2022年1月19日午後1時より、東京都千代田区の司法記者クラブにて、小児甲状腺がん患者による東電提訴についての記者会見が開催された。
弁護団として、井戸謙一氏、河合弘之氏、海渡雄一氏、大河陽子氏、北村賢二郎氏の5名の弁護士が登壇した。
この裁判は、東京電力福島第一原子力発電所の事故当時に福島県内に居住していた男女6人が、事故による放射線被曝で甲状腺がんを発症したとして、東京電力(以下、東電)に、6億1600万円の損害賠償を求めるもの。
原告らは事故当時6歳から16歳(現在17歳~27歳)で、甲状腺全摘や生涯にわたりホルモン薬の服用を余儀なくされるなど、日々の生活自体、そして、それぞれの進路や就業において困難を被っている。
また、この訴訟は、原発事故の放射線被曝による損害について、作業員以外が東電を訴える初めての訴訟である。
会見冒頭の概要説明の中で、弁護団長である井戸謙一弁護士は次のように語った。
「この裁判の最大の争点は、まさにこの事故により放出された放射性物質、それと原告らの甲状腺がんのあいだに因果関係があるかどうか。それが最大の争点になる」。
また、弁護団・副団長の河合弘之弁護士は、「甲状腺がんと被曝との因果関係は現時点で認められない」とする福島県の県民健康調査による専門家会議の結論について、次のように厳しく批判した。
「なぜ福島原発事故から11年も経ってから裁判を起こしたのかと思うかもしれません。
それは、あの事故が原因で甲状腺がんになったと声を上げると、まわりからバッシングが起きる。もしくは非常に社会的な圧力がかかるということで、ずっと患者が一人で悩むか、患者一人とお母さんで悩むか、お父さんと三人で悩むかという、社会的に孤立し、窒息してきたからです。
訴訟を起こすことは、非常に勇気のいることで、皆さん、逡巡に逡巡を重ねて、やっと今日に至った。(中略)
日本政府は、福島原発事故を含む原発事故によって、放射線がばら撒かれても、健康被害は発生しないんだと。
放射能を浴びても、がんにならない。放射性ヨードを浴びても、甲状腺がんにならない。ならないのであれば、放射性物質は怖くない。放射性物質が怖くなければ、放射性物質を拡散する原発事故があっても大したことはない。で、事故が起きても大したことはないのであれば、原発を動かしていい。
原発を動かし、再稼働させて、原発を存続させてもいい、という論理を貫徹するために、どんなに被害が大きくても因果関係がないと、さすがに言い切れない。
『因果関係があるとは考えにくい』という非常に曖昧な形で、でも、もう完全に否定しているわけです。
『因果関係があるとは考えにくい』と言って政策を組むことは、『因果関係がない』と言っているのと同じです。
考えて欲しいのは、(中略)100万人にひとりしか発生しない病気(小児甲状腺がん)が、(約10年間で)約300人発生している。文字通り桁違いな数字なんです。
したがって、これを否定するならば、逆にあちらが原発による被曝で甲状腺がんになったんじゃないということを立証すべきだというふうに、私たちは考え、また、今までの医療訴訟とか薬害訴訟の伝統的な考え方からしても、そのように考えた」
同じく、副団長の海渡雄一弁護士は、この裁判への思いを次のように語った。
「当時も今も10代の方もいるわけですけれども、立ち上がったということは、本当に画期的なことで、弁護団としては、(中略)判決だけではなく、原告たちと同じような目にあった方々、仲間たち全員に適用されるような、しっかりとした、国の医療と生活の補償制度を作っていく、そういう作業まで視野に入れたい」
なお、この訴訟は1月27日(木)に東京地裁に提訴する予定となっている。
詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。