6月30日、夜6時半から、岩上安身による元外務省情報局長の孫崎享氏インタビュー「ウクライナ侵攻に対し、ロシアへの『一億総糾弾』『総制裁』論に一石を投じる! 今必要なのは『平和を創る道』の探求!」を、IWJ事務所より生中継でお送りした。
冒頭、ウクライナ紛争をめぐって、日本中がウクライナ=善、ロシア=悪で、一方的なロシア叩きに、政治もジャーナリズムも邁進している状況について、孫崎氏が「なんのために、どんな契機で、どういう効果があるか」など考えることもなく、「憲法を変えろ」、「防衛費増やせ」の合唱になってしまっていると嘆いた。
孫崎氏は、メインストリームから外れた発言をすると報道されない、外されてしまう、社会もジャーナリズムも第2次大戦時の「大政翼賛テレビ」になってしまっていると指摘した。岩上も、フリーランスのジャーナリストも、まるで戦時中の「従軍記者」と同じようになっている、これは「従属国の自滅の道だ」と嘆いた。
孫崎氏は今月(6月)、『平和を創る道の探求 ウクライナ危機の「糾弾」「制裁」を超えて』をかもがわ出版から出された。ウクライナ紛争、新しい世界秩序の形成、そして台湾有事と、日本の外交・安全保障のあるべき姿を問い、「平和を創る」ことを提言されている。インタビューは、孫崎氏の著作に沿って進めらた。
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孫崎氏は1966年に外務省へ入省され、イギリス陸軍学校、ロンドン大学を経て、モスクワ大学で研修、在ソビエト連邦大使館に5年間お勤めになられた。孫崎氏は、モスクワ時代の5年間が自分のバックボーンを形成する上で大きかった、と述べた。
孫崎氏「ソ連時代の最も横暴な政治体制の中で、権力に反対すればシベリア送り、つまり死が待っている。それでも、ソルジェニーツィンらの反体制派が立ち上がっている。
一般の人たちは立ち上がる力はないけれども、立ち上がった人たちを応援するんですね。『私はそんな勇気はないけど、政権に立てついて立ち上がった人々はすごいから、支援していこう』という社会なんですね。
立ち上がった人たちはすぐに成果を上げるわけではなくて、個々人は潰されて消えていくんだけど、それが次の世代につながっていくんですね。そこがすごいところです。自分は捨て石になって次の世代に残していく。
我々国民のために自分が捨て石になって、理念を貫くとか、間違ったことを間違っていると言い続ける。今の日本にはそれがない。世界で一番日本が弱いと思います。そのためには死んでも良い。そういう人がいなければ、どんど落ちていくんですよね。
どこかで頑張る人たちが、必要になるんですよ」。
日本には、頑張っている人たちを支援する社会がない、というのは大変残念なことである。参議院選挙投票まであと10日(7月10日投開票)だが、ほんとうに頑張っている人を国会に送ることができるだろうか。
孫崎氏は、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の一節「北にケンクヮヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ」を引き、今、「ヤメロ」と進言をする人がほとんどいないことが最大の問題だと述べた。喧嘩をしている2人がいれば、まず「ヤメロ」といって、それぞれの言い分を平等に聞くべきだと孫崎氏はいう。孫崎氏は、侵攻が始まる前のプーチン大統領の演説をちゃんと読んだ人はいるのだろうか、と問うた。
孫崎氏「たとえばG20で、(議長国の)インドネシアの大統領(ジョコ・ウィドド氏)は、『プーチンはG20のメンバーだから呼びます、しかし、あわせてゼレンスキーも呼びます』と、こう言っています。
だから、今、(ゼレンスキー大統領だけを国会に呼ぶ)日本は民主主義を失ってきているんですよ。
多くの日本人はインドネシアなんか民主主義的ではないと思っているかもしれないけれど」
岩上「発展途上国だろう、と見下したようなね」
孫崎氏「でも、違った意見を聞いて議論するというのは、民主主義の根幹ですよ。その民主主義の根幹を日本は忘れてしまったし、(宮沢賢治の言葉にあるような)日本人の心と離れてしまった。それが今の日本だと思います」。
岩上は、紛争は2022年2月24日に突然始まったのではなく、8年前からずっと続いているのだ、と述べた。
岩上「いきなりデッカいの(ロシア)が殴りかかった、っていう話じゃないんですよね。殴ってるやつを制裁しようっていっても、いやいやさっきから小さい方(ウクライナ)がずっと挑発していたよ、と。ずっと子分を虐めていたぞ、と。
8年間、ウクライナ国内にいるロシア語話者に対する弾圧や迫害を(ウクライナ政府は)してきたわけです。
そんなことは見たことも聞いたこともないね、とか言っていたら話にならないですよね」。
ウクライナ紛争に関して、30年前のソ連崩壊からみれば、「NATOの不拡大」と引き換えのソ連邦の自由化と解体のプロセスが視野に入ってくる。さらにその以前から見れば、ソ連邦の中でほとんど一体としてあるウクライナとロシアの姿が見えてくる。
孫崎氏は、『日刊ゲンダイ』に6月24日、寄稿した記事について述べた。
孫崎氏「先週、『日刊ゲンダイ』に、『ゼレンスキー大統領は、最悪の大統領になるんじゃないか』って書いたんですよ。
なぜかというと、どこかの国の大統領であったら、何が一番大事かって言ったら、その国の国民の命を守ることでしょう。そしてその国民が平穏な生活をできること、それが一番大切なことでしょう。
600万人以上の国民が国外に逃亡、食事も仕事もままならない。住むところもない。
東部の戦線では、1日あたり100人以上の兵士が死んでいる。これはベトナム戦争が一番厳しかった時のアメリカ軍の死者数と同じ水準です。
そして、GDPは40%以上ダウン。
大統領としてはまずは、これを止めることが重要でしょう。どうしたら止まるか、それはもう簡単なんです。
ひとつはNATOの拡大をしないこと、もうひとつは東部に自決権を与えること。この2つでいいんです。
NATOの不拡大はアメリカが約束したことですし、東部の自決権は国連憲章にもかなっています」。
孫崎氏は、ロシアの侵攻が始まる前からずっと「ひとつはNATOの拡大をしないこと、もうひとつは東部に自決権を与えること」で、ウクライナ危機は終わるのだと述べていた。
- ゼレンスキーはウクライナ国民にとって最悪の大統領になるのか(日刊ゲンダイ、2022年6月24日)
孫崎氏は東部の自決権について、それは「力による現状変更だから許されない」といえるのか、と問うた。
孫崎氏「安倍(晋三元総理)さんは、よく『力による現状変更は許されない』と言ってますが、じゃあ、2000年ぐらいから国際政治はそう動いてきましたか、と。
アフガニスタン、イラク、シリア、リビア、レバノン。そして非常に参考になるのがコソボです。コソボは旧ユーゴスラビアから独立するわけですが、セルビアの一部になっていたので、力関係でできない状況になっていました。
それで、西側(NATO)が何をしたか」
岩上「セルビア全土空爆」
孫崎氏「ベオグラード(セルビアの首都)を空爆することによって、独立させたわけです。だから、軍事力で現状を変えるっていうことは、NATO諸国がやったことなんですね」。
孫崎氏は、そうした歴史を日本人のほとんどが勉強していないと嘆いた。
このあと、ウクライナ議会がロシアの音楽と文学を禁止する法案を6月19日に可決した件が話題に上がった。孫崎氏は、今、ウクライナでは、ものすごい事態が進んでいる、と述べた。
日本ではほとんど知られていませんが、ウクライナでは、単にロシアの音楽と文学を禁止するだけではなく、絵画や文学など幅広い分野において、ウクライナ人の作家であっても、ソ連時代に活躍した作家は排除されていると、孫崎氏は指摘した。
つまり、ウクライナから「ロシア的なもの、ソ連的なもの(たとえウクライナ人であっても)」をすべて排除しようという動きが進んでいるのである。岩上も「まるで、文革か、クメール・ルージュか。これが自由で民主的な国、といえるのか」と驚きを表した。
孫崎氏は、戦争をするということが極めて異常なことだということが見失われつつあるのではないかと問うた。
孫崎氏「人殺しでしょう、結局、戦争っていうのは。悪でしょう。
戦争するっていうことは極めて異常なことなんですよね。で、その異常、戦争してるのが異常だという声がないということが異常なんですよ。
1904年、トルストイが日露戦争になった時、『狂った日本とロシアが戦争を始めた』と言っていて。
『知識人が先頭に立って、人々を誘導している。知識人は戦争の危険を冒さず(自分が戦争に行くことはないので)、他人を先導することにのめり込んで、愚かな兄弟同胞を戦争に送り込んでるいる』と言ったんですね」。
戦争を誘導した知識人とは、今日の日本で言えば「政治家、テレビのコメンテーター」などである。今、日本もトルストイが危惧した状況に向かっているのではないだろうか。
孫崎氏「戦争は人殺しのゲームなんです。この人殺しをやるだけの価値があるのかどうか、ということを考えると、人の命を絶つまでやらなきゃならないことっていうのは、ほとんどないんですね。
特に今回のウクライナ紛争っていうのは、解決の道があるんです。その解決の道を避けているのが、安全保障の専門家と政治家とTVコメンテーターですよ」。
この後、会員限定部分で、インタビューは、米国連邦議会襲撃事件で窮地に立つトランプと米国内の不穏な状況、外交のあるべき姿、孫崎氏の座右の銘ともいえるキッシンジャー著『核兵器時代の外交の在り様』の解説、NATOの東方拡大の実際、そして朝日新聞によるゴルバチョフインタビュー記事の悪質な誤引用、詭弁などに話が及びんた。
ぜひ、IWJの会員となって、全編を御覧ください。
孫崎享氏は、岩上安身によるインタビューにたびたびご登場くださっています。2021年のインタビューを以下にご紹介します。