川上正晃記者と小野坂元記者が、2018年12月21日、元外務省国際情報局長の孫崎享氏にインタビューした。
冒頭、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長再逮捕に関して、「自供」に頼る日本の司法の異様さにつき、お話をうかがった。
小野坂記者は「昭和戦前期の特高警察が、共産主義者らを拘禁し、『転向』させたときの伝統が残っているのではないか」と問いかけた。思想犯として扱っているため、物証などは問題にされず、「共産主義者を辞めます」と本人から申し出ないと、拷問から解放されなかったのである。こうした悪しき「伝統」が、今なお「自白の強要」につながっているのではないかと考え、以上の例を挙げた。
- 思想の科学研究会編『共同研究 転向1(東洋文庫)』(平凡社、2012年、初出1959年)
孫崎氏はもっとさかのぼって、幕末維新期の例を挙げた。坂本龍馬暗殺の犯人については、決定的な証拠がないにもかかわらず、見廻組(※)による犯行であると一般的に考えられており、歴史学的にも通説となっている。しかし、この問題を新刊の『アーネスト・サトウと倒幕の時代』(現代書館、2018年)の中で検証した孫崎氏は、「見廻組が龍馬を暗殺したという根拠は、自供の史料しかない」と指摘をした。
※幕末、江戸幕府が治安の乱れた京都市中の警備のために設置した部隊。新撰組とともに京都守護職に属し、尊攘・討幕派の取り締まりにあたった(デシタル大辞泉より)
この指摘は、日本の近代国家化の起点とされる明治維新の実態がどのようなものであったか、暗殺事件を自供史料のみで考えてきたことに問題はなかったのか、そして現代の人質司法のルーツは幕末維新までさかのぼる必要があるのではないか、等々と考えるきっかけとして重要に思われる。
次いで、フランス国内の話題に移った。孫崎氏は、マクロン政権の危機とも言える「黄色いベスト運動の一番の特徴は何だと思う?」と小野坂記者に逆に問いを投げかけた。
返答に窮した小野坂記者は、これまでの抗議運動を担ってきたのは労働組合や社会主義政党のはずだが、そうした既存勢力ほど近年の社会問題に対応できていないのではないか、と考え、「背景に組織が存在していないのでは」と、なんとか応じた。
岩上安身よりオーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳『エスタブリッシュメント――彼らはこうして富と権力を独占する』(海と月社、2018年)(※)を読むよう宿題を出されていたことも、この回答につながるヒントとなった。
※同書は冒頭から、イギリスにおける生活保護バッシング、極端な規制緩和、権力と一体化し統治機構の一部と化したマスメディアによる「弱者たたき」に切り込み、実のところ右派も左派も、財界とべったりであることを明らかにしている。
その答えは、孫崎氏と一致するところだった。川上記者はすかさず、マクロン政権と安倍政権とに共通する、富裕層に手厚く弱者に厳しい経済政策の問題を孫崎氏にうかがっていった。
※「黄色いベスト運動」についてはパリ在住のIWJ会員 村岡和美氏から、現地からの貴重なリポートをいだだきました。下記URLよりご覧ください。
そこから、本取材の主題である近年深刻化している、防衛費増大と福祉・教育予算の切り詰めの問題をうかがった。孫崎氏は安倍政権下で爆買いされた米国製の高額兵器が、いかに役に立たないものであるのか解説した。
消費税の増税分は福祉・教育予算に充てられているのだろうか。孫崎氏が「法人税の引き下げと等しい消費増税が行われた」と切り出した際、小野坂記者はそのことを裏付ける、財務省公表の直接税・間接税比率のグラフを紹介した。
※なお、国際人権法の立場から行われた下記の会見もあわせてご覧ください。
【IWJ・Ch4】12/20 14:30~「日本外国特派員協会主催『防衛費の異常な増加に抗議し、教育と社会保障への優先的な公的支出を求める声明発表』青山学院大学法学部・申惠丰教授と徳岡宏一朗弁護士による記者会見」
米中関係の今後をどのように見ていくべきなのか。この点については、まずトランプ政権の通商政策に着目する必要がある。前提として11月初めの米国中間選挙では、下院は民主党が過半数を占める結果となったことが重要となる。このため、トランプ大統領は予算配分や税制の改正などで、国内の有権者に経済的な成果を訴えることが難しくなっている。
孫崎氏は「トランプ氏は大統領選で勝利した時に、自動車生産が盛んな州の支持を得た。それらは本来労働組合と近い民主党の地盤だったところだけれども、『アメリカ・ファースト』と訴えて勝利した。トランプ大統領はそうした州からの支持を維持するために、自動車関税をしっかりかけるというメッセージを出す」とし、ますます貿易戦争がヒートアップする構図を示した。
その一方で、通信技術の最先端を走っているのは、今や中国であることを踏まえ、日本はどのようなスタンスをとるべきか、孫崎氏にお話をうかがった。
IWJの次世代は育ちつつありますね。IWJ若手にも期待しています。
とても良いインタビューです。