5月8日、来日した米国防総省元高官のモートン・ハルペリン氏のインタビュー後、ツワネ原則を熱心に紹介した日弁連前事務総長の海渡雄一弁護士、福島瑞穂議員、通訳をつとめてくれたレイバーネットTVの松元ちえさんたちと、ハルペリン氏を囲んでの食事会の場をもった。
ハルペリン氏は、国防総省で日本や東アジアの地域担当になったことはない。しかし、ご本人曰く、「日本びいき」。東京オリンピック前年の1963年に初来日して以来、訪日回数は30回くらいになるという。息子が3人いてそのうちの1人は日本語を勉強したという。
佐藤栄作政権の時代から日本の中枢と深い関わりがあり、沖縄返還と密約交渉にも関わった。日米外交と米国の安保政策の裏表を知る存在だ。理想論を唱えているだけの知識人ではない。そんなリアリストが、「日本の秘密保護法は、21世紀最悪の秘密保護法だ」と断言する。傾聴せずにはいられない。
食事会は、インタビューの場ではない。だいぶお疲れのご様子でもあり、前半は肩の凝らない話題が中心だったが、後半になるとやはり本気の話になる。以下、食事会でハルペリン氏が語った内容の詳細をお伝えする。
日本は「オープン・ガバメント・パートナーシップ」に未加盟
2013年12月、ハルペリン氏が上級顧問を務める「オープン・ソサイエティ財団」は、日本の特定秘密保護法について、「21世紀に民主的政府によって検討された秘密保護法の中で最悪なものだ」と痛烈に批判した。
ハルペリン氏は、オバマ大統領が提唱した「オープン・ガバメント・パートナーシップ」の重要性を強調している。「オープン・ガバメント」とは、「透明・参加・協業」の三原則を掲げ、政府が情報公開を積極的に進め、国民に対して説明責任をはたすというものだ。加盟資格があるのは、各国の政府。現在60カ国が加盟しているが、日本政府は未加盟である。
ハルペリン氏は、この「オープン・ガバメント」の必要性について、食事会に同席した社民党の福島みずほ議員が質問すると、次のように語った――。
ハルペリン氏「2年前くらいにオバマ大統領がスピーチをしたとき、最小限の条件があって、それを満たした国がオープン・ガバメントのメンバーになれると提唱しました。ひとつは、情報公開制、つまり知る権利ですね。あとは覚えていませんが、いくつかあります」
岩上「日本は入れないんじゃないですか」
ハルペリン氏「日本は加盟していません」
岩上「加盟というか、資格がないでしょう」
ハルペリン氏「いくつかのアクション・プランに従ってやっていけば良いだけです。各国で、それぞれのアクション・プランを立てるんですけれども、それに従っているのか、それを満たしているかというのは、独立の機関があるので、そこが検討します。半官・半民のメンバーで、ちゃんとなされているのかというのを検討するのです」
福島みずほ議員「どのくらいの国が加盟しているのですか?」
ハルペリン氏「37ヶ国です。あのフランスも入っています。韓国は、すでに加盟しています」
ハルペリン氏が話している間に、iPhoneで検索すると、すでに60カ国が加盟と出てきた。ハルペリン氏の記憶の更新に追いつかないほど、加盟国数の増加が早い、ということらしい。
岩上「今、ネットで検索したら、もう60カ国以上加盟しているのですね。日本は、数少ない非参加国です」
ハルペリン氏「日本政府にプッシュしなくてはなりません。この、オープン・ガバメント・パートナーシップに日本が加盟するまで、私は帰れないのです(笑)」
集団的自衛権行使容認の前提となる3つの条件
安倍総理が突き進む、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。5月15日に安倍総理は、私的諮問機関「安保法制懇」(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)から、集団的自衛権の行使容認を提言する報告書を受け取り、記者会見で国民にその正当性について訴えた。
ハルペリン氏は、集団的自衛権の行使容認の前提として、三つの条件を提示する。一つ目は、明文の改憲をしないこと。二つ目は、戦前、戦中に日本がしたことを謝罪し、歴史認識の書き換えをやめること。そして三つ目が、核保有をしないことである。(※注)
ハルペリン氏「集団的自衛権の行使容認には、3つの条件があります。一つ目は、明文改憲をしないこと。2つ目は、戦前・戦中の日本のしたことについての責任を取ること。3つ目は、核不拡散三原則をもう一度更新することです」
ハルペリン氏は、2つ目の条件に、日本の歴史認識の問題をあげた。日本が戦争責任を取るためには、いったい何が必要なのだろうか。
ハルペリン氏「簡単なことです。首相が謝罪と反省を表明すればいいのです。そして、靖国神社に行かないことです。それから、過去の歴史を修正するのではなく。そのまま受け入れることです」
岩上「しかし、日本は謝らないというわけですよね」
ハルペリン氏「以前は、その考え方が変わった時があったんですね。しかし、今は戦後を知らない世代ですから」
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(※注)ハルペリン氏は、講演会で配布した英文のレジュメでも、解釈改憲による集団的自衛権行使容認の前提として、3つの条件をあげている。IWJは、英文のレジュメを独自に翻訳した。
集団防衛に対する権利
モートン・ハルペリン
日本は、集団的自衛権を持つ能力を再定義することを検討するにあたって、慎重になり時間をかける必要がある。同盟国や近隣諸国と最大限相談しながら、市民社会の中で、透明性を持って進められなければならない。
正しく行われるのであれば、日本が貢献の範囲を広げることは、東アジアだけではなく、日本が国連の平和維持における役割を増やすのであればグローバルに、平和と安全に寄与するものになりうる。
日本は、この動きが日本の憎悪に満ちた右翼ナショナリズムの再来なのではないかという恐れに対処しなければならない。
これをグローバル秩序と平和に対する真の貢献にするため、そして、近隣諸国の不安を取り除くために、日本がやるべきことが二つある。
第一に、日本は、第二次世界大戦前や大戦中の行為について、「慰安婦」や戦争犯罪の責任に関するものを含め、世界に理解されるよう、責任を率直に認めなければならない。
第二に、日本の役割の拡大が、核兵器を開発するという決定に結びつかないということを明確にしなければならない。ひとつめのステップは、日本が現在の核の方針を再確認し、核開発がこの見直しの一部として再考されることはないと明確にすることだ。次のステップは、兵器級核物質の生産と保有を最小限にするために、民間の核プログラムに変更を加えることである。
最後に、日本は北東アジアの非核兵器地帯の創設を提案し、それに完全に加わるつもりであると表明しなければならない。非核兵器地帯には日本や朝鮮半島やその他の国々が含まれるだろう。
こうすれば、日本は、地域的にもグローバルにも、集団防衛における適切な役割についての思慮に富んだ議論を導くことができるだろう。
日本の核武装を警戒する米国
集団的自衛権の行使を容認するための条件のうち、3つ目の核不拡散について、ハルペリン氏は、「日本は核燃サイクルをやめるべきだ」と言い切った。
それは、日本の潜在的な核兵器保有可能性を断念せよ、ということか、と確かめると、はっきりと「その通りだ」と言った。ということは、先日のオバマのプルトニウム返還要求とは、核兵器保有を断念せよというメッセージだったのか、という問いにも、ハルペリン氏は、「その通りだ」と即座に言い切ったのである。
要するに米国は、日本の極右勢力が核保有を狙っていることを真剣に危惧しており、同時に、靖国参拝や歴史認識の書き換えを安倍政権が図っていることも懸念し、だからこそ秘密保護法に警鐘を鳴らしているのである。
英国を訪問した安倍首相のオープン・ガバメント・パートナーシップに関するコメントが、5/1付けで英国政府 ニュースサイトで取り上げられています。
The Prime Minister welcomed Japan’s commitment to accelerate progress on both joining the Open Government Partnership, and committing to automatic exchange of tax information and central registries of beneficial ownership.(キャメロン首相はオープン・ガバメント・パートナーシップへの参加に向けた進捗を加速する、
の日本のコミットメントを歓迎し…)
http://okfn.jp/tag/open-government-partnership/