「今さら従軍慰安婦を否定するなら、日本は戦後築いてきた信用をまったく失うことになる」 ~ 岩上安身によるインタビュー 第465回 ゲスト 梶村太一郎氏 2014.9.14

記事公開日:2014.10.10取材地: | | テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

 「ヨーロッパは、ウクライナ政府のNATO加入を認めないだろう。なぜなら、ドイツの再軍備を許すかわりに、縛りとして単独では動けないようにした集団的自衛権に関わってくるからだ」──。

 2014年9月14日、ドイツのベルリンにて、岩上安身が梶村太一郎氏にインタビューを行なった。梶村氏は、1974年からベルリンで暮らすフリージャーナリストで、ドイツ外国人記者協会会員。『週刊金曜日』『世界』など、日本のオピニオン誌にも多数寄稿している。岩上安身は、ウクライナ問題とドイツの立場、梶村氏の専門でもある従軍慰安婦問題、イスラム国とドイツとの関連性などについて聞いた。

 梶村氏は「ウクライナ危機は、冷戦終結後の揺り戻しだと思う。複雑で落としどころがなく、プーチン大統領はメルケル首相と35回ぐらい連絡を取り合っている。地政学的に『パリの東門、モスクワの西門』と言われるのがベルリン。ドイツとロシアは経済交流もさかんで、アメリカとロシアの関係とは違う」と語った。

 また、従軍慰安婦の話題になると、梶村氏は「今になって、従軍慰安婦を否定するような言論を日本政府が発すると、世界に対する日本の信用が没落する。あり得ない」と強く批判。「私はオランダの公文書館に出向いて、強制連行されたオランダ女性たちのバタビア裁判に関する資料を入手した。それを読めば、強制連行・従軍慰安婦を否定することなどできない」と力を込めた。

■イントロ

メルケル首相と頻繁に連絡を取るプーチン大統領

 はじめに、岩上安身からウクライナ情勢について尋ねられた梶村氏は、「ウクライナ危機は、複雑で落としどころがない。冷戦終結後の揺り戻し、というのが私の見方だ」と答え、次のように続けた。

 「KGB出身で、ドイツのドレスデンにいたこともあるプーチン大統領はドイツ語が話せる。あるドイツ政府高官に聞いたが、ウクライナ危機後、メルケル首相とプーチン大統領は、電話などで35回ぐらい連絡を取り合っているという。ベルリンは地政学的に『パリの東門、モスクワの西門』とも言われており、ドイツとロシアは経済交流もさかんなのだ」。

 キエフの政変からクリミアの住民投票に移行したことへの、ドイツでの評価に関しては、梶村氏は「クリミアについては大変厳しい。第一次世界大戦後に出てきた民族自決権と、領土保全の矛盾だ。プーチン大統領の考え方は、民族自決権を主張して領土支配をしていったヒトラーの主張に似ている。今回、ロシアのクリミア併合は国際法違反だという認識がある」と答えた。

ウクライナのNATO加盟は認められない

 現ウクライナ政権について、梶村氏は「ロシア語を禁止してはいけなかった。日韓併合で皇民化教育したのと同じだ。また、民族主義者(分離派)への殺戮行為に至ったことは、EUが、資源の乏しいウクライナを軽視していた結果だ」と述べた。そして、「キエフは、ロシアにとって日本で言えば奈良や京都のようなイメージ。だから、プーチンはウクライナのNATO加入は絶対に許したくない」と述べた。

 EUはそれをわかっていたが、アメリカが理解していなかったという梶村氏。「ドイツ統一の時は、ロシア大使館で締結した統一条約で、旧東ドイツ地域に核兵器を置かない、NATO駐留もさせないという暗黙の了解があった。その後、東欧が次々に民主化して状況が変わる。ロシアも、ゴルバチョフ、エリツィンと『ヨーロッパの家』でやっていこうとしていたが、為政者が次々と変わり、発想も変わった」と語った。

 さらに、中国とロシアの結びつきが強化された上海条約機構に言及して、「資源大国のロシアと、経済大国の中国との結びつきを、欧州も米国も日本も無視できない。そこで緊張が生まれる。これが新情勢だ。さらに、中東情勢も絡んでくる」と複雑な状況を説明した。

 岩上安身が、ロシアのウクライナへの天然ガス供給停止について、これからの厳しい冬をウクライナ国民が耐えられるのかと訊くと、梶村氏は「EUは援助はするだろうが、永続はしない。アメリカがシェールガスを売り込んでくるかもしれない」と述べ、ガスを巡って緊張関係がこれだけ高まっており、今後は世界的なエネルギー供給の流れが激変するだろうと推測した。

 また、梶村氏は「ヨーロッパは、ウクライナ政府のNATO加入は認めない。なぜなら、ドイツの再軍備を許すかわりに、縛りとして単独では動けないようにした集団的自衛権に関わってくるからだ」と述べて、そうなれば、エストニアも巻き込むNATO対ロシアとの紛争に発展する可能性があると懸念を示した。

ヨーロッパに来たら逮捕されるブッシュとラムズフェルド

 好調なドイツ経済に話が及ぶと、梶村氏はその原因を、「ナチスを生んだ第1次世界大戦の戦時国債の失敗から学び、原理原則を重んじるドイツ人気質が効いた」と評し、岩上安身は「戦争をしない、借金をしない。両者は繋がっている」と応じた。

 そして、アメリカに話題が移り、梶村氏は「アメリカの世界戦略は破綻しているが、その自覚がまったくない。イラク戦争での無人機による殺戮は国際法違反もいいところだ」と憤った。さらに、「米国の横暴をこのまま許していたら、どうなってしまうのか。ブッシュ前大統領とラムズフェルド元国防長官は、国際法違反で訴追されていて、欧州には来られないようになっている。来たら拘束されて、法廷に引き出されるからだ」と話した。

 また、梶村氏が、中国四川省の成都とヨーロッパ間の貨物鉄道について言及した。2013年4月の開始以来、この貨物鉄道は中国とヨーロッパを結ぶ重要な貿易ルートとなりつつある。岩上安身が「ヨーロッパ、ロシア、中国が仲良くなると、平和維持コストも下がって繁栄する。だが、これは他国、特にアメリカにとっては面白くない。そんなアメリカは、かつてのイギリスに似ている。ネオコンたちは、ロシアに核戦争を仕掛けようとしているのでは」と危惧すると、梶村氏は「二度も戦火に遭って没落したヨーロッパには、戦争の選択肢はない」と強く否定した。

慰安婦問題を調べ直して実証したオランダ政府

 さらに、話題は梶村氏の研究テーマでもある従軍慰安婦問題に移った。岩上安身は「現在の日本は、過去の歴史認識を巡って『戦争状態』だ。関東大震災での朝鮮人虐殺を否定する本も出ている」と述べて、ヘイトスピーチなども絡めて、梶村氏に感想を聞いた。

 梶村氏は「今になって、従軍慰安婦を否定するような言論を日本政府が発すると、世界に対する日本の信用が没落する。あり得ない」と強く批判。

 続けて、「私はオランダの公文書館に出向いて、強制連行されたオランダ女性たちのバタビア裁判に関する資料を入手した。それを読めば、強制連行・従軍慰安婦を否定することなどできない。1992年に、朝日新聞にオランダ女性連行の記事を掲載したが、今回、ねつ造記事で糾弾されている朝日新聞は、この証拠をまったく持ち出さない」と語った。

 さらに、「自分の朝日新聞の記事は、オランダでも大問題になった。オランダ政府はきちんと調べ直し、事実を実証した。死刑になった日本人軍人もいる。また、この問題に関係した大佐のひとりは、帰国後に自殺している」と話した。

 岩上安身は、慰安婦問題を、強制連行と朝鮮半島だけのことに矮小化して、焦点をぼかしていると指摘。梶村氏は「従軍慰安婦は、日本軍のひとつのシステムとして存在していた。中曽根元首相が関与した資料がある。生き証人なのだから証人喚問して、事実を証明してもらえばいい」と語気を強め、岩上安身は「鹿内信隆氏(元フジ・サンケイグループ総帥)は、慰安所作りを独白(『今明かす戦後秘史』サンケイ出版・絶版)している」と言い足した。

自浄能力がなくなった日本のマスコミ

 岩上安身が、朝日新聞の吉田証言ねつ造の謝罪記者会見で、読売新聞の記者が「朝日には自浄能力がない」と咎めたことを話すと、梶村氏は「メディアが真実を伝えなくなった日本は、崩壊するしかない」とため息をつき、「メディアはシステム疲労を起こしている。優秀な記者たちは、みんな辞めてしまう。専門家がいない。それで破綻する。今回のマスコミの叩き方も言語道断」とし、次のように続けた。

 「民主主義は、バランスをとっている船と同じ。朝日までコケたら言論界がバランスを失って転覆する。ドイツは、すでにリベラルなメディアは安倍政権を相手にしない。今は、右派・保守メディアが安倍政権を叩きだした。それくらい、今の日本は警戒されている」。

 岩上安身は「天皇が憲法尊重だから『反日』で『在日』だ、というネトウヨすらいる。『国連も反日』だと。これは、かつての右翼とは違う。ただの排外主義。彼らは、アメリカに従属すれば国連に従わなくてもいい、と言うほどだ」と、最近の日本の状況を話した上で、そういった日本の右傾化とウクライナ情勢は、世界的な潮流なのかと尋ねた。

 梶村氏は「グローバルな現象だ。ドイツより、フランスがもっと強い。それは、グローバリズムに対する恐怖心の裏返しで、排外主義、自己満足主義が慢性化している。むしろ滑稽だ」とコメントし、「ヘイトスピーチの規制などは、日本では馴染まないと思っていたが、もはや放置できないレベル。ドイツのように、2回の大きな悲劇を経験しないとダメなのではないか」と述べた。

日本を棄てる若者たち。きっかけは経済破綻から

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