【IWJブログ】ウクライナ政変第2幕 クリミアの独立・ロシア編入までのドキュメント ~コソボ独立を承認した米国のダブルスタンダード 2014.3.27

記事公開日:2014.3.27 テキスト
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(文:ゆさこうこ、文責:岩上安身)

特集 IWJが追う ウクライナ危機
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 ウクライナ政変について、勃発から連続してブログでその実相を報じ続けている。

 前回は3月のはじめ頃まで、首都キエフの独立広場での民衆の抗議行動が銃撃戦へ、ついには政権打倒へと至った顛末を報じてきた。そしてこの「ユーロマイダン(欧州広場)劇場」が、無垢な民衆による非暴力の民主革命と言えるのかどうか、疑問なしとしないことも指摘してきた。

 首都キエフからヤヌコビッチ大統領が逃げ出し、反政権側が新政権樹立を高らかに宣言した直後から、焦点はウクライナ南部、黒海に突き出したクリミア半島に移った。3月11日、自治共和国議会はロシアへの編入を求める議決を採択し、3月16日にその是非を問う住民投票が行われた。クリミアはロシア系住民が約6割が占めているため、賛成を求める声が多数を占めるであろうことはあらかじめ予測されていた。欧米諸国は、この投票を「違法」とみなして強い反対を表明したが、投票の結果、96.77%がロシアへの編入への賛成を示した。

  • 2014年3月17日付 毎日新聞記事「クリミア:独立を宣言、ロシア編入求める決議を採択」(当該ページ削除)

 この結果をうけて、ロシアのプーチン大統領は、ロシアへのクリミア編入を正式に決定し、18日にクリミアのアクショノフ首相と編入条約に調印を行った。これに対し、住民投票を「違法」とみなしている欧米諸国は、ロシアに対する経済制裁を強化するなどの動きを見せた。

  • 2014年3月17日付 FNN記事「クリミア議会、独立国家であると宣言する文書採択と発表」(当該ページ削除)
  • 2014年3月18日付 時事ドットコム記事「ロシア、クリミア編入=ウクライナ排除、条約に調印-欧米、追加制裁へ」(当該ページ削除)

 昨年11月にキエフの独立広場で始まったデモ抗議をウクライナ政変の第1幕とするなら、舞台がクリミアへ移ってから、ウクライナからの独立とロシアへの編入の是非を問う住民投票までは第2幕となる。今回のブログでは、第2幕の展開を追う。

記事目次

ロシア派兵承認に対する各国の動き

 3月1日、ロシアのプーチン大統領は、クリミアのロシア系住民保護のためにウクライナに派兵する提案を行い、議会上院はこれを承認した。派兵期間は、「ウクライナの社会的・政治的状況が正常化するまで」としている。このロシアの決定を懸念して、国連安全保障理事会が緊急会合を開催したほか、米露両首脳の電話協議も行われた。

 安保理会合では、ウクライナのセルゲーエフ国連大使が国連加盟国に対して、「ロシアによるウクライナ侵攻を止めるための可能な限りの対処」を要請する一方、ロシアのチュルキン国連大使は、「軍事介入がクリミア自治共和国のアクショノフ首相の要請を受けたもの」と反論した。アメリカのパワー米国連大使は、ロシアとウクライナ新政権の直接の対話を呼びかけたという。

 3月1日にロシアとアメリカの首脳のあいだで行われた電話会談では、オバマ大統領は、ロシアの軍事介入を「ウクライナの主権と領土保全に対する侵害」とし、国際法違反だと言葉厳しく非難した。また、国連安保理と全欧安保協力機構(OSCE)による国際監視団を派遣することを提案した。この米露首脳電話会議と並行して、ケリー米国務長官は、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行に電話し、ウクライナ支持を伝えている。

  • 2014年3月2日付 毎日新聞記事「ウクライナ:ロシア、軍事介入へ…米大統領は撤収要求」(当該ページ削除)

 新しい週が始まった月曜日、3月3日には、 EU (欧州連合)の緊急外相理事会が開かれた。EU外相は理事会後に、ウクライナへ軍事介入を決めたロシアを非難する声明を発表した。

「EUは、ロシア軍が侵略行為によってウクライナの主権と領土保全を明確に侵害していること、および、ウクライナ領土に軍隊を派兵するための3月1日付のロシア議会による承認を強く非難する」。また、EUは同声明で、ロシアに対して、軍の即時の撤退と、ウクライナとの協議を求めた。「EUは、現在の危機に対する平和的な解決を求め、国際法の原則の尊重とそのもとでの義務の尊重を求める」。

 こうした動きを見ていくと、いかに欧米がキエフでの政権打倒直後からロシアによるクリミア併合の動きを強く牽制していたかがよくわかる。同時に、言葉はきわめて厳しいものの、その「実効性」に自信を持ってはいない様子もうかがえる。

 一方、ドイツのメルケル首相は、2日にプーチン大統領と電話で会談を行い、政治対話を開始するために事実調査団を創設するという提案を行った。独政府報道官によると、プーチン大統領はこの提案を受け入れたと言う。

 6日にはEU首脳会議が行われ、そこで、ウクライナの新首相アルセニー・ヤツェニュク氏がウクライナの状況説明を行った。この後、ロシアとウクライナの交渉によって問題を解決するべきとする声明が出され、欧米によるロシア制裁の可能性も示された。

「この危機に対する解決策は、多国間機構を通じて行われうるものを含め、ウクライナ政府とロシアとの交渉によって見出だされるべきである。この交渉は数日内に開始されるべきであり、限られた時間内で結果を生み出すべきである。そのような結果が得られない場合には、EUは、渡航禁止や資産凍結やEUとロシアとのサミットの中止などによる追加措置を決定する」

 国際社会では「新顔」のヤツェニク首相に対して、EUが惜しみなく「支援」の約束をおこなう様子からは、西側がキエフの新しい権力者たちが何者であるのか、その履歴やプロファイルなどを気にかけていないことが見てとれる。米国もそうだが、EUはウクライナ内部の政変であるのに、当事者であるかのようである。そして米国やEU以上に「当事者性」を発揮してみせたのがNATO(北大西洋条約機構)である。

 NATOのラスムセン事務総長は、5日に行われた記者会見で、「本日、NATOはいくつかの即座の処置を決定した」と述べ、 ロシアとの協力関係を見直すことを表明した。

「NATOとロシア間の協力全体を見直している。NATO外相が4月上旬に決定を下す。これらの措置は、『ロシアの行為は重大な結果をもたらす』という明確なメッセージだ」。

 米国、EU、NATOがテンポよく、ウクライナ新政権支持で足並みをそろえてみせたその一方で、中国は一線を引く構えをみせた。

 中国の習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナを巡る見解がかけ離れていないことを認識したと明らかにした。ロイターは「緊張が続くウクライナ情勢をめぐり各国が異なる反応を示す中、長期的な視点で考えた場合、最も重要となるのは米国でも欧州連合(EU)でもなく、中国の出方だろう」と論じるコラムを掲載した。

 中国が鍵を握る。言い換えると、中国がプーチン大統領によるクリミア併合を認めるのであれば、欧米がいかにロシアを封じ込めようと躍起になっても、制裁には効果がないことがすでにこの時点で薄々明らかになりつつあったのである。

 オバマ大統領は、それでも強い調子でプーチン大統領にロシア軍の撤退を迫った。

 6日午後には、アメリカのオバマ大統領とロシアのプーチン大統領の電話会議が行われ、オバマ大統領は「ロシアの行為がウクライナの主権と領土保全を侵害している」と強調した。そして、「国際的な監視機関が、ロシア系民族も含め、すべてのウクライナ人の権利を保証する」と述べ、 ロシア軍が撤退するべきだと主張した。

 これに対してプーチン大統領は、ヤヌコビッチ前大統領がEUの仲介で2月21日に調印した合意文書にもとづいて解決を図るべきと主張したという。

ロシアに対する制裁

 ロシア非難と制裁辞さずの合唱は、欧米でますます高まった。

 オバマ大統領とプーチン大統領の電話会談が行われた木曜日、3月6日には、 米下院外交委員会は、ヨーロッパとともに、ロシアに対する制裁を強化することを求める決議を採択した。その制裁の中身とは、「ウクライナの平和と領土を脅かす個人・団体」について、米国管理下にある資産を凍結すること、およびビザの発給を停止するというものだ。

 同じく6日、オバマ大統領は、「ウクライナの主権と領土保全を侵害する個人・団体、すなわちウクライナ国民の財産を奪う個人・団体に対する制裁を認める大統領令に署名した」と発表した。これらがたった一日の間に行われたのだ。なんと手回しのよいことか。欧米諸国の揺るぎない連帯と毅然たる姿勢は十二分に示せたといえるだろう。

 欧米諸国から、ここまで厳しい「制裁」を受けたら、たいがいの国は震え上がるに違いない。だが、日本に対してならともかく、ロシアにそうした圧力が効くかどうかは、また別の問題である。

 よくよく考えてみれば、ロシア要人の「米国管理下にある資産」がどれほどのものなのか不明であるし、アメリカに渡航するつもりがない人たちに対して「ビザの発給を停止」したところで、「制裁」の効果が生じるとはあまり思われない。

 大上段に「制裁」をふりかざして、その結果、ロシアから譲歩を引き出せず、政治的な目的を達成できなかった場合、米国とEUの国際社会におけるメンツは丸つぶれとなる。諸刃の剣である。

 現実的に「制裁」の効果を生み出すのは、貿易を停止することだと考えられる。しかし、EUにとってロシアとの貿易停止は実際には困難だ。現在、EUのロシア向け輸出は、全体の4割強、輸入は5割を超えている。

  • 2014年3月8日付 毎日新聞記事「ウクライナ情勢:対露制裁強化、欧州で慎重論根強く」(当該ページ削除)

 EU諸国のなかでも、とりわけドイツは、冷戦の終結以降、ロシアとの間で密接な経済的な結びつきを深めてきた。ドイツは石油やガスをロシアから輸入しており、ロシアでビジネスを行っているドイツの企業は6000社あり、薬品や自動車機械などの貿易を行っている。

 6日、EUはロシアに対する制裁として、次のことを決定した。
1. ビザ自由化協議を即時凍結
2. 数日以内に全欧安保協力機構(OSCE)や国連が関与する仲介のための「連絡グループ」を受け入れ、ウクライナ新政権との直接対話を開始するまでは、政権幹部などの渡航禁止や資産凍結を行う
3. 軍事措置やクリミア半島併合など国際法違反があった場合、経済制裁を行う

  • 2014年3月8日付 毎日新聞記事「ウクライナ情勢:対露制裁強化、欧州で慎重論根強く」(当該ページ削除)

 ロシアに対する経済制裁が進められる一方で、ロシアの隣接地域での軍事的プレゼンスも続々と強化されていった。5日には、アメリカのヘーゲル国防長官が、NATOのバルト3国領空における警戒活動への関与を強化し、ポーランドとの合同訓練を拡大することを表明した。

 バルト三国はかつてソ連邦を構成した15の共和国のうちの三ヶ国であり、ポーランドはソ連の衛星国としてワルシャワ機構を構成した中核国だ。四半世紀前には東独とともに西側に対する東側の最前列に据えられていたポーランドが、今は西側の最前列としてロシアに対峙する。冷戦終結とソ連邦崩壊以後、NATOがロシアの勢力圏をいかに次々と侵食していったかがよくわかる。

  • 2014年3月6日付 産経ニュース「米、バルト3国領空警戒を強化、ポーランドとは合同訓練拡大」(当該ページ削除)

 さらに、ロイターの報じるところによると、7日金曜日に米海軍の誘導ミサイル駆逐艦がトルコのボスポラス海峡を通過し、黒海に向かった。クリミアは、黒海の北岸に位置している。ロシアの南部の「脇腹」に、アメリカのミサイルが突きつけられた格好である。このことが持つ意味を理解するには、米露の立場を入れ替えてみればよく分かる。フロリダ沖にロシアのミサイル駆逐機が遊弋し、「中南米に手を出すな」と拡声器で警告するようなものだ。突然にロシアがやったらどえらい騒ぎになるだろう。そう考えてみれば、黒海への米駆逐艦の派遣がたいへんな軍事的圧力であるかがわかる。うがった見方をすれば、16世紀以来の南下政策によってロシアが勝ち穫った黒海の制海権を、ウクライナの政変に乗じて米軍とNATOを奪おうとしているともとれる。

ソチのパラリンピックへの影響

 しかし、ロシアはお構いなしだった。3月第1週の週末、7日の金曜日、 ロシア軍とみられる武装部隊が、クリミア半島セヴァストーポリでウクライナ軍のミサイル基地を制圧した。

  • 2014年3月8日付 朝日新聞記事「ウクライナ軍のミサイル基地を制圧 ロシア軍か」(当該ページ削除)

 同7日には、ロシアのソチでパラリンピック大会が開幕されたが、高官派遣を見合わせる国々が出てきた。アメリカは、代表団の派遣をキャンセルし、イギリスは、閣僚やエドワード王子の出席を取りやめた。さらに、オランダ、カナダ、ポーランド、フィンランド、オーストリア、チェコ、トルコ、ギリシャ、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドも、代表団や閣僚を派遣しないことに決めた。

  • 2014年3月7日付 ニューズウィーク記事「ソチ・パラリンピックへの政府高官派遣、日独除き取りやめ相次ぐ」(当該ページ削除)

日本の対応

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