IWJ検証レポート! 「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その2」~米国ネオコン勢が地政学を持ち出し、経済合理性を無視して欧露の関係を分断するために介入! 2022.7.6

記事公開日:2022.7.8 テキスト
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(文・IWJ編集部 文責・岩上安身 2022年6月28日加筆・アップ)

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、2022年6月で4ヶ月だが、ドイツの天然ガス輸入量はロシアからの供給減によって細り、その輸入額は1月から4月までと比べて170%高騰、ドイツではガスの配給制まで検討され始めた。

 2月にロシアのドミートリー・メドヴェージェフ安全保障理事会副議長が、「ヨーロッパ人はまもなくガス千立方メートルあたり2000ユーロ(約26万円、現状の2倍)を支払うことになる」と予告した通りの展開である。

 「IWJ検証レポート! 『米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その1』」で述べたように、1991年のソ連邦崩壊からずっと、パイプライン通過国であるウクライナがしばしばガス代の不払いや不法抜き取りを行なってきたために、ロシアとの間で係争が絶えなかった。

 今回の「検証レポート その2」では、ロシア産ガスの欧州への供給のはじまりから、いかに「ノルドストリーム2」が政治問題化されてきたかを辿る。

 しばしば、ロシア産天然ガスの欧州への供給については、欧米諸国側から「安全保障上のリスク」とされ、政治問題化されてきたが、ロシアが欧州に天然ガスを供給し始めたのは、ソ連時代の1973年にまで遡る。当時、米国のニクソン政権はこれを問題視しなかった。

 しかし、1981年に米国でレーガン政権が発足すると、突如として、ソ連産の天然ガスが欧州に送られていることを問題視するようになる。当時、リチャード・パール米国防次官補は「欧州のソ連エネルギー依存は、米欧の軍事・政治連携弱体化につながる。ソ連のガスが流れれば、ソ連の影響力も及ぶ」と述べた。このパール氏の見解が現在に至るまで、欧米諸国の間で継承されているのである。

 パール氏は後にネオコンの代表的リーダー、そして「The Prince of darkness」とまでいわれるようになった人物である。

 その傾向は、パール氏を含めたネオコン勢力が、米国内の権力を掌握してゆく過程と重なってゆく。

 ネオコンは、経済合理性を無視して「地政学」的側面から欧露分割を図ったのである。ネオコンがスポットライトを浴びたのは、対テロ戦争時代だが、かつての冷戦時代にもいたし、今もいる。

 ソ連・ロシアの天然ガスに欧州が依存することは「悪」であり、「リスク」なのだろうか。

 どの国にとっても、ガスは生活の必需品であり、産業の根幹を担うエネルギー資源である。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の石油調査部主席研究員(2012年当時)であった、本村真澄氏は、天然ガスパイプラインの地政学とは、「あくまでもビジネスの世界の議論」であるべきだと訴えた。パイプラインは政治的「武器」でなく、地域の「安定装置」として機能するというのである。

 詳しくは記事本文を御覧いただきたい!

▲「ノルドストリーム」のウエブサイトhttps://www.nord-stream.com/

「検証レポートその1」から〜「ウクライナ外し」パイプライン最後のピース「ノルドストリーム2」を、米国等は自国利益のため徹底阻止!

 「ノルドストリーム1」稼動前、EUがロシアから輸入するガスは、ロシアからベラルーシとポーランドを通過する「北光(Northern Lights)」が年間320億立方メートル、「ソユーズ」「兄弟(Brotherhood)」などが集まるウクライナのウシュゴロド経由から、欧州に向けて1200億立方メートルの天然ガスが輸送されていた(2010年)。欧州向け天然ガスの約8割がウクライナを経由していたのである。

▲「ノルドストリーム1」稼働(2011年)の前、2009年11月時点で稼働中および計画中のロシアから欧州へのパイプライン。多くがウクライナを通る中、同国をはずした北の「ノルドストリーム」と南の「サウスストリーム」が計画されたことがわかる。(Wikipedia、Samuel Bailey (sam.bailus@gmail.com))

 パイプラインの性格上、ロシアがウクライナへの制裁としてガス供給量を減らしても、ウクライナは通過国の立場を利用してガスを抜き取ってしまえば自らが痛むことはない。ガス供給量減少の痛みは、パイプラインの下流にある欧州に送られることになる。

 ウクライナを通過する限り、欧州への安定的な供給は見込めないため、ロシアと欧州・ドイツは「ウクライナ外し」のパイプラインを3本建設することにした。

 その「ウクライナ外し」のパイプラインが、「ノルドストリーム1」、「トルコストリーム(別名サウスストリーム)」、「ノルドストリーム2」である。

「ノルドストリーム1」は2011年に、「トルコストリーム」は2020年に開通しているが、「ノルドストリーム2」だけが、未稼働のままである。

▲「ノルドストリーム1」の開通式。当時のアンゲラ・メケル ドイツ連邦首相やドミトリー・メドベージェフ ロシア連邦大統領が出席した(2011年11月8日)。(Wikipedia、www.kremlin.ru

▲「ノルドストリーム1」のルート。「ノルドストリーム2」も並行してバルト海を走る。(Wikipedia、Samuel Bailey(sam.bailus@gmail.com))

 「ノルドストリーム1」は年間550億立方メートル、「トルコストリーム(別名サウスストリーム)」は315億立方メートル、「ノルドストリーム2」は550億立方メートルの輸送力を持つ。

3本とも稼働すれば、年間1415億立方メートルをロシアから欧州に向けて輸送することが可能だ。すなわち、ウクライナ経由で輸送されてきた量を十分に賄うことが可能である。「ノルドストリーム2」は、「ウクライナ外し」の最後のピースなのである。

 「ノルドストリーム2」が、2021年9月に建設が完了しているのにもかかわらず、2022年2月になっても、ドイツと欧州連合(EU)による認証作業が遅々として進まないために稼働していなかった。

 それどころか、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、2022年2月22日に、ついに「ノルドストリーム2」の稼働を認証する作業を停止した。この停止措置は2月21日にプーチン大統領が明らかにした「ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認」を受けた措置だとされた。

 ショルツ首相が、認証停止を決断した、その2日後の2月24日、ロシア軍は、ウクライナへ侵攻した。

▲オラフ・ショルツ 第9代ドイツ連邦首相(Wikipedia、Steffen Prößdorf

 こうしてふり返ると、エネルギー分野のプロジェクトである「ノルドストリーム2」の認可がロシアによるウクライナ侵攻という地政学的・軍事的な問題と、分野違いのようでいてつながりあっていることがみてとれる。

 しかし、こうしたエネルギーと武力衝突のリンケージは、2022年2月24日に突然始まったのではない。

 「ノルドストリーム2」は、2021年から顕著になってきた今回のウクライナ危機よりもずっと前から、米国やウクライナ、そしてEUの一部勢力から敵視されてきた。

 「検証レポートその1」で指摘したように、「ノルドストリーム2」の稼働を阻止を求めているのは、割高な自国産LNGを欧州に売りつけたい米国と、ガス通過料を手放したくないウクライナ、ポーランド、スロバキアである。

 2006年と2009年の「ウクライナガス供給途絶問題」にまで発展した、ロシアとウクライナの間で継続的に起きてきた天然ガスを巡る係争については、「検証レポートその1」で述べた。

 米国は「ノルドストリーム2」に対して、2017年に「米国の敵対者に対する制裁法」、2019年に「欧州エネルギー安全保障保護法」、2021年に「欧州エネルギー安全保障明確化法」を科し、「ノルドストリーム2」パイプラインの敷設作業に関わる企業から保険に関わる企業まで、米国の「ブラックリスト」に載せることを一方的に決め、徹底阻止のために動いてきたのである。

▲「ノルドストリーム」のウエブサイト https://www.nord-stream.com/

ソ連・ロシアからのパイプラインは「約40年間全く問題なく機能した信頼性の高い天然ガス共有手段」だった!

 ロシアから欧州への天然ガス供給は、ソ連時代の1973年に遡る。

 第一次オイルショックが起きて、石油価格が世界的に高騰したこの年、西欧は石油輸出国機構(OPEC)への過度の依存を避けるため、石油に変わるエネルギー資源として天然ガスを求めていた。折しもソ連では、西シベリアで次々と巨大なガス田が発見されていた。

 西ドイツ・ソ連、両者のニーズが一致することから、西シベリアから西欧諸国向けの天然ガスパイプライン敷設が、両者の協力事業としてスタートした。

 第一次オイルショックに先行して、この当時、西ドイツでは、ヴィリー・ブラント首相とドイツ社会民主党(SPD)が、東西の「緊張緩和」を進めるための「東方外交」を掲げ、東ドイツやソ連との関係改善を進めていた。

 1969年11月30日、西ドイツ製の大口径鋼管やガスタービンと、ソ連の天然ガスを交換する「補償協定」が結ばれ、20年間に1200億立方メートルのガスを供給することで合意した。

▲ヴィリー・ブラント第4代ドイツ連邦共和国首相(Wikipedia、ドイツ連邦公文書館

 当時、米国では、ニクソン政権(1969〜1974)が、ソ連をはじめとする「東側」諸国に対する封じ込め政策を転換し、融和的な政策をとっていたため、のちの米政権のようにソ連・ロシア産ガスに依存することで「西ドイツがソ連の支影響下に入る」などと言い出して、問題視することはなかった。

▲リチャード・ニクソン第37代米国大統領(Wikipedia、Department of Defense. Department of the Army. Office of the Deputy Chief of Staff for Operations. U.S. Army Audiovisual Center. (ca. 1974 – 05/15/1984))

 ソ連と西ドイツの間で敷設された最初のパイプラインは「トランスガス(Trans gas)」と命名され、ウクライナ(当時はソ連邦の一部)のウシュゴロド経由でオーストリアを経由して、西ドイツに至る経路であった。

 合意の4年後、1973年9月26日から、「Trans gas」が稼働し始めた。以来、2006年と2009年の「ウクライナガス供給途絶問題」を挟んで、少なくとも2019年まで、45年以上もの間、ロシアは欧州に天然ガスの供給を続けてきたのである。

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の石油調査部主席研究員(2012年当時)であった、本村真澄氏は、ソ連・ロシアの天然ガス供給について、「信頼度が高い」と評価している。

 「欧州の産業界では、ソ連・ロシアからの天然ガスパイプラインは約40年間全く問題なく機能した信頼性の高い天然ガス共有手段と見なされた」。

 ソ連が1991年に崩壊し、ウクライナをはじめとする東欧・中央アジア諸国がソ連から独立し、CIS(Commonwealth of Independent States)という緩やかな国家同盟に移行するという、政治体制の激変が起きた時にも、旧ソ連領域内から欧州への天然ガス輸送は続けられていた。

 先述の本村氏は、以下のように述べている。

 「ソ連崩壊という歴史的転換点のさなかにあっても、ソ連からの天然ガス供給は全く途切れることなく粛々と続けられた。体制は崩壊してもソ連の天然ガス生産の組織は維持され、ガス輸出の被った影響はほとんどない」。

▲「ソ連邦の排除と独立国家共同体(CIS)の設立に関する協定」の調印式(1991年12月8日)。ウクライナ大統領レオニード・クラフチュク(着席左から2番目)、ベラルーシ共和国最高会議議長スタニスラフ・シュシュケビッチ(着席左から3番目)、ロシア大統領ボリス・エリツィン(着席右から2番目)。(Wikipedia、U. Ivanov / Ю. Иванов

レーガン政権時代、「ネオコン」の代表、リチャード・パール国防次官補が一転して「欧州のソ連エネルギーへの依存で、米欧連携が弱体化すると問題視!

 しかし、米国で1981年にレーガン政権が発足し、先に述べたように、後にネオコンの代表的リーダー、そして「The Prince of darkness」とまでいわれるようになるリチャード・パール氏が国防次官補に就任すると、それまでとは一転して、ソ連産の天然ガスが欧州に送られていることを問題視し始めるようになる。

▲1989年6月10日、イギリスのテレビ討論番組「アフターダーク」に出演したリチャード・パール氏。(Wikipedia、Open Media Ltd.

 本村氏によると、パール国防次官補(当時)は、米国上院の公聴会で欧州とソ連が天然ガスで結びつくことの懸念を以下のように述べている。

 「欧州諸国がソ連のエネルギーに依存することは、米国と欧州の政治的・軍事的連携の弱体化につながる。ソ連の天然ガスが日々欧州に流れてくるということは、ソ連の影響力も日ごとに欧州まで及んでくるということだ」。

 1980年当時、ソ連が石油・天然ガスの販売で得た収入は147億ドルに急増し、全交換可能通貨収入の62.3%を占めるまでに至っていた。米国は、欧州がソ連の政治的な影響力を受けること、そしてソ連を潤す石油・天然ガス輸出の経済規模の大きさを警戒したのである。

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