2013/12/02 秘密保護法案、「閣僚も事前に内容を把握せず」 官僚の拙速ぶりを日弁連・清水勉弁護士が指摘

記事公開日:2013.12.2
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特集 秘密保護法

 「与党議員や大臣は、事前に法案の中身を知らなかった。これは異常なことだ」──

 特定秘密保護法案が強行採決を経て衆議院で可決され、近く参議院でも可決の見通しとなるなか、情報公開について詳しい専門家三名による記者会見が12月2日、日本外国特派員協会にて行われた。

 東京新聞の論説委員を務める桐山桂一氏、弁護士で日弁連秘密保全法制対策本部事務局長の清水勉氏、NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子氏が、それぞれの立場から、秘密保護法案の恐ろしさを訴えた。

 桐山氏は、法案成立は「民主主義の危機」であるとし、知る権利の剥奪につながると主張。清水氏は、「個人の意見表明までもがテロリズムの対象になる」と法案の解釈を提示した。また、三木氏は、官僚による情報の隠蔽に拍車がかかるとの懸念を示した。

 さらに清水氏からは、町村信孝元官房長官との対談の際、町村氏が「自民党の原案よりも、清水氏の提示した法案の方が良い」と発言していた事実も明らかにされた。

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表現の自由が「崖の上」に立っている

 東京新聞の桐山桂一論説委員は、冒頭、今年9月20日に英紙ガーディアンが米国情報公開法(Freedom of Information Act)に基づき公開請求し、1961年に米国で起こった原爆投下事故の情報をスクープしたことに触れた。桐山氏は、「行政文書を官僚が自由に破棄できる日本では、(同様の)重大な自衛隊の事故について、公開されないのではないか」と述べ、「重要な防衛上の事故であっても日本は隠すだろう」と、官僚の隠蔽体質に懸念を示した。

 その上で、今回の特定秘密保護法案は、「政府にとって都合の悪い情報を隠す仕組み」だと説明。行政による秘密指定が司法や国会のチェックを受けない、「三権分立の原則」に反する法案だと非難した。

 日本の刑法は、犯罪の実行があって初めて刑が課されるのが原則であるが、秘密保護法は実行する前でも、情報に接近しようとするだけで処罰される「事前処罰」が規定されている。桐山氏は「表現の自由、知る権利が崖の上に立っている」と強い口調で訴えた。

 「大きな声を出したデモはテロリズムだ」と、石破茂自民党幹事長がブログに書いたことにも触れ、法案が「主義主張を他人に強要する活動」をテロリズムに定義していることは、「民主主義の危機であると思う」と桐山氏は語った。

(参考:特定秘密保護法案 第12条第2項条文)
一 特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)

国会への秘密提供は外国政府よりも後回し

 続いて、日本弁護士連合会「秘密保全法制対策本部」事務局長を務める清水勉弁護士が、現在行われている法案の審議の特徴として、「与党議員や大臣は、法案が国会に提出されるまで内容を知らなかったこと」であると述べ、「事前の打ち合わせもせず、大急ぎで成立させようとしているのは異常なことだ」と非難した。

 通常は、日弁連も事前に政府と協議をし、対立点をなるべく少なくして国会に提出するように進められるが、この法案ではそのような事前の協議が全くなかったことを、清水氏は明らかにした。

 「秘密保護法制定は米国の要請である」「日本版NSCを作るために必要である」という政府の主張は説得力がなく、米国が求めているのは情報保全システムのレベルアップであり、漏洩に重罰を科すという要求ではないはずだと主張。また、総理を始めとする大臣が官僚から情報を入手しやすくなる仕組みにすれば良いだけの話であると述べた。

 さらに、国会で議論されているテロリズムについて、9.11や国際テロなどの例が挙げられているが、清水氏は「法案の条文には無関係な議論だ」と述べ、「住民運動や市民活動、個人の意見表明さえもがテロリズムに含まれる」と、秘密保護法が暴走することへの強い懸念を示した。

 法案によると、日本の国会は、行政機関による秘密情報の提供先として外国政府よりも後に規定され、「行政機関が了解した時にだけ情報を提供してもらえる」という立場である。清水氏は、「これでは国会は違法な秘密や、秘密にしてはいけない情報が秘密になっていることもチェックできない」と、法案のずさんさを指摘した。

 また、秘密情報を取り扱うのにふさわしいかどうかを判定する「適性評価」の問題にも触れ、現在すでに事実上行われている公務員の評価について、どういった項目についてチェックしているのかについて政府の説明がないことを、プライバシーの観点から問題視した。

 法案ではさらに、契約先となる民間企業の従業員についても適性評価できると新たに規定している。国が従業員のプライバシーを直接把握し、企業の人事に直接介入できるようになることについて、何ら反対の表明をしない経済界の姿勢を疑問視した。

 清水氏は「国会議員が中身をほとんど理解していない、また国民はなおさらその内容を知らない。そういった法律を早急に作るべきではない」との立場を表明した。

政府は情報公開法施行直前に大量の文書を廃棄

 次に、情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長が、現在の行政機関による情報公開の実態を紹介した。

 「個人情報にあたる」「犯罪捜査に関する情報を含む」「行政運営上の支障が生じる」などの理由で非公開となるケースが多く、情報公開審査会による審査結果もそれを追認する形となっていると指摘。現行の情報公開ですら問題があることを示した。

 また、防衛省に防衛機密文書や廃棄文書の数、紛失件数などの公開を申請したところ、「公にすると国の安全性が害される」として数字はすべて非公開となった事実も紹介。特に、外交・防衛・治安維持といった分野での情報公開の遅れを指摘した。

 さらに、2001年の情報公開法施行の前年である2000年に、大量の行政文書が破棄されていたというデータを示し、「誰が見てもおかしいと思うが、残念ながら違法とは言えない」と、政府が制度の隙間を利用して意図的に廃棄したことを非難した。

 三木氏は、秘密保護法案が成立すれば、「情報の非公開や非存在の問題にどのように立ち向かっていったら良いかという危機感を持っている」と語った。

思想警察の復活を予期させる「テロリズム」の定義

 続く質疑応答では、法案の「テロリズム」の定義に関する具体的な質問を中心に、驚きの事実がいくつも明らかになった。以下、やり取りの概要をお伝えする。

ジャパンタイムス記者:記者としては、特定秘密に関わる質問をするだけでも、この法案では罪に問われるのか。たとえば、警察官と飲んでしつこく質問したらどうなるのか。逮捕もあり得るのか。

清水氏:質問するだけでは罪にはならない。「著しく不当な方法」によらなければ大丈夫。取材のしつこさと裁判官の感覚による。任意の事情聴取、逮捕、パソコンや携帯電話の押収はあり得る。

シンガポールビジネスタイムス記者:事情聴取や逮捕などは、既存の警察が行うのか、あるいはそのための特別な新しい警察ができるのか。

清水氏:既存の警察が行う。

ジャパンタイムス記者:石破氏の発言に関連して、市民活動家にとってどういうことをこの秘密保護法案で気をつけなければならないか。どういった罰則が想定されるか。

清水氏:この法律ではテロリズムは2つの面で問題になる。一つは、秘密を取り扱う予定者がテロリズムに関係しないかどうかのチェック。テロリズムの定義は「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」となっている。われわれ弁護士は、これは「思想調査」だとして問題にしている。

 もう一つは、テロリズム対策として定義されている「別表」の問題。テロリズムの定義は同じ。個人の意見表明を含めた国民の動向について、テロリズム対策として警察が調査研究をする。そのような調査研究が人権侵害だとして、そのことを暴こうとすると犯罪になる。「思想警察」が復活する恐れさえある法律である。

司会者:法案の中には、「国民の知る権利や報道の自由に十分配慮する」という文言があるが、記者は十分に保護されるという意味なのか。それともただのレトリックか。

清水氏:単なるレトリックだ。

自民党中枢、本音は法案反対?

新月通信記者:町村(信孝)議員が、秘密保護法案を批判する人たちは、戦前の治安維持法と比較するという「極端な理論」で反対していると言っている。戦前の法律と比べて、この法案をどう思われるか。

清水氏:町村氏とはBSテレビ番組で対談をしたが、その休み時間に秘密保護法について話をした際、「今出ている法案と、私が提案する法案と、どちらが良いか」と町村氏に尋ねたところ、彼は私の案の方が良いと言った。

 弁護士の中にも法案の必要性についていろんな意見があるが、「言論の自由を最大限尊重する」「官僚による情報支配をさせない」「非公開の裁判で処罰してはならない」という考えは共通している。

 私たちは戦前に戻ることを問題にしているのではない。これから世界と、アジアともっとつながっていくためには、秘密はなるべく少なくすべきだという考え方である。

桐山氏:沖縄密約について、1972年の沖縄返還に関する秘密外交では、本来アメリカが負担すべきお金を日本側が払っていた。協定上の3億2千万ドルの負担の他に、1億9千万ドルの秘密予算が組まれていた。議会の承認を得ていないという意味で、沖縄密約は「違法秘密」であると言える。

 今回の法案は、同じような秘密外交を隠すことができる。しかも、沖縄密約の情報はアメリカからの情報によって明らかにされた。日本政府は、密約はないと言っていた。これが法治国家だろうか。

 欧米諸国並みの情報公開と公文書管理が徹底されない限り、日本の官僚制は同じ悪事を続けるのではないかと思う。

企画会議を行うだけでも処罰の対象に

オランダ人記者:他の国でこのような新しい法案が成立されると、司法が憲法裁判などでチェックすることができる。日本では司法ができることはないのか。

清水氏:日本では憲法訴訟がないため、直接争うことはできない。刑事裁判にせよ民事裁判にせよ、争点が法廷に出てくるかどうかの保証はない。どのような場合に裁判所に出すということが確定的に書かれていないため、むしろ出てこないと解釈するのが正しい。

イタリア人記者:刑法では実際に犯罪が起こったことで罪が成立するが、今回の法案では事が起こらなかったとしても罰則を受けるかもしれないという話。なにか行動が疑問視されるだけで、罰則対象になるということか。

清水氏:その通り。「共謀」というのは、言い方を変えれば「企画会議」。企画会議を行うだけでも処罰の対象になる。また、「教唆」の規定は、働きかけるだけで、たとえ相手がそれを了解しなくても犯罪が成立する。

 取材する人は、自分が取得しようと思う情報が特定秘密かどうかわからないため、一生懸命働きかけることが「教唆犯」をおかしているということが起こりえる。捜査機関の側からは、その記者は特定秘密を暴こうとしている「犯罪者」だとみなされ、捜査の対象となる恐れがある。

秘密保護法は米国とともに戦争をするための法律

フランクフルターアルゲマイネ紙記者:「市民活動家は全部テロリストだ」という石破幹事長や、数ヶ月前の「憲法改正はナチスから学ぶべきだ」という麻生副総理の発言などを見ると、自由民主党(Liberal Democratic Party)には自由主義(リベラル)で民主的な政治家はいるのかと思う。他の国であれば即辞任となるのに、なぜこのような状況が続いているのか。

桐山氏:「自由民主党」というのは名前だけ。秘密保護法案は、日本版NSC法とセットになっている。安倍政権は来年、「国家安全保障基本法案」を出そうとしている。

 日本は平和主義の国家である。その平和主義の規定した憲法9条を変えようという公約を安倍政権は掲げている。目指すところは、アメリカと一緒に地球の裏側まで行って、戦争ができる国になること。秘密保護法案は、その一つの歯車である。

フリーランス記者:任意で取り調べされる場合、23日間までの身柄拘束となるのか。

清水氏:逮捕の場合はそうなる。任意の場合は、身柄の拘束はできないため、せいぜい数時間程度となる。

特定秘密の指定は官僚の思うがまま

ドイツ人フリーランス記者:官僚が特定秘密を指定する権限を持つ一方で、総理大臣自身が決めることができるとも言われている。誰が実際に秘密指定をする権限があるのか。

清水氏:日本では大臣は担当所管の専門家ではないため、秘密を指定する能力はなく、官僚組織の中で情報を扱ってきた中堅官僚が秘密を指定することになる。大臣は決裁文書にチェックするだけ。

三木氏:法案によれば、行政機関の長が一義的には権限を持つとなっている。首相は、行政全体を指揮監督する立場から、適切な運用について監督することができる。どこに最終責任があって制度が動くかは、動いてみないとわからない。(取材:IWJ松井信篤、記事:IWJ野村佳男)

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