日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が、自らの役員報酬額を有価証券報告書に過少に記載したことが金融商品取引法に違反したとして、11月19日に逮捕され、12月10日には再逮捕、起訴された。しかし、役員報酬を有価証券報告書に過少に記載するという「虚偽記載」が、逮捕事実として妥当であるのかどうかは、当初から疑問視されてもいた。
「結局これは、日産が社内調査の結果を検察に持ち込んで、検察に逮捕してもらったということでしょう。明らかにクーデターですよ」
このように指摘するのは、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士である。12月17日都内にて、郷原弁護士はIWJの川上正晃記者の直接取材に応じ、ゴーン氏逮捕の問題点について語った。
郷原弁護士によれば、「有価証券報告書の虚偽記載罪」は、「これまで粉飾決算の事件で適応されてきた罰則」だという。
「ところが今回問題にされたのは、カルロス・ゴーン氏の役員報酬の問題で、役員報酬を会社の役員が、経営のトップがいくらもらっているか、ということ。
会社のポリシーと経営者の姿勢に関わることなので、それを開示するということは合理性のあることだけど、これまで摘発の対象になってきたような粉飾決算の有価証券報告書の虚偽記載罪とはまったく意味が違う」
郷原弁護士は、有価証券報告書に報酬を過少に記載したことで逮捕されるという前例は、「ない。まったく聞いたこともないし、考えたこともない」と明言した。
さらに郷原弁護士は、「高額報酬そのものが悪かったかのような論調になっていること自体が問題」だと指摘する。
「経営者の報酬をどうするのかということは、もっと色々な観点から考えなければいけない問題で、それを単純に『年間20億円の報酬が高すぎた、だからゴーンは悪いんだ』というような短絡的な考え方は絶対におかしい。
一方で、逮捕された罪状は軽微なものでしかない。そういう逮捕容疑のことをほとんど放っておいて、高額報酬をもらっているとか強欲だとか、海外の不動産のことをめちゃめちゃにゴーン叩き報道に使っているわけでしょ」
ゴーン氏保釈の可能性が高まっていた12月21日、東京地検は容疑について、有価証券報告書の虚偽記載から特別背任に切りかえて3度目のゴーン氏逮捕に踏み切った。31日には東京地裁が10日間の勾留延長を認め、勾留期限が1月11日となった。
- ゴーン容疑者の勾留期限を1月11日まで延長ー東京地裁が決定(ブルームバーグ、2018年12月31日)
IWJは、ゴーン氏逮捕をめぐる日産、仏ルノー、三菱自動車の三社連合の今後や、日本の「人質司法」の問題についても取材している。下記の「ピンチヒッター企画」の記事もあわせてご覧いただきたい。