12月27日、夜6時から、岩上安身による永井幸寿弁護士へのインタビューを行った。12月20日、23日、27日と3回に渡った連続インタビューは、自民党が憲法改正で日本国憲法への導入を狙っている「緊急事態条項」の危険性を多面的に掘り下げる内容になった。
なぜ、自民党は内閣に権力を集中する「緊急事態条項」を憲法に導入したいのか。自民党が導入したいと考えている緊急事態条項の目的が「戦争」に他ならないこと、もしその「戦争」が発火すれば、日本列島は自動的に1000発以上とみられる「中国軍のミサイル吸収ホイホイ」になることが連続インタビューの中で明らかされた。
インタビューの第2回・続編で、永井弁護士は、国難とも言えるような災害や感染病などといった緊急事態には、個別法で十分対応できると指摘した。
一方、憲法に組み込まれる緊急事態条項は、どのような緊急事態にも対応できるようなオールマイティの性格を持つため、国家における最大の緊急事態である「戦争」に合わせて制度設計される。国民を「赤紙(召集令状)」一枚で出頭させ、戦場に送り込むためには、人権保障を停止し、政府に権力を集中するしかないからである。
今、与党である自公と「ゆ党」が、あの手この手で「緊急事態条項」を憲法に導入しようとしているのは、戦争準備に他ならない。その戦争とはもちろん、米中の覇権争いによって引き起こされるものであり、「台湾有事」と呼んでいても、それは日本列島全体を戦場にする戦争である。
「緊急事態条項は、対中国との戦争を見すえて、戦時独裁体制を築き、日本国民の反対を強権発動で抑え込んで米国の傀儡国として、米国本土を守るため、日本国民を犠牲にする無謀な対中戦争に鉄砲玉として突っ込むための仕掛け」(岩上)なのだ。
岩上「集団的自衛権が出てきて米軍と一体化して米軍の戦争に自動参戦する仕組みが整ってしまいました。日本はアメリカに引っ張られていく状態にあります。それを現実に実行するために緊急事態条項が必要なんだと思えてしかたないのですが」
永井弁護士「集団的自衛権は国連のときに生まれた概念で、あれはただの戦争権、戦争をする権利に他ならないんですね。戦争権を使うために日本国憲法を使うのは、9条の趣旨を逸脱するし、そのために緊急事態条項が便利だから使おうというのは憲法の趣旨に反するし、憲法上認められないし、認めてはいけないですね」
日刊IWJガイド12月27日号でもお伝えした、「『台湾有事の初動段階で米海兵隊が鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く』という日米共同作戦の原案が、自衛隊と米軍によって策定された」という『共同通信』のスクープについて、永井弁護士のご意見をうかがった。
『共同通信』のスクープ、特に気になる点は、「作戦計画の協議に当たる自衛隊幹部は、夏ごろから米側が『日米間の政治的プロセスは待っていられない』と強硬な発言を繰り返すようになったと明かす。米軍の勢いに押し切られるように、日米共同作戦計画の原案は完成。日米の部隊レベルで検証する段階になっているという」と報じられた米軍の強硬な姿勢である。
「日米間の政治的プロセスは待っていられない」とはどういう意味なのか。
岩上「アメリカの海兵隊のEABOについて陸自は、中国の台湾侵攻への備えを急ぐ米軍に押し切られたと。つまり、アメリカ軍のゴリ押しですすんでいるということです(後略)」
永井弁護士「憲法の原則から言うとですね、シビリアンコントロールという考え方にもとづいていますから、政府のもとに、実力部隊である自衛隊があって。政府と政府の間でなんらかの協定が結ばれたときに、初めてその実力部隊の間の作戦が作られることになっているはずです。
今の話だと、政府の話を抜きにしてアメリカ軍の方が日本の自衛隊に圧力をかけてその計画に持っていってしまうということは、我が国の側からすると、軍隊が暴走しているということですね」
岩上「『暴走』というよりは(日本の自衛隊が米軍に)『従属している』ということですね」
永井弁護士「他の国の運隊に従属して、我が国の統治の関係から外れてしまっているわけでしょう。
戦前の、日中戦争などでも軍隊が独自の理屈で、統帥権の独立とか言って政府から独立するんだと言って、グッと侵略していっちゃったために戦争の方向に行っちゃったんです。
こういう風に軍隊ではないけれど、自衛隊、実力部隊を政府がコントロールできない、他の国の軍隊に従属しているって、これはきわめて危険な状態だと思います」
岩上「従属がもう常態化している。空自のトップの司令部は米軍の基地内にあるんですよ。そして、陸自のトップの司令部も米軍の基地内にある。海自のトップの司令部も米軍の基地内にあって、いわば2軍として一緒に『同棲』しちゃっているんです。正式な結婚をしたわけではありません。
『同棲』しちゃって、そのまま言うことを聞いてツーカーで動いて、こうなりましたからよろしくということが制服組から背広組に伝えられて、背広組は形だけ整えて、最後は大臣同士の2プラス2で合意の形を取る、と。この間に国会は関与していないですよね」
永井弁護士「満州事変もそうだし、日中戦争もそうだし、軍隊が勝手に動いた後、政府は追認していった、それがずんずん重なっていって、おかしな方向に行っちゃったわけですね。
それを止めるために日本は新しい憲法ができてシビリアンコントロールが取り入れられたはずなのに。この枠を破っていて大変危険な状態だと思います」
もう一つ気になる発言がある。自衛隊制服組幹部による、「日本列島は米中の最前線。台湾を巡る有事に巻き込まれることは避けられない。申し訳ないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう」という発言だ。
永井弁護士「自衛隊に住民を避難させる余力はないってことですね。これ、すぐに思い出すのが、東日本大震災での原発事故ですよね。
この原発事故の時、原発のような危険なものを作ってしまったわけですから、本来は住民に関しては、国が防災基本計画をつくって、それにもとづいて県が地域防災計画をつくって。
過去にはアメリカでもソ連でも爆発事故は起きているわけですからね、それを予測して避難の準備、避難ルートをつくる、住民参加の避難訓練をする、それから避難してもそこで生活するわけですからその生活の基盤を成り立たせるための仮の住居を準備をするとか、全部必要なわけです。それを全然しなかったから、あの原発事故で大変な悲惨な目にあったわけですよね。
それでも事故を起こした原発の数自体は少なかったですけど、こんな(日本列島が戦場になるような)事態が起これば、もっと多くの原発が当然被害を受けるわけだし、多数の、何十万、何百万の被災者が出るわけですから。
こういうことをまったく考えないで計画を立てるなんて、とんでもない話。当然発生する大量の被災者は眼中にない。自治体に任せるというのは何もしないということ。到底許されることではない」
岩上「原発をこのまま野ざらしにしとくわけにいかないだろっていう声が、出てもいいはずなのに出ないわけですよ。『原発×戦争』っていうふうに、原発リスクに戦争リスクを掛け合わせたらできないだろうって、考える。それを話すことができない。
メディアでも話題にならないし、国会でもそういう質問をした議員はごく一部でした。
じゃあ、官僚は考えているか、政府は考えているかって言ったら、考えていないんです。原発に飛行機が突っ込んできた同時多発テロのリスクまでは考えているけど、ミサイルが飛んでくるリスクについては考えていないと断言しています。
原発についても、(防衛省は)『戦争遂行は経産省に聞いてくれ。我々は考えていない』と、はっきり言うわけです」
岩上は、自衛隊と米軍が毎年行っている共同の図上演習「ヤマサクラ」で、若狭湾から敵軍が上陸するという想定で行われた時の話を紹介し、そこでも原発の存在はまったく考慮されていないと指摘した。「ヤマサクラ」については、インタビューの末尾でもご紹介している。
岩上「これは馬鹿馬鹿しい話で、現実になっていけば多くの人が気がつくわけですが、その時、『何やっているんだ』という声を抑え込むためにも緊急事態条項が必要なんじゃないかっていうふうに思えてならないんですよね」
永井弁護士「司馬遼太郎さんが『歴史と視点』という本を書いていて、その中で『一億総玉砕』っていう話になった時、司馬さんが戦車兵で、相模湾のところで訓練をしていたんです。アメリカ軍がブワーっと上陸してくるんで。
そのときに陸軍の参謀本部から来た偉いさんが来て指導したんですが、その人に彼が素朴な疑問を言った。ものすごい数の住民が大八車を持ってくるはずだけど、その人たちと軍隊の交通整理はどうするんですかって聞いたんです。
彼はそれを全然想定していなかったみたいで、しばらく司馬さんを睨んだ後、『轢き殺していけ』って言ったんですね。
結局、国民を守るはずの軍隊が戦争だけのために戦って、国民なんて何も考えていないっていうことがその時、よく分かったと、言っていましたね」
※司馬遼太郎(2009)『歴史と視点―私の雑記帖―』新潮社
戦争は戦争のために行われ、軍隊は戦争のために戦うのであって、国民は軍事活動のために邪魔であれば『轢き殺していく』存在でしかない。
岩上は、司馬遼太郎が『坂の上の雲』で、日清・日露戦争が行われたのは、日本でも中国でもロシアの国内でもなく、ほとんどの戦争は朝鮮で行われたと指摘し、その時の朝鮮半島は「地理的存在だった」と書いていると紹介した。
岩上「実際の戦場はどこだったかというと、日本でもなく清でもなくロシアでもなく、ほとんどの戦場は朝鮮半島だったんですよね。その朝鮮半島については、『大国と大国が戦う時の地理的存在だった』と書いているんです。
実は、今回の米中戦争にあたって、日本というのは、米国の首脳、米軍関係者にとっても、中国関係者にとっても『地理的存在』だとみなされていると思うんですね。
自衛隊も、属国軍として日本を守るためだということから逸脱して、米軍にくっついていけ、米軍の指導者にくっついていけ、米軍の占領下にくっついて行けっていう風になってるんです。
そういう状態で、『地理的存在』である日本列島に暮らしている人々の命は捨象してもいい人命だと思っていると思うんです。
そういう『地理的存在』のまま、主権のない、基本的人権のないままの存在で、我々はいていいのかと。我々は『地理的存在』ではない、ということを声をあげて言うべきで、声をあげられないようにするために緊急事態条項があるんだと思うんです。
我々を『地理的存在』にしてしまう緊急事態条項をさせないようにするってことがものすごく重要なんじゃないかなと思います」
※司馬遼太郎(1999)『坂の上の雲』文春文庫(1968-1972『産経新聞』連載)
このあと、米国戦略家が考える、対中戦争における日本列島の利用価値は、「中国軍のミサイル吸収ホイホイ」に他ならないということを、岩上安身が、トランプ政権の大統領補佐官ピーター・ナヴァロ氏の著作『米中もし戦わば』(2016年)や、中国軍のミサイル装備の実態をなどを通じて詳しく説明した。
インタビューの最後に、緊急事態条項を導入するもう一つの目的、終戦直後以上に膨れ上がった日本国債の償還の可能性について話し合われた。敗戦直後、緊急勅令すなわち国家緊急権によって預金封鎖と、財産税で国民の財産を根こそぎ没収して国家デフォルトを回避した歴史的事実を辿り、今、緊急事態条項を手にすれば日本政府が、国家デフォルトを免れるためにもう一度、預金封鎖と財産税を実施する可能性があるのではないか、と問うた。永井弁護士は、緊急事態条項の導入で「実行可能になりますね」と同意している。
「新型インフルエンザ対策特措法」はじめ、コロナ対応をするために十分な法体制が完備されていたのに、政府はやるべきコロナ対応を「しなかった」のであり、大震災の被害見積もりから原発災害を「除外している」のである。いずれの対応を見ても政府は「国民の命と暮らしを守るため」に動いているわけではないのである。
緊急事態条項は国家権力を内閣が一手に掌握し、国民を「赤紙(召集令状)」1枚で戦場に送り込むことも、国債の償還をするために国民の資産を根こそぎ奪うことも可能にする、きわめて危険な条項である。政府は「国民の命と暮らしを守るため」と喧伝するが、その実態は真逆である。岩上安身による永井幸寿弁護士への3回の連続インタビューで緊急事態条項の危険性が浮き彫りになった。
詳しくはぜひ、全編動画を御覧ください。
また、「コロナ禍を口実に改憲による緊急事態条項の導入は不要!」と題した連続インタビューの初回と続編は以下より御覧になれます。