2013年6月10日(月)12時から、東京都内で「自民党の憲法改正草案についての鼎談 第11弾」が行われた。今回、最終回となった鼎談では「緊急事態宣言」について定めた条項が議題に上り、澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士が危機感を示した。
自民党改憲草案の第98条・第99条は、全文新設された条項で、「緊急事態宣言」について定めている。これは、戦争や大規模な自然災害などの影響によって社会的秩序が混乱した時に、内閣総理大臣が発することができるもの。この宣言が発せられると、政令の制定や財政の支出、地方自治体に対する指示などすべてが、内閣総理大臣の権限となり、国民は、国・その他公の機関の指示に従わなければならなくなる。
この条項について、澤藤弁護士は、大日本帝国憲法下で宣告された「戒厳」と同種のものだと指摘した。「戒厳」には、戒厳令という法令で規定されたものとは別に、天皇が直接命じる「緊急勅令」に基づいて宣告される「戒厳」がある。
その実例として、澤藤弁護士は「日比谷焼打事件(1905年)」「関東大震災(1923年)」「二・二六事件(1936年)」の3つの「戒厳」を挙げながら、「(自民党は)これを、もう一度やろうとしている。戦争や大災害への対応を、こんな形で決めたら、何をされるか分からない。民主主義と人権の停止を、憲法が容認することになる」と懸念を示した。
- 日時 2013年6月10日(月)12:00〜
- 場所 東京都内
本題に入る前に、岩上は「巷では、憲法改正ありきの議論が進み始めている。先日、大阪の橋下市長の定例記者会見への出席を申請すると、記者クラブ(幹事社は毎日新聞社)が質問の事前チェックを申し入れてきた。メディア同士で事前検閲をするような、橋下市長を守る空気が醸成されている。これは改憲ムードと無関係ではない」と語った。
梓澤弁護士は、メディア・リテラシー(新聞、テレビの読み方、視聴のコツ)について話し、澤藤弁護士も「弱肉強食の世の中になってはいけないから、法律がある。国民が、国家という権力を規制するために、憲法がある。一番弱い人が生きやすい世の中を作るためである。それを、マスコミ人にも忘れてほしくない」と語った。
続いて、岩上は「憲法改正に関する別の動きとしては、今まで改憲派だった学者や有識者たち、元自民党衆議院議員の古河誠氏、野中広務氏など、保守派の政治家たちが、自民党の改憲案に反対の声を上げている」と述べた。
澤藤弁護士は「GHQに押しつけられた憲法と言われるが、日本国憲法は幣原喜重郎氏がマッカーサーに提案している」と経緯を語り、保守政治家たちが改憲に反対する理由を語った。梓澤弁護士は「親や、自らの、個人的な戦争の悲劇を体験していない、また、聞いたことのない政治家たちが増えてしまったからだ」と分析した。「現在、自民党国防部会で防衛大綱の、敵基地の攻撃論を検討中だ。6月末に中間報告があるので、注意する必要がある」と、澤藤弁護士は指摘した。
前回の遂条の続きで、第8章、地方自治を述べた96条(現行憲法94条)からはじめた。この95、96条は、新自由主義を根底にした、道州制の導入への布石とも考えられる。97条に関しては、有効投票数の過半数により、特別法を制定できる、としているが、有効投票数に、白票・棄権票が含まれるのか、については議論の余地を残した。
続いて、第9章緊急事態の分析に進んだ。澤藤弁護士は「どの憲法も二元論をとり、平時はいいが有事は別、と言外に含めている。しかし日本国憲法には、それがない。たとえば、大日本帝国憲法下では、日比谷焼打事件(1905年)、関東大震災(1923年)、二・二六事件(1936年)の3つの「戒厳」が発令されたことがある。しかし、これらは戒厳令からではなくて、緊急勅令によって発せられた。新憲法では、これをもう一度やろうとしている。つまり、すでに戦争ありき。災害便乗型改憲とも言える」と分析した。
梓澤弁護士は「明治憲法下で発生しなかった唯一の災害が、原発災害だ」と語り、「この改憲草案が通った場合、今後、官邸前の抗議デモなどが一切できなくなる。以前、日弁連が、関東大震災の際、中国・朝鮮人の虐殺を調査し、2003年、国に報告書を提出して謝罪を求めた。実は、関東大震災では、市民だけではなく、軍が直接7~800名を虐殺したことが、記録から明らかになっている。本来なら軍法会議で裁判があるはずだが、一切、行われなかった。つまり今度、大震災など自然災害があった場合、国防軍が、反政府主義者を虐殺しても記録に残らないということだ」と指摘した。
澤藤弁護士が「99条3項に、公の機関の指示に従わなければならない、とあり、それには東電など電気会社も含まれる。つまり、国民は東電の指示に従わなければならないのだ」と述べて、「その文言のすぐあとに『基本的人権は、最大限に尊重されなければならない』とあるが、そういう(戒厳的な)ことをやるぞ、という大前提だから、書く必要があった」と指摘。この章は、公の秩序を乱す大規模デモなどを鎮圧するために、軍隊を派兵させる想定で、考え抜かれたものだと、読み解いた。
引き続き、岩上が「関東大震災の中国・朝鮮人の虐殺は、どのような目的で行なわれたのか。政治的な理由があったのか」と質問した。梓澤弁護士が「日本の統治下の朝鮮で、女子高生の抗議から始まった三・一運動(1919年)が、とても激しかった。ゆえに日本人には、朝鮮人に対する恐怖心があった。すぐに3000カ所の自警団検問所ができ、片っ端から人をチェックし、9000人ぐらいの人々が殺された」と答えた。さらに、梓澤弁護士は、学生時代に中国を訪問した際、周恩来主席に会ったときの経験を語り、「歴史認識の本来の意味とは、お互いの苦しみの壁を乗り越えて、初めて手を結びあうことだ」と持論を語った。岩上は「日韓併合の際、5回条約が結ばれたが、日本の天皇のサインと印はあるが、大韓帝国の皇帝印はなかった。日韓併合の効力はないという、無効論はよく聞く。そして、不当論が、村山談話。しかし、これは条約の不成立論だ」と述べた。また、三浦梧楼による閔妃暗殺事件など、中塚明氏、戸塚悦朗氏の説を披露した。
最後に、第10章改正の第100条、現行憲法96条を分析。澤藤弁護士は「公権力暴走停止システムと呼んでいるが、それを過半数の国会議員の賛成で変えられる、と言うことは、憲法は形骸化してしまう。なぜなら政権は、つねに過半数を得ることが条件だからだ。ダイヤモンドと憲法は、固い(硬い)ところに価値がある。改正するには、熟慮し熟議する時間が必要だ。また、第96条の2項に、『この憲法と一体を成す』と言う文言があるのは、改正には限界があることは当然として、改正をしても根本は変わらない、という意味だ。それが、新憲法にはない。つまり、『憲法の根本が変わってもかまわない』という意味になる」と話し、残りは次回に持ち越しとなった。