【安倍「破憲」改造内閣の奇怪な正体(2)】高市早苗総務大臣と「ネオナチ団体代表」とのツーショット写真:騒動の背後では、歴史書き換え「情報発信」計画が進行中?(後編)

記事公開日:2014.9.19 テキスト
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(藤澤要・文責:岩上安身)

(前編の続き)
※ 前編:【安倍「破憲」改造内閣の奇怪な正体(2)】高市早苗総務大臣と「ネオナチ団体代表」とのツーショット写真:騒動の背後では、歴史書き換え「情報発信」計画が進行中?(前編) 2014.9.19

これまでの高市氏の言動

 「ネオナチ団体とのつながり」「ヒトラー礼賛本への推薦文」。この2件について、「知らなかった」「覚えていない」と言い張ってやり過ごせたとしても、叩けば埃はまだまだ出てくる。高市氏の過去の言動は、幾度も物議をかもしてきた。

●慰安婦否定の意見広告
 2012年11月4日付、米ニュージャージー州の地元紙「スターレッジャー」の紙面に、従軍慰安婦を否定する内容の意見広告が掲載された。この意見広告は、「歴史事実委員会(Committee for Historical Facts)」のメンバーを名乗る、青山繁晴、櫻井よしこ、すぎやまこういち、西村幸祐、藤岡信勝の5氏が「支持する(endorse)」という形で出された。

▲「スターレッジャー」紙2012年11月4日付に掲載された意見広告「Yes, we remember the facts」。

▲枠内には「賛同者」の政治家らの名前が列挙。その下には、「歴史事実委員会」のメンバーだとする5人の名前がみえる。

 さらにこの意見広告には、自民党や民主党を中心とした国会議員39人が「賛同人(assentor)」として名を連ねている。安倍晋三総理を始めとし、有村治子、稲田朋美、下村博文、高市早苗、山谷えり子の各氏ら現政権の閣僚らが顏をそろえている。その他、2012年12月の第2次安倍政権発足時に初入閣し総務大臣となった新藤義孝氏や、高市氏と同じくネオナチ団体代表山田氏とのツーショット写真を撮っていた西田昌司氏も含まれる。

・しんぶん赤旗 2013/1/6 「日本軍『慰安婦』 強制を否定 安倍首相が賛同 米紙に意見広告 4閣僚も 国内外の批判は必至 昨年11月

 広告の発表記者会見には、山谷えり子参院議員、中山恭子参院議員、西村幸祐、藤岡信勝氏、すぎやまこういち氏、青山繁晴氏、古屋圭司衆院議員らが参加。山谷氏は「事実でないことが一人歩きしている状況」と広告掲載を説明。青山氏は、「慰安婦なるものが、嘘であって、存在しなかった、という積極的な事実を明らかにした」と広告掲載の意義を語っている。

・YouTube 西村幸祐放送局 「慰安婦問題意見広告発表記者会見(H24.11.6)

 この記者会見の中で、「『sexual slavery』 という言葉を造語した、人権派の弁護士」として藤岡信勝氏に槍玉に挙げられている戸塚悦郎氏に、岩上安身は昨年インタビューしている。こちらのアーカイブもぜひ、御覧いただきたい。藤岡氏らの戸塚氏に対する非難が正当なものかどうか、御覧いただいて、皆さまにご判断いただきたいと思う。

※このインタビューの模様を文字に起こし、詳細な注釈を付した『IWJ特報』もどうぞ御覧下さい。

 いずれにしても、過去のこうした言動、行動、活動から、高市氏が歴史を修正しようとする思想、姿勢の持ち主であり、その地続きの延長上に、今回のスキャンダルが存在していることは疑いえない。一過性の、例外的な踏み外しではない。高市氏の、政治家としての一貫した姿勢、資質の問題なのである。

「原発事故で死んだ人はいない」

 高市氏の発言が物議をかもしたのは、歴史認識問題だけではない。

 高市氏は2013年6月17日、神戸市で講演した際に、「福島第一原発事故で死者が出ている状況ではない」と発言。原発再稼働を正当化する論拠にしようとした。この発言には、与野党および各方面から批判が集中。高市氏は「被曝が直接の原因で亡くなった方はいないが、安全基準は最高レベルを保たないといけないと伝えたかった」との釈明に追われた。

・東京新聞 2013/6/19 「高市氏『原発事故で死者なし』発言 与野党から批判噴出

 原発問題でも、基本的人権を軽んじる発言をしていたのである。歴史を執拗に書きかえようとする思惑も、その根底には、基本的人権の軽視が横たわっている。

ヘイトスピーチ規制がデモ規制の話に

 人権の軽視が、最もわかりやすく、直接的にあらわれるのは、差別の場面である。この問題にも、高市氏は顏をのぞかせる。

 ついこの間まで自民党政調会長だった高市氏は2014年8月末、「ヘイトスピーチ等に関するプロジェクトチーム」を政調会に設置。ところが、このプロジェクトチームの初会合では「国会周辺での大音量のデモに対する規制も併せて議論」されることになってしまう。理由は「街宣やデモの音で、仕事にならない状況がある」というもの。

 本来、この「ヘイトスピーチ等に関するプロジェクトチーム」とは、国内外で強い批判が寄せられている在特会などの犯罪的なヘイトスピーチに対し、安倍政権がこれまでの放置から急に態度を翻し、規制に動き始めたことを受けたもの。

 ところが、ヘイトスピーチ規制の建て前のもと、実際にやろうとしていることは、憲法上に明記された国民の表現の権利や集会の権利の制限なのである。これはヘイトスピーチ規制に衣を借りた権力の乱用、悪用に他ならない。

 ヘイトスピーチとデモとを同列に論じようとするこの動きに、多くの市民が反発した。高市氏はあわてて9月1日、「国会周辺のデモに新たな厳しい規制を設ける法的措置等は考えていない」との談話を発表する。「本音」を口にし、反発があると、その場だけとりつくろう。これまで通りの繰り返しである。

「要請」:総務大臣として狙うこと

 9月3日、高市氏は改造安倍内閣の総務大臣に就任する。要職就任後も、高市氏はマイペースを貫きそうだ。総務相としての抱負を語る高市氏は、「今後も自然体で一人の日本人として(靖国神社に参拝させていただく」と明言している。

 高市氏の今後の動きを見る上で重要な点の一つに、総務大臣による国際放送に関するNHKへの「要請」の問題がある。放送法65条に基づき、総務大臣には、NHKの国際放送の事項を指定し、放送実施の要請を行う権限がある。実際、総務大臣就任会見で高市氏は、国際放送を通じ、領土や領海に関する「正しい情報」を発信することの必要性を次のように強調している。

 「特に、領土・領海、この問題については、正しい情報を発信していく、お伝えしていく。特に歴史的な経緯や、それからその正当性について発信をしていくということは大変重要なことだと思っております」

 高市氏の頭にある「正しい情報」とは何か。そもそも彼女の頭の中の情報が「正しい」のか。また、それは領土問題に限定されるものなのだろうか。歴史認識についても持論をNHKに押しつけていく考えがあるのではないか。その場合、NHKの報道機関としての「中立性」はどう担保されるのか。

 懸念されるのは、こうしたNHKへの政治的影響力の行使であるが、高市氏が、「河野談話の見直し」についても、「正しい情報」という言葉を使っていることには注意を払っておきたい。

 菅官房長官に対する、河野談話に変わる新しい官房長官談話作成の要請を決定した8月21日の自民党政調会議後、高市氏は次のように述べている。

 「正しい史実に基づき、日本の名誉を回復したい。国際社会に正しい情報を積極的に発信すべきだ」

 その菅官房長官への申し入れ書『慰安婦問題に関する適切な対応を求める申し入れ』の中でも、「日本国及び日本人の名誉を早急に回復するべく、国際社会に向けて多言語で積極的な発信を行うこと」が強調されている。その内容は、以下のように、日本政府としての取り組み強化を要望するものだ。

 「とりわけ、米国をはじめとする韓国以外の諸外国、事実を誤認しているNGOの発言力が目立つジュネーブに於いて、日本政府による広報を強化すること」

 「国際的に権威のある人権機関が「河野談話作成過程等」を踏まえて正しい認識を発表することが重要であることから、日本政府による働きかけを行うこと」

3者の鼎談は合計13回行われ、「自民党改憲草案」を一条ごと徹底検証。その問題点・危険性に警鐘を鳴らします。これを1冊にまとめた書籍『前夜』(現代書館 2013年12月)は、こちらでご購入いただけます。

 高市氏は、「(総務大臣が)要請をしても、実際に放送するかどうかはNHK側の判断」とことわりと入れる。しかし、NHKの経営に関する最高意思決定機関であるNHK経営委員会には、先の都知事選で田母神俊雄氏を応援し、「南京大虐殺はなかった」と発言した百田尚樹氏がいて、朝日新聞東京本社で拳銃自殺した新右翼活動家を讃える追悼文を発表したことがある長谷川三千子氏がいる。また、NHK執行部トップの会長職にあるのは、その就任会見で「(国際放送で)政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と発言した籾井勝人氏だ。

 安倍総理は、百田氏や長谷川氏など、自分に近しい人物たちをNHK経営委員会に送りこんだ。これは手続き上、法的な問題はない、とされる。経営委員会によって、籾井氏が会長として任命される。これも形式的には正当な手続きだ。その結果、そうした高市総務大臣からの「要請」があった場合、すんなり受け入れてしまうNHKが、すでにできあがってしまっている。そのように見える。

 ナチスが強大な権力を掌握したのは、「全権委任法」の制定による。その制定過程は、当時のワイマール憲法の正式な憲法改正手続きに従って行われた。少なくとも、形式的には。麻生太郎副総理が「ナチスの手口に学んだらどうか」と発言したことを忘れるわけにはいかない。

 「ナチスの手口」に学んだあげく、「正しい情報」を世界に拡散——。高市氏の周辺でわき起こった「ネオナチ団体とのつながり」「ヒトラー礼賛本への推薦文」という騒動は、現政権の、あるいは自民党の底意を映し出していないだろうか。

※ 高市早苗政調会長(当時)、2013年6月20日の参院選公約発表の記者会見で、自民党が衆院選で掲げた総合政策集「Jファイル2013」に「(TPPで)農林水産物分野の重要5品目などの聖域を確保する。確保できない場合は、脱退も辞さない」と記載されていることについて、「Jファイルは、目指すべき政策だ」と弁明。

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「【安倍「破憲」改造内閣の奇怪な正体(2)】高市早苗総務大臣と「ネオナチ団体代表」とのツーショット写真:騒動の背後では、歴史書き換え「情報発信」計画が進行中?(後編)」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    高市早苗総務大臣と「ネオナチ団体代表」とのツーショット写真:騒動の背後では、歴史書き換え「情報発信」計画が進行中?(後編) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/169867 … @iwakamiyasumi
    人権の軽視が、最もわかりやすく、直接的にあらわれるのは、差別の場面である。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/597277927869325312

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