2022年12月22日、岸田文雄政権はGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故以来の方針を大転換し、原発の新増設や建て替え、40年を超える老朽化原発の稼働期間延長などの方針を決定した。
- 原発建て替え・運転延長へ転換 政府、GX基本方針(日本経済新聞、2022年12月22日)
この方針は2023年2月28日の閣議で決定され、政府は、原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、使用済み核燃料再処理法、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法の5本の法律の改正案を束ねた「束ね法案」を2023年の通常国会に提出した。
- 原発60年超可能に 法案閣議決定、震災後の政策見直し(日本経済新聞、2023年2月28日)
こうした岸田政権の原発推進政策に対し、安全を審査する側の原子力規制委員会も追随の姿勢を示した。2022年のGX実行会議前日の12月21日、規制委は定例会議で、原子炉等規制法で規定されている原発の運転期間「原則40年、最長60年」を見直し、60年超の運転を可能にする新たな規制制度の案を了承した。
- 原子力規制委が原発の60年超運転認める規制制度案を了承 長期運転の上限なくなる(東京新聞、2022年12月21日)
さらに規制委は2023年2月13日の臨時会で、5人の委員のうち唯一制度変更に反対を表明している石渡明委員の意見を置き去りにしたまま、多数決で原発の60年超運転に向けた新たな規制制度案を決定したのである。
- 原発運転60年超を石渡委員反対のまま多数決で決定 原子力規制委 独立性はどこへ…(東京新聞、2023年2月13日)
こうした岸田政権と原子力規制委員会の一連の動きに対し、市民団体「再稼働阻止全国ネットワーク」が2023年3月17日、衆議院第一議員会館で勉強会と記者会見を行った。
勉強会では京都在住の理学博士・木原壯林氏(元日本原子力研究所研究員)が、原発の経年劣化に伴って現在でも頻発している様々な事故やトラブルについて、具体的な事例をあげて解説した。稼働期間延長がいかに危険かを訴えた木原氏は、「原子炉システムや安全対策などの科学・技術に何ら進歩がないにもかかわらず、政治的判断で福島原発事故の犠牲と教訓を軽んじて原発推進を打ち出した」と、岸田政権を批判した。
このほか、勉強会では岸田政権が研究開発の支援を表明した「次世代型原発」について、木原氏が解説を行った。また、たんぽぽ舎の木村雅英氏が、この間の原子力規制委員会の会合での審議内容について報告。現在国会に提出されている「束ね法案」については、たんぽぽ舎の山崎久隆氏が、条文を示して問題点を指摘した。
勉強会に続いて行われた記者会見では、たんぽぽ舎の柳田真氏が「『GX』という見慣れない単語が出て、一切議論や説明もしない中で(原発政策の転換を)決めてしまって、そしてあげくの果てが5つの束ね法案の中に出てきた」と述べ、以下のように語った。
「5つの束ね法案として、改悪が出てきたということが一番焦点だと思います。
5つの束ね法案の中で、一番悪いのは、原子力の憲法である原子力基本法そのものを変える文章を巧みに入れていること。それは、経産省なり、原子力の推進勢力が長年入れたかったことを、全部盛り込んであった。
ですから、単純に原発回帰だけではなくて、原子力政策の悪い中身を、やりたがっていたことを全部、今回この5つの法案の中に入れてしまったんです。その中心が、原子力基本法の改悪にあると思います」
柳田氏は、骨抜きにされた法案を認めてしまえば、「必ずこの次、原発過酷事故が起きるのは必至だ」と指摘し、「『束ね法案反対』をひとつの大きなスローガンとして広げたい」と訴えた。
記者会見では、再稼働阻止全国ネットワークが、各政党あてに送った原発政策転換についての公開質問書と、各党からの回答についても説明が行われた。
- 原発政策転換に関連する政党への要請・公開質問書および回答(再稼働阻止全国ネットワーク、2023年3月17日)