農水省の「財務省経済産業局農業課」化で、日本政府には、「日本の食料・農業・農村を守る」という気概は消滅! 小泉進次郎農水大臣の政府備蓄米の随意契約での放出は、農協を悪玉に仕立て、大手の利害関係者を儲けさせるだけの「小泉劇場」だった! 岩上安身によるインタビュー第1198回ゲスト 東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘特任教授(前編) 2025.7.1

記事公開日:2025.7.7取材地: テキスト動画独自
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 2025年7月7日、「岩上安身によるインタビュー第1198回ゲスト 東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘特任教授(前編)」を初配信した。

 鈴木教授は、2025年5月に深田萌絵氏との共著、『日本の食料安全保障とはなにか?』(かや書房)を、また、2022年には、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)を上梓している。

 岩上安身が2023年4月に鈴木教授にインタビューした際、鈴木教授は、「日本で生産される野菜の9割が、海外の畑で『種採り』したもの」「畜産の餌の穀物も輸入」だと指摘し、「日本には食料安全保障がない」と警告していた。

 この2023年のインタビューでは、米ラトガース大学が2022年に発表した論文も紹介した。

 この論文では、米露全面核戦争が起きた場合、「核の冬」で地球全体が急激に寒冷化し、2年以内で世界の50億人が飢餓に直面。日本での餓死者は、国際的な食料貿易がストップした場合、1億2430万人、つまり日本国民ほぼ全員が餓死すると予測されている。

 また、インド・パキスタンでの局地的な核戦争でも、日本での餓死者は7690万人と想定されている。

 今年、実際にインドとパキスタンの間で紛争が再燃したことや、昨年から続くコメ不足と米価の高騰、さらに野菜などの食料品の価格高騰の家計への直撃は、まさに2年前の鈴木教授の警告が現実のものとなりつつあることを示している。

 インタビューの本題に入る前、鈴木教授は日本の農政の衰退について、まったく報じられていない、衝撃的な状況を、以下のように明らかにした。

 「(以前、農水省は経済産業省の一部局になるかもしれないと言ったが)農水省が実質的になくなるという動きは、さらに進んでいます。

 ある方が言うには、今、財務省が非常に強くなっていて、農水省は実質的に、『財務省経済産業局農業課』ぐらいの位置付けではないか、ということです。

 本当に、独自の(農業)政策が、もう、(農水省では)なかなか決められなくて、経産省のように、日米の『オトモダチ企業』の利益を考えている。

 あるいは、アメリカに言われたら、どんどん武器やら何やらを購入する。購入する財務省は、どこから予算を切るかというと、一番切りやすい農水予算をどんどん切る。

 『農業・農村にはお金を出さない』という(財務省の)方向性の中で、農水省は独自の政策を、もう決められない。

 (農水省は)『農業・農村にはお金を出さない』と、まさに財務省と同じようなことを言い、そして経産省と同じように、『一部の企業だけが、スマート農業や輸出で儲かればいいんじゃないか』みたいな、そんな話が中心になってきているわけです。

 まさに実態的には、『食料・農業・農村を守るんだ』という気概で頑張ってきていた農水省の面影が、薄くなってきているのは、間違いないですね」。

 今年5月、米価高騰の最中に、「農水族」として知られる江藤拓農水大臣(当時)が、佐賀県での政治資金パーティーで「コメは買ったことありません。支援者の方々がたくさんくださるので。まさに売るほどあります」と語ったことが明らかにされ、辞任に追い込まれた。

 これについて鈴木教授は、「意図的に、これ(失言)を使っておろすというストーリーがあったのではないか」と、懐疑的な見方を示した。

 江藤氏に代わって、新たに農水大臣に抜擢されたのが、2015年に自民党農林部会長を務めていた小泉進次郎氏である。

 小泉新農水大臣は、就任直後に、胸を張って、自ら「コメ担当大臣」を自認し、政府備蓄米の随意契約での放出を即断、「店頭価格3000円」をアピールし、記者クラブメディアに大きく持ち上げられた。

 小泉農水大臣が、かつて自民党農林部会長を務めていたことについて、鈴木氏は、「あの時、若くして抜擢されて、その時に『農協改革』という名の農協解体を進める実行部隊長に、うまくさせられた」と述べ、「本人が、どこまでそういうことに詳しいかはともかくとして、進次郎氏にそういうことを勧める急先鋒がいたということ」だと、指摘した。

 その上で鈴木教授は、現在起きているコメの価格高騰や、流通の支障の背景について、次のように解説した。

 「なぜ、これだけの高騰になったのか。それは、結局、需給が逼迫した、つまり、米の生産が足りなくなってきていた、ということですよね、根本的に。

 政府は、それを『足りているんだ、余っているんだ』と、まだ言い続けていますけども。

 まず、減反政策で、需要にあわせてギリギリに生産量を調整しようとし過ぎて、そして生産を絞り込み過ぎた。

 その一方で、農家の皆さんは、今回、米価が高騰する前までは、『時給が10円だ』と。

 平均で、1年間コメを作って、売り上げが378万円で、払った経費が377万円で、1年で自分の給与分が、1万円しか残らない。1000時間働いているから、時給にすると10円だと。こんな状況が、続いてきていたわけですね。

 だから、『もうやめる』という形で、生産をやめちゃう方もいれば、生産量を減らす方もいるんです。

 そうやって、米農家の体力も落ちてきて、生産ができない。そして、減反で減らし過ぎていた。

 それが重なって、もう2020年、21年、22年ぐらいで、単年で見ると、需要量より、生産量が、もう下回ってきていたんです。

 そこに、2023年の猛暑の影響で、収量も減って、品質も落ちたから、主食米に回せる米が少なくなったところに、需要の方は、インバウンドも含めて、増えたんですね。

 それで、この不測の事態が、一気に、非常にひどい状況になってしまった。それで価格が高騰したわけです。

 その原因を、流通悪玉論、あるいは農協悪玉論に、すり替えたんです。

 だから、流通が悪いことをしているから、農協が悪いことをしているから、こういうこと(コメ不足や米価高騰)になったのではなくて、米が足りなくなったから、流通が混乱したわけです。だから、本末転倒なわけですよ。

 勝手に、流通が支障をきたすようなことは、ないわけです。原因があるから、流通が支障をきたした。

 こうした状況の中で、自民党農林部会長時代に、農協解体を十分にできなかった小泉進次郎氏が、農水大臣に就任したので、リベンジのチャンスが来た。

 執拗に農協を悪者に仕立て上げ、農協を外資に差し出す、米側の思惑に応えていくことを、一気に進められるチャンスが来た。

 ですから、(江藤前農水大臣の時に)なぜ備蓄米を出しても行き渡らなかったのか、というのも、農協が隠しているとか、何か流通が複雑で、などと言いますけど、これは隠しているわけではないんです。

 JA全農は、もうすでに販売契約を済ませているんですけど、(販売先の小売や卸しなどは、新米が出てくる前の)7、8月の端境期にコメが足りなくなるといけないので、計画的に少しずつ出してもらいたい。

 ですから、『6月に渡してください』『7月に渡してください』と、時期をずらしてもらうように、みんなが言っているんです。

 そうすると、実際には、すぐには米は動かない」。

 さらに鈴木教授は、「『農協がコメの価格をつり上げている』というのも、おかしな話で、農協にはコメが集まらなくなった」と、次のように明らかにした。

 「農協は、集荷率がどんどん下がっています。

 農協は、概算金(※秋に一時金として前払いで払う、委託販売代金の一部)というものを、まず農家に払って、『このぐらいは、最低限払うから』ということで、金額を示すわけです(※販売結果や経費を踏まえて、最終的な金額を追加で生産者に支払うが、最終的な支払いは、1年後になることもある)。

 けれども、そうすると、今回みたいにコメが足りなくなってくると、他の業者は、直接農家に、農協(の概算金)より高い価格を、(買取り価格として)提示し、どんどん買っていきます。

 そうやって集荷競争が激化すると、農協が買っている値段よりも2倍ぐらい高くても、どんどん業者が買いに来るので、農家はそっちにどんどん出してしまう。

 そういう形で集荷競争が激化すると、どんどんコメの値段がつり上がってしまう、という現象が起こるわけです。

 だから、意図的につり上げて儲けようとした、というよりは、とにかく調達しなきゃいけないので、みんな必死で、高い値段で買った。

 結果的に、農協は買い負けて、それで米がないので、大騒ぎになっちゃった。

 だから、『全農が米を隠して釣り上げた』とか、そういうことはできないんです。コメがなくなって、困っていたんだから」。

 さらに鈴木教授は、小泉農水大臣が、政府の備蓄米を随意契約で販売したことについて、次のように解説した。

 「楽天とか、イオンとか、もう最初から決め打ちで、そういうところに儲けさせるために、随意契約で、極端に低い値段で、そして輸送費まで政府が負担するような形で、5キロ2000円とか、それより下がるような演出をしたわけですよね。

 結局、これが『小泉劇場』で、消費者の皆さんは、(コメの値段が)高くて、感情的に、『もう、たまらん』と言っていたから、一気に下げれば、皆さんは『よくやった』という話になる。

 でも、結局それは、大手の利害関係のある人達を儲けさせる、一つのツールとして使われた、ということで、非常に不公平な形で、部分的に引き下げるという形を実現したというのが実質で、町のお米屋さんとかには、なかなか(コメが)届かないから、庶民の皆さんが近くで買えるようなお店というのは、結局、恩恵を被らなかった部分が大きいわけです。

 本来であれば、国の財産を、競争入札ではなくて、勝手に、随意契約で、しかも特定の業者に利益が出るような形で出すということは、やっちゃいけないことなのに、そういうことまでしてでも、『小泉劇場、成功だ』みたいなことを演出したのに、みんなある意味でごまかされてしまった」。

 また、国内で米価が高騰している時にも、海外で日本のブランド米が安く売られていることについて、鈴木教授は「政府は輸出米に対し、10アール(1000平方メートル)で4万円の補助金を出している。米60キロで、だいたい5000円です」と明らかにし、次のように批判した。

 「国内でこれだけコメが足りていない時に、『輸出米を8倍に伸ばす』とか、トンチンカンなことを言って、補助金をつけているわけです。

 そんなことをやるんだったら、今こそ、国内の主食米の増産に、まさに60キロ5000円ぐらいの補助金を出せばいいわけですよ。

 そうすれば増産できて、米は60キロ1万5000円まで下がり、消費者は5キロ2500円で買える。

 5000円出せば、生産者は2万円になるわけです。生産者も何とかやっていける。

 そういうことは、輸出米に向けている分(補助金)を、すぐに国内に向ければできるのに、それはやらない。

 まさに、(森永卓郎氏の著書の)『ザイム真理教』じゃないけど、そういうことをやると、『5000億円以上かかるから、そんな金を出せるわけがないだろう』みたいな圧力が、後からあって、誰もそういうことを口にもできない」。

 この輸出米への補助金についても、鈴木氏は、「国内の生産者や消費者には恩恵がなく、一部の企業(と外国の消費者)の利益を優先している」だけだと指摘した。

■ハイライト【前半】

  • 日時 2025年7月1日(火)13:00~15:30
  • 場所 東大農学部2号館別館(東京都文京区)

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