【IWJブログ】核安全保障サミット、日米がプルトニウム返還で合意 その政治的意味とは 2014.3.29

記事公開日:2014.3.29取材地: テキスト動画
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 3月24日、核安全保障サミットに参加するため、オランダのハーグを訪れていた安倍総理は、日本政府が米国から提供されていた高濃縮ウランとプルトニウムを米国に返還すると発表した。24日、ホワイトハウスが、オバマ大統領と安倍総理の共同声明というかたちで発表した。

 返還が決まったのは、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構が、高速炉臨界実験装置(FCA)用に保管していた、すべての高濃縮ウランと331キロのプルトニウムである。

 安倍総理は核安全保障サミットで演説し、2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故の経験を踏まえるとしたうえで、高濃縮ウランとプルトニウムの返還について、「日本には核セキュリティー強化を主導する責任がある。私自身が先頭に立って進める。日米協力の下、代替燃料を用いて最先端研究を行い、核テロ対策と研究開発を両立する」と、その意義について語った。米国にプルトニウムを返還することは、核によるテロを想定し、日米が協力して対応するための措置だ、というのである。

 しかし、今回のプルトニウム返還決定の持つ意味は、はたしてそれだけだろうか。米国からのプルトニウム返還要求について、IWJは、東京都知事選が告示された直後の1月下旬から、その政治的意味を考えるため、精力的に取材を重ねてきた。

プルトニウム返還、その政治的意味とは

 1月27日、共同通信が、「オバマ米政権が日本政府に対し、冷戦時代に米国などが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが26日、分かった」と、第一報を報道。この報道についてIWJが外務省に取材すると、対応した軍縮不拡散・科学部、不拡散・科学原子力課の首席事務官は、「核セキュリティー強化の中で、アメリカだけではなく、世界的に核テロの脅威となる物質をどんどん減らしていこうという大きな方向性があり、そのような中で出てきた話であると承知しておりまして、具体的な中身についてはコメントを差し控えたいと思います」と回答。はぐらかすような言い方であるが、共同通信の報道を否定はしなかった。

 今回、日本が返還に合意したのは、茨城県東海村に保管されている331キロのプルトニウムだが、日本には、全体で44トンのプルトニウムが既に蓄積されている。これは、長崎型原爆であれば、じつに4000発分に相当する量である。

 日本がこれほどまでのプルトニウムを蓄積することになったのは、日本政府がこれまで、原発で出た使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出し、それを再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の柱として採用してきたからである。この「核燃料サイクル」は、原子力に関する技術を日本側が包括的に運用することを認めた、1988年の日米原子力協定によって可能となったものだ。

 現在、高速増殖炉「もんじゅ」の運転停止により、この「核燃料サイクル」の実現見通しは立っていないが、プルトニウムを生み出す「核燃料サイクル」の技術を維持することは、「兵器級プルトニウム」を蓄積し、核兵器を潜在的に保有することに、ほぼ等しいと言うことができる。

 私が、2月4日にインタビューした、文芸評論家で早稲田大学教授の加藤典洋氏は、米国からのプルトニウム返還要求の政治的意味について、「日本から中庸が消える」と指摘した。

 日本は戦後、「原子力の平和利用」の名の下、原発を導入した。しかしそれは、「平和利用」という大義名分を盾に、原発から出るプルトニウムによって核技術抑止能力を持つための手段であった、というのである。加藤氏は、戦後の日本は、「原子力の平和利用」「非核三原則」という側面、核技術抑止という側面、そのどちらが日本の本音なのかを明らかにはしないという「あいまい路線」、すなわち「中庸」を取ってきた、と指摘。しかし、その「中庸」が今、消えつつあると言うのである。

■ハイライト

 私が2月3日にインタビューした、京都大学原子炉実験所の小出裕章氏も、米国からのプルトニウム返還要求を、「明らかな政治的メッセージだ」と断言した。

 小出氏は、靖国神社への参拝や集団的自衛権の行使容認といった、安倍政権の暴走に眉をひそめる米国は、日本に対して、従来の「中庸」路線をそう易々とは認めないのではないか、と指摘し、米国からのプルトニウム返還要求は、中国との間で政治的緊張を高める日本に対して、強い警告を発する米国からの政治的メッセージと受け取れる、と語った。

■ハイライト

日本政府は「核燃料サイクル」を諦めていない

 今回、日本が米国による331キロのプルトニウム返還要求に応じたからといって、「核燃料サイクル」と、そのコインの裏表の関係にある潜在的核保有を諦めたと言うことはできない。事実、日米がプルトニウムの返還に合意し、共同声明を発表したのと同じ24日、自民党と公明党は、近く閣議決定される見通しのエネルギー基本計画案に関するワーキングチームで、「核燃料サイクル」の柱である「もんじゅ」を存続させる方向で合意した。「もんじゅ」は、いまだ稼働の見通しが立っていないが、にも関わらず、政府は、「核燃料サイクル」を諦めていないのである。(もんじゅ:自公が存続を条件付き容認で一致 毎日新聞、3月24日)

 安倍総理は、核安全保障サミット後の記者会見で、海外の記者から、「なぜ日本は大量の核物質を保有し続けるのか? 危険ではないか?」と問われ、「我が国の取り組みは、核セキュリティサミットの目的と完全に合致している」と、答えにもなっていない答えを披露した。安倍総理のこのはぐらかすような答弁からは、日本におけるプルトニウムの蓄積が、本心では、潜在的核保有のためであるということがうかがわれる。

安倍総理 プルトニウム大量保有に関し弁明(テレビ朝日、3月26日)

 私は2月12日、この「核燃料サイクル」を可能とするべく1988年に締結された日米原子力協定(包括協定)で、交渉の実務を外務省で担当した、遠藤哲也氏にインタビューを行った。遠藤氏の口からは、実務担当者にしか知り得ない交渉の生々しい舞台裏から、「核燃料サイクル」の今後の展望、そして日本の核武装の可能性まで、貴重な証言が次々と飛び出した。

■ハイライト

 このインタビューは、詳細な注を付し、さらに遠藤氏が2012年10月4日に行った日本記者クラブでの講演の文字おこしと、遠藤氏が2007年発表した論文「日本核武装論の問題点〜日本にとって現実的な政策オプションたりうるのか」を付録として添付し、メルマガ「IWJ特報!」でお届けする予定である。この機会にぜひ、ご購読いただきたい。

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「【IWJブログ】核安全保障サミット、日米がプルトニウム返還で合意 その政治的意味とは」への1件のフィードバック

  1. hotaka43 より:

     ガイアの夜明けじゃないが、再生しないとこの国は漂流する。自由主義側には猜疑心で見られ、共産主義には来るなと言われて、行き場を失って憤死だ。今の安倍政権は完全にダッチロールに突き進んでいる。孤立無援で三方からミサイルが飛んで来る懸念をしなきゃいけない状態に成りつつある。
     今のウクライナ問題で、方向を間違えるとエライ事になる。エネルギーは入って来なくなり、無理して壊れかけの原発まで動かして、ぶっ飛ばしてしまう懸念。
     経産省は自分の所の権益を死守する為、自公が付け足そうとした、再生エネルギー促進文言にまで、反対を押しつけている。この権益死守には、財務、防衛、法務、農林など殆ど全ての役所が絡んで居る。だから国民の代表であり、政権を担っている政党の意見にさへ、異議を押しつけられる。
     今回のプルトニウムと核兵器保持問題にもこれらが絡んでいるので始末が悪い。
     それだからこそドイツの様に核兵器保持などという幻想を捨てる為に、脱原発を標榜しなくてはいけないのだ。その為には先の大戦での被害国に対する謝罪が大変重要なのだ。それを実践してきているのがドイツそのものである。彼の国の大統領の仕事はそれだけ、といってもいい位膝を折に歩いている。わが国も本当ならば天皇がその歩みをしなくてはいけないのだが、それをすると普通の国民でも反対し出すだろう。本当はそれが出来るような環境に我が国を進めるのが役人や、マスメディアの務めなのだが。
     そこでしなければいけないのは、首相の役目になるのだ。しかし今はその逆を行っているのが総理大臣という悲劇である。いや、喜劇かもしれない。

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