【再掲・岩上安身の「ニュースのトリセツ」】オデッサの「惨劇」、緊迫続くウクライナ東部 米国はウクライナを「戦場」にするのか(IWJウィークリー48号より)

記事公開日:2015.5.3取材地: テキスト動画独自
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(取材・文:ゆさこうこ・岩上安身、文責:岩上安身)

※公共性に鑑み、全文公開しました。オデッサの悲劇から一年、この機会にぜひご覧ください!
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 数十人もの人間がビルに閉じ込められ、火をかけられて、焼き殺される。21世紀の出来事とは思えない、信じ難い惨劇が起きた。場所はウクライナの南部、黒海に面した港町オデッサ。時は2014年5月2日、金曜日のことだ。

血と炎の金曜日、オデッサの惨劇

 事件の発端は5月2日、オデッサ市内で起きた。親欧米派のデモ隊と、ロシア系住民とのあいだの衝突だった。この衝突では、石や火炎瓶が投げられ、少なくとも4人が死亡した。さらに、親ロシア派住民が立てこもった労働組合の建物が放火され、46人が死亡、200人以上が負傷した。イタルタス通信やロシア・トゥデイは、この放火がウクライナ民族主義の過激派右派セクターによるものだと伝えている。

▲オデッサの労働組合の建物で生きたまま多くの人が焼き殺された(2014年5月2日)

※オデッサの惨劇については、その生々しい一部始終を「マスコミに乗らない海外記事」さんが写真付きで詳細に記事化している。こちらもぜひ、ご覧頂きたい。

キエフと右派セクターによるオデッサ水晶の夜 (写真・閲覧注意!)

 死亡者のうちの多くが一酸化炭素中毒によるものだが、建物から逃げようとして窓から飛び降りて死亡した人もいるという。また、窓から飛び降りて逃げた人々を右派セクターが取り囲んで殴ったとも伝えられている。

 反政府活動家の一人が、ロシア・トゥデイによるインタビューで放火の様子を語っている。それによると、右派セクターが労働組合の建物を取り囲み、閃光弾や催涙ガスを使って攻撃した。そして、彼が二階の窓から飛び降りて逃げたとき、右派セクターによってバットやチェーンで殴られ、負傷したという。

 冒頭、「21世紀とは思えない」とあえて記した。ひとつは、このオデッサという街には「ポグロム」という名称で呼ばれる、忌まわしいユダヤ人虐殺の記憶が刻まれているからだ。

 18世紀でも、19世紀でも、20世紀でもなく、この21世紀に過去の悪夢を想起させる事件がこのオデッサで起きたのだということ。今回の事件がユダヤ人だけを標的にしたわけではないにせよ、やらかしたのは名うての反ユダヤ主義的なウクライナ・ナショナリストの右派セクターである。悪夢の記憶が蘇らないわけがない。

 もうひとつの理由は、ケリー米国務長官が別の事件を指して同様の表現を用いたためである。それも反ユダヤ主義に深く関わるのだが、このことは記事の後段で言及するので、記憶しておいていただきたい。

 私の祖父は、革命前の帝政ロシア時代、このオデッサに5年間住んでいたことがある。飛行機の技術者としてロシアに飛行機製造技術を学びに行っていたのだという。祖父は私の生まれる前に亡くなっているので、直接、その思い出話を聞いたことはない。祖父と会うことができていたら、きっとウクライナ名物の豚の脂身の塩漬けサーロやボルシチの味とともに、ユダヤ人たちとの交流の思い出も語ってくれたことだろうと思う。

 もともとオデッサは、多民族が集まるコスモポリタンの街、国際的な商業都市であり、かつてはユダヤ人が人口の半数近くを占めていた。

 この衝突の起こる数日前の4月29日、オンラインジャーナル「ストラテジック・カルチャー・ファンデーション」のアレクサンダー・ドネツキー氏が、なぜオデッサで新政権に対する抗議運動が起こっているのかを論じている。

 第二次世界大戦が起こると、他の民族の住民が逃げ出し、オデッサは逃げ遅れたユダヤ人たちが町の人口の80%から90%を占めるに至ったが、その多くがナチスやウクライナの民族主義者によって殺された。ユダヤ人人口は激減したが、それでもオデッサは今なおユダヤ人の人口比が高い。そのため、スボヴォダ党のような反ユダヤ主義者が含まれるキエフの新政権は彼らにとって受け入れ難いものだという。

 「ウクライナ警察のユダヤ人の扱い方は、ドイツ人によるものと同じくらいひどかった。彼らはナショナリストのイデオロギーを擁護し、それは現在のウクライナの国家イデオロギーになっている。マイダンの『ウクライナ万歳、英雄に栄光あれ!』というスローガンは、ヒトラーに忠誠を誓ったアプヴェーア[1921年から44年まで存在したドイツ軍の諜報機関]のエージェントだったステパン・バンデーラにちなんで名付けられたウクライナ国粋主義組織の合言葉にほかならない」。

 ウクライナの根深い反ユダヤ主義と、オデッサをはじめウクライナ各地で起きたポグロム歴史については、私のインタビューにこたえて、大阪大学助教の赤尾光春氏が詳しく解説している。ぜひ、御覧いただきたい。

自国民の虐殺を許すウクライナ政府と、世界の恐るべき沈黙

 ウクライナの東部・南部での情勢の悪化を受け、国連安全保障理事会の緊急会合が2日に開かれた。この席でロシアのヴィタリー・チュルキン国連大使は次のように述べた。

 「私たちは非常に当惑している。ウクライナ南部の都市オデッサからの情報によると、”右派セクター”の暴漢たちが労働組合の建物に押し入り、38人の人々を焼き殺したという。こうした行為は、ナチの犯罪を連想させる。ウクライナのウルトラ・ナショナリストたちは、ナチからイデオロギーのインスピレーションを得ている。

 私たちは、アメリカのジョン・ケリー国務長官、ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイアー外相、フランスのローラン・ファビウス外相、イギリスのウィリアム・ヘイグ外相に、ロシアとともに明確にこの野蛮な行為を非難するよう求める」

 しかし、世界の反応は恐ろしいほど鈍かった。

 米国とヨーロッパ諸国は、オデッサの蛮行を非難するよりも、ロシアがウクライナの親ロシア派住民を支援していると非難することに熱心だった。

 オデッサの惨劇は、ウクライナの国民が同じウクライナの国民を焼き殺したという事件だ。純然たる犯罪であり、当然、犯人は厳重に処罰されなくてはいけない。しかし犯行グループの一部に右派セクターが加わっていると世界中に報じられているのに、右派セクターのメンバーが閣僚の一角をになっているウクライナ暫定政権には、真剣な捜査に乗り出す気配がまるでない。事件の起きた5月2日、キエフの暫定政権が着手したことは、東部で大規模な軍事作戦を開始することだった。4月17日のジュネーブ4者協議の合意は、すでにその遂行が危ぶまれている。

4者協議の開催

 ジュネーブ合意について、ふり返ってみよう。4月17日、ジュネーブで、ウクライナ問題の解決策を探るため、アメリカ・ロシア・EU・ウクライナの4者協議が始まった。アメリカのケリー国務長官、ロシアのラブロフ外相、EUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表、ウクライナのデシツァ外相が出席した。

 話し合いは、はじめから噛み合っていなかった。アメリカ、ウクライナ、EUは、 ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力に対してロシアが支援を行っていると決めつけ、ロシアにそれをやめるよう要求した。だが、ロシアは、そもそもそうした支援はしていないと明言しており、事実関係についての主張が根本的に食い違っていた。

 協議後に発表された共同声明には、親ロシア派武装勢力が武装解除すること、武装勢力が不法占拠している建物から撤退することなどが盛り込まれた。

 「全ての者が、暴力、威嚇行為、挑発行為を慎まなければならない。我々は、反ユダヤ主義を含め、過激主義、人種差別主義、宗教的不寛容の表現を強く非難し、それらを拒絶する。

 非合法的武装集団は全て、武装解除しなければならない。不法に占拠された建物は全て正規の所有者に返されなければならない。ウクライナ諸都市の不法に占拠された道路・広場・公共の場は全て明け渡されなければならない」

 この時点ですでに「反ユダヤ主義」という文言が声明に盛り込まれていることに注意を払う必要がある。キエフの暫定政権の一角にウクライナ民族主義者が食い込んでおり、彼らが悪しき反ユダヤ主義の伝統を引きずっていること、その評判の悪さを4者協議の参加者たちが敏感に意識していたことが見てとれる。

 別のいい方をすれば、「反ユダヤ主義」というレッテルは、強い政治カードになりうるということでもある。

 声明では、欧州安全保障協力機構(OSCE)の特別監視団がウクライナ政府に対する支援をリードし、アメリカ・ロシア・EUはそれを援助することが明示された。

 だが、この声明は具体策に欠けた抽象的なものにも思われた。この協議に参加していない親ロシア派武装勢力の武装解除を決定する一方で、この協議に参加したアメリカ・ロシア・EUが具体的に何をなすべきかは書かれていないのだ。

 だが、ケリー米国務長官は、ロシアが数日以内に緊張緩和措置を講じなければ、ロシアに対して追加制裁を行うと述べた。強硬な姿勢でロシアに詰めよったわけである。

 さらに、ケリー国務長官は、この4者協議の席で、ある文書を取り上げ、「21世紀に存在するべきではないようなグロテスクなビラだ」と批判した。その文書には、「ドネツク人民共和国」の「デニス・プシリン」と署名されていて、ウクライナのドネツク東部都市に住むユダヤ人に登録と財産について報告するよう要求し、そうしなければ市民権を剥奪すると書かれていた。「デニス・プシリン」なる者は、ウクライナ東部の都市ドネツクをウクライナから独立させるべきだと主張し、同時にナチスばりの反ユダヤ主義者ぶりを示しているというわけだ。

 冒頭に書いた「21世紀とは思えない」という表現は、このケリー国務長官の言葉を指す。この文書に対してケリー長官が露わにした嫌悪感はもっともなことだ。

 しかし、これほど高い注目を集める外交の場で威勢のいいタンカを切ったというのに、後になって、ケリー国務長官がふりかざしたそのビラが、なんと偽文書であることが明らかになってしまった。文書に名前が記されたデニス・プシリン氏は、実在する親ロシア派勢力のリーダーだが、彼自身がこの文書について否定したのである。プシリン氏は次のように述べている。

 「これは実際に偽物だし、よくできたものでもない。”人民の長官”と署名されているが、まず、私のことをこういう呼び方では誰も呼んでいない。私は選ばれたわけではない。それに、公印が前市長のものだ。全部フォトショップで加工したものだ」

 偽文書だと明らかに分かる文書が、4者協議という重要な場で「政治カード」として用いられたということになる。超大国の国務長官の切るべきカードではない。実に気まずい話だ。

おとぼけプーチン大統領の「ほのめかし」

 ケリー国務長官は赤っ恥をかいた。他方、ポーカーフェイスを決め込むプーチン大統領の手の内はどうか。

 ウクライナ東部の親ロシア派勢力について、ロシアは関与を否定しているが、それがどこまで本当なのかは分からない。3月にクリミア自治共和国で親ロシア派勢力が空港を占拠したりしたとき、ロシアは関与を否定していたが、最近になってプーチン大統領はクリミアでのロシア軍の関与を認めているからだ。

 インタビューで、クリミアの「リトル・グリーン・メン」(親ロシア派武装勢力)について聞かれたプーチン大統領は、次のように答えた。

 「これについて、すでに何度かおおっぴらに話しています。聞こえるような大きな声ではなかったかもしれませんが。しかし、他の国々と会話したときに、我々の目的を隠したことはありません。その目的というのは、クリミアの人々が自らの意志を自由に表現できるための適切な状態を保証するというものです。

 現在のウクライナ南東部で起こっているような状況がクリミアで進展するのを防ぐため、必要な措置を取らなければなりませんでした。戦車を使いたくありませんでしたし、ナショナリストの戦闘グループや自動火器で武装した過激派に出てきてもらいたくありませんでした。

 当然、ロシアの兵士はクリミアの自衛軍を後援していました。彼らは秩序にのっとって、しかし、プロフェッショナルに決定的な行動を取りました。私はすでにこのことを言っていましたよ」

 インタビュアーから「今日はじめて、クリミアの自衛軍の背後にロシア兵士がいたとおっしゃいましたね」と突っ込まれたプーチン大統領は、「以前にもすでにほのめかしていましたよ」とぬけぬけと言ってのけた。

 現在のウクライナ東部の親ロシア派勢力の背後にロシア軍が存在しているのかどうか、プーチン大統領流の「ほのめかし」に注意しなければならないだろう。

国民に石けん代の寄付を募るウクライナ政府の困窮

 4者協議で採択されたジュネーブ共同声明にもかかわらず、事態はまったくおさまりを見せなかった。ウクライナ東部の市庁舎などの建物の占拠はずっと続いている。

 さらに17日には、ドネツク州クラマトルスクのテレビ塔が親ロシア派勢力によって占拠され、ウクライナの国営・民放放送の代わりにロシアのテレビ番組が放送された。

 だが、これを親ロシア派住民の暴挙だと一方的に断罪することもできない。もともとウクライナではロシアのテレビが放映されていて、暫定政府が3月にロシアのテレビ配信を停止し、それ以降ロシアのテレビが見れなくなったという事情があるからだ。暫定政府は、ロシア語などのウクライナ語以外の言語を公用語から外すという措置を強行したが、それと同じようにメディアからもロシア語放送を排除したのである。今回の親ロシア派によるテレビ塔占拠は、そうしたロシア語話者排斥政策に対する反発行動だった。

 一方で、親ロシア派を鎮圧する任務についているウクライナ軍は、ひどく困窮している。

 以前のブログでも伝えたとおり、ウクライナ軍の装甲車が親ロシア派の住民にやすやすと奪われるような事態が頻出している。士気がいかに低いか想像がつく。

 低いのは士気ばかりではない。予算もかなり低いらしい。予算不足のウクライナ政府は軍の装備のための十分な資金を捻り出すことができないという。防弾チョッキ、ヘルメット、通信機器といった装備だけではなく、下着やリネンや石けんまでもが不足している。このため、内相が国民に寄付を呼びかけている始末である。

 慢性的な財政難に悩み、常に国民に寄付を呼びかけている点では我がIWJも共通しているが、我々はリネンや石けんの不足まで訴えたことはない。ウクライナ軍の窮乏状態は我々のはるか上をゆく。

 そもそもウクライナは主要なエネルギー源である天然ガスの供給を100%ロシアに頼っている。そのロシアへのガス代を払えず滞納しているのが目下のウクライナ政府の現状である。

 ロシアはガスの支払いを辛抱強く待っているが、滞納分が支払われなければ元栓を締めざるをえないと通告している。ガスが止まればウクライナは工場の生産ラインはもちろん、家庭の台所の煮炊きまでストップするだろう。幸いに厳しい冬は乗り越えた。暖房がなくても凍死者は出ないかもしれない。とはいえ、どうやってこれから暮らし、かつどうやって大国ロシアとの戦争を遂行するのだろう?

 米国はしきりにキエフの反ロシア的暫定政権の背中を押し、喧嘩をけしかけるが、IMFが多額の金を貸しつけ、西側の兵器を売りつけたら、それでウクライナが勇ましく戦えるというわけにはいかない。独立後、ウクライナ国民の平均年収は3000ドル台、つまり30万円程度にまで暴落した。そんな貧しい気の毒な国民に、原発を抱えたまま、ロシアとの戦争に突入させようとけしかける方が人でなしというものではないか。

ウクライナ東部の状況悪化

 ウクライナ内相が国民に石けん代の寄付を呼びかけている間に、状況はさらに悪化していった。

 4月20日、ドネツク州スラビャンスク近郊の検閲所で銃撃戦が起こり、5人が死亡した。死亡者のうち3人は親ロシア派勢力、2人は右派セクターの兵士とみられる。右派セクターは2月の政権転覆を武力で推進したあと、ウクライナ東部の親ロシア派勢力の鎮圧のために活動していると言われている。今回のスラビャンスク近郊の銃撃戦について、右派セクターの報道官は関与を否定しているが、現地からは右派セクターのシンボルのメダルが見つかっており、実際に右派セクターと名乗る人物の参加も確認されている。

 法治国家の国内で、私兵が自由に動き回り、武力衝突を繰り返しているのも異様だが、そのグループの行動を治安当局がおとがめなしに見逃していることはもっと異様である。

 4月20日の銃撃戦で事態は収まらなかった。スラビャンスク近郊の検閲所では「毎晩何らかの事件が起こっている」と言う。24日には2人の死亡が伝えられた。

 4月22日、ウクライナ政府は、スラビャンスクで親ロシア派勢力に拷問され殺害されたとみられる地方議員の遺体が発見されたと発表した。この事件を受けて、トゥルチノフ大統領代行は、反テロ作戦の再開を軍に命じた。作戦が再開された後の24日には、衝突によって親ロシア派勢力の5人が死亡した。

 スラビャンスクで25日に、親ロシア派勢力が欧州安全保障協力機構(OSCE)の監視団メンバー7人とウクライナ兵5人を拘束したと伝えられた。

 28日にはドネツク中心部で、ウクライナの統一を訴えるデモ隊と親ロシア派勢力の衝突が起こった。10人以上が負傷したと伝えられている。ルガンスクでは29日、親ロシア派の武装した集団が政府庁舎を襲撃し占拠した。東部の都市ホルフリカやアルチェフスクでも市庁舎等が占拠されたと報じられており、東部の状況はますます悪化している。

国民を殺しても罪に問われない右派セクターの超法規的活動

 こうした状況の中、右派セクターは本部をキエフからウクライナ東部の都市ドニプロペトロウシク(ロシア語ではドニエプロペテロフスク)に移した。右派セクターのリーダーの一人であるディミトリ・ヤロシュ氏は、ウクライナ政府の治安部隊とともに活動すると発言している。どんな権限があって、私兵集団が政府軍とともに作戦行動を行い、ウクライナの自国民の殺害が許されるのか、理解しがたい。ウクライナは、もはや法治国家のカテゴリーからは遠くはずれている。

 前回のブログにも書いたが、右派セクターは、ウクライナ東部の親ロシア派勢力の鎮圧に国軍の政府とともに参加しているとみられてきた。そうした事実を、もはや隠そうともしなくなったということだ。 (再掲)【IWJブログ】ウクライナ東部の混乱――ロシアとアメリカは何を狙うのか 2014.7.20

 彼らの行動は、通常の法治国家であれば、犯罪であり、テロ行為とみなされうる。それを堂々と行えるのは、自分たちが決して処罰されないという強い確信があるからだろう。

 また、税金でまかなわれているウクライナ国軍ですら寄付を募っているというのに、右派セクターはどうやって報酬を得てどこから活動資金と武器とを得ているのだろうか。本来は一般市民の集まった政治団体のはずなのに、それぞれ仕事はどうしたのだろうか?休職して殺し合いに参加しても、クビにならないのだろうか?謎はあまりに大きすぎるといわなければならない。

 ロシアのラブロフ外相は右派セクターの勢力拡大に懸念を示し、それがジュネーブでの4者協議の合意に反するものだと述べる。

 「ジュネーブで、過激派の全面的な排除について合意がなされたが、右派セクターはまだ活動している。ジュネーブ協議の後のイースターの日曜日に、右派セクターはスラビャンスク近郊で数名を殺害するという挑発行為を行った。ジュネーブで合意されたことは何もなされておらず、当然キエフ政府が遂行しなければならないことを彼らがやっている」。

 眉をひそめたくなるのは、ウクライナ東部の親ロシア派勢力の鎮圧を右派セクターとともに行っているのが、米国の民間軍事会社(PMC)のメンバーとみられていることだ。

 なぜ、米国の傭兵がこんなところでうろちょろしているのか。先述した通り、ウクライナの財政は破綻していて、国民は薄給、ガス代も滞納中である。軍のリネン代や石けん代もままならない。そんな国が、米国のリッチな傭兵を雇うカネがあるわけがない。結局のところ、そのPMCを雇う費用はIMFからの資金で賄われているとみられる。

 軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は、私のインタビューにこたえて、「グルジアの時には、明らかにPMCが現地で行動していました。これは間違いない」と証言した。グルジアでも米国が仕掛けたなら、ウクライナでもまた、と考えるのが自然だろう。

 不思議でならない。

 米軍の部隊がウクライナ東部に展開したら、侵略的な軍事行動と非難されるだろう。では、民間の傭兵なら許されるのか? 武器を携行し、人を殺しても? なぜ世界は、PMCという殺人企業の存在とその危険な軍事行動を放置し、黙認しているのか。

 私には、まったく合点がいかない。

アメリカとロシア

 一方でアメリカは、何食わぬ顔でロシアを非難し続けている。親ロシア派勢力に対してロシアが支援しているという一点を責め続けて、ロシアが4者合意を履行しなければ、ロシアに対する追加制裁を行うと凄んでいる。また、アメリカは、ウクライナ国境付近に配置されているロシア軍部隊についても懸念を示しており、バイデン副大統領はロシアに警告を発した。

 だが、ロシア側は、反対に、アメリカの責任について問い質した。ラブロフ外相は、アメリカに対して、その影響力を行使するよう求めている。

 「キエフの自称政府の人々に対してアメリカが影響力を持っていることは疑いがない。CIA長官が内密にキエフを訪問した直後に反テロ作戦が発表された。そして、この作戦はイースター中に停止されていたが、アメリカのバイデン副大統領がキエフを訪問した直後に、再開された」。

 ラブロフ外相は、「国民に対して過激派ナショナリストの支援を受けた軍隊を使うことは、絶対的に許されない暴力行為だ。それどころか、犯罪的な決定だと思われる」とウクライナ軍の活動を非難した。

 さらに、ラブロフ外相は別のインタビューで、バイデン米副大統領のキエフ訪問に触れ「アメリカ人がショーを行っていると信じない理由はない」と述べた、

 ラブロフ外相の言い分には一理ある。米国はCIA長官から、副大統領までキエフに乗り込んだ。大統領候補にもなったジョン・マケイン上院議員はキエフで「ロシアはもはや国家ではない。天然ガスを供給するだけのガススタンドだ」とロシアに対して徹底的な挑発演説を行った。

 だがロシアの閣僚や高官が、ウクライナ東部のハリコフやドネツクなどに乗り込み、反キエフ、反米のアジテーションを行ったという事実はない。挑発と煽動の熱心さという点では米国がロシアをはるかに上回っている。

 ウクライナ国境地帯では、ロシア軍の配備が続けられていると言われる。その一方で、アメリカは、ポーランド、リトアニア、ラトヴィア、エストニアのNATO加盟国に600人の軍を派兵し、軍事演習を行うことを発表した。さらに、アメリカのフリゲート艦が黒海へと向かった。

 アメリカは「この地域での平和と安定を促進するため」と主張している。こうした米国の後ろ盾がなければ、右派セクターの面々がいくら命知らずのならず者でも、法的権限もないまま、ウクライナの西から東まで公然と乗り込んで堂々と殺し合いを行うことはできないだろう。

 今、私が理解できていることは、ごくわずかなことだ。野球をやるためには、ボールパーク(野球場)が必要だ。サッカーのためには、サッカースタジアムが、陸上のためには陸上競技場が必要だ。そして戦争のためには、戦場がきっと必要なのだ。ウクライナには金がないが、広いスペースはある。そこに金を貸し込み、武器を買わせ、戦争を始めさせようとしている連中がいる、ということなのだ。

第2のチェルノブイリ事故の可能性、さらに核の処分場に

 4月26日が今年もまた巡ってきた。1986年に起きたウクライナのチェルノブイリ原発事故から、今年は28年目にあたる。私たちはこの黙示録的な出来事を決して忘れることはできない。

 だが、28年前の悲劇を忘れまいとする人々は多数いても、これから先、ウクライナで再び大規模な核の惨事が起こるかもしれない、ということについて関心を向ける人はきわめて少ない。

 ウクライナ新政府は、アメリカのウェスティング社と原子炉用核燃料の購買契約を締結した。だが、ウェスティング社の核燃料と、ウクライナの原子炉は親和性がなく、事故が起こりうる可能性も指摘されている。日本を含め、西側の脱原発派は、この問題の危険性に、鈍感すぎはしないだろうか。

 4月25日、原子力エネルギー・産業専門家国際連合(IUVNEI)は、「アメリカ企業ウエスティング・ハウス製核燃料は、ソ連時代の原子炉の技術的要求事項に合致せず、使用すれば1986年4月26日に起きたチェルノブイリ大惨事規模の事故を引き起こしかねない」という声明を発表している。

 IUVNEIは、アルメニア、ブルガリア、ハンガリー、フィンランド、チェコ共和国、ロシア、スロバキア、ウクライナの1万5千人以上の原子力産業経験者を組織している。2010年に設立され、モスクワに本部を置いている。

 懸念には、前例がある。

 2006年、チェコの原子力発電所は、ウェスティング・ハウスが製造した燃料の減圧に直面し、チェコ政府は、同社を燃料供給業者から外すことになった。2年前にも、ウクライナで、放射能の制御できない放出事故が発生しかけるニアミスがあった。「南ウクライナの原子力発電所で事故が起きなかったのは奇跡に過ぎない」と、「ウクライナで”第2のチェルノブイリ”を起こそうとしているアメリカ」という記事の中で筆者のレオニード・サヴィンは述べている。

 米国の原子力産業の業者たちは貪欲である。ソ連型原発に、親和性のない米国製の燃料棒をねじ込もうとするだけでなく、ウクライナに乗り込んで核廃棄物のビジネスも展開しようとしている。

 2005年には、アメリカに本拠地を置くホルテック・インターナショナル社が、ウクライナの使用済み核燃料貯蔵プロジェクトに関する契約を締結した。

 当時、アメリカ・ウクライナ経済協議会理事長のモーガン・ウィリアムズ氏は、ウクライナがホルテック・インターナショナル社とウェスティング社と契約したことは、「ウクライナのますますのエネルギー自立を保証するための努力」だと述べた。

 だが、ホルテック・インターナショナル社のコンテナの品質が悪かったために放射能漏洩事故が起き、2011年末にはキエフ事務所を閉鎖している。

 「モーガン・ウィリアムズはウクライナにおけるシェル、シェブロンと、エクソンモービルの権益を代表するロビイストとして知られている。彼はユーラシア、北アフリカや、中南米での”カラー革命”画策に関与しているフリーダム・ハウスと密接な繋がりを持っている」と、前出のレオニード・サヴィンは書いている。

 そして、ウクライナの核ビジネスに関するもうひとつの事実が挙っている。

 もうひとつ、サヴィンは重大なスキャンダルについて指摘している。ウクライナは「戦場」になるだけでなく、ヨーロッパの核廃棄物の「ゴミ捨て場」にもされようとしている、というのである。

 「しばらく前に、ウクライナ暫定政府とヨーロッパ諸国との間で秘密協定が合意された。それは、EU加盟諸国から出る核廃棄物をウクライナに貯蔵するという協定だ。法律に反しているため、この取引は機密扱いにされている。キエフ高級官僚の何人かは報酬を得た」

 さらには、右派セクターのリーダーの一人だったアレクサンドル・ムジチコ氏の殺害とこの件とが関係していると指摘されている。

 「アレクサンドル・ムジチコ(サシコ・ビリー)は、リウネ出身の名高い民族主義者だったが、彼は、共謀を公にするとキエフの支配者たちを脅迫しようとした。このため、彼は、アルセン・アヴァコフ内務大臣の命令で殺害されたのだ」

 ムジチコ氏は、指名手配の末に、3月25日にウクライナ警察に射殺されている。右派セクターには、新政権で要職のポストを得たスヴォボダ党や、現在ウクライナ東部で国軍とともに活躍するヤロシュ氏の一派が含まれるが、その一方で、ムジチコ氏は新政権から指名手配された挙げ句に殺されたのだった。

対ロシア追加制裁

 4月28日、アメリカのロシアに対する追加制裁が発動された。

 「ロシアのウクライナに対する継続的で違法な介入およびウクライナの民主主義を衰退させ、その平和・安全・安定・主権・領土保全を脅かす挑発的行為に対して、アメリカ合衆国は、今日、さらなる行動を取った。2014年4月17日のジュネーブでの協議の場で、ロシア・ウクライナ・アメリカ・EUは、ウクライナ東部で暴力行為や挑発的行為を行わないなど、状況を沈静化させるためのいくつかの方法を決定した。4月17日以来、ロシア派ジュネーブでの約束を遂行するための行動を何一つ取らず、一層危機をエスカレートさせている。ウクライナ東部の最近の暴力行為に対するロシアの加担は疑う余地がない」

 プーチン大統領の側近などのロシア政府当局者7人の資産凍結・アメリカのビザの停止、およびプーチン大統領に関係する企業17社の資産凍結を行うほか、ハイテク製品のロシアへの輸出禁止が決定された。

 こうした対ロシアの経済制裁は、アメリカの企業にも悪影響を及ぼしている。マクドナルド、フォード・モーターなどがルーブル安によって影響を受けていると報じられている。

 5月25日に予定されているウクライナ大統領選挙まで、一ヶ月を切った。2月に暫定政権ができたウクライナ政変の第1幕、クリミア自治共和国のロシアへの編入が決まった第2幕、そして第3幕が幕開けしてから、東部の諸都市での親ロシア派勢力のデモ、オデッサでの惨劇と、ウクライナの情勢が落ち着く気配はない。むしろ、状況はますます悪化している。多くの識者が期待を半分込めて「大したことにはならないだろう」という予測を立ててきたが、それらはことごとく裏切られ続けてきた。自らウクライナに手を突っ込んでいる米国の、紛争の拡大を求める強硬な意志を読み誤ってきたからであろうと思う。

 もし本当に米国の思惑が天然ガスの市場争奪をめぐるものであるとしたら、ロシアからウクライナ、EUへと続く天然ガスのパイプラインが遮断されるまで引き下がることはないのではと思われる。

 このウクライナ政変の第4幕が仮に開かれるとしたら、ウクライナ東邦の衝突と鎮圧が「内戦」のレベルを突破して、ロシアとNATOを巻き込んだ「戦争」へと転化する時だろう。それはもはや「政変」などではなく、21世紀の資源をめぐる世界規模の戦争となってしまうかもしれない。それは起こらないでもらいたいと、私も心から祈る。

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“【再掲・岩上安身の「ニュースのトリセツ」】オデッサの「惨劇」、緊迫続くウクライナ東部 米国はウクライナを「戦場」にするのか(IWJウィークリー48号より)” への 2 件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    元シリア大使の国枝氏が饗宴Ⅳで話されていたことを急に思いだして、胸騒ぎがしています。
    日本の首相が立て続けにトルコを訪問したこと。それも一度は国会会期中に。
    トルコには米軍基地があるはず。

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    どこよりも総括的に「今の」ウクライナを解説してる力作。力を込めて言います、読んでほしい!

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