5月3日、岩上安身は、3月18日、24日に引き続き、エコノミストの田代秀敏氏への、連続緊急インタビューの第3弾を行った。
4月26日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合の後に、円安容認とも受け取れる植田総裁の発言などから、1ドル155円台から、29日には1ドル160円まで円安が急速に進んだ。
その後、5月2日に円相場は153円まで円高が進み、政府・日銀が市場介入を繰り返しているのではないかと推測されている。財務省の神田財務官は「介入の有無について私から申し上げることは何もない」と述べている。
- 円相場一時153円 政府・日銀介入か ミスター円「可能性高い」(NHK、2024年5月2日)
この歴史的な円安は、日本人の生活にどのような影響をもたらすのか。
岩上安身「とうとう、政府・日銀が介入を始めて、それでも円安が一向にとまらない。いよいよもって、という局面に来ています。
この『円安』という問題は、株高という問題、金融などの空中戦のような話だけではなく、我々が立っている地面、不動産の価格とか家賃とか、さまざまな実体経済に大きな影響をもたらします。もちろん、輸入インフレも続きます。
喜ぶ人もあり、『もう、本当にどうしたらいいんだ』という絶望感にさいなまれる人あり、という2極化の状態になっています。ある意味、『バブル』ではあるけれども、単純な昭和のバブルの再現ではないというすごく難しい状態にあります。
これを含めて、不動産のところまで前2回は、話が及びませんでしたので、今日はそこも含めて田代さんにお話をうかがってまいりたいと思います」
田代氏は、中国リサーチから帰国されたばかり。
岩上「中国の土産話を、本当に急いで聞きたいところなんですけれども。日本はもう、田代さんが中国に行っている間、大変な状態になってまして」
田代氏「もう、北京でも大ニュースです。もう、朝のニュース、昼のニュース、夜のニュースは、みんな(日本の円安を)大きく取り上げていて。もう本当に、北京にいても、これは『ハラハラハラハラドキドキ』の状態でしたね。日本のパニックぶりもよくわかりますよね」
岩上「ああ、そうなんですか。中国の、特に富裕層とか中間層以上の人達は今、コロナ禍が明けて、(日本に)来るようになっているだけではなくて、中国からの投資(も活発になっている)、特に不動産投資ですよね。
都心の超高層ビル。超高層ビルといっても複合型、森ビルのような。そういう職住近接型の、最上級の最高峰のマンションのレベルのグレードが、ものすごく上がってしまっていて。要するに、日本(の富裕層が買える)グレードではもうなくなってしまって。『そういうものを買っていく人は誰か?』という話。
僕も、これやるにあたって実地取材を続けてきたんですけれども、『1位に中国人、2位に台湾人』。もう、不動産関係者の誰もがそう言うんですよね。で、それ専門の会社もあるそうです。
つまり、例えば、三菱地所だとか、そういう大きな会社がありますでしょう。
そこが顧客と相談するときに、『キャッシュで買ってくれるような人を探しているんだけど』、という風に言うと、もう、中国人が設立して、中国人が働いて、中国と日本との間をも行き交いするような、日本支社なのか日本本社なのかは、わかりませんけれども。ちゃんと日本にオフィスがあって、というグレードの、お金持ちを斡旋する、マッチングするという専門会社もできていて。そこはもう、大手のディベロッパーグループがあるわけじゃないですか。そこと契約しているというんですよね。
だから当然、ひとつの巨大プロジェクトが作られる前から(予約を集めている)。以前、田代さんがおっしゃっていたとおりなんですけど。
麻布台ヒルズが出来上がる前、あの最上階が展望台がないということで、展望台をつくらず、一般向けの展望台はつくらず、何10億か何100億か、さっぱりわからないような(ハイグレードの部屋は)、日本人が買っているのではない。
どうやら、法人がほとんどだけど、中には個人もあるというような、ちょっとケタ違いの富裕層。そしてそこの別エレベーターで決して入ることはできない、見ることはできない。中身を公開してないですよね。あれは、竣工の前から全部売却されていたと」
田代氏「だから公開する必要もないし。逆にそこで、その条件で買った人からすれば、自分たちに関わりのない、下々の庶民たちに、自分たちの住んでいるところを見せる必要もないですよね」
都心部の最高級マンションの価格は高騰しているが、それは日本人の庶民の目が届かないような雲の上で、グローバルな資本が動く場所になっている。
歴史的な円安、ということは、グローバルな富裕層から見れば、日本の不動産にしろ、そのほかの資産にしろ、「どんどんお買い得になっている」ということだ。
田代氏は、北京は日本と1時間しか時差がないので、リアルタイムで日本の円安の進行ぶりが、実況中継で報じられて、報道もヒートアップしている、と指摘した。
田代氏「円安が進んでどういうかというと、(北京の人達は)『日々金持ちになってきます』と。にっこりと。
ああ、これって、1990年代にものすごい円高が起きて、日本人が怒涛のようにヨーロッパなんかに行って、ブランド物を山と買って。『こんな安い』と。『これは東京で買うよりもうんと安い』といって。航空運賃を考えた代金を考えても、こんな安い買い物はないってですね。もう自分のトランクにもうブランド物の服や靴をバックをびっしり詰め込んで。
あれが今、もっと巨大なボリュームで、その中国などに来ているわけですね」
田代氏は、中国から見れば、「日本の大バーゲンセール」だと指摘した。
田代氏「この歴史的円安というのは、中国でも、もうすごい関心を呼んでいるわけです。日本は、『大バーゲンセール』、何でもかんでも『バーゲンセール』。国をあげて。
かつての日本人が、『ヨーロッパはバーゲンセールだ』って飛び出したように、今、逆に中国から日本に(飛び込んできている)。もう、何でも安い。もう、ラーメンも安い。何でも安い。マンションも安い、と言って、何でも買っちゃいますよね」
中国をはじめ、外国から見れば、「大バーゲンセール」の日本だが、肝心の日本人の生活はどうだろうか。
岩上「歴史的な円安が、すさまじい勢いで進行中である。問題は、悪性のインフレ。株高を見て、『やった、やった』なんて言っている場合じゃあ、本来ないんですよ、ということを申し上げたい。
都市部では地価高騰を引き起こす一方、地方では逆に、地方といっても地方都市はいいんですよ。場所にもよるんですね。郊外とかは空洞化していて、どこでも2極化が進んでいます。東京圏だって2極化が進んでいます。
富裕層、もともと株を持っている人、もともといいところに土地持ってた人は、何にもしないで高笑いかもしれませんが。
一方で、一般の庶民、それから若い層、これから資産形成しようという、これから家を建てようとか、結婚しようかというような人は、『一体、生活防衛できるのか、結婚できるのか、少子化は止められるのか』?。(こんなことでは、少子化は)止まりませんよ、という流れにもなっていく。大変な問題です」
歴史的な円安のために、生活コストは急上昇し、庶民の生活は逼迫する一方となっている。地方の不動産の値崩れも激しく、もはや「限界集落」化が進んでいる。
岩上「千葉などの郊外の分譲地。千葉のほうは、『限界ニュータウン』がものすごい多いんですよね。バブル期に(宅地を)広げたから。あとは、茨城あたりまで行けばなおさらですけれども、激しい値崩れが起きてます。すでに『限界ニュータウン』。これも、言葉を入れて検索すれば、山のように出てきます。
で、輸入インフレや円安によるバブル再来、こういうことが起こっている。
少子化が、低位推計をすら、下回りそうな勢いで、どんどん進んでいます。もう本当に、子供を産み続けられない、産んで育つっていうのは、ちょっと考えられないという若い人が多くなっちゃったんですよね。
過疎化が地方は進んでいる。住宅は安くても喜んでおられないと。
移動もそうだし、(公共交通機関による)移動が、どんどん『廃線』とか、あるいは『本数減らし』になっている。バス路線がなくなるとか。移動の公共機関がなくなっていくわけですよね。
あとは『マイカー』しかないわけですけれども、その『マイカー』も厳しくなっててるわけじゃないですか。ガソリンの値段も上がってるし。
あと、医療ですよね。これは高齢化してますから、本当に深刻だし。あと、物流の不便さ。だから、生活コストがすごく高くなっていってる。
もちろん、一方で、現代の生活の消費生活は、情報面では、どんな地方の人も昔のような不便さはないんですよね。ネットショッピングできるし、情報感度だけはメチャメチャ高くて、たまに東京へ出てきた時には、東京にずっと住んでいる我々のよりもはるかに、トレンドのショップを知っていて、回って買ったり、見て回わるということもするし、何でも買おうと思えば買えるんですよ。
だから非常にいい部分もあるんですけれども、本来だったら、そうやって、消費生活が均質化してもっともっとみんなが田舎に行くかと思ったんですよね。でもそうならない。
これはどうしたんでしょう。我々庶民は、どこで暮らせばいいのかと。やっぱりひとつは、『田舎暮らし』というとも流行りましたけど、『仕事がない』ってことじゃないかなと思うんですよ。それから、不便さもあるのかもしれませんね。
全体の人口動態は当然なんですけど、何が原因で、この2極化が起きてしまっているんだろうと、思いますか?」
田代氏「『インフレーションを歓迎する』と言ってずっとやってきたわけですよ。年率2%、消費者物価をめざすと。でも、一方で金利を強く低く抑えたいと。これは矛盾しているわけですよね。
それを何とかやってきたんですけど、ここに至って、その必然的な帰結として、すごい歴史的円安が起きていると。それでインフレーションが、その待望していた2%をはるかに超える水準で推移するようになってきたという事態ですよね。
だけど、そう金利を上げられない状況なので、結局打つ手はないので、時々不意をつくようにして行う『為替介入』以外に、もう、打つ手がなくなったということですよね」
岩上「あれ(介入)は、決め手ではないんですね」
田代氏「猫だましみたいなもの」
田代氏は、政府・日銀は、米国のマーケットが閉じているタイミングを狙って、介入をするから、それは確実に円高に動くが、一時的なものでしかないし、日本政府が「ドル売り円買い」をやるんだったら、(投機筋は)「どんどん円を売っちゃえばいい」と思うようになる、そうすれば、あっという間に「1ドル170円とか180円」まで行くのではないか、と警鐘を鳴らした。
田代氏は、1992年に、ジョージ・ソロスが音頭をとって、ニューヨークのヘッジファンドを総動員してが、英ポンドに売り浴びせて、ポンドを屈服させて、ポンドが大暴落したように、今度は日本円がターゲットになっても不思議はない状況だと述べた。
インタビューではこの後、一見好調に見える米国経済の盲点、シカゴなどの大都市でさえ、建設需要が急減し、インフラ設備の維持管理すらうまくいっていない事態であること、円安は「1ドル=170円」で下げ止まるのかという問題、19世紀の指標をいまだにそのまま使っている「日経平均株価」の欺瞞性、植田総裁率いる日銀による17年ぶりの「マイナス金利」解除、黒田前総裁の金融緩和の害悪、都心の不動産価格の高騰が賃貸価格を押し上げている問題、神宮外苑の開発問題などに及んだ。