2014年5月21日、ロシアと中国の間で今後の世界情勢を左右するほどの重要な契約が結ばれた。中国へのロシア産天然ガスの供給が正式に決定したのである。期間は2018年から30年間の予定。年間380億立方メートルもの天然ガスが中国に供給され、供給総額は4000億ドルを上回るとみられる。
しかし、現役の経産官僚で、世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏は、今回の中露の接近を「日本にとっては、むしろ追い風だと思います」と分析する。東シベリア地区のガス田開発をするということは、この地域での天然ガスセールスを本格化することであり、その先には当然、日本にガスを売るヴィジョンもあるはずだというのだ。
それを踏まえ、藤氏は驚きの構想を紹介した。「サハリンから首都圏までに天然ガスのパイプラインをひく」というのだ。藤氏によれば、天然ガスの移送手段としてパイプラインを通すか、液体化させたLNGで運ぶかの分岐点は、距離にして4000キロだという。サハリンから首都圏までは約1500キロなのでパイプラインは極めて現実的な手段であり、コストの面でもLNGで輸入するよりもメリットが多いという。
さらに、ロシアからパイプラインをひくメリットは安価なエネルギーの確保というだけに留まらない。パイプラインがもたらす副産物について藤氏は「旧ソ連と西欧で、この30年で、網の目のようなパイプラインが引かれ、この状況で、相互確証抑制効果を発揮している」とした上で、「北東アジア地域でパイプライン網ができれば、結果的に、本当のこの地域の安全に資することになるんじゃないかと、私は思います」と述べた。
果たして、日露エネルギー同盟が締結される日はやってくるのか。経済産業省の現役官僚である藤氏が、エネルギーと平和を巡る日本の未来を読み解く。
エネルギー供給の安全保障の要諦は「多様性」にある
▲藤和彦氏
岩上安身「ジャーナリストの岩上安身です。今日は大変ユニークなゲストをお迎えしております。
『シェール革命の正体~ロシアの天然ガスが日本を救う』(※1)と『日露エネルギー同盟』(※2)。こういうご本を書く人は、ちょっとメインストリームから外れている、変わった人ではないかと、皆さんは思われるかもしれませんが、なんと、まだ経済産業省に籍がある、現役の官僚です。
現在は、世界平和研究所(※3)に出向中で、主任研究員をお務めになっている、藤和彦さんです。よろしくお願いいたします」
藤和彦氏(以下、敬称略)「よろしくお願いいたします」
岩上「この『シェール革命の正体 ~ロシアの天然ガスが日本を救う』は、今回のウクライナ危機が起こってから出版されました。ウクライナ危機は、多くの人は、しょせんウクライナという小さな国の中の内政問題だろうと高をくくっていたと思います。しかし、私は、これは相当くさいぞ、注目しなければいけないと思って、ずっと見ていました。
しつこくレポートも書いていたんですが、どんどん大きな広がりになってきて、ユーラシア大陸を挟んで、欧州とロシアが分断され、そのロシアに中国がくっついてくるかもしれない、大変大きな対立軸のようなものが浮かび上がってきました。
その対立軸にどうも、日本も巻き込まれそうになってきているわけですね。さらに資源の問題、エネルギーの問題もからんでくる、と。このウクライナ問題は、これから先、大変注目しなければいけないテーマになってきました。
これまでも、シェールガスのことは大変気になっていたんですけれども、不勉強で、なかなかその実態が分からずにいました。そんな時に、この『シェール革命の正体』を拝読して、これは実は、虚実皮膜の世界だということが分かってきました。
しかも、藤さんによれば、日本はロシアとエネルギー同盟を結んだほうがいいという。こういうことを、現役の経産省の官僚がお書きになるので、びっくりしまして、お越しいただいてお話をうかがおうと思いました。藤さんは、内閣官房に出向され、内閣情報調査室にいらっしゃったのですね」
藤「ええ、内閣官房で、7年半ずっと内閣情報調査室にいました」
岩上「なるほど。エネルギーや資源というと、経産省の官僚がおやりになるのは当たり前ですけれども、もう少し毛色の違うインテリジェンス、あるいは地政学とか安全保障とか、きな臭いにおいのするテーマもお得意にされていますね。資源外交を裏から見る視点もお持ちだと思うので、今日はぜひ、複雑な話をお聞かせいただきたいと思います」
藤「はい。よろしくお願いします」
岩上「このインタビューには、ご著書から頂戴して、『シェール革命の正体』と、タイトルをつけました」
藤「ありがとうございます」
岩上「サブタイトルには、『日露エネルギー同盟』の中から、『日露エネルギー同盟を締結せよ!』というコピーを拝借しました。この本の出版元、エネルギーフォーラムとは、どういう出版社なんですか」
藤「株式会社エネルギーフォーラムというエネルギー専門の雑誌社がありまして、『日露エネルギー同盟』はそこの新書です」
岩上「専門の出版社なんですね。ぜひ皆さん、これをお買い求めいただきたいと思います。今日はこうした宣伝もしたいと思います」
藤「ありがとうございます。よろしくお願いします」
岩上「まず、このご著書の『はじめに』にある言葉を引いてみました。『危機とは【危険】と【機会】の合成語』。『エネルギー供給の安全保障の要諦は【多様性】』である。これは『はじめに』でありながら結論のようでもありますが、つまり、日本は多様性がないということでしょうか」
藤「はい。まず、最初に申し上げますが、先進国の中で、日本が一番石油を消費しています。しかも、そのうち9割が中東依存です。これはやはり、多様性ということから考えた場合には、非常に脆弱性が高いと言わざるをえないと思います」
岩上「日本はイランにも油田の権益を持っていたのに、米国からの圧力で手放さなければいけないことになりましたね」
藤「アザデガン(※4)ですね」
岩上「日本の資源外交のこれまでの成果が、次々と潰されているような気がします。エネルギーは、中東に依存しなければいけなくて、軍事と安全保障はアメリカに依存という、一極依存のように狭まっている感じがしますよね」
米国が先手を打ったバクー油田の石油産出~背景には豊富な起業家精神
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(※1)藤和彦著『シェール革命の正体~ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP研究所、2013年11月)紹介文:日本のエネルギー問題のエキスパートによる一冊である。サブタイトルにもあるように、日本の最も取るべき戦略として、ロシアから天然ガスパイプラインをつなぐことを強く勧める。各国の国益が複雑に絡み合う、過渡期である今のエネルギー世界地図を明快に読み解く。
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(※2)藤和彦著『日露エネルギー同盟』(エネルギーフォーラム新書、2013年2月)紹介文:シェールガス革命でエネルギー・モンロー主義化する米国、日本は米国との同盟関係を維持しつつ、中国とライバル関係にあるロシアと提携し、中国をけん制する発想が肝心だ。ロシアとの同盟をあえて「エネルギー同盟」としたのは、ゼロサムの安全保障とは異なりエネルギーの世界はプラスサムであり、これによって日本の国益増進はもとより東アジア地域の安定を確保できるからである。(【URL】 http://amzn.to/1n3ap7A )
(※3)公益財団法人 世界平和研究所:安全保障を中心とする調査研究や、国際交流等を目的とする公益財団法人。以前は防衛省所管(厳密には総理府、外務省、財務省、防衛省、経済企画庁、経済産業省主務)の財団法人だったが、公益法人制度改革に伴い、2011年4月1日より公益財団法人に移行した。(【URL】 http://www.iips.org/ )
(※4)アザデガン:イランのアザデガン油田は、埋蔵量が中東最大級。日本が75%の権益を持っていたが、イラン核問題をめぐる米国の制裁強化圧力で2010年までに撤退した。その後、中国石油天然ガス集団(CNPC)が70%の権益を取得している。しかし、イラン石油省は、南西部アザデガン油田の開発で契約上の義務違反があったとして、CNPCとの契約を解消する考えを明らかにした。イラン側は今年に入り開発の遅れを指摘していたが、改善されなかったという。(産経新聞、2014年4月30日)