【岩上安身のツイ録】ウクライナの内戦状態が引き起こす日本のエネルギー危機 2014.7.19

記事公開日:2014.7.19 テキスト
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(文 岩上安身)

特集 IWJが追う ウクライナ危機
※5月6日(火)の岩上安身の連投ツイートを再掲します。
※記事の内容を追加しました(5月8日)

 今朝出演した「モーニングバード!」では、連休の行楽模様を点描し、その中でガソリン代が高値であることを伝えていた。僕は、ベースにはアベノミクスによる円安誘導があること、直近ではウクライナ情勢への不安から原油価格が上昇していることの2点を指摘した。

 時間の関係上、話はそこまでしかできなかったが、原油価格の高騰という問題は、ガソリン代の高騰だけではすまない。輸送費の高騰は、すべての物価の高騰につながりうる。電力などエネルギー価格も高まる。企業が価格転嫁できなければ、収益が悪化して倒産も続出する。不況は深刻化する。

 昨夜、IWJウィークリーを真夜中に脱稿して、ほとんど眠らずに「モーニングバード!」に出かけたのだが、他方でウクライナ危機の深刻化を書き、他方で行楽に向かうファミリーのガス代節約ぶりにコメントしつつ、この二つのテーマをつなげてお伝えする必要性を痛感した。

 多くの人が73年のオイルショックを忘れているのではないか、と思う。あの石油危機は、第4次中東戦争が引き金になったことをもう一度思い出してもらいたい。ウクライナ東部の情勢は、日々悪化し、内戦と呼んでもおかしくないレベルに近づきつつある。ここにロシアが介入したら、NATOも介入する。

 そうなったら一大戦争である。そこまでに至らなくても、自国民の鎮圧に国軍を動員しているウクライナは、ロシアに天然ガスの供給を100%頼り、そのガス代され払えず滞納中で、ロシアは払わないならガスの元栓を締めると通告している。その期限は今月末。問題は、ウクライナがガスを盗む可能性だ。

 ロシアは、ウクライナ経由で欧州全域に天然ガスを供給しているが、これまでウクライナは欧州向けのパイプラインからガスをくすねていた前科がある。キエフの新政権のメンバーは、正直、高いモラルを誇る面々とは言い難い。ガスを盗み、欧州ともトラブルになる可能性もある。

 日本は、タンカーで運ばれてくる世界一高値の液化天然ガス(LNG)を購入しているが、欧州は輸送コストの安いパイプラインのおかげで、ロシア産の天然ガスを安価で手に入れてきた。その供給がウクライナの内戦や国内の混乱、さらにはロシアとの戦争などで途絶えたら、欧州もガスショックに陥る。

 代替エネルギーとして、中東の原油に頼らざるを得なくなり、原油価格の暴騰は目に見えている。現時点で、ウクライナ情勢を不安視して原油価格が高騰している、ということは、すでにそうした兆候が見えている、ということだ。オイルショックならぬガスショックで、世界経済は深刻で急激な不況に突入する可能性もある。

 普通なら、こんな破滅的危機の予想がつけば、「馬鹿な喧嘩はやめとけ」と欧州中がよってたかっていさめるものだ。ところが今や世界一の無責任国家になりはてた米国がそれを許さない。貧乏で、統治能力にも欠けたウクライナをしきりにけしかける。

 キエフには、米国のCIA長官や副大統領らが次々と訪問しているが、米国要人の訪問のたびごとに、ウクライナ暫定政権の住民弾圧は激化している。米国要人から空気を毎度吹き込まれているのだろう。東部の紛争地域には、ネオナチのウクライナ民族主義者が武器を持って戦闘行動を行い、その場に米国の民間企業の傭兵とCIAのエージェントが加わり、人殺しを自由勝手に行っている。

 つまり、エネルギー供給の面でカタストロフを引き起こしかねないウクライナでの紛争を、国をあげて激化させようと米国は躍起になっているのである。米国自身は、ユーラシア大陸から海を隔てて遠く離れていて、紛争が激化しても、痛くもなんともない。それどころか、この騒ぎに乗じて米国内のシェールガスを買えと営業中なのだ。

 しかもだ、そのシェールガスは輸出を禁じられているので、欧州は大西洋版のTPPであるTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)を早く締結せよ、と迫っているのだ。そうすれば、米国はシェールガスを売ってやる、欧州はロシアのパイプラインに頼る必要はない、とゴリ押し。

 シェールガスを米国内で生産消費している分には、パイプライン経由で輸送すればいいので問題ないし、コストもかからない。しかし、これを戦略的な兵器として用いるために、北米大陸から輸出するには、液化しなければならず、米国に巨大な積み出し港を作らなければならず、輸送のためのスーパータンカーの建造も必要になり、さらに欧州側に巨大な積み下ろし港の建設も必要だ。こうしたインフラの建設費も加わるから、米国産のシェールガスは割高につく。

 液化するから結局、割高になる。馬鹿みたいな話だが、買い手の欧州が一方的に損をする取引である。売り手のロシアも顧客を失って損をする。得をするのは米国だけ。日本としては、こんなときこそ買い手を失いかけているロシアから、安値で天然ガスを買い取る千載一遇のチャンスなのに、安倍政権は米国側から、「ロシア制裁に足並みをそろえろ」と言われ、キャンとひと吠え、ロシア制裁に加わった。

 米国側は、ロシア制裁のため、ロシアから天然ガスを購入するな、と言ってきており、安倍政権はキャンと吠えて言われた通りにするだろう。日本は多様な資源の供給先を失い、エネルギー安全保障上のピンチに陥る。米国はその日本に、「シェールガス売ってやってもいいんだぜえ」と言ってきている。

 ただし、それには入場料としてTPPに入る必要があり、さらにそれとは別にCEESA(※)という条約に入らないと、シェールガスの安定供給のためには「20兆円払え」と、ボッタクリもいいところの要求を突きつけられているわけである。まさに日本は鴨。囚われの身の鴨である。

(※)CEESAについては、2012年8月15日に発表された「第3次アーミテージレポート」という米ネオコン派の「指示書」で掲げられている。以下の記事に、全文邦訳を掲載しているので、改めてご覧いただきたい。

 また、この「指示書」については、以下のメルマガ記事で詳細に分析しているので、こちらもご覧いただきたい。CEESAについても独自の注釈と分析を加えている。

 日本のエネルギー問題を解決し、地政学的、安全保障上のリスクを回避するには、ロシアから今こそ天然ガスを輸入し、パイプラインを敷くことだ。国内のパイプライン供給ネットワークを完備し、どこから取り寄せても日本国内どこへでも安くスムーズに輸送するインフラを整備することである。

 新興国の経済成長もあり、原油の需要はどんどん高まっていて、日本へ売ってくれる国も減っている。中国はかつては日本に売っていたが、いまは中国自身が輸入国となった。いまや日本の中東依存は9割。イラン危機が本格化して、ホルムズ海峡が封鎖されれば首を締められるようなものだ。

 そのイランも日本に原油を売ってくれていた貴重な供給国だったが、米国とイスラエルによるイラン敵視政策のために、圧力がかかり、日本はイランにおける権益を泣く泣く手離さなくてはならなかった。ロシアに対しても同様にやれと、米国から今、言われているのである。言われるがまま言い諾々。

 米国がシェールガス革命を本当に成功させたらどうなるか? 最大の懸念は、米国が中東への介入のレベルを下げることだ。米国自身、中東への依存度が低下すれば、ホルムズ海峡が封鎖されようが、インド洋のシーレーン防衛も含めて自分の任ではない、と言い出す可能性がある。そこを埋めるのは中国、そしてインドだ。

 ホルムズ海峡から、インド洋を経て南シナ海、さらに日本に至るまでのシーレーンを、中国に守ってもらう未来。想像つくだろうか? 中国とは経済力、軍事力で圧倒的な差がつき、単独では勝負にもならない日が、いつかはともかく必ずやってくる。米中のチャイメリカ体制がより強固になったら。

 言うまでもなく、原発にはまったく未来はない。安全性の問題だけで「ベースロード電源失格」であり、そんなことを言い出した安倍政権は「政権失格」なのだが、安全性だけでなく、コストがまったく見合わない。米国では原発の発電コストに比べ、ガスによる発電コストは2分の1である。勝負にもならない。

 天然ガスは、クリーンで環境負荷が低く、さらに埋蔵量が石油よりはるかに多い。枯渇の問題は当分悩まなくて済む。エネルギー資源の覇権の歴史は、木材から石炭、そして石油へと移ってきた。石炭の覇権は大英帝国の覇権に、石油の覇権は米国の覇権と結びついてきた。次は天然ガスの覇権になるのではないか。ウランやプルトニウムは徒花だったのだ。核兵器の原料以外に何の意味がある?

 だが、ガスは液化してタンカーで運ぶと極めて高くつく。パイプラインで輸送すると値段が全然違う。格安で済む。世界最大級の天然ガス資源をもつロシアには、極東にガス田がある。パイプラインは4000kmまでなら価格が安く済むというが、サハリンから東京までわずか1900km。充分に採算が取れる。

 どう考えても、ロシア産の天然ガスを、ウクライナを経由して欧州へ販売するルートに不安がつきまとう今、こっちで買ってやってもいいんだぜ、とロシアに持ちかけるのは、願っても無いチャンスのはずだ。ところが、それをさせるはずがないのが、米国である。日ロが直接結びつく動きには、激しい反発を示す。

 日ロ間で安定した外交関係が築ければ、日米同盟の必要性は低減する。日本は中東情勢に振り回される可能性も減るし、地球の裏まで、集団的自衛権の名目で自衛隊を出す必要性も低くなる。日本の自立性が高まり、近隣国との関係が安定することを米国は好まない。日本はあくまでも周囲から「孤立」し、米国にのみ依存する「保護国」であるべきだ――米国の戦略家たちはそう考えていることだろう。

 天然ガスについて考えだすと、今は険悪な中国との関係についても、将来を見据えて考え直す必要があることに気づく。

 石油の世紀は、ひょっとしたら終わるのかもしれない。終わらなくても圧倒的な主役の座から、複数の主役の1人に席を譲ることだろう。その時は石油の覇権と深く結びついた米国もまた、圧倒的な覇者の座からおりることになるかもしれない。

 では、シェールガスの世界最大の埋蔵量が確認されている国はどこか。アメリカではない。なんと中国なのだ。天然ガスの世紀において最大の可能性を秘めているのは中国なのである。

 ただし、中国の産地は皆、乾燥地帯にある。シェールガスを取り出すためには、水圧破壊が必要で、それには大量の水が必要だ。まだ、中国は自由に安く自国内のお宝を掘り出せない。しかし、エネルギー需要が世界一伸びているのは中国である。その中国は、今回のウクライナ政変で、欧米や日本と違い、ロシア制裁には加わらなかった。言うまでもなく、ロシアのガスを手に入れるためだ。

 中国とロシアは強い補完関係にあり、手を結び合っている。シベリアから東北三洲(昔の満州)を通って、中国の内陸までパイプラインを敷設する建設計画が進んでいる。米国の属国である日本は、外交上のフリーハンドがなく、指をくわえてみているだけだ。

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「【岩上安身のツイ録】ウクライナの内戦状態が引き起こす日本のエネルギー危機」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    先の見えないウクライナ情勢だが、資源を輸入に頼る日本は対岸の火事ではいられない、エネルギー問題とは外交の問題でもあるのだ。

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