パリ銃撃テロ事件「背景に移民政策による格差の問題」9.11後の米国と近似するフランス、そして日本~ 岩上安身によるインタビュー 第501回 ゲスト 高橋和夫氏 2015.1.15

記事公開日:2015.1.15取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田)

特集 中東

※1月27日テキストを追加しました。

 2015年早々、パリで起きた風刺週刊誌「シャルリ・エブド」襲撃、警察官射殺、ユダヤ系食料品店での立てこもり。これら一連の事件には、国際テロ組織のアルカイダや、イスラム組織「イスラム国」の関与が報じられている。

 食料品店に立てこもったアメディ・クリバリ容疑者は、「自分はイスラム国のメンバーだ」と仏テレビ局に語り、「シャルリ・エブド」を襲撃したクアシ兄弟との連動を主張していた。クアシ兄弟は、アルカイダから資金提供を受けたとされている。

 しかし、中東問題に詳しい国際政治学者で、放送大学教授の高橋和夫氏は、アルカイダとイスラム国による共同テロという図式に疑問を投げかける。

 1月15日、東京都内で岩上安身のインタビューに応じた高橋氏は、現在の中東ではアルカイダとイスラム国が対立していることを指摘。クリバリ容疑者が本当にイスラム国のメンバーだったとしても、アルカイダとの対立が起きていることを理解していない末端の人員だった公算が大きい、と語った。

 また、クアシ兄弟が、アルカイダ系テロ組織の指導者、アンワル・アルワキ師から資金援助を受けたと話していることについても、アルワキ師が3年以上前に米軍に殺されていることから、「アルカイダとの関係を強調した発言を、真に受けるわけにはいかない」とした。

 高橋氏は「シャルリ・エブド」の風刺画について、「品性に欠けるものが多い」と批判し、フランスが掲げる表現の自由には御都合主義の部分があると、実例を挙げて解説した。さらに、フランス社会に移民政策に由来する格差が横たわり続ける限り、テロの火種はくすぶり続けることを示唆して、昨今の日本に高まる「移民受け入れ論」に対しても、大きな疑問符を付けた。

 岩上安身は、「シャルリ・エブド」には在日コリアンへの憎悪を煽るヘイト本に通じるものがあるとし、同紙の読者数をはるかに超える370万人もの市民が、事件の犠牲者への追悼行進で「私はシャルリ」というスローガンを掲げたことに、「一歩間違えると危ない気がする」と語った。

 その上で、この一連の事件のあと、ヴァルス仏首相が「フランスはテロとの戦争に入った」と発言し、フランス版「愛国者法」を作る動きがあることや、対テロ戦争に向かって昂揚していく世論など、9.11後のアメリカにも似た流れが起きていることに懸念を示した。

■イントロ

  • 日時 2015年1月15日(木) 16:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京・六本木)

「イスラム過激派に強硬姿勢」の政治家が人気を集める

岩上安身(以下、岩上)「今回の事件が起きて、主要国の首脳らはすぐにコメントを出しました。仏大統領のオランド氏は『これはテロだ』と口調を強め、メルケル独首相は『民主的文化への攻撃だ』と非難。オバマ米大統領も『テロ行為を行った人物に公正な裁きを受けさせるため、仏政府の必要な支援を行うよう指示した』とするなど、各国首脳らには、どこか生き生きとしている部分がありました」

高橋和夫氏(以下、高橋・敬称略)「声明の内容は、どれも予想の範囲内です。オランド大統領については、フランス国内での支持率低迷から抜け出すため、この事件を利用したいフシがあるように思えました。

 欧州では今、イスラム過激派に『厳しい姿勢』を示す政治家が人気を集めやすく、おそらくフランス国民の多くが、今回のオランド氏について、『大統領就任以来、初めて首脳らしく振る舞った』と受け止めたことでしょう」

岩上「『私はシャルリ』というプラカードを掲げ、銃撃を浴びたシャルリ・エブドへの連帯をアピールする運動が、フランス国内だけでなく、欧州全体に広がった感もあります」

高橋「あの運動に参加しないと『非国民』と見なされるような空気が流れた感じもある。シャルリ・エブドは、右派ではない人たちが始めた媒体。今回のデモの舞台となったパリの共和国広場は、リベラル派がよくデモを行う場所として有名です」

福島第一原発事故後に「奇形力士」の風刺画

岩上「1月11日にはフランス各地で犠牲者追悼の大行進が行われ、370万人が参加したと言われている。シャルリ・エブドの読者数は3万5000人ほど。つまり、同紙をただの1回も読んだことのない人たちが大多数で、何か過剰反応とさえ思えてしまう。370万人というのは、第二次大戦のナチス・ドイツからの解放以来の大規模なもの。とんでもないことが起きた気がする」

高橋「言論の自由を守りたい、という意識だけで、フランスの市民があそこまで盛り上がったのなら問題はないが、『反イスラム感情』の膨張があったのだとすれば非常に心配です。

 シャルリ・エブドについては、インターネット上にある、同紙の風刺画を見る限りでは、品位に欠けるものが多い。もっとも、同紙はイスラム教徒だけを風刺対象にしているのではなく、オランド大統領をも批判していますから、平等ではありますが、あの新聞を一度も読んだことがないからこそ、デモに参加できた市民は少なくないと、私も思います」

岩上「今回、殺害された4人の漫画家の中には、福島第一原発事故の後、身体が奇形の力士が五輪競技に出ている風刺画を描いた人物がいる。その絵は日本でも話題になりました。日本人からすれば笑えない、実に不愉快なものでした」

イスラム教徒をおちょくると販売が伸びる?

岩上「事件のあと、シャルリ・エブドは14日発売の最新号でも、イスラム教の預言者ムハンマドを表紙にして風刺している。同社は資金援助を受けて、この号は300万部を発行したそうです」

高橋「経営危機にあった会社に、思わぬ追い風が吹いた格好ですが、イスラム教徒は面白くないでしょう。そもそもイスラム教では偶像崇拝を禁じているので、ムハンマドを絵に描かない」

岩上「このシャルリ・エブドの最新号について、ジュネーブに本部を置くジャーナリストらによるNGO『プレス・エンブレム・キャンペーン』は、『火に油を注ぐ行為』『プロのジャーナリストは中傷や侮辱をしてはいけない』と苦言を呈しています」

高橋「風刺というのは、強いものに向かうべき。この風刺画の作家は、イスラムを強大だと思っているのかもしれないが、フランス社会のイスラム教徒は決して強者ではない。そんな彼らが信仰するものを、平気でおちょくるのは、どうかと思いますよ。想像ですが、イスラム教徒をこんなふうに扱った風刺画を表紙に使うと、部数が伸びるのではないでしょうか」

岩上「今の日本で社会問題化しているヘイトスピーチ、ヘイト本と同種の匂いが感じられます。日本では最近、ヘイト本がかなり出版されています。ずばり、出せば売れるから。買う人間がいるからです」

高橋「フランス人の中にも、イスラム系移民が増えたために自分たちの職が奪われたり、自国が乗っ取られたりする、と不安を抱いている人がけっこういます。実際、移民1世は貧しい農村出身が多く、伝統的にたくさん子どもを産みますから」

フランスは、ダブルスタンダードの国

岩上「高橋先生は、そもそもフランスが標榜する『表現の自由』に疑問があるということですが」

高橋「かつて日本に『宝石』という総合月刊誌があり、当時のフランス大統領、シャルル・ドゴール氏を風刺する表紙の号を発売したことがある。それに対して、フランス大使館から『もうちょっと考えてほしい』というクレームが入った。

 また、1970年にドゴール氏が没した時、シャルリ・エブドの前身である『ハラキリ』紙が、その葬儀を揶揄する表紙の号を出して、フランス政府から発売禁止の処分を受けています」

岩上「フランスはダブルスタンダードの国、と言われても仕方ない?」

高橋「そうです。さらに言えば、1966年にイタリアで公開された『アルジェの戦い』という、アルジェリアの独立戦争を扱った戦争映画をめぐる一件もある。これは、アルジェリアの独立運動を、宗主国であるフランスがいかに潰していったかを描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。都市ゲリラ戦の教科書にもなると評されたほど、現実感のある内容で、フランス軍が極めて残虐な行為をするシーンが登場します。これは、ドゴール氏の存命中は、フランスで上映できませんでした。フランスは、自分らに好都合な時だけ『表現の自由』を訴える国なんです」

岩上「フランス全土でデモに集まった370万人の多くは、表現の自由を守りたいだけで、イスラム教徒を敵視しているとは思えないし、思いたくもないんですが、一歩間違えると危ない感じもします」

高橋「今回のデモにはイスラム教徒もたくさん参加しています。ただ、『デモに参加しないと白い目で見られるかも』という思いがあったとすれば、大いに心配です」

犠牲者追悼デモに集結した各国首脳たちの思惑

岩上「ニュースでは、オランド大統領ら各国首脳が横一列に並び、行進を先導するような映像が流れた。そこには、ウクライナのポロシェンコ大統領とロシアのラブロフ外相、イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長の姿もあった。つまり、『宿敵同士』が並ぶ、まれに見る光景が映し出された」

高橋「トルコのダウトオール首相も参加しましたね。トルコは最近、インターネットの言論抑圧でも知られており、同首相に対しては、『あなたに、ここに並ぶ資格はあるの?』と疑問をぶつけたくなる。

 イスラエルのネタニヤフ首相にしても、強引に参加したようで、オランド大統領は歓迎していなかった。フランスには今、約60万人のユダヤ人がおり、他国からユダヤ人を呼び寄せる姿勢を鮮明にするイスラエル政府の存在は、明らかにマイナス材料だからです。

 もっとも、その時々の大きな事件や事故を、政治的に利用しようとするのは、すべての国の政治家に宿る本能であり、オランド大統領やネタニヤフ首相のデモ参加は、さもありなんです。逆に大物を送り込まなかったアメリカは、何をやっているんだ、と叱られている」

岩上「安倍総理は、日本でゴルフをしていたらしい。何かアクションを起こすべきだったのでしょうか」

高橋「せっかく連帯の意志を示す機会だったのだから、何かすればよかったのに。政治的に利用しろと言うつもりはないが、いささかヘタだったかな、という印象はあります」

岩上「あのデモに安倍首相の姿があり、そこで『言論の自由を、報道の自由を』などと叫んでいたら、『じゃ、特定秘密保護法は廃案で』と言われてしまうからかも…」

一匹狼型「個人テロ」の可能性も

岩上「シャルリ・エブド襲撃で、仏捜査当局に容疑者とされたのは、クアシ兄弟と彼らの従兄弟の計3人。この従兄弟は、のちに事件とは無関係であることが判明しましたが、当局がテロ発生直後に、この3人を容疑者として特定した理由が、今もよくわかりません。

 また、兄弟は『イエメンのアルカイダによって、ここに送り込まれた』などと話していたが、アルカイダからはすぐに声明が出なかったので、単なる跳ねっ返り者がアルカイダの名前を使っただけではないのか、という見方もありました。

 1月14日になって、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)から、シャルリ・エブド襲撃事件を計画し、資金提供をしたという声明が出た。ということは、一部の跳ねっ返りの暴走ではなかったのでしょうか」

高橋「あの銃撃の様子からして、2人がどこかで軍事的訓練を受けていることは明らかです。ただ、アルカイダの指令を受けてのことなのか、勝手に行動していたのかはわかりません。銃の扱いはプロだが、逃走車に身分証を残していくなど、バカなこともしているので。

 また、この2人は『イエメンのアルカイダのアンワル・アルワキ師から資金援助を受けた』と話しているが、アルワキ師は2011年に米軍に殺されているので、この事件に結びつけるのは無理があります。

 なぜ、一週間も過ぎてからAQAPの声明が出たのか。私の想像では、アルカイダはやっていない。ジハーディストの世界では、アルカイダという古いブランドと、イスラム国という新ブランドがあり、今はイスラム国が人気です。ブランドイメージを回復したいアルカイダとしては、今回の事件に乗ってしまえということではないのか」

岩上「事件の翌日の1月8日、パリ南西部でもう1つの銃撃事件が起きます。アメディ・クリバリ容疑者が警官らに発砲し、女性警官が死亡しました。彼は翌日、ユダヤ系食料品店で人質をとって篭城、4人を射殺した。その前に、フランスのテレビ局に対し、自分はイスラム国のメンバーだと説明し、『クアシ兄弟とは最初から連動して行動を起こした』と話しています。ここから何を読み取ることができますか」

高橋「この人物の事件に関しては、一匹狼的な個人テロである可能性が高いと思う。クアシ兄弟(=アルカイダ)との連動を言っていますが、彼らとは刑務所で出会っているのではないか。刑務所は『革命の学校』と言われていますから。ただ最近、中東ではイスラム国とアルカイダに対立が生じている。そういうことが、わかっていないのか、興味がないのか。彼らのような(末端人員的な)タイプは、そのへんの事情を理解できていないんだと思います」

イスラム教徒への偏見と遠隔地ナショナリズム

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