文学』(※2)にも大変ショッキングな話が色々と出てきます。

 今日は京都大学にお邪魔して、岡真理教授にこれからお話をうかがいたいと思います。岡先生、よろしくお願いします」

岡真理氏(以下、敬称略)「よろしくお願いいたします」

岩上「先生は、たくさん文学についてお書きになっていらっしゃいますが、文学者として居ても立ってもいられない、小説に何が出来るのだろうか、こんな悲劇が起きているときに、小説を読んで、書くという営みが、少しまどろっこしいのではないか——。

 時に人はジャーナリストのように、いま起きている現実をすぐ伝えなくてはいけないのではないか——。

 そういう煩悶のようなことを何度かお書きになっていらっしゃいます。

 実際、文学について語りながら、現実に起きているこのパレスチナの現実の出来事を、ジャーナリストのようにお伝えになったりされていますね。やはり現実との葛藤は、おありなのでしょうか?」

岡「今、ご紹介していただいた『アラブ、祈りとしての文学』が出版されたのは2008年の暮れ近くですが、その冒頭に、いったい文学には何ができるのだろう、というようなことを書きました。特に私の場合、専門は小説です。そういう思いを抱いたのは、今からもう12年以上になりますけれども、第二次インティファーダ(※3)の時です。

 もう本当に毎日のように、パレスチナ人がヨルダン川西岸地区で、あるいはガザで、当事者が虫けらのように殺されていて、アラブの小説を研究することに、何の意味があるのだろうと思いました。

 『アラブ、祈りとしての文学』は、そういう葛藤を抱いて、そうした思いのなかから、文学作品を読み解いていくということをした本です。この本が出て、本当に一ヶ月と経たないうちに、5年半前の、あのキャスト・レッド作戦(※4)が開始され、2008年の暮れから2009年の1月半ばまで、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が続きました。

 でもその時には、この本を書いていたことで、戦争が現在進行形で起きているときに、小説にはミサイルを止めることはできないけれども、実はそれ以外の力があるのだという思いが、すごくありました」

岩上「確認できるような感じがあったと?」

岡「文学には文学にしかできない力があると。5年半前の攻撃が終わった2009年から、『国境なき朗読者たち』(※5)というグループを、京都の市民や大学の学生たちと立ち上げ、ガザをテーマにする朗読劇を上演する活動をしています。

 今、またこのような5年半前の攻撃をはるかにしのぐ、すさまじいジェノサイドが起きているなかで、日々、現地の状況を調べてみて思うのは、今こそ、文学が必要とされているということです。

 今、ガザで進行中の大量殺戮は、何百人が殺され、何千人が負傷し……といった風に、数字に還元されてしまっています。また、破壊であるとか、殺された映像であるとか、そういうものばかりが溢れていますよね。あるいは、生きていても、その中で逃げ惑ったり、悲しみに泣き叫んだりという映像ばかりですよね。

 それはそれで、今起きていることの破壊性とか暴力性を伝えてはくれるのだけれども、被害者が、そういう出来事の『犠牲者』という形に還元されてしまっています。彼らは、私たちと同じ等身大の人間です。あるいはガザの場合は、この攻撃に先立って、封鎖というような殺戮なきジェノサイドがあるわけです。

 そういうことがなければ、本当に私たちと同じ人間たちなのだということが、『犠牲者像』だけに還元されてしまったものからは、なかなか伝わりにくいと思います。

 だからこそ、今こういう状態のなかでも、ブログを発信しているガザの人たちがいて、その中には、一つの文学的なテクストもあるのです。だから本当に、こういうものをこそ今伝える必要があるなと、すごく思います」

岩上「なるほど。わかりました。まず、最初に紹介と思って、一言お声をかけたら、もういっぱい、岡先生の思いが、ほとばしっていらっしゃる。岡先生は、今、ものすごく精力的に活動されています。いたるところで発言をされていて、またその発言を、IWJが追っかけまくっています」

岡「ありがとうございます」

岩上「これは、僕らが『やって』という場合もありますが、現場の人たちが、自主的に『撮りたい』と言ってくるものも多いのです。

 その時その時に、ホットなテーマで、非常にホットな発言をしている人の配信が集中するということはこれまでにもよくあって、今、岡先生が『きてる』な、ということになっています」


(※1)サラ・ロイ:ハーバード大学中東研究所上級研究員。パレスチナ、とくにイスラエルによるガザ地区の占領問題の政治経済学的研究で世界的に知られる。著書に『ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学』(青土社、2009年11月)がある。(【URL】 http://bit.ly/1vwIt3Q

(※2)『アラブ、祈りとしての文学』:2008年12月みすず書房刊。同書を通じて岡氏は、「文学になにができるのか」という問いを立てている。
 「小説を書き、読むという営みは理不尽な現実を直接変えることはない。小説は無能なのか。悲惨な世界を前に文学は何ができるのか。古くて新しい問いが浮上する。
 小説を読むことは、他者の生を自らの経験として生きることだ。見知らぬ土地、会ったこともない人々が、いつしか親しい存在へと変わる。小説を読むことで世界と私の関係性が変わるのだ。それは、世界のありようを変えるささやかな、しかし大切な一歩となる。世界に記憶されることのない小さき人々の尊厳を想い、文学は祈りになる」(【URL】 http://bit.ly/1peCIPJ

(※3)第二次インティファーダ:「インティファーダ」とはアラビア語で「振り落とす」という意味で、「蜂起」や「反乱」を示す言葉として使われる。
 パレスチナでは、イスラエルによる軍事占領に対して2度の民衆蜂起が起きており、1987年に発生したものを第一次インティファーダ、2000年に起きたのが第二次インティファーダと呼ばれている。
 第二次インティファーダは、イスラエルのシャロン外相が武装した護衛を従えて、エルサレムのアル・アクサー・モスクに入場したのをきっかけに勃発。パレスチナ側は小火器や手製のロケット弾を使用して抗議抵抗したが、戦車や戦闘爆撃機などを投入したイスラエルの圧倒的な戦力の前にねじ伏せられた。(参照:コトバンク【URL】 http://bit.ly/Z20slh

(※4)キャスト・レッド作戦:2008年12月27日から2009年1月18日までの間実施された、イスラエルによるガザ攻撃作戦。「鋳込まれた鉛」を意味する。パレスチナ側の死者はおよそ1400人。そのほとんどが民間人だった。また死傷者の3分の1は子供だった。イスラエル側の死者は13人、そのうち3人が一般市民だった。ガザ市民への無差別攻撃や、国連運営の避難所への攻撃など、イスラエル軍による戦争犯罪があったことが分かっている。(参照:アムネスティ・インターナショナルHP【URL】 http://bit.ly/1otZ1AP

(※5)『国境なき朗読者たち』:2008年から2009年にかけて続いたイスラエルによるガザ攻撃を受けて作られた朗読劇「The Message from Gaza ガザ 希望のメッセージ」を上演するために結成された劇団。岡氏は朗読劇の脚本・演出を担当している。(【URL】 http://bit.ly/1xRq9o4

「集団的自衛権」に踏み込む日本にとって「ガザ」は対岸の火事ではない

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