秘密保護法への懸念の声は「政府の運用基準を(国民が)理解できないから」なのか――。
秘密保護法に関する国会答弁を担当する松島みどり法務大臣は、9月12日に行われた定例会見で、パブリックコメントで寄せられた懸念の声は「政府の運用基準が、読み方によってよく理解できなかったり、分からなかったり、誤解を招くようなところがあるので、そういう意味で心配をする方もいるということだ」という認識を示した。
また、国連の自由権規約委員会が7月に出した勧告で、同法について「秘密の定義が広くて曖昧」などと指摘し、懸念を表明していることについては、政府として「指摘には全くあたらない」とする申し入れを同委員会に対して行ったことを明かした。
同法について、政府は12月上旬の施行をめざしている。
- 日時 2014年9月12日(金) 11:30~
- 場所 法務省 19階 会見室(東京都千代田区)
国連の勧告は「全くあたらない」と申し入れた日本政府 申し入れの詳細は非公開
国連の自由権規約委員会の勧告では、同法が「秘密に特定できる事項に関する定義が広くて曖昧であること」、「秘密指定に関して一般的な条件を含んでいること」、そして「ジャーナリストや人権擁護者の活動に深刻な影響を及ぼしうる重罪を課していること」などの懸念を指摘。同委員会を締約している日本が、自由権規約19条に定められた「秘密指定は狭く定義すること」「国家の安全保障を害しない正当な公益に資する情報を流布したことで、個人が刑罰を受けないこと」などの「厳しい要求」を確実に満たすよう求めている。
この国際社会の懸念について、政府としてどのように考え、どう対応していくのか。
松島大臣は9月3日に行われた就任会見で、IWJの質問に対し、「秘密保護法についてはこれから勉強する」として回答を控えた。その後、政府は9月10日に、約2万4000通のパブリック・コメントをふまえて運用基準を一部修正して公表。さらに同日行われた、同法の運用の在り方などを議論する情報保全諮問会議には、安倍総理と共に、松島大臣も出席していたことから、あらためて会見で質問を行った。
松島大臣は、ただちに政府として自由権規約委員会に再度説明を行い、同委員会による指摘が、「全くあたらない」という旨の申し入れを行ったことを明かした。
政府は、委員会の「どの指摘」について「どのような点」から、「(指摘は)全くあたらない」としているのか。
この点について内閣官房の担当者はIWJの取材に対し、「申し入れは外交ルートを通じて行ったものであり、その詳細については取りまとめた外務省に情報公開請求などを行ってもらうほかない」と回答。外務省の担当者は、「詳細は内閣官房にお願いします」と答えた。この申し入れに対する同委員会のリアクションはまだない。
懸念の声は「理解不足」や「誤解」?
続けて、松島大臣は政府の修正案について、運用基準の中に「国民の知る権利の尊重」を明文化したり、特定秘密を取り扱う公務員や民間人の適正評価を行うにあたり、思想・信条・労働組合の活動を調べることを禁じていることに加え、新たに「信教や市民活動についても調査してはいけない」という文言を加筆したことを紹介。「寄せられたご意見に真摯に向き合い、心配とか誤解に答えるかたちで27項目修正した。これは非常に大事なことだと思っている」と強調した。
さらに27カ所の修正項目以外について寄せられた声についても、「この点はここにちゃんと明記されていますよ、と。『理解してください』と丁寧な返答をすることにしている」と述べた。
そして、「ご不安、心配、懸念の解消につとめていく。同時にそれをHPに公開し、外国の方にも見ていただくことで、異論は解消していただけると信じている」と、政府の取り組みを評価する考えを示した。
しかし、この修正案については、官僚がメンバーとなる監視機関の独立性を疑問視する声や、「違法」な秘密指定だけでなく「不当な」秘密指定の禁止も盛り込むべきという声、国民の知る権利や報道の自由の「保障」を明記すべきとする意見については採用していない。政府が恣意的な秘密指定を行い、国民には永久に秘密にし続けるのではないか、という多くの国民の懸念を払拭できているとは言いがたい。
IWJが、松島大臣が述べた「懸念の声」について問うと、大臣は「懸念というのは、色んな情報や運用基準について、読み方によって、よく理解できなかったり、分からなかったり、誤解を招くようなところがあるので、そういう意味で心配をする方もいらっしゃる、ということ」と訂正。懸念する側の「理解不足」「誤解」である、との認識を示した。
見直しは「施行して運用してから」 ~残る政府の恣意的運用への懸念
つまり大臣としては、この修正された運用基準案でもう十分だという認識なのか?
IWJの質問に対し松島大臣は、諮問会議でも委員から「現行法との整合性はどうするのか」などの指摘があったことを挙げ、「これからやり取りをして、運用基準をどうするかをこれから考えていく。さらに施行した後も、この諮問会議の方々にチェックをしていただき、国会にも報告し、ということを重ねて、5年後に見直しをすることになっている」と述べた。
内閣官房の資料によると、修正案では、「5年後の見直しのルール化」の他に、5年を待たずとも、「定期的に、又は必要に応じて本運用基準について見直しを行うものとする」と明記されている。
(見直しについては「Ⅵ 本運用基準の見直し」項)
内閣官房の担当者は、「実際運用してみて、不具合がある場合は見直す。パブリック・コメントで取り入れなかった意見でも、今後運用状況を見ていく上で不具合が生じた場合は、その意見を取り入れる形で見直しを行う余地はある」と語った。
しかし、見直しはあくまで「実際に運用してから」というのが政府の姿勢だ。つまり、今回パブリック・コメントで取り入れなかった懸念の声については、施行までのあいだに検討・見直しは行わないということである。例えば政府によって「不当な」秘密指定が行われたものについて、ジャーナリストが入手・公開し、同法に基づき罪に問われた場合、それを「運用上の不具合」とするかどうかは、ブラックボックスだ。
また、運用後に見直しをする「基準」や、5年以内に見直しした事項について公開するか否か、については、明文化はされない。結局は、政府の「恣意性」への懸念は残ったままである。
元朝日新聞記者として「吉田調書」問題への見解は
会見では他に、吉田調書に関する報道に誤りがあったとして11日緊急記者会見を行った朝日新聞について、TBSから質問が飛んだ。
松島大臣は、「吉田調書については所管外であり、法務大臣としての発言は控える。朝日新聞の報道ということについても、コメントすることは差し控える」と回答。
さらに、大臣が元朝日新聞に勤務していたことについて「たびたび聞かれる」と前置きしたうえで、「朝日に勤めていたのは14年11カ月、辞めてから19年7カ月が経つ。政治家としての人生の方が長いし、どこでどういう働き方をしていたから、この事案をどう考えるか、という質問ならば、それも答えるべきことではないと考えている」と述べた。