「脱炭素・ウクライナ紛争を利用して脱ロシアを進める欧州のゴールは、ロシアの資源を安く買い叩くこと」~岩上安身によるインタビュー第1106回 ゲスト JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)調査課長 原田大輔氏 第1回 2022.12.9

記事公開日:2022.12.17取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻 !!

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 12月9日、午後6時半すぎより、「米国主導の対露制裁がもたらした大矛盾! ロシアへの制裁に参加した国々がエネルギー資源高騰で苦しむ一方で逆に制裁不参加の国々が潤っている!?」と題して、岩上安身によるJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)調査課長 原田大輔氏インタビュー 第1回を生中継した。

 原田大輔氏は、1973年、第一次石油ショックの年に生まれ、東京外語大学に進み、在学中、インドのアラーハーバード大学(ウッタルプラデーシュ州)に、インドの石油資源問題など取り組むために留学、しかし「(インドは)まだ少し時期が早かったかな」と方向転換し、1997年に石油公団へ入団。その後はロシアを専門のフィールドにし、2006年からはモスクワに赴任した。2012年からは、グープキン記念ロシア国立石油ガス大学で修士課程を修了。

 原田氏によると、イワン・ミハイロビッチ・グープキン氏こそ、「ソ連石油地質学の父」と呼ばれ、現在のロシア資源産業の基盤を作った人物である。詳しくは、原田氏のエッセイでお読みいただきたい。

 12月に入って、これまでかなり抑えられてきた消費者物価指数が前年前月比で3.8%上昇、食用油は4割、光熱費も電気・ガス代が3割前後の値上げと、円安による輸入物価の高騰などの影響が、日本でも目立つようになってきた。

 当初、比較的短期間で終結するかもしれないと見られていたウクライナ紛争は長期化し、世界経済に大打撃を与えながら対露制裁も長期化している。日本にとっても決して他人事ではない。

 原田氏は、現在のエネルギー資源の価格高騰は「第3次オイルショック」といってよい段階だが、この価格高騰はロシアによるウクライナ侵攻以前から始まったと指摘した。

 原田氏によると、2021年のCOP26(2050年までに世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロを決定)で掲げられた脱炭素目標にむかって、欧州は再生可能エネルギーである風力発電を活用していましたが、「風が吹かなくて」、結局、天然ガスに頼らざるを得なくなり、天然ガス価格が高騰した。

 ちょうど「ノルドストリーム2」が2021年9月に完成したが、承認手続きが遅れてすぐには稼働できないことがわかり、さらに10月11月と価格が高騰していった。

 原田氏は、その背景にはリーマンショック以降需要が細り、従来の10分の1にまで天然ガス価格が暴落した時に、欧州がそれまでの長期安定価格契約を、変動型のスポット価格に変更したことがある、と指摘した。原田氏は「変動価格に変えて10年以上安いガス価格を謳歌してきたので、高い時は高いで仕方ないとも思います」と述べた。

 岩上安身は、「ウクライナ紛争は本当に『自由と民主主義』を守る正義の戦いなのだろうか」と問い、ウクライナ紛争の背景にある「エネルギー資源市場の争奪戦と米国の大戦略」について概説した。

 岩上は、今回のウクライナ紛争で、ロシア産石油を輸送する陸路のウクライナ経由パイプラインを守るために、バルト海経由の「ノルドストリーム」を阻止しようとする米国の思惑は、第一次大戦の遠因ともなった陸路輸送と海上輸送をめぐる3B政策と3C政策の対決の再来ではないかと指摘した。

 欧露がパイプラインで安定的に結ばれ、安全保障上の緊張も低減するとなれば、NATOも必要なくなり、米国は欧州に及ぼす影響力が削がれていってしまう。

 米国は2000年代のシェール革命によって世界最大の産油国・天然ガス生産国になったが、巨大な島国である米国が、欧州などに自国産のシェールガスを輸送することになれば、ロシア産のパイプライン経由の天然ガスにはコストでは到底勝てない。

 一方で米国エネルギー情報局は、2030年までに、ガス輸出量を2021年の1420億立方メートルから2550億立方メートルに増加する計画を示している。これは、ロシア産ガスの全輸出量2745億立方メートルに匹敵する量である。

 そのためには、ロシア産ガスの半分が輸出されている欧州市場からロシア産ガスを排除し、米国産ガスで代替すれば、ロシアを弱体化しつつ、割高な米国産ガスを欧州に売ることもできる。

 「アメリカは欧露の結びつきを邪魔する必要があった」のだと、岩上は指摘した。

 ドイツとロシアの天然ガスパイプラインは、ソ連時代の1973年から始まり、ソ連解体の時も半世紀にわたって安定供給をしてきた。

岩上「このパイプラインこそは、欧露の平和的共存のシンボルだったと思うんですが」

原田氏「そうですね」

岩上「米国から見れば、米国の覇権の維持あるいは拡張とのためには、欧露の間の平和的な経済的な結びつきを切断する必要があると。

 欧州市場からロシア産石油ガスを排除できれば、ロシアの弱体化を進めて、欧州を米国に依存させて、米国産の割高な石油天然ガスを売りつけることができるという一石何鳥もの妙手であると」

 岩上は、欧州はロシアから安価で安定的なガスの供給を受けることで産業も恩恵を受けてきて繁栄してきたのに、対露制裁によって、自分で自分の首を絞めているのではないかと述べた。

原田氏「アメリカが一人勝ちしていくというところ、アメリカが、最初のマイダン革命の時もそうですし、何らかの関与をしてきたことは、全てわかってる話でもあるんですが」

岩上「(ヴィクトリア)ヌーランド(国務次官補、当時)とか」

原田氏「YouTubeでも流れているものですし。

 ノルドストリームに、今、並行して、ノルドストリーム2が作られて、2019年の12月完成間際になって、アメリカが国防授権法を発動して、スイスの会社を追い出したというのがありました。

 アメリカとしては、まさにおっしゃる通り、ノルドストリームにくびきを打つと。欧州最大のガス受容国であるドイツ、それから最大の天然ガス埋蔵量を持ってる国であるロシア。これが結ばれることを非常に嫌がったところがあると思います。

 もうひとつ、付け加えるとすると、アメリカの名文といいますか、大義というのは『ウクライナを守るため』なんだと。これ(ノルドストリーム)ができてしまうと、ウクライナ経由のガスが流れなくなるだろうと。

 ちょうど、2019年12月というのは、ウクライナのガスの供給契約が満期を迎えて、次はどうなるんだって話になっていたわけです。

 ノルドストリームも、ノルドストリーム2も、トルコストリームも足しあげると、ウクライナ経由のパイプラインの容量と同じになるんです。つまり、ウクライナパイプラインを『なき者』にするために作られたのが、ドイツとロシアが作ったもの、トルコと一緒に作ったもの、ということになるわけなんですけれども。

 これに対してアメリカは、ウクライナを守るためにやらないといけない。そこに複雑に絡んでくるのが、NATOの東方拡大問題ということですね」

 現実にウクライナをNATOに加盟させるのかといえば、その可能性は高くはないわけのだが、米国を筆頭としてNATO諸国はウクライナに莫大な兵器と傭兵を送り込んで、実質的にはウクライナで戦っているのは「ほとんどNATO」となっている。

■ハイライト

  • 日時 2022年12月9日(金)18:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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