東電旧経営陣が全員、再び無罪! 民事訴訟と正反対の結論に、河合弘之弁護士が「原発事故誘導判決だ」と批判!~1.18 「福島原発事故・東電旧経営陣の刑事責任を追求する福島原発刑事訴訟の控訴審」判決後の記者会見 2023.1.18

記事公開日:2023.1.20取材地: テキスト動画
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(取材・文、木原匡康)

 2023年1月18日、福島の原発事故に関する東京電力の旧経営陣、勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の刑事責任を問う控訴審の判決が東京高裁で出され、全員が一審に続き無罪とされた。

 判決を受けて、被害者側の記者会見が、東京都千代田区の司法記者クラブで行われた。

 裁判の争点は、3人が大津波を「予測」できたか、対策を取れば事故を「回避」できたかである。東電内部では2008年、「最大15.7メートルの津波」予測の試算をまとめており、根拠である国の地震予測「長期評価」(2002年)の科学的信頼性が焦点とされた。

 判決は、「長期評価」の信頼性を否定し、「漠然とした理由」で原発停止はできないとした。指定弁護士が主張した防潮堤設置や浸水防止の「水密化」による事故回避の可能性も否定した。これらの主旨は一審判決を踏襲している。一審判決については、岩上安身が告訴団の海渡雄一弁護士にインタビューを行っているので、ぜひ御覧いただきたい。

 記者会見では、初めに検察官役の指定弁護士の会見、続いて被害者側代理人弁護士等の会見が行われた。「検察官役」とは、福島県民らの告訴を東京地検が不起訴にした後、検察審査会が起訴すべきと2度にわたり議決し、検察官役の指定弁護士が業務上過失致死傷罪で強制起訴したものである。

 指定弁護士の会見では、石田省三郎弁護士が、生業訴訟等の最高裁判決(令和4年6月17日第二小法廷判決)では、津波の高さの予測に関する東電試算への評価をもとに、「長期評価の信頼性や、試算結果について一定の評価をしている」と指摘。「ところが本日の判決は、第1審と同様、長期評価の信頼性を全面的に否定し、試算結果をないがしろにするもので、最高裁判決の趣旨にも反する」と批判した。

 被害者側代理人弁護士等の会見では、河合弘之弁護士が、「地震学についての無知にもとづく判決だ。地震学や津波について、あたかも詰めた研究をすれば、津波予測が可能であるかの前提で、それがなかったから責任がないと言っている。しかし地震学者は一致して『地震学はそんな積極的な認定や警告はできない』と言う」「地震学を天気予報と同様に考えていることに根本的誤りがある」と述べ、「こういう理屈で言えば、すべての警告を無視できる、原発事故誘導判決だ」と批判した。

 他方で、民事裁判の「東電株主代表訴訟」では、2022年7月13日の一審判決で、東電が巨大津波を予見できたはずなのに対策を「先送り」して事故を招いたとして、旧経営陣4人に13兆円超の損害賠償命令が下され、原告の「全面勝訴」となった。刑事裁判は推定無罪の原則から、有罪のハードルが高いとは言われるが、同じ「長期評価」にもとづきながら、完全に反対の結論を出した今回の裁判との相違に注目が集まった。

 株主代表訴訟との相違について、福島原発告訴団の武藤類子氏は「株主代表訴訟の裁判官たちは、現場検証に来て、ものすごく線量の高い所に行った」として、現場検証をしなかった今回の裁判官に「現場も見ないで決めるということに対しては非常に不満だし、ぜひ見てほしかった」と憤りを語った。

 海渡弁護士は、「高裁の裁判長のやったことは、『とにかく被告人を無罪にしなければいけない。それがお国の方針だ。私はそのために裁判をやっているのだ』くらいの気持ちになって、僕らが書いていることに一個一個反論を、被告人の証言から引用して、ぺたぺた張り付けた」と厳しく批判。一方、「株主代表訴訟の裁判官たちは、役員たちに対して、こういう予想が本当に起きたら大変じゃないですか、どうしてすぐ対策をとらなかったのか等と、自分の言葉で聞いていた」と、その違いを指摘した。

 また、河合弁護士は「株主代表訴訟での勝訴は、今回の強制起訴がなければ、絶対にありえなかった」と刑事訴訟の意味を評価した。

 会見について詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画

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