【特別掲載】女優の松田美由紀さんが永井幸寿弁護士に訊く!~テレビがまったく報じない「緊急事態条項」って何? どんなふうに「緊急事態条項」は危ないの? 2016.7.5

記事公開日:2016.7.5 テキスト
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(IWJ編集部)

 参院選の投開票日まで、残りわずかとなった。今回の参院選の最大の争点は、自公とおおさか維新、日本のこころなどの改憲勢力が、改憲の発議に必要な3分の2の議席を獲得するのを阻止できるかどうか、である。

 「緊急事態条項」が自民党改憲草案の通りに新規創設され、実際に「緊急事態宣言」が発動されれば、国会のもつ立法権も予算権も内閣が握り、内閣の権限が極端に強化され、同時に国民の基本的人権が停止されてしまい、ナチスと同様の手法で独裁権力が確立されてしまう。

 しかし、この最大の争点を、テレビや新聞をはじめとする大手既存メディアは、ほとんど報じていない。安倍政権は真の争点を隠そうとしている。安倍総理を筆頭に、自公の候補者はほとんど街頭の選挙演説で改憲についてまったくと言っていいほど触れない。

 既存大手メディアはその意向をくんで、改憲について論じるどころか、参院選そのものを取り上げようとしない。一般の国民の関心は高まらず、選挙の真の争点もテレビしか見ない層には浸透していない状況が続いている。報じることをサボタージュすることで、安倍政権をアシストしているようなもので、「情報統制」は半ば始まっているような状態である。

 この状況に強い危機感を覚えたのが、女優の松田美由紀さんだ。2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故をきっかけに、映画監督の岩井俊二氏や岩上安身とともに、環境問題やその時々の政治的課題を考える「ロックの会」をオーガナイズしてきた松田さんは、参院選の投開票日を直前に控えた7月1日、自身のTwitterで「緊急事態条項」に関するQ&Aを公開した。

 松田さんの質問に答えているのは、「緊急事態条項」の専門家である永井幸寿弁護士である。岩上安身のインタビューにも答えたこともある永井弁護士は、阪神大震災で自身も被災した経験を持つという、災害対策における法整備のプロフェッショナルである。

 6月18日に行われたロックの会で初めて永井弁護士と出会った松田さんは、緊急事態条項に関心をもち、自ら永井弁護士に質問を重ねてQ&Aを作り上げた。

 IWJでは、松田さんがTwitter上で公開した永井弁護士とのQ&Aを、ご本人の了解を得て掲載する。「誰でもわかる、やさしい緊急事態条項入門」とも言える内容となっているので、ぜひ、拡散していただきたい。

▲6月18日の「ロックの会」の様子

▲6月18日の「ロックの会」の様子

 永井先生は、なんとも優しそうな笑顔の持ち主。顔ってやっぱり信じられる。でも緊急事態条項の事になると、きっぱりとして発言する。そんな正義感のある方です。(松田美由紀)

松田美由紀さんが永井幸寿弁護士に聞く、「緊急事態条項」の危険性

Q.今度の選挙に行こうか迷っています。

A.今度の選挙は、日本国憲法が改正されるかどうかが決まる最も重要な選挙ですから行った方が良いですよ。

Q.憲法改正にかかわるのですか。そんなことテレビでも言ってませんけど。

A.与党は、憲法改正が争点になると票が減るのであえて争点にしていないのです。安倍総理大臣は憲法を改正すると繰り返し言っており、選挙の結果によっては,今年の秋から憲法審査会を国会に設けて憲法改正の手続きに入ります。

Q.憲法の9条を改正するのですか。

A.災害のために緊急事態条項を憲法に入れるという改正です。

Q.緊急事態条項って何ですか。

A.戦争、内乱、大規模な災害等のときに,国家を守るために,人権保障と権力分立を止めてしまう制度です。これは①国家を守るための制度であって国民の権利を守る制度ではないこと、②人権保障と権力分立を止めてしまうことに特徴があります。

Q.人権保障、権力分立って、何でしたっけ。

A.人権とは、人生まれながらに持っている、平等で自由で,人として尊重される権利です。幸福追求権や、表現の自由、財産権、生存権などがあります。

 この人権を保障するために国家(政府、国会、裁判所)が作られました。しかし,国家の権力が余り強くなるとかえって人権を侵害する危険があるのでわざと3つに分割して、国会、内閣、裁判所がお互いに邪魔し合う制度を作ったのです。これが権力分立です。緊急事態条項はこの人権保障と権力分立を止めてしまう制度です。

Q.緊急事態であれば、権力をくっつけた方が効率はよいのではないですか。

A.効率がよい面もありますが、人権保障と権力分立を止めてしまうので濫用の危険の方がはるかに高いのです。

 濫用の危険としては、政府は、①緊急事態ではないのに緊急事態だと言って使う、②緊急事態が去ったのに権力を離さない、③人権を過剰に制約するというものがあります。また、裁判所が遠慮して政府を抑制しなくなります。だから誰も政府が暴走しても止められません。

Q.何か具体的な例はありますか。

A.ナチスドイツの例があります。ドイツは第1次大戦に負けた後ワイマール憲法という理想的な憲法を作りました。ナチスはこれを使って、クーデターも革命も起こさずに合法的に独裁権を得てしまいました。

 国会が何者かに放火されたとき、反対政党の仕業だと言って、反対党員を逮捕拘束しました。そして、国会に登院できないようにして全権委任法を強行採決しました。全権委任法とは国会の立法権を政府に全部移してしまう制度です。これで独裁が確立して、600万人のユダヤ人を殺害したり、第2次世界大戦を起こしたりしたのです。

Q.日本国憲法には緊急事態条項はないのですか。

A.日本国憲法は,政府によって濫用される危険があることからあえて緊急事態条項を設けていません。その代わり緊急事態には法律等によってあらかじめ準備して対処するというスタンスを取っています。

Q.そういえば、「緊急事態条項がないのは日本だけだ」という意見を聞いたことがありました。そうであれば日本も設けるべきではないですか。

A.緊急事態条項が使われる典型的な場合は戦争の場合です。この場合に人権が制約されるとは,「お国のために国民が命を捧げる」ということです。戦争をすることと緊急事態条項はセットになっているのです。

 日本は憲法9条があるので自衛戦争以外の戦争は出来ません。緊急事態条項が無いのが日本だけなのは当たり前のことなのです。政府は,戦争のために緊急事態条項を設けると言えば反対が出るので,災害のために緊急事態条項を設けると言っているのです。

Q.でも,隣の国からミサイルが飛んできたときのためには,緊急事態条項は必要ではないですか。

A.大丈夫です。憲法9条は自衛のための戦争は認めています。これは安保法制が去年成立する前から認められていたことです。

 自衛権は、①相手が攻撃したこと、②他に取るべき手段がないこと、③必要最小限の反撃であることが要件です。従って、この①~③をみたす状況なら、相手の国のミサイルを打ち落とすことは出来ます。逆に、ミサイルが飛んで来る状況で権力を集中しても何が出来るのでしょう。

Q.では,大規模な災害があったら緊急事態条項は必要なのではありませんか。

A.先程,日本国憲法は,緊急事態条項は危険なので設けないが,緊急事態にはあらかじめ法律等で準備すると言いました。そして、災害に関する法律は完備されています。一定の範囲で政府に権力が集中し、人権の大幅な制約もされています。

Q.東日本大震災では政府に不手際があったと言われています。緊急事態条項は必要ではありませんか。

A.災害対策の原則は「準備してないことは出来ない」ということです。緊急事態条項は災害が発生した後に泥縄式に権力を集中する制度です。でも、どんな強力な権力も準備してないことは出来ません。

 例えば,東日本大震災では原発事故が起こり、避難する過程で50人の寝たきり高齢者が死亡する事件がありました。法律では,国や自治体は防災計画や防災訓練を事前にすることになっています。しかし、原発事故は起きないことになっていたので、事前の避難計画も訓練もなかったのでこのような事態になったのです。このように法律に従った準備がなかったことが原因なのです。

Qでは、テロのために緊急対条項が必要ではないですか。

A.テロは災害と違って,必ず起きることではありません。政府の政策によって,紛争があれば中立を保ち、また,両当事者の話し合いの場を設定する等の活動で回避することが出来ます。また、テロについても,国内の法律で充分に完備されており、一定の権力の集中や人権の制限が認められています。

Q.自民党はどのような緊急事態条項を考えていますか。

A.日本国憲法では国会が法律と予算を議決して、内閣が法律と予算を執行するという形で権力分立をしています。しかし、自民党の案では,緊急事態に内閣総理大臣が「緊急事態だ」と宣言すれば、内閣は法律と同じ効力のある政令を制定出来ます。

 また、内閣総理大臣だけで予算を決定出来るのです。だから、政府が法律議決権・予算議決権と、法律と予算の執行権の両方を持ってしまうのです。

Q.国会はこのような政令や予算に反対できないのですか。

A.反対しても,このような政令や予算は効力を失いません。つまり,国会の法律と予算の議決権が政府に移ってしまい、国会はコントロールが出来なくないのです。

Q.いつまでその様なことが出来るのですか。

A.自民党案には期限が書いてありません。国会が認めれば何時までもこのようなことが出来ます。つまり国会はなくなったも同じになります。

Q.そのような政令や予算でどのようなことが決められるのですか。

A.どんなことでも決めることは可能です。だから、緊急事態と関係のないことでも決められます。例えば内閣総理大臣が「熊本地震で緊急事態だ」と宣言すれば,去年成立した安保法制も内閣だけで決められるし、その法律で戦争をするための予算も内閣総理大臣だけで決められるのです。

Q.それってすごい権力ですね。

A.はい,憲法学者の木村草太さんは「内閣独裁条項」と言い,石川健治さんは緊急事態条項を設けることは「クーデター」であると言っています。

Q.どうなれば憲法改正が出来るのですか。

A.衆議院と参議院のおのおのの2/3の議員が発議して、国民投票で過半数が賛成した場合です。現在衆議院の2/3が自民党公明党議員なので、今回の参議院議員選挙で改選される121人中68人(56%)が、憲法改正に賛成する議員になれば衆議院、参議院が発議できます。後は国民投票になります。

Q.憲法改正は止まらないのでしょうか。

A.第1に、今度の参議院選挙で改憲に賛成する議員が2/3以上にならないように投票することです。また、第2に、万一2/3以上になったときは来年以降の国民投票で賛成の投票をしないことです。そうすれば止めることは可能です。

平成28年7月1日

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「【特別掲載】女優の松田美由紀さんが永井幸寿弁護士に訊く!~テレビがまったく報じない「緊急事態条項」って何? どんなふうに「緊急事態条項」は危ないの?」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    【特別掲載】女優の松田美由紀さんが永井幸寿弁護士に訊く!~テレビがまったく報じない「緊急事態条項」って何? どんなふうに「緊急事態条項」は危ないの? http://iwj.co.jp/wj/open/archives/314618 … @iwakamiyasumi
    後で悔やんでも遅い。「いま」声を上げないと手遅れに。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/846112858924470272

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