2022年1月27日(木)、福島第一原子力発電所の事故によって放射線被曝をし、甲状腺がんにかかったとする若者6人が、東京電力に対して計6億1600万円の賠償を求める「311子ども甲状腺がん裁判」が提訴された。
午後1時、井戸謙一弁護団長、海渡雄一副団長をはじめとする弁護団と原告の母親ひとり(匿名)が東京地方裁判所への入廷行進を行ない、提訴をアピールした。
原発事故の放射線被曝による損害について、作業員ではない一般市民が東京電力を訴える集団訴訟は本件が初めてとなる。東京地裁前には多くの報道陣が集まった。
弁護団は午後2時より記者会見を行なった。会見には弁護団と原告男性の母親1名、原告女性とその母親が臨んだ。原告の男女6名は福島原発事故当時、福島県で暮らす6歳から16歳の児童で、現在はそれぞれ東京都、神奈川県、福島県に住まう17歳から27歳。心ないバッシングなどを警戒して、匿名で、姿の公表をせず、本訴訟を行なう。
原告全員が甲状腺がんを患い、それぞれの病状と治療歴は、甲状腺の片葉切除が2名、再発・全摘出が4名、放射線治療経験者と予定者が4名、また、肺へのがんの転移が1名にあった。
小児甲状腺がんは100万人に2人いるかどうかという稀ながんだが、チェルノブイリ原発事故後に多発し、IAEA(国際原子力機関)も放射能汚染と小児甲状腺がんの因果関係を認めている。
この前例を踏まえて国は福島原発事故後、その影響が予想される18歳以下38万人を対象に検査を開始し、293人の甲状腺がんを検出している。国や福島県はこの通常より数十倍多い罹患と原発事故の被曝の因果関係を否定。これが、無症状で命や健康に別状なく、消えてしまうこともある「ラテントがん」と呼ばれるものを拾い上げた「過剰検査」「過剰診断」だという説も広く流布されている。
会見で井戸弁護団長は、次のように訴えた。
「原告らのがんは重く、再発もしていて過剰診断などではない。東京電力が原告らのがんの原因が放射線被曝以外にあるんだと証明しないかぎり、原因は被曝であると認定されるべきであると我々は考えるし、これは裁判所にも十分ご理解いただけるものと考える」。
「福島における甲状腺がんは、甲状腺外科医が経過を見て手術、治療しているもので、それは何でもすぐに切っているというものではない。過剰診断、過剰治療論者の言うことは、全国の甲状腺専門家を敵にまわすものであり、声高に聞こえてきてもエビデンスはない」。
原告の女性は、次のように語った。
「がんだと診断されたあと、それが原発事故と何の因果関係もない、と断言されたときのなんとも言いようがない気持ちは忘れられない。
私もそうだが、原告6人の中には、がんのため学校や仕事を諦めた者もいる。がんが被曝によるものということも周囲の目が怖く、なかなか言えず、何もできないまま10年が経った。
同じ状況の仲間が約300人いる。彼らのためにもまず私たち6人が声を上げ、状況を変えていきたい」。
井戸弁護団長は、次のように語った。
「福島原発事故後、福島の青少年に対する被曝防護が十分なされなかった。
2011年3月11日の数日後が福島県内の高校入試の結果発表だったが、まったく予定通りにそれは屋外で行われたし、その日は雪が降って、結果の掲示を見に行った児童はみんな雪に濡れた。
私はこれは広島の『黒い雨』に比する『白い雪』ではなかったかと思う。これが象徴するように、若者たちは守られていなかった。それがこの訴訟にもつながっている」。
詳しくは、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。