12月23日午後6時より、岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー「コロナ禍を口実に改憲による緊急事態条項の導入は不要!」(続編)をオンラインで実施した。20日に行った「コロナ禍を口実に改憲による緊急事態条項の導入は不要! 政府による人災に苦しめられた コロナ禍を検証!」の続編である。
当初のテーマは「『緊急事態条項』と対中戦争!? 預金封鎖と財産税で国債の償還!?」であったが、密度の高い内容であったため、後半の「預金封鎖と財産税」についてはさらに「続々編」で扱うことになった。
インタビュー冒頭、前回振り返りのあと、緊急ニュースとして、12月21日に発表された、内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」による「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について」を取り上げた。永井弁護士はご自身も阪神淡路大震災の被災者であり、「災害のことばかりやってきました」という災害の専門家である。
国難ともいうべき大災害は、そのまま緊急事態条項にもつながる。下村博文氏をはじめとする自民党幹部の「コロナ禍を奇貨とする緊急事態条項の導入」がいかに欺瞞に満ちた発言であるかは、20日のインタビューで明らかになったが、今後日本列島を襲うかもしれない未曾有の大震災への対応として緊急事態条項が必要だという言説が出てくることは十分予想できる。
内閣府は、日本海溝・千島海溝沿いでマグニチュード9級 の巨大地震が起きた場合、東北や北海道など太平 洋沿岸で最大19万9000人が死亡、約22万棟が全壊、経済被害額は約31.3兆円と推定を発表したが、その被害推定の中に東北から東海に存在する12基の原発が事故を起こした際の被害者数および経済損失額などの影響は含まれていない。
現在建設中の大間原発から東海・東海第2までの12基の原発は3m以上の津波で影響を受けるとされている。
なぜ、内閣府は20万人死亡という国民を脅かすような見積もり、しかし有効性の乏しい災害見積りを出したのか。インタビューでは、その意図を明らかにしていく。
- 日時 2021年12月23日(木)18:00~19:30
- 場所 ZOOM + IWJ事務所(東京都港区)
発見的な論点がいくつもあり、刺激的なインタビューになっている。ぜひ、全編動画で御覧いただきたい。
「預金封鎖と財産税」と緊急事態条項については12月27日に行われたインタビュー続々編で扱っいました。初回、続編、続々編と3回シリーズになった岩上安身による永井幸寿インタビューを通じて、緊急事態条項の正体が明らかになります。ぜひ、3回あわせて御覧ください。
<ここから特別公開中>
同日開催された記者会見でも、岸田文雄総理は「最悪最大の見積もり」と言いながら、原発事故には一切触れず、参加記者からも質問は出なかった。皆、3.11を忘れてしまったはずはないだろうし、忘れていいことでもない。意識して総理も、内閣記者会の記者たちも言及しないのだと思われる。最大の被害をもたらすであろう原発事故を除外した被害の見積もりなどに何の意味もないが、「作為」なのか「不作為」なのかはともかく、専門家も、官僚も、政治家も、御用メディアの記者たちも、現実を直視せず、都合の悪いことは見ない情報だけが集積されて、最後には一般市民が悲劇に見舞われることになる。
永井弁護士も指摘する通り、「事前準備のない災害対策はできない」のである。
岩上「岸田総理は『最悪最大』の被害想定だと言いながら、この被災エリアにある12基の原発の被害には言及しないんですね。内閣府はこの12基の原発について被害想定を出していないんです。
本来なら(会見に参加している)記者は、そこを突っ込まなきゃいけないじゃないですか。誰も突っ込まないんです。
先生がおっしゃるように事前の対策が大事なんですよね。事前の対策をしていなければ、地震などが起こった事後になって、『じゃあ緊急事態条項が必要だ』と言って、官邸に全権力を集めたところで何もできないわけですよね」
永井弁護士「東日本大震災の時も、法律上は『防災基本計画』というのを中央防災会議が作って、県が『地域防災計画』を作って、それにもとづいて市町村が『地域防災計画』をつくるんです。
東日本大震災の時も、原発事故は当然想定されるべきだったんですね。ソ連のチェルノブイリで事故が起きてるし、アメリカのスリーマイルでも起きてましたから。
ただ、日本では『原発事故は起きない』で、オッケーってなったんです。
当然やらなければいけない避難、例えば渋滞した時どうするのか、複数の避難どうするか、そして高齢者の避難をどうするのか。何万人の人たちが避難したときの住宅や避難場所をどうするのかと。
そういうものについて県境を越えて住民参加の計画も訓練も一切なかったんです。双葉病院の施設では避難中に50人の方が亡くなってますから。
いまだに3万9000人が避難していますからね。やっぱり事前の準備がなきゃ、対処できないです。
これ、(原発事故を)想定してないってことは、事前の準備がない、そうする気がないということですし」
岩上「これについて問題意識をメディアの記者たちも持ってない。非常に問題だと思います。
福島第一原発だって、今使えなくなっているとは言え、デブリも使用済み燃料もみんな残っているわけですよ。廃炉に向けて後何年なんてやっていますが、間に合わなくなる可能性だってあるわけですよね。
大きな地震や津波があったら、大変なことになります。
東海と東海第2原発が破壊されれば、ほんとうに関東、東京に近いところにありますし、人口密集地帯で大変大きな影響が出てくることになります。
これだけ影響を受けるというのに何も想定がないということはどういうことなのか。
岸田総理は『最大最悪』と言いながら一切言及せず、記者からの質問もなし。凄いでしょ、これは。
(記者会見に参加したのは)内閣記者会と一部のフリーランスの記者ですが、内閣記者会って、絶対、政権の都合の悪いことはやらないんですよ。こういう記者会見の制度になっているんです」
永井弁護士「東日本大震災よりもっと悲惨な状態が起きますね。これだったら確実に起きます」
岩上 「南海トラフ、そして首都圏直下も懸念されている。プラス、東日本大震災を上回る規模の地震・津波がこう(原発事故を除外して)想定された。
これは本当に、真剣に直視して対応しないと日本という経済とか社会とかが崩れ落ちますよ」
現実を直視して事前準備を行わなければ、災害対策はできない。
今、改憲勢力は、憲法に緊急事態条項を書き加えようと躍起になっているが、災害が起きた後で内閣に権力を集中したところで、きちんとした事前準備がなければまったく機能しない。改憲の狙いが本気の災害対策でなければ、何のための緊急事態条項なのか。別の思惑があると疑わざるをえない。それは「台湾有事」と呼ばれる「戦争」である。そのときは日本列島全体が米中対立の戦場となる。
緊急事態に対処するあり方には2つあると永井弁護士は指摘した。1つは個別の事象に対して個別に法的な対処をするもので、権力が濫用される危険が少ない。しかし、もう1つの、憲法を改正して恒久的に設ける緊急事態条項の場合は、最も重大な事態、つまり戦争に合わせて制度設計されるため、権力が内閣に集中され、権力が濫用され、人権が侵害される危険性が極めて高いというのである。
内閣にすべての権限を集中させれば、立憲主義の停止につながる。永井弁護士は「権力を抑えることができるのは権力だけ」であると指摘、三権分立で、それぞれの権力主体が相互に抑制しあう制度になっているが、それが内閣に集中されれば立憲主義は停止されると述べた。
岩上は、最近はさまざまなメディアが賑やかに「対中戦争」に言及しているが、そこで言及されている戦争のイメージがあまりにも貧しい、尖閣海域で海戦が起きるかのような話題ばかりが取り上げられ、「まるで格闘技の試合を観客席から見ているかのような他人事」でしか語っていない、現在は第2次大戦当時とはまったく戦争のあり方が異なる、南の島から島伝いに制圧され、本土に近い島が落とされてようやく日本本土が空襲される、などということは考えられず、尖閣を飛び越えいきなりミサイルが在日米軍基地や自衛隊基地、重要なインフラや大都市に撃ち込まれるような戦争だと批判した。
永井弁護士「現代の戦争は総力戦ですから、緊急事態条項と戦争は不可分のセットなんです。緊急事態条項で人権を停止しなければ、そんな総力戦はできません。国民が『お国のために』命を捧げるということですから。
よく、世界各国それぞれ緊急事態条項を持っており、日本だけが緊急事態条項を持っていないという人がいますが、日本は9条がありますから、戦争とセットになる緊急事態条項を設けていないことは当然なんですね」
岩上「9条の話では、自衛隊を違憲というのか、ちゃんと評価しろという人がいます。でも、2016年の集団的自衛権の行使容認、安保法制で、日本は『戦争しない』と言っておきながら、アメリカが動けば日本はもう自動的に参戦するようなシステムになってしまっています。
実際のところ、日本の自衛隊は、米軍の下部組織として組み込まれていて、指揮権は米国側にあって、日本の政府は指揮権を持っていないということをはっきり断言する人がいません。
日本側には『指揮権がない』ということ、ものすごく危険なことを誰も言わない。
日本にとっても不利な戦争を(米国側から)強いられることだって起こりうるんです。その時、国内で反対が出ないようにするために、緊急事態条項が必要になってくるのではないかと。
そういう時に、9条一本槍では少数に陥ってしまう可能性があって国民投票で負けてしまうんじゃないかなっていう懸念をすごく持っています」
この後、戦前は4つあったという国家緊急権の内容、戦前よりも危険になった2012年の自民党改憲草案の問題点、一見批判を受けて軟化したかのように見える2018年の自民党改憲4項目が、実は輪をかけて危険になっているというお話を、条文を読み解きながら解説していただいた。
2020年に岩上が安倍晋三総理(当時)に、緊急事態条項の導入によって「安倍独裁」が可能になるのではないかと質問した際、安倍総理が答えをはぐらかしたこと、そこから見えてくる自民党・安倍改憲の本気度についても話が及んだ。
この安倍会見の答弁の中で、安倍総理が言明した「まず報道の自由は守られます」という発言について、永井弁護士は「法律上は嘘ですね」と指摘、新型インフルエンザ対策特別措置法による緊急事態宣言の中で、NHKに対する指示権による報道の自由の阻害と、都道府県知事が集会の制限をできることからデモなどの表現の自由が阻害される可能性を明らかにした。
また、永井弁護士は、新型インフルエンザ対策特別措置法の改正で導入された「マンボウ」こと「蔓延防止等重点措置」が、緊急事態宣言よりも下位に置かれているかのように見えて、制限できる事柄の内容と罰則は同じレベルの内容のまま、国会への報告義務を無くしており、その実態は緊急事態宣言を骨抜きにするものであったと指摘した。これまで誰も指摘していなかった問題である。
岩上「なんだか『マンボウ』なんて、可愛い言い方でみんなごまかされちゃいますよね」
永井弁護士「ピロリ菌みたいなものですよね。可愛いんだけど、実は危険だと」
岩上「ダメじゃないですか。マンボウ駄目ですよ。以後気を付けたいと思いますし、ご視聴になってる方はぜひ、『マンボウ駄目よ』と(広めてください)」