「日本の軍事力とは、中国とアメリカにとって地政学的な強み」相手の弱みを突く外交の必要性に言及 ~岩上安身によるインタビュー 第71回 ゲスト 元内閣官房副長官補・柳澤協二氏 2010.12.1

記事公開日:2010.12.1取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

※2015年3月3日テキストを更新しました。

 元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)の柳澤協二氏に、2010年12月1日(水)、岩上安身がインタビューを行った。柳澤氏は、同年9月まで防衛研修所特別客員研究員も務めていた安全保障問題の専門家だ。インタビューでは、尖閣諸島をめぐる日中間の軋轢や北朝鮮の砲撃事件、また、増強を続ける中国の軍事力と日中・日米関係の今後など話題は多岐におよんだ。

■ハイライト

  • 日時 2010年12月1日(水)

図々しくなってきた中国の末端

 岩上安身は、「尖閣諸島漁船衝突問題(2010年9月7日)では、何が問題にあったのか。もっと緊迫した場面は、過去にも起こっていた。今回は、想定内の紛争だと言う。どのような評価をされるのか」と質問。

 これについて柳澤氏は、「想定内ではなかったと、今思う。あの事件で、台湾の軍艦や、5~6度の中国の巡視船の接近など、危機管理への対応を強いられていた。さらに、中国漁船が、1~9月だけでも400隻が接近し、退去させられている背景もあった。中国が、政治的、軍事的に質が変わったことにより、より図々しくなってきた」と見解を語った。

 岩上安身が「中国政府には、何か意図があるのではないか」と言うのに対して、柳澤氏は、「中央政府による率先した扇動はないだろう。おそらく上海などの地方行政、もしくは、政府が規制を緩めたための過剰行動ではないか」と分析した。

煙たがられている中国の経済的圧力外交

 岩上安身は、「今までは海上保安庁などが、侵犯した漁船などを追い払う程度ですませていた。ところが、前原国交大臣は12時間後に逮捕に至り、領土問題を、外交の場面に持ち込んだ。しかし、70年代から尖閣諸島問題は、日中国交正常化の際、棚上げ論で穏便にすませてきた」と振り返る。

 こうした日本政府の対応について、柳澤氏は、「今回の事案は、巡視船を破損させるなど悪質で、逮捕は妥当だ。以前も活動家が上陸し、国旗を描いた事件も、国境侵犯以外に、器物破損などの軽犯罪を犯した。それで逮捕し、中国と秘密裏に、外交的な要求交渉をして送還。今回は、そういったシナリオが描かれていない。外交的配慮がなく、相手の否を認めさせるような外交的交渉がなかった」と答えた。  さらに岩上安身は、「今回の事案は、小さな割には、あとで大きくなりすぎている。中国は、日本の頭越しにアメリカの反応を見ているのではないか」と質問した。

 柳澤氏は、「アーミテージも同様なことを、新聞に書いていた。中国にはそこまで、計画的な策略はないと思う。ただ、雪だるま式に大げさになってしまったのではないか。中国側は、自民党時代には逮捕しなかったと言っている。現在、中国の経済的圧力外交は、アメリカも含め、先進国から煙たがられている。今回も、中国の失ったものの方が、大きかったのではないか」と語った。

日本の強みは地政学を使った外交交渉

 岩上安身はテーマを広げ、「今まで日本は、アメリカに安全保障や経済などで従属してきたが、中国が台頭し、かたやアメリカは落ち始めている。安全保障はますますアメリカに従属し、中国はまだまだわからないところが多い。これから日本は、この中でどうやって立ち位置を求めていったらいいのか」と質問した。

 柳澤氏は、「軍事、政治、経済に分けて考えると、GDPも2030年には、(中国が)アメリカを追い抜く。だが、軍事的には、まだ30年間はアメリカの優位が続く。政治的には、中国がグローバルな価値観を作れないことで、覇権国家にはなれない」と話した。

 「では、日本の強みは何か。技術力やモラルの高さもあるが、日本の軍事力とは、中国とアメリカにとっては地政学的な強みである。これをうまく使う、相手の弱みをうまく突いてやる、というような外交をすべきだ」と意見を述べた。

核抑止が成り立つ決め手は原子力潜水艦

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