「岩をめぐる中国との撃ち合いに巻き込まないでくれ!」がアメリカの本音 ~政策シンポジウム「改憲と国防」 2013.7.26

記事公開日:2013.7.26取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

特集 憲法改正

 「安倍政権の新憲法草案は、アジアの平和を乱し、日米同盟の基本的価値観に矛盾する」。

 元防衛官僚の柳澤協二氏は「この改憲議論には、国家的メッセージがない。なんのための改憲かわからない」と指摘した。2013年7月26日(金)18時30分より、沖縄県那覇市の市町村自治会館にて、政策シンポジウム「改憲と国防」が開催された。6月に刊行された『改憲と国防』(旬報社)の共著者3人が、集団的自衛権の危険性、安倍政権が成立を狙う「国家安全保障基本法」の実態、尖閣諸島をめぐる、日本、アメリカ、中国の思惑など、この国の安全保障の現状と課題を、それぞれの視点から語り合った。

■全編動画

  • 内容 「改憲と国防」憲法を変えないと国は守れないのか
  • 登壇者 柳澤協ニ氏(元内閣官房副長官補・国際地政学研究所副理事長)、半田滋氏(東京新聞編集委員兼論説委員)、屋良朝博氏(元沖縄タイムス論説委員)
  • 日時 2013年7月26日(金)
  • 場所 市町村自治会館(沖縄県那覇市)
  • 主催 連合沖縄

 まず、屋良朝博氏がシンポジウム開催の経緯を説明。「なぜ、沖縄に海兵隊が駐留しているのか。なぜ、改憲が必要なのか。なぜ、憲法9条を変える必要があるのか。そういうことに関して、本質的な議論や検証がなされていないのではないか。昨今では尖閣問題を引き合いに出して、『だから日米安保の強化が必要なのだ』という短絡的な議論になっている」と話した。

 続いて、防衛庁出身の柳澤協二氏が「在官中、安全保障問題に携わってきた。自衛隊や防衛問題に取り組んできた集大成が、イラクへの自衛隊派遣だった。それは憲法に基づいて行なったのだが、もし改憲したら、すべて自分たちで考えなければならない。それとも、アメリカの主導で対応するのか。現在、安倍首相が改憲に突き進んでいるが、それを批判する自民党議員が誰もいないことを、とても危惧する」と述べた。

 そして、米議会調査局の報告は「アメリカは尖閣をめぐる日中紛争に巻き込まれる恐れがあり、安倍政権の歴史認識はアメリカの国益を害する」、カーネギー国際平和財団は「米国の覇権が尖閣などの限定的な対立で浸食される」、米空軍系のランド研究所は「シーパワー同士の直接的抗争に代わる政治的手段を講じるべき」と表明していることを紹介。現在のアメリカの政治的背景を説明し、海兵隊による尖閣諸島の対中国抑止論を否定した。

 次に、半田滋氏が自衛隊について話した。「本日、12月に改訂される防衛大綱の中間報告があった。現在の大綱は民主党が作ったもので、通常は10年ほどで改訂するものだが、安倍政権はそれを変えた。冷戦時代、自衛隊は抑止力だった。しかし、冷戦当時の自衛隊員24万人、現在も23万人で、人数は大きく変わっていない。また、冷戦時代は米軍のお下がりの武器を、たくさん持たされていた」。

 半田氏は「自衛隊が大きな変化を遂げたのは、湾岸戦争からだ。掃海艇派遣からPKOによる陸上自衛隊の派遣と、現在まで、国際緊急救助隊も含めて28回、海外に派遣されている」と振り返った。「1993年、アメリカは北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)脱退にあわせ、日本に1059項目の支援を要求したが、日本は断った。だが、日本は1999年に、対米支援で戦争ができるように周辺事態法を成立させる。さらに、2001年に小泉政権下で、洋上補給のためのテロ対策特措法、2003年には陸上自衛隊派遣のためのイラク特措法など、それぞれ憲法の規定の中で行なってきた」。そして、半田氏は「今回の防衛大綱改訂で一番目立つのは、島嶼部攻撃だ」と指摘した。

 屋良氏が話を引き継ぎ、「現在、沖縄の米軍施設の7割を使用している海兵隊とは何か。第二次世界大戦で沖縄に上陸、一度引き上げた。朝鮮戦争勃発で在留米軍が本土にいなくなったが、1953年に山梨と岐阜に、1956年に沖縄に再び駐留。理由は、在韓米軍をバックアップするためだというが、なぜ、遠い沖縄に来たのかわからない」と話した。

 続けて、「当時、沖縄は陸軍がメインだったが撤退し、海兵隊がそれに変わった。2006年の海兵隊再編を経て、2012年2月、グアム、ハワイ、オーストラリアへ分散移転で合意。メインの歩兵部隊がグアムに移り、沖縄には海兵隊遠征大隊(MEU)という、西太平洋を循環し沖縄に3ヶ月駐留する部隊だけだった」と述べた。また、「日本の西半分のどこかに、海兵空地任務部隊(MAGTF=マグタフ)があれば機能する。しかし、政治的に考えると、沖縄しかない」と、森本敏元防衛大臣の離任会見での発言を紹介した。

 その後、安倍政権の改憲問題、集団的自衛権にテーマは移った。「なぜ、自民党は改憲が必要だと思うのか」と尋ねられた半田氏は、「わからない。自主憲法制定は党是なのだ」と答え、自民党の「日本国憲法改正草案Q&A」を紹介。「自民党の憲法改正草案は、憲法は国権を縛る、という立憲主義を真逆にし、国家が国民を規定した憲法だ」と述べた。

 また、半田氏は「戦後の戦争のほとんどが、集団的自衛権で起きている」と例を挙げて説明。改憲案9条の二(国防軍)の5に出てくる審判所については、ハワイで起きた「えひめ丸事故」の潜水艦艦長の軍事裁判を例に、その危険性を示唆した。

 柳澤氏は「第1次安倍内閣の時、憲法改正のメッセージは何か、それさえ示してもらえば、憲法解釈は官僚がなんとかする、と答えていたが、それがないのだ」と指摘した。また、「公明党の太田昭宏元代表から『安倍首相は、憲法解釈を変える気はない、と言っていた』と聞いた。政治家の話は、いい加減だ」と、会場の笑いを誘った。さらに、有識者会議での机上の空論のような議論や、自民党の憲法解釈の底の浅さなどを語り、「これは官僚でも容認できない」と批判した。

 半田氏は「安倍首相が集団的自衛権にこだわるのは、アーミテージ氏など、いわゆるジャパンハンドラーの影響も理由のひとつではないか」と言い、柳澤氏は「日米同盟を強化するためという、今の政権の主張のおかしさは、日米同盟の基本的価値観とは矛盾している」と指摘した。

 次に、半田氏は自民党の議員立法「国家安全保障基本法」について解説した。「これは、集団的自衛権を可能にする法律。あらゆる分野で、国民は安全保障に気を配る義務が生じる。この中には、秋の国会に上程されるという、秘密保全法制定の措置もある。これは、特別秘密と定めたことを漏らすと罰する法律。国連の武力行使にも参加でき、武器の輸出入も可能にし、現憲法をなし崩しにできる法律で、これがために憲法改正の必要が生じる可能性もある。早ければ、来年の通常国会に出てくる」と警鐘を鳴らした。

 「この法案は憲法に反しており、無理ではないか」と屋良氏が指摘すると、半田氏は「閣法で出せるか不明だが、国会で、維新、みんなの党などと合わせて3分の2の賛成で可決すると、逆に憲法を変えることもあり得る」と答え、柳澤氏も「形式的には可能だ」と述べた。

 続いて、テーマは尖閣問題に移った。柳澤氏は「制空権がなければ、上陸などできない。地政学的にも、中国にとっても、軍事的には尖閣に価値はない。感情的なナショナリズムのぶつかり合いの象徴になっているにすぎない」と語り、「外交的努力をしようとせず、むしろ対立させて、日中の政治的な材料にしている。まさに、アメリカはそこを懸念している」と断じた。半田氏も「緊張を高め、政府とマスコミが共同して煽っている」と述べ、すでに「尖閣諸島奪取」を前提とした自衛隊の動きがあることを指摘した。

 屋良氏は、米軍の準機関誌『STARS & STRIPES』(星条旗新聞)の「どうか、岩をめぐる中国との撃ち合いに巻き込まないでくれ、というメッセージを受け取るだろう」という記事を紹介。そして、『改憲と国防』の表紙にも使われている、迷彩服の安倍首相が戦車の上で嬉々としている写真を見せた。半田氏は「マスコミは、この写真に疑問を持たない。軍人でもない首相が、戦車に乗ること自体が異様だ」と批判した。

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