「集団的自衛権とは、『自分の国が攻撃されていないのに、同盟関係にある他国が攻撃された時は、自分の国への攻撃とみなす』ということ」――。
5月29日、岩上安身のインタビューに応えた梓澤和幸弁護士(NPJ代表)は、集団的自衛権の定義を簡潔に表現し、「つまり米国がやられたら日本がやってやろうじゃないか、日本が戦争を買って出ようじゃないか、ということ」と付け加えた。
そして、「歴戦の戦争国家である米国の戦争を肩代わりする。イラク、シリア、ロシアに行き、ナイジェリアでは『ボコ・ハラム』(※)を探す。こんな事を日本がやる事じゃないし、それをやってはいけないと定めたのが憲法9条」と述べ、平和憲法の重要性を強調した。
グレーゾーンにおける自衛隊出動は「深刻な誤ち」
「国民の命と暮らしを守るため」として、5月15日の会見で「集団的自衛権の行使容認」に国民の理解を求めた安倍総理。27日には、行使容認の前提となる「現在の安保法制では不十分と考える15事例」を与党協議で示したが、その中でも特に、「武力攻撃に至らない侵害」(いわゆる「グレーゾーン」)については、「これまでの警察力で十分対応可能だ」などと異論が相次いでいる。
梓澤氏もこの「グレーゾーン」への武力出動の可能性について、「戦線が拡大し、最悪の事態まで発展しかねない」と警鐘を鳴らしている。
「グレーゾーン」の事例は、「1.離島等における不法行為への対処」「2.公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為」「3.弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護」の3事例で、(参考)として「領海内で潜没航行する外国の軍用潜水艦への対処」が挙げられている。つまり、侵略行為が他国の軍隊ならば「自衛権」を発動して自衛隊が対処できるが、「民間の漁船」など、相手が何者か判然としない場合などが、いわゆる「グレーゾーン」だ。安倍政権は、こうした「グレーゾーン」事態にも自衛隊を出動できるようにしたい考えだ。
梓澤氏は、「相手国(たとえば中国)などの漁船が、 尖閣の島に上陸した場合を指す」と指摘。「海上保安庁、沖縄県警は『警察力で対応できる』と自信がある。なぜ軍隊が出てくる必要があるのか?」と疑問を呈した。
尖閣をめぐる軍事衝突については、4月26日に行われた日米首脳会談後の共同記者会見で、オバマ大統領が安倍総理に対し、「日本と中国とが対話し信頼関係を作り出す方法を取らずに、エスカレートさせ続けるのは『深刻な誤ち』だ」と釘を差している。
※大手メディアはこのオバマ大統領の「深刻な誤ち(profound mistake)」という発言を、「正しくない」と意図的に誤訳し、横並びで報じた。検証記事はこちら→【IWJブログ】「尖閣問題がエスカレートするのは深刻な過ち」日本メディアに歪められたオバマ大統領発言 2014.4.27
梓澤氏はこのオバマ発言を紹介したうえで、「まさにいたずらに軍隊を出して緊張を煽ることは愚の骨頂。安倍総理は自衛隊法を改正して、総理一人の判断で自衛隊を出せるようにしようとしている」と批判した。
安倍総理は「戦争を回避する」という利益衡量能力が欠如している
梓澤氏は、両方が「自分が正しい」と思っている領土紛争において、戦争を避ける方法は「極力武力を出さずに警察力で対応することだ」と訴えた。
「軍隊だと分からない不法移民(漁民)が尖閣などに上陸してきたら、こちらは警察力で説得をしながらジトジトやらなければならない。それは歯がゆいですよ。でも『戦争を回避する』、という利益衡量がある」。
しかし今、自衛隊は5月10日から27日にかけて、奄美大島近くの無人島で、「尖閣奪還」を想定した1300人規模の上陸訓練などを実施している。
こうした「対中国」を意識した訓練について、梓澤氏は、「自衛隊が上陸するということは、航空機と航空機がぶつかり合う。戦端が開き、原発にミサイルを打ち込まれる最悪の事態まで発展しかねない」と警鐘を鳴らした。
岩上安身も、「他国に戦争の口実を与えてしまう。つまり戦争を避けなくて良いという考え方。戦闘を起こして戦争を既成事実化してしまいたい。しかしその先を考えていない」と、安倍政権の姿勢を痛烈に批判。「中国と揉めたいんですよね、ではその揉め事の終わらせ方をどう考えているのか? 戦争がどんどん拡大していった時に、どう収拾させていくのか? 収拾がつかずに戦線が拡大していった日中戦争の反省をまったくしていないのか? と、特に保守の人に聞きたい」と語った。
尖閣で戦端が開いた時、米国は「助けてはくれない」
梓澤氏はさらに、万が一戦端が開いた時に「安保5条で米国が助けてくれる」という、日本の保守派の認識について「間違っている」と喝破した。
「米国が『安保5条を適用する』と言うが、それは法律ですから適用する。具体的に何をしてくれるのかが問題。在日米軍司令官は、『尖閣を守ってくれますか?』と聞いたも答えずに話をそらす。『参戦する』とは言わない」。
梓澤氏のこの指摘については、元外務省国際情報局局長の孫崎享氏も、同様の指摘をし続けている。4月25日に行われた講演会でも孫崎氏は、安保5条の条文では「米議会の了解を得られなければ、米軍は出撃できない決まり」という内容になっている点を紹介している。
政府は、中国との軍事衝突の「先」を想定しているのか?
米国が、日本と中国との戦争に参加しない理由について、梓澤氏はさらに付け加えた。
「まず中国は米国の最大の債権国。靖国参拝の際も米国は『失望した』と非常に強い批判をしている。中国との戦争を米国は非常に嫌がっている」。
岩上安身も、「中国の規模を考えた時、手を結んだ方が圧倒的に有利」としたうえで、「日本は火力発電でエネルギーをまかなっているが、その燃料としてコストのかかる海上輸送で『世界一高いLNG』を買わされている。しかし中露と信頼構築をしてパイプラインを引いた方が、べらぼうに安くなる。中露はすでに手を結ぼうとしている」と語り、エネルギーの側面から見て、中国との緊張状態のエスカレートが国益を損なうものだと指摘した。
この点については、現役の経産官僚であり、地政学や安全保障の専門家でもある藤和彦氏が、岩上安身のインタビューに応えている。藤氏は、「先進国の中で最も石油を消費し、そのうち9割が中東に依存している」という日本のエネルギー政策の危うい状況を指摘し、日露間でパイプライン敷設することにより、廉価な天然ガスを安定的に供給することの重要性を訴えた。
「集団的自衛権」米国の思惑と圧力を利用し、米国に警戒される安倍政権
岩上安身は、安倍政権が拙速に集団的自衛権の行使を可能にしようとしていることについて、「米国のオーダーであり、米国のスケジュール感に沿った動き」と指摘。秘密保護法を批判したハルペリン元国防総省高官が、「集団的自衛権は9条は変えず解釈改憲なら米国は歓迎」と提言していることを紹介し、解釈改憲での集団的自衛権が、米国の意向に沿ったものであることを強調した。
(※)オバマ政権に近く、「タカ派の中のハト派」であるハルペリン氏は、「集団的自衛権行使容認の前提となる3つの条件」を、日本に突きつけている。オフレコの場で語ったその全容については、岩上安身の「ニュースのトリセツ」で詳細に報じているので、こちらをご覧いただきたい。
梓澤氏も安倍総理の姿勢について、「限定容認論などという話も出ているが、集団的自衛権というのはいったん発動したら際限なく拡がっていく。日本が軍隊を出したら、米国は『もっと出せ』とどんどん圧力をかけてくる」としたうえで、「その堤防が決壊するために食い止めなければならないが、安倍総理は米国の方を向いている」と指摘。しかし同時に、「米国を向いている安倍総理が、なぜ米国の意向に反して靖国に行くのか?」と疑問を投げかけた。