原発は電気のためではなく核兵器を作るために導入された
岩上安身「ジャーナリストの岩上安身です。私は今、京都大学の原子炉実験所に来ています。小出裕章先生にこれからお話をうかがいたいと思います。小出先生、よろしくお願いいたします」
小出裕章氏(以下小出、敬称略)「よろしくお願いします」
岩上「今、都知事選のまっただなかで、そういう状況で発言をすることは少し控えたいと言っていらしたところに押しかけまして、本当に申し訳ありません。申し訳ないと思うんですが、どうしてもこのタイミングで、小出先生のお話をうかがいたいと思いました。
多くの人が、今回の都知事選の喧騒に飲み込まれてしまって、非常に重要なニュースを見逃しているのではないかと思います。それは、私にとって大変気になることなんです。その件について、ぜひ先生のご見解をお聞きしたいと思っています。
その重大なニュースとはいうのは、アメリカがプルトニウムの返還要求をしてきている、というものです。1月27日に共同通信が一報を流しまして、各紙がそれを載せました。我々は、これは大変なニュースなんじゃないかと思いまして、外務省に連絡したんですね。外務省の担当課は、否定はしないんです。まあいろいろ申し上げられないこともある、というように、ぼかしているんですけれども、否定はできないということは、事実なんだろうと思います。
文芸評論家で早稲田大学の教授の加藤典洋さんが、3.11以降に『死神に突き飛ばされる』という本を書かれて、その中に、「国策と祈念」という論文を書いていらっしゃいます。日本の原発の平和利用において、それとワンセットで、核の技術的抑止というものが目指されてきたのだということを指摘されています。
ところが、もしこのプルトニウムを返還しろということを言われたのであれば、日本の核開発の目的というのは水泡に帰す。これは実は大きな選択を迫られるというお話なんですね。そういう分析をされています。
核技術抑止論と言ったり、潜在的核保有論と言ったり、いろいろな言い方はあると思いますが、こういうことを近年、石破さんとか、あるいは安倍さん、麻生さんも、発言をされていると思います。
しかしこうなると、周辺諸国、とりわけ中国との関係において牽制するということはできなくなります。曖昧な戦略ができなくなる、ということです。そうなると、もう核兵器を持ってしまうか。それともまったく諦めるかという選択を迫られるのではないか。このように分析しているんですね。
こんなに脱原発の議論が都知事選絡みで盛り上がっているにも関わらず、この話題が全然議論の遡上にあがらないんです。
そこで、先生にお話をうかがいたいなというふうに思っております。日本の原発の平和利用と言っても、裏側に核燃サイクルと抱き合わせで、このような核兵器保有のための準備をし続けてきたというのは事実であり、そして、このプルトニウム返還要求が、そうしたものの断念を迫られる可能性があるという点について、どのようにお考えでしょうか?」
小出「日本という国は、原子力の平和利用というような言葉を作って、あたかも日本でやっている原子力利用は平和的だとずっと装ってきたわけですけれども、もちろんそんなことはありません。
ずいぶん前でしたけれども、野坂昭如さんが、技術というのは、平和利用だ、軍事利用だと分けることが出来るはずがないとおっしゃっていました。そんなものはないと。もしあるとすれば、平時利用と戦時利用だということでした。
平時に使っている技術でも、戦時になればいつでもまたそれが使える、ということです。日本が原子力をそもそもやり始めたという動機も、先程から岩上さんがおっしゃってくださっているように、核兵器を作る潜在的な能力、技術力を持ちたいということから始まっていました」
岩上「そもそも核保有が出発点であり、電気のためではなかった、と」
小出「もちろん、そんなのは違います。核兵器を作る力を持ちたかったということで、日本の原子力開発が始まっているわけですし、単に技術力だけではなく、平和利用と言いながら、原爆材料であるプルトニウムを懐に入れるということです。
そしてもうひとつは、ミサイルに転用できるロケット技術を開発しておかなければいけない、ということです。両方を視野に入れながら、科学技術省というものを作ったわけですね。今はなくなりましたけれども。
科学技術省は、原子力と宇宙開発をやるわけですけれども、まさに原爆を作るためのものです」
岩上「なるほど。ひとつの役所が、まるごとそのために生まれたようなものだと」
小出「そうです。日本人は、日本は平和国家と思っているかもしれませんけれども、国家のほうでは、戦略的な目標を立てて、原子力をやってプルトニウムを懐に入れて、H2ロケットやイプシロンなど、ミサイルに転用できるロケット技術を開発してきたんですね。
しかし、日本のマスコミは、例えば、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星を打ち上げると、ミサイルに転用できる、実質的なミサイルであるロケットを打ち上げたという。しかし、自分のところが打ち上げるH2ロケット、イプシロンについてはバンバンザイという、そんな報道しかしないわけですね。
もちろん北朝鮮だって、ミサイル開発と絡んでいると思いますけれども、同じように日本だって、軍事的な目標を見ながらやってきたわけです。
ただし、日本の思惑というものが貫徹できるかどうかということは、現状では、完全に米国が握っているんですね」
岩上「これは、日米原子力協定というもので、拘束されている、と。これはどういうものなのでしょう」
米国の属国だからこそ可能だった日本の原子力政策
小出「日米原子力協定では、米国の同意がなければ、核燃料をどう扱うかということすら、日本では決められないというようになっています。米国がどう考えるかということで、日本の原子力開発の動向が左右されているわけですね。日本は米国の完璧な属国ですよね。そうであるかぎりは、米国は日本に一定程度の自由を許してやるということになっているわけです。
原爆を作るための技術というのは、核分裂性のウランを濃縮するというウラン濃縮という技術。それからプルトニウムを生み出すための原子炉。それから、生み出されたプルトニウムを取り出すための再処理という三つの技術があります。
その三つが原爆を作るための技術です。そして、現在の国連常任理事国である米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の五カ国は、その三つの技術を持っているのですね。
三つの技術を持っていて、核兵器を持っているから、常任理事国として、世界を支配できるということになっている。その5カ国は、自分たちだけはその技術を持ってもいいけれども、他の国には、絶対持たせないということで、IAEAを作って、国際的な監視をするということにしたんですね。
ずっとそういう体制が続いてきたのですが、その核兵器保有国5カ国の他に、例えばインドとかパキスタンとか、あるいはイスラエル。朝鮮民主主義人民共和国は、私はまだ首を傾げていますけれども、まあまあ、実質的に核兵器を作ったとしても、例えば、インドは原子炉と再処理は持っていますけれども、ウラン濃縮技術は持っていない。パキスタンは、ウラン濃縮技術は持っているけども、原子炉も再処理も持ってないんですね。イスラエルはもう米国が容認してしまっています」
岩上「黙認という形ですね」
小出「そうですね。原子炉も持っているし、再処理も持っているわけですね。朝鮮民主主義人民共和国は、どこまで持っているのか私は分からないけれども、どの国も原爆製造三技術は持ってないのです。
ただし、核兵器保有国5カ国のほかに、世界で1カ国だけ、この三技術を持っている国がある。それが、日本なんですね」
岩上「なるほど。これは核燃料サイクルと深く結びついているわけですね」
小出「もちろんです。ですから、日本は核燃サイクルを実現して、原子力を意味のあるエネルギー源にするというようなことを言ってきているわけですけれども、実はそれはもう原爆と作るための技術を持ちたいという、そのことで来ているわけです。
日本だけがその三技術を持つことができたわけですけれども、それも日本が米国の属国であるから、米国がかろうじて、ウンと言ったという、そういう状態なのです。
でも、今のように安倍さんのような、私から見ると『この人、病気だな』と思うような人が出てきてしまって、世界情勢を見ることもできないわけですね。そうなると、米国からみても、やはり不安になるでしょうし、これまでは属国として許してやってきたけれども、このまま野放しにするのは危ないかなと思い始めるということはありそうだし、むしろ当たり前と言ったほうがいいかもしれません。
これまでのような形で日本にフリーハンドを与えないで締め付けを厳しくするということは、たぶん世界の政治のレベルでは、ありうるだろうなと、私は思います」
「安倍おろし」の可能性
岩上「日米原子力協定が結ばれた経緯、出発点は、日本が核兵器をいつか保有したいという欲望からスタートしている、ということでした。
他方、アメリカは冷戦体制下で、日本だけではなく、自分が傘下に納めている国々が、まかり間違ってアメリカ側からソ連側のほうにいくことは避けたい。できるだけ自分たちの陣営を固めておきたいし、日本はとりわけ東アジアにおける『反共の砦』というような形にしておきたい。
それで、日本に再軍備をさせ、あるいはA級戦犯の容疑者だった岸信介を釈放して、再利用するというようなことが行われたりしてきた。
そのプロセスのなかで、ビキニ岩礁での水爆実験で第五福竜丸が被爆し、大変な反核運動が盛り上がった。その結果としての核アレルギーを鎮めるためにも、日本に飴玉を提供するということで、原発を提供したという経緯があると言われています。
ここには、さらにいろいろ思惑もあるんだろうと思います。日本が独自核技術を持つくらいだったら、アメリカのパテントで全部最初から与えてしまって、コア技術は開発させないで、アメリカが握り続けるという計算もあったのだろうと思います。
先生のおっしゃるように、ずっとコントロールされてきた。箸の上げ下ろしのようなことまでうるさく言われるものだった。ところが、これが包括協定というのが1988年に結ばれました。言うことはなんでも聞くんだなということが分かってきたので、少し信頼できるようになったから、細かいことは言わないというようなことになってきた。その包括協定が、2018年に期限が切れるのですね」
小出「そうです」
岩上「そこで、今回、プルトニウム返還要求が起きているということは、安倍政権の成立を見据えて、これは危険だと米国が思い始めたということでしょうか。包括協定の30年間の期限の切れるタイミングと、安倍政権の成立のタイミングに合わせて、米国が言って来たという意図はどういうことなんでしょう。日米関係はこれからどうなるとお思いでしょうか?」
小出「よくわかりません。安倍さんのような首相がいつまで政権の座にいることができるのかも、私にはよく分かりません。しかし、安倍さんのような人がいる限りは、やはり米国としては、コントロールを強めようと思うでしょう。日米原子力協定の期限が2018年に切れますので、これまで以上に、またタガをはめてくるということはあるでしょう。原子力関係者からみれば、それをされると困るからといって、安倍さんを降ろすという動きも、ひょっとしたらあるかもしれません」
岩上「安倍総理は衆議院選挙、参議院選挙で大勝して、いま大変強い権力を持っています。今回の都知事選候補を見渡してみると、田母神さんのような方を石原さんがかついでいる。これは方向性としては、安倍さんと同じですよね」
小出「そうです」
岩上「そして、安倍さんが一生懸命我慢している本音をあらわにしているような人だということも言えると思います。田母神さんは、はっきり安倍さんを支持しているとおっしゃっているくらいですから、安倍さんの別働隊、より本音をあらわしているのではないかなと思うんですね。
自民党内部で、安倍さんのやっていることに公然と反旗を翻す政治勢力は、いまのところ見当たらないように見えます」
小出「そうですね」
岩上「そこに小泉さん、そして細川さんが現れた。小泉さんは、総理を辞めているけれども、自民党を辞めたわけじゃないので、隠然たる影響力のある、人気のある方です。
そういう方が現れて、脱原発を唱えられた。この動きについては、今おっしゃられたような、安倍さんのような動きだとアメリカに警戒されるから、受け皿を用意しておこうかというふうにみなすことができるんでしょうか? それとも、何かまた別の動きだというふうにお考えですか?」
小出「それは、政治に詳しい人に聞いてください。私は、政治のことはよく分からない。ただし、いま岩上さんがまとめてくださったような政治のなかの力学というのは、私はありうると思います」
岩上「安倍さんでは危険すぎて、アメリカから警戒されてしまうので、安倍さんを下ろして、また今までどおりの中庸で曖昧な戦略。そこに戻せるような政権を作り出そうという動きが、小泉・細川連合以外に、小出先生は見当たると思いますか?」
小出「私には見当たらないのです。ですから、私はそれが一番困ったことだと思っています。安倍さんの暴走を止める勢力が自民党のなかにいない。国民のほうにも、選挙をすれば安倍さんが勝ってしまうというような、そういう流れというのが、かなりできてきてしまっています。安倍さんの暴走をどうやれば止められるか。私は大変心配しています。
ただし、今日、岩上さんがその話題を持ってきてくださったような、原子力をめぐる動きについて、世界的な動きがありますので、日本の原子力産業、あるいは、軍事的な興味を持っている人たちのなかでも、米国との関係というのは、たいへん重要なわけですから、その関係を悪化させるようなことは、たぶん望んでいない。自民党という政権の内部でも、望んでいる人は多くないと思うし、そのために修復の動きというのは、いつか出るんではないかなと私は思います。
今はまったく見えませんけれども、まあ安倍さんは、もうダメだと、ポッと政権を放り投げた実績のある人ですから、なにか動きが出て、風向きが変わったら、安倍さんがまた、はい、もう辞めましたということだってありうるかなと思います」
岩上「わかりました。ただ、安倍さん個人が、小出先生の表現で言うと、病的なキャラクターであるということが仮に事実だとしても、彼さえ取り除けば、自民党の右傾化、この国の右傾化、この社会の右傾化が止められるかどうか。その右傾化のなかに、核というものをどう扱うかというテーマが密かに内包されているわけですね。
そしてさっきも言ったように、より本音の部分として、核武装独立をしようという『秘められた意志』がある。安倍さんや石破さんだと、核技術抑止論の段階に一応とどまっているけれども、田母神さんや石原さんは、核武装独立ということを公言するわけですね。
核武装独立ということを言う人が一定程度の支持を得ているとしたならば、安倍さんひとりがいなくなっても、こういう衝動、こういう考え方を支持する人たちの流れというものは、止められないかもしれません」
小出「いま、日本の国のなかで、田母神さんとか石原さんのように、核兵器を持ってしまえ、という意見は、私は大きくはないと思います。自民党の中でさえ、そういう意見は大きくないと思います。
もちろん、底流としてはずーっとあったわけだし、初めに聞いて頂いたように、いつでも核武装できるような技術的な能力は持っておかなければならないということで、日本の原子力開発、いわゆる核開発が始まっているわけですから、考え方としては、いつ転んで核武装をするというほうに行ってもおかしくはないですけれども、現在の状況を見る限り、すぐにそうなるとは私は思わないです。
もしそうなってしまうと、米国との関係だって大変難しいものになるでしょうし、そうなると経済界もたぶん困る。そういう人たちが山ほどいるはずです。自民党がもしそちらに暴走しようとするなら、なにがしかの抵抗もまた起きるだろうと思います」
都知事選の「脱原発」論議を検証する
岩上「今、原発をめぐって議論をするということが再び盛んになっています。この都知事選に合わせてですけれども、脱原発の問題が、もう一度多くの人の意識にのぼるようになりました。
もちろん、3.11以降、多くの人たちが、原発を続けるべきなのか、それとも原発をやめるべきなのか、考えたり議論してきました。
小出先生には、3.11の直後にお話をうかがいましたけど、その時から、核の危険性、放射能の危険性ということと合わせて、こういうものを抱きかかえている社会の仕組みの危険性、安全保障との関わり、米国との関わりについて、指摘されてきました。
ところが、こういうことをまったく切り離す方もいるわけですね。原発だけを論じろ、と。そして、安全保障の話や核兵器の話は関係ない、電力の供給システムとしての原発を論じればいいんだ、と。そういう方がたくさんいらっしゃるんですね。
今回の都知事選に関しても、飛び交っているご意見の中には、若干首をかしげるものもあります。都知事選ですから、都政に関わる様々な問題は話さなくちゃいけないんですけれども、脱原発だけを話そう、と。
さらには、脱原発を話すのなら、安全保障とか、日米関係とか、それから隣国との関係とか、靖国の参拝の問題であるとか、それらを全部切り離して、ただ『原発ゼロ』と言ってしまう。
アメリカは、民主党政権が一回原発ゼロと言ったときに、『原発ゼロということは、核燃サイクルをやめるってことは、プルトニウムをどう使うんだ?』というふうに言ったわけですね。核燃サイクルはプルトニウムを処理するための手段でもあるわけで、そうすると、ただプルトニウム貯めこんじゃうから危ないじゃないかという話と結びついていると思います。
だから、単純に『原発ゼロ』という議論に対する警戒も、アメリカのなかにはありますね。プルトニウムはそれはじゃあ余っちゃうのを返せよという今回の動きにも結びついているのではないかと。こういう分析が、さきほど冒頭に言った加藤典洋さんの分析の中にも出てくるわけです。
この『原発ゼロ』ということだけを論じてしまう論の建て方の危うさということについては、どのようにお考えですか?」
小出「当たり前のことだと思います。この世界のことは、すべてつながっている。原子力と日本で呼んでいるもの、私は核そのものだと言っているわけですけれども、単に機械が壊れるか壊れないかとか、放射能が怖いとか怖くないとか、そんなことだけではなくて、核兵器の問題だってあるわけだし、それこそ米国との関係、安全保障条約の問題、沖縄の問題、ぜんぶ絡んで、あるわけですから」
岩上「対中国の問題もそうですね」
小出「そうです。ですから、全体を見て、やはりものごとは考えなければいけないし、議論もしなければいけないと思います。ですから、今、岩上さんが都知事選挙のことを話題に出されて、私はもう都知事選挙について、ものを言いたくないのですけれども、でも本当であれば、きちっと議論をしなければ、全体について議論をしなければいけないと私は思います。
今、『原発ゼロ』だけでいいかということを聞かれたので、ちょっとだけお伝えしたいと思います。米国が『プルトニウムを返せ』と言っているそのプルトニウムは、日本原子力研究所、今では日本原子力研究開発機構ですけれども、そこにFCAという実験装置があります。日本語で言うと高速炉臨界集合体。そういう実験装置があって、それはたしか1967年から動いたのだと思いますが、それを動かすための燃料、プルトニウムを米国が提供したんですね。
ただし提供したけど、ほとんど燃えてるわけじゃない。要するに、実験装置ってちいちゃなものなので、出力が2キロワットぐらいでしたかね。まあ本当にちいちゃなもので、プルトニウムはほとんど燃えてないんですよ。
ですから、米国が提供したけども、結局、燃えてないんだから返せという、そういう要求なのです。まあ、日本としては返したくないでしょうね。せっかく懐に入れたんだから、返したくないと思いますけれども。でも、300キロですよ、いま米国が返せと言っているのは。
でも、日本はすでに原子力発電所を長年動かしてきて、その使用済み燃料をイギリスとフランスに送って、再処理をしてもらって、日の丸のついたプルトニウムをすでに44トン持っている」
岩上「44トン!」
小出「はい。ですから、300キロぐらい返したところでなんてこともない。本当のことを言えば。米国としては、じゃあその44トンをどうするのかということは、たぶんその先を睨んでいると思いますし、日本の原子力、いわゆる核開発を担ってきた人たちも、どこで防衛線を引くかということは、たぶん考えているだろうと思いますが、日本の原子力発電所で生み出されたプルトニウムを『返せ』という要求はたぶんできない。米国としても。たぶんできないだろうと」
岩上「なるほど。これは最初にアメリカが提供したものだから、『返せ』ということになっていると。でも、この『返せ』と言っている要求は、いろんな政治的な意味やメッセージを含んでいるわけで、その次が当然ある。全然関係のない話ではないと。そういうことですね」
小出「そういうことです」
岩上「つまり、それをちゃんと理解して、このメッセージに対する対応を日本側がしないと、ことによると、いろんな方法があるよってことになってくると。次の展開がありうると」
小出「そうです。ですから、2018年に日米原子力協定が改定されますけれども、そのときにどういう交渉になるかということをたぶん日本の原子力関係者は、もう今から苦悩しながら見ているだろうと思いますし、安倍さんの動きに関しても、かなり神経質になっているんではないかなと私は思います」
細川・小泉連合はプルトニウムをどう考えているのか
岩上「なるほど。この加藤さんがいろいろ参考にされているのは、遠藤哲也さんという原子力の世界では中核を担ってきている外務省の方ですね」
小出「そうです」
岩上「ご存知ですか?」
小出「はい。お会いしたことはありませんけれども」
岩上「有名な方なんですか?」
小出「もちろん有名な方です。日本の核政策を、日本の代表として引っ張ってきた人です」
岩上「ああそうですか。そんなに有名な方なんですね」
小出「はい」
岩上「実は、ここに、こんなまあ単行本一冊分ぐらいの分量があるような論文のPDFがあります。これ、PDFをダウンロードしてきたものなんですけど、遠藤さんが、ネット上で見られるように明らかにしているんですが、ご自身がずっと担ってきた核交渉についての内幕などの記録なんですよ。だから、これは時代の証言として大変貴重なものではないかなと思います。
最近になって、急に今までのことを話し始めています。かつての政治家、例えば、岸信介さんとか、佐藤栄作さんとか、こうした総理大臣経験者たちも、核保有をしたいんだということは言っていました。アメリカとの間で日米安保が改定され、核技術も燃料も提供してもらえるとなって、核技術や核開発の欲望というのは水面下に沈むようになった。
できるだけ、国民には理解させないように、国会にあげないように、政治的な議論の場にあがらないように、核技術抑止を水面下で続けてきた。でも、これでもし包括協定をストップさせられて、アメリカ側が、これまでのように、日本にフリーハンドを認めなくなると、日本の核技術のこれまでの維持とか、燃料の保有とか、そうしたものが水泡に帰すだろうとおっしゃられているんですね。
今、44トンもあると。44トンって、どのぐらいの量の核兵器が作れるのかわかりませんけれども」
小出「長崎原爆を4000発作れます」
岩上「長崎原爆4000発! ものすごい量ですよね」
小出「そうです」
岩上「十分貯まっていると」
小出「そうです」
岩上「これをアメリカは返還要求できないだろうと言われますが、たしかに返す必要はないだろうというふうに突っ張る右の人たちも出てくるかもしれない。今後、どんな展開がありうると思いますか?」
小出「返せとは言わない代わりに、日本に対して、不要なプルトニウムは持つなと言うでしょう。使用目的のないプルトニウムは持ってはならないということで、要求があったわけで、日本としては、使い道のないプルトニウムは持ちませんと、国際公約をすでにさせられているわけですね。
じゃあ、日本はどうしようとしたかといえば、もともとはもんじゅという高速増殖炉の燃料にするんだということがうたい文句だったわけですけれども、もんじゅなんかぜんぜん動かない。豆電球一つも灯せないという、そんな原子炉なわけですから、どうしようもないと。じゃあどうするかといって追い込まれたのが、プルサーマルという普通の原子力発電所でプルトニウムを燃やすというところに追い込まれてしまった」
岩上「追い込まれた?」
小出「そうです」
岩上「追い込まれて、ああいうものが生まれたんですね」
小出「そうです。ですから、安全性は犠牲になるし、やればやるだけ経済的に損をすると。だからもうどうしようもないんです。電力会社だってやりたくないに決まっているわけですけれども、でももうしょうがない。プルトニウムが貯まっちゃっているから、やるしかないということになっているわけですね。
だから、小泉さんや細川さんが即刻原発をやめるというのであれば、じゃあそのプルトニウムはどうするのかということについても、ものを言わなければいけないですね。
私はもちろん、原発を即刻やめろと言っていますし、プルトニウムを米国なんかに引き渡すことには私は反対ですし、日本の手でプルトニウムを兵器に転用できない形にして、捨てることは、地面に埋めることはできないけれども、私たちの目の届くところで、保管を続けるというぐらいがせめてできることかなと思います」
岩上「これ以上、増やさないようにすると」
小出「もちろんです」
岩上「厳重に保管し、核兵器の原料として利用されないように、国際的にも国内的にも責任をもって管理し続ける。ものすごく長いスパンで、それが必要だと。
となると、使用済み核燃料の最終処分場とか以前に、兵器級のプルトニウムをどうするのかということを論じ合わなくちゃいけませんね」
小出「もちろんです」
岩上「それはまったく議論されてないですよね」
小出「日本の人たちは、国際社会という言葉が大好きで、日本が国際社会から信頼されていると思っているようなのですけれども、なんとも私から見るとおめでたい人たちだと思えるし、いわゆる世界の各国は、日本が平和国家だなんて思っているはずがないのであって、その国が長崎原爆4000発分もの材料を持っていることは、到底許せないわけですね。
だから、日本になんとかしろと言って、日本としては使用目的のないプルトニウムは持たないという国際公約までさせられているわけです。ですから、大変重要な問題であって、それをどうするのか。もし原子力をやめるというなら、じゃあプルトニウムをどうするのか、ということも含めて考えなければいけない」
岩上「民主党の野田政権のときにも、『原発ゼロ』を掲げて、アメリカから、何を無責任なこと言っているんだと言われたら、すぐ引っ込めた。それから以後も散発的に『脱原発』の話が上がっても本格化しないというのは、根底のところで、この議論を避けているからということになりますね」
小出「戦略がないんですよね。その原子力全体に関する戦略がない。だから、言ってみてもまたダメになったりして右往左往してしまうわけですね。私は原子力に関する戦略というなら、即刻ゼロというのが私の戦略です」
岩上「それは原発ゼロだけではなくて、核兵器保有の潜在可能性をゼロにするということですか」
小出「もちろんです。ですから、エネルギー源としての原発をゼロ。核兵器を保有するということに関しても、許さない。核燃料サイクルなんてものも許さない。全体的な戦略というのをやはり作らなきゃいけないと思います。
まあ、小泉さんや細川さんがどう思っているのか知りませんが、そういう議論はやはりやらなければいけないと思います」
「あいまい戦略」の帰趨
岩上「簡単に言えば、核兵器を保有するんだというグループと、それから核兵器の保有も、核兵器を将来保有できる可能性も含めて、その技術も燃料もすべて、そしてもちろん原発なんて元々そのためにあるわけだから、そういう無駄なことも全部やめて、日本は平和国家というデザインをするか。この両極があって、今日、そのまんなかにいわゆる『あいまい戦略』とかいうものがあった。その三つですよね。多くの日本人は自覚的か無自覚的か分からないんですけど、この『あいまい戦略』のなかに含まれている方が多いだろうと思います。
今、対中国関係がたいへん緊張してきている。これは、自然現象ではなくて、あえて緊張をさせた部分もあると思うんです。石原さんがヘリテージ財団でああいう発言をし、安倍さんも挑発をやめず、こうしたことが続いていけば、それは緊張が高まるでしょう。
もちろん、そう言うと、反発する人もいると思うんですね。中国側だってあんなに軍拡しているじゃないか。中国側だって尖閣を狙っているじゃないかとか言う人もいる。お互い様だと思うんですね。中国だって、みんなお行儀のいい人たちじゃありませんから、どんどんお互いにエスカレートしている状況。
そして、ダボス会議で、安倍さんはとうとう、日中関係は? と海外のプレスに聞かれて、まあ、第一次世界大戦前の英独関係と同じだというくらいのことを言ってしまっているわけですね。
安倍さん個人のさっき言った病的キャラクターの問題は置いといて、この日本全体のなかに、原発は反対だけれども、いざとなったら核兵器は持ってもいいと思っている人間もいるので、そういう人たちの数が集まって押しやられていけば、指導者の首が変わっても、そちらに流れていく可能性はゼロとはいえないのではないか。
ただ、この『あいまいさ』というのが許されなくなっていくかもしれない。この『あいまい戦略』というのは今後も続けられるんでしょうか? さきほど、自民党のなかに、安倍さんにかわるもっと幅のある人が出てくれば、いいのになとおっしゃったのは、この『あいまい戦略』を続けられるのにな、という意味にも聞こえるんですけど」
小出「いま、岩上さんが『あいまい戦略』があって、こっちに核武装でもなんでもするという極端な動きがあって、こっちには原発も核兵器も全部なくすという極端があるとおっしゃった。
安倍さんはまあ、限りなくこっちに近くて、その先に田母神さんや石原さんがいるわけですね。私はこっちはあまりにも馬鹿げていると思うし、ほとんどたぶん日本の政治家、自民党をこれまで動かしてきた人たち、そして経済界を動かしてきた人たちも、この曖昧のなかで、自分たちの立場というか、やりたいことを出来るような形でやってきたんだと思うんですね。
ですから、これからもたぶんそういう勢力が一番私は日本のなかでは強いだろうと思うし、安倍さんがほんとに向こうに行こうとするならば、安倍さんの首の挿げ替えを行われるということに、たぶん私はなると思います。
ただし、私がこの曖昧さというものを認めてるかといえば、そうではないのです。要するに、日本は平和国家で核武装なんかしませんと嘘をついて、本当は核武装の道をずっとやってきたという、そういうことなわけですから、私自身はそれを認めたいとは思わないです。
でも、米国もやはりこれを許してきたわけで、こちらは許さないでしょうし、日本という国はこれまで何十年か、米国の属国でいながら、なにがしかの恩恵を受けてきたと、経済界の人はたぶんそう思ってるわけだし、そう思うのであれば、たぶんここがまた残るというか、私がそれを願うわけではないけれども」
岩上「客観的にみれば、そういうふうに見れるということですよね。
でも、返還要求があったということ。これは、じゃあアメリカは安倍さんのような人たちの動きにストップをかければ、今まで通りでいいよというふうになると思いますか? 米中関係が、これだけ固く結びついていって、日本の扱いがどんどん低下していくなかで、今までは日本を重要な同盟国として引きつけておきたいと思っていたアメリカも、その必要性がだんだん薄れていくんじゃないでしょうか?」
小出「当然そうでしょうね。それは米国としては、日本よりはるかに中国のほうが大切なわけですから、ある時点で日本が切り捨てられるということはあるだろうと思います。
じゃあそのときに、日本はどう生き延びるかということですけれども、私はもう、徹底的に平和主義に徹するしか、日本は生き延びられないと思います。私はこっちの極端だと言いましたけれども、軍備も何もしないと。私は日本国憲法を守るべきだと思っていますし、もちろん陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない、というのが正しいと思いますので、そちらの方向に、この日本という国を持っていく。米国の属国でもない」
岩上「独立しているけど、平和国家の姿で、ということですか」
小出「はい」
岩上「絶対的平和主義、平和国家であり続ける、ということに不安を感じている人も多い。平和は皆好きなんですよ。平和の理念にも賛成してるんですけれども、平和主義をそのままストレートに実現しようとすると、不安だという人は多いと思います」
小出「そうですよね。大変難しいことなわけですよね」
岩上「どうやったら可能だと思いますか? 今日ではちょっとした武力紛争もエスカレーションしていけば、最終的には、答えは核の有無ということになるわけですよね」
小出「そうです。そういうような方向で世界を作ってはいけないということが、先の戦争の結論というか、日本国憲法ができた根底的な理由だと思うのですよね。
ですから、軍事で国を守るのではなくて、諸国民の公正と信義に信頼して、我が国の安全を守ろうと決意したと憲法にあるわけで、これから軍備で守ろうという考えはやはり捨てなければいけない。
諸国民の公正と信義に信頼しなければいけないのであって、米国だけを信頼して、中国は敵であるとか、そういうような考えかたではできないのです。
そんな甘っちょろい事を言うなと言われるかもしれませんけれども、でもそれこそ厳しいことなんです、これは。そういう立場を本当にきっちりと守っていくことで、日本という国の安全を守る。あるいは、諸国の安全を守るという方向で、むしろ日本が積極的にリーダーシップを取れるようにならなければいけないんだと私は思います」
岩上「米国には、一方で日本に集団的自衛権行使容認を求め、米国の軍隊の下請けみたいに自衛隊を使おうという動きがありますね。実際に、そういう要求をしてきてます。
ところが、アメリカは同時に矛盾したメッセージも送ってきて、日本が中国と敵対する、あるいはアジアのなかで緊張を呼ぶような振る舞いに関しては、もういちいち釘を差して来るわけですね」
小出「そうですね」
岩上「靖国参拝なんかも厳しく批判していますし、あの参拝前に、何度となく参拝しないでくれと要請していたことも明らかになってきています。
そして、安倍総理の参拝に対して、失望したと表明した。日本では、これは軽くスルーしようとなっていますけど、それでは終わらない空気が生まれています。今回のプルトニウム返還もそのメッセージだろうというふうに思われます。
こういう、矛盾した二つのメッセージ。つまり、アメリカは中国と日本は仲良くしろよというふうにも言ってきているんですね。他方で、しかし集団的自衛権行使容認という、日本の防衛と何の関係もないことをやろうとしている。日本の防衛なら個別自衛権でできるわけです。ところが、日本の防衛とは関係ないことをやらせようとしている。地球の裏側で、米軍に従って武力行使につき進むということを言ってきている。この矛盾したメッセージに、みんな当惑していると思うんですけれども、小出さんはどういうふうに解釈してますか?」
米国の「メッセージ」をどう読むか
小出「米国から見れば、世界の覇権をずっと握り続けたいわけですよね。さりとて、中国と全面的な戦争をするということはもちろん米国も望んでいないはずであって、当面は、中東もそうですけれども、そういう紛争地で、とにかく自分の権益を守ろうとするでしょうし、そのためには自分だけ軍隊を派遣するのは損だから、日本もやっぱり引き入れてしまおうと考えていると思います。
ただし、日本と中国が戦争をするようになってしまったら、自分も黙っていることができなくなるということぐらいは承知しているでしょうから、それはやりたくないと。
まあ、米国という国の利害得失というんでしょうか。自分がどうしたいかということで、彼らなりの戦略を立てて、日本にも求めてきているということだと思います。日本は日本なりの戦略を立てなければいけないのですけれども、相変わらず、まだ米国の属国のまま、自民党政権があるわけですから。これからは、世界情勢が変わるに従って難しくなるでしょうね」
岩上「複雑ですね」
小出「はい」
岩上「でも、このことと原発の問題はやっぱりリンクして考えないといけないですよね」
小出「もちろんです」
岩上「都知事選の行われている只中で、国会が開かれていますけど、二つの焦点があります。一つは集団的自衛権行使容認。これをあろうことか、憲法を解釈改憲で乗り切ってしまえと、磯崎首相補佐官が言っていたりするわけです。補佐官の身でこんなこと言うわけですよ。あり得ない話ですよ。
そしてもう一つ。アメリカの経済的な要求を受け入れるかたちで、TPPがうまくいかないのなら、TPPを事実上内国化してしまえと。それで、国家戦略特区というものを日本にやらせる。
安倍さんは、岩盤のような規制を、マイドリルで穴を開けると。俺のドリルで傷付けられない岩盤規制はないなどと言っているんですね。こんなことをダボス会議で言っている。しかし、世の中は『脱原発』シングルイシューで、他のことと関連してこれを考えていません。
これは、僕は結びついているだろうと思います。アメリカの期待にひたすら沿うことで、核技術抑止戦略を保有しておきたいという思惑はあると思うんです。
アメリカに軍事的に追随する。そしてアメリカの資本の要請にできるだけ従って、日本を経済的に差し出していく。そうすることで、守ってもらう。もしくは、日本の今まで保有してきた潜在的な核抑止力。核技術抑止、これを維持させてくれという願いが結びついているのではないかと思ったりするんですけど、この点は、いかがでしょうか」
日本のNPT脱退は米国が許さない
小出「もちろんそうじゃないですか。これまでだって、日米原子力協定、日米
安全保障条約という枠組みのなかで、日本は原子力を許されてきたわけだし、さきほど聞いていただいたように、ウラン濃縮、原子炉、再処理、その三つの技術を日本だけは許してもらってきたわけであって、それを日本という国家、政府の人たちも失いたくないでしょうし、原子力を進めてきた人たちも失いたくないでしょうから、なんとか米国の機嫌を損なわないように、これからもやるんだろうと思います」
岩上「NPT、核拡散防止条約を脱退する。IAEAの査察もかわしながら核を保有していく。こういう戦略は可能なんでしょうか? インド、パキスタンのように」
小出「NPTを破棄するなんてことは、日本は到底許されない」
岩上「許されない?」
小出「はい。米国が許さない」
岩上「なぜ、インド、パキスタンは戦勝国ではないのに核兵器を保有できるのでしょう。さっき言った5カ国は第二次大戦の戦勝国ということで、特権的な地位を持ってしまっている。これが現在の世界秩序であることは、まあ今のところ変えようがないとは思います。けれどもそうすると、インド、パキスタン、イスラエルは持ちうるのに、なぜ日本は持てないんだというふうに言う人はいると思います」
小出「そうですね」
岩上「それがいいか悪いかは別として、答えていただくと、NPTを破ったり、誤魔化したり、IAEAの査察を誤魔化しながら、日本が核保有するってことは許されないとお考えなんでしょうか? なんか許してもらったりして、こっそり持つという手はないんでしょうか?」
小出「こっそり持つ手ですか?」
岩上「ええ」
小出「ありますよ。いっぱい」
岩上「ありますか?」
小出「もちろん、ありますよ。ですから、日本は再処理工場を持っています。今、六ケ所村に作ろうとしている巨大な再処理工場がありますし、それより前には、東海村に再処理工場というのを作ったわけですね。
それ、1977年から動き始めていますけれども、当時はカーターが大統領で、カーター自身は、商業用の再処理なんてやったら、核兵器の拡散が、歯止めが効かなくなるので、自国でも、米国のなかでも、もう商業用の再処理はいっさいしないと言って、そこまで踏み込んだわけですよね。
でも、日本は、どうしても再処理やりたい。核兵器を作るためにやりたいということで、フランスに作ってもらって、最後は米国を説得して、日本は許してくれということで、まあ、交渉を続けて、包括協定で許してもらったわけですよね。
それで、すでに再処理工場は動いているわけですけれども、東海の再処理工場のなかで、行方不明になっているプルトニウムというのがある。工場ですから、巨大な工場で、ずっと流れていくわけで、あっちの端にくついたり、こっちの壁にへばりついたりって、もちろんそういうのはあるわけですけれども、元々あったはずのものと、再処理して取り出したプルトニウムのあいだには、何十キロもの差があります」
岩上「何十キロというと、またこれは大変な数の核弾頭を作りうる・・・」
小出「原爆を作れる。まあ、昔の技術でも8キロのプルトニウムがあれば、原爆ができると言われていましたし、まあ、たぶん原爆何発分かは、行方不明」
岩上「いま現在?」
小出「はい。ですから、それを本当は行方不明じゃなくて、ちゃんとちょろまかして、どこかで」
岩上「へそくりのように、貯めている可能性がある?」
小出「はい。私はその証拠を持っているわけではないけれども、ちょろまかすということは、たぶんできると思いますし、場合によってはもうすでにやってるいかもしれないと思います」
岩上「なるほど。奥の手ですね。でもこれは今のところ、アメリカから注意を受けているぐらいで止まっているわけですか?」
小出「IAEAというのは、米国の手先なわけじゃないですか。そのIAEAがこれまで、どの国を中心に査察をしてきたかといえば、日本なんです」
岩上「一番注文を払ってきたのは、日本だった!?」
小出「そうです。IAEAの国際的な査察にかかっているお金の半分以上は日本にかけていたというぐらいに、長い間日本を注目して、IAEAは査察してきた。だから東海村の再処理工場だって、ずーっと査察を続けてきたわけですよね。
でも、そのIAEAが査察をしてきても、何十キロかは、行方不明になっちゃったままで分からないと言っているわけですよ。でも、米国から見ると、日本はいま属国だから、まあいいだろうということで、見逃してきてくれた。
でもそれが、これからどうなるか分かりません。例えば、韓国というのでは、米韓原子力協定というのがありますけれども、韓国には再処理を認めないとして、米国の態度は一貫しているのですよね。
今年、米韓原子力協定は切れるんですけれども、韓国としてはなんとしても再処理をやりたいと思っているわけで、原子力協定の切れるのをとにかく2年間延長して、その間に韓国はなんとかして米国から再処理の許可を取ろうとしているんだと思いますけれども、たぶん米国は与えない」
岩上「与えない?」
小出「はい」
岩上「韓国では、原発が稼働していますけれども、だからといって、日本のように、即時に核兵器を保有するだけの技術的ポテンシャルを持っているとは言えないわけですね?」
小出「ないのです。それは、米国が許さないから」
岩上「この日韓の差はなんですか?」
小出「たぶん、日本のほうが制御しやすいと、米国が見たんでしょうね」
岩上「制御しやすい?」
小出「はい。要するに、属国として、抱え込んでおきやすいと。まあ、韓国という国の地理的な条件というか、要するに朝鮮民主主義人民共和国と接している」
岩上「そうですよね」
小出「もう、戦争状態に今でもあるわけですから、そこはやはりあまりにも危険すぎるという判断ではないでしょうかね」
岩上「なるほど。朝鮮戦争は勝ったり負けたりの戦争で、前線が上がったり下がったりして、アコーディオン戦争とまで言われました。もう一度やった時に、今度、北が圧勝して南が包摂されることがあったりしたら、その原子力技術を持っていかれることも含めて、リスクっていうふうに見てるってことですか?」
小出「いや、技術を持っていかれることを心配していることはないと思いますけれども、例えば韓国に再処理を認めてしまうと、すでに先程から聞いて頂いてるように、再処理というのは原爆製造の中心技術なのであって、それをもし、韓国に米国が許すということになれば、朝鮮民主主義人民共和国のほうからの猛烈な反発があるだろうし、俺たちがなんで原子炉をもっていけないんだ。俺たちだって再処理もっていいだろうって、そういうことになってしまう。
米国としては、今6カ国協議をやっているわけですね。なんか6カ国協議の目的というのは、日本の人たちから見ると、朝鮮民主主義人民共和国に核を放棄させると、そういうことになっている。マスコミもなんだかんだそんなことを言っているわけですけど」
岩上「そうですね。北朝鮮だけが問題があって、それを周りの国があの不良を何とかしようみたいな」
小出「でしょ?」
岩上「そういう話になっていますけど」
小出「日本のマスコミが言っているわけですけれども、6カ国協議の目的というのは朝鮮半島の非核化なんですよね」
岩上「南北の非核化」
小出「南北とも非核化なわけですから」
岩上「だから、韓国が持ってしまったら、話にならないと」
小出「そうです」
岩上「なるほど」
東アジアの非核化に向けて、「攻める平和主義」を
小出「ですから、米国としては、まあ日本と韓国はやはりちょっと違うというふうに思っている。まあ自分が支配をするためにやりやすいやり方として、いま韓国は許さないけれども、日本は許しておくということだと思います。
でも、安倍さんのような政治家が出てくると、米国としてもこのままでは済ませられなくなるかもしれません」
岩上「この南北朝鮮半島の非核化と、日本の非核化はつながっていますね。実際そうなるかどうかは別として、小出さんは、自分が正しいと思うあるべき姿というのは、憲法のもとの絶対平和主義を、核技術を含めて実現することだとおっしゃっている。
でもこれは、日本一国平和主義というよりは、隣接する南北朝鮮両方を非核化するということと連動しているんじゃないですか?」
小出「そうです」
岩上「それが実現しないと、日本もしづらい。日本と、この両国とがともに非核化する。東アジアの非核化ということで進んでいくなら可能性があるかもしれませんけれども、そのどこか一箇所でもほころびが出ると、逆に核武装の誘惑が高まると」
小出「そうですね。ですから、日本国憲法のことを、ある人達は、一国平和主義でけしからんというようなことを言うわけですけれども、そうじゃないんですよね。
一国だけ平和国家が成り立つわけがないのであって、要するに全世界を平和的に解決できるようにしなければいけないと。そのために、日本は軍隊を放棄して、諸国民の公正と信義に信頼して守るという国にするんだと宣言してるわけですから、それをどんどんどんどん、地理的にも、東南アジアの非核化を含めて、広げていくという方向でやらなければ、もちろん日本一国だけで国は守れない」
岩上「じゃあ、攻める平和主義ってことですね? 安倍さんが言ってる積極的平和主義と全く意味が違いますけれども」
小出「はい。そうです。ですから、平和というのは別に簡単に作れるわけではないわけですから、どんどん世界にそういう考え方、あるいは体制を積極的に広めていくという、その努力がなければ、もちろんできない」
「宇都宮さんに都知事になってほしい」
岩上「都知事選の候補について、どんなふうに思いますか? 今、選挙のさなかで言いづらいとは思いますけれども」
小出「はい。まあ私は、政治は嫌いだし、政治に関わらないとずっと言ってきた人間ですけれども、みなさんが私に物を言えと、さんざんせっつくので、まあ仕方なくて意見表明をしたわけです」
岩上「この前、出されたメッセージとして」
小出「そのなかで私ははっきりと書いたつもりですけれども、宇都宮さんに賛同すると書きました。彼に都知事になってほしいということも書きました。
ただし、選挙というのは勝つか負けるかということが決定的に重要なことなわけですし、私は舛添さんだけには勝たせたくないと思っていますので」
岩上「田母神さんでもいいわけじゃないんでしょ?」
小出「あ、もちろん、田母神なんて論外ですけども(笑)。まあ、舛添さんだって、あんな人になってほしいとは思わないので、とても難しい選択だと思います。
ですから、私は、まあ原子力に反対してきて、私の仲間、たくさんいますけれども、今は宇都宮さんのほうに行った人もいる。細川さんのほうに行った人もいる。
お互いにお互いを非難すると言うような関係になってしまっていて、私は大変残念ですし、できれば、本当だったら一本化してほしかったのですが、もうここまでくれば、できないだろうと私は思いますので、もうこうなれば、自分の信ずる道で戦うしかないと思いますので、宇都宮さんにもきっちりと戦って欲しいし、細川さんもきっちりと戦ってほしいと思います。
でも、先程から岩上さんが聞いてくださっているように、原子力の問題って、原子力だけの問題ではないので、全体をやはり議論できるような形のやり方が正しいし、全体という意味で言えば、私は宇都宮さんが正しいと思います。
ただし、選挙に負けられないので、細川さんを支持するという人たちがいることも私には分かります。ですから、あとはもうみなさん一人ひとりがどうするかということを考えていただくしかないと」
岩上「そうですね。つまりは運動のようなことを皆さんしているけれども、選挙というのは一人ひとりの自分の判断で一票を投じるわけですから、最後は自分はどの陣営にいるんだとかじゃなくて、自分で考えて判断を下すということだろうと思うんです。
自分の票を死に票にしたくないって考える人もいるだろうし、自分がこの候補が正しいんだから、勝てないかもしれないけど、一票投じたいと、いろいろ思うんだろうと思うんです。
ただしその前に、情報をできるだけ有権者に開示してほしいですね。つまり、判断するための情報。そのためには、議論において初めから、脱原発以外には、もう何も語らないというのは、ちょっとあまりに幅が狭い。
やはり今言った安全保障の問題も語ってもらいたい。調べましたら、細川さんは、池上彰さんのインタビューに答えていた。緊急出版された池上さんの本の中に、この核兵器の保有について語られている箇所がある。それを見つけたので、ツイッター等でも出しました。
多くの人がこれは知らないだろうと思って、ご判断の材料にと思って出したんですけれども、『私はその核兵器の保有ということを考えている人がいるって言われるけれども、これは非常に時代遅れな考えで、私はそんな考えはない』と、細川さんはここで割とはっきりとおっしゃっているんですね」
小出「そうですか。はい」
岩上「こういうことをきちんと言ってもらいたい。じゃあ安全保障をどうするの? 日米原子力協定はどうするの? ということとあわせて、包括的に語ってもらいたい。さらにこれを田母神さんや舛添さんと一緒にあなた達のその考え方でいいんですか?という論戦とか、討論会をやってもらいたいんですよね」
小出「やってほしいです。はい」
岩上「こういうのが行われない。討論会が15回も流れたんですよ。この前はじめて実現したんですけど、これは、どう思いますか? 僕、叱ってやってほしいんですけど」
小出「おっしゃったとおりです。議論はやっぱりちゃんとしなければいけないし、たった一回で終わらせるんではなくて、まだまだ一週間あるわけですし、やまほど議論をして、やはり一人ひとり投票する人がきちっと判断できるようにするべきだし、もちろん一番大切なのは、一人ひとりがどう考えて、誰に一票入れるかということなわけで、様々なことがもちろん判断の基準に入ってくるでしょうから、最後は一人ひとりだと思います。
ただ、私としては原子力にこれまでずっと反対してきたわけですし、舛添さんのような人だけには入れて欲しくないし、この選挙戦を通じて、原子力に反対してきた人たちのあいだに亀裂が入ったりすることは避けてほしいと思っています」
岩上「また、田母神さんのことを忘れてましたね」
小出「まあ、田母神さんが入るなんて可能性はないですよ」
岩上「でも、田母神さんは街頭演説では意外な人気で、自民党の支持者のなかでは、舛添さんを担ぐぐらいだったら、なんで田母神のほうにいかないんだと」
小出「まあそうでしょう。だって、舛添さんなんて自民党を除名されたわけで、自民党が舛添さん担ぐなんて、そんなありえない話を今」
岩上「そうですよね。筋違いもいいとこですよね」
小出「そうです」
岩上「そういう意味ではここ(自民党)も非常にねじれた変な状態にあるわけですけどね。だからこそ、きちんと話し合わなくちゃいけない。国家としての運命の分かれ道みたいなところですから、重要な問題として話し合うべきですよね」
小出「はい。そう思います」
今回の選挙が「最後のチャンス」ではない
岩上「最後にまとめたいんですが、それでも今の細川さん、小泉さんの動きはやっぱりとてもエポックメイキングな、人の関心を呼ぶ動きではあることは事実ですね。
元首相がリタイヤしていたのに再びカムバックしてくるってことも一つのドラマです。小泉さんと細川さん、実は行政改革研究会を一緒にやっていて、規制緩和にすごく熱心な人達で、かたや日本新党、かたや自民党で、違う立場に立つ人にも見えていた。
そこにさらに、表にはあまり出ませんけど、小沢一郎さんがくっついていて、生活の党が支援してるわけですよ。これもまた、小沢一郎、小泉純一郎といえば、ぶつかり合ってたんじゃないのと思う。
不思議な関係だなあというふうに思ってる方も多いと思うんです。これを『不思議だ、あるいは疑わしい』と思うのと『不思議だ、だからこそ期待できる』と『こんな組み合わせはない、奇跡だ』というふうに思う人と、それはいろいろなんですけれども、小出さんは、小沢一郎さんとはお会いしてるじゃないですか。
小沢一郎さんが原発をもうやめようと表明された。私のインタビューでも『核兵器の保有なんて、俺は絶対考えない』ということを言いきっています。本当かどうかっていうのは、それぞれご判断があるかもしれません。ですが、この細川・小泉連合に合流したというのは、それなりに真剣な選択だったのかもしれません。左を切って、中道のところに戻ったというのか。
ここ、小泉さん、細川さん、小沢さんをどういうふうに評価してますか?どういうふうにみなしてますか?」
小出「(笑)」
岩上「どんなふうにご覧になってますか?」
小出「岩上さんって、私がしゃべりたくないことばっかり」
岩上「いやあ、この議論はやっぱりいま日本中がみんな考えたいと思っていることなんですよ」
小出「小沢さんはここまで来てくださって、私の話も聞いてくださって、その私との対談が終わったあとに、随行記者団がいたわけですけれども、その記者団を前に、私は原子力反対だと明言してくださったわけで、私はありがたいと思います。私の言うことを聞いてくださったうえで原発反対と表明してくださった。小沢さんどうもありがとうと思いました。
小泉さんにしても、私は小泉さん嫌いだとずっと発言をしてきています。小泉構造改革ということをやって社会的弱者をどんどん切り捨てるということをやった張本人なわけで、私は小泉さん嫌いです。
ただし、小泉さんがオンカロまで見に行って、これはダメだということを理解して、原発に自分は反対すると言った。そのことは正しいことだと私は思っていますし、細川さん自身がどうなのかは、よく分かりません。
彼はたぶん、このような日本のエネルギー政策全体に異議を言いたいんだろうなと思いますけれども、まあでも、細川さんも原発反対と言ってるわけで、細川・小泉連合は、原発反対のシングルイシューでいくと言ってるわけですよね。それに小沢さんが今乗ってきてるわけで、原発反対ということ一点でその三者が連合を組んでるわけですね。
ですから私は『わたし原発反対』と言ってきたわけだし、そのシングルイシューでいえば、彼らの言っていることは正しいと思います」
岩上「彼らの言ってることは正しいんですけれども、彼らの言っていないことがどうなのかですよね」
小出「そうです。ですから、本当ならば、その裏にたくさんのことがあるわけであって、本当なら議論をしなければいけないのです。本当の議論をするならば。
議論もしてない時に私が言うべきではないけれども、私は宇都宮さんに賛同すると、はじめから明言しているわけですが、でも選挙はたんにそれだけでは決められない要因があるので、だから私の友人たちも、引き裂かれてしまっているわけですね。
だから、とっても難しいことだと私は思います。歴史は流れているわけですし、選挙が終わったら世界がなくなってしまうわけでもないし、やはり原子力に抵抗するということは続けなければいけないと私は思いますので、こんなことで、仲間割れをしたり、お互いに傷つけ合うようなことだけは、しないでくださいと頼んでいます」
岩上「なるほど。最後のところが非常に重要だと思うんですけど、『最後のチャンス』論というのがすごく唱えられたんですね。これが最後で、もう二度とチャンスは来ないから、この一点で、他のこと一切目をつむって今回だけはと。僕はそれはすごく強い抵抗を感じました。
最後のチャンスなんてことはありえない」
小出「そんなことない」
岩上「先生はどういうふうに?」
小出「もちろん、そんな『最後のチャンス』なんてことはありません。歴史はずーっと流れているので、戦いは今も戦いだし、昨日だって戦い、明日だって戦いで、それはずっと続くわけですから、もちろん戦いには負けたくない。わたしはもう原子力をやってる連中には負けたくないので、どうすれば勝てるかということは、やはり長いスパンで考えなければいけないと思います。
ただ今回の都知事選で、舛添さんが勝つのか、あるいは彼を負けさせることができるかということは、運動にとってかなり重要だと思います。もちろん最後ではないですよ。でもかなり重要だと思うので、一人ひとりやはり考えていただくしかないと思います」
岩上「そうですね。一本化というのは、やっぱり当事者があっての話で、当事者に意志がないときに、ないんですよ」
小出「一本化なんてないです」
岩上「ないですね。だから、有権者が結局、こっちとこっち、良いこと言ってるな。どっちを選ぶかということに、やっぱりかかってるってことですね」
負け続けても戦いは続く
小出「そうです。ですから、それは全体の流れを見て、舛添さんに勝たせるのか、それとも阻止したいのかとか、原子力を含めた全体の問題をやはりちゃんと見たいのかと。それぞれの人の判断によると思いますけれども」
岩上「今回、『最後のチャンス論』ともう一つ同時に言われたのは、負けたら一切無意味、無駄っていう言い方もずいぶんされました。勝たなきゃダメだというのは正論なんですけれども、負けたら全部が無意味で無駄だという論が出ている時に、小出さんが発表された文章のなかに、私はずっと敗北し続けたって書かれてあったんですね。
これは僕にとって、非常に心を動かされた一節でした。どういう意味で、私は負け続けてきたとおっしゃったか。勝てない戦いをやってきたが、そのことは無意味でも無駄でもないという意味の文章をお書きになられたんでしょうか?」
小出「私は、1970年に原子力をやめさせたいと思いました。そのときには、日本国内には、三つの原子力発電所しか動いてなかった。東海原発、敦賀、美浜という。それ以降、一つも作らせたくないと私は思ったわけですけれども、何をやっても勝てない。
向こうは、国家権力があって、巨大な産業がみんなそれに乗ってるわけですし、マスコミもみんなそれにグルになってるわけだし、学者なんていうのは、もうどうしようもない連中ばっかりなわけですから、それもグルになってやるということで、私の力など、ほとんど何の意味もないような形で、負け続けてきたんですね。
それでも、負けても負けてもやっぱり戦わなければいけないということはある、と私は思ってきましたし、負け続けながらも自分のできることをやろうと思って今日まできたんです。
選挙だって、私が選挙、政治嫌いだったので、あまり投票ということにも積極的には行きませんでした。でも、私が投票した時には、必ず、私の投票した人は負けるのです。でもまあ、それでも仕方がないと思うときには、それもやりましたし」
岩上「死に票だと思っても投じると」
小出「はい。そういうこともありました。だからまあ、それは何度も言いますけど、歴史は流れているわけですから、負けることはもちろんあるし、負けたからといって、終わりでもないし。そうですね。力は。
大阪で昨日集会をやっていたんですけど、その集会の主催者が最後に挨拶して『自分たちは微力だけれども、無力ではない』と言って締めくくられたけれども、確かに私の力なんて、本当に微々たるものだけれども、でも無力ではないはずだし、それは昨日も今日も、また明日も無力ではないはずなので、できることを担おうと思います」
岩上「人間というのは一人ひとりの人生に限りがあって、有限なわけですね。力も限界がありますが、それだけではなく、時間の限界もある。
人間みんな自分の晩年が近づいてくれば、自分にとって最後のチャンスだと思うのは、これは当然の思いだと思うし、必死、切実になるんだろうと思うんですけど、大事なことは自分の代で終わりではなくて、次の世界、次の代というのがあるはずだっていうことではないかなと。
沖縄で、名護市長選がありました。それの取材をずっとやっていました。名護では、奇跡的な勝ち方をしてるわけですね。あんな絶望的なところまで、崖っぷちまで追い込まれながら、だけどだれも最後のチャンスだとか、だれもこれでおしまいだとか言わないんですよ。
おじいおばあがみんな、次の代に引き継がれていくのが当たり前のように思ってる。これは、僕はすごく胸を打たれたといいますか、心動かされたんですけど、この次の代に引き継いでいくということの重要性について、どのようにお考えでしょう」
小出「まあいま、岩上さんがおっしゃった沖縄の名護の選挙のことに関していえば、沖縄の人たちずっとこれまで戦ってきたし、1回選挙に負けたからといって、戦いをやめるわけじゃないんですよね。彼ら。
絶対自分たちでもやると思ってるわけですから、最後の戦いなんて言葉はきっと彼らからは出てこないと思います。で、いま岩上さんがさらに、1人の人間が終わったとしても、そうではないはずだと。もちろん、そうですよ。
だから歴史は流れているわけだし、運動だって流れているわけだし、ここにあるのは田中正造さんの像ですけれども、正造さんはもう亡くなって100年経ってしまったけれども、でも、正造さんがいたという事実はあるわけだし、歴史のなかに正造さんの足跡が残ってるわけですから、ありがたいと思うし、1人の人間なんかどうでもいいことだと、私は思います。大切なのは、歴史ですね」
岩上「自分が去るけれども、世界は残る」
小出「はい」
岩上「世界は続く」
小出「はい」
岩上「歴史が続く。そこにどれだけ影響を残せるか。そのあと託すことができるかという考えをどこかに持ってないと」
小出「要するに、微力なんですよね。ですから、個人の力なんて本当に微力だと私は思いますけれども、でも、生きているわけだし、私という命はいまここに生きて、今ここですね。時間の流れの中の一点。そして世界の広がりのなかのここに生きている。
私以外だれでもない私なわけですから、それが微力だろうとなんだろうと、私らしく生きるのが一番いいのであって、そうしなければ、損だと思いますので、私の足跡がどれだけ残るかって、そんなことどうでもいい。私からみるとどうでもよくて、できることだけやりたいと」
岩上「それは、無意味ではないということですよね」
小出「無意味かもしれませんけれども、まあ、無意味ではないですよ。誰だってそうですよ。すべての人の命は無意味ではないです。でも、仮に無意味だとしたって、行きたいように生きればいい」
岩上「51%49%。もしこのわずかな差によって、勝者と敗者に分かれる。そして敗者のほうになったら一切無意味だと、こういう議論もあるんですね。だけれども、そうだろうかってやっぱり思う」
小出「もちろんそうではないんですけれども、ただ選挙ということに関する限りは、51と49の間に、猛烈な違いが生じてしまうという、そういう選択なんですよね。選挙というのは。
だから、私は選挙は嫌いなんですけれども。でも、仕方がないですよね。こういう間接民主主義なんていうものを選んでる国なわけですから、選挙をするしかないでしょうし、できることなら勝ちたいと、みなさん思うだろうし、私もそうしたいとは思うけれども、でも、これで終わりではないので、負けてもいいという選択はやはりあると思います」
岩上「もう今日は本当に論じ尽くして、言いたくないとおっしゃっていたことも全部お聞きして、お話いただいたかなと思います。どうもありがとうございました」
小出「こちらこそ」
岩上「最後に一つだけ。まあある意味余談なんですけどね。選挙つながりで、ここ大阪ですからね。都知事選のあと、ここ大阪市長選になるかもしれない。ちょっと原発の話からずれちゃいますけども、もう一回大阪市長選をやり直すということを、橋下市長、言ってるんですけど、どう思います?」
小出「愚かすぎるし、まあ、あの人らしいなと。常に注目をしてもらわないと困るわけじゃないですか。彼は。もうなんでもいい。とにかくマスコミが取り上げてくれればいいと、そんなような人ですから、まああまりにもばかげていると思うし、あんな人にはさっさと退場してほしいと私は思います。
ほんと大阪市民の不幸ですよね。あんな人がいるのは。でも、対抗馬もたぶん出ない」
岩上「そうですか」
小出「そうだろうと私は思います。どうなるんでしょうね。いやまあ、あんなもの無視するのが一番いいと思いますし、だって彼が別に返り咲いたって、市議会の勢力は全然変わらないわけですから、いったいやり直して何になるんだろうかと。実質的にはそうなんですよね。要するに、彼がまた自分に注目を惹きつけたいという、その舞台を作って欲しいと言ってるわけで、本当ならみんな知らん顔しちゃえばいいと思うんですけど」
岩上「なるほど。大阪市民のみなさんもぜひ、そのことをお考えいただきたいと思います。白紙委任するわけじゃないですからね。市長を選ぶってことは。勝手なこと言いすぎですよね」
小出「そうです。『私はもう市長になったんだから、何やってもいいんだ』ってなことを言うわけでしょ。本当になんか考え方を間違えた人だと私は思います」
岩上「ですね。あれだと、ナチスの全権委任法となんにも変わらないですからね」
小出「そうです」
岩上「だから、そういうことは絶対あっちゃいけないと。これだけは間違いないですね」
小出「そうですね」
岩上「ということで、東京都知事選も見据えながら、原発、脱原発ということは、実はここの核戦略ということと不可分なんだというお話、今日、本当に深く掘り下げたお話を聞かせていただきました。
多くの人が、原子力はイコール発電だと思っていますから、その根本から今日、お話いただいたんで、すっきりしました。
核燃サイクルって実は、プルトニウムを保持するためのいいわけなんだと。全く無駄なものなんだ、核兵器保有という目的以外は。無駄で、不効率で、非常にお金を乱費するようなものなんだということも、ご理解いただけたんじゃないかなと思います。死に物狂いの平和主義ができる覚悟があるか」
小出「そうです。そういうことです」
岩上「さもなくば、核兵器保有して、世界から孤立するか。そういう中庸がだんだんなくなってくる可能性が日本にはあるなという気がします。このあとの政治情勢次第では、この問題がどんどん大きくなる可能性があると思います。中庸がなくなったとき我々はどちらに行くかって問題、我々、日頃からずっと考える必要があると思います。またその節は、きっとおじゃまして、ご意見をうかがうことになると思いますけど、よろしくお願いします」
小出「はい。こちらこそ」
岩上「本日はどうもありがとうございました」
小出「ありがとうございました」
(了)
すばらしいインタビュー記事でした。原発問題を、軍事・安全保障の側面からも考えていかなければならないことに気づかされました。今後、このような複眼的な視点で問題提起を読者に投げかけていってほしいと願います。そして私たちはそれを読みっぱなしでなく、考え、議論していかなければなりませんね。