岩上安身は3月29日午後3時半から、「ノルドストリーム爆破事件の教訓 米国は誠実な同盟国と言えるのか?『自国の国益のためには同盟国の利益をも犠牲にする』厳しい現実! 日本は絶対に戦争はできない!」と題して、現役経産官僚であり、経済産業研究所コンサルティングフェローである藤和彦氏にインタビューを行った。
藤氏は、官邸直属で、国内外の重要情報の収集と分析を手がけるインテリジェンス組織である「内調(内閣情報調査室)」で、2003年から内閣参事官、内閣情報分析官を務められた。特にエネルギー分野に詳しく、安全保障や地政学的な分析にも長けている。
藤氏は、3月15日、『現代ビジネス』で、「『ロシアー欧州パイプライン』を破壊したのは“アメリカ”なのか!? ウクライナ戦争最大のミステリーにバイデンが焦る『ヤバすぎる事情』」を発表された。藤氏は、「ノルドストリーム爆破事件」についてのシーモア・ハーシュ氏のスクープを正面から取り上げ、この事件は「自国の国益のためには同盟国の利益をも犠牲にする」という国際政治の厳しい現実を表しているとし、「日本もドイツの苦い教訓を『他山の石』として肝に銘ずるべきだ」と提言されている。
- 「ロシアー欧州パイプライン」を破壊したのは“アメリカ”なのか!?ウクライナ戦争最大のミステリーにバイデンが焦る「ヤバすぎる事情」(藤和彦、現代ビジネス、2023年3月15日)
藤氏は「ノルドストリーム爆破事件」の最大の教訓は、「米国が自国の国益のために、同盟国であるドイツの利益をも犠牲にしたことである」、という。
藤氏は、「ハーシュ氏によれば、北大西洋条約機構(NATO)の団結が揺らぐことを懸念したバイデン政権は、冬を迎えるドイツが苦境に陥ることを承知の上でロシアからの天然ガス供給を途絶させることを画策したという」、「米国は同盟国ドイツに対して明確な背信行為を犯していた」ことになる、と『現代ビジネス』で指摘していた。
藤氏「もう、歴史的に見るとですね。本当にアメリカってそうだったんですよ。1970年代に、ノルドストリームとは別に、(ロシアから欧州に)パイプラインが引かれて天然ガスを供給するようになってから、もうずっと、アメリカはドイツに対しては『本当にやるのか』と言って、ある意味では文句言ってて」
岩上「圧力をかけてきました」
藤氏「1970年代、ブラントさんとかシュミットさんを含めて、相当、アメリカと意見交換しながら何とかやってたんですけど。ずっと、この(ノルドストリーム)パイプラインは、アメリカにすれば『目の上のたんこぶ』でしたから。それを考えれば、本当にやっても全然不思議じゃないなっていう感じもありますよね」
岩上「すごい今、大事なことをおっしゃられている。この件が起きてから、この海域に誰か怪しいのがいたかとか、今、ハーシュに対する批判者がズラーっと出てきて、議論をやっているんですけど、みんな近視眼的に議論してるんです。そうじゃなくて、バーっと大局を見たらアメリカはずっと『(ノルドストリームを)やめろやめろ』と言ってきて」
藤氏「50年越しで言っていますから」
岩上は、米国はロシアの天然ガスパイプラインの通過国であるウクライナを利用して、ロシアに対する「嫌がらせ」をしてきたと指摘しました。
岩上「藤さんは以前、ドイツとロシアの平和とか安全とか、安全保障上の重要なインフラになるんだとおっしゃっていましたね」
藤氏「経済的に連携することは、当然安全保障にもプラスの効果を与えますから。冷静終結、ドイツ再統一を旧ソ連が認めた最大の理由ですから」
岩上「(ソ連・ロシアは)ドイツとはこれからも仲良くやっていくんだと。ドイツにソ連時代から流してきたガスをさらにちゃんと流すよと。冷戦時代というのは、日本も経済成長していた時期ですけど、同時に西ドイツも成長してた。それってなんと、ソ連からの天然ガスや石油の供与があったからだったんですね」
藤氏「70年代の第1次石油危機の時に、日本は本当に苦労して、アラスカからLNGを輸入するようになったんですけど、脱石油で。
ドイツは本当に見事な脱石油政策で、パイプラインで非常に安い値段で天然ガスを入手できましたから。それはエネルギーやってる人間からすると本当に理想的な解決策だったですね」
岩上「LNGじゃ、全然バカ高いですよ」
藤氏「(同じものでもコストが)倍以上は違います」
岩上「生ガス、楽ですねえ。安いですね」
藤氏「安いです」
岩上は、海上輸送されるLNGは、船が座礁するなどのリスクも高いと付け加えた。
藤氏「LNGはなかなか展開ができないんです。パイプラインだと、ドイツに入ってからものすごく支線があって、ドイツ国内には、どうも何十万キロメートルというパイプライン網があるんですね。だから大企業に限らず、中小企業も安いガスを使って、製品ができた。
ある意味では、ドイツは化学とか肥料の国際競争力が、まさしくロシアからの安い生ガスのおかげだったので。ドイツの産業競争力が物凄く棄損することは間違いないですね」
岩上は、米国には、ドイツとロシアが仲良くなるとNATOの結束が弱くなるので、安全保障上両者の関係を断ち切りたいのだ、とされているが、それ以上の狙いがあったのではないかと、ハーシュ氏へのあるインタビュアーが指摘していることを紹介した。
岩上「もう一つはアメリカは一石二鳥というか、ロシアも叩き潰すけど、返す刀で(米国にとって)産業競争力上のライバルだったドイツを叩き潰す思惑があったのではないか、と質問している人がいました。
ドイツ人の中には、ノルドストリームの爆破は、ロシアへの攻撃だけではなく、ドイツに対する攻撃でもあるのでは、という疑いを抱く人がいるのです。
戦国大名で言えば、昔敵だった外様の部下で、それがあんまり大きくなってきたら――日本もそうかもしれませんけど――叩くという。
そういうドイツ叩き、ドイツの産業競争力を弱体化させるという狙いがあったんですかと、ドイツ側が質問しているんですよ」
藤氏「ハーシュ氏はなんと答えたんですか?」
岩上「ハーシュは細かくは答えていないんですが、『そういう目的もあったかもしれないですよね』と」
藤氏「まあ、(ドイツ産業の弱体化は)副次効果でしょうね。やっぱり、アメリカは安全保障が基本ですからね。一石二鳥ということは考えてるかもしれないけど、主目的ではないでしょうね」
岩上「ドイツとロシアが結ばれて、それこそプーチンが言ってた『ユーラシア二ズム』じゃないですけど、ユーラシア大陸全体が結び付きながら繁栄する。プーチンが一番思っていたのは、ヨーロッパとの安定ですよね。(ノルドストリームは)その一番の柱だったと思うんですよね。それを断ち切られたっていうのは、すごく大きなショックだっただろうと思います」
藤氏「ある意味で百年前に戻ってますね。第1次、第2次世界大戦はユーラシアで起きた大戦争ですから。第2次はアジア太平洋地域もありましたけど。でも二度とそういうことを起こさないということは、旧ソ連も含めて考えていて。その安全保障装置がなくなっちゃったわけですね」
岩上は、ノルドストリームのようなエネルギー上の結びつきは、核ミサイルとMADによる「恐怖の均衡」ではなく、「繁栄による均衡」であり、戦争の抑止力になり得たのではないかと問うた。