福島原発事故の責任を問う裁判で、国や東京電力を免責する判決が下され、原発容認へと向かう司法の動きに対して、背景にある、法曹界と国、電力会社の癒着が批判されている。
しかし2024年3月8日、衆議院第一議員会館での院内集会「司法の独立を問う!原発事故後、最高裁判所で何が起きていたのか?」における、安原幸彦弁護士の報告によれば、事故発生後の一時期、裁判所内でも、過去の原発容認の司法判断を真剣に見直す動きがあったという。院内集会の主催は福島原発刑事訴訟支援団。
安原弁護士は、東京HIV訴訟、ハンセン病訴訟、原爆症認定集団訴訟などの原告代理人である。
2012年1月26日、司法研修所主催の裁判官向けの特別研究会が催された。テーマは「民事裁判の現代社会における役割」で、裁判官36名と学者2名、法務省審議官、そして安原氏も講師として参加した。
論点とされたのは、伊方原発(愛媛県)の設置許可取消訴訟・運営差止訴訟について、福島第一原発事故を踏まえて、(1)どのようなスタンスで審理・判断に臨むべきか、(2)今後の事件動向にどのような影響を与えるか、(3)原子力行政の帰趨は訴訟の審理運営にどう影響するか、(4)専門的知見を適切に訴訟に反映させるために留意すべき事項、だった。
この特別研究会に関する詳細資料は以下の主催者サイトで入手可能。
安原氏によれば、それまで、原発の危険性の判断は、行政裁量(法律が行政機関に独自の判断余地を与えて、一定の行政活動に自由を認めていること)が、権限の範囲を逸脱しているか否かの問題だとされてきた。
しかし、現実に原発事故が起こった後では、「伝統的な行政裁量の尊重は、国民の常識と乖離している」「裁判所は『専門家は嘘をつかない』『警察官は嘘をつかない』という2つの誤解に支配されている」等と安原氏は批判し、改善を訴えた。
そして、研修会後の懇親会では、様々な裁判官が「現実に原発事故が起きたことの重みを、自分たちは点検しなきゃいけない」等と、本音を語ったという。
翌2013年の2月12日にも特別研究会が催され、やはり原発の設置許可取消訴訟・運営差止訴訟について、福島第一原発事故を踏まえて議論された。
当時、各地の原発が止まり、再開の可否が問題になる中、「今の時点で、少なくとも原発を肯定できるという要素は、裁判所として、ないんじゃないか」という趣旨の意見が、参加した裁判官からも出された。安原弁護士は、現実の原発事故を経て、「裁判官の意識はずいぶん変わった」と感じたという。
しかし、その後、裁判所の判断は、再び「権力者や強者を免責する」方向に変わっていくことになる。それは、コロナ禍後に、医療過誤訴訟の判決の方向が、大きく変わったことも同様だという。安原弁護士は、「裁判所・裁判官の意識は、世の中の風潮に非常に影響される」と指摘した。
詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。