「ウクライナ紛争は戦争はまだまだ続く」! 「ロシアによるウクライナ侵攻から3ヶ月、紛争は長期化するのか、対露制裁が世界、日本に及ぼす影響は?」~岩上安身によるインタビュー第1077回 ゲスト ロシアNIS経済研究所 所長・服部倫卓氏 2022.5.26

記事公開日:2022.5.29取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

 5月26日夜7時から、「ロシアによるウクライナ侵攻から3ヶ月、紛争は長期化するのか、対露制裁が世界、日本に及ぼす影響は?」、岩上安身によるロシアNIS経済研究所 所長・服部倫卓氏インタビューをお送りした。

 冒頭、岩上安身が、服部氏のご経歴について、「ロシアの研究者で、ベラルーシやウクライナに目を向ける方は多くはないのでは?」と問うと、服部氏は「大学でロシア語を専攻して、ロシアとはまた微妙な差異のある民族や国家に興味が湧いたという、感覚的なものでした」と答えた。服部氏が編集長を務める『ロシアNIS調査月報』の「NIS」とは「New Independent States」、旧ソ連邦とその構成国の総称である。

 岩上は、ウクライナ紛争は、少なくとも2014年のユーロ・マイダンから「線」で見ないといけないと思うが、現在、マスメディアなどで伝えられているウクライナ紛争は、この2月24日に始まったという「点」でしか見ていないことを危惧しています、と述べた。

 最初の話題は、戦況であった。5月20日に、アゾフ大隊が立てこもっていたマリウポリは陥落したが、停戦交渉は一向に進む気配がない。いったいどのようになっているのだろうか?

岩上「5月20日にマリウポリのアゾフスタリ製鉄所が陥落したというのは、ウクライナ側にとって大きな痛手だったように見えますが、停戦交渉や歩み寄る兆しは見られないように思います。これはどのようにご覧になっていますか?」

服部氏「言ってみれば、ウクライナをネオナチから解放すると称して始めたこの戦争ですが、アゾフスタリに立てこもるアゾフ連隊というのは、ロシア側にとってみれば、その『エビデンス』として使える、という面があるわけです。

 このアゾフ大隊を生け捕りにして、まあ、手荒な手段も使いながら、『確かに私たちはネオナチです。ドンバスの住民を虐殺しました』というような映像を、ロシアのテレビで流す。そういう政治利用するという目的があったと思います。

 マリウポリは戦略的要衝と言われますが、ロシア側が主張する戦争の大義名分に関わってくる部分なので、お互いにこれだけこだわってて、非常に長期化するという結果になったと思うんですよね」。

 服部氏は、ここからの焦点はロシア側が、そうした自白を引き出せるかというところになってくるだろうと述べた。

岩上「ウクライナにとっては、これはどういう意味を持つでしょうか? ゼレンスキーさんは感情の起伏が激しくて、それが素直な感情なのか、演じているものなのか。ただ、当初、アゾフスタリの部隊に、がんばれ、徹底抗戦せよというところから、諦めたというか。玉砕姿勢から、降伏とは言わなかったけれども投降したと。そういうところで、落胆した感じがありました」

服部氏「ネオナチの動かぬ証拠といったロシア側のストーリーっていうのは、ウクライナ側も百も承知だと思うんですね。それを阻止するためにできるだけ抵抗したかったということ。

 もう一つは、なるべくロシア軍をここに引きつけて、他の戦線を有利に運びたかった。その二面があったと思うんですよ。でもさすがに抵抗も耐えきれなくなって、やむを得ないと」

岩上「もう一つ、逆の結果が出たのはハリコフ。『NHK』は5月14日に、ウクライナ軍が一部集落を奪還し、ロシア軍を押し戻したと報じています。ハリコフ周辺では、ウクライナ側が勝っている、と。

 どういう状態なのか、こちら側ではウクライナ軍が優勢で、全体としても、西側が供与してくれた武器が奏功してウクライナ軍が優勢であるというのが基本のトーンで、多くのメディアが報じています」。

 岩上は、報じられている戦況をどう評価したらいいのかと問うた。

服部氏「ハルキウ(ハリコフ)は開戦当時から激しい砲撃を受けながら耐え抜いて、ロシア側は占拠できなかったわけですよね。

 街の周辺は包囲して支配して、という状況が続いていたと思うんですが、ハルキウがなかなか落ちないので、そこにこだわるよりも、やはりドンバスに集中すべきだという判断で、ロシア側が意図的にハルキウ周辺から、配置転換し、引いていき、それを追撃するような形で、ウクライナ側がロシア国境まで到達したというような経緯だったんじゃないでしょうか」。

 ウクライナ側にとって、ハルキウの奪還は大きな前進で、ここから反撃に出て、全支配領域を奪還できるという見方はどうか、と岩上は問うた。

服部氏「そんなに簡単ではないと思います。

 ここ1、2日はロシア軍の方が立て直しています。ルハンシク州、ドネツク、リマンといった街もいよいよ危ないとなって、ルハンシク州全域を支配すれば、次はドネツク州という順番で支配地域を広げていく。そういう戦略をロシア側が明確に打ち出してきていますので。

 戦線によってはウクライナがかなり戦果を上げているところもあるけれども、それはロシア側の重点の置き方によっても変わってきます。ロシアがいったん占領した地域を反転攻勢をかけて奪い返すとなると、それは相当な困難が予想されます」。

 服部氏は、ドンバス地方の戦況について、以下のように語った。

服部氏「ドネツク州が、あれだけロシアが重点をおいても攻め落とせなかったのは、そこにウクライナ軍側が防衛戦を敷いて『絶対にそこを守る』と。

 今までは、ドニプロっていう中部の町から補給線が機能していて、持ちこたえていましたが、ハルキウ方面のイジウムから、ロシア軍が南下するような動きを見せていて、それによってウクライナ軍を包囲するんじゃないかと、前から言われていました。

 ここ1、2日ぐらいの動きを見ると、そういうことになってもおかしくないぞ、と」

岩上「ハルキウでウクライナ軍が勝ったといっているけれども、それはロシア軍が南下してきて、挟み撃ちにしてしまうかもしれないと。つまり二つの地点をあわせて見る必要があるということですね」

服部氏「そうですね。その時々のロシア軍の意図とか」。

 服部氏は、ウクライナ軍は非常に英雄的に善戦しているかもしれないが、ドンバスからクリアまで含めた全面奪還となると、「気の遠くなるような課題だ」と述べた。

 一つ一つの戦況のニュースを聞いているだけでは、わからない分析をおうかがいすることができた。

 岩上は、以前、プーチン大統領が、仮にハルキウにNATOがミサイルを配備すればモスクワまで5分だと話していたと指摘し、これまではウクライナ領土での戦いであったが、最近国境付近のロシア領側で火事が続くなど、国境を超えてロシアにウクライナ軍側が攻め入ってくるという事態はあり得るだろうかと問うた。
 
 服部氏は、今のウクライナ軍にそこまでの余裕はないだろうと、軍事基地や石油備蓄基地をピンポイントで叩くならばともかく、ウクライナ軍がロシア領を占領してもあまり意味がないので、現実味はないだろうと答えた。

 続いて、停戦交渉が話題に上がった。服部氏はブログの中でウクライナ側が示す4項目をまとめている。

1)クリミア・ドンバスも含めた占領地の解放。
2)ロシアによる戦争賠償。
3)ロシアの戦争犯罪、人道に対する犯罪の訴追。
4)ウクライナの欧州統合路線(EU加盟)が固まること。

岩上「ウクライナがロシアに対する『勝利』で譲れない4項目がありますが、これはロシアも譲れない。というと、紛争はまだまだ続くんでしょうか?」

服部氏「『領土の一体性』っていうのは、どの国も譲れない原則で、ロシアに奪われたクリミアおよびドンバスを奪還しなければならないというのは、ウクライナの政治家として当然掲げるものなんですけど。

 ゼレンスキー大統領の元々の立場は、クリミアとドンバスは10年くらい棚上げしてもいいというようなことを一貫して言ってきたんです。4月に和平交渉が前進しそうだった時も」

岩上「その後、反転して一切譲らないと発言していますよね?」

服部氏「一切譲れないというのは、ロシアに割譲することを認めないという意味で、今すぐ返せということではないと思います。

 ゼレンスキー大統領は基本的にクリミアとドンバスについては『10年棚上げ』って言いますが、要するに『棚上げ』です。

 ところが、ゼレンスキー政権の幹部である、クレバ外相とか、ポドリャク大統領顧問などは、自分たちが戦争で勝っている、という認識があるので。欧米からどんどん武器が来ているという自信があるので、この機会にクリミアとドンバスまで含めて、軍事解放、奪還するという立場です。

 同じ政権内で、結構ニュアンスが異なるんですよね。これが意図的に使い分けているということならばいいんですが、もしこれが政権内の不一致だったりすると、今後のウクライナの政権運営の不安材料ですよね。これはかなり原則的な問題ですので」。

 服部氏は、ゼレンスキー政権内部に、停戦に向けて温度差があると指摘した。これまで、ゼレンスキー政権内部の不一致や戦略については報じられたことはほとんどなかったのではないだろうか。

 ゼレンスキー政権内部に不一致があるとすれば、停戦交渉の大きな障害にもなりかねない。

服部氏「この4項目を改めて見て、つくづく思うのは、1番から4番までのひとつとしてプーチン政権は認めないでしょうね」

岩上「プーチン大統領の立場から言えば、これはもちろん論外でしょう。ロシアは、アゾフなどのネオナチを捕まえて、ロシア語話者への虐待を問題にしたいと思っているわけですから、冗談じゃない、逆だろう、くらいのことをいうだろうと思いますし。

 『ウクライナの欧州統合路線』がEUのことだけを指しているのかわかりませんが、すくなくともNATOには絶対加盟させないというところから始まっているわけですから」

服部氏「ロシアの停戦交渉団の団長であるメジンスキーが、ウクライナのEU加盟は問題視しないと言いましたが、正直、個人的には『眉唾』ですね。絶対に認めたくないと思います。

 別にロシアが決めることじゃないんですが、ロシア側の思惑からしたら、それはあってほしくないシナリオでしょう。

 ウクライナがこれを譲れないと言っていると。ロシア側は一つも受け入れないと。ということは、結論としては戦争はまだまだ続くという」

岩上「なるほど…。今、ある種膠着状態にあるように見えるけれども、この後の展開はどのようにお考えですか?

 テレビや新聞などでは、ロシアはかつての旧ソ連のようにウクライナ全土を占領する意図を持っていると述べる専門家が多くいて、彼らは『全部占領するのは無理だろう』という変な言い方をしています。

 しかし、本気でロシア側は『ウクライナ全土』を占領することを目指していたんでしょうか。ちょっと違うんじゃないかと思っています。

 やはり、ロシア語話者の多い地域をカバーしていくこと。それ以外の地域にどこまでも行くということは考えにくいのではないかと思うんですが」

服部氏「2月24日に軍事侵攻を始めたわけなんですけど。それに先立って21日に、ドンバスのドネツクとルガンスクという2つの地域の国家承認を行っているんですね。ということは、恐らく、ドンバスの2つの地域と、残りのウクライナ本土を、区別しようとしていたことは間違いないと思うんですよね。

 私が当初思ったのは、おそらくドンバスの2つの地域をロシア連邦に併合するんだろうな、と。今でもその可能性はあると思います。残りのウクライナの地域については、併合というよりも、ゼレンスキー政権は打倒して国として弱体化して、ロシアの意に沿うような傀儡政権をつくる、と。

 ただ、ロシアが当初思い描いたような軍事的成果は得られなかったので、この3ヶ月の間に変化してきたということはあったと思います」

岩上「西側のメディアでは、ほとんど取り上げられないんですが、生物学研究所などをロシア軍が捜索をしました。その捜索資料を持って、米国と一緒になって生物兵器を開発しているのではないかというエビデンスを集めていたのではないか。

 捜索と収集が終わったらさっと引き上げるというような行動もしています。なんのために中央部まで行ったのか。あれは軍事行動というよりも、ある種、警察的行動や捜索が目的だったのかなと。

 本気で占領をしていくような展開ではなかったように感じます」

服部氏「ゼレンスキー政権を崩壊に追い込んでしまえば、国全体をコントロールできる、というような認識はあったかもしれません」。

 服部氏は、ロシア軍はやはり首都キエフを陥落させたかったという見立てである。

 インタビューの後半では、米国や欧州諸国のウクライナ紛争への過剰とも言える介入や、長期化の様相を呈してきたウクライナ紛争の最終的な勝者は誰になるのか、ウクライナが中立国として欧州とロシアの架け橋になる可能性はないか、といった話題にも及んだ。

 インタビュー詳細はぜひ、全編動画にて御覧ください。

■ハイライト

  • 日時 2022年5月26日(木)19:00~20:30
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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