2023年8月23日、モスクワの北西部にあるトベリ州で、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏とワグネル幹部を乗せたビジネスジェット機が墜落し、乗員乗客10人全員の死亡が確認された。
・Prigozhin’s death confirmed by DNA tests ― Moscow(RT、2023年8月28日)
【URL】https://bit.ly/3R2jqW9
ジェット機墜落によるプリゴジン氏の死亡からちょうど2ヶ月前の2023年6月23日、プリゴジン氏が、ワグネルの部隊を率いて首都モスクワに向かって北上。その後、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介により、反乱が終結するという「プリゴジンの乱」が起きた。
事故直後から、西側メディアは、プリゴジン氏の死亡を、ロシアのプーチン大統領による「粛清」であるかのように報じている。しかし、ロシア大統領府は、こうした憶測を「まったくの嘘だ」と、完全に否定している。
岩上安身は、衝撃的な「プリゴジンの乱」の直後の6月28日に、元外務省国際情報局長・孫崎享氏にインタビューを行なった。
このインタビューは、プリゴジン氏が死亡し、米国を中心に、日本を含む西側諸国で、プーチン大統領が、極悪非道な粛清を行う冷酷な独裁者というイメージが、再び急速に作られ始めている今、あらためて読むべき価値のあるものとなった。
6月4日、ウクライナは西側からの武器支援を受け、期待を背負って「反転攻勢」を開始したが、このインタビューが行われた6月28日の時点で、西側の評価は「どの前線においても期待を下回っている」というものであった。
しかし、8月28日には『ロイター』が「ウクライナ軍は28日、戦略的に重要な南東部ザポロジエ州ロボティネを解放したと発表した」と報じた(※1)。
・ウクライナ、南東部ロボティネ奪還 反攻で南部戦線打開か(ロイター、2023年8月28日)
【URL】https://bit.ly/3srFeQI
また、8月29日付け『TBS NEWS DIG』は、ウクライナ軍がロボティネを奪還し、南東方面に向けて前進しているという、28日のウクライナ国防省の発表を報じた上で「今後、反転攻勢を進める上でより早い進軍が可能になる」というウクライナ軍指揮官のコメントを検証することなく、そのまま伝え、ウクライナ軍が大きな戦果をあげたかのような印象を与える報道をしている。
・ウクライナ軍 南部ザポリージャ州の集落を奪還(TBS NEWS DIG、2023年8月29日)
【URL】https://youtu.be/R3i6g96XR4c
一方、ロシア国防省は、29日の戦果を『テレグラム』で「航空隊と大砲の支援を受けたロシア軍部隊が、ザポリージャ地方のヴェルボベ(ロボティネの南東方向に位置する都市)付近で、第46AFU航空機動旅団による2回の攻撃を撃退した」と報告している。
ロシア国防省の報告からも、ウクライナ軍がおそらくロボティネに入り、ヴェルボベに攻撃を仕掛けていることがわかる。ただし、ロシア国防省は「撃退した」と述べている。
6月6日未明には、ロシアの支配地域のヘルソン州にあるカホフカ・ダムが爆破された。ロシアとウクライナは、犯行に及んだのは相手方だと主張している。
これに対して岩上安身は、「カホフカ・ダムは、(ロシア軍が支配している)クリミアに淡水を供給する重要な役割を担っている。また、ダム決壊による洪水の被害を受けたのはロシアの軍事拠点であり、ロシア系住民の多い地域であることから、(ロシア側は)爆破する理由がない。何も、ロシアにとってプラスじゃない」と指摘した。
孫崎氏も、クリミアへの水の供給は、ロシアにとって非常に重要だと指摘し、「自らそれを閉鎖するというような手段は、通常は考えられない」と述べた。
しかし日本の大手メディアでは、東大先端研の軍事評論家、小泉悠氏らを筆頭に、「プーチン=悪魔的独裁者・帝国主義的侵略者」「ロシア=非人道的侵略軍」というバイアスが強烈にかかった主張が、連日連夜、根拠なく繰り返されている。こんなバイアスがかかっていたら、冷静な戦争の展開、戦況の分析は、到底できない。