バイデン・民主党候補の勝利が確実になった11月7日、ロシアのニュース専門メディア『RT(旧ロシア・トゥデイ)』が、バイデン新政権の外交分析記事を掲載した。
直訳すると「トランプは米国衰退の一症状だった。バイデンがこれをひっくり返す可能性は低い」と題されたこの記事は、オバマ・バイデン政権下の「政治と経済のワシントン・コンセンサス(※)は、国家と公的機関が企業を富ませるために略奪をしてきた」ことこそが米国の衰退の原因であると分析し、それを「社会経済システムの内部矛盾」だと指摘している。
RTの記事はさらにオバマ政権が「このような矛盾に対処するために努力するのではなく、このような状況から粗雑に抜け出すために、中国を弱体化させ、分裂させて、東アジアでの軍事的、政治的な影響力を維持しようとした」として、TPPはその一環として「見事な作戦だった」と評している。
一方で、米国の支配力を過大評価するトランプ政権による中国への攻撃は「混乱したものであり、必死であり、多国間機関への攻撃と相まって、ワシントンの世界的な地位を弱めた」と分析している。
他方、オバマ政権のOBや地政学を理解している人たちが参加するであろうバイデン新政権について、RTの記事は、「新しい世代を適切に教育する能力が衰え、競争力も低下している」米国が、「人類史上最高の経済成長を遂げ、イノベーションで世界を席巻している中国のような先進国に、公共の利益という概念を持たない社会経済システムで対抗する方法は、ない。それは不可能である」と、断定している。
「アメリカの衰退は避けられない」と繰り返し指摘するこの分析記事は、最後に「最も注目されるべきことは、バイデン氏が中国をどのように管理するのかである」と結んでいる。
IWJはRTの記事の仮訳を試みた。その文全文は、以下のとおりである。
(※編集部注)ワシントン・コンセンサス:
米国の対外経済戦略や新自由主義的考えを示す言葉。
1989年に米国の国際経済研究所(IIE)の経済学者ジョン・ウィリアムソンの主張した考え方にもとづき、ワシントンD.Cに本部を置くIMF(国際通貨基金)、世界銀行、そして米国政府の間で成立した意見の一致(コンセンサス)を指す。
1980年代の中南米諸国の経済危機に際し、ウィリアムソンは「累積債務の改善」「各国の市場開放」「内部腐敗の改善」が必要だとし、貿易の自由化と資本市場の自由化を主張した。
こうした条件を受け入れた80年代の南米諸国や90年代の旧ソ連、東欧諸国では、経済が後退。1997年の東アジア通貨危機ではタイ、インドネシア、韓国などに大きな経済的混乱をもたらした。
2001年にノーベル経済学賞を受賞した米経済学者ジョセフ・ユージン・スティグリッツは、金融市場や資本の急激な自由化が、通貨危機の最大の原因だとワシントン・コンセンサスを批判した。参照:
『トランプは米国衰退の一症状だった。バイデンがこれをひっくり返す可能性は低い』
外交政策に関して言えば、ジョー・バイデンは、トランプ大統領の4年間のアメリカの介入主義と攻撃的な地政学について、ギアを後ろに戻すだろうか? 可能性は低い。というより彼はそれを望んでいない。
ジョー・バイデン前副大統領が、2020年の選挙での当選が確定したことで、多くの人が次に何が起こるのか気になっている。おそらく今後4年間は、主要な法律の面ではあまり何も起こらないと思われる。しかし、特に外交政策の面では、アメリカの大統領が最も抑制のきかない権力を持っていることから、いくつかの変化が起こる可能性がある。
バイデン氏とドナルド・トランプ現大統領の間では、政策的には「何も変わらない」とする説もあれば、実際にはもっと悪くなる可能性があるとする説もある。後者の陣営の人たちによると、バイデン、あるいは少なくとも彼の政権に就くことになる人たちは、自分たちが何をしているかを実際に知っているので、より危険になるという。私はそうは思わない。
バラク・オバマ政権下の米国は、米国の能力が伸び悩んでいることを必然的に理解しており、ある特定の問題に集中できなければ、自国の能力を消耗させ、あらゆる面で負ける可能性があることを理解していた。その代わりに、米国の世界的な覇権を維持するためには、現実的な決断が必要であり、それはオバマ大統領の外交政策の焦点が中東から東アジアに移った時に明らかになった。