【第396-401号】岩上安身のIWJ特報!いつでも独裁が可能!? いつまでも独裁が可能!? 憲法で堂々と独裁を肯定!? より危険性が高まった自民党新改憲の緊急事態条項!岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー(前編) 2018.11.29

記事公開日:2018.11.29 テキスト独自
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 改憲発議が迫っている。

 10月24日に臨時国会が召集され、安倍総理は所信表明演説において、憲法改定について「憲法審査会で政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と述べ「国会議員の責任を果たそう」と呼びかけるなど、自民党案をもとにした改憲に強い執念を見せた。

 ほとんどのメディア、知識人、野党も、改憲発議が目前に迫っていること、しかもその中に民主主義を瞬殺してファシズムを一夜にして実現することができる緊急事態条項が含まれていることに、警戒心が足りない。本来なら最大限の警戒、抗議、反対、自民案の撤回と破棄を求めてしかるべきだ。

 さかのぼること今から7か月前、2018年3月25日、自民党大会において、「9条への自衛隊明記」、「緊急事態条項創設」、「参院選『合区』解消」、「教育の充実」の4項目からなる「改憲たたき台素案」が条文の形で発表された。

 前年の2017年5月3日の憲法記念日に、改憲派の集会に送ったビデオメッセージの中で、安倍総理が「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と発言して以来、党内の改憲への動きは一気に加速。同年2017年12月20日には、自民党憲法改正推進本部が「憲法改正に関する論点取りまとめ」として、この「改憲4項目」を掲げていた。

 安倍総理の設定した「2020年施行」に向けて、早ければこの臨時国会中に、いよいよ改憲の国会発議に踏み切るつもりと思われる。

 法整備で十分対応可能なはずのダミー項目であることは丸見えの「参院選『合区』解消」と「教育の充実」についてはさておき、改憲に反対する人々の関心は、いつものように「9条への自衛隊明記」に集まった。実際、集団的自衛権を際限なく認めることにつながりかねない危険な条項であり、何より安倍総理がそればかりを口にしてきたのであるから、世の注目を集めるのは当然といえる。

 ところが、大災害や外国武力攻撃などの「緊急事態」を名目に内閣に強大な権力を付与するものとして、激しい非難を巻き起こしていた「緊急事態条項創設」については、今回もまた、なぜか話題にも上らない。今年の憲法記念日ですら、どこの集会でもメインに取り上げなかった。

 考えられる理由は、一つある。「緊急事態条項」新案は、2012年に発表された自民党憲法改正草案のあの居丈高なトーンとは打って変わって、一見すると大変「おとなしい」文面に変わっているのである。「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱」「法律と同一の効力を有する政令」「(国の指示に)何びとも従わなければならない」「(地方自治体に内閣は)指示できる」といった、戦争やナチ独裁を彷彿させるあの強権的な文言は条文案の表面上から消え去り、かわって「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる」といたって簡潔にまとめられている。言葉遣いも平易である。猛々しさは伝わりにくい。

 そのうえ、旧案では緊急事態条項専用に「98条・99条」を新設し、憲法の一大要素のように位置づけていたものを、このたびは、内閣の事務を定める73条と国会の章の末尾にあたる64条という離れた二つの条文の、それも各々の追加項目として添えるという。ちょっとした微修正なんですよ、とでも言いたげである。これを読んだ人の中には「危険性はひとまず取り去られた」と安堵する人も少なくなかったであろう。そうした人々は、こう思ったかもしれない。「安倍自民党が国民の非難の声に珍しく耳を傾け、独裁を可能にするような条文の書き込みを諦めたのかもしれない、ひとまずは放っておいていいだろう」と。

 だが、国民を安心させるその柔らかい文面も、永井幸寿弁護士の目は誤魔化せはしなかった。永井弁護士は災害問題のエキスパートで、自らも阪神・淡路大震災の被災者として災害の現場を熟知している。そして、災害をダシにした自民党「緊急事態条項」創設の欺瞞をいち早く見抜き、最も早くからこの条項の危険性に警鐘を鳴らしてきた人物である。そんな永井弁護士が、「これは大変だ、みんな気がつかないが、旧案よりはるかに危険になっている!IWJで話させてくれ!!」と、血相を変えて岩上安身に直接訴えてきたのが、今回のインタビュー実現のきっかけだった。

▲永井幸寿 弁護士

 「法律に明るくない人々を騙すのに、実によくできている」と永井氏が「関心」するこの新「緊急事態条項」のトリックとは。そのトリックの先に待ち構えるディストピアとは。被災者に寄り添うために、法の専門家ができることは何かをひたむきに考え、模索してきた永井弁護士の、人間味あふれる、だが鋭い分析力が光るインタビュー!ぜひ、すべての日本人に読んでもらいたいと願う。

 今、起きつつあることは、例外なくすべての日本人の身にふりかかることなのである。どんなに政治的に無関心であろうと、どれほど安倍政権の支持者や信者であろうと、どんなに日米同盟機軸というイデオロギーの盲目的信者であろうと、日本が軍事ファシズム国家となり(これは事実上のクーデターに等しい。緊急事態条項は、クーデターを合憲化・合法化するための条項)、米中覇権交代の戦争の道具として巻き込まれてゆくのを阻止しなければ、すべての日本人が多大な犠牲を強いられる。

記事目次

自民党が改憲4項目の「たたき台素案」を条文の形で発表!緊急事態条項の不気味な「スッキリ感」。だがそこには永久独裁への様々な仕掛けが…主要メディアはもちろん、憲法記念日ですら誰も取り上げないこの「緊急事態条項」新案、危険性を訴えるため、永井幸寿弁護士、IWJに駆け込み訴え!

岩上安身(以下「岩上」)「皆さん、こんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。

 本日お届けするのは、あまりに危険でかつ緊急性・公共性の高い話題です。できることならみんなに見ていただいて、みんなに伝えていっていただかなければならない、それほどまでに重要なことがらでありながら、どこも報じていないし、まともに論じられてもいません。

 タイトルは『いつでも独裁が可能!? いつまでも独裁が可能!?』。中年以上の方なら覚えておられるとおもいますが、『少し愛して、長ーく愛して』というあのサントリーのCMじゃないですけれども、『いつでも独裁可能、いつまでーも独裁可能』という、独裁者にとってはさぞ甘ったるーい、甘い蜜の味なんでしょうね。『憲法で堂々と独裁を肯定!? より危険性が高まってしまった自民党新改憲案の緊急事態条項』です。

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▲「いつでも独裁が可能!? いつまでも独裁が可能!? 憲法で堂々と独裁を肯定!? より危険性が高まってしまった自民党新改憲案の緊急事態条項」

 この問題に関しましては、やはり、真っ先にこの問題に注目し、危険性を指摘してこられた永井幸寿(こうじゅ)弁護士。永井先生にお話をうかがってまいりたいと思います。永井先生、よろしくお願いします。

永井幸寿氏(以下「永井」)「よろしくお願いします」

岩上「永井先生と言えば、2012年に自民党憲法改正案が発表された後、どの段階でしたか、その時以来お世話になっています(※1)」

永井「そうでした。はい」

岩上「この緊急事態条項について、本当に詳しくていらっしゃる。日弁連の災害復興支援委員会(※2)の委員長を務められたりと、災害の問題に長く取り組んでこられたわけですが、災害の現場を知ってるからこそ、災害をダシに緊急事態条項を入れるというのは間違っている、本当におかしい、と指摘してこられました。

 先生の場合、安全保障とか安保法制とか、そうした話から入って行ったのではなくて、災害の問題からこの欺瞞性に気づいて警鐘を鳴らす。何て言うか、アプローチが本当にピュアなんですよね」

永井「そうですか?(笑)」

岩上「このたび、自民党の改憲新草案が4項目出てまいりました。でも、それについて、メディア上でもほとんど議論がありません。ご当人の安倍さんも議論しませんし、政界でも議会でも、どこもやりません。テレビ、新聞、報道、その他一切やってないと言ってもいいと思います」

永井「はい」

岩上「わざとやらない、というのもあると思うんですよ。私は間違いなくそうだと思っていますが、なるべく国民に警戒心を抱かせない内に、準備を整えてやってしまおうという。麻生さんが言っていた通り、『静かにやろうや』(※3)というステルス作戦を実行しているんだとも言えると思います。で、憲法9条だけを語っておく。

 9条だけは、皆食いついて来ますからね、左派も9条しか反応しない。平和団体も市民運動も知識人も。その中に緊急事態条項をそっと紛れ込ませておくというか。

 結局、あんなにたくさんの自民党改憲草案を作っても、その中で一番大事だったのは緊急事態条項だけなんです。そして、それはステルスで、シーンと進んでいく。わざと隠してるというのはもう見え見えです。9条はもはやダミーです。フィッシングルアーのダミーですよね。

 本命は緊急事態条項。これで一挙に独裁可能。ただ、みんなあまり騒がない。皆の関心がいまひとつだというのは、この危険性がわからないからですよ。というのも、今回の新しい緊急事態条項、前の自民党憲法案よりも、何か、スッキリしちゃってるんですよね。

 つまり、怖いことがいろいろ書かれてたのが切り落とされていて、すごくシンプルな文面になってるから、何か『あれ?後退したのかな?』と、こういう印象持ってるんですね。私も実は、『これは一体どう解釈したらいいのかな?どこかで誰かに聞いてみよう』と思いながら後回しにしていた。

 そこへ永井先生から電話がかかって来まして。『IWJで喋らせろ』『これは大変な事だ』と。どう大変なんでしょう?」

永井「滅茶苦茶危険になりました。にも関わらず、危険が収まったように皆さん勘違いしている。憲法記念日にさえ議論になってないんですよね。これはもの凄く大変な事です。メディアも取り上げない。だからもう、私は岩上さんに電話するしかなかったんですよ」

岩上「私共の所に持って来ていただいて、本当にありがたいことです。ということで、ここで改めて永井先生のご紹介です。

 1955年7月27日生まれ。1979年、早稲田大学法学部をご卒業。私の先輩であります。現在、日弁連災害復興支援委員会・緊急時法制プロジェクト・チーム座長を務められ、緊急事態条項の問題に取り組んでおられます。主なご著書に『憲法に緊急事態条項は必要か』『よくわかる緊急事態条項Q&A』などなど。このプロジェクト・チームには、先生のほかに、どんな分野の弁護士さんが参加されているんでしょうか?」

▲永井幸寿弁護士プロフィール

永井「災害系の弁護士の中で、これについて興味ある人。それから戦争系。憲法問題対策本部(※4)というのがありまして、そこと今連携して協議して意見書などをまとめています」

岩上「そうですか… ほかに、条約とか憲法の上位の問題、それから『立憲的独裁』はどうかとか、これについてはこの後話題になると思いますけれども、そういう話に強い方は?」

永井「多分、憲法問題対策本部にいると思います」

岩上「僕は何度でも言いますけど、これ、あくまで従属国の独裁ですからね。傀儡独裁という概念をちゃんと押さえておかないと。日本が主権国家なんて笑止千万ですよ。欺瞞主権国家と言いますかね、自分達が何者であるか、ずっと気付かせないままに、奴隷に向かって『お前は奴隷だ、言う事聞け』なんて。ハード過ぎる奴隷の使い方ですよ。

 自分たちが奴隷だと考えさせない。あくまでも自由意志で行動している体裁をとって、実は隷従を強いられている。われわれが日々身を置いているこの状態は、今回の『働かせ放題法案』ともつながっている話です。これについては上西さんにご登場いただくことになっていますけれども、高プロなんて、あくまで自発的隷従のまま、自由意志のまま、長時間労働して死んでしまうわけですからね(※5)」

永井「そうですね」

岩上「そうして猛烈に働いて、ひょっとしたら猛烈に戦争してですね、猛烈に国益を損なって、さらには猛烈に金を差し出して、気がついたらすっからかん、という事態になりそうなんですね。僕はそう危惧しているんですが、そういう話も、本来ならば、できる方が集まってやらなくちゃいけないんじゃないかなと思うんですけれどもね。

 さて、緊急性の高い話ということもありますし、早速本題に入りたいと思います。

 2012年度自民党改憲草案における緊急事態条項の危険性については、IWJもこれまでお伝えしてきました。梓澤先生と澤藤先生という、憲法にお詳しいお2人の弁護士の先生方と私との3人で鼎談を繰り返してですね、日本国憲法と自民党の改憲草案2012年度版を比較しながら逐条で読み解き、これを徹底的に検証してきました。

 さらには、かなり長い論考を付けた増補版も出版して、自民改憲案の緊急事態条項がどんなに危険か警鐘を鳴らしてきた(※6)わけですが、まずはこれがどのようなものであったか、軽くおさらいしながら、このたび自民党が出してきた新改憲案、これはもう本番(の国会)にかけるためのものだと思うんですけれども、実にすっきりとシンプルになったこの新改憲案との違いを検証してまいりたいと思います。

▲澤藤統一郎弁護士(左)、梓澤和幸弁護士(右)(2015年10月27日、IWJ撮影)

 2012年版の自民党改憲草案には、98条に「緊急事態の宣言」が、99条に「緊急事態の宣言の効果」が各々定められていました。これらがいわゆる「緊急事態条項」。正確には「緊急事態宣言条項」と呼んだ方がいいかもしれません。

 これは要するに、テロや災害を口実に国会の事前又は事後の同意で内閣が日本全土に緊急事態を宣言し、事実上憲法を停止させることができるもの。そして、総理大臣には強大な権限が集中し、国民主権は停止、基本的人権は無期限で制約される。

 しかも、自民党改憲草案の緊急事態では期限は更新可能で、解除規定の有効性にも疑問符がつく。つまり、終わりがない。どうやって止めるのか? いちおう止め方は書いてありますけど、本当に止められるの? っていう。おおざっぱに言いえば、問題点はこういうことですよね?」

▲2012年に発表された自民党改憲草案に盛り込まれた緊急事態条項

岩上「いまや有名な話になりましたが、安倍総理がですね、秋葉原の街頭演説でマイクを持ってですね、『安倍帰れ』っていうコールに対して『こんな人達には負けない!』って言いました(※7)けど、『こんな人達には負けない』ために、何が何でもこれを入れるという事なんだろうと思います(笑)。で、『こんな人達』の中に、僕も入ってるんでしょうか?」

永井「そりゃもう、僕も私もみんな入ってますよ」

岩上「入ってるんですか?メンバーなんですか?イヤだなあ」


※1)永井氏のIWJ初登場:
 永井氏がIWJに初めて登場したのは2015年12月19日。2012年4月に「自民党改正草案」を発表した自民党が、まず9条改正を狙った96条改正(憲法改正手続きの緩和)を画策したが猛烈な反対にあい挫折。2015年に入り、国民が憲法を変えることに「慣れる」ようまずは各党の賛同を得やすい項目から段階的に改憲を進める(いわゆる「お試し改憲」)として、「武力攻撃や災害時の緊急事態」を含むいくつかの改憲項目に言及し始めた(2015年3月22日、船田元・自民党憲法改正推進本部長)。
 同年9月には、自民党総裁に再選された安倍総理が2016年参院選の公約として明文改憲を掲げること、それも緊急事態条項からやることを明言するにいたる。
 同時期の安保法制強行採決により、国民の関心が9条改憲に向けられていたこと、産経新聞以外大手メディアがほとんど取り上げなかったこと、なによりも「テロ攻撃や大災害時の対処」という一見もっともらしい口上に、自民改憲案の「緊急事態条項」の危険性がほとんど認知されない中、災害問題のエキスパートで自らも阪神・淡路大震災の被災者として災害の現場を熟知している永井弁護士は、この条項の狙いが別のところにあることを見抜き、真っ先に声を上げたひとりだった。
 10月21日には「災害対策を理由とする【憲法改正】についての報道及び関係者向け意見交換会 ~緊急事態条項「国家緊急権」の創設は必要か~」に登壇、同じく登壇者で当時改憲論者であった小林節・慶応義塾大学教授を「改心」させる。
 この永井氏に注目したIWJはインタビューを申し入れ、12月19日の初登場が実現した。国家緊急権の歴史的背景と趣旨もふまえつつ、自民改憲案の「緊急事態条項」の欺瞞と危険性を白日のもとにさらす永井氏インタビュー、ぜひご参照いただきたい。
参照:
・IWJ「『災害時に、国家緊急権は役に立たない』緊急事態条項・反対派の永井幸寿弁護士との議論で、賛成派の小林節氏に『地殻変動』 ~国家緊急権を徹底討論! 2015.10.21」【URL】https://bit.ly/2ER9Q4Z
・IWJ「2016年最大の喫緊のテーマ!『国家を守り、人権を制限するのが国家緊急権。多くの国で権力に濫用されてきた過去がある』 ~岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー 2015.12.19」【URL】https://bit.ly/2voeyiv
・IWJ「【第254-260号】岩上安身のIWJ特報!災害対応に『緊急事態条項』は不要! ~安倍政権の卑劣な『惨事便乗型全体主義』を警戒せよ! 永井幸寿弁護士インタビュー 2016.5.22」【URL】 https://bit.ly/2M1HEvh

※2)日弁連・災害復興対策委員会:
 1991年の雲仙普賢岳噴火災害および1995年の阪神・淡路大震災は、被災者支援もまた弁護士が取り組むべき重要な人権活動であるという認識を弁護士界にもたらした。
 2003年には「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程」が制定され、その実践のための「災害復興支援基金」およびワーキンググループを設立。「被災地域に居住し、又は勤務する市民の法的需要に応え、もって被災地域の市民の人権を擁護する」活動を組織的に行う体制が整えられる。
 永井氏が委員長を務めていた「災害復興対策委員会」は、このワーキンググループを発展させた日弁連の組織。被災者に対する法律相談や情報提供、精神的サポート、事実収集といった、弁護士による災害復興支援活動の調査・分析をおこない、その成果にもとづいて立法提言を行う。
 また、書籍やパンフレット、講演会等を通じて啓発活動に務めるほか、最高裁判所、法務省、日本司法支援センター等の関係機関とも連携し、大規模災害に対する備えはいかにあるべきか、協議や意見交換をおこなっている。
参照:
・日本弁護士連合会HP「災害復興支援(災害復興支援委員会)」【URL】https://bit.ly/2NHziK9
・日本弁護士連合会『弁護士白書2014年版』「特集2 災害復興と弁護士の役割」【URL(pdf)】https://bit.ly/2PYRDEb
・日本弁護士連合会HP「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程(平成十五年五月二十三日会規第五十三号)」【URL(pdf)】https://bit.ly/2ox1ioV

※3)麻生太郎「静かにやろうや」:
 2013年7月29日に開催された民間シンクタンク「国家基本問題研究所」(櫻井よしこ代表)の主催するシンポジウムにおける、麻生太郎副総理の言葉。
 その趣旨は、国民が気づかぬ間にワイマール憲法を変えた「ナチスの手口」に学び、自民党も国民が事の重大さを理解できないでいるうちに憲法を変えてしまおうというものであり、国内外から激しい批判が巻き起こった。発言の詳細は次のとおり。
 「…(靖国参拝にしても)昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね …」
参照:
・朝日新聞DIGITAL「麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細」2013年8月1日(魚拓)【URL】 http://bit.ly/2h1jJBN
・IWJ「『静かにやろうや』ナチスの手口から学ぼうとしたこと~『法の番人』内閣法制局長官の首すげ替えと裏口からの解釈改憲【IWJウィークリー第13号 岩上安身の『ニュースのトリセツ』より】 2013.8.9」【URL】 http://bit.ly/1b5DDwg
・IWJ「【国会ハイライト】『ナチスの手口に学べ』麻生発言の真意を維新・柿沢氏が直接追及!『緊急事態条項はナチス独裁のプロセスにそっくりだ』~麻生氏『おもしろいですな』と余裕を演じつつ議論からは『逃走』! 2016.2.19」【URL】 http://bit.ly/2eTIP13
・NEWSポストセブン「半藤一利氏が気づいた麻生氏の『ナチス手口学べ』発言の真意」2015年8月13日【URL】 http://bit.ly/2eTIY4B

※4)憲法問題対策本部:
 安倍政権が集団的自衛権行使を容認するために憲法解釈を変更し、日本国憲法が定める憲法改正手続きによらず事実上これを改変しようとする動きが加速していた2014年春、日本弁護士連合会が既設の「憲法委員会」の態勢を強化し、対策本部に組織改編して設置した組織。
 「日本国憲法の基本原則である国民主権、平和主義及び基本的人権の尊重を実現するとともに、憲法の基本理念である立憲主義を堅持する」という観点から、「日本国憲法の基本原則と立憲主義を危うくするような憲法改正の動きに反対する活動、憲法全般にわたる調査、研究、啓発活動及び提言など」をおこない、安倍自民党の推し進める改憲の危険性や問題点を、法律家の立場から市民に幅広く伝える。
参照:
・日本弁護士連合会「今、憲法を考える 〜憲法改正をいう前に知っておきたい憲法のこと(憲法問題対策本部)」【URL】https://bit.ly/2MxGwzb
・毎日新聞「日弁連:憲法問題に『危機感』…対策本部の設置決める」2014年2月22日(リンク切れ)

※5)「働かせ放題」法案/上西充子氏インタビュー:
 高度プロフェッショナル制度(高プロ)とは、年収1075万円以上の一部専門職を労働時間規制から除外する制度。働いた時間ではなく成果で評価、無駄な残業を減らし、働き手の自由度や生産性を高めることが期待できる制度として、2018年6月29日に可決・成立した「働き方改革関連法」の中に盛り込まれた。
 政府は今後は労働者ひとりひとりが自らの働き方を肯定され、その能力が正当に評価されるかのようにアピールしたが、その内実は、対象者の時間外・休日労働には時間の上限も賃金の支払いも、さらには適切な休憩を設ける必要もない、年収1075万円以上の高収入労働者という対象もゆくゆくは拡大可能、しかも統計上の過労死が減るため、死者は自己責任で片付けることができるという、労働者にとっては悪夢のような制度である。
 政府はこれを、まるで「毒まんじゅうの毒」(又市征治・社会民主党党首)を仕込むがごとく、残業時間の上限規制や正社員と非正規労働者との待遇差の解消(「同一労働同一賃金」)といった耳触りの良い他の改正点の間に紛れ込ませ、高まる批判の声を無視して強引に成立させたのである。
 「働き方改革関連法案」には当初、「定額働かせ放題」として悪名高い「裁量労働制」も盛り込まれていたが、裁量労働の拡大が長時間労働を蔓延させるとの批判をかわすために政府が掲げた「データ」が都合よく捏造されたものであることが発覚、導入を断念せざるを得なくなった経緯もある。
 IWJは、この「虚偽データ」の第一発見者である上西充子・法政大学教授に、安倍政権が推し進める労働規制緩和の危険性や、上西氏が用いた喩えに触発されて、ネットではいまや「ご飯論法」として知られる、野党や国民をうまく欺くための詭弁戦法について詳しく話をうかがっている。ぜひご参照いただきたい。
参照:
・日本経済新聞「働き方改革法が成立 脱時間給や同一賃金導入 」2018年6月29日【URL】https://s.nikkei.com/2KzNH9N
・しんぶん赤旗「これでわかる 労働時間データねつ造問題」2018年2月25日【URL】https://bit.ly/2QyQDXu
・YAHOO!ニュース「佐々木亮 高プロ制度の解説をします」2018年3月30日【URL】https://bit.ly/2IkzMmn
・IWJ「過労自殺は、自ら選んだ死ではない!『働き方改革』は労働者の生命を守らず、財界からの要請にばかり応えている! 岩上安身による法政大学教授・上西充子氏インタビュー 2018.3.7」【URL】https://bit.ly/2ryLPqq
・IWJ「『働かせホーダイ』改悪法案強行採決!? 高プロ制度の危険性、そして加藤勝信厚労大臣による『ご飯論法』の詭弁を暴く!5.22 岩上安身による法政大学・上西充子教授緊急インタビュー! 2018.5.22」【URL】https://bit.ly/2s4DHhC

 なお、緊急事態条項と、こうした労働法制の一連の空洞化をあわせ考えると1938年の国家総動員体制の再現も先々に考えているのではないかとの疑いをぬぐえない。
 早稲田大学の長谷部恭男教授は、2017年9月25日の岩上安身によるインタビューにおいて、緊急事態条項について「国家総動員法を起動させるスイッチが憲法の中に組み込まれるということで、総理大臣が必要だと思えば、閣議にかけてこのスイッチを押すことができるようになる」と喝破した。こうした視点がもっと多くの人に共有される必要がある。
・IWJ「自民党改憲草案の緊急事態条項は戦前の国家総動員法の起動スイッチ!? 衆院解散で『ナチスの手口』がいよいよ現実に!? 岩上安身による早稲田大学教授 長谷部恭男氏インタビュー 2017.9.25」【URL】https://bit.ly/2Er979k

※6)鼎談:
 梓澤和幸弁護士(1943年群馬県桐生市出身)は国際法曹協会人権協会共同副議長、日本弁護士連合会国際人権委員会副委員長、日本弁護士連合会人権と報道調査研究委員会委員長、東京弁護士会人権擁護委員長などを歴任、広島大学大学、上智大学、東京経済大学、山梨学院大学などで教鞭を取ったほか、市民メディアNews for the People in Japan代表、SAFLAN 福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク共同代表も務める人権問題のエキスパート。
 澤藤統一郎弁護士(1943年岩手県盛岡市出身)は靖国関連訴訟、自衛隊派遣違憲訴訟、「日の丸・君が代」強制違憲訴訟などの違憲訴訟に数多く関与し、『岩手靖国違憲訴訟』『楽しくわかる日本国憲法――国民主権と民主主義』などの著書もある。
 ここで言及されている「鼎談」とは、自民党が政権に返り咲いた(第二次安倍内閣、2012年12月26日発足)直後から1年半、合計12回(第1弾:2012年12月28日~最終回:2013年6月18日)のべ40時間にわたり、IWJ岩上安身がこの梓澤・澤藤両弁護士を迎えて行ったゼミナール形式のインタビュー番組である。
 現行の日本国憲法と自民党憲法改正草案を対比しつつ、逐条的に丁寧に読み解きながら、自民党改憲草案の危険性を明らかにしていく。
 2013年12月にはこの「鼎談シリーズ」を書籍化した『前夜―日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』を現代書館から上梓。2015年12月には安保法制、TPP参加、特定秘密保護法、原発再稼働等の問題にもからめた56ページ、約50項目の註釈を追加した増補改訂版も出版している。ぜひご参照いただきたい。
参照:
・IWJ「前夜 〜日本国憲法と自民党改憲案を読み解く」【URL】https://bit.ly/2Qx6Bk4
・IWJ書店『前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』【URL】https://bit.ly/1D7pb98、『【増補改訂版・岩上安身サイン入り】前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』【URL】https://bit.ly/1VG56wH
・Wikipedia「梓澤和幸」【URL】https://bit.ly/2xzNeji
・岩波書店「著者略歴 澤藤統一郎」【URL】https://bit.ly/2xs2PBB

※7)安倍総理「こんな人達に負けるわけにはいかない!」:
 東京都議選の投票日前日の2017年7月1日、 秋葉原駅前における自民党・中村彩候補の選挙演説会に応援演説に駆けつけた安倍総理が、集まった大勢の有権者に向かって言い放った言葉。
 大勝した2012年の衆議院選以来、選挙戦最終日における「マイク納めの聖地」であるはずのこの場所で、首相を迎えたのは歓呼の声ではなく「安倍やめろ!」の大合唱とプラカードだった。必死の政策アピールを大音量の「帰れ」コールにかき消された首相は、声の挙がる方向をおもむろに指差し、怒りも露わに次のように叫んだのである。
 「皆さん、あのように、人の主張の、訴える場所に来て、演説を邪魔するような行為を私たち自民党は絶対にしません!私たちはしっかりと政策を真面目に訴えていきたいんです!憎悪からは、何も生まれない。相手を誹謗中傷したって、皆さん、何も生まれないんです。こんな人たちに、皆さん、私たちは負けるわけにはいかない!都政を任せるわけにはいかないじゃありませんか!」
 この一件はネットを通じて全国に知れ渡り(IWJもこのとき安倍総理の演説をCh4にて中継、ツイッターでトレンド入りしたほか、同時視聴者も5000人を突破した)、安倍総理が「自分に反対の考えを持つ人々は国民ではないと思ってる。総理になって何年も経つのに、この方は全国民のために選ばれた職にある自覚は持ち合わせない」(小野次郎・元参議院議員)ことを強く印象付けた。
 翌日の都議選での自民党の記録的大敗という開票結果はそれを裏付けることとなった。
参照:
・IWJ「都議選前日ようやく表に姿を現した安倍総理を待っていたのは『やめろ!』『帰れ!』の嵐!怒れる聴衆の中には森友・籠池氏の姿も!安倍総理は有権者を指差し『こんな人たちに負けない』と逆上! 2017.7.1」【URL】http://bit.ly/2vlkQhQ
・Yahoo !ニュース「『こんな人たち』発言にみる安倍自民の本当の敗因(江川紹子)」2017年7月3日【URL】 http://bit.ly/2sFOFrr

2012年版『緊急事態条項』の問題点(1)発動に国会の事前承認必要なし!? しかも期限も解除規定もなし!

岩上「では、この2012年版緊急事態条項の問題点をひとつずつ確認しておきましょう。

 まずは98条。『内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる』と。

 そして2項で『緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない』。

 これは、要するに発動に国会の事前同意必要なし、つまり事後でもOKということですね。国会はスルーされるだろうというわけですよね」

▲2012年版自民党改憲草案第98条

永井「そうですね。その事後に関しても、期限の定めはありませんから、ずーっとほったらかせるという事ですね」

岩上「続いて3項。『内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない』と。いちおう解除の手続きが書いてあるように見えるんですよ。

 国会で『不承認の議決があった』ら、そして『国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決し』ら解除しなきゃいけないんだから、国会のコントロールはちゃんと受けるじゃないか、という声もあると思うんです。ところが、実際はそうはいかないだとろうと」

▲第98条3項

永井「日本は議院内閣制を採用していますから、国会の多数派が内閣総理大臣を指名し、さらに総理大臣が大臣を指名して、内閣を作りますよね。つまり国会の多数派が内閣を形成してるわけですから、国会が内閣に反して否決するなんてことは、通常は起こり得ないわけです」

岩上「これが大統領制と議会制とが並立している場合なら、二つの権力がお互い牽制し合うということがあり得るわけですけれども(※8)。両者がねじれているということは時にとても重要なことですよね。内閣=行政のトップが暴走した際に、立法府が適切な判断をするわけですからね。

 しかも、党議拘束(※9)なんてものもかけられず、一人一人の議員が良識に則って、というふうに。しかし、なかなかそんなことは現実で起こらない、っていうのが、我々が目にしている現実ですよね。

 ねじれ国会になると、『ねじれが解消しましたー!』、なんてNHKの嬉しそうな報道の仕方を見てもわかるとおり、ねじれがまるで悪いことのように言われるじゃないですか。でも、実際はねじれてるくらいでないと、こういう暴走は防げないんですね」

永井「ねじれ国会というのは、衆議院が多数派で内閣を形成し、参議院の与党が少数派になっている状態のことなんですが、そもそも参議院の存在理由のひとつは何かといえば、それは衆議院を抑制して暴走するのを防ぐということ(※10)ですから、ねじれ国会はむしろ、正常な機能なんです」

岩上「そうでないときに、『不承認の議決』とか『国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決』するとか、そういうことを書かれていても、そんなことは現実には起こり得ない。内閣の意志が優先されてるでしょうから、解除とか不承認ということを議会が議決するなんてことは、議院内閣制をとってる日本ではまずはない思った方がいい」

永井「はい」

岩上「続いて、『また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない』。これで歯止めになってるじゃないか、長い間延長っていうのはできないじゃないか、と思う人もいるかもしれないけれど、でも、承認を得ればいいっていっても、よくよく考えてみたら(改憲派が多数を占めている)国会の承認ですから、必ず承認を得られると考えた方がいいというわけですよね」

永井「そうですね。内閣が延長しようと思えば、必ず承認は得られるということになります。しかも『百日』というのは長すぎます。この間、憲法を停止してしまうわけですから」

岩上「『百日』間の間に、相当のことができてしまうというわけですよね。いろいろな重大な法律が変えられてしまって、もはや身動きが取れなくなってる、というようなことも起こり得る。国のあらゆる部分に細かく独裁が行き渡るような法律を、政令という名前で出してしまうことが可能になる、というわけですよね」

永井「そうです。ナチスも国家緊急権を発動して全権委任法を成立させ、独裁を確立するまでに、1ヵ月を要しませんでしたから(※11)」

岩上「そういう事なんですよ。これだけでも十分怖いんです」

▲1933年3月23日、議場で全権委任法への賛成を要求するアドルフ・ヒトラー(Wikipediaより)


※8)大統領制では二つの権力が互いに牽制しあう:
 議会の多数派が内閣を形成し、行政と立法とが一体となって強力なリーダーシップを発揮する国家を志向する議院内閣制に対して、大統領制はあらゆる権力は腐敗するという思想に立脚し、立法権と行政権を厳格に峻別することを特徴とする。
 たとえばアメリカでは、国会議員と同様国民から直接的に選出される行政の長=大統領に法案提出権はなく、議会を通過した法案に対する拒否権は有するものの議会の再可決があればそれも無効化される。
 そもそも政府で役職に就いている者は議員になれず、原則的には議会に出席し発言することもできない。しかも議会には大統領の権力濫用に対して弾劾・罷免をもって対抗する手段が認められているほか、司法(最高裁判所。フランスでは憲法院、ドイツは憲法裁判所)は違憲立法審査権を通じて行政・立法の暴走に歯止めをかける。
 大統領制において国家運営とは、こうして三権が互いに監視・抑制しながら均衡を見出す過程そのものであって、いわゆる「ねじれ」のごとき現象、たとえば民主党のオバマ大統領のもとで、連邦議会上院における多数派は民主党だったが、下院のそれは共和党であったことも、そこでは立法府の監視機能を高める正常な作用にほかならない。
参照:
・コトバンク「議員内閣制」【URL】https://bit.ly/2NLhzlf
・コトバンク「大統領制」【URL】https://bit.ly/2LShXMY

※9)党議拘束:
 議会に上る案件に関する賛否を党全体の意思として予め決めておき、所属議員の表決行動を拘束すること。違反者に対する処罰を党則で定めている政党が多い。
 議会で多数派を形成した政党が内閣を組織する議院内閣制において、政権を獲得・維持し政策運営を円滑に行うために必要と説明されるが、造反者に除名や党員資格停止でもって臨むほど党議拘束の強い国は日本以外にあまり見受けられないという。
 これは自身の良心と信念にもとづいて行動しようとする議員を排除するのみならず、党の勝利から個人的な利益(議員報酬や官職など)を期待するだけの「訓練の行き届いたイエス・マン」(マックス・ヴェーバー)を蔓延らせるため、国会の質の低下をもたらし国益を著しく損なう悪しき慣習として緩和・撤廃を求める声は高い。
参照:
・Wikipedia「党議拘束」【URL】http://bit.ly/2jmzbFO
・マックス・ヴェーバー著・脇圭平訳『職業としての政治』岩波文庫、1980年.

※10)参議院の存在意義:
 これについて日本国憲法は条文のかたちで説明を与えるわけではないが、憲法が規定する両議院議員の選出方法や任期の設定の仕方そのものに、われわれはその精神を汲み取ることができる。
 憲法は衆議院議員の任期を4年、ただし解散の場合は満了前に任期終了とすると規定(第45条)する一方、参議院議員は任期6年で解散なし、3年おきに半数ずつの改選としている(第46条)。
 つまり、任期の短い議員で構成される衆議院は国民の短期的観点を、任期の長い議員で構成される参議院は国民の中長期的観点を、各々審議に反映させることができるしくみになっているのである。
 また、全国300小選挙区から選出された議員および全国11ブロックによる比例代表によって選出される衆議院議員は「地域代表」の性格が強い一方、都道府県を単位とした選挙区から選出された議員および全国一ブロックによる比例代表によって選出される参議院議員は「都道府県代表」「全国代表」の色彩が濃い。
 こうして異なる方法で選ばれる二つの議院を設けることにより、国民の多様な利益や考えに最大限の意思表示の機会を与え、国政に反映させることが可能となる。そもそも議会は多数決による数の世界であるが、多数は少数より常に正しいという保障はない。衆議院での数に物を言わせた横暴や暴走を監視し食い止めるために二度審議を行うという意味でも、参議院の存在は非常に重要である。
 だが、参議院がそうした本来の役割を果たさず、参議院無用論まで取り沙汰されるようになって久しい。参議院が衆議院のチェック機関であるためには両者が独立していなければならないが、党議拘束(前註※9参照)が異常に強い日本の政党政治にあって、参議院は衆議院の決定をただ追認するだけの組織、「衆議院のカーボンコピー」と化しているからである。
 参議院は内閣に対して問責決議案を提出することはできても不信任決議案は提出できない、参議院の総選挙後に内閣は総辞職する必要はないなど、日本国憲法は参議院を衆議院に対して政治的劣位に置いているが、裏返して言えば、憲法は「参議院に内閣を恒常的に支持する基盤となることを要請しているとは考えられない」のであり、「参議院は、衆議院のように、党議拘束の強い政党によって組織されていることが必要でないばかりか、有害」(前田英昭)なのである。
参照:
・参議院HP「国会全般について」【URL】https://bit.ly/2QNppfX
・All About「社会ニュース/よくわかる政治 二院制の意味ってなんだろう?(辻雅之)」2005年5月10日【URL】https://bit.ly/2xulcpi
・前田英昭「参議院を考える」『政治学論集』46、駒澤大学法学部、1997年【URL(pdf)】https://bit.ly/2QPdAWr

※11)ナチスも国家緊急権を発動して全権委任法を制定するまで1ヶ月を要さず:
 全権委任法とは、ナチス政権下のドイツで1933年に制定された、「民族および帝国の困難を除去するための法律」の通称。立法府が立法権や憲法改正権を行政府に委譲する「授権法」の一種であり、ヒトラーに強大な権力を掌握せしめた悪名高い法律である。
 前文および全5条から成り、国会に代わり立法権を政府に与えること(第1条)、政府立法が憲法に優越すること(第2条)、大統領に代わり首相が法令認証権を得ること(第3条)、議会の合意を得ず政府は外国と条約を締結できること(第4条)、公布と同時に発効、政権交代とともに失効すること(第5条)が規定されていた。国会に対する通告義務や国会による政府措置の破棄権限の条項が存在しないなど、この法律は従来の授権法と引き比べても異質な法律であるとされる。
 そして、かくなる法律が制定され得たのも、当時、国民主権主義の原理に立脚し、男女の普通選挙による議会政治、国民の直接選挙で選ばれる大統領制、生存権、労働権、労働者の団結権などの社会権の保障や、経済活動の自由および財産権の制限付き保障など、当時としては社会国家的色彩の濃い、最も革新的な憲法であったのドイツ憲法、「ワイマール憲法」が強力な国家緊急権(大統領緊急権)を有していたからである。
 ワイマール憲法第48条第2項は、「ドイツ国内において、公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはその虞れがあるときは、ドイツ国大統領は公共の安全および秩序を回復させるために必要な措置をとることができ、必要な場合には、武装兵力を用いて介入することができる。この目的のために、ドイツ国大統領は一時的に第114条〔人身の自由〕、第115条〔住居の不可侵〕、第117条〔信書・郵便・電信電話の秘密〕、第118条〔意思表明の自由〕、第123条〔集会の権利〕、第124条〔結社の権利〕、および第153条〔所有権の保障〕に定められている基本権の全部または一部を停止することができる」と定めていた。
 ヒトラーは1933年1月30日に首相に就任するや、すぐさまこれを利用した。
 同年2月27日夜、ベルリンの国会議事堂が何者かによって放火され焼け落ちるという事件が起こった(「国会議事堂炎上事件」)。ヒトラーはただちにこれを共産主義者の決起の狼煙と断定し、ヒンデンブルク大統領の署名を得て「民族と国家を防衛するための大統領緊急令」および「ドイツ国民への裏切りと反逆策動に対する大統領令」の2つの大統領緊急令を発令(1933年2月28日・29日)。「共産主義者による国家の公安を害する暴力行為を阻止するため」と称し、左翼系議員や活動家を一斉に逮捕する。
 こうして政敵の国会への登院を阻止したうえで、ナチスは全権委任法の審議を開始した。
 「議長の認めない理由で欠席する議員は出席したが投票に参加しない者とみなす」と議院運営規則まで変更させて、3月23日、全権委任法を強引に可決させたのである。2月28日に国家緊急権を発動してから、わずかひと月足らずの間の出来事であった。
参照:
・石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』講談社現代新書、2015年.
・Wikipedia「ナチ党の権力掌握」【URL】https://bit.ly/2jqgi8J
・四宮恭二『国会炎上(デア・ライヒスターク)1933年ードイツ現代史の謎』日本放送出版協会、1984年.
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「ワイマール憲法」【URL】https://bit.ly/2b8UTam
・Wikipedia「全権委任法」【URL】https://bit.ly/2pTIDTJ

2012年版『緊急事態条項』の問題点(2)内閣が自由に法律と同じ効力のある政令を作れる!? 予算も決められる!?

岩上「次に、第99条は『宣言の効果』というものですね。第1項『緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる』と。これ、内閣が好きなように法律出せちゃうということですよね。恐ろしいですね』

▲第99条 緊急事態の宣言の効果

永井「そうですね。法律とは国民の権利を設定し、また義務を課する、というものですから、国の一番重要なルールです。ですから、それは民主主義社会では国民の代表者である国会だけが制定できる、ということになるはずなんです。それを内閣が、つまり私たちが選んだ覚えのない総理大臣と大臣たちが閣議で決められちゃうという事ですから、これは大変な独裁って事になります」

岩上「続くくだりの、支出を決める事ができるっていうのも凄いですよね。『内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる』。つまり総理大臣が予算措置を行えると。金をどういう風に分配するか、内閣が全部決められると」

永井「そうです。内閣総理大臣が一人で予算を決められるということです。それは本来国会が審議して議決することですから、とんでもない話ですね」

岩上「こういうのがね、新改憲案にはなくなっているんですよ。

 それで僕も、『あ、何か随分ソフトになったな』なんて、一瞬勘違いした。金をどういう風に分配するか、内閣が全部決められるなんて大変な独裁権力ですから、さすがに評判悪いと思ってひっこめたのかな、なんて一瞬思ったんですけど、先生、それって大勘違いなんですよね?」

永井「勘違いです」

岩上「大日本帝国憲法下ですら、国会の中で支出を決めていたわけですよ。あの戦時下、戦時といっても太平洋戦争から始まったわけじゃなくて、日中戦争から数えるとダラダラ長く続いた『天皇制ファシズム』とか『軍国主義ファシズム』とか呼ばれる時期だって、『軍部の予算、突出し過ぎてやしないか』とか、議会で侃々諤々(かんかんがくがく)やってたわけで、内閣総理大臣一人で決めてたわけじゃないですもんね」

永井「その通りです。支出を決めていたのは議会です(※12)」

岩上「そんなファッショはいなかった。最終的には天皇大権、勅令(※13)なんてことになっていきましたが、でも、もちろん天皇が一人で『俺がこうするんだ』ってやってたわけではなく、内閣が輔弼(ほひつ)してのことだったと思うんですけど」

永井「帝国議会での議決が原則でしたが、当時は国家緊急権もありましたから、緊急財政処分という形で政府が決めてしまうということは確かにありました(※14)」

岩上「その場合、勅令として出すんですから、事実上政府が決めたことであっても天皇の名前で出されてたわけですよね」

永井「そうです」

岩上「そういう天皇の権威すら、恐ろしいことに、自民の草案では必要としない。

 昭和天皇は、やっぱりカリスマだったわけじゃないですか。明治天皇以来の、とも言えるでしょうけど、もっと言うなら、天皇制を長く考える人からすればですね、この大権というものは天皇のカリスマ性ゆえに認められるわけでしょ?でも、カリスマありますか、安倍晋三に?

 独裁と言われる国々っていうのは、例えば(トルコの)エルドアンにしても(フィリピンの)ドゥテルテにしても、独裁権力を掌握する人間がその過程でとてつもないカリスマ性を発揮してゆく、その帰結として独裁権力者になるわけですけども、安倍首相は?

 忖度はされてるかもしれませんが、とてもカリスマとは呼べないと思うんですね。そんなカリスマのない男が何でもやるって…」

▲レジェップ・タイイップ・エルドアン トルコ大統領(Wikipediaより)

▲ロドリゴ・ドゥテルテ フィリピン大統領(Wikipediaより)

永井「カリスマがあろうとなかろうと、やっぱり独裁権限を持つことはまずいと思います」

岩上「まずいことですね。でも、僕が言いたいのは、ここではドゥテルテあっての独裁とか、ヒットラーあっての独裁とか、そういう話ではないだろうということなんです。冷静に、制度的に独裁を設計しようとしてるじゃないですか。つまりは、これ、独裁者は誰でもいいってことですよ」

永井「早い話、おっしゃる通りです」

岩上「ナチのヒューラー(総統)は、やっぱりヒットラーでなければいけなかったんだと思うんです。なのに、誰でもいい独裁って、語義上おかしくないですか?」

永井「本当に(笑)。そもそもそういうシステム作っちゃいけないわけですからね」

岩上「もうすごく変な話なんですよ。で、その独裁者には、カリスマ性も権威もない。権威は素晴らしいものだなんて言いたいわけじゃないんです。権威なんて共同幻想ですから。麻原彰晃にオウムの信者が傾倒したように、その人に素晴らしいものがあると人々が勘違いして。

 でも、人々がそういう心理に陥っているような人物であろうがなかろうが、たまたま権力に座った人間が発令するものに、全部言うことを聞くっていうわけでしょ?何かここが臭いんですよね。

 ここに下士官程度の人物が入ってもいいわけですよ。本当の独裁、本当のカリスマ、そういうものはここにはないわけです。にもかかわらず、これが独裁だという。そんな中間管理職みたいな独裁者ってどこにあるんだと。これはおかしな話じゃないか、と、そういうことです。

 それから、地方自治体の長に就いていらっしゃる津々浦々の方々、自分たちの事は自分たちで決められると思っていたら大間違いだという話になるわけです。地方自治がなくなる。『地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる』ですからね、地方の首長が従わなきゃいけない。法律を勝手に出せる。お金も自分で決める事ができる。そして、地方自治体の長に言うことをきかせることができる。この3つ揃ってる所がとても怖いなと。

 これまでのバージョンでは、そういうことが明記されてたんです。ところが、これが新改憲案にはなくなっている。先の条文案には『何人も従わなければいけない』なんていう言葉まで書いてあって、全国民が公権力に従わなければいけない状況になると断言されていた。でもこれもなくなっている。だから、やっぱりソフトになったのかな?と一瞬思ったんですけど」

永井「たしかに、前の案には、内閣総理大臣が地方自治の首長に対して『指示できる』と書いてありましたが、『指示』というのは結局のところ法的な拘束力はないんです。つまり、行政指導というかたちで『指示』するということはあり得るわけで、あの条項があろうとなかろうと同じことができます(※15)。

 それから、『何人も従わなければならない』というあの義務規定ですが、あれも結局、法律と同じ効力のある政令を制定したらですね、国民はそれに従わなきゃいけなくなるわけですから、書こうと書くまいと同じことなんですよ」

岩上「つまりは、評判の悪い文言を消して、実質的なことだけ書いて、国民に気付かせないようにしたと」

永井「そういう事です」

岩上「タチの悪いやつですね」


※12)予算を決めていたのは帝国議会:
 「国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ」(第64条第1項)とあるように、大日本帝国憲法は帝国議会に予算議定権を認めており、議会は政府が提出する予算案を予算委員会においてただちに審査、15日以内に議院に審査結果を報告し、本会議で承認の是非を決するとされた(議院法第40条)。
 ただし、行政費・軍事費といった「憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出」については、議会は政府原案の修正のみを、それも政府の同意のもとになし得たにすぎず(第67条「政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス」)、しかも議会が予算を議定しない場合は「政府ハ前年度ノ予算ヲ施行」するとされる(第71条)など、その権限は著しく制限されていた点には留意せねばならない。
 加えて、大日本帝国憲法は「予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出」を認める(第64条2項)とともに、その費用に充てるための「予備費ヲ設ク」ことを規定していた(第69条)ため、「臨時軍事費」「臨時事件費」「臨時軍事費特別会計」といった、機密保持を理由に議会が詳細も金額についても関与できない予算が戦争の激化とともに急増していった。
参照:
・元京都大学人文科学研究所教授 古屋哲夫の足跡「第五五回帝国議会 貴族院・衆議院解説」【URL】https://bit.ly/2oMeiqK
・日本大百科全書(ニッポニカ)「臨時軍事費特別会計」【URL】https://bit.ly/2Q7ba5f
・鈴木 晟『臨時軍事費特別会計 帝国日本を破滅させた魔性の制度』講談社、2013年.
・法庫「大日本帝国憲法」【URL】https://bit.ly/2M1DR0n
・Wikisource「議院法」【URL】https://bit.ly/2CqSPgL

※13)天皇大権、勅令:
 「大権」とは、大日本帝国憲法がみとめていた「議会の議決を経ることなく又他の機関に委任することなく天皇の親裁に依りて行われる国務に関する天皇の権能」(美濃部達吉)をいい、これにもとづいて発せられる命令を「勅令」という。
 内閣の輔弼を受けつつ(第55条「国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」)、「法律ヲ執行スル為」または「公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為」(第9条)に天皇が発令するとされた。
 なかでも、「帝国議会閉会ノ場合」に「公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要」がある時、「法律ニ代ル」ものとして発せられる勅令(第8条第1項)は「緊急勅令」と呼ばれ、たとえば治安維持法の最高刑を死刑に引き上げた1928年の法改正(田中義一内閣)がこの形で強行されたように、しばしば内閣の暴挙を可能ならしめる装置として機能した。
参照:
・美濃部達吉『改訂 憲法撮要』有斐閣、1946年.
・Wikipedia「緊急勅令」【URL】https://bit.ly/2wNmICK
・ブリタニカ国際大百科事典小項目事典「治安維持法」【URL】https://bit.ly/2wOk3HY
・法庫「大日本帝国憲法」【URL】https://bit.ly/2M1DR0n

※14)緊急財政処分という形で政府が決めてしまうことも:
 大日本帝国憲法はその第70条において、「公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合」でかつ「帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキ」、政府は「勅令ニ依リ財政上必要ノ処分」を行うことができると定めていた(第1項)。
 「財政上必要ノ処分」とは「国債を起こし、定額以上に大蔵省證券を発行し、一時借入金をなし、預金外国庫の負担となるべき契約をなし、及び予算に依らずして特別会計基金の如き目的の定まれる国庫金を他の目的に流用すること」(美濃部達吉)を指し、本来ならば議会の承認を要する行為である。これが緊急勅令を通じて政府に許されるというのであり、議会に対しては事後の承諾があればよしとされた(第2項「次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス」)。
 こうして発令された財政的緊急勅令は計25本(うち7本は、立法的緊急勅令を定めた第8条も共に法的根拠とする)に上る。
 十五年戦争では、昭和7年1月から3月にかけて起こった上海事変――前年の満州事変および満州国建国に対する国内外の批判を逸らすため、上海で起こった日本人僧侶殺害事件を口実に、日本軍が中国軍を攻撃した事件――の戦費を捻出するため三度発せられている(「満州事件ニ関スル経費支弁ノ為公債発行ニ関スル件」)。
参照:
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「財政上の緊急処分」【URL】https://bit.ly/2wV5wdY
・美濃部達吉『改訂 憲法撮要』有斐閣、1946年.
・Wikipedia「緊急勅令」【URL】https://bit.ly/2wNmICK

※15)「指示」に法的拘束力はないが… :
 法令上「指導」「助言」「勧告」「指示」などの語が用いられる行政機関の行為を「行政指導」といい、「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める」ことと定義される(行政手続法第2条6号)。
 法令上の根拠を有する場合もそうでない場合もあるが、許可、免除、禁止、下命、処分といった、行政主体が公権力の行使として国民に対し具体的に法的規制を行う「行政行為(行政処分)」とは異なり、あくまで国民の自発的協力を求める行為であって(行政手続法第32条)、原則的には罰則も法的強制力も持たないとされる。
 とはいえ、緊急事態の布告等のもとで内閣総理大臣が「指示」すれば、地方公共団体の長もその他の執行機関も、事実上これに拘束されることになると指摘されている。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)「行政指導」【URL】https://bit.ly/2CyTCfP
・日本大百科全書(ニッポニカ)「行政行為」【URL】https://bit.ly/2MTULmV
・e-Gov法令検索「行政手続法」【URL】https://bit.ly/2M8B7hG

2012年版『緊急事態条項』の問題点(3)〜99条第2項「事後に国会の承認を得なければならない」とあるが、承認を得られなくても法律の効力に影響はない!?

岩上「続いて、第2項には『前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない』と。つまり、政令を出しますけど事後に国会の承認がいりますよ、と。これ、いちおう歯止めがあるんですね」

永井「ただ、承認を得られない時、効力を失うとは書いてないですから」

岩上「あ!そうか」

永井「コントロールできないんです。国会は」

▲永井幸寿弁護士

岩上「たしかに『効力を失う』とは書いてない!『国会の承認を得なければならない』とだけで。しかも、いついつまでに得なければならないということも書いてないから、国会が紛糾した場合、じゃあこれ、すでに制定してますし効力も発生してますけれども、国会が認めてくれないんだったら、いつまででもずっと審議してて下さい、てわけですか」

永井「と言いますか、国会が不承認としたところで、それは道義的責任、政治的責任が発生するだけで、法律の効力には影響ない、そのまま有効だ、ということです」

岩上「これは大事ですよ。うっかりすると、僕らは『国会の承認を得なければならない』と書いてあったら『承認を得ない場合は効力がなくなる』と読んじゃうんですよ、うっかりするとね。なんせ素人ですから。そう明記されていなければ、生じた効力はそのままだという意味に読むべきなんですね?」

永井「はい。大日本帝国憲法の緊急勅令も、『事後に議会の同意がない時は、将来に向かって効力を失う』とはっきり書いてありました(※16)」

岩上「ハッ、そういう事なんですか」

永井「だから、あの国家権力の強い大日本帝国憲法よりも、(この改憲案では)国会は(行政権力を)コントロールできないんです」

岩上「あの非常に出来の悪いと言いますか、天皇の大権とですね、行政権力も軍部の権力も圧倒的に強くて、国民の代表が選ばれる国会、つまり民権がはるかに弱かった大日本帝国憲法以下とは… うわーって話ですよね。あの時のカリスマ天皇が出す緊急勅令でも、議会の承認がなければ効力を失うと書いてあったのに!」


※16)大日本帝国憲法の緊急勅令ですら解除要件が明記されていた:
大日本帝国憲法第8条第1項は、緊急勅令発令の要件として、「公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要」に加え「帝国議会閉会ノ場合」(議会が活動できない状況一般を指す)を挙げており、それが第2項における解除規定を導き出している。
 すなわち、「此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ」(この勅令は次の会期において帝国議会に提出せねばならない。その時、もし議会が承諾しない場合は、政府はこの勅令が将来に向かってその効力を喪失することを公布せねばならない)。
 緊急勅令は天皇大権を源泉とするにせよ「法律ニ代ルヘキ」ものであり、「法律は常に議会の議決と天皇の裁可とにより成立する」(美濃部達吉)との原則が、こうして保たれていた。
参照:
・美濃部達吉『改訂 憲法撮要』有斐閣、1946年.
・法庫「大日本帝国憲法」【URL】https://bit.ly/2M1DR0n

2012年版『緊急事態条項』の問題点(4)〜99条第3項 国の指示に「何人も従わなければならない」!? 新案では基本的人権に関する規定をバッサリ削除!?

岩上「そして第3項。『緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない』。これがすごい。国民に命令を下してるわけですよ。何人も『指示に従わなければならない』って。これがすごい強烈なんですけど、これが新バージョンでは削られたことで、ソフトになったかと思ったら、全然違うと」

▲「何人も従わなければならない」

永井「言葉が入ってなくてもね、法律と同じ効力のある政令制定すれば、それこそ対象者は何人もその法律に従わなきゃいけませんからね。たしかに削ればソフトに見えますけどね」

岩上「なによりもここですよ。『この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない』。ここのくだりが、新しい自民党案にはバッサリなくなってる。

永井「第14条の『平等原則』、18条の『奴隷的拘束及び苦役からの自由』、19条の『思想良心の自由』、そして21条の『表現の自由』ですね(※17)」

岩上「これらの基本的原則に関する規定は『最大限に尊重されなければならない』、と、建前的にでであってもですよ、ちゃんとここにあったんです。緊急事態での命令には従いなさいね。しかしこれに従う限りにおいては、個々人の基本的人権は守られますよという、こういうトランキライザー的な、クッションアブソーバー的な、エクスキューズ的なものが、あったんです。これがない」

永井「なくなっていますね」

岩上「以前は僕ら、『こんなもの、書いてあっても実際に守る気ないだろう』と言ってたんですけど、書いてあるっていうのは、やっぱり一定の歯止めになるだろうと思うんです。でも、書いてないということは、もはや何の歯止めもないっていうことですよね?」

永井「そうですね」

岩上「『思想良心の自由』と『表現の自由』が侵されたら、もう、何も物が言えませんね。アウトじゃないですか。僕ら」

永井「はい。アウトです」

岩上「それから奴隷的拘束にも服さなきゃいけないんですね、兵士とか、僕らは老兵っていうか、ちょっと無理だと思いますけれども、それでも何かやらされるんでしょう。なにより、国民が法の下で平等でなくなる。あ、今すでにそうなりつつありますが。

だって、おかしな話じゃないですか。公文書改竄した国家公務員が不起訴(※18)ですよ? おかしな話ですよね。法の下の平等はもう既に侵されつつあるわけです」


※17)旧案が「最大限に尊重されなければならない」と明記していた、基本的人権に関する規定:
 各条文は次の通り。
・第14条(法の下の平等)
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
・第18条(奴隷的拘束および苦役からの自由)
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
・第19条(思想・良心の自由)
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
・第21条(集会・結社の自由、表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密保障)
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
参照:法庫「日本国憲法」【URL】https://bit.ly/2CGu7cC

※18)公文書改竄した国家公務員が不起訴処分に:
 佐川宣寿・前国税庁長官を含む財務省職員38人のこと。
 安倍昭恵総理夫人が密接な関係を有する学校法人・森友学園の小学校建設のために、国有地が不当な安値で払い下げられていた問題、いわゆる森友問題で、理財局長だった佐川氏らが2017年2月~4月、「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」という安倍総理の国会答弁と辻褄を合わせるために、交渉記録文書から昭恵夫人に関する記載を削除したり(文書変改は14文書300カ所以上にのぼる)、文書を廃棄したりしていたことが発覚した。
 上脇博之・神戸学院大教授らが公用文書毀損や背任罪などの容疑で大阪地検特捜部に告発していた。
 ところが、大阪地検は2018年5月30日、多数の改竄の事実は認めたものの、契約方法や金額などの根幹部分については書き換えや虚偽記載はみられず、文書の趣旨が大幅に変わったとまでは言えないなどとして、佐川氏ら全員を不起訴処分としたのである。
 上脇教授は安倍昭恵夫人の記載こそが改竄された公文書の本質であり、大阪地検の判断は不当であるとして、ただちに大阪検察審査会に審査を申し立てた。
 なお、安倍夫妻を庇って文書改竄に及んだ佐川氏が国税庁長官に栄転していたように、佐川氏らを不起訴処分とした山本真千子大阪地検特捜部長は、6月25日、函館地検検事正に栄転している。
参照:
・朝日新聞DIGITAL「佐川氏ら不起訴「不服」検察審に申し立て 大学教授ら」2018年6月5日【URL】https://bit.ly/2OlXIJz
・LITERA「安倍首相「私や妻が関係していたら辞める」発言の裏!今井首相秘書官らが謝罪を進言するも安倍が拒否」2018年6月6日【URL】https://bit.ly/2NfxYBZ
・しんぶん赤旗「森友疑惑 佐川氏らを告発 上脇教授ら公用文書毀棄容疑で」2018年5月31日【URL】https://bit.ly/2Qy5cKP
・IWJ「『森友学園』問題、背任容疑で財務省職員7人が告発されたのに、佐川理財局は国税庁長官に栄転!? 岩上安身による神戸学院大学教授・上脇博之氏インタビュー・続編(その3) 2017.7.23」【URL】https://bit.ly/2P8Mnjx
・IWJ「財務省が森友学園に値引き額や分割払い案を提示していた!? 籠池夫妻逮捕の前に財務省職員らの背任容疑の調査を! 岩上安身による神戸学院大学教授・上脇博之氏インタビュー 2017.7.31」【URL】https://bit.ly/2CTECs2
・IWJ「<スクープ!>森友学園関連で近畿財務局の『相談記録』が開示! 岩上安身による情報開示請求者・神戸学院大学教授 上脇博之氏インタビュー 2018.1.21」【URL】https://bit.ly/2Ja1uEg

2012年版『緊急事態条項』の問題点(5)〜99条第4項 議員任期延長の特例で独裁的権力を掌握した内閣がいつまでも延長!? 国民の参政権の無期延期!?

岩上「そして第4項。『緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設ける事ができる』。ここにも問題があるわけですよね」

▲第99条4項

永井「そうですね。国会議員の場合、衆議院議員が任期4年または解散されるまで、参議院議員の場合は6年、となってるわけですが、こうした任期は、要するに、国民が選挙で選んだ後、その後の議員の活動や政党の活動を見て、次の選挙の時に投票するかどうか判断するために必要なものなんですね。要するに、参政権のためにすごく必要なものなんですけども、それが緊急事態の宣言がある間、ぐーっと延ばされてしまうというわけなんです。しかも、期限について特に言及がない」

岩上「議員の任期が切れると、内閣も自動的にそこでいったん区切らなきゃいけませんからね。つまりは、全能の権力を持った内閣がいろんな形で延ばし延ばして、いつまでもダラダラダラダラやることができるような仕組みになっていると、そういうことを意味するわけですね」

永井「そういう事になります。多数派がずーっと多数派でいられる、ひいては翼賛する国会が、ずーっと続くということですね」

岩上「選挙やらないんだから、国民には多数派をガラガラポンするチャンスがもうないじゃないですか。だから、これポンとやってしまったらですね、前回の選挙(2017年10月22日の第48回衆議院議員総選挙)が最後の選挙だったということになりますよ」

永井「そういうことですね」

岩上「国民の皆さん、本当に自民党と公明党と維新に入れた皆さんは、本当に心の底からこれで良かったのか、よーく考えていただきたいと思います。

 最後の選挙だったかもしれない。もしかすると、もう一回あるかもしれませんけれども、そこでもし入れたが最後、今後この政権が永続するかもしれないということです。本当に考えないといけないところまで来ているんですよ。

 今までの自民党の改憲草案は、あくまで草案で叩き台だと言っていた。今度は本当に国会にかける。これから国会がありますが、そこでこの新案を出すと言ってるわけです、安倍さんが。

 国会に出したら必ず三分の二とれますから発議ができます。そして国民投票にかけられる。今、国民投票は広告の制限がなくプロパガンダやりたい放題ですから、新案が通ってしまう可能性がある(※19)。そうなると、僕ら、もう二度と選挙をすることがないかもしれない。

 ともかく早く解散に追い込んで、その時は何がなんでも三分の二を改憲勢力に取らせない。衆参どちらかでもいいから。これ以外には手はないと、僕は思いますね。本当に崖っぷちですよ。倒閣というか、とにかく倒さなくちゃいけない」

永井「まずはこの新案をちゃんと広めて、皆さんに知ってもらうことが大事ですね。気を付けてきちんと判断していただくことが」

岩上「でもね、2012年からかれこれ6年ぐらい言い続け呼びかけてきたんですよ、永井先生も私岩上安身も、その他の先生方も。

 だから皆さんも、漠然とはわかっていらっしゃる。にもかかわらず、この緊急事態条項の怖さを本当にわかってない。まだ9条とか言ってますし。何を言ってるの、9条どころの騒ぎじゃないでしょ、て話ですよ。9条は完全にダミーですからね」

永井「でも、少しずつ浸透していますよ、岩上さんのおかげで」

岩上「いやいや…もう劇的に浸透しないと間に合わないんですよ。たしかに、6年という歳月はいろいろ人を変えました。永井先生だって、最初にお会いした時は『岩上さんて誰なんですか?』とか『この番組は何なんですか?』とか『紹介されて来ました』とか、その上、インタビューが終わった後に『岩上さんて有名人だったんですね』とか、いろんなことを言われて本当にびっくりしましたけれども」

永井「当時は失礼しました(笑)」

岩上「いえいえ。でも、そんな先生が6年かけて、『これを真面目にやる所は、IWJ以外不可能だ』と、いの一番に思って下さるところまで変わっていただいたわけですが、ましてや日本国民1億2000万人に浸透させることがどれだけ… !

 旧自民党改憲草案の緊急事態条項についても、識者の先生方が非常に危険だと言って下さっているわけです。安倍政権が会見で進める緊急事態条項は、ヴァイマル憲法第48条の国家緊急権に、ナチスの授権法を合体させた、恐ろしい条項だと。一発でこの二つ分だと。石田勇治・東京大学教授ですが(※20)。

 石田先生は熱心で、かつ本当に誠実な学者だと思うんです。本当に時間かけて丁寧に、この問題について私共のインタビューに答えて下さり、その後シンポジウムとかいろいろな所でも発言されてですね、いまや非常にはっきりした言葉で批判なさるようになりました。

 学者さんというものはやっぱり、だんだん危機感が高まっていって…。学者じゃないけれど、前川さん(※21)もそうですよ。文科省をお辞めになられた後でも、始めは慎重な言い方をされていた前川さんが、だんだんだんだん、それじゃ届かないんだっていう風になっていきましたからね。

 憲法学の第一人者、長谷部恭男・早稲田大学教授も、『緊急事態条項によって、戦前の国家総動員法の起動スイッチが憲法の中に組み込まれる』と(※22)。これは異常なことなんですね、憲法の中に組み込まれるなんて。緊急勅令というものはあったけれども、国家総動員法はもともと憲法の中にあるものではなかったわけです。それが、憲法として機能してしまうという」

▲自民党改憲草案の緊急事態条項は国家緊急権+ナチスの授権法!? 戦前の国家総動員法のスイッチ!?

永井「国家総動員法は通常『授権法』と言って、法律がその中身について、全部緊急勅令・政令に委ねちゃう。だからもう政府が好き放題できるという話ですね」

岩上「ある種、この授権法と同じ意味合いを持つものだと言われてますもんね。この国家総動員法は」

永井「そうなんですが、今回の自民党の緊急事態条項は、法律が政令に委任するというより、政令自体が法律と同じ効力を持ってしまうということなので、形はちょっと違うと思うんですね。もう政令自体が法律と同じ、内閣が国会と同じ、ということになるというわけです」

岩上「大変な事ですよ。そんなことが憲法の中に書き込まれてしまうなんて。これ(国家総動員法は)、あくまで法律ですからね。なのに憲法のボタンでいけちゃうわけでしょ?これは、えらい事ですよ。憲法って、一番基盤になるものじゃないですか。それをひっくり返すものが、もうないわけでしょ?」

永井「はい、その通りです」

岩上「この間までの自民党の憲法草案、これだけでも十分危ないです。逆にいえば、『何人も言うことを聞かなければならない』とか、これまではしっかり書き込んでくれてたからこそ、ある意味、これは本当に危険だということが皆さんにわかったはずなんです。

 でも、その危険性を訴え続けて6年間。多くの人がまだわかってない。その状態でもっとわかり辛くされちゃったんですよ。今年3月、自民党改憲本部が『改憲4項目』をとりまとめました。新草案ですね。ものすごくシンプルになったけど、実はもっとヤバい!という話です。みんな誤解してるということをこうして訴えるの、先生も初めてじゃないですか?」

▲これまでの緊急事態条項の問題点

永井「こういう形で訴えるのは初めてです」

岩上「今日を限りにもう、ガンガン言って参りたいと思います」


※19)国民投票にかけられたら終わり:
 元博報堂社員の本間龍氏によれば、2007年に成立した国民投票法は、国民投票運動期間(国会での発議から60~180日間)における広告宣伝に関して「投票日前14日以内のテレビCM放映禁止」以外ほぼ何の制約も設けていない。
 テレビCMの規制について、日本民間放送連盟は2018年9月20日、CMの自主規制を行わないことを決定した。
 しかも広告宣伝に投入する資金や寄付金の上限も、その詳細の報告義務もないことから、ひとたび国民投票となれば、潤沢な政治資金を有し、広告業界を独占する電通を広報担当に擁する自民党が圧倒的に有利であるという。
 議席数に応じて配分される豊富な政党助成金と、経団連を中心とした大企業からの献金を背景に、自民党と電通のタッグは有名タレントやゴールデンタイム枠を大量に押さえ、視聴者の心を「改憲」へ傾かせるような映像・音声で埋め尽くすであろうし、民放各社も大きな広告料を払う方へ「忖度」した印象操作を行うだろう。
 そもそも自民党主導の国民投票であるから、彼らは自分たちに都合良く投票スケジュールを組み立て、事前にメディア戦略を練り上げてこれに臨めるが、護憲派は資金集めも宣伝広告の手配も著しく立ち遅れる。
 最短スケジュール(60日)となった場合は、投票運動期間が改憲勢力のプロパガンダだけが流れて終わる可能性もある。要するに、「カネのある方は期間中無制限に広告宣伝を打てるのに対し、そうでない方はメディアで何も主張できない」ような、「イコールフィッティング(平等な競争条件)の原則から遠くかけ離れ」た制度の中で、護憲派は戦わねばならないのである。
参照:
・本間龍『メディアに操作される憲法改正国民投票』岩波書店(岩波ブックレットNo.972)2017年9月.
・本間龍『電通巨大利権』サイゾー、2018年4月.
・IWJ「広告宣伝の制限なし!「異常に自由」な国民投票制度―― 憲法改正国民投票は改憲派に有利!! 岩上安身によるノンフィクション作家・元博報堂社員本間龍氏インタビュー! 2017.10.21」【URL】https://bit.ly/2wwZHTG

※20)石田氏インタビュー:
 石田勇治氏は1957年生まれの日本の歴史学者。ドイツ近代史を専門とし、特にジェノサイドに関して造詣が深い。東京大学教養学部専任講師、同助教授、ポツダム現代史研究センター客員研究員、ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究所客員研究員、ハレ大学客員教授などを歴任、現在東京大学大学院総合文化研究科教授を務める。
 近著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社新書、2015年)ではナチスの誕生から独裁の確立、そこで行われた数々の人権蹂躙、そして崩壊までの経緯を詳細かつ明快に提示、まさに「ナチスの手口」を云々する改憲勢力(前註※3参照)が跋扈するこんにちの日本社会に一石を投じた。
 IWJ岩上安身によるインタビューにも登場、「ナチスの手口」を改めて解説しつつ、安倍政権が改憲で進める緊急事態条項が、いかにヴァイマル憲法第48条の国家緊急権にナチスの授権法(前註※11参照)を合体させたような恐ろしい条項か、その危険性と日本国民の置かれた状況の深刻さを視聴者に訴えている。あわせてぜひご視聴いただきたい。
参照:IWJ「参院3分の2議席で日本でも現実に!安倍政権が『学ぶ』『ナチスの手口』とは何か?絶対悪ヒトラー独裁政権の誕生過程を徹底検証! ~岩上安身による石田勇治・東京大学教授インタビュー 2016.7.1」前編【URL】http://bit.ly/2CBCYaH 、後編【URL】http://bit.ly/2m8vBBs

※21)前川さん:
 前川喜平・前文部科学事務次官のこと。
 2017年5月17日、安倍晋三首相の友人・加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設申請を、官邸が「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと文科省に圧力をかけ、早期認可を促す様子を記した一連の内部文書を朝日新聞がスクープ。
 「怪文書の類い」(菅官房長官)などと官邸が圧力文書の存在を全面否定するなか、前川氏が「あったものをなかったことにできない」と会見に臨み、文書の存在を証言して注目を集めたことはまだ記憶に新しい。
 この「勇気ある告発」は、安倍政権に対する氏の痛烈な批判の言葉でも有名になった。加計学園獣医学部新設は、満たすべきと定められている大学設置4条件(「石破4条件」)も満たしているとはいえぬまま、結局は「官邸からの強い要望」というひと声に押し切られるかたちでその「特例」が認められた。つまり、「極めて薄弱な根拠のもとで規制緩和が行われた」のであり、まさにそのことによって、公正公平であるべき「行政がゆがめられた」と。
 「面従腹背」を現役官僚時代の座右の銘にしていたという前川氏は、その後、「眼横鼻直」(眼は横に、鼻は縦についていること。つまり、当たり前のことを当たり前に、あるがままのことをあるがままに見ることの大事さを説く道元の言葉)を新たなモットーに、夜間中学のボランティアをしながらさかんに講演活動を行っている。
 IWJにも三度登場、穏やかな語り口で加計学園問題の詳細や教育行政の現状を紹介しながら、安倍政権の危険性を鋭く浮き彫りにする。ぜひご参照いただきたい。
 なお現在IWJは、岩上安身による前川喜平氏へのインタビューDVD全3巻を、12月上旬発売予定で製作中である。DVDの詳細な内容は下記URLからご覧いただきたい。
http://iwj.co.jp/ec/products/list.php?category_id=5

参照:
・毎日新聞「加計学園 前川氏会見詳報(1)「あったことをなかったことにはできない」」2017年5月25日【URL】http://bit.ly/2rCTa76
・同「加計学園 前川氏会見詳報(2)“総理の意向”「対応に苦慮した」」2017年5月25日【URL】 http://bit.ly/2DAckDW
・同「加計学園 前川氏会見詳報(3)「行政ゆがめられた」証人喚問“参ります”」2017年5月25日【URL】 http://bit.ly/2rwJ6jI
・IWJ「『メディアは権力を忖度し、司法権力は政治のために動いている』~加計問題の闇を告発した前川喜平・前文科事務次官に岩上安身がロングインタビュー!『独裁国家に近づいている』と危機感! 2017.12.5」【URL】 https://bit.ly/2IRxWdS
・IWJ「今の日本は『もうファシズムの玄関に来ている』!? 道徳の教科書からは『国体思想』の影もちらついている!? 岩上安身による前文科省事務次官・前川喜平氏インタビュー! 2018.2.23」【URL】https://bit.ly/2xtgJTU
・IWJ「自民党が改憲で目指す家族国家観の危険性!『純血日本人主義』『血の共同体』がファシズム・排外主義の根拠に!? 岩上安身による 前・文科事務次官 前川喜平氏 インタビュー第3弾 2018.3.29」【URL】https://bit.ly/2PXdFXc

※22)長谷部恭男氏「緊急事態条項によって戦前の国家総動員法の起動スイッチが憲法の中に組み込まれる」:
 「国家総動員法」は、日中戦争の最中の1938(昭和13)年4月1日、第一次近衛文麿内閣のもとで制定(同年5月5日施行)された戦時統制法。
 「戰時(戰爭ニ準ズベキ事變ノ場合ヲ含ム以下之ニ同ジ)ニ際シ國防目的達成ノ爲國ノ全力ヲ最モ有效ニ發揮セシムル」ことを目的とし、そのために「人的及物的資源ヲ統制運用スル」権限を政府に与えた。具体的には、兵器・弾薬等の軍用物資をはじめ、食料、被服、医薬品、船舶・車両・馬等の運送用物資、燃料・電力、工具・機械類といった「總動員物資」の生産・配給・消費・輸出入の制限、およびそれらの収用・使用、「總動員物資」の生産・輸送・配給・修理、通信、衛生、教育、研究といった「總動員業務」に従事させるための国民の徴用、さらには、労働条件、会社運営、出版物に関する制限など、国民生活のほぼ全領域にわたって統制を加える命令を、政府が帝国議会の協賛を経ず(「勅令ノ定ムル所ニ依リ」)出しうるというものであり、「全権委任法的性格を持つものであり、その意味で反議会主義的性格のものといえるものであった」(古川隆久)。
 戦況の悪化とともに同法律の適用範囲はどんどん拡大、敗戦に伴い廃止されるまで国民は多大な犠牲を強いられることになるのだが、憲法学者の長谷部恭男・早稲田大学教授は、IWJ岩上安身によるインタビューの中で、安倍政権が導入を推し進める緊急事態条項はまさにこの「国家総動員法」の起動スイッチを憲法の中に埋め込むようなものと断言した。
 議会の承認もなく、漠然とした「緊急事態」を理由に内閣の判断で「法律と同一の効力を有する政令」を発することができ、しかも「国家総動員法」ですら明示していた、適用対象に関する記述は一切ない。「法律で定められること、定めるべきことを、とにかく無制限に<政令>で定められ変えられる」、「体制を根幹から覆す」ような危険なスイッチだと。
 岩上安身による長谷部氏インタビューを、ぜひご参照いただきたい。
参照:
・Wikipedia「国家総動員法」【URL】http://bit.ly/2C0JMPv
・Wikisource 原文「國家總動員法」【URL】 http://bit.ly/2BzDWr5
・古川隆久『昭和戦中期の議会と行政』吉川弘文館、2005年.
・IWJ「自民党改憲草案の緊急事態条項は戦前の国家総動員法の起動スイッチ!? 衆院解散で『ナチスの手口』がいよいよ現実に!? 岩上安身による早稲田大学教授 長谷部恭男氏インタビュー 2017.9.25」【URL】https://bit.ly/2Er979k
・岩上安身のIWJ特報!「自民党改憲草案の緊急事態条項は戦前の国家総動員法の起動スイッチ!? 衆院解散で『ナチスの手口』がいよいよ現実に!? 岩上安身による早稲田大学・長谷部恭男教授インタビュー」、(その1)【URL】https://bit.ly/2DVgiGr(その2)【URL】https://bit.ly/2Ld6VC7、(その3)【URL】https://bit.ly/2JlYd7g、(その4)【URL】https://bit.ly/2H7ovFd、(その5)【URL】https://bit.ly/2JjtfwA、(その6)【URL】https://bit.ly/2DeqlXQ、(その7)【URL】https://bit.ly/2D7d57r、(その8)【URL】https://bit.ly/2MIVKkR.

9条がなくなっても国民主権や三権分立や基本的人権はなくならない!主権を失い全てが犠牲になるのが「緊急事態条項」!

岩上「3月25日、自民党憲法改正推進本部が改憲4項目の『たたき台素案』発表!緊急事態条項に新たな条文が追加されました。その4項目とは、『9条改憲』『緊急事態条項』『参院の合区解消』、そして『教育の充実』(※23)。『合区』と『教育』云々については、正直言って、どうでもいいです」

▲自民党憲法改正推進本部が改憲4項目の「たたき台素案」発表!緊急事態条項に新たな条文が追加される!

永井「(笑)そう言ったら失礼ですけどね… 『合区』は、やはり議員さんの利害が大きくてまとまりにくいですし、『教育の充実』については、これは憲法変えなくても法律で変えられます。『選挙に関する事項は法律で定める』とも憲法に書いてあります」

岩上「だからここに入れる必要はないんですよ。たしかに大事なことですよ、だけど、これは法律レベルでやって下さいと、現行憲法改正することなくやって下さいという話。『教育の充実』に至っては、当たり前じゃないですか、そんなこと。憲法に定められている『義務』ですよ(※24)。

 問題はこの『9条』と『緊急事態条項』。この二つは連動していると思いますけれども、『9条改正』ばかりが論じられていますが、この『緊急事態条項』一発で全部入っちゃうんですよね」

永井「はい。そうですね」

岩上「自衛隊を国軍に認めるかどうかとか、そんなこと、『緊急事態条項』だけでどうにでもなるじゃないですか。戦争は自衛隊だけでやるわけじゃありません。国力挙げて、総力戦でやる。そのためのロジスティックスから、国民の義務から、何から何まで全部変えなきゃいけない。だから、自衛隊を専守防衛の国軍にしましたと位置付けただけで。もちろん影響は出ると思いますけれど、急に我々が徴兵になるわけでも、三権分立をがなくなるわけでもない。我々が国民主権を、投票というかたちの民主主義を、そして基本的人権を失うわけでもないわけです」

永井「おっしゃる通り、9条変えただけで、直ちに国民主権主義とか権力分立とか、基本的人権尊重がなくなっちゃうというわけではないですね」

岩上「国民総動員体制が敷かれてはじめて、我々の命を差し出せとか、富裕層も含めて財産も差し出してね、寺の鐘まで取り上げられて大砲の弾にするとかね。あるいは金持ちだったらば、金があろうがなかろうが戦時国債を買わされて、それですってんてんになるわけでしょ?

 こうして国民の財産を吸い上げるわけですよ。あるいは、めいめい自由にいろんな商売やってても、全部統合されてしまって自分の会社を失う、なんてことが当たり前だったわけですよね。計画経済にしたんですから。

 こうして戦時、反共国家もいいとこだったくせに、まさにその共産主義に学んでものすごい統制国家を作った(※25)。職業の選択の自由も消えてましたよね。無茶苦茶ですよ。いま皆が享受している自由みたいなものはなかった。なにより、国民は皆、ものすごい貧しさの中に置かれるわけですよね。だって、軍費で莫大な金かかるわけですから。

 返して言えば、そういうことができないと戦争はできませんということ。日中戦争から太平洋戦争までの、あの戦争遂行のエネルギーは、国民から吸い上げて戦争に振り向けたものです。自民党は、それよりも強力な独裁条項を作るってわけです。

▲岩上安身によるインタビュー中の永井幸寿弁護士

永井「そういう吸い上げを、戦前は、長谷部さんがおっしゃったように国家総動員法でやったんですね。つまり、国家緊急権を使うというよりは、その国家総動員法という委任の法律でやったわけですけれども、今回は法律ですらなく、もう国家緊急権そのもので同じことがやれるという話なんです」

岩上「白紙委任だから、細目はフリーハンドで事後に書けるってことですよね。しかも我々は、そこに議論として参加する事ができないと」

永井「はい。できないです」

岩上「先ほど言ったように、新案では『良心の自由』とか『表現の自由』とか、そういったものを保障するという項目すらなくなってしまってますから、例えば我々の『表現の自由』というものは」

永井「そうですね。制限されると思います」

岩上「ということなんです。すごい事でしょう?そういう中で9条どころじゃないんです。そう言うと、左派の方々はひどく絡んでくるんですけど、9条の事言ってる場合かよ!って話なんです。本当に」

永井「(笑)両方とも大事な話ではあるんですけどね」

岩上「このあいだの5月3日、誰かこの問題を取り上げた人がいましたか。僕にはいろいろな所で知り合いがいますが、去年まではこの二つを並べて取り上げてきたのに、今回はまだやっていないんです。先生もお感じになりましたでしょ?」

永井「はい。新聞社にも電話したんですが…」

岩上「ひどいですよね。去年よりも、一昨年よりも、後退してるんです。このことに気が付かないといけないです、本当に。どのメディアも」

永井「それで岩上さんに電話したんです」

岩上「ありがとうございます。野党もすっかりボンクラ状態です。このどうしようもない状態で、これを忘れて何をしようというのかと。主権もなくなりかねない状況ですよ。何度も言いますが、これ、主権強化、国権強化のためにあるんじゃありませんからね、そんなことあるはずがない。

 みんな、現実を直視しましょうよと。これは、主権を失うため、皆で万歳特攻するためのものです。栄華を誇るためのもんじゃありませんから。いいですか、皆さん、大変な事ですよ。国粋主義もナショナリズムも犠牲になるんですから、この緊急事態条項は。

 ということで、これまでの『緊急事態条項』は98条・99条でしたが、今回は73条の2と64条なんですね?」

永井「はい」


※23)改憲新案4項目:
 2018年3月25日、自民党の憲法改正推進本部は同日開催された党大会において、改憲4項目の「たたき台素案」を条文の形で報告した。
 安倍総理は昨年2017年の憲法記念日に、憲法改正を求める集会にビデオメッセージを送ったが、その中で「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」との発言があったことを機に党内の改憲への動きが一気に加速した。
 2017年12月20日には、自民党憲法改正推進本部が「憲法改正に関する論点取りまとめ」として「改憲4項目」を掲げていた。
 安倍総理の設定した「2020年施行」に向けて、この秋の臨時国会で改憲案提出に踏み切るつもりと思われる。このたび発表された改憲4項目の「たたき台素案」は次の通り。

<9条改正>
第9条の2
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
<緊急事態条項>
・第73条の2
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
・第64条の2
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
<参院選「合区」解消>
・第47条
両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
・第92条
地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨にもとづいて、法律でこれを定める。
<教育の充実>
・第26条
(第3項)国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならなない。
・第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

参照:
・朝日新聞DIGITAL「(憲法を考える)『改憲4項目』熟議できたか 自民党・憲法改正推進本部、方向性とりまとめ」2018年3月27日【URL】https://bit.ly/2MXiU7m
・産経ニュース「【自民党大会】『改憲4項目』条文素案全文」2018年3月25日【URL】https://bit.ly/2O23lQ8

※24)「教育の充実」は憲法に定められた「義務」:
 日本国憲法第26条第2項には、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」とある。
 全国民に「教育を受けさせる義務」を課すとともに「義務教育の無償」を保障するもので、第1項が保障する「教育を受ける権利」である学習権を確保するために保護者が子どもに教育を受けさせることはもちろん、国家や各自治体に教育制度や施設の整備を通じてしかるべき教育の機会と場を提供することを義務づけるものでもある。
 第27条の「勤労の義務」と第30条の「納税の義務」とともに、「国民の三大義務」としてよく知られる条項である。
参照:
・Wikipedia「国民の三大義務」【URL】https://bit.ly/2wXlC7v
・Wikipedia「日本国憲法第26条」【URL】https://bit.ly/2M9fePt
・結城忠「義務教育を受ける権利と義務教育の無償性」『白鴎大学教育学部論集』2012年【URL(pdf)】https://bit.ly/2N0y0h1

※25)共産主義に学んで統制国家を作った:
 国家および国民の物質的精神的全能力を動員結集して戦争を遂行する(総力戦)ため、「人的及物的資源ヲ統制運用スル」権限を政府に与えた「国家総動員法」(1938年4月1日制定)。
 この研究および立案を担ったのが、戦時における人的物的資源の統制運用計画の設定と遂行に関する統括を行う「内閣資源局」(1927年5月設置)と、電力国家管理案や産業合理化など重要政策の策定を担当する「内閣調査局」(1935年5月設置)とを統合して1935年5月に設置された「企画院」である。
 この企画院には、星野直樹・企画院総裁、岸信介・商工次官ら満洲で経済統制の実績を挙げていた高級官僚をはじめ、内閣資源局設立時に「民間有能な人材」として採用され、「高等官グループ」「判任官グループ」などと呼ばれた「共産主義思想の前歴者」たちのグループ(和田博雄、正木干冬、勝間田清一、稲葉秀三、小澤正元ら)、さらには、思想的にはマルキシズム経済理論の影響を受けた(「『この戦時下に、自由主義的な営利主義を考へたり、個人主義的な自由経済を考へるものは国賊だ。一切を挙げて国家に奉仕せよ、戦場の将兵を思へ』と言った調子のお説教」を振り回し「『産業奉還論』まで飛び出した」という)迫水久常、美濃部洋二、奥村喜和男、柏原兵太郎ら「革新官僚グループ」がいた。
 彼らはソ連の五カ年計画方式を導入した社会主義的な立案を行って財界人や右翼勢力の反感を買い、1941年4月には治安維持法違反の容疑で一斉検挙される(「企画院事件」)。
参照:
・Wikipedia「企画院」【URL】https://bit.ly/2IacCjW
・Wikipedia「革新官僚」【URL】https://bit.ly/2NyP6To
・Wikipedia「企画院事件」【URL】https://bit.ly/2QQli2I
・三田村武夫『昭和政治秘録 戦争と共産主義(復刻版)』歴史の真実を究明する会、 2015年(電子書籍、初版1950年5月)

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(1)大日本帝国憲法の「緊急勅令」と同じ「独立命令」が出せる!? 今回の改正はトラップ!?

永井「まず73条の2です。第1項『大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる』。これだけ見るとですね、何か、そんなに変な条項に見えないんです。

 どういうことかといいますと、まずは『政令を制定することができる』としか書いてない。つまり、法律と同じ効力の政令を制定できるとは、どこにも書いてないんですね」

▲緊急事態条項 第73条の2

岩上「前のバージョンでは、ご親切にも『法律と同じ効力を有する』と書いてあって、だからこそ危険性がわかったんだけれども、今回はそういう詳細な説明がないと」

永井「はい」

岩上「じゃ、大した事ないんじゃないですか?」

永井「これは実は、法律と同じ効力を有する政令を制定する、と言っているに等しいんです。『独立命令』(※26)、大日本帝国憲法の緊急勅令ですね、というのを復活することであって、つまりは国家緊急権を作るという規定なんですね。で、どうしてそんなことが言えるのかというと、まず、『国会による法律の制定を待ついとまがない』時、と書いてありますね。つまりは法律の制定に替わるものができますよと、そういう趣旨なんです。そして、第2項で『政令を制定したときは(中略)速やかに国会の承認を求めなければならない』。合わせて、法律に替わるものを内閣が作りますよということ」

▲「国会による法律の制定を待ついとまがない」とき

岩上「なるほど。特別な事情として『法律の制定を待ついとまがない』ということと、『速やかに国会の承認を求める』と書いてあるということは、その政令は法律と同じであると」

永井「そういうことです。ここで見逃してならないのは、これが『現行憲法73条6号の改正ではない』ということです。

 国の法は、効力の強い順にいえば、まず一番上に『憲法』。憲法は国の基本法だから一番強い。次は『法律』。国会が作るルールですね。国会は国民の代表者が作りますから、国民主権の下では、国民の代表が作る法律が憲法に次いで効力が強いんです。で、さらにそれに次いで効力が大きいのが『命令』。命令は国会以外の機関、主に行政機関が作るルールです。

 行政機関の長、例えば内閣総理大臣とか省庁の長官は、国民が選んだ覚えはないんですが、なぜその人達が作る命令が効力があるかというと、一つは、法律の委任に基いて作られるから。法律が限定した範囲でですね、こうこうこういうものについて命令を作ってくださいと、そういう委任をするからです」

▲憲法・法律・命令

岩上「これはつまり、行政機関にその命令を出す一定の裁量を認める、ということでしょうか」

永井「そうです、具体的にですね。これを『委任命令』といいます。命令にはもうひとつ、『執行命令』というのがあり、『細目を定めなさい』というもの。この場合も法律にもとづいて作られますから効力があるわけなんです。内閣が出すのが『政令』、省が出すのが『省令』といいます。

 とまあ、こういうしくみになっているわけですが、今回の新案で言われる『政令』が従前の命令と同じものであるとすれば、この委任命令と執行命令に関する既定の条文、すなわち、第73条の6号の改正という形をとるはずです(※27)。ところが、これはそのままで別個の条文を作ってるんですね。つまり法律に根拠を置かない政令が出せるという意味なんです。『独立命令』というものです。法律の委任とか執行とかというものと関係のない命令。大日本帝国憲法の『緊急勅令』と同じものなんですよ」

岩上「そのことを、旧自民党案では『何人もこれに従わなければならない』とか『命令が法律と同等の効力を有する』とかの厳しい言葉で、これが独立命令であるとはっきり示していたわけですね。そう解説するような言葉をスパッとやめて、ただ『政令よ』って。『だけどね、第73条の6号の改正はないから、わかる人にはわかるけど独立命令だからね、しーっ』、て感じなわけですね?!」

永井「はい。今回の改正、わりとトラップなんです」

岩上「法律家は皆わかってるんでしょうか?73条の6号の改正じゃない、つまりはこれ、独立命令で緊急勅令と同じだ、第日本帝国憲法第8条の復活になるんだって、ピンと来るんですか、皆さんは?」

永井「いや、そうでもないと思います」

岩上「そうでしょ。やっぱり先生がこの問題に関して敏感で、かつ研究されて来たからこそわかることですよ」

永井「それほどのもんじゃないですけど(笑)でもたしかに、はっきりそう書いてる人は見たことないですね」

岩上「先生は謙虚すぎる!『今、俺しか気が付いてない』って言ってくれればいいのに、こんな遠回りして… そもそも、なぜ皆さん気付かないんでしょう?」

永井「一つには、もっと緊急事態条項に興味を持ってしかるべきなんですけど、ちょっと今、そんなに注意が向いてないですね」

岩上「いやむしろ、強力にマインドコントロールされちゃうからだと思いますよ。9条の話となれば、左派の人たちはそればっかりですからね。でも根こそぎですよ、緊急事態条項で。もう一つは、人間はスケールが大きいものを理解できないということもある。小さい話の方が盛り上がるんです、実際。だからこそ準備が、積み上げが必要なわけですが、とにかく、なるほど、こういうトリックですか… 前のバージョンでは詳しく書いちゃったから、あの説明止めようぜってわけですね。でも実質は同じなんですね」

永井「はい。同じです。従来の『命令』の中の範囲に入らない、だが法律と対等な効力があるもの。『独立命令』です」

岩上「でも『緊急勅令』ではない。天皇大権ではない。内閣だけで出せると。いったい何で内閣がそんな力、持ち得るんだ、おかしいじゃないかという話ですよ。でも緊急性があるから持つんだという、ただそれだけの理由でしょ?」

永井「はい。ただ、その緊急性というものにしても、本当に緊急なのかどうかという話があります」

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※26)独立命令:
 「命令」とは行政機関の制定する法的規律のこと。
 国会を唯一の立法機関とすると定める(第41条)現行憲法下では、国会が定めた「法律」の規定を執行するための細則を定める法規である「執行命令」と、「法律」が立法権を行政機関に委任することによって定められる法規である「委任命令」の、二種の「命令」(うち内閣が制定するものを「政令」といい、憲法第73条6号に定めが置かれる。次註※27参照)が認められている。
 大日本帝国憲法下では、これに加え、行政機関が法律を根拠とせず独自に制定できる「命令」が認められていた。
 天皇大権にもとづき、「帝国議会閉会ノ場合」に「公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要」がある時、「法律ニ代ル」ものとして発せられる命令(第8条第1項)すなわち「緊急勅令」(前註※13参照)がそれであり、法律から独立して発せられる命令という意味で「独立命令」と呼ばれる。
 自民党はこの「独立命令」を発する権限を、何かの権威を源泉とする「大権」のような根拠もなしに、抽象的で恣意的な解釈を許す「緊急事態」なるものだけを理由に、内閣に付与しようというわけである。
参照:
・Wikipedia「命令(法規)」【URL】https://bit.ly/2x2YmVM
・日本大百科全書(ニッポニカ)「独立命令」【URL】https://bit.ly/2CGYJub
・日本大百科全書(ニッポニカ)「緊急命令」【URL】https://bit.ly/2OaKlM3

※27)通常の「政令」ならば憲法73条6号も改正すべきだが…:
 自民党改憲新案は、緊急事態に際して内閣は「政令を制定することができる」という。そして「政令」とは通常、内閣の職権を規定する憲法第73条6号が定めるところの、「憲法及び法律の規定を実施するため」に行政機関が制定する法的規範のことであり、国会が定めた「法律」の規定を執行するための細則を定める法規つまり「執行命令」と、「法律」が立法権を行政機関に委任することによって定められる法規つまり「委任命令」の二種がある。
 ところが、永井氏も解説するとおり、自民党新案のいう「政令」は「国会による法律の制定を待ついとまがない」時、すなわち、法律を根拠とせず内閣が制定できる「政令」であって、憲法第73条6号における「政令」の定義に外れることになる。
 それでいて憲法第73条6号は改正しないとあらば、新案における「政令」とは、名前は同じでも従来の「政令」とは異なる何かであり、大日本帝国憲法が天皇大権にもとづいて認めていた「独立命令」にほかならない。
参照:
・Wikipedia「政令」【URL】https://bit.ly/2BD7Ua3
・ブリタニカ国際大百科事典「政令」【URL】https://bit.ly/2x0g5NG

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(2)緊急事態宣言を出す必要がない!? 知らない間に閣議決定で緊急事態に!?

永井「国家緊急権を行使するにあたっての手続きに関しても問題があります。国家緊急権の発動であれば、例えば内閣が緊急事態の宣言をするとか、あるいは国会の事前の承認がいるとか、さらには緊急事態を解除するためにどうするかとか、そういう手続きに関する規定が本来的には必要です」

岩上「絶対必要ですよね」

永井「旧自民党案でさえ、『内閣総理大臣が緊急事態を宣言』とか『事前または事後の国会の承認』とか、また、どこまで有効か甚だ疑問ですけれども、緊急事態宣言解除の手続きも一応書いてあったわけです。ところが今回は、こういう規定が一切ない」

岩上「『内閣は… 政令を制定することができる』。あ!緊急事態宣言を出すということが書いてない!」

永井「ないです。『内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる』としか書いてないんです。手続き規定がないんです」

▲国家緊急権発動の手続きはない!?

岩上「『今から戒厳令です』っていうような、何かこう、わかりやすいアナウンスもなく、『すいませんけど政令出しちゃいましたから』てな感じで、みんな『え?』って言ってるうちにそこへ入っていくような感じですか?」

永井「国民が知らない間に閣議で決定できるんです。内閣が政令を制定できる」

岩上「出た!閣議決定で何でも決められる!『セクハラ罪は罪ではない』とか『昭恵は私人である』とか、このバカバカしい日常の連続(※28)に、緊急事態宣言が続いていくと?ようするにこれ、宣言なき緊急事態条項なんですか?」

▲閣議決定で緊急権発動ができる!?

永井「そうです。『宣言なき国家緊急権』です。国民が知らない間に国家緊急権発動されるんです」

岩上「これはまた、スルっとした文章で凄いことを…!たしかに迫力ないなと思ったんですよ。その迫力ない理由の一つに、そう言えばここのどこにも… 国家緊急事態条項宣言、戒厳令みたいなもんですからね。何かものすごいファンファーレが鳴るようなイメージがあるわけですよ」

永井「ダブルチェックと言いますか、事前に宣言があってそれを国会がチェックする。さらに、政令が制定された後も国会がチェックすると。こういう事前事後のダブルチェックが最低限必要なんですけれども、この『事前のチェック』はもうなくなちゃったんです」

岩上「これってあの時と同じってことですか?戦争始める時に、宣戦布告をやらないで、『戦争』と言わず『事変』『事変』『事変』でダラダラダラダラ、日中戦争やり続けじゃないですか(※29)。人様の国をあれだけ侵略しまくって。あ、対米英戦だけ久しぶりに宣戦布告して、高らかにやりましたけど。それもまた奇襲攻撃でしたけど、あれと同じように、これも宣言なくやるわけですね」

永井「そうです」

岩上「大変なことじゃないですか!いつでも独裁、宣言もなく独裁、いつまでーも独裁… この、何というか、デレーっとした感じ。もう一回大原麗子にCMに出てもらいたいくらいですよ。どれだけ危険な事態になっているか、僕らのようなオッサンが言っててもですね、もはや人々の心を打たないんですよ。今の時代は一体誰が言えばいいのか。誰か可愛らしく言って、その怖さを引き立ててくれたらいいんでしょうか…

 Jアラートは鳴らす(※30)のに、緊急事態の宣言は、何か『臨時ニュースを申し上げます』みたいな感じで、NHKなんかが『ただ今内閣は、憲法73条2項にもとづき、緊急事態を発令いたしました。繰り返します。ただ今、安倍内閣は、緊急事態を宣言、発令いたしました』、と、こんなことすらやってくれないわけですか」

永井「新案には書いてないです。やらなくても全然、憲法違反じゃないです」

▲永井幸寿弁護士

岩上「それじゃ、もうわけがわかりませんが、もっと日常的に、町内放送かなんかで、『ピンポンパンポーン、本日、内閣会議で、こういう政令が定められましたので、皆さんの基本的人権はこれから制限されます』とか、何かそんなたるーい感じで頼んでくるんですかね?だって、何でも決められちゃうんでしょ?」

永井「一応の限定はありますけど、基本的にはそうですね。何でも決められちゃいます」

岩上「現代の日本は、今、かなり悪夢なんですけど、何かこう、本当に緊張感のないコミカルな悪夢っていうか、なぜこんなスラップスティック漫画のような悪夢なんですかね?もう一切の崇高さっていうもののない、ただただ、非常に低俗な方向にだけ向かって行く、劣化した悪夢。不意打ちすらでも、日常の連続のように、いろんなものを我々は失っていくものですね。

 まとめると、旧自民党案ですら規定していた、内閣総理大臣の緊急事態の宣言、事前または事後の国会の承認、緊急事態宣言解除の手続きが、新案ではなくなっていると。問題はこれだけにとどまらないという話ですね、先生。発動『要件』の問題、ここが重要だと」

永井「はい。内閣が法律作りたいと認定した時に、内閣が法律を作るとなっているんです」


※28)おかしな閣議決定ばかり:
 「閣議決定」とは、内閣法第4条および第1条第2項にもとづいてなされる、内閣総理大臣および全閣僚の合意を原則とする内閣の意思決定。国政に関する基本方針や法律案、予算案、国会議員からの質問主意書に対する答弁書などを主な案件とし、政府はこの決定にもとづいて行政権を行使する義務を負う(内閣法第6条)。
 内閣の意思決定の中でかくも高い位置付けの閣議決定だが、安倍政権は、集団的自衛権の行使は容認できないとする従来の憲法解釈を閣議決定で強引に変えた(2014年7月1日)「成功体験」に味を占めたのか、以来、歴史の教訓も先人の議論も政権に都合よく曲解した珍説を振りかざし、野党の追求や国民の批判を門前払いするのにこれを用いるようになった。
 「憲法9条は一切の核兵器の保有や使用をおよそ禁止しているわけではない」(2016年4月1日)、「教育勅語は憲法や教育基本法に反しないなら教材にしてもよい」(2017年3月31日)、「ヒトラーの『わが闘争』は教材使用できる」(2017年4月14日)、「銃剣道は戦前回帰ではない」(2017年4月14日)、等々と。
 加えて、最近は失言・失態を繰り返す安倍総理夫妻やその「お友達」を庇うため、幼稚で馬鹿馬鹿しい「閣議決定」を連発している。安倍総理が国会で『ポツダム宣言をつまびらかに読んでいない』と答弁し無知との批判を浴びると、「安倍首相はポツダム宣言を当然読んでいる」(2015年6月2日)。島尻北方相が記者会見で『歯舞諸島』の漢字が読めず、北方相としての資質に欠けると非難されると、「島尻沖縄北方担当大臣は『歯舞』の読み方を知っていた」(2016年2月22日)。森友問題で安倍昭恵・総理夫人の証人喚問を求める声が高まると「安倍昭恵氏は私人」(2017年3月14日)。
 安倍総理が国会で「『そもそも』という言葉には基本的という意味がある」と答弁し、専門家から疑問の声が上がると、「そもそもという言葉には、基本的なという意味もある」(2017年5月12日)、次いで「首相が自ら辞書を引いて意味を調べたものではない」(同26日)、等々。
 2018年5月18日には、福田淳一・前財務相事務次官のセクハラ問題について麻生太郎・財務相が「セクハラ罪っていう罪はない」と発言し物議を醸した件で、「『セクハラ罪』という罪は存在しない」とする答弁書を決定。安倍政権の「閣議決定」のラインナップは、もはやコメディの様相を呈している。
参照:
・Wikipedia「閣議(日本)」【URL】http://bit.ly/2FtU4gl
・e-Gov法令検索「内閣法」【URL】http://bit.ly/2p7ee4N
・ 毎日新聞「閣議決定は万能か 昭恵氏『私人』に疑問/『政府が好きなように現実作る』」【URL】http://bit.ly/2HpLXOd
・週プレNEWS「『隠す』『封殺』『ゴリ押し』…安倍政権の“低レベル”な閣議決定をパターン別に分析すると?」2017年6月21日【URL】http://exci.to/2wZsbpj
・LITERA「今度は麻生財相の『武装難民は射殺』発言を肯定する閣議決定!トンデモ閣議決定を乱発する安倍政権の異常」2017年11月17日【URL】https://bit.ly/2A6lQfF
・朝日新聞DIGITAL「『セクハラ罪という罪はない』の答弁書、政府が閣議決定」2018年5月18日【URL】https://bit.ly/2x1EqTj

※29)日中戦争、宣戦布告なしにダラダラと:
 1937年7月7日の盧溝橋事件を機に始まり、1945年8月14日に日本が米英中の降伏勧告「ポツダム宣言」を受諾するまで続いた日本と中華民国との泥沼戦争を、こんにち我々は「日中戦争」と呼ぶが、これが正式に「戦争」となったのは、1941年12月8日に昭和天皇が対英米戦開戦の詔(『米英両国ニ対スル宣戦ノ詔書』)を出し、翌9日に蒋介石の重慶政府が日本に宣戦布告、さらに翌10日に東條内閣が対中国戦を含めて「大東亜戦争」とすると決定してからであり、それまでは「支那事変」(1937年9月に第一次近衛内閣が命名。同年7月の紛争勃発当時は「北支事変」)と称していた。
 宣戦布告を伴わない一時的な軍事衝突を含意する「事変」の語を用いることで、「不戦条約」(1928年8月締結)違反の国際的非難をかわし、戦争当事国への武器輸出を禁じたアメリカの「中立法」(1935年)が発動されること、すなわち戦争遂行のための軍需物資の輸入が途絶えることを回避する思惑があったと見られる。
 いずれにせよ、事実上の全面戦争をかくなるレトリックで誤魔化しつつ、結局は合計8年(「満州事変」から起算すれば15年)もの長きに亘り、国民はこの「例外的危機」に対処するようあらゆる犠牲を強いられ続けたのである。
参照:
・Wikipedia「日中戦争」【URL】https://bit.ly/2NmL68K
・Wikipedia「支那事変」【URL】https://bit.ly/2NX05pd
・世界史の窓「支那事変」【URL】https://bit.ly/2PQDdFj

※30)Jアラートは鳴らす:
 「Jアラート」(全国瞬時警報システム)とは、津波、地震等の自然災害やミサイル飛来といった緊急情報を、通信衛星や防災無線、有線放送電話、メール等を介して住民に速やかに伝達するシステム。住民に早期の避難や予防措置などを促し被害を軽減することを目的として、総務省消防庁が2004年度から開発・整備を進めてきた。
 最近問題になっている北朝鮮のミサイル発射に際しても発動。2017年8月29日の発射に際しては、北・東日本の12道県に発動された。ところが、情報伝達トラブルや誤作動が相次いだに加え、そもそも発動からミサイルの日本上空通過まで僅か数分間という短時間で一体どれほどの避難行動が取れるというのか、住民からは困惑や呆れ声が上がった。警報音に驚き交通事故を起こしたドライバーもおり、徒らに国民の恐怖心を煽るこのシステムの存在意義そのものに疑問が投げかけられている。
 さらに政府は、内閣官房が同時に全国にJアラートをテスト発報し、これを受信した者が各々の判断で屋内退避、地面に伏せる、防護の姿勢をとる等の爆風・閃光対策を訓練することを推奨する「Jアラート全国一斉情報伝達訓練」をたびたび実施。戦時中の「防空演習」よろしくミサイル攻撃には何の意味もないうえ、真面目に参加した人々が、オフィスや教室、車内、田畑などめいめいの場所でただただ頭をかかえてしゃがみこむ姿は、滑稽を通り越して悲哀すら誘う。
参照:
・総務省消防庁「Jアラートの概要」【URL(pdf)】http://bit.ly/2vo9OfS
・Wikipedia「全国瞬時警報システム」【URL】 http://bit.ly/2yKJBGV
・毎日新聞「北朝鮮ミサイル 日本通過 北海道・襟裳岬東1180キロ落下 12道県にJアラート 事前通告なし」2017年8月29日【URL】http://bit.ly/2y1gjBu
・朝日新聞DIGITAL「北朝鮮ミサイルの飛距離、過去最長 グアム到達距離」2017年9月15日【URL】 http://bit.ly/2yN9ac8
・毎日新聞「北朝鮮ミサイル Jアラート、7道県16市町村でトラブル」2017年8月29日【URL】http://bit.ly/2yIgEwR
・Infoseek NEWS「各地で混乱も Jアラート鳴ったらどうすれば?」2017年9月2日【URL】 http://bit.ly/2ixzX67

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(3)「武力攻撃」も「災害」!? 新条項になった途端に薄れた「緊急事態条項」への関心!

永井「発動の要件として『大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと内閣が認定したとき』と書いてありますね。ここでまず見落としてはならないのは、『自然災害』とは書いてないことです」

▲緊急権発動の要件

岩上「たしかに… 例の地震とか津波をイメージさせてという作戦でしょうか、つまり『災害』が一応メインなんですね。そこで『災害』とは何かという話になるわけですね?」

永井「はい。ところが、国民保護法では『武力攻撃災害』という概念があるんです」

岩上「何ですか、それ?!『戦災』という言葉もあるから、『武力攻撃災害』もありだというわけでしょうか。法律用語としておかしくないですか?」

永井「おかしいです。おかしいけど、そういう概念作っちゃったんですね。で、その『武力攻撃災害』とは何かといいますと、『武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、家事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害』と。要するに、武力攻撃で災害された時の被害ですね」

岩上「戦争の被害というものは、普通は『被害』という言葉を使うだろうし、軍事用語では『損耗』とかね、違う言葉を使うんでしょうけれども、『災害』ですか?」

永井「この概念を作った時に、『災害』という言葉を使ってゆくゆくは軍事関係のものへ広げようと、そういう意図が働いていたかどうかはわからないですけど、現実にはそういう機能を持ってしまっている。つまり、条文の『大規模な災害』には『武力攻撃災害』が含まれるわけで、緊急事態条項が戦争に用いられる可能性があるわけです(※31)」

岩上「ここのくだりを、皆さんは災害に限定していると読んでるわけですよ。災害といえば自然災害ですからね。たしか元の緊急事態条項では、もっとちゃんと説明してくれてましたよね。『我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態』と。こうはっきり『武力攻撃』と書いてあったから、あ、やっぱり戦争のために使うんだなと気づけたわけです。例示の中でトップに挙げられてますし、『地震等』ていうのはおまけで付いているんだろう、こうやって治安強化を行うんだろうなと。

 ところがそれを消してしまってたんですね。『武力攻撃』というのを消して災害にだけ特化してくれたから、戦争用じゃなくなったと、こういう風に我々は思った。僕も例外じゃありません。それを、先生だけが気付かれた」

永井「これはね、9条系の皆さんが気が付いたんですよ」

岩上「9条系の皆さん、いろいろ文句言ってごめんなさい!僕は皆さんにもっと大きく声を上げて欲しいだけなんです。でも、そうして緊急事態条項の方がヤバいってわかってるのに、運動のスローガンでは『9条』としか書かないのはどういうことでしょう?」

永井「少なくとも日弁連の憲法問題対策本部の中では問題にしていました。市民運動でもわりとわかっていただけたと思います。私、平成27年から昨日までで計45回、緊急事態条項について全国で講演してるんです。弁護士会でもやってるし、例えば新聞労連とか、NHKの記者さんとか、いろいろやっています。つまり、わかってる人は呼んでくださってるんです。ところが、今年になってから急にお呼びがかからなくなったんです。去年までは1ヵ月に1回は呼ばれてたのに、今年はまだ2回しか呼ばれてない」

岩上「つまり、新条項になったら呼ばれなくなったってことでしょう?新条項になった途端に、反対していた人たちも一気に関心を失ったんですよ。条文を見比べたら明白ですよ。前の『我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱』と、新案の『大地震その他の異常かつ大規模な災害により』。もう言葉の迫力が全然違いますよね。戦争は全く匂わせてない。しかも『国民の生命、身体及び財産を保護するため』なんて、いい事しか書いてないですよ」

永井「よくできてます、これ。法律知らない人を間違えさせるのに、すごくよくできてます」

岩上「いやー、これ本当に凄いですね… 災害でこっそり入れてたあの概念。あの概念を利用しようとは」


※31)国民保護法における「武力攻撃災害」という概念:
 「国民保護法」とは「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」の略称。「備えあれば憂いなし」のキャッチフレーズとともに、小泉政権が推進した有事法制立法の一環として2004年に制定された。
 全10章194条と附則から成り、前年の「武力攻撃事態対処法」にいう「武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護するため、又は武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小になるようにするための措置」(第22条1号)について、主に有事に際する国と地方公共団体の役割を規定する。
 だが、こうした「戦後日本の本格的な緊急事態・危機管理法制」としての意義のかたわら、2001年の「9.11同時多発テロ事件」を機に対テロ戦争に乗り出した米軍の「後方支援法・軍事協力法」としての性格 (高野眞澄)を色濃く持ち合わせ、「米国の『予防先制攻撃戦略』に積極的に協力するため、相手方からのあらゆるリアクションに対処するための『楯』の整備をはかるもの」(水島朝穂)などと激しく批判されている。
 なにより問題視されたのは、同法第4条の定める「国民の協力」(「第4条 国民は、この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする」)および「武力攻撃災害」なる造語の導入である。
 「武力攻撃災害」とは、同法第2条第4項によれば「武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害」。つまりは、人為的行為によってもたらされる被害と天災のそれと同じ次元の「災害」として扱っているわけだが、こうした「人間の英知で止められるはずのテロや戦争と台風や地震の自然災害を線引きできなくする発想」(纐纈厚)は、一般の消防や災害救援システムを「軍事的合理性の観点から組み換え」、救援組織や各種訓練への参加についても、ゆくゆくは「戦前の『隣組防空群』と同様、市民生活の相互監視・相互統制機能も果たし」ていく危険性はらむ(以下、引用は水島朝穂)。
 また、同法は「基本的人権の最大限の尊重」(第5条)をうたい、あくまで「協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない」(第4条第2項)と強調するが、「ことが『武力攻撃』という破壊と殺傷の世界である以上、それに対する対処措置が人権尊重を貫くというのは至難である」うえ、「『敵性』国民のレッテルを貼られる」ことを恐れて個人の良心が曲げられる可能性もある。
 「武力攻撃災害」は、こうして「国家の防衛体制強化のために、国民および自治体が協力するという構図」を作り上げる、まことに危険な概念なのである。
参照:
・Wikipedia「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」【URL】https://bit.ly/2CQ3eD9
・水島朝穂「『国民保護法制』をどう考えるか」『法律時報』2004年5月24日【URL】https://bit.ly/2CA7FBL
・高野眞澄「『国民保護法制』の法的構造」『高松大学紀要』43号、2005年【URL】https://bit.ly/2MhPGzz
・東京新聞「武力攻撃災害訓練って?」2006年8月28日(リンク切れ)
・早稲田大学 水島朝穂のホームページ「直言:『新たな戦前』なのかーー日本国憲法施行70年」2017年5月1日【URL】https://bit.ly/2NteWaM

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(4)「国会による法律の制定を待ついとまがない」とき!? 内閣は何の限定もなく主観で緊急権を発動できる!?

永井「国家緊急権発動の要件として、次に『国会による法律の制定を待ついとまがないと内閣が認定したとき』とありますね。要するに『大規模な災害』によって内閣がそう思った時、というわけなんですが、これ、『待てないよ』なんて主観的な判断ですよね?

 例えばどういう場合が考えられるかというと、災害が起きた、災害関連法規を審議しよう、だけど野党が与党を批判するから審議が進まない。『待ついとまがない』ということで国家緊急権が発動できちゃうんです」

岩上「たとえ野党が協力すると言っても、『いやいや、急がなきゃいけないでしょ、だって、なかなかほら、たくさんの人が死んでるようだから、もう、はい、すぐやっちゃいましょう』って言ったら、それでおしまいですよね? その時に野党が『いや、これはそうじゃない』って言ってもダメでしょ? だって内閣で決めるんだから、国会開いて決めるわけじゃないから。閣議って朝やりますよね、密室で。国民も野党も参画できない。『閣議で決めた』としか知らされない」

永井「そうです、その通りです。本来なら国民代表である国会が制定すべき法律を、こういった『法律の制定を待ついとまがない』と内閣が判断したら制定できる、ということになってしまうんですよ」

岩上「無茶苦茶だ… これが日常的に起こるってことですよ。とにかく『いとまがない時』(と内閣が勝手に主観で判断した時)には、何でもバンバン閣議決定で出してしまうと」

永井「本来は国会が国民の代表として法律の制定権がありますから、国会に替わって内閣が法律を制定する時というのは、つまりは『国会が機能しない時』でなければおかしいはずなんです。それを、『待ついとまがないとき』というわけですから、例えば国会の会期中、国会が現に活動中でも、国会を無視して立法ができることになります。

 仮にその『国会が機能しないとき』というものをきちんと条文に書くとすれば、『国会閉会中、または、衆議院解散中で、かつ、臨時国会の召集や、参議院の緊急集会の請求が出来ない時』となるはずです。ところがそんな限定は全くない」

▲「国会が機能しないとき」という要件がない

岩上「旧案の時も、こんな危険性があるから、我々も『参議院の緊急集会があるから緊急事態条項は必要ない』(※32)と言ってきたわけですが、そういった議論を全部すっ飛ばして、『国会が開けない』なんて要件すら書いてないからいいんだ、全く平常どおりだけど、閣議で決めちゃいます、なんてことができるわけですね?」

永井「『国会の法律の制定を待てないとき』に発動できるというわけですから。本当に主観的なものです。待てるか待てないかなどということは」

岩上「『俺たちゃ急ぎたいんだよ』ってね」

永井「例えば被災者の仮設住宅。仮設住宅についての期限が3月いっぱいで切れちゃう、『待てないよ』ということで、内閣が法律制定できてしまう」

岩上「ま、でも、そういうことは『待つ』でしょうね。はっきり言って、いまの内閣、そこには関心を持ってないですから。戦争以外は関心ありませんから」

永井「そういう理屈を付けられる、ということなんです。そういう風に国家緊急権が発動できると。大日本帝国憲法の緊急勅令さえ、議会閉会の時という限定があったんですよ〔前註※16参照〕」

岩上「大日本帝国憲法すら議会は尊重したと。それよりもひどいとは! つまりは、完全に議会制民主主義を完全に否定する、やめる、それで立法権は完全に内閣にある、というわけですね」

永井「もう、すごいでしょう? そのうえ、緊急権発動の期間制限がないんです。旧自民党案でさえ、『100日を超えて緊急事態宣言を継続するときは国会の承認を必要』としていたんですが、これもなくなっていますから。まさに先ほどおっしゃった、『いつまでも』」

▲いつまでも発動できる!?

岩上「『いつまでーも独裁』。しかも、先生のご指摘どおり、国会を無視していつでもできるわけですから『いつでーも独裁』(笑)。本当に凄い話ですが、憲政史上、世界の近代立憲民主制の中で、こんな国家がこれまでに存在したことがあるんでしょうか?」

永井「少なくとも、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスとか、主要な民主主義四カ国ではあり得ないです」


※32)参議院の緊急集会があるから緊急事態条項は必要ない:
 自民党改憲旧案は、緊急事態宣言発令中は内閣は解散権を制限され、かつ参議院及び衆議院議員の任期を延長できるとしていた(第99条4項「緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる」)。
 衆議院の解散または任期満了により国会が開けないときに緊急事態が生じ、かつ選挙も実施できなければ事態に対処するための必要な措置を講じられない、だからこうした規定が憲法に必要だというのが改憲派の言い分であるが、現行憲法はまさにそのような事態を想定し、すでにしかるべき仕組みを確立していることは、多くの識者が指摘してきたことである。
 衆議院の解散に伴い衆議院議員全員が議員資格を喪失しても、参議院はそのまま残ることは言うまでもない。
 また、衆院解散が参院の任期満了と重なった場合も、参議院議員は3年ごとの半数改選(第46条)であるに加え、通常選挙は任期満了前30日以内に行われる(公職選挙法32条1項)ため、参議院議員が国会定足数(総議員の3分1)に足りなくなることはあり得ない。
 たしかに、国会は衆参両院が同時に活動することを原則とするため、衆議院の解散とともに参議院も閉会となるが、その時に国会の議決を要する「緊急の必要」が生じた場合に備え、日本国憲法は「参議院の緊急集会」という制度を設けており、内閣の要請を受けて参議院が暫定的に国会の権能を代行できると規定している(第54条第2項)。
 条文は「衆議院が解散されたとき」としか述べておらず、衆議院の任期満了に伴う同様の事態では「緊急集会」は開けないとする主張もある(改憲派もまさにこの点を以て現行憲法の「不備」としているふしがある)が、それも条文解釈次第で、あるいは公職選挙法第31条を用いた「任期満了」を「解散」にしてしまう方法で、やすやすとクリアできるとのこと。
 そもそも「衆議院議員の任期満了による選挙」ということそれ自体、1976年12月の第34回衆院総選挙が唯一の例という非常に稀なケースであり、改憲および緊急事態条項導入の正当な理由にはなり得ない。
参照:
・Wikipedia「参議院の緊急集会」【URL】https://bit.ly/2oQh0vs
・弁護士ドットコム「参議院の緊急集会」【URL】https://bit.ly/2MbTn9W
・マガジン9「「お試し改憲」ではすまされない!?危険で不必要な「国会議員の任期延長 小口幸人(弁護士)」2016年7月20日【URL】https://bit.ly/2N2dson
・日本弁護士連合会「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書 2017年(平成29年)2月17日」【URL(pdf)】https://bit.ly/2McQMN7
・日本労働弁護団「安倍政権による憲法改悪に反対する声明~平和と労働運動を守るために! 2018年10月25日」【URL】https://bit.ly/2qjx4GE

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(5)『国民の生命、身体および財産を保護するため』ならどんな政令も制定できる!? 内閣にとってはまるでドラえもんのような「なんでも独裁」!?

永井「では、こうして内閣が国家緊急権を発動するとして、一体どんな法律が作れるのか。つまりその法律に何かの限定があるのかどうか、ということについてですが」

岩上「あ、これも条文に規定がない! ちょっと待ってくださいよ、『いつでーも独裁』で、さらには『なんでーも独裁』なんですか?」

▲立法できる事項の限定はほとんどない!?

永井「(笑い)はい」

岩上「『なんでーも独裁』…ってこれ、内閣にとってドラえもん状態じゃないですか!」

永井「(笑)ドラえもん状態です。条文にはどういう風に書いてあるかといいますと、内閣は『国民の生命、身体及び財産を保護するため』であれば、どんな政令でも制定できる、としているんです。

 『国民の生命、身体及び財産を保護するため』とは、例えば国民の安保法制(※33)ですね、安全保障のために『国民の生命、身体及び財産を保護する』必要がある。だから安保法制を改正して、集団的自衛権(※34)をもっと強化するといったこともできるし、あるいは共謀罪(※35)。共謀罪について、あれはテロ防止である、ということで」

岩上「安保法制とか集団的自衛権の『強化』だけでなく、今まで踏み込めなかった先制攻撃とか核保有、さらには核による先制攻撃も…」

永井「少なくとも理論的には可能です。一応、9条に手を付けない場合ならば」

岩上「いえいえ、全然可能でしょう?だって、緊急事態宣言やった時には、他の憲法条項は停止でしょ?」

永井「そこまでは書いてないです。法律と同じ効力のある政令が制定できる、としてあるだけで、他の条項が停止までは書いてないです」

岩上「そうすると、実際問題として、ぶつかり合うわけですよ。あらゆる勝手な法律が作られて行くなかで、例えば基本的人権を侵害するような法律だって当然生まれ得るわけですよね?」

永井「はい、もちろんそうです」

岩上「それが例えば、仮に『国民の生命、安全、財産を守るために、核保有や先制攻撃も必要だ』なんて話になった時に、別の条文が保障している国民の諸権利とぶつかり合うわけじゃないですか。それを調停する機能っていうのが、憲法には本来はあるわけだけれども」

永井「ええ、『公共の福祉』ですね(※36)」

岩上「前の改憲草案にあった『公共の秩序が全ての上へ行く』みたいな文言が、今回はないんですよ。前のバージョンでは、ひたすら『公共の福祉』を削って、『公共の秩序』が最優先みたいなことが書き連ねられていたわけです(※37)。その万全の上に、緊急事態条項がある。

 でも、今回の改憲案ではそれが入ってない。そうすると、実際のところ、こののっぺりとした緊急事態条項でどこまで行けるんですか?『公共の福祉』の規定が、互いの利害の調整機能として働くんじゃないですか?」

永井「現地点では、この『国民の生命、身体及び財産を保護するため』という名目があれば、何でも法律が制定できる、というのが問題になります。何でもできるんですが、ただ、一応ね、その時9条に手を付けず、9条の2の改正案でセットで変えるという場合、核の保有まではできます」

▲永井幸寿弁護士

岩上「それから先制攻撃も可能ですよね?現に、いま現行憲法下でもそう言ってますし」

永井「『先制的自衛権』なんて概念をアメリカが作ったりした(※38)もんですから、それはもう、この法律なんか作らなくたって、9条の2の自衛権の解釈でできちゃいますよね」

岩上「ましてやこれを作れば、『緊急事態』なら何でも自由にできるというわけですから、内閣の判断一つで核の保有も、核の先制攻撃が『可能である』と宣言することも、ひいては実行も可能ですよね」

永井「『国民の生命、身体及び財産を保護するため』という名目さえつけば何でもできる。例えば、共謀罪ですね、『テロ防止のため』という言い方で上限を死刑にするとか、閣議で決定できてしまう。

 あるいは、『テロ関係についての対策のため』といいながら政府が一番やりたいのは、『報道の自由』に対する規制でしょう。報道機関というものは国家を監視する機能がありますから、こういう何でもできるという形になった時、まず制限されるのは報道の自由です」

岩上「『報道の自由』および『言論の自由』ですね」

永井「そうです」

岩上「今のところ、言論の自由はかなり広く解釈されていて、意見の表明という所は割と自由にできるじゃないですか。だから、たとえそれが名誉棄損でも、事実の適示じゃなくて意見の表明であれば認められるというところがあるわけですけれども、かつては思想信条の自由に含めて、そうした意見の表明も弾圧されましたからね(※39)。その時と同じように、報道だけでなく、一般市民の言論の自由も弾圧される可能性はありますね」

永井「でも一番は報道機関ですね。報道機関が国民の知る権利に応えるという形で、主権者である国民に必要な、政治的・社会的関心事を、事実として報道してくれるわけでしょう?それを通じて国民は選挙権なんかを行使するわけですから、それを適正に行使させないようにするには、為政者にとっては報道機関を潰すのが一番。だから、何でもできる権限を手に入れた時、まず最初にやられるのは報道機関だと思います」

岩上「しかし、報道機関がなくてもSNSとかですね、通信と放送の融合を進めようとしているわけですよ、彼らは。放送や新聞とか、そういう機関ジャーナリズムがなくとも、通信でかなりの程度カバーできるはずだ、という考えもあるわけです。だから、先生の今のお話だと、既存ジャーナリズムだけが、つまり記者クラブメディアがやられるイメージしかないんですけど、記者クラブメディアだけやられるんだったら、『いいや、やられても構わないよ』と思ってる人達も世の中にいっぱいいるわけですよ」

永井「そうですね。報道通信に関する規制になると思います。だから岩上さん、危ないんですよ」

岩上「我々のやってることは通信ですからね、ネットメディアというのは通信ですから。だから、SNSやってる人たち、ネットやってる人たち、みんな危ないんですよね」

永井「だから、まずこれを止めなければいけない。それはもう、メディアが一緒になって止めなきゃいけない事だと思いますよ」


※33)安保法制(平和安全法制):
 自衛隊法、周辺事態安全確保法、船舶検査活動法、国連PKO協力法、事態対処法制など10の法律を一括改正する「平和安全法制整備法」と、「国際平和共同対処事態」に際する協力支援活動に関する制度を定める「国際平和支援法」の2法律のこと。2015年9月19日に参議院本会議にて強行可決、成立した。
 2014年7月に安倍政権が強行した憲法9条の解釈変更(後註※37参照)にもとづき、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ」る事態に自衛隊が他国軍隊を支援する活動(米軍等の部隊の武器保護のための武器使用、米軍に対する物品役務の提供など)ができるようにしたほか、従来の国際連合平和維持活動に加えて国連が統轄しない人道復興支援等の活動への参加も可能ならしめるものとなっている。
 つまるところは、日本が攻撃を受けているわけでもない他国の戦争に加担するための法制(実際、その適用第一弾となった南スーダンでの「駆け付け警護」では、派遣された陸上自衛隊が戦闘に巻き込まれていたことが判明している)であり、「戦争法」の悪名とともに激しい反対が巻き起こっている。
参照:
・内閣官房HP「平和安全法制等の整備についてーー「なぜ」「いま」平和安全法制か」【URL】https://bit.ly/2QkOQ8q
・日本弁護士連合会「安保法制についての9つのギモンーー結局あれって何が問題だったの?」【URL(pdf)】https://bit.ly/2oZfOpN
・BuzzFeed News「【全文】自衛隊は南スーダンで「戦闘」していたのか。黒塗りの日報、公開します」2017年2月9日【URL】https://bzfd.it/2x6iu8A
・IWJ「インタビュー ── 安保法制 緊急特集」【URL】https://bit.ly/2CKVAd5

※34)集団的自衛権:
 ある国が武力攻撃を受けた場合、直接は攻撃を受けていない、だがその国と密接な関係のある他国が協力して、共同で武力攻撃に対処する権利。
 「外国からの急迫かつ不正な侵害に対し,国家または国民の利益を防衛するため、やむを得ず一定の実力を行使して反撃し得るという国際慣習法上の権利」すなわち「自衛権」のひとつで、一国による「個別的自衛権」とともに、国連も「安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間に限って」加盟国に認める権利である(国連憲章第51条)。
 日本も国際法上は「固有の権利」としてこれを保有するが、国際紛争の解決手段としての戦争や武力行使を放棄することを定める憲法9条に照らし、「自国防衛のための必要最小限の自衛権行使」の範囲を逸脱する行為として集団的自衛権行使は容認され得ないというのが、歴代内閣の一致した見解であった。
 ところが、安倍政権は2014年7月1日の閣議決定で従来の憲法解釈を変更。(1)日本と密接な関係にある他国が武力攻撃され、日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態(存立危機事態) (2)我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない (3)必要最小限度の実力行使 を要件として、集団的自衛権による武力行使を可能とした。
 この閣議決定にもとづき、翌年9月には「戦争法」との悪名も高い「安保法制(平和安全法制)」(前註※36)を強引に成立させる。
参照:
・百科事典マイペディア「集団的自衛権」【URL】https://bit.ly/2O9VI6Z
・ハフィントンポスト「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(全文)」2014年7月2日【URL】https://bit.ly/2oZJrHx
・IWJ「【特集】集団的自衛権~自衛隊が米軍の『下請け』になる日」【URL】https://bit.ly/2ObNQC3

※35)共謀罪:
 ある特定の犯罪を行うべく具体的・現実的に話し合い、合意することによって成立する罪。実際に犯行に及ばずとも、計画したことそれ自体が処罰の対象となるというもので、2017年6月に制定された改正組織的犯罪処罰法の第2章に「組織的な犯罪の共謀」として新設された。
 実際に犯罪が行われていない時点で検挙・逮捕できるこれは、従来の日本の刑事法の原則を覆し、しかも罪となる対象の範囲は広く不明確で、一般市民のプライバシーや表現の自由を制約する恐れや捜査当局による法律の濫用を招く可能性をはらむ(2000年に国連総会で採択された国際組織犯罪防止条約に批准するためとして、2003年から度々法案が提出されたが、いずれも廃案となったことからしてもその危険性がよくわかる)。
 有識者たちの警鐘にも、また各地で巻き起こる大勢の国民の猛反対の声にも耳を貸さず、安倍政権は「テロ対策」を理由に強引に法案化を進め、委員会採決を省略できる「中間報告」の手続きを使って本会議採決を強行したのである。
参照:
・日本経済新聞「『共謀罪』の対象犯罪277」【URL】http://s.nikkei.com/2wt4zeR
・日本経済新聞 夕刊「『共謀罪』何が問題? 対象が不明確、法律乱用も懸念」2017年5月22日【URL】http://bit.ly/2v1qfyv
・IWJ「権力者の『共謀』も大企業の『共謀』も処罰対象外!? 相続税法も対象外で透けて見える『富裕層優遇』!『監視対象』は下々の者だけ!? 岩上安身が京都大学教授・高山佳奈子氏にインタビュー 2017.4.30」【URL】http://bit.ly/2vdWO7F

※36)公共の福祉:
 日本国憲法は全ての国民が「個人」として尊重され、各々の有する生命、自由、幸福追求の権利を保障されると定めている(第13条)。だが、人間は本質的に社会生活を営むものであり、ある一個人が自分の権利だけを主張し利益や幸福の追求に邁進すれば、他の個人の権利を侵害しその利益や幸福を害することが当然起こり得る。「公共の福祉」は、こうした自由や利益の相互的衝突を調節し、その共存を可能とする公平の原理である。
 法と国家に関わる根本問題のひとつとして、古代ギリシャ以来、考察と議論が重ねられてきた概念で、近代憲法に表れたものとしては、1789年の『フランス人権宣言』第4条の「自由は他者を害せぬすべてのことをなし得ることに存在する。
 すなわち、すべての者が有する自然権の行使は、社会の他の構成員に同じ権利の享有を保証すること以外の限界を持たない」が、また、1949年制定の『ドイツ連邦共和国基本法』第2条における「何人も、他人の権利を侵害せず、かつ憲法的秩序または道徳律に違反しない限り、自らの人格の自由な発展を求める権利を有する」が、その本質をよく定義しているように思われる。
 日本国憲法では、第12条(「この憲法が国民に保障する自由及び権利は(中略)常に公共の福祉のためにこれを利用する」)、第13条(「国民の権利については、公共の福祉に反しない限り(中略)最大の尊重を必要とする」)、第22条「公共の福祉に反しない限り、住居、移転及び職業選択の自由を有する」、第29条(「財産権は、これを侵してはならない。(中略)公共の福祉に適合するように」)にその規定がある。
参照:
・コトバンク「公共の福祉」【URL】https://bit.ly/2p4zzw7
・Wikisource「フランス人権宣言条文(フランス語)」【URL】https://bit.ly/2bmQi87
・ドイツ連邦共和国基本法条文(独日英対訳)【URL】https://bit.ly/1f976Jz

※37)「公共の秩序」が「公共の福祉」に優先されることが散りばめられていた旧案:
 日本国憲法において、個人の自由と権利を制約する条件は「公共の福祉」(自由や利益の相互的衝突を調節し、その共存を可能とする実質的公平の原理。前註※36参照)のみである。
 ところが自民党改憲草案は、それを定めた第12条の「公共の福祉」の文言を削除したうえ、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」という文言を新たに付け加えた。「責任・義務」の名のもと、個人の権利が公すなわち権力体制の利益のために制限を加えられることを許容するこの規定は、具体的権利を定めた条文のなかに、ライトモチーフのごとくちりばめられている。
 たとえば、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する」としている日本国憲法第21条に次のような条文を「第2項」として新設し、「公益」(その具体的内容は体制によって恣意的に解釈される可能性をはらむ)のために表現の自由や思想・信条の自由が制限されることを明文化している:
「2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」
 また、勤労者の団結権とは、大日本帝国憲法にはなかった規定であり、労使関係において立場の弱い労働者が団結することで自分たちに有利な労働条件を確保するためのこの権利を定めた日本国憲法第28条(「勤労者の団結する権利及び団体交渉、その他の団体行動をする権利は、これを保障する」)にも、改憲草案は次のような条文を新設した。「全体」つまり「公益及び公の秩序」の利益の前に、公務員の個人としての権利は犠牲にすると、はっきり規定されている:
「2 公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる」
 このように、自民党改憲案では、「日本国憲法が『侵すことの出来ない永久の権利』として保障する基本的人権が、明治憲法下での公共の安寧秩序や法律の範囲内での『人権保障』のような統治機構の定める秩序や法益の下位のものと位置づけられ、その許容範囲でしか存在できないものに貶められ」ている。
 そこで尊重されるのは、自立した「個人」ではなく「『公益及び公の秩序』の内側の従順な国民」にほかならない。
参照:社民党「自民党『日本国憲法改正草案』前文批判(案)」【URL(pdf)】https://bit.ly/1hOli0J

※38)先制的自衛権:
 他国や武力組織からの武力攻撃や大量破壊兵器が現実化する前に、自国にとっての脅威を取り除くことを目的として、その国や武力組織に先制攻撃をかける権利があるとする概念。
 国連憲章第51条は加盟国に個別的・集団的自衛権(外国からの違法な侵害に対し、自国を防衛するため、緊急の必要がある場合、それに反撃するために武力を行使しうる権利)を認めるが、そこにある「武力攻撃が発生した場合」という文言について、これを限定条件としてではなく、(たとえ武力攻撃の事実がなくとも)「差し迫った自衛の必要があり、手段選択の余地がなく、熟慮の時間もないとき」であれば、「国の利益全体を防衛するため、武力を行使することができるというようなところまで敷衍」して解釈するものである。
 事実ではなく主観的判断にもとづいて発動される性格のものであるに加え、第一撃を加えることの軍事的メリットの大きさもあって濫用の危険性が高く、国際連合の集団安全保障の理念と相容れるものではないが、2001年9月11日の同時多発テロを受けてブッシュ大統領が「国家安全保障戦略文書」(2002年9月20日)の中で打ち出し、「テロとの戦い」および「イラクが秘密裏に製造を進めている大量破壊兵器の破壊」を掲げてイラク戦争へ突入した(大きな犠牲を払ってなお大量破壊兵器など見つからなかったことは周知の通り)。
 日本でも近年、安倍政権が北朝鮮からのミサイル攻撃の脅威を煽りつつ、攻撃される前に敵のミサイル基地などをたたく敵基地攻撃能力保有について言及するようになり、憲法が定める専守防衛の理念に反すると批判が巻き起こっている。
参照:
・清水隆雄「国際法と先制的自衛」『レファレンス』54(4)、2004年【URL(pdf)】https://bit.ly/2MUCX67
・Wikipedia「イラク戦争」【URL】https://bit.ly/2J8fPka
・毎日新聞「敵基地攻撃能力 専守防衛を超える恐れ」2017年3月6日【URL】https://bit.ly/2xIJefO

※39)戦時中の言論・思想統制:
 大日本帝国憲法下における言論や報道の自由は、内務省をはじめとする各種検閲機関による検閲を定め、「安寧秩序を紊し、または風俗を害するものと認めたる時はその発売および頒布を禁止し、必要においてはこれを差押さえることができる」(第23条)とした「新聞紙法」(1909年)や、天皇制批判や社会主義的言論を取り締まる「治安維持法」(1925年制定)などによって厳しい制限を加えられていた。とりわけ満州事変以降は、不穏文書取締法(昭和11)、軍事に関する事項の新聞紙掲載禁止(陸軍省令、昭和12)、改正軍機保護法(昭和12)海軍の軍事に関する事項の新聞紙掲載禁止(海軍省令、昭和12)、外交関係事項の新聞紙掲載禁止(昭和12)、国家総動員法(昭和13)、軍用資源秘密保護法(昭和14)、映画法(昭和14)等々、挙国一致の総動員体制構築に向けて政府が言論・思想を取り締まる法規を次から次へと作ったために、新聞メディアは二重三重の厳重な検閲で自由に情報伝達や意思表明ができない状況に陥る。
 さらに、政府は報道を一元的に統制する目的で新聞・通信各社の整理統合を強行(新聞用紙供給制限令、昭和13)、政府に迎合する少数の新聞・雑誌しか生き残れず、日刊新聞は1942年までにわずか55紙までその数を減らしていった。
 1940年には言論統制の中央政府機関「情報局」が設置され、太平洋戦争開戦と同時に「大本営の許可したるもの以外は一切掲載禁止」と「我軍に不利なる事項は一般に掲載を禁ず。ただし、戦場の実相を認識せしめ敵愾心高揚に資すべきものは許可す」の二本立ての示達がなされるとともに、「言論出版集会結社等臨時取締法」によって「時局に関し、造言飛語、人心を惑乱すべき事柄を流布したる者は懲役に処」されることになる。
 こうして国民は沈黙を強いられたまま、悲惨な戦争へと追い立てられていったのである。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)「言論統制」【URL】https://bit.ly/2QY7NhE
・前坂俊之「太平洋戦争下の新聞メディア」『マス・コミュニケーション研究』No.66、日本マス・コミュニケーション学会、2005年【URL(pdf)】https://bit.ly/2zoaB0E
・LITERA「『報道特集』と『ETV特集』が特集!戦前・戦中の特高警察による言論弾圧と安倍政権のやり口の共通点」2018年8月26日【URL】https://bit.ly/2NBfUCz

▲永井幸寿弁護士

危険度アップの新「緊急事態条項」とその手口(6)国家緊急権が発動されたら災害と関係なくどんな法律でも制定できる!? 緊急事態条項の本質は、グローバリズムが好きな放題やれるための装置!?

永井「国家緊急権発動の要件は『大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認められる場合』というわけですが、そうするといかにもですね、災害関連の立法しかできないんじゃないかと思わせますでしょう?」

岩上「そうですね」

永井「ところがそうじゃないんです。立法に関しては、要するに、『国民の生命、身体及び財産を保護するため』であれば、何でもできちゃうということです。そこにもトリックがある」

岩上「この『国民の生命、身体及び財産を保護』というのも、どんなふうにも解釈できるわけですよね。いかにも個々人の基本的人権を守りそうに見えるけれども、実際には、『国民の』ため砲台を敷設するんだと言いながら、『どけどけ、コラ!』ってバーっと土塁を作って人の家をぶっ壊すとか。

 事実、たとえば今、京都府の経ヶ岬に、米軍がXバンドレーダーを建設している(※40)。米軍基地が造られてるわけです。そのXバンドレーダーの敷地、『ここで造りますよ』って言っていた敷地以外の所を、今、堂々掘削してますもん」

永井「ええっ?敷地外ですか?それ、掘削する権利ないんじゃないですか?」

岩上「ないですよ。だけどやってるんです。全然報道されてませんけどね」

永井「それはあかん…」

岩上「同じようにして、『国民の生命を守るため』なんだからお前の所の土地貸せよ!みたいに、ある事のために犠牲は厭わないってわけでしょ?『国民の生命を守るため』にお前の生命は差し出せとか兵隊になれとか、それはもちろん起こり得るわけじゃないですか。だって、『個々人の』生命身体及び財産を保護するとは言ってないですよね?」

永井「要するに、これを抽象化すれば、ほぼ何でもできちゃうわけですね」

岩上「『国民を守るため』に、お前の財産・預貯金出せとか、お前の所の土地よこせとか、接収。だって、土地の収用みたいなことをやらなければ、基地の建設だって何だってできないじゃないですか。

 しかも、今やミサイル戦。空中戦ですよ。あっという間に日本列島全部に降りかかって来るわけですよ。建物疎開(※41)なんて話になったらどうするんですか、昔やったみたいに?重要な建物の周りが延焼しないように建物疎開やるって言ったら、もう、民権なんか考えてられないでしょ?バーっとブルドーザーでぶっ潰さなきゃいけないわけでしょ?そういうことを、全部できるようにするんでしょ?」

永井「そうですね、できますね。これ、『安全保障』の話に置き換えられますからね。『安全保障』あるいは『防衛』っていう言葉に、あるいは『テロ対策』とかね、そういう形になっちゃいますから。災害に関連する必要はない。つまり、『災害は国家緊急権発動の要件であり、立法事項の要件ではない』ということなんです。

岩上「『災害は国家緊急権発動の要件』ではあるけど『立法事項の要件ではない』、それはどういうことですか?」

永井「つまり、災害に関して『国会の法律の制定を待ついとまがない』ということであれば、国家緊急権が発動できる。

 で、国家緊急権が発動されたらどんな法律が制定できるのか。それは災害と関係する必要はない。『国民の生命、身体及び財産を保護するため』であれば何でもできる。一見、『災害のためにこういう特別な権限が認められたんだな』『災害のために立法するんだな』と思わせるけれども、そうじゃないんです」

岩上「でも、『災害』とか『国会でいとまがない』とか、その事実すらなくてもいいんですよね?『国会でもめたら』なんて一言も書いてないから、全然そんな必要ないし、そもそも議会開いてない時期でもできるわけだし」

永井「そうそう。だから、たとえば被災者の仮設住宅を退去する期限がもうすぐ来るけども、審議している時間がない、なんていうのも、緊急権発動の要件を満たすことになります」

岩上「その『時間がない』とかいう理由についても、もはや一々たてる必要もないんでしょう?『理由がある必要がある』とも書いてないじゃないですか。『待ついとまがない』なんていうのは、彼らの勝手な事情、彼らがそう判断したら、でしょ?」

永井「まあ、そうなんです。いちおう理由をつけた上で判断した、ということになると思うんですけどね。ただ、『待ついとまがない』ということで、国家緊急権発動してどうなるのかと言えば、災害とは全然関係ない法律ができると」

岩上「先生は災害専門家だから、あくまで災害をイメージしていらっしゃる。僕は、災害対策なんか絶対やらないと思いますよ。だって、あんなに災害に興味も関心もない内閣、ないじゃないですか(※42)。

 『災害』なんて、これ、作る時だけ振り回しているにすぎませんよ。先生は、実際に災害があった時に、災害とは関係ない法律を作るんじゃないかとご心配されていますが、僕の印象としては、先ほど話題になった『武力災害』、これ以外のことは何一つ考えてないと思う。

 本当に災害起こった時には、武力と関係してないし、面倒くさいということで、ただ単に『災害対策基本法でやっとけよ』と、『俺はゴルフしとくからさぁ』って。緊急事態条項を導入する時のセールストークとして巨大災害をうまく利用しよういうわけで、実際に導入されてしまえば、もはやそういう『かこつけ』すらいらないじゃないですか。

 災害というものは大体、地方単位で起こりますよね、そういう時、真面目に働いている市役所の人や県知事の方々、自治体の方々が、生活物資の配給とか、金銭支払い延期だとか、一生懸命やってくれる。国はこれまで通り、何か協力するでしょうよ。でも、これまで通りやることに、憲法改正する必要があるのかって話です。いらないでしょ?全くいらないでしょ?」

永井「いらないですね」

岩上「『災害』云々はあくまで見せかけで、その見せかけすらも、先生が指摘された通り、『災害』という言葉の中に『武力災害』を含んでるわけですから、いったん導入されてしまえば、あとはもう国防のことだけですよ。国防と言うか、植民地の軍隊。植民地軍隊として、多分、動いて行くんだと思うんですね」

永井「なるほど、そうですね」

岩上「もっと言えば、武力攻撃とも関係なくてもいいのでは?

 たとえばいま、TPP11(※43)とか種子法(※44)のこと、それから水道の民営化(※45)等々、日本の富をとにかく片っ端から売り払うようなことをやってますが、そういうグローバル企業の利益になるようなことでも、国家緊急権発動ということで政令を出せるということになりませんか?

 たとえば、『子宮頸がんワクチンを男子にも全部、全員強制接種にしましょう』、それで『グラクソスミスクラインが儲かるようにしましょう』(※46)って言ったら、全員強制でやらなきゃいけなくなるわけですか?」

永井「そうです。名目さえ通れば何でもできる」

岩上「みなさん、そういうことです。緊急事態条項といえば『戦争』というイメージがありますが、また同時にグローバル資本の好き放題にされるということも、考えておく必要があるんです。

 というのも、自民党の改憲草案について、樋口陽一先生に解説をお願いしたことがありまして(※47)。樋口先生は新聞以外の取材をお受けにならない。テレビはもちろん映像メディアになんて一切出たことがない。そんな樋口先生が、『しょうがないなー』なんておっしゃいながら、うちにだけ、一度だけ、ご登場くださった。

▲樋口陽一・東京大学名誉教授(2016年2月17日、IWJ撮影)

 僕らが用意してきたパワポを見て、パパパパパパっと『これはいらない』『これはかけて』って言いながらタタタっと繋ぎ合わせて。そして、『ここが一番大事』とおっしゃったのが、なんと第22条なんですよ。

 第22条はいわゆる『経済的な自由権』なんですね。ここの『経済的自由権』の部分だけは制約がかかってない。つまり、無制限なグローバリズムを認めることが、自民党改憲案の最大の狙いであると、ズバリおっしゃった(※48)。そこを指摘した方って、他にいらっしゃらないと思いますよ。一番のキモはここだと。

 僕らは概して国家権力の強化の方に目が行きやすい。恐ろしいイメージがありますから。けれども、よく見るとそうじゃない。国権なんか抜けちゃってるんですね。むしろ、超国家的な資本のためにある憲法なんですよ」

永井「なるほど…」

岩上「超国家的な資本って、ひどく脱法的な行動をとるじゃないですか。でも、法を備えこれを規制する主体というのは、今のところ国家しかないわけです。国連だって、国家以上の権威ある実行力・強制力を持った主体になりえない。むしろ、それが日ごとに弱体化して行くような状況にある中、グローバル権力はそうした国家を凌ぐ力を獲得している。

 自民改憲案は、そういうグローバリズムに適応するための憲法であり、かたや軍事的に国権を強化してゆく。だから国民は、これまで享受していた諸権利を奪われる。そういう構造になっていると、実に明快に要点を教えていただいたんです」

永井「スカッときましたね」

岩上「そうでしょう?緊急事態条項もそこの観点と合わせて見ないと。

 僕は、この緊急事態条項の本質は、グローバリズムが好きな放題やれるための装置だと思っています。グローバル資本の要請によって、国家が、主権の発動にもとづく戦争という形式じゃない戦争に、あるいは、我々の主権や我々の国益と関係ないもののために、摩耗される形で動員される。

 我々の国が、国とは呼べないものに変質させられていくための、不断の緊急改造手術装置。だって、緊急事態宣言って、1回で終わらないじゃないですか。政令という形で、ずっと出せるわけですもん。国のかたちを根底から変えていく改造手術を、ずっと受け続けるわけでしょ?そうすると、異様なもの、もう全然国とは言えないものに変わりますよ」

永井「旧案と同じように、ここでも『内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない』。つまり、先ほども説明したとおり、国会の承認は求めるが、承認しなかったからといって別に効力を失わない、ということですからね。

 繰り返しますが、旧憲法の緊急勅令でさえ、議会の承認がないと将来に向かって効力を失った。ようするに、国会の内閣へのコントロールが全くなくなるという意味で、ナチスの全権委任法と同じ、『政府独裁条項』であるというわけです。国民主権が崩壊してしまう」

▲国会が承認しなかった場合に効力を失わない!?

岩上「これは大変なことですよ。天皇大権の下の、極めて制約された立憲君主国家だった時代以下になるんですね」


※40)Xバンドレーダー:
 「Xバンドレーダー」は、アメリカのミサイル防衛システムの一部をなす早期警戒レーダーの名称。超高周波数のレーダーを照射して、仮想敵国から発射される弾道ミサイルを早期に察知・精密追尾し、アメリカ本土を防衛するための迎撃ミサイル発射を支援する。
 2007年に車力分屯基地(青森県つがる市)に配備されたが、2013年2月の日米首脳会談で日本国内に追加配備することが合意され、京都府京丹後市経ヶ岬の航空自衛隊経ヶ岬分屯基地が候補地となった。
 日本海を隔てて大陸に臨むこの地に米軍のレーダー基地が建設されれば、アジア諸国の感情を徒らに刺激するのみならず、有事には標的となるのは明白である。
 沖縄でも問題化している米軍による犯罪も懸念されるほか、レーダーが発する強力な電波が周辺住民の健康に甚大な影響を及ぼす恐れがある。さらには、施設から日々排出される大量の汚染水やオイル、粉塵などが自然環境を著しく破壊するかもしれない。
 かくして地元では大きな反対運動が展開されたが、山田知事はこれを黙殺する形で受け入れを表明。

 以来、自衛隊基地周辺の民間地約5ヘクタールが買い上げ、あるいは借り上げられ、米軍のレーダー運用に必要な諸々の施設・設備建設が強引に進められている。
 2018年4月には、米軍が無断で敷地外を掘削し埋め戻していたことが発覚。周辺住民の怒りに改めて火を注いでいる。
参照:
・Wikipedia「経ヶ岬通信所」【URL】https://bit.ly/2NH2K6h
・米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会HP【URL】https://bit.ly/2D0NA82
・電磁波問題市民研究会「京都にミサイル追尾レーダー基地計画 Xバンドレーダー米軍基地の問題点」【URL】https://bit.ly/2Oi2ojB
・京都第一法律事務所「事件報告 Xバンドレーダー問題」【URL】https://bit.ly/2ND0n4w
・日本共産党京都府委員会「京丹後米軍基地、敷地外を勝手に掘削」2018年5月19日【URL】https://bit.ly/2x9XkaF
・IWJ「【特集】京丹後『Xバンドレーダー』配備問題 ~現実化する『原発×戦争』リスク【URL】https://bit.ly/2Jjy2yV

※41)建物疎開:
 空襲により火災が発生した際に、重要施設への延焼を防ぐことを目的に、周辺の密集建物を撤去・除却して防火帯(防空空地)を造成する民防空政策のこと。ドイツにおける防空都市計画の術語 Auflockerungを、内務省の北村徳太郎と小栗忠七が訳した造語という。
 改正防空法(第一次1941年11月、第二次1943年10月)を法的根拠として1943年12月21日に閣議決定された『都市疎開実施要綱』にもとづき、翌年1月から全国の主要都市で実施されるようになった。
 疎開対象に指定された区域の世帯は、いくらかの補償金と引き換えに移転立退きを強制され、家屋の破壊・撤去作業には、学徒や勤労部隊が駆り出された。
 戦局悪化および空襲の激化にともない、対象区域は急速に拡大、終戦直前までに除却された家屋は60万戸以上にのぼる。
 そうして造成された防火帯も、米軍が投下する大量の焼夷弾を前に全く機能しなかったのみならず、広島では建物疎開作業従事中に原爆を投下され、多くの学徒が犠牲となった。
参照:
・Wikioedia「疎開」【URL】https://bit.ly/2NB4E59
・川口朋子「戦時下建物疎開の執行目的と経過の変容」日本建築学会計画系論文集第76巻第666号、2011年【URL(pdf)】https://bit.ly/2C6Bcmk
・越沢明『東京都市計画物語』日本経済評論社、1991年.
・広島平和記念資料館HP「国民義勇隊ーー原爆被害を大きくした広島市の建物疎開」【URL】https://bit.ly/2NxQ3Y7

※42)災害に興味も関心もない内閣:
 安倍政権は緊急事態条項導入の理由として災害対策をしきりと持ち出すが、実際に大きな自然災害が起こると、安倍総理は「『国民の生命、財産を守る』って、口ばっかりじゃないか!」(山本太郎議員。2018年7月10日の参院内閣委員会において)と思わせるような振る舞いばかりである。
 2014年2月14日から16日にかけて記録的豪雪が関東甲信越地方を襲い、多数の死傷者を出した「平成26年豪雪」では、助けを求める声がSNSでさかんに発信されるまさにその日(2月16日)、安倍総理は午前中を都内の私邸で過ごしたのみならず、古屋圭司防災担当相が大雪対応のための関係省庁災害対策会議を開いたのちも、夜は支援者らと赤坂の高級料亭「楽亭」に出かけ天ぷらを堪能していた。
 74名にも及ぶ死者を出した広島土砂災害の日(2014年8月20日)は、朝から山梨県富士河口湖町で森喜朗元首相や茂木敏充経済産業相らとゴルフをしていたが、第一報を受けてもしばらくゴルフを続けていたことが判明している。
 2016年4月14日夜に熊本地震(予震)が発生した時はただちに記者会見に臨んだが、直前まで飲酒していたらしく、赤ら顔で報道陣の前に現れて被災者の気持ちを逆なでし、2018年6月18日の大阪北部地震(死者5人、負傷者400人以上)では、地震による被害と混乱が拡大するなか、赤坂の高級日本料理店「古母里」にて、岸田政調会長と9月の総裁選について話しながらしゃぶしゃぶに舌鼓。
 何より国民の激しい非難を巻き起こしたのが、大阪北部地震に2週間と間をおかず発生し、15府県で計227人もの死者を出した「平成30年7月豪雨」(2018年6月28日~7月8日)の際の振る舞いである。
 気象庁が厳重な警戒を呼びかける異例の記者会見を開き、西日本の各地で避難勧告・避難指示が相次いだ7月5日の夜、安倍総理は自民党の若手議員が企画する「赤坂自民亭」なる宴会(参加者に「亭主」「女将」「若女将」などの役割を振り当てて進行する、「ごっこ遊び」のような飲み会だという)に参加。
 多数の国民が不安と恐怖の只中にあるまさにその時に、同席の西村康稔・内閣副官房長官は、皆で陽気にうかれ騒ぐ様子をツイッターで発信した。
 しかも、笑顔が並ぶ集合写真の中には、翌朝オウム死刑囚を大量処刑する上川陽子法相の姿が…。
 安倍政権は、落語家の立川談四楼氏が的確に表現するとおり、まさに「社会的弱者や困難に直面する人に共感するという感情が欠落している」。被災者に寄り添う気などもとよりないことは、高額の兵器をアメリカの言い値で買う一方で、たった1億円の全地形対応車「レッドサラマンダー」が日本に一台しかないことがよく物語っているだろう。かくなる政権が「災害対策」を掲げ緊急事態条項の導入を訴えたところで、なんの説得力もない。
参照:
・日刊ゲンダイDIGITAL「大雪被害の死者16人に…政府調査団、ようやく現地を視察 安倍首相は高級天ぷらに舌鼓」2014年2月17日【URL】https://bit.ly/2NPGzLv
・ハフィントンポスト「安倍首相、広島土砂災害の報告後も1時間ゴルフ 対応後は官邸から別荘に戻る」2014年8月21日【URL】https://bit.ly/2uvnAd5
・情報速報ドットコム「【違和感】熊本大震災で記者会見をした安倍首相に酒飲み疑惑が浮上!会見中の顔が赤い!直前にはレストランで食事も!」2016年4月15日【URL】https://bit.ly/2MuOZD2
・日刊ゲンダイDIGITAL「被災者よりも総裁選…安倍首相「しゃぶしゃぶ夜会」のア然」2018年6月21日【URL】https://bit.ly/2CY8VyE
・LITERA「安倍首相の豪雨対策そっちのけ自民飲み会参加に非難轟々!一緒に大はしゃぎの安倍側近は言い訳のためデマ拡散」2018年7月9日【URL】https://bit.ly/2L3giVk
・IWJ「『社会的弱者や困難に直面する人に共感するという感情が欠落してる』安倍政権!『闘うには敵を知ることが大切なんだ』~7・13岩上安身による落語家立川談四楼氏インタビュー! 2018.7.13」【URL】https://bit.ly/2uBIQhy

※43)TPP11:
 TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement「環太平洋戦略的経済連携協定」)は、もともとは、2006年5月、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国が、工業品、農業品、金融サービスなど全貿易品目の関税を2015年までに完全撤廃して一丸となり、国際市場におけるプレゼンスを高めることを目的として発効した経済連携協定であった。
 そこへ2008年9月、リーマン・ショック直後のアメリカが、日本も巻き込みながら参入を表明し、最終的に、オーストラリア、カナダ、マレーシア、メキシコ、ペルー、ベトナムを加えた計12カ国間の包括貿易協定として、2016年2月に署名が行われた(TPP12)。
 2017年1月にアメリカのトランプ新大統領が離脱を表明、TPP構想は頓挫したかに思われたが、アメリカ抜きの11カ国によるTPP11として、2018年3月、チリのサンティアゴで合意署名が交わされ、6カ国が批准した時点で発効する(2018年9月の段階で、メキシコ、日本、シンガポールが批准ずみ)。
 合意までの交渉を主導したのは日本政府にほかならず、国内ではすでに種子法廃止、水道民営化など、TPP11の枠組みを前提とした法整備がすすめられている。
 TPPに反対する識者たちが明らかにしたのは、この協定がグローバル企業とそれに連なる政策担当者たちを富ませるために案出されたもので、参加各国の国民にとっては、生活基盤のいっそうの不安定化という結果しかもたらさない、ということである。
 日本についていえば、農産物の関税撤廃によって個人経営農家の多くが廃業に追い込まれる、人的移動の自由化により低賃金労働者が大量流入し、労働条件はますます劣悪なものとなる、輸入食品の検疫時間短縮が食の安全を脅かす、著作権保護規定の強化が文化活動を停滞させ、表現の自由も損なう危険がある、等々の問題が指摘されてきた。
 アメリカ抜きのTPP11もその本質にまったく変わりはなく、かえって影響が大きくなるケースも生じる内容となっている。
 たとえば、乳製品について、年間7万トンまで低関税で日本に輸出できるというTPP12での合意内容が、そのうち3万トンはアメリカの割り当てだったにもかかわらず、そのまま残された(オーストラリアやニュージーランドは、もろ手をあげて歓迎である)。
 今後この3万トン分を、なんらかの形でアメリカが要求してくることは目に見えており、現在の政府に国内の酪農業を保護する意思がないことがまざまざと示されている。
参照:
・IWJ「『食料は武器、標的は日本』TPP11、日米FTA、日欧EPAで日本農業は壊滅!安倍政権に貿易政策は任せられない!~6.11岩上安身による東京大学大学院農学生命科学研究科 鈴木宣弘教授インタビュー 2018.6.11」【URL】https://bit.ly/2MZ7L60
・JAcom(農業共同組合新聞電子版)「コラム:食料・農業問題 本質と裏側 鈴木宣弘・東京大学教授「TPP11はTPP12より悪い」」2018年5月31日【URL】https://bit.ly/2ONQ1fC
・リーフレット「#いいことひとつもなし!TPP11」編集・発行:TPPテキスト分析チーム(山田正彦・内田聖子・近藤康男・山浦康明・岡崎衆史・三雲崇正・石塚大作)発行日:2018年4月11日」【URL’pdf】】https://bit.ly/2psZ62b

※44)種子法(主要農作物種子法):
 種子法(1952年5月制定)とは、コメや麦、大豆といった主要農作物について、「栽培中の主要農作物の出穂、穂ぞろい、成熟状況」および「種子の発芽の良否、不良な種子及び異物の混入状況」等を都道府県が審査し、以て「優良な種子の生産及び普及を促進」することを定めた法律。
 国はこの目的に則して農業試験場の運営などに公的資金のサポートを行い、日本の食の安全とクオリティー、そして多様性の維持向上に寄与してきた。
 この種子法を廃止する案が2016年秋に突如として持ち上がり、翌2017年2月には早くも閣議決定。同年4月の可決・成立を経て、あっという間に今年4月1日の廃止の日を迎えた。
 政府や農水省は「国が管理するしくみが民間の品種開発意欲を阻害している」「国際競争力を持つために民間との連携が必要」等と説明しているが、種子法廃止を提案したのは、TPP協定と日米2国間合意に伴い設置された「規制改革推進会議」の農業ワーキンググループ。
 同法を「企業の利益追求活動を阻害する障壁」とみなす多国籍企業の要求に、日本政府が唯々諾々と従った結果であることは明白である。まさにモンサントのようなグローバル企業が乗り込んできて、巨大資本にものを言わせて「公共の資産」たる種子を囲い込み、品種改良部分のみならず種子全体に特許料をかけるだろう。
 また、農家に毎年種子を買わせるために、一世代に限って作物ができる品種(F1種)を、それも農薬と化学肥料もセットで販売するため、種子の値段はこれまでの4~10倍となり、作物の流通価格も跳ね上がる。
 コストの観点から小規模生産の品種は切り捨てられて、日本の食風景は単一なものと化し、なによりもTPPが促進するとしている遺伝子組み換え作物の横溢により、食の安全は脅かされる。
 メディアもほとんど報じぬまま強行された種子法廃止は、安倍政権が日本固有の富をグローバル資本の利益の具に差し出すものほかならない。
参照:
・Wikipedia「主要農作物種子法」【URL】https://bit.ly/2OehV3T
・生協パルシステム KOKOCARA「タネは誰のもの?「種子法」廃止で、日本の食はどう変わるのかーー種子の専門家に聞く」2017年5月29日【URL】https://bit.ly/2nj4YJN
・ハーバー・ビジネス・オンライン「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」2018年7月7日【URL】https://bit.ly/2xbTOeL
・IWJ「【特集】種子法廃止で日本が『遺伝子組換え作物』の氾濫国へ!『食料主権』を売り渡す安倍政権の売国政策を検証!」【URL】https://bit.ly/2DZ60Bj

※45)水道民営化:
 2018年7月5日、水道管老朽化対策促進を名目に、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組み(コンセッション方式)を盛り込んだ水道法改正案が衆議院で可決された。
 麻生太郎・副総理も2013年に米シンクタンクのCSIS(戦略国際問題研究所)の講演で言及したとおり、自民党はかねてより水道民営化を目論んでいたが、2018年6月18日の大阪北部地震で水道が大きな被害を受けるや同法案の審議を開始(6月27日)。続いて起こった「平成30年豪雨」の最中に衆議院を通過させたのである。
 水道事業を手がける大企業(「水メジャー」)としては、スエズ・エンバイロメント(仏)とヴェオリア・エンバイロメント(仏)の2社が有名だが、これまでも公共のさまざまな領域を企業に売り渡してきた安倍政権が、今度は生命に関わる重要なインフラを、こうした外資企業に売り渡そうというわけだ。
 利潤追求を第一の命題とする民間企業は、水が万人に必要不可欠のものであればこそ、なおさら水道料金を吊り上げる可能性がある。
 事実、マニラ(1997年民営化)やボリビア(同1999年)では、水道事業に参入したベクテル社(米)が水道料金を一挙に2倍~5倍に引き上げ、低所得者の多くが水道を利用できなくなった。また、南アフリカでは高額の水道料金を払えない人々が清潔でない川の水を飲み、25万人ものコレラ感染者を出したことが知られる。
 こうした非人道的な政策を容れた水道法改正案は、衆議院で可決されたものの成立に至らず、秋の臨時国会で再審議される。
 パリも民営化による水道料金のあまりの高騰(1985~2009年の間に3倍)のため、民営化した水道事業を公営に戻した。世界の趨勢に逆行するこの危険な法案の成立を阻止するために、有識者らと引き続き声を上げていく必要がある。
参照:
・IWJ「食い物にされる水道民営化・ダム・治水――国富を売り渡す安倍政権の水政策の裏を暴く!岩上安身による関良基氏インタビュー 2017.4.25」【URL】https://bit.ly/2QpC9t5
・ハーバー・ビジネス・オンライン「安倍政権が推進する『水道事業民営化』は、『水という人権』を蹂躙する」2018年7月6日【URL】https://bit.ly/2NbgDG0
・MONEY VOICE「あまり報道されない『水道民営化』可決。外国では水道料金が突然5倍に」2018年7月12日【URL】https://bit.ly/2Jh2c0H
・Business Journal「審議わずか8時間で水道民営化法案が衆院通過… 海外では料金3倍に高騰や25万人コレラ感染事件も」2018年8月14日【URL】https://bit.ly/2vMUhUU

※46)製薬会社を潤すだけの、危険な子宮頸がんワクチン:
 子宮頸がんワクチンとは、子宮頸がんの原因のひとつとされる「ヒトパピローマウィルス(HPV)」の抗原(通常のワクチンのように毒性を弱めた病原体そのものではなく、遺伝子組み換え技術を用いて合成されるフェイクHPV抗原)を接種し、体内で抗体を作らせることによって同ウィルスの侵入や感染を防ぐというワクチン。
 日本では、2010年11月に厚労省が「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」として接種推奨の一大キャンペーンを展開、2013年4月には「法定接種」となった。現在、英グラクソ・スミス・クライン社の「サーバリックス」と米メルク社の「ガーダシル」の二種が認可されている。
 ところがこのワクチンは、100種類以上あるHPVのうち、子宮頸がんを引き起こす可能性の高い15種のさらに2種だけを対象とするにすぎない。
 厚労省も製薬会社自身も、これが子宮頸がんの減少に効果ありか否かは不明としている。
 そもそもHPVはごくありふれたウィルスで、性交経験のある女性の半数が一度は感染するが、その大半が免疫力によって自然に排除されるため、がんに発展するケースは非常にまれとのこと。
 つまりは、さしたる必要性も認められないワクチンなのであり、巨額の公的資金(2010年度107億円、2011年度580億円)を投入して接種を推進したことに疑問の声が上がった。
 何より非難を巻き起こしたのは、これが引き起こす副作用の多さと激烈さである。接種を契機として、全身の激痛、激しい痙攣、失神、記憶力の著しい低下など、重篤な症状に見舞われた女の子たちが数多く現れた。何年経っても回復せず、寝たきりや車椅子生活のまま青春を台無しにされた子も少なくない。
 2013年3月には被害者団体「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が発足。2016年には全国4カ所で集団訴訟が起こされた。
 だが国は、2016年6月に接種の積極的勧奨は中止したものの、その後は「症状は心因性のもの」などとして副作用と認めず、それどころか「薬害のでっち上げ」「フェイクニュースに騙されるな」(村中璃子)などと被害者を貶めつつ、HPVワクチン接種を再び広めようとする動きすらある。
 かくも危険なHPVワクチンを国が擁護し普及させようと躍起になっている背景には、製薬会社との取引や癒着があることが明らかになっている。
 「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」開始の前年、日本政府は大流行を見込んでインフルエンザワクチンを大量に注文したものの不要になり、発注先のひとつグラクソ・スミス・クライン社から違約金の代わりとして「サーバリックス」の購入を持ちかけられた形跡がある。
 また、HPVワクチンの早期承認および公費助成実現の立役者で公明党議員の松あきら氏の夫は、同社の顧問弁護士を務めており、これを推進する専門家会議には同社の元ワクチンマーケティング部長が名を連ねていた。
 ワクチンは健康な人を対象とするものであるから薬に比べて潜在顧客がはるかに多いうえ、国が責任を負う「法定接種」となれば、副作用による賠償訴訟から逃れられる、製薬会社にとってはまさに夢のような商品。
 推進者たちはこうした製薬会社の利益のため、またそこに協力することで得られるであろう自分自身の利益のために、彼らを純朴に信じる人々の健康や命を差し出しているにほかならない。
参照:
・「サルでもわかる子宮頸がんワクチン」【URL】https://bit.ly/1mHlSbB
・コンシューマネット・ジャパン「予防接種ネット・de・講座 38回 子宮頸がん(HPV)ワクチン問題の過去と今」2018年1月20日【URL】https://bit.ly/2s98IjK
・IWJ「【特集】政府と製薬業界、御用学者からの残酷な贈りもの ~IWJが追う『子宮頸がんワクチン』副反応被害」【URL】https://bit.ly/2NPhsYU

※47)樋口陽一:
 樋口陽一(ひぐち・よういち)氏は昭和9年(1934年)生まれ、宮城県出身の憲法学者。東北大学教授、東京大学法学部教授、上智大学法学部教授、東京大学名誉教授、東北大学名誉教授、早稲田大学特任教授。
 『近代立憲主義と現代国家』(勁草書房、1973年)で日本学士院賞(1975年)、2011年にはフランス・レジオンドヌール勲章を受賞。憲法思想史・比較憲法学研究を通じ、一貫して平和憲法たる日本国憲法の意義や価値を世に知らしめてきた、日本における憲法学の泰斗である。
 安倍政権による憲法解釈の恣意的変更および集団的自衛権行使容認の強行にさいしては、約50人の学者たちと「立憲デモクラシーの会」を結成。講演や座談会を通じて、さらには若者たちとともに街頭集会にも参加して、安倍内閣による立憲主義の根本改変に反対の声を上げた。
 さらに2016年2月17日にはIWJ岩上安身によるインタビューに出演。氏にとって初の大手新聞以外のメディア出演となるこの番組で、立憲主義民主主義の基礎をなす「個人」の概念を自民党改憲案がいかに巧妙なやり口で覆そうとしているか、またそれがいかなる危険性をはらむか、改変のターゲットとなっている各条文の解説も交えながら視聴者に訴えた。ぜひご参照いただきたい。
参照:
・IWJ「憲法学の『神様』がIWJに降臨!前代未聞!樋口陽一・東京大学名誉教授が岩上安身のインタビューで自民党改憲草案の狙いを丸裸に! 2016.2.17」【URL】https://bit.ly/2C4FbL2
・岩上安身のIWJ特報【第275-281号】「立憲主義を『保守』することの意味 憲法学の『権威』が語る、自民党改憲案の危険性 東京大学名誉教授・樋口陽一氏インタビュー」【URL】http://bit.ly/2uZEKi9
・Wikipedia「樋口陽一」【URL】https://bit.ly/2MwgEn2

※48)樋口陽一氏「自民改憲案は無制限なグローバリズムを認めるためのもの」:
 自民党改憲草案はその前文において、国と郷土に対する「誇りと気概」「和を尊び」「家族や社会全体が互いに助け合って」「良き伝統」云々と、何らか「日本的なるもの」(「古き良き時代、助け合う村人たち」のような、なにかしらノスタルジックなもの、「牧歌的な過去」のようなものをイメージしていると思われる)への回帰を謳い、「美しい国土と自然環境を守」るとするかたわら、「活力ある経済活動を通じて国を成長させる」ことを宣言する。
 だが、その「活力ある経済活動」は、「牧歌的な過去」や「美しい国土と自然環境」を温存するどころか、それこそ「ドリルで砕くように」破壊してゆくものにほかならない。
 樋口氏は、こうして前文が相矛盾する二つの柱を国是に掲げていることに着目したうえで、主眼は「活力ある経済活動」の方にあると指摘。憲法第22条の改変のあり方が、それを如実に物語っているという。
 現行憲法第22条は「居住、移転及び職業選択の自由」を保障する条項である。そして、この「移転及び職業選択の自由」という言い回しで「経済活動の自由」を指し示すとは、大日本帝国憲法の時代からの了解事項となっている。だが、「経済活動」が無制限に自由となれば社会的正義は損なわれよう。
 だからこそ第22条は、これに「公共の福祉に反しない限り」と制限を設けているのだが、自民党案ではこれがばっさり取り払われ、単に「何人も居住移転及び職業選択の自由を有する」とだけになっている。
 そのうえ、用意周到なことに、労働基本権を保障する条文(勤労権・団結権・団体交渉権・争議権。第27・28条)には制限を可能にするような文言を新たに付け加えている。
 要するに「経済活動の自由についてだけはその制限を取り払う」(まさに新自由主義の思考様式)というわけであり、前文の「活力ある経済活動」の文言は、実にこれを言い表したものだったのだ。
 このとき、「美しい国土と自然環境を守る」などという文言は、「活力ある経済活動」によって破壊がもたらされることに対する、単なる「リップサービスや癒し」にすぎない。
 世界中で軋轢を生み出し、これに歯止めをかけるための運動が巻き起こっている「新自由主義というフィロソフィーを、憲法前文の形で」規範化するのが、自民党改憲草案の本質であると看破する樋口氏の慧眼には、全くもって感服するほかない。
参照:
・IWJ「憲法学の『神様』がIWJに降臨!前代未聞!樋口陽一・東京大学名誉教授が岩上安身のインタビューで自民党改憲草案の狙いを丸裸に! 2016.2.17」【URL】https://bit.ly/2C4FbL2
・岩上安身のIWJ特報【第275-281号】「立憲主義を『保守』することの意味 憲法学の『権威』が語る、自民党改憲案の危険性 東京大学名誉教授・樋口陽一氏インタビュー」【URL】http://bit.ly/2uZEKi9

災害対策のために国家緊急権など必要なし! 法律に則った準備こそが肝要であり、憲法をいじったところで何にもならない!

永井「そもそも、災害対策のために国家緊急権など必要ありません。医療や建築の専門家がみな口を揃えて言っているのは、『準備していないことはできない』ということ。準備してることさえ災害時にはできないことが多いのだから、準備していなければ尚更できないわけで、災害後にいくら権力を集中しても、準備してないことはできません。

 たとえば、あの原発事故の時、原発の近くにあった医療施設に入所していた寝たきりの高齢者50人が、避難の前後で亡くなりました。双葉病院事件(※49)といいますが、これについて、『国家緊急権がなかったからそういうことが起きたんだ』とおっしゃっている国会議員がいますけども」

▲災害対策の原則は「準備していないことはできない」

岩上「誰ですか、その国会議員」

永井「片山さつきさんとか」

岩上「片山さつきね。とんでもない奴ですよ(※50)」

▲片山さつき 地方創生相(参議院議員)

永井「法律上はどうなっていたか、一応調べてみましたところ、国が防災基本計画を立てて、それにもとづいて都道府県市町村が地域防災計画を立てる。それから自治体などは防災教育や訓練をする、という風には決まっていたわけです。

 ところが、地震での原発事故は、事実上起きない事になっていたんです(※51)。原発事故はソ連のチェルノブイリでもアメリカのスリーマイルでも起きたのに、日本では起きないことになっていたんですね。

 だから、原発事故が起きた時のための避難ルートですね、県境跨いだ避難ルートとか、それも1本だけじゃ足りないわけで、渋滞した時のためのサブルートとか、放射性物質が飛散した時のためのサブのサブのルートとかですね、そういう避難計画の作成や、それから車両やドライバーの確保とか。

 特にドライバーについては、放射性物質が飛散している時に運転を命令したら、これは安全配慮義務違反になるんですが、そこをどうやってクリアするのかとかね。

 さらには、いったん避難した後、いまだにあの原発事故で6万8千人が避難してますけど、その避難した方々の、その後の住居の確保とか、そういったことについて、県境を超えて自治体間の連携で計画を作り、避難訓練しなければいけなかったんですが、それを全くやってなかった。

 そんなだから、あの時は双葉病院に場当たり的にバスが来てですね、その寝たきりの高齢者たちが運ばれて行ったんですが、10時間かけて原発を迂回しながら行った先が、医療施設も医療のスタッフもいない体育館だったため、多くの方が亡くなられた。つまりは、問題だったのは憲法じゃないんです」

岩上「国家緊急権があったらそれが防げたのか? 橋を何本バババッて架けられたっていうんだ? って話ですよね」

永井「その通りです。法律に従って事前に準備していればいいんですが、その準備を怠ったことが一番の原因なのです。

 双葉病院の件は一例で、東日本大震災において、自治体や国の不手際があったと言われることのほとんどが、事前の準備がなかったことが原因なんです。憲法をいじったところで、何もできはしません」

岩上「彼らの言ってることは、つまるところ、一つの災厄を利用して別の目的を達しようという不埒な論法なんですよ。人の弱みに付け込んで、火事場泥棒的に目的を達成しようとしている。でも、彼ら自身、国家緊急権なんてものを本当に入れた後日本がどうなってしまうか、きちんとした理解があるのかどうか、本当にわからない。あるんだと思ってたら、ちょっとおかしいですよ。

 彼らは国家主義者、保守主義者を自認しているけれど、全然保守じゃないじゃないですか。全く国家の利益にならないことをやろうとしているんですよ。

 さっきも言ったように、改憲を通じて、日本は硬直した、抵抗力のない、自立性のない存在になるわけですからね。一点だけの命令で全部従うようになるわけでしょ? その一点にどのような形でも、命令を下せる上位権力があれば、そこの国は自由に使える。そして、この国の持っている富は、自由に吸い上げられることになるわけじゃないですか。それはとっても恐ろしい事ですよ」


※49)双葉病院事件:
 福島医療法人博文会双葉病院は、東京電力福島第一原子力発電所から約4.5kmの距離に位置する医療機関。
 2011年3月11日の大震災および原発事故当時、同病院およびその経営する介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」には高齢の入所者440人がいた。スタッフの要請で翌12日に自治体のチャーターバスが到着したが、寝たきり高齢者180人は移送できず、それ以外の入所者を乗せて出発。その直後に同原発1号機が水素爆発を起こし、20キロ圏内に待避指示が出される。
 院長を含む病院スタッフは、施設内で次の救援隊の到着を待つものの13日は救助は来ず、14日未明までに寝たきり高齢者4人が死亡した。地震の影響で停電・断水していたからである。
 14日朝、ようやく到着した自衛隊車両が入所者の一部を乗せて出発、大混乱の中病院から30km離れた保健福祉事務所に向かうが、そこは放射性物質のスクリーニング会場で治療どころではなかったため、そこも離れ、20キロ圏内を大きく迂回しつつ、6時間かけてようやくいわき市の光洋高校の体育館へたどり着いた。
 この間、車内で3人が死亡したほか、搬送先の病院でさらに20人以上が亡くなった。
 双葉病院に取り残されていた入所者の搬送は、15日午後までに複数回に分けて自衛官らが行ったが、この時も搬送中に7人が死亡。最終的に入所者50人が亡くなるという悲劇となった。
参照:
・Wikipedia「双葉病院」【URL】https://bit.ly/2paNXD5
・永井幸寿『憲法に緊急事態条項は必要か』岩波ブックレットNo.945、岩波書店、2016年.

※50)片山さつき氏:
 片山さつき氏は自民党所属の参議院議員。1959年埼玉県生まれ、東大法学部卒業後、1982年に大蔵省入省、主計局主計官(防衛関連予算担当)などのポストを歴任した。
 2005年に財務省を退官、同年9月の第44回衆議院議員総選挙に静岡7区から自民党公認で出馬し初当選。2009年の第45回衆議院議員総選挙で落選したのち、翌2010年7月の第22回参議院議員通常選挙で比例区から再出馬し当選、現在2期目を務めている。
 自民党改憲草案の起草委員のメンバーであり、2012年12月6日にはツイッター上で「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」と発言。
 「そもそも国民に主権があることがおかしい」とテレビ番組で述べた西田昌司議員とともに、近代国家の根本原則である「国民主権」や「基本的人権」を否定する国会議員として激しい批判を浴びた。
 2012年5月30日の参議院憲法審査会では、東日本大災害および福島第1原発事故において憲法が保障する財産権が障害となり、住民の20キロ圏外へ避難させるためのトラック・ガソリンの確保も避難路を開けるための瓦礫や家屋などの撤去も迅速に行えなかったと述べつつ、改憲および緊急事態条項の新設を通じて「財産権なりその人の人権をある程度こういうときには制限しても、最大多数の方が助かるように、動くように、機能するようにしなければ」ならないと主張している。
 なお、憲法第29条は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」としており、法律で一定の制限を課すことをすでに認めている。
 実際災害対策基本法第64条第2項は「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、現場の災害を受けた工作物又は物件で当該応急措置の実施の支障となるものの除去その他必要な措置をとることができる」と定めているのであり、片山議員の主張は的外れであることは明らかである。
参照:
・Wikipedia「片山さつき」【URL】https://bit.ly/2Nyd6Gf
・片山さつき氏ツイッター【URL】https://bit.ly/2brNl3x
・togetterまとめ「自民党の西田昌司と片山さつきが、国民主権と基本的人権を否定してしまいました」2012年12月日【URL】https://bit.ly/2IAo9aJ
・参議院HP「第百八十回国会 参議院憲法審査会会議録第六号」【URL(pdf)】https://bit.ly/1U1rUJg
・日本弁護士連合会「シンポジウム『大規模災害と法制度~災害関連法規の課題、憲法の緊急事態条項~ 2016年4月30日』記録集」【URL(pdf)】https://bit.ly/2Ng8Vid

※51)災害予防についてはすでに法の定めがあるのに…:
 災害対策は「事前の予防対策」「直後の応急対策」「事後の復旧対策」を三つの柱とすると言われ、災害対策基本法の構成にも反映されている基本原則である。
 国家緊急権が関わるのはこのうちの「直後の応急対策」であって、「事前の予防対策」がなされていなければ十分な効果を発揮しえない、つまり「準備していないものはできない」とは、経験則的に了解されることである。
 したがって、過去の災害を検証して将来の災害を予測し、その効果的な対策を準備することが肝要となるが、災害対策基本法はまさにこの考えにもとづき、しかるべき制度を確立している。
 すなわち、国に防災基本計画の策定を義務付け(第34条)、指定行政機関、省庁、あるいは指定公共機関、日本赤十字などがこれに従った防災業務計画を策定するよう規定(第36条、39条)。さらに都道府県、市町村にそれに則した地域防災計画の策定を義務付ける(第40条、42条)。
 原子力施設が置かれる所では、原子力事業者がこれに従って原子力事業者防災業務計画を策定せねばならないとされる(原子力災害対策特別措置法7条)。
 こうした計画にもとづき、災害対策基本法は、指定行政機関、自治体の長は防災教育の実施に努め(第47条の2)、防災訓練を実施(第48条)せねばならないとする。
 50人もの死者を出した双葉病院の災害対処マニュアルには、「地震が起きたときは屋外に出る」ことの計画はあったが、地震で原発事故が発生した場合に予測される、放射能による危険区域からの待避に関する計画(避難ルートや車両・ドライバーの確保、避難所、高齢者や障害者の収容など)は全くなかったという。
 これまで多くの識者が指摘してきたにもかかわらず、地震で原発事故が起きることなど、はなから想定していなかったというわけだ。
 双葉病院の悲劇は、法律や制度の適正な運用がなされていなかったことが原因であり、国家緊急権などが問題ではないことは明らかである。事実、政府自身が「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告書」(2012年7月23日)において、放射性物質の拡散を想定した平常時の防災計画の策定や防災訓練の徹底を反省点に挙げており、改憲を通じた内閣への権力集中や人権の大幅制約など、一言の言及もない。
参照:
・永井幸寿『憲法に緊急事態条項は必要か』岩波ブックレットNo.945、岩波書店、2016年.
・内閣官房HP「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告書」【URL】https://bit.ly/1q3iV6D

災害関連法規は十分に完備されている! 被災三県アンケートでも「憲法が障害になった」と答えた自治体はほとんどなし! 熊本地震では安倍政権の的外れな「リーダーシップ」が被害を拡大!? 災害対策としてはむしろ危ない国家緊急権!

岩上「災害対策を講じるのに、何も憲法をいじる必要はない。現行の災害関連法規は十分に完備されているということですね?」

永井「そうですね。災害対策基本法は東日本大震災後に2回大改正されていますし、災害救助法もあります。それから警察法とか自衛隊法とか、そういう法律はもう十分に完備されていますので、それで十分対処することはできます(※52)。むしろ、その法律に従って、事前にちゃんと準備することが大事なんですよ」

岩上「事前の準備が大事。そして、実際の時の運用が大事。日頃の訓練も大事」

永井「その通りですね」

岩上「それも『地震が来たら原発は危ない』ということを想定した上でね。それを、議論の中で『いやいや地震のせいじゃありません、あれは津波のせいです』なんて言い張っているような状態では、どうも根本的には…。『もう1回原発に何かあっても、今度は国家緊急権があれば』なんて、国家緊急権なんてスーパーマンか何かを生み出すものじゃないし」

永井「国家緊急権があれば、魔法の杖のようにね、全てが解決するというような発想を持ってる人がいますけど、そんなことあるわけないです。逆に、そんなものを設けたせいで、かえって事前の準備を怠ってしまう危険性がある。

 例えば、川内原発は再稼働しましたけれども、原発から10キロより遠い病院についてどういう対処するのか、何も決まっていません。しかも、避難経路にある橋のうち四分の三が耐震性がないんです(※53)」

岩上「ええっ!落ちちゃうじゃないですか!」

永井「今でさえこんな状態ですからね。そこへ国家緊急権が設定されたら、もうそんな地道な事前の努力なんてやらなくなってしまいますよ。本当に危険なことです」

岩上「そもそも国家緊急権があれば、大きな災害の後に二次災害が起きたとき国家の不作為というものが問われることになりますが、そういうことも全部覆い隠せますからね」

永井「そうなんです」

▲岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー

岩上「自分たちのを批判するような報道を止めることもできるし、それに対する市民運動を、弾圧するとまでいかなくとも、禁止することもできますしね。政府の不作為について語る知識人なども排除していくことも。国家緊急権があれば、いろんな事ができるわけですからね」

永井「『国民の生命、財産を保護するため』の、秩序維持のためといって、そういう集会や何かについて禁止するようなものを作ることはできます」

岩上「日弁連が実際の被災市町村にアンケートを取っている(※54)という話ですが」

永井「はい。平成27年の7月から9月にかけて、アンケートを取ったり首長にヒアリングしたり、私がやりました。その時に、災害対策の主導的権限について、それは『国が持つべきですか?市町村が持つべきですか?』というアンケートを取ったんです。

 これが国家緊急権だと考えるなら『国が持つべきである』と答えるはずなんですが、92%が原則として『市町村が持つべきだ』と。では、どうしてそういう答えが返ってくるかといいますと、ご存知でしょうか、『災害には顔がある』という言葉があります。

 例えば、関東大震災では死者の8割が焼死なんです。阪神淡路大震災では死者の8割が圧死、つまり自宅に押し潰されて。東日本大震災だと、死者の8割以上が溺死なんですね。同じ災害って二つとしてないんです。

 ひとつの災害でも、その復興の過程でニーズがどんどん変わってくるわけです。72時間以内は命を助けなきゃいけない。それから避難所を設置する、仮設住宅を設置する、復興住宅を設置する、というふうに。

 そのニーズも、地域地域で全部違います。被災地域が都市部か山間部か、その地域の高齢者率は何%か、コミュニティーはどうなっているのか、被災状態はどうか… そういった種々のことについて、一番正確な情報が直ちに入るのは市町村なんです。逆に、国にはそういう情報が入らないうえ、むしろ公平性とか確率性とか、そういった要素が介在してきますから、被災者に対してきちんとした対処ができなくなくなる。

 例えば、熊本地震の時、内閣総理大臣はテレビを見ていたわけです。そこで被災者たちが、前震といいますが、最初の地震があった日にグラウンドに避難してるのを見て、室内に退避するよう河野大臣を通じて指示したんです。内閣総理大臣にそんな指示権はありませんが、安倍総理はそう指示した。

 ところが、益城(ましき)体育館といいますが、そこの女性副施設長がそれを拒否したんですね。なぜかというと、外観目視で危険だと判断したから。天井落下の危険があったんです。実際、2日後に本震が来たんですが、天井が全部落下したんです。もしあの時、避難者たちが指示通りに屋内に入っていたら」

岩上「国家緊急権があって、河野大臣の言う通りにしなければならなくなっていたら、皆さん死んでいたと」

▲河野太郎外務相(当時・防災担当相)(2016年12月14日、IWJ撮影)

永井「数百人亡くなってたのは間違いないですね。内閣総理大臣には、建物の応急危険度判定なんて期待されてないんですよ(※55)」

岩上「そりゃそうですよ」

永井「では、国に期待されていることは何かというと、市町村の要請に従って、人、物、金を支援すること。人が足りなければ、被災経験のある自治体から派遣してもらえばいい」

岩上「国家に権力を集中することとは逆ですよね。霞が関は日頃偉そうに、上から下に、こう命令通達してきますけど、むしろ主客逆転すると言いますか、市町村からの声に耳を傾けて、『よし!できるだけ何とかしよう』っていう風に変わらなきゃいけないですよね」

永井「そうです。実は、災害対策基本法はまさにそういう構造になってるんですよ。市町村に第一次的権限があり、都道府県がそれを後方支援して、国が更にその後方支援するという。これが一番正しい構図なんです」

岩上「そういうことが現行の法律に全部加味されている。後は運用だけ。ということは、国家緊急権の導入は全然別な所に狙いがある。自然災害は独裁条項導入のための方便に過ぎないと」

永井「そういうことだと思います。ところが、ある新聞がですね、全国紙なんですが」

岩上「どこのですか」

永井「読売新聞です」

岩上「読売ですよ!読売!」

永井「東日本大震災で憲法が災害対策の障害になることが明らかになったなんてことを、繰り返し書いていたんです」

岩上「プロパガンダですね。本当に」

永井「それでアンケートを取ったんです。『憲法は災害対策の障害になりましたか?なったとしたら具体的にどんな事例ですか?憲法何条が障害になりましたか?』と。すると、回答者の96%が『ならなかった』と」

岩上「そんなプロパガンダ打つような読売なんか、買わなくていいですよ。そこらでタダで貰えますし、広告収入いっぱい入っているんだから絶対買っちゃいけません。読む必要も全くないと思いますね。

 産経に至っては、買っちゃいけない新聞ですけれどもね。読む分には、読まなきゃいけない時もあるかもしれませんけれども、買ってはいけませんよ。だって、儲けさせちゃうじゃないですか」

永井「そうですね」

岩上「繰り返しますが、今回の自民党案では「基本的人権」という言葉が消滅、と。つくづく恐るべき事です。前の案では、たとえ飾り物のようにであっても『14条、18条、19条、21条、その他基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない』とあった。14条、18条、19条、21条。先生、もう一度言って下さい」

▲「基本的人権」という言葉が消滅

永井「はい。14条は『平等原則』で、18条が『奴隷的拘束苦役からの自由』、19条が『思想良心の自由』、21条が『表現の自由』です」

岩上「これが最大限尊重されなきゃいけないと。おそらく取って付けの建前でしょうが、さすがにこれがなくなっているとなると、強く反発の声が上がるだろうと思いきや…。この6年間、我々の反発がね、ちょっと甘いものだったんですね。

 やっぱりね、舐め過ぎなんですよ。彼らが僕らを舐めているというよりはですね、僕らが彼らを舐めてるんです。話が通じるまともな奴らだと、心のどこかで思ってるんですね。今や、それは違うと言いたい。本当に舐めちゃいけない相手だとつくづく思います」


※52)災害法制は十分完備している:
 たとえば災害対策基本法第109条は、大規模災時に一時的に、それも(1)生活必需品配給、(2)物品の価格の統制 (3)金銭債務の支払いの延期 (4)外国からの救助の受入れ の4つの事項に限り、内閣に立法権(緊急政令の制定)を認めている。内閣総理大臣に様々な権限を集中させる制度もある。
 大規模地震対策特別措置法は、本来防衛大臣に帰属する自衛隊派遣の権限(自衛隊法第8条)を、地震防災応急対策のために内閣総理大臣に帰属させる(第13条第2項)とともに、関係指定行政機関の長や都道府県知事に必要な指示を出すことができると定めている(第13条第2項)。
 また、警察法第72条は緊急時に内閣総理大臣が警察庁長官を直接指揮監督し、一時的に警察を統括するとしている。危機的状況において、内閣総理大臣を頂点とした中央管理システムを確立する定めは、こうして既存の法制のなかにある。
 災害緊急事態における人権の制限についても、災害救助法がしかるべくこれを定めている。
 都道府県知事は医療・土木建築工事・輸送関係者に救助活動への従事を命令することができる(第7条第1項および第31条)ほか、病院や旅館等を管理してその土地家屋物資を使用し、かつ物資の生産・集荷などの業務に携わる者には物資の保管を命じることがことができ、さらにその収用まで認められている(第9条第1項)。
 職員に施設や土地、家屋、物資の保管場所に立ち入り、検査させる権限もある(第10条第1項)。
 災害救助法がこうして都道府県知事に強制権を認めるかたわら、災害対策基本法は市町村長にこれを認める。
 たとえば、設備物件の所有者や管理者に対する除去命令(第59条第1項)、居住者に対する避難のための立退勧告・指示(第60条第1項)、警戒区域の設定および立入制限・禁止・退去命令(第63条第1項)、土地建物その他の工作物の一時使用・収用(第64条第1項)、災害現場における工作物や物件の除去(第63条第2項)など。
 このように、少なくとも自然災害に関してはすでに厳重な法律の整備がなされており、これで対応できないものがあるというならまずはこれらの災害法制を強化する議論を行うのが筋である。「それをさぼって、憲法改正で済ませよう」とする安倍政権は、「端的にいえば不真面目と言うべき」(石川健治・東京大学法学部教授)であろう。
参照:
・永井幸寿『憲法に緊急事態条項は必要か』岩波ブックレットNo.945、岩波書店、2016年.
・日本弁護士連合会「シンポジウム『大規模災害と法制度~災害関連法規の課題、憲法の緊急事態条項~ 2016年4月30日』記録集」【URL(pdf)】https://bit.ly/2Ng8Vid

※53)川内原発、再稼働したのに対策ゼロ:
 2015年8月11日、九州電力川内原子力発電所1号機(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働。東京電力福島第一原発事故後、原子力規制委員会が制定した「新規制基準」(2013年7月施行)にもとづく審査を経て再稼働した初の原発となった。
 だが、原子力災害対策指針にもとづき、再稼働に向けて鹿児島県や川内市が作成した原子力災害避難計画は、まるで現実味のないしろものだった。
 30km圏内の住民約23万人を鹿児島市などに避難させるために指定された避難ルートは、土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域が至るところにある薩摩半島の山間部を突き抜ける。
 2016年の熊本地震でそうだったように、地震で地割れや山崩れ、落橋が多発的に生じれば、圏内から逃げられない住民が続出するのは目に見えている。
 しかも、朝日新聞が報じたところによると、川内市が指定した避難ルート上には合計107本の橋が架かっているが、築50年以上の橋が35本(1919年築の石橋まである!)、76本が築30年以上の老朽橋で、全体の4分の3にあたる81本が阪神大震災規模の地震で損壊することが予想されるという。
 福島第一原発事故での双葉病院事件(前註※49参照)を教訓に、国が30㎞圏の医療機関や特別養護老人ホームなどに作成を求めた避難計画にしても、川内原発の10km圏内の対象施設はすべてこれを作成したが、30km圏内で作成した施設は1割程度。
 伊藤祐一郎・鹿児島県知事が「10㎞で十分。30㎞までは不可能」などと述べつつ、計画作りの対象範囲を独自に10㎞圏に限定した(10㎞以遠の施設は、事故後に風向きなどを考慮しながら県が避難先を調整する)のだという。
参照:
・Wikipedia「川内原子力発電所」【URL】https://bit.ly/2D8Bfi0
・朝日新聞「川内原発の避難路の橋、進む老朽化 大地震で8割損壊も」2015年7月31日(リンク切れ)
・東洋経済ONLINE「川内・伊方原発での避難は、福島よりも過酷だーー「原発避難計画の検証」の上岡直見氏が警告」2016年4月24日【URL】https://bit.ly/2QFzU4T
・日本聖公会・正義と平和委員会 原発問題プロジェクトHP「川内原発再稼働に対する問題点/1.避難計画の不備について」2015年9月4日【URL】https://bit.ly/2NorwbU

※54)日弁連のアンケート:
 日本弁護士連合会は2015年7月から9月にかけて、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県の37の市町村の首長に対するアンケートおよびヒアリング調査を実施。25の市町村から回答があり、2016年4月30日のシンポジウムで結果が公表されている。設問および回答結果は次の通り。
災害対策・災害対応について
(1)市町村の権限は強化すべきか軽減すべきか
・強化すべき:6自治体(25%)
・現状維持=災害対策基本法によって定められている現在の制度を変えるべきではないという意味で:17自治体(71%)
・軽減すべき:1自治体(4%)
(2)市町村と国の役割分担はどうすべきか
・市町村が主導して国が後方支援する:19自治体(79%)
・場合による:3自治体(13%)
・国が主導して市町村が補助する:1自治体(4%)
・未回答:1自治体(4%)
(3)憲法は障害になったか
・障害にならない:23自治体(96%)
・障害になった:1自治体(4%)
(「なった」の内容:ガレキの取り扱いなど、財産権について)
 なお、毎日新聞社も被災三県の市町村に対して同様のアンケートを実施。回答のあった37の自治体のうち、「災害時に緊急事態条項は必要か」の問いに「必要」としたのは1自治体だけだったといい、日弁連のアンケートと似たような結果が出ている。
参照:
・日本弁護士連合会「シンポジウム『大規模災害と法制度~災害関連法規の課題、憲法の緊急事態条項~ 2016年4月30日』記録集」【URL(pdf)】https://bit.ly/2Ng8Vid
・毎日新聞「緊急事態条項 被災3県で『必要』1町」2016年4月30日【URL】https://bit.ly/2OtSb3P

※55)熊本地震における政府対応のまずさ:
 熊本地震とは、2016年4月14日21時26分に熊本県中央部で発生したマグニチュード6.5の地震に始まる一連の地震。
 本震は28時間後の16日1時25分にはマグニチュード7.3の地震で、益城町の震度7を始め、熊本県中部から大分県かけて震度6以上の激震となった。
 熊本城や阿蘇神社など多数の建築物が倒壊したほか、山間部では斜面崩落により阿蘇大橋が落橋するなど土砂災害が多数発生。死者267人、負傷者約2800人、最大避難者18万人超を出す大災害となった。
 この熊本地震はまた、災害対策を喧伝しながら改憲を推し進めようとする安倍政権がいかに災害の現場を分かっていないかを浮き彫りにした天災でもある。
 2014年2月の山梨豪雪の時は都内の高級料亭で天ぷら、同年8月の広島土砂災害では第一報を受けてもゴルフ続行など、被災者に対する無関心で激しい非難を浴びた安倍総理だが、熊本地震では14日の予震発生直後に記者会見に臨み(ただし、地震の報を受けた時は飲酒中だったらしく、報道陣の前に赤ら顔で姿を現した)、翌朝には河野太郎防災担当相と官邸で会談。屋外に避難している被災者のために同日中に屋内の避難場所を確保するよう指示した。
 被災地には松本副内閣相が入り、蒲島郁夫・熊本県知事と面会。「今日中に青空避難所というのは解消してくれ」と言いつつ、政府の指示を伝える。
 これに対し、蒲島知事は「避難所が足りなくてみなさんが屋外に出ているわけではない。余震が怖くて部屋の中にいられないから出ているのだ。現場の気持ちがわかっていない」と答えつつ、政府に対する不信感を露わにしたほか、益城体育館の副館長は目視で天井崩落の危険性を察知し、同体育館内への被災者避難を拒否したのは、永井氏も述べている通りである。
 ところが、政府の指示どおりにNHKが天候悪化や夜間の気温低下を理由に「屋内待避」を呼びかけ続けたため、屋外の避難先から自宅に戻った被災者が続出。16日深夜の本震で、倒壊した家屋の下敷きになったり家ごと土砂崩れに巻き込まれたりして12人(同地震における熊本県内の死者の4分の1に当たる)が亡くなるという大惨事となったのである。
 その他にも、14日の予震の時点で「激甚災害の早期指定」を求める蒲島知事の要請を無視する、自衛隊の大量派遣の要請に対しても当初2000人しか出さない、さらには、被災地入りした松本副内閣相が「こんな食事(差し出された配給のおにぎり)じゃ戦はできない」「物資は十分持ってきているので足りている。被災者に行き届かないのは、あんたら(地元の自治体職員)の責任だ。政府に文句を言うな!」と怒鳴り散らすなど、政府は数々の心無い振る舞いにおよび、国民の不信感をいっそう深める結果となった。
参照:
・Wikipedia「熊本地震(2016年)」【URL】https://bit.ly/2hR7Wpp
・産経ニュース「【熊本震度7】安倍首相、今日中に屋内避難場所の確保を指示」2016年4月15日【URL】https://bit.ly/2puua1J
・毎日新聞「熊本地震 知事『現場分かってない』…『屋内避難』に反発」2016年4月15日【URL】https://bit.ly/1SR2Gbr
・早川由紀夫氏 @HayakawaYukio氏の2016-04-16 17:35:28のツイート
・NHKニュース「死者の4分の1 いったん避難も自宅に戻り死亡 」2016年5月1日(リンク切れ)
・ライブドアニュース「安倍官邸が最初の地震の後、熊本県の支援要請を拒否! 菅官房長官は震災を『改憲』に政治利用する発言」2016年4月16日【URL】https://bit.ly/2PWhrQh
・LITERA「松本文明副大臣が熊本の職員にも自分の食事が足りないと無理難題!『政府に文句言うな』暴言も… 安倍’子飼い’議員の典型」2016年4月21日【URL】https://bit.ly/2QNy3Ls

(後編につづく)

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