国民を違法に監視し続けていた自衛隊――秘密保護法で守られる国の違法行為を日弁連が指摘 2014.9.5

記事公開日:2014.9.9取材地: テキスト動画
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(IWJ・原佑介)

 まもなく施行される秘密保護法の問題点を改めて提起するため、日弁連は9月5日、弁護士会館で「秘密保護法はやっぱり危ない!~自衛隊の情報隠しと内部通報制度から考える~」と題したシンポジウムを開き、「情報保全隊事件」と「護衛艦『たちかぜ』自衛官いじめ自殺事件」から秘密保護法のもたらしうる危険性を考察した。

■ハイライト

  • 事件当事者からの報告(事件の概要とポイント)
    情報保全隊事件 小野寺義象氏(弁護士、同事件原告代理人)
    護衛艦「たちかぜ」自衛官いじめ自殺事件 岡田尚氏(弁護士、同事件弁護団長)
  • パネルディスカッション「教訓を活かすために 災害関連死を考える」
    パネリスト 小野寺義象氏/岡田尚氏/三木由希子氏(情報公開クリアリングハウス理事長)
    コーディネーター 太田健義氏(日弁連秘密保護法対策本部事務局次長)

国民を違法に監視し続けていた自衛隊

 「国の情報に接することが『よくないこと』だという雰囲気作りがされていることに危機感がある」――。

 「情報保全隊事件」の原告代理人を務め、国の不正を追及している小野寺義象弁護士は、こう懸念を示す。

 情報保全隊とは、防衛大臣直轄の部隊で、陸海空自衛隊それぞれに設置された内部の防衛秘密の保護と漏洩防止を目的とする組織だが、2007年、日本共産党への内部告発によって、陸自の情報保全隊がイラク戦争に反対する市民などのプライバシー情報を収集し、監視していたことが明るみに出た。

 例えば、2004年1月に仙台市で開催された「1・14イラク自衛隊派兵反対県民集会」で、東北方面情報保全隊は、隊員を臨場させ、開催時刻、参加者数、デモコース、シュプレヒコールの内容などの情報を収集している。また、東北方面情報保全隊は、翌2月に「戦争法反対宮城県連絡会」が主催した集会・デモ行進を監視し、デモ参加者数を1名単位まで正確に把握していたことも明らかになっている。

 小野寺弁護士によると、情報保全隊は、芸名で集会に参加し、ライブパフォーマンスしたミュージシャンの実名を突き止め、普段は宮城県亘理町の職員として働いていることまで調べあげていたという。他にも国会議員やジャーナリスト、しんぶん赤旗のインタビューに応え、イラク戦争を批判した映画監督の山田洋次氏も監視対象になっていたことがわかっている。

国の違法な活動が秘密保護法で守られる?

 こうした活動に対し、市民からは「戦前の憲兵の再来だ」という批判の声が多く上がった。仙台で監視された市民ら107人が起こした「国民監視差し止め訴訟」では、仙台地裁判決が情報保全隊の監視活動について「違法な情報収集」だと認定。「情報収集したのは、人格権の侵害」「国は、具体的な監視活動の目的、正当性を主張しておらず、違法である」などとし、原告のうち5人に賠償支払いをするよう、国に命令した。原告・被告双方は仙台高裁に控訴し、現在も裁判は続いている。

 小野寺弁護士は、公判の様子をこう振り返る。

 「控訴審では、裁判所が元情報保全隊長の尋問を5回行ったが、すでに尋問時間は10時間を越えている。長引いているのは、元情報保全隊長がなんでも『それは答えられません』と回答するから。そのたびに裁判所が『しかしそれは秘密に当たらないのではないか』『それくらい話してもいいのではないか』と訴え、話を引き出すことにとても時間かかる」

 さらに、「監視活動を記録した文書も、特定秘密にあたるだろう」と述べ、「内部告発は懲役10年に処せられるし、マスコミもやりかたによっては『煽動』にあたるとして違法だとされる」と指摘。「秘密保護法は『国民監視差し止め訴訟』の最中に施行される可能性が高いが、国は裁判でなんて言ってくるのだろうか。施行後も、国民の権利を守る判決をとりたい」と意気込みを語った。

海自がひた隠した「アンケート」の中身とは

 同じくパネラーとして登壇した岡田尚弁護士は、自身が弁護団長を務める「護衛艦『たちかぜ』自衛官いじめ自殺事件」を例に、秘密保護法に警鐘を鳴らす。

 2004年、海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」の1等海士だった当時21歳の男性が、先輩の2等海曹から日常的にいじめを受け、自殺した。

 2等海曹は殴る蹴るの暴行のほかに、りんごを粉々に砕くほどの威力をもつエアガン、ガスガンなどをたちかぜ艦内に不法に持ち込み、後輩隊員らを撃つなどしていたぶっていた。また、アダルトビデオを高額で、後輩隊員らに無理やり売りつけていたことも発覚している。自殺した1等海士は遺書に、この二等海曹を名指しして「絶対に許さない」などと書いていた。

 遺族は、1億3000万円の損害賠償を求め提訴。2011年に出た1審判決で横浜地裁は、「いじめは艦内では日常茶飯事、常習的で、本件は氷山の一角」とし、自殺の原因がいじめだったことを認めたが、「周囲は自殺を予見できなかった」として、賠償額を440万円と低く見積もった。

 しかし、控訴審で事態が急転。1審で国側の指定代理人を務めた現職の3等海佐が、「一等海士の自殺後に海自が乗員に行った、いじめに関する190枚のアンケート調査用紙」が存在することを岡田尚弁護士に内部告発したのだ。アンケートは、遺族が2005年に情報公開請求したが、海自側が「廃棄した」と回答し、公開されてこなかった。

 アンケートには、いじめの実態だけでなく、同僚に自殺をほのめかしていたことまで書かれていた。2014年4月23日、高裁は判決で、アンケート結果から自殺の予見可能性、相当因果関係を認め、賠償額を計約7350万円に増額した。小野寺五典防衛大臣は、この結果を「重く受け止める」と述べ、上告を断念し、判決が確定した。

いじめに関する内部情報は「防衛活動に支障を生じさせる」

 内部告発した3等海佐は、アンケートの原本がまだ残されていることを知り、1審中に防衛省の公益通報窓口に告発したが、返ってきたのは「アンケートを隠している事実はない」との回答だったという。これを受け、3等海佐は内部告発に踏み切り、高裁にも陳述書を提出。当時の海自トップだった杉本正彦海上幕僚長は、アンケートが現存することを認めざるを得なくなり、「誤った説明をしたことを心からおわびしたい」と陳謝した。

 他方、海自は、3等海佐が内部告発の際に持ち出したアンケートのコピーについて、「行政文書管理が不適切」だとして、懲戒処分手続きを開始。結果的に懲戒処分は公益通報者保護の観点から見送りとなったが、秘密保護法が施行されていれば、内部告発した3等海佐が罰せられた可能性も高い。

 裁判中に国が主張したのは、原告が提出を申し立てた文書の一部が「国の安全等に関する情報」にあたり、「国の安全が害されるおそれ」があるので、提出義務を「留保する」ということである。

 岡田弁護士は、「国は、『防衛活動に支障を生じさせることによって、直接侵略及び間接侵略に対し国を防衛する任務に困難を来す結果を招くことは自明の理であって、当該艦艇の任務の効果的な遂行に支障を生じさせる』としたが、その中身は、ただのいじめに関する情報だった」と述べ、「これのどこが他国からの侵略を招く情報だというのだ」と批判した。

 その上で、「情報が出たからそう言えるが、目にしなければ、わからない。勝手に秘密指定されれば、実質的に、どこが秘密に該当するかも検証できない。実際に、こんなものを防衛情報にしていたのだ」と話し、秘密保護法が悪用されることに懸念を示した。

「役所を信頼できないと、情報公開請求は成立しない」

(…会員ページにつづく)

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