国連安保理による決議のないまま、トランプ米政権が2018年4月14日午前(日本時間)、シリアへのミサイル攻撃に踏み切った。英・仏両国も軍事作戦に加わった。
アサド政権側はこの攻撃を「国際法に反する行為だ」と非難している。
ロシア国防省によると、米軍などがシリアに撃ち込んだミサイルは100発以上とされ、マティス米国防長官も「昨年と比べてほぼ2倍の兵器を使った」と述べている。
また、トランプ大統領は「シリアの独裁者アサドの化学兵器関連施設に対する精密攻撃を命じた」と発表しているが、シリアは化学兵器禁止機関(OPCW)の調査チームの査察受け入れを表明しており、4月14日からから現地調査を始めることになっていた。アサド政権側はこの調査の直前に攻撃を受けたことについて、「アサド政権が化学兵器を使用した」という、うそがばれないようにするためだと主張している。
シリアの首都ダマスカス近郊・東グータ地区ドゥーマで、2018年4月7日、化学兵器の使用疑惑が報じられた。国連安全保障理事会は10日、加害者を特定する独立調査団設置を決める米国作成の決議案を採決したが、シリア・アサド政権の後ろ盾であるロシアが拒否権を行使し、否決された。
一方、ロシア作成の独立調査団新設決議案は、採択に必要な9カ国の支持を得られず否決された。
▲国連安全保障理事会会議場(Wikimedia Commonsより)
米・英・仏はアサド政権が化学兵器を使ったと断定しているが、マティス米国防長官はアサド政権が化学兵器を使ったことについて、11日「まだ評価中だ」と語ったものの、その後明確な証拠は示していない。
それどころか化学兵器による攻撃を受けたとされる「被害者側」であるシリア反体制派の人権団体幹部から、化学兵器攻撃は「アサド政権に抵抗する反体制派への支持を結集するため、でっちあげられた」という証言まで出ている。
最初から疑問視されていたシリア・アサド政権の化学兵器使用!? 2013年には全量廃棄済み
2011年以来内戦が続いているシリアでは、2013年に最初の化学兵器使用の疑惑が浮上した。この時にも米国を中心に反体制派を支援する各国はアサド政権側がサリンを使用したと主張したが、シリア問題に関する国連調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は、「化学兵器のサリンガスを使っているのは反体制派だ」と指摘してアメリカなどから批判された。また、化学兵器の使用そのものを疑問視する声もあった。IWJは当初から疑問視していた。
▲バッシャール・アル=アサド シリア大統領(Wikimedia Commonsより)
米・英・仏はシリアへの軍事介入で一致していたが、作戦実施前日、当時のキャメロン英首相が議会承認を得ることができず、これを受けた当時のオバマ米大統領も急遽議会承認を求めることに決め、当時のオランド仏大統領はハシゴを外された形になり、結局軍事行動は行われなかった。
2013年9月、アサド政権は国際条約にもとづく国際機関である化学兵器禁止機関(OPCW)に保有化学兵器約1300トンの全量引き渡しに応じている。また、その後ロシアの仲介によって化学兵器関連施設の破壊も約束している。
- シリアで化学兵器が「容認」されつつある実態(東洋経済オンライン、2018年4月13日)
トランプ米大統領が「ロシアよ、準備しろ。ミサイルが飛んでいくぞ」とツイート!
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチの報告によると、シリア内戦で塩素ガスを使った攻撃を含めて85回に及ぶ化学兵器の使用があった。その大半がアサド政権によるものとされている。
2017年4月6日には米トランプ政権が、化学兵器使用の報復措置として、アサド政権軍の支配下にある空軍基地に対して巡航ミサイル「トマホーク」を59発打ち込んでいる。シリアの国営通信社は、米国のミサイル攻撃で市民9人が死亡したと伝え、うち4人は子どもとしている。この攻撃も安保理決議を経ていない。
▲ドナルド・トランプ米大統領(Wikimedia Commonsより)
今回も米国は地中海にミサイル駆逐艦二隻を展開し、原子力空母ハリー・トルーマンを中心とした空母打撃群も地中海へ向かわせた。ドナルド・トランプ米大統領は4月11日、ツイッターに「ロシアはシリアに向けて発射されたいかなるミサイルも撃ち落とすと言っている。ロシアよ、準備しろ。ミサイルが飛んでいくぞ」と書き込み、さらに「洗練された高性能な新型だ」と続けてシリア攻撃を予告した。
これに対しロシア側は「賢いミサイルは、正当な政府ではなく、テロリストを標的にしなければならない」と反発している。
- 【速報】ロシアがアメリカに反論(TRT、2018年4月11日)
サルマン・サウジ皇太子とマクロン仏大統領が軍事介入を示唆!それぞれの思惑の背景にあるものは!?
この米国によるシリアへのミサイル攻撃の動きをめぐり、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は4月10日、公式訪問中のフランスで「同盟国が軍事行動を必要とするならば、参加するだろう」と、軍事介入を示唆している。
また、サルマン皇太子と会談したエマニュエル・マクロン仏大統領も、「英米を中心に同盟国と技術的、戦略的な情報交換をした上で数日中に決定を下す」と表明しており、米国と協調して軍事行動も辞さない強行姿勢を見せている。
米・英・仏が国連決議もないままシリアをミサイル攻撃!化学兵器禁止機関の査察直前に関連施設を破壊!? IWJは元外務省国際情報局長・孫崎享氏、東京大学・板垣雄三名誉教授両氏に取材! https://iwj.co.jp/wj/open/archives/418220 … @iwakamiyasumi
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