「ヨーロッパの成立と反ユダヤ主義は同時に進みます」――。
2014年12月22日、岩上安身は「饗宴アフター企画第4弾」と銘打ち、東京大学名誉教授・板垣雄三氏にインタビューした。
板垣氏は、18世紀あたりからヨーロッパがオスマン帝国に反逆し始め、宗教紛争にも発展、外交史でいう「東方問題」が勃発したことに言及。もともとは輝かしい外交関係を築いていたヨーロッパとオスマン帝国。ヨーロッパの軍服やYシャツもイスラームが起源だと板垣氏は話す。
オスマン帝国の崩壊は、ヨーロッパがオスマン帝国に抱いていた賞讃が嫉妬に変わり、後の攻撃性につながったことに起因する。キリスト教徒の持つ攻撃性は、実はコンプレックスが生んだもので、それはユダヤ、イスラームに「対抗」する感情だったのだ。
板垣氏は「ヨーロッパの成立と反ユダヤ主義は同時に進む」と振り返る。
そして、文明的な恩恵を与えてくれた国に嫉妬を抱き、反旗をひるがえす。そんな構図は日本の中国に対する立ち位置にも似ている。
「国家の解体・滅び」をテーマに、ヨーロッパの成り立ちやイスラム教とキリスト教の関係、イスラムとパレスチナの今後まで、板垣氏のインタビューは多岐にわたった。
東方キリスト教とイスラームは親戚関係?
岩上安身(以下、岩上)「中東・イスラーム研究者の板垣先生には、昨日の『響宴V』に登場していただきました。昨夜は、終演後も宗教学者の上村静先生とお話がはずんだそうですね。どのような内容だったのですか」
板垣雄三氏(以下、板垣・敬称略)「ヨーロッパのキリスト教と、元々の起源である中東のキリスト教(東方キリスト教)、東方キリスト教とイスラームの共通点などについてですね。東方キリスト教とイスラームは親戚みたいなものなのです」
岩上「それは専門家の間では常識なのですか?」
板垣「いえ、キリスト教学の専門家には欧米中心のキリスト教観を持つ人が多く、東方キリスト教は異端視されてきました。私は、それに異議を唱えてきた。
たとえば、最初にユダヤ教が、しばらくしてキリスト教が、さらに何世紀か後にイスラームが出てきたというイメージはおかしいのではないか、と。上村先生とはそんな話をしていました」
岩上「それもお聞きしたかったですね。サミュエル・ハンティントンは著書『文明の衝突』で文明をブロック分けし、冷戦後はブロック同士の衝突が起きる、としました。西洋キリスト教、ロシア中心の東方正教会、さらにイスラーム、中華(儒教文明圏)、日本、アメリカなどのブロックがあります。
これまで東方文明はあまり評価されることもなく、欧米やイスラーム、中国などに挟まれて、歴史的にも政治経済的にも貶められることが多かった。今もロシアが追い詰められて、ルーブルが下落しています。
そもそも、東方正教会とはどういうものか。そして、東方正教会がイスラームと西洋、中東ユダヤ教の橋渡し役をしているのならば、大変複雑かつ面白いと思います」
板垣「それは今の問題につながる重要な視点です。ウクライナは西方教会と東方教会が接する地点にあり、ボーダーランドと言われています。そして、前もってお話しておきたいのは『東方』も二重、三重の構造になっているということです。
ビザンチン(現イスタンブール)を中心にした東方教会、さらに東に、抑圧され異端として切り捨てられた東方教会もある。彼らはキリスト単性論派(キリストの性質はひとつだという考え)で、『自分たちこそキリスト教徒だ』と主張しています。
キリスト単性論は、キリストは神か人か、どちらかだ、という考え方で、三位一体論に対立します。それは、今のシリア正教やコプト教会、ネストリウス派にも展開してユーラシアに広がり、中国(景教)や日本まで伝わっています」
「イスラームとヨーロッパの関係は、中国と日本に似ている」