【第254-260号】岩上安身のIWJ特報!災害対応に「緊急事態条項」は不要! ~安倍政権の卑劣な「惨事便乗型全体主義」を警戒せよ! 永井幸寿弁護士インタビュー 2016.5.22

記事公開日:2016.6.27 テキスト独自
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(岩上安身)

◆ヤバすぎる緊急事態条項特集はこちら!
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 4月14日夜と16日未明に発生した熊本・大分大地震は、2週間以上が経過した今もなお、観測史上、例がないほど頻回の余震が続いている。震度1以上の地震は30日午後5時までに1087回にも上った。4月29日には、大分県中部を震源とする震度5強の地震も発生した。4月30日現在で、一連の地震による死者は49人にのぼり、今もなお3万7000人の人々が避難所での生活を余儀なくされている。

 この震災を受けて、政府が示した姿勢は、「愚劣」、もっとストレートに表現するなら、「卑劣」と言ってよいものであった。菅義偉官房長官は、最初の地震が発生した翌日である4月15日の会見の中で、安倍政権が改憲による創設を目指している「緊急事態条項」について、「極めて重く大切な課題だ」と述べたのである。

 しかも、菅氏のこの回答は、事前に用意された「八百長芝居」だった可能性が高い。

 ニコニコ動画の記者(七尾功氏)が「今回のように予想もしなかった大きな地震が発生したことを踏まえ、早急な緊急事態条項の検討の必要性について、どうお考えになりますか?」と質問した。

 これに対し、菅氏は手元のペーパーを読み上げ、「今回のような大規模災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るために国家国民自らがどのような役割を果たすべきかを、憲法にどのように位置付けていくかということについては、極めて重く、大切な課題であるというふうに思っています」と述べたのである。

 事前に記者から質問取りをしていなければ、こんなペーパーは用意できない。しかも地震発生を受けての緊急会見である。常日頃から「何か重大事が起きたら、記者の質問にあわせ、緊急事態宣言の必要性を匂わせよう」という合意と準備が、政府内で、なかんずく官邸でできていなければ、こんなにスムーズに原稿を用意できるはずがない。

 菅氏が緊急事態条項について「極めて重く大切な課題だ」と述べたことは、熊本・大分大地震という「惨事」を政治的に悪用し、国民にその中身を周知していない「緊急事態条項」の必要性をすり込んでゆく、悪質な「ドサクサ・ドクトリン」とでも呼ぶべき手法である。これは決して見過ごすことはできない。

 私およびIWJでは、これまで、自民党改憲草案第98・99条に規定された緊急事態条項を創設することは、「ナチスの手口」に他ならないということを、繰り返し報じ、論じ、主張してきた。

 改憲によって緊急事態条項が創設され、時の内閣によって緊急事態が発令されると、生存権も財産権も含めて、あらゆる国民の基本的人権は停止され、内閣が法律に代わる政令を自由に出し、予算措置も行うことができるようになり、地方自治はなくなり、あらゆる国民が国家権力に従属しなくてはならないと、憲法に書き込まれてしまうのである。

 事実、ナチス・ドイツは、1933年2月27日に発生した国会議事堂放火事件をきっかけとしてワイマール憲法に書き込まれてしまっていた国家緊急権を発動させ、ヒンデンブルク大統領に緊急事態宣言を発令させ、共産党員ら反ナチス派をプロイセン州だけで5000人も逮捕した。そのことで反ナチスの勢力は潰え、約1ヶ月後の3月23日にはヒトラーに全権を与える全権委任法(授権法)が成立。ナチスによる独裁体制が確立されることになった。

 今月、「岩上安身のIWJ特報!」としてお届けするのは、2015年12月19日に行われた、永井幸寿弁護士へのインタビューのフルテキストである。永井氏は、最も早く、この緊急事態条項の危険性を見抜き、発言してきた人物である。阪神・淡路大震災の際にはご自身も被災し、被災者支援法の成立に尽力し、東日本大震災の際にも被災者支援にかかわった立場から、「大災害の発生時において、必要なのはむしろ現場に最も近い市町村への権限の移譲。災害時に国家緊急権の発動は必要ないばかりか、危険である」と主張。その理由について、私に詳細に語った。

 改憲をかけて「天下分け目の戦い」となる夏の参院選を目前に控え、大げさでなく、全国民、全有権者必読のインタビューである。ぜひ、全編をお読みいただきたい。

記事目次

「緊急事態条項」の危険性を説き、対談で小林節・慶應義塾大学名誉教授を“説得”した永井幸寿弁護士が登場~「国家緊急権」の危険性、ナチスは緊急事態宣言によって独裁権力を手にした!

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▲永井幸寿弁護士

岩上安身「みなさんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は、『饗宴VI(※1)』の前日にあたるんですけれども、今回、『饗宴』でメインテーマにしている国家緊急権について、本編よりもより濃厚にとことんお話をうかがおうではないかということで、前日にもかかわらず、たっぷりお時間をいただきました。ご登場いただきますのは、日弁連(※2)災害復興支援委員会前委員長の永井幸寿先生。弁護士の方です。永井先生、よろしくお願いいたします」

永井幸寿氏(以下、敬称略)「よろしくお願いします」

岩上「永井先生は、IWJを実は全然ご存知なかったと」

永井「昨日まで知りませんでした。すいません、申し訳ない」

岩上「ありがとうございます。知らないままIWJにご登場いただいております(笑)」

永井「はい、すいません」

岩上「知らないまま、明日、『饗宴』にもご登場いただきます(笑)。『饗宴』とはどういうものか、どういうふうにしゃべるか、という打ち合わせを、先ほどさせていただいていたような次第です。先生ご自身でいわく、ちょっと世間には疎くなっているらしいんですけど。どうしてそんなに疎くなられたのかといえば、災害問題に取り組んで20年ということなんですよね?」

永井「そうですね。阪神淡路大震災(※4)で、事務所が全壊しまして、それ以降です」

岩上「先生、どこに事務所があったんですか?」

永井「神戸です」

岩上「神戸。じゃあ、被害はものすごかったでしょうね」

永井「もっとひどい被害にあった方はいっぱいいましたけどね」

岩上「直後に僕も現場に取材に入りました」

永井「そうですか」

岩上「三ノ宮の交差点とか、もうビルがぐちゃぐちゃになっていました。電車で大阪から神戸に近づくにつれ、だんだんだんだん倒壊している家が増えていく」

永井「はい。そのとおりです」

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▲灘区国道43号線岩屋交差点周辺(1995年1月17日)ウィキメディア・コモンズより

岩上「すごかったですね。本当にあの時、この世のものとは思えない光景だと思いましたが、そのあと、東日本大震災(※4)で、もっとこの世のものと思えない、本当にあり得ない光景を目にすることになりました。民家の上に船がのっかっている(※5)なんていう、そういう信じがたい光景もありました。先生はその東日本大震災の時にも現地で復興支援をなさったと」

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▲民宿の上に乗った遊覧船「はまゆり」――岩手県大槌町

永井「日弁連の災害復興支援委員会の委員長をやっていまして、それで日弁連の災害対策本部では、副本部長をやっていました。日弁連会長が本部長だったのですが、私は副本部長という立場でした。あの時はバタバタしておりました」

岩上「大変な思いをされていたんですね」

永井「日弁連だと、被災者支援法をだいたい12,3本作ったり(※6)だとか、4万件の法律相談(※7)をやったりだとか、ADR(※8)をやったりだとか、いろんな支援を行いました」

岩上「ADRってなんですか?」

永井「裁判外の紛争解決手続き。だから、調停みたいなもので」

岩上「ゆっくりやっていられないから」

永井「そうそう」

岩上「もうどんどん解決していかないと」

永井「そうです。原発の賠償のため、あるいは二重ローン解決のためのADRをつくったり。そんなことですね」

岩上「大変ですよね。被災している人、住宅ローンがまだ残っている家を失い、新たに家を買うと、ローンを二つ抱えることになっちゃう。もう一回、住居を持とうとすると、前の倒壊してしまった家とかマンションのローンの残債が残っている。これが、棒引きにならないんですよね」

永井「そうです。ならないんです」

岩上「本当に多くの人が苦しみましたよね。阪神淡路大震災で。神戸などは、一見すると、建物とかはきれいになりました。だけれども、そういう目に見えない問題が何年も何年も人を苦しめる。

 そこへきて東日本大震災。今度は地震だけでなく、津波も。阪神淡路大震災の時には、津波はなく、人を苦しめていたのは、地震と火災だったと思うのですが、東日本大震災では地震、火災に加えて津波、そして原発と」

永井「そうですね」

岩上「これでは何年経っても、元の姿に戻れない。元の暮らしに戻れないという人たちがたくさん出て、今も続いているわけですよね」

永井「そうです」

岩上「本当にこういう状態の中、20年間ずーっとその被災地の人たちの苦しみに向き合っていれば、ちょっと世間については疎くなって、IWJなんて知らないとか、岩上安身って誰? ということになるのは本当に仕方がないことだと思います。

 ですが、先生、ずっと僕ら、被災地のことを報じ続けてきました(※9)。これからお見知りおきいただければと思います」

永井「はい。ありがとうございます」

岩上「永井先生は災害のことだけにお詳しいのではなく、この国家緊急権についても大変お詳しい。国家緊急権(※10)とはなんぞやっていうことから、今日はお話をしていただくんですけれども。この問題が大変重大な問題である。少なくともこれから7ヵ月間、来年2016年夏の参院選、もしかしたら、衆参ダブルになるかもしれませんが(※11)、その時に、この問題が最大のイシューになるだろうと私は思っており、この問題について語れる論客はいないかと、実はここしばらく、あちこちを探していたんです。そうしたらいらっしゃいました、永井先生です。

 永井先生は小林節(※12)先生との公開討論を行い、IWJではこれも中継しました。申し訳ないですけれども、永井先生がちょっと可愛らしい感じに見えました。小林先生はやっぱりちょっと圧倒的な迫力を持った――こう言っちゃあ悪いですが、ダースベイダー然としている感じで、圧倒的に強そうに見えるんです。

 その小林先生が国家緊急権を必要だと言って、永井先生が、いや必要じゃないと真っ向から反論する。二人が公開の場でディベート、討論をし、一時間半経ったら、永井先生の言い分を小林節先生が全面的に受け入れて、『私は考えを改めた。国家緊急権は必要ない。特に今の権力に渡してはならない』と。こう小林先生がおっしゃった。

 普通ディベートなんかやると、何が何でも自説を、牽強付会(※13)でもなんでも押し通す、我を通す。それで平行線で終わる。だいたい『朝まで生テレビ(※14)』なんてそうですよね。だいたいギャーギャー言って終わっちゃう。

 しかし先日のお二人の討論は、すごく実があり、かつ理路整然としていて、転向と言うか、改心と言うか、そうしたドラマを小林先生が演じた――「演じた」というと言葉はちょっとおかしいと思いますが、見せてくださったわけですね。これには、ちょっと感動しました」

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▲慶應義塾大学名誉教授・小林節氏

永井「やっぱり、小林先生、潔いというか、理屈がきちんと通っていれば、理解してくださる。公の場で、どこの馬の骨か分からない永井の話をちゃんと聞いてくださって、私も感動しました。あんなことって起きるんですね」

岩上「小林先生は本気で現在の政権の危険性というものを感じている人です。そうすると、『ちょっと待てよ』と。国家緊急権は必要だと、自分は考えてきたけれども、しかしそれは間違っていたんじゃないか、と。こういうふうに思い至るその道筋も、ご自身で口にしていました。とても分かりやすかったし、あの模様をIWJは全部中継して、しかも今ずっとフルオープンにしています(※15)」

永井「そうですか」

岩上「みなさんもぜひご覧になってください。永井先生が小林節先生を折伏している。そういうビデオなんですけども、これを見て、永井先生にお話をうかがわなければならないなと思いました。それでインタビューの申し込みをしたのですが、私、体調を崩したりなんかして、延期したりしまして、結局、饗宴の前日に実現したわけです。饗宴にご登壇いただけることにもなりまして、本当にありがとうございます。

 なんと、昨日そのワイシャツを買ったそうですね。糊が効いてて、いい感じですが。どなたかにワイシャツとネクタイぐらい買えって言われて、昨日買ったって聞いたんですけれども」

永井「今日、映像に出るって知らなかったもんですから」

岩上「知らなかった(笑)。周りの人に『IWJに出る』と言ったんですよね?」

永井「はい。それで災害復興支援委員会の副委員長にコンビニに連れていかれて、それでこれを」

岩上「災害復興支援委員会の副委員長というのは、弁護士の先生ですか?」

永井「はい。女性の弁護士さん」

岩上「若い人たちはIWJを知っていたんですか?」

永井「みなさんご存知でした」

岩上「そうですか。みなさんありがとうございます」

永井「失礼いたしました」

岩上「その女性の若い弁護士さんたちがIWJを知っていたおかげで、くたくたのワイシャツでなく、パリッとしたワイシャツで今日お越し願えたわけですね。ネクタイもなんか新しく買われたとか」

永井「私の還暦祝いです。災害復興支援委員会の副委員長の女性二人と、あとはお医者さん。被災者の支援をやっている三人の方が」

岩上「お医者さんとは、青木正美(※16)先生ですか?」

永井「青木先生です」

岩上「青木先生には、IWJのサポート会員になってもらっているんです。私も患者としてお世話になっておりますが。青木先生がネクタイのプレゼントですか。そうですか。素晴らしい。ということで、本当に皆さまのサポートのおかげで、永井先生、今日バシッとしたお姿でおいでいただいて何よりです」

永井「ありがとうございます」

岩上「みなさんにも絶対に明日の『饗宴Ⅵ』を見に来ていただきたいんですが、ご登壇いただく第二部では、まさに国家緊急権の問題や立憲主義とか憲法について語るわけです。そこで最初にご登場いただこうと思っているのが、一人一票裁判、憲法の一票の格差問題の件で裁判を起こしていらっしゃる升永英俊(※17)先生です。全国で裁判起こしていますけど、そのリーダー格ですよね。升永先生も二ヵ月前まで、『国家緊急権、別にいいんじゃないの?』ぐらいで、『そんなに危ないもんじゃないだろう』と思っていたとか。

 升永先生はナチス・ドイツの、授権法、全権委任法(※18)とも言われますが、この法律を通してナチスは独裁を確立したんだと思っていたと、昔からの知識で思っていたそうです。それが違うと。なんと、緊急事態宣言によって、独裁権力を手にした(※19)んだと気づいて、これは大変だということで、また自費で新聞広告をお出しになって(※20)、そういうふうに何人かの方々は危機感に火がついている。ここにもこの問題の大変さをご理解された方がいる。

 それで明日は、升永先生にまずご登場いただきます。そしてそのあと、永井先生にご登場いただき解説していただこうと思っています。ほかにも何人かいらっしゃいますが、同じパートの中でSEALDs(※21)の奥田愛基(※22)さんも来る予定になっております。奥田君は若い人たちを率いているわけですが、若い人たちだけではなく老若男女の市民運動にも大きな影響とかリーダーシップを発揮している。そういう人にもお話を聞いてもらいたいなと思います」

永井「はい、そうですね」

岩上「また奥田さんがどう考えたかについてもお話いただこうと思っております。そんな構成になりますので、明日の『饗宴Ⅵ』にはみなさん、ぜひいらしていただければなと思います」。


(※1)饗宴VI:2015年12月20日、IWJは品川のTHE GRAND HALLにおいて「『国民』非常事態宣言! 露わになった『ナチスの手口』/国家緊急権を阻止せよ!」と題したシンポジウムを開催した。

 テーマ1「米国の経済覇権の終わり?~AIIBの衝撃とTPP『砲艦外交』の正体」には、PARC事務局長の内田聖子氏、岩月浩二弁護士、政治経済学者の植草一秀氏、国際情勢解説者の田中宇氏、中央大学名誉教授の富岡幸雄氏、横浜市立大学名誉教授の矢吹晋氏が登壇。

 テーマ2「違憲の『戦争法』強行可決から『明文改憲』による緊急事態条項導入へ~属国のファシズムを阻み、立憲民主主義を救い出せるか」には、学習院大・青井未帆教授、元宜野湾市長の伊波洋一氏、水上貴央弁護士、SEALDs奥田愛基氏、永井幸寿弁護士、升永英俊弁護士。

 テーマ3の「『戦争』の過去・現在・未来~安倍政権の目指す『戦争遂行国家化』その帰結は!?」では、ジャーナリストの志葉玲氏、元陸上自衛隊レンジャー部隊所属の井筒高雄氏、元内閣官房副長官補の柳澤協二氏、元外務省国際情報局長の孫崎享氏が登壇した。

 IWJでは現在、この「饗宴VI」の模様を収録したオリジナルDVDを発売中である(ご購入はこちらから【URL】https://iwj.co.jp/ec/products/list.php?category_id=25)。

(※2)日弁連:日本弁護士連合会の略。1949年(昭和24年)、弁護士法第45条から第50条に基づき設立。日本では弁護士・外国事務弁護士として活動する場合、事務所を置く地域の弁護士会を通じて日弁連への登録が義務付けられている。

 弁護士等は弁護士法22条に基づき、日弁連の定めた会則に従わなければならない。日弁連は、弁護士・弁護士法人・弁護士会の指導・連絡・監督・弁護士会への入会資格審査・懲戒に関する事務を扱うほか、さまざまな社会制度の整備に関する活動も行っている。死刑廃止、君が代斉唱時の不起立の自由のほか、安保関連法に対する抗議活動なども行っている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Xp3Vmf)。

(※3)阪神淡路大震災:1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震による大規模地震災害。淡路島北部沖の明石海峡を震源とし、M7.3の兵庫県南部地震が発生。近畿圏の広域(兵庫県を中心に、大阪府、京都府も)が甚大な被害を受けた。

特に震源に近い神戸市市街地の被害は凄まじく、世界中に衝撃を与えた。戦後に発生した地震災害としては、その後に発災した東日本大震災に次ぐ規模である。死者 : 6,434名、行方不明者 : 3名、負傷者 : 43,792名(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1KkKYtG)。

(※4)東日本大震災:2011年(平成23年)3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波、およびその後の余震により引き起こされた大規模地震災害。

 地震の規模はM9.0で、発生時点において日本周辺における観測史上最大の地震であり、さらにこの地震により巨大な津波が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。また、巨大津波以外にも、地震の揺れや液状化現象、地盤沈下、ダムの決壊などにより、各種インフラ、ライフラインが寸断された。

 そして特筆しておかなければならないことは、この地震と津波により福島第一原子力発電所事故が発生したことである。震災による死者・行方不明者は18,455人(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Rap7gh)。

(※5)民宿の上に船がのっかっている:岩手県大槌町で、遊覧船「はまゆり」が大津波によって建物の上に打ち上げられ、人々に衝撃を与えた。震災後、約2か月民宿のうえに乗ったままだったが、のちに撤去された(参考:Youtube ANNnewsCH【URL】http://bit.ly/1Ynh6nL)。

(※6)被災者支援法をだいたい12,3本作ったり:阪神淡路大震災で日弁連は震災関連立法を目指したが、成立しなかった。一方、東日本大震災では、各種立法の成立を実現している。

リンク先の日弁連のWEBサイトでは、東日本震災後の活動についてまとめた永井氏の文章がPDFで公開されている(参考:日本弁護士連合会【URL】http://bit.ly/240rG83)。

(※7)4万件の法律相談:日弁連では震災直後から各地で無料の面談及び電話法律相談を実施し、相談情報を集約・分析。東日本大震災無料法律相談情報分析結果として取りまとめる作業を行った。

2012年10月公表の第5次分析では、相談情報は約4万件に上り、日弁連では前記分析結果から1000件を選び出し、具体的な相談内容を記した「東日本大震災無料法律相談事例集」を発行した。事例集の基本的な内容に関するQ&Aは現在、日本弁護士連合会ホームページでPDFファイルとして配布されている(参考:日本弁護士連合会【URL】http://bit.ly/20sl681)。

(※8)ADR:インタビューでも語られているように、裁判外紛争解決手続のこと。一般にAlternative Dispute Resolutionの略称とされているが、「Alternative」ではなく「Appropriate」の略とする考え方もある(参考:独立行政法人国民生活センター【URL】http://bit.ly/1Q1NtCs)。

(※9)被災地のことを報じ続けてきた:IWJは、2011年3月の地震発生後から、東日本大震災について報道し続けている。発生後の現地の様子や、被災地の政治家へインタビューするなど、独自取材を敢行。東京電力や原子力安全・保安院(現・原子力規制委員会)による記者会見の中継の他、汚染ガレキなどの災害廃棄物処理問題、被災者の生活再建問題などに関連した各種シンポジウム・講演などについて取り上げてきた。直近では、2016年3月11日(金)、東京都千代田区の憲政記念館で行われた、 第五回 三月十一日 東日本大震災「祈りの日」式典も中継・配信した。

(※10)国家緊急権:戦争や災害など国家の平和と独立を脅かす緊急事態に際して、政府が平常の統治秩序では対応できないと判断した際に、憲法秩序を一時停止し、一部の機関に大幅な権限を与えたり、人権保護規定を停止するなどの非常措置をとることによって秩序の回復を図る権限のこと。

 国家緊急権の類型は、いくつかの分類があり、各国の法によって、規定などが異なる。日本国憲法においては国家緊急権に関する規定は存在しないとする見方が多数とされている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1NAJRGC)。

(※11)2016年夏の参院選、もしかしたら、衆参ダブルになるかもしれない:衆院選挙制度改革をめぐっては、安倍晋三首相が定数削減を含む公職選挙法改正案を、6月1日の今国会会期末までに成立させようと動いており、7月10日投開票が有力な参院選に合わせて、衆院選も行う「衆参同日選」の可能性が現実味を帯びている(産経ニュース、2016年2月24日【URL】http://www.sankei.com/politics/news/160223/plt1602230071-n1.html)。他方、大接戦を展開した4月24日投開票の北海道5区補選以後、衆参ダブル選挙は行わない、という情報が流されている(日テレニュース、2016年4月29日【URL】http://bit.ly/24ccSqm)。

(※12)小林節:法学者、弁護士。専門は憲法学。慶應義塾大学名誉教授。2015年10月21日、東京・千代田区の霞ヶ関コモンゲート西館にて、被災者支援に携わる有志弁護士の会が主催する『災害対策を理由とする【憲法改正】についての報道及び関係者向け意見交換会 ~緊急事態条項「国家緊急権」の創設は必要か~』が行なわれ、永井氏と小林氏はゲストに招かれ、熱い議論を繰り広げた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1kqswcX)。

(※13)牽強付会:道理に合わないことを、自分に都合のよいように無理にこじつけること(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/1USWoy7)。

(※14)朝まで生テレビ:1987年(昭和62年)に開始したテレビ朝日系列(ANN系列)で放送されている討論番組。略称は『朝生』。司会は田原総一朗が務めている。

主たるテーマは政治、アメリカ、天皇、皇室、各種タブー、女性差別、朝鮮問題、原子力発電、部落差別、右翼、左翼、核兵器、経済、宗教、若者、戦後補償、安全保障、教育、援助交際、プロ野球、テレビ、メディア規制、憲法、年金、IT、中国、イラク、地方自治など(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qgRq0Y)。

(※15)今ずっとフルオープンにしています:いったんは会員限定となったが、2016年4月現在、記事・映像の完全版は、IWJ会員のみ閲覧・視聴可能な状態に変更されている。震災を受け、期間限定。

(※16)青木正美:青木クリニック院長、関西学院大学災害復興制度研究所客員研究員。阪神淡路大震災時には、発災三日目から神戸市役所を拠点に二週間活動。東日本大震災でも、原発事故被災者の健康を守る提言を執筆した。ロックの会にも登壇している(参考:全日本民医連【URL】http://bit.ly/1qH04GQ)(参考:青木正美Twitterアカウント【URL】http://bit.ly/1TKmHVU)(参考:青木クリニック【URL】http://bit.ly/1qgTS7J

(※17)升永英俊:弁護士(第一東京弁護士会)・弁理士。米国のコロンビア特別区及びニューヨーク州弁護士。

「一人一票実現国民会議」を立ち上げ、いわゆる「一票の格差」問題の啓蒙活動を行うとともに、自ら多くの違憲訴訟を提起している。

この運動組織には、升永氏のほか、元内閣官房・知的財産戦略推進事務局長である荒井寿光、株式会社角川グループホールディングス会長の角川歴彦、オリックス株式会社グループCEOである宮内義彦など、そうそうたるメンバーが顔を揃えている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1MnXVtg)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1SqdEUV)。

 岩上安身は、2012年12月21日と2016年1月11日の2回にわたり、升永弁護士への単独インタビューを行っている。

(※18)授権法、全権委任法:全権委任法は、ドイツにおいて1933年3月23日に制定された法律で、アドルフ・ヒトラー首相が率いる政府に、ワイマール憲法に拘束されない無制限の立法権を授権したもの。この法律によって、国家社会主義ドイツ労働者党がすでに手中にしていた権力に一応の合法性が与えられることとなった。

法律の正式名称は「民族および国家の危難を除去するための法律」。この法律は授権法と呼ばれる、立法府が行政府に立法権を含む一定の権利を認める法律の一種で、ドイツ語および英語では、他の授権法と用語上の区別がなされていない。このため日本語においても単に「授権法」と呼ばれることがある(NETIB-NEWS、2015年11月13日【URL】http://bit.ly/22tVolT)。

(※19)緊急事態宣言によって、独裁権力を手にした:1933年2月28日、ドイツ、『緊急事態宣言』が出ると、わずか数日中に、プロイセン州だけで約5000人が司法手続きなしで逮捕・予防禁され、行方不明になった。1932年11月6日に行われた選挙では、66.9%の有権者がナチス以外の政党に投票していたにも関わらず、『緊急事態宣言』後の1933年11月12日の総選挙(投票率95%)では、ナチスを支持する票が、全体の92%になっていた。司法手続きなしの、逮捕・予防拘禁・その後の行方不明を知って、恐怖心と無力感と諦観から、ナチスを支持したと考えられる(NETIB-NEWS、2015年11月13日【URL】http://bit.ly/22tVolT)。

(※20)自費で新聞広告をお出しになって:2015年10月、升永氏は新聞各社に麻生太郎の「ナチスの手口に学んだらどうか」発言を取り上げ、自民党憲法改正草案の「緊急事態宣言」条項の危険性を訴える意見広告を掲載した。【URL】http://iwj.co.jp/feature/symposion6/masunaga.html

(※21)SEALDs:日本の学生団体、Students Emergency Action for Liberal Democracy – s(自由と民主主義のための学生緊急行動)の略称。2015年5月3日、安倍首相の政権運営や憲法観に対して危機感を覚えた学生らがSASPL(Students Against Secret Protection Law:特定秘密保護法に反対する学生有志の会)の後続団体という形で発足させた。

 平和安全法制(安全保障関連法・安保法制、戦争法・戦争法案)に反対する国会前での抗議デモなどを行い、注目された(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1hOriH3)。

(※22)奥田愛基:大学院生で日本の市民活動家。平和安全法制(安保法制)に反対する「自由と民主主義のための学生緊急行動」(シールズ:以下「SEALDs」)の創設メンバー。

 2015年9月15日、平和安全法制を審議する参院特別委員会の中央公聴会で、意見を表明する公述人として、奥田氏は大学の法学の名誉教授や元最高裁判所判事などと並んで意見を陳述した。

 2015年12月1日、奥田は政党への政策提言などを行う一般社団法人「ReDEMOS -市民のためのシンクタンク-」を設立し、代表理事に就任している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1RMOB2u)。

<ここから特別公開中>

環境権・財政条項などと並んで、改憲のプログラムに「緊急事態条項」創設を紛れ込ませてきた安倍政権~2015年11月10日には、安倍総理自らが国会で参院選後に導入を図ると明言!

岩上「ご紹介が長くなりましたが、お話を進めてまいりたいと思います。国家緊急権導入の動きに関して、これはどんな感じでスタートしていったのか、というところからお話を願えたらと思います」

永井「はい。与党の自民党が、憲法9条(※23)を改正しようということをまずやろうとしたんですが、なかなかうまくいかなかった」

岩上「ストレートに言うと反対派のほうが多いですから(※24)ね」

永井「そうです」

岩上「平和主義は捨てたくないと多くの国民はそう思っている」

永井「そこで二段階方式を取って、まず日本国憲法第96条(※25)の改正規定を緩和してから9条を改正しようとしたのですが、『それは裏口入学だ』と、小林節さんなどに言われて、それでこれもちょっと難しいと。次は三段階方式を取って」

岩上「今日やっていることですよね」

永井「そうです。いま進行中です。まず解釈改憲をやり、明文で違う条項を変えて、そのあと9条を改正しようとしている。解釈改憲、閣議決定とか、法律を制定してしまうとか、典型的には安保法制ですね。あの法案の制定過程で解釈改憲をやっちゃって」

岩上「去年、2014年の7月1日の閣議決定(※26)でしたね」

永井「そうですね。そのあと、明文改憲(※27)ですね。これは同意できることから改正しようということで、環境権(※28)、あるいは財政条項(※29)とか、緊急事態条項、国家緊急権、その三つが候補だったんですが、去年、衆議院議員がヨーロッパに視察に行ったところ、環境権を憲法に入れると濫訴が増えるということで、まだ東日本大震災の記憶がある間に緊急事態条項を入れちゃおう、災害を理由にして、という方向でいま収斂してきている(※30)わけなんですね」

岩上「しかもこの緊急事態条項というのは、一枚目のカードと言いながら、実はこれを切ったが最後、最初にして最終的なところまで無制限の権力が手に入る。つまりジョーカーみたいなカードであると」

永井「そうですね。最初はお試し改憲ということで、国民を憲法改正に慣らしてという意味だったんですが、実はこの緊急事態条項自体がむちゃくちゃ大変な、危険な条項だったということです」

岩上「昔の自民党はともかくとして、本当に今の自民党って何なんですかね。ものすごい天才的な詐欺師の集団みたいになっていますよね。ぼったくりバーみたいな。『お試し価格でちょっとだけ』などと言いながら、そこに入ったが最後、全部すっからかんにされるという。本当にものすごい政治的詐欺集団ですよ。そう思いませんか。こういうことを言えるのも今のうちですよ」

永井「はい。それまで安倍総理大臣自身は、緊急事態条項を入れると言っていなかったんですが、ついにこの間、11月10日、11日の予算委員会で、安倍総理大臣が明言した(※31)。もうこれは改憲の方向に乗ってしまったということなんですね」

岩上「先生、一言いいですか。これまさに、安倍首相の発言が、いよいよここで発話されたというか、発言があったと世間では受け取られていますよね。実は違うんですよね。実は違う。9月24日 、自民党の党大会に代わる両議院総会が開かれ、ほぼ無投票で総裁に再選(※32)されました。あの後、自民党の本部で記者会見があった(※33)のですが、その記者会見には、記者クラブの記者しか入れなかった。我々は入れない。オープンにしてない。自民党はオープンだというのは全くのウソです。自民党は未だに閉鎖的で、記者クラブの人間しか入れていない。そこでものすごいなれ合いになっている。

 その時の記者会見のことはもちろん出ています。産経の記者が質問していますが、彼らはもちろん憲法改正についての質問がしたい、憲法改正を支持しているし、憲法改正にOKという読者しかいない新聞ですから。ここで明文改憲をやると言っている。産経には詳しく載っているのですが、朝日、読売、その他の新聞は一行ぐらい、あるいはまったく載せていない」

永井「そうだったんですか」

岩上「だから、24日から11月10日(※34)までの約1ヵ月半、そのことが問題にならず、1ヵ月半、野党あるいは反対の市民運動や知識人もみな含め、空費してしまった。この時に、実は9月24日に、書いてないじゃないかと言って、僕ら大騒ぎして、また世論操作していると。

 産経は自分たちの読者層、右翼ばかりが見ているわけですから、そこはいいとしても、他の新聞、特に読売とか朝日もろくに書かないというのは、これは重大なサボタージュ、事態の重要さを分かっていながら、あるいは分かってないのかもしれないですけど。

 読売、朝日も本当にぼんくら新聞の極みの可能性が大いにある。そのぼんくらどものおかげで、我々は1ヵ月半空費してしまったんですよ。というような状態。政治家にも危機感が足りていません。

 だからいま国民にとっての非常事態。『国民緊急事態宣言』をしないといけないぐらいの状態だろうと思うんです。大マスコミによって弛緩した状態です。気が緩んだ状態が意図的にか反意図的にか、あるいは未必の故意かで作り出されているということは申し上げておきたいのです。もちろんNHKも含めて、ということですね。では次にいきたいと思います」


(※23)憲法9条:日本国憲法の条文の一つであり、憲法前文とともに「三大原則の1つ」である平和主義を規定している。この条文だけで憲法の第2章(「戦争の放棄」)を構成。この条文は憲法第9条第1項の内容である「戦争の放棄」、憲法第9条第2項前段の内容である「戦力の不保持」、憲法第9条第2項後段の内容である「交戦権の否認」の3つの規範的要素から構成されている。条文の日本国政府見解に拠れば、自衛隊は憲法第9条第2項にいう「戦力」には当たらない(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1UI8Iwp)。

(※24)反対派のほうが多いですから:2015年4月末から5月上旬にいわゆる4大メディアと日本経済新聞の行った世論調査では、憲法9条改正に賛成の国民は朝日新聞29%、毎日新聞27%など、反対派が賛成派の数を大きく上回っている。憲法自体の改正について賛成なの層についても、読売新聞で51%、毎日新聞で45%、朝日新聞で43%、日経新聞で42%、産経新聞で40.8%と読売新聞の調査以外では過半数を切っている(朝日新聞、2015年5月1日【URL】http://bit.ly/1WqNFze)(読売新聞、2015年3月22日【URL】http://bit.ly/1GH8d2t)(毎日新聞、2015年5月4日【URL】http://bit.ly/1r1AV9H)(産経ニュース2015年4月27日【URL】http://bit.ly/1NCSkKE)(日本経済新聞、2015年5月3日【URL】http://bit.ly/1NCSkKE)。

(※25)日本国憲法第96条:日本国憲法第9章「改正」にある唯一の条文で、日本国における憲法の改正手続について規定したもの。憲法の改正は、各議院とも総議員の3分の2以上の賛成が必要であり、国会が改正を発議し、国民に提案してその承認を経なければならないとするもの(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1SmL6hG)。

(※26)2014年7月1日の閣議決定:第2次安倍内閣において、集団的自衛権を限定的に行使できるという、憲法解釈を変更する閣議決定がなされた。この閣議決定によれば、日本における集団的自衛権行使の要件が挙げられ、日本に対する武力攻撃または日本と密接な関係にある国に対する武力攻撃とそれによる国民への危険、これに加え、集団的自衛権行使以外に方法がない場合に、必要最小限度の実力行使ができる。

 解釈変更の動機について安倍総理は「紛争中の外国から避難する邦人を乗せた米輸送艦を自衛隊が守れるようにする」と説明した。また、菅義偉内閣官房長官は「新三要件を満たせば、中東ペルシア湾のホルムズ海峡で機雷除去が可能だ」とし、「原油を輸送する重要な航路に機雷がまかれれば、国民生活にとって死活的な問題になる」と語った。

 さらに2014年7月14日の国会答弁で、安倍総理は「世界的な石油の供給不足が生じて国民生活に死活的な影響が生じ、わが国の存立が脅かされる事態は生じ得る」と語り、エネルギー問題での行使が含まれるかのような発言をしている。集団的自衛権の行使を容認した閣議決定の無効を求める裁判が起こされたが、2015年7月29日、最高裁判所は訴えを却下。行使を容認する政府解釈は、内閣法制局で1日しか審議されずに通過している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1RPRNYx)。

(※27)明文改憲:明文改憲とは、正規の手続きによって憲法条文の字句を修正・削除・追加すること。対して解釈改憲は、条文の字句はそのままにして、条文の解釈を改めることで、事実上規定の内容に変更が生じることを言う(参考: マガジン9条【URL】http://bit.ly/1TQSrcc)。

(※28)環境権:環境権は憲法の条文の中の文言にはなっていないが、現行憲法で環境権も人権の1つと考えられている。北海道新聞2015年2月6日付で安倍自民党政権が、「環境権」の新設という名目で来秋の発議を目指していると報じられた。

 これは実際のところ9条改正へ地ならしにほかならず、憲法「改正」の抵抗感をなくすため、別の条項で改憲の実績を作り、憲法改正自体が大事ではないと慣れさせるためのものだという指摘がなされた(Blogos、2015年2月9日【URL】http://bit.ly/1NnZsue)。

(※29)財政条項:「財政規律条項」とは、次世代に借金を残さないようにすることを目的としたとされているが、有識者からは過度な緊縮財政になってしまうという指摘がなされている(ZAKZAK、2015年5月13日【URL】http://bit.ly/1qQCO9r)。

(※30)三つが候補だった:2015年5月7日、自民党の船田元氏は「緊急事態条項、環境権、財政規律条項の設定などのテーマを優先的に議論してはどうか」と各党に呼びかけた。

 同氏は、特に緊急事態条項の新設について、大規模災害などの際に衆院議員の任期を延長できる特例を「あらかじめ規定しておくことが急務だ」と主張。意見表明した6党のうち、共産党を除く5党が新設に前向きな見解を示した。

 ただし民主党の武正公一氏は恣意的に憲法解釈を変えることは、あらざるものと批判している(産経ニュース、2015年5月7日【URL】http://bit.ly/20B52kE)。

(※31)11月10日、11日の予算委員会で、安倍総理大臣が明言した:10・11両日行われた衆参での予算委員会で、安倍晋三首相は「緊急事態条項」の新設を重視すると明言。「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らが、どのような役割を果たしていくべきかを、憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題であると考えています」と述べた。これについて、「緊急事態条項」の危険性を危惧した各メディアから批判の声があがった(Litera、2015年11月12日【URL】http://bit.ly/1Q6zhIe)。

(※32)9月24日 、自民党党大会に代わる両議院総会が開かれ、ほぼ無投票で総裁に再選:2015年9月8日午前、安倍晋三首相の任期満了に伴う党総裁選が告示されたが、首相以外に立候補の届け出はなく、首相の再選がこの時点で確定した。立候補を計画していた野田聖子前総務会長は立候補に必要な党所属国会議員20人の推薦人を確保できず、国会内で記者会見し、立候補断念を表明した。

 これを受けて9月24日に行われた、自民党大会に代わる両議院総会で安倍晋三首相は正式に再選された。産経がその後に行われた記者会見を報じ、安倍晋三首相はこのなかで、憲法改正を公約としたとして、目標の達成に尽力することを強調した(産経ニュース、2015年9月8日【URL】http://bit.ly/1Ot3ToE)(産経ニュース、2015年9月8日【URL】http://bit.ly/1Sfj1fK)。

(※33)自民党の本部で記者会見があった:2015年10月7日に自民党本部で行われた記者会見のこと。安部総理は「改憲」への意欲を語ったが、詳細を報じたのは産経だけであり、読売・朝日という大新聞2紙は、一行も報じていない。

(※34)11月10日:2015年10月10日、安倍晋三首相は衆院予算委員会の閉会中審査で、憲法改正について「党において、緊急事態条項からやるべきだという議論もかなり有力だ」と答弁した(朝日新聞、2015年11月11日【URL】http://bit.ly/1Nix0Ix)。

憲法で明確に否定されている国家緊急権に反対が少ないわけ~大学の法学部でほとんど教えられておらず、専門家のなかでさえ理解が浅いという現状、「日本国憲法は、国家緊急権を明確に否定している!」

永井「11月13日ですね。パリ同時多発テロ事件(※38)が起きて、ここでフランスの国家緊急権というか、緊急事態の発動があったということで、あれで日本でもテロが起きたらどうするんだ、日本にも国家緊急権が必要だという議論が産経新聞などでわき起こってしまった(※39)」

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▲パリ同時多発テロ事件の現場で献花するアメリカのオバマ大統領とフランスのオランド大統領――ウィキメディア・コモンズより

岩上「また、いいタイミングですよね」

永井「そうですね。しかし共産党を除く野党が明確にこの緊急事態条項、国家緊急権について反対をしていません。なぜか、理由は四つあります。まず国家緊急権というのが何なのかを、みな知らない。大学の法学部でも教えてない」

岩上「そうなんですか!?」

永井「そうです」

岩上「まず分かってない。法律の専門家すら分かってないかもしれない。あとで勉強しなきゃいけない・・・」

永井「そうです。2つ目に日本国憲法の趣旨、国家緊急権について、日本国憲法では明確な意思表示をしているのですが、みなそれについて知らないのです」

岩上「そうなんですか」

永井「そうです。よく国家緊急権について、日本国憲法では忘れられていたなどと言っている人がいますが、それは間違いで、日本国憲法では国家緊急権を明確に否定しています。

 3つ目、災害のため、あるいはテロのための国家緊急権が必要か否かという問題ですが、少なくとも災害については『災害だったらいいんじゃないの?』と思いやすいのですが、そうではありません。

 4つ目は自民党の国家緊急権案ですね、実はこれが大変危険なのですが、それもみなさんご存知ない、ということなんです」

岩上「そうなんですよ。ここで先生大変申し訳ないのですが、そちらにある『前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く(※40)』という本を取っていただけますか?すいません、先生に取っていただきまして。

 2年前に梓澤和幸(※41)さん、澤藤統一郎(※42)さんという憲法にお詳しい弁護士の先生お二人とともに、僕が生徒役になって、自民党改憲草案の逐条で日本国憲法と対照しながら、全部読む研究をしました。12回にわたり鼎談をやりまして、最終的に本にしました。その中で国家緊急権というか、この緊急事態条項、これはえらいことじゃないのかというのをやりました。やってみて分かったのですが、もう世の中の多くの人がこれについて知らない。もちろん、その時まで私も分かってなかった。えらいものだなと初めて分かりました」

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▲梓澤和幸・澤藤統一郎・岩上安身著『前夜~日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』

永井「そうですね。ひどいものだなと」

岩上「ひどいですよね。とんでもないものです。でも僕は知らなかったんですが、国家緊急権とは何か、それが一般の人が分かってないというだけでなく、日本国憲法の趣旨として、国家緊急権というものは否定しているんだということが教育機関で教えられていない、専門家や法学部の学生さんたちが理解していない。そこまでとは知りませんでした」

永井「憲法学者もちゃんと理解しているのかなという感じの人がいます。それで、明らかにこれをちゃんと理解しないで、とんでもない説ですね。例えば日本国憲法は、国家緊急権を忘れたとか、あるいは欠陥の憲法だとか言っている学者がいるんですが、それは間違いです。ちゃんと言っている。日本国憲法、この審議の過程、帝国議会できちんとした答弁がなされています。後で説明いたします」

岩上「分かりました。はい。では一つ一つまいりましょう」


(※38)パリ同時多発テロ事件:2015年11月13日、フランスのパリ市街と郊外のサン=ドニ地区の商業施設において、IS(イスラム国)の戦闘員と見られる複数のグループによる銃撃および爆発が同時多発的に発生した。

 事件発生時、サン=ドニにあるスタジアム「スタッド・ド・フランス」では、男子サッカーのフランス対ドイツ戦が行われており、オランド大統領とドイツのシュタインマイアー外務大臣が観戦していたが、現地時間午後9時ごろ、同スタジアムの入り口付近や近隣のファストフード店で爆弾とみられる爆発音が3回鳴り、実行犯とみられる人物が自爆テロにより4人死亡したほか、1人が巻き込まれて死亡した。

 その後、午後9時30分ごろより、パリ10区と11区の料理店やバーなど4か所の飲食店で発砲事件が発生。犯人らはイーグルス・オブ・デス・メタルのコンサートが行われていたバタクラン劇場で観客に向けて銃を乱射した後、観客を人質として立てこもった。

 14日未明、フランス国家警察の特殊部隊が突入し、犯行グループ3人のうち1人を射殺。犯人グループのうち2人は自爆により死亡し、観客89人が死亡したほか、多数の負傷者が出た(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1PQkKV9)。

(※39)日本にも国家緊急権が必要だという議論が産経新聞などでわき起こってしまった:パリ同時多発テロを受けて2015年11月19日の産経は、国家緊急権が必要だという論旨の記事を掲載している(産経ニュース、2015年11月19日【URL】http://bit.ly/240wv16)。

(※40)梓澤和幸・岩上安身・ 澤藤統一郎(著)『前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く(増補改訂版)』(現代書館、2015年12月)紹介文:自民党改憲案と現行憲法を、その前文から補則まで徹底的に比較・解説し、そして熱く熱く語り尽くした一冊。

 安保法案、TPP参加、特定秘密保護法、原発再稼働等と「憲法改悪」「米国の命令」との密接な関わりを約300項目に及ぶ注釈つき。増補版では安保法案の成立を受け、さらに56頁、約50項目の注釈を追加している (【URL】http://amzn.to/1S6zy0i)。

 本書は「IWJ書店」でも好評発売中(【URL】https://iwj.co.jp/ec/products/detail.php?product_id=171)。

(※41)梓澤和幸:弁護士。山梨学院大学大学院法務研究科教授。『誰のための人権か:人権擁護法と市民的自由』(日本評論社)、『報道被害』(岩波書店)『リーガルマインド―自分の頭で考える方法と精神』(リベルタ出版)などの著作がある(参照:山梨学院大学大学院【URL】http://bit.ly/22u8jBx)。

(※42)澤藤統一郎:弁護士。元日本民主法律家協会事務局長、元日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員長、元東京弁護士会消費者委員長。『岩手靖国違憲訴訟』(新日本出版社)、『たのしくわかる日本国憲法』(岩崎書店)、『「日の丸・君が代」を強制してはならない 都教委通達違憲判決の意義』(岩波書店)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1PQkKV9)。

「国家緊急権」という名のクーデター~人間が長い時間をかけて勝ち取ってきた「天賦人権説」を堂々と否定する自民党改憲草案のトンデモぶり

岩上「では、次にそもそも『国家緊急権』とはなんぞや、というお話です」

永井「はい。国家緊急権とは、『戦争、内乱、恐慌、ないし大規模な自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止して非常措置を取る権限』です。

 要するに、非常事態において、国家の存立を維持するため、国家のためですね。人権のためじゃなく、国家のために、立憲的な憲法秩序、人権の保障と権力の分立をやめちゃうという制度です。要するに、平時とは異なる行政権の権力の集中、要するに政府に対する権力の集中と、人権の強度の制約を認めてしまうということです」

岩上「基本的には国民が主権者であり、国民の様々な権利が認められているわけですが、それに対して政府というのは、権力の行使に際して抑制的でなければならない、そういった憲法で定める秩序ですね。『憲法秩序』をひっくり返してしまう。国家が非常に強力な力を持ち、国家が主人公になり、国民はそれに従属し、服従しなければならない、そういうことです。はっきり、自民党の改憲草案の『緊急事態条項』に書いてあります。公権力に服従しなければならないと。服さなければいけないと」

永井「そういう権限ですね」

岩上「これは緊急だけれど、もう事実上のファシズムですよね」

永井「そのとおりです。まず前提として、国家緊急権が止めると言っている人権と権力分立というのは何か、おさらいしてみましょう。

 基本的人権、『人が自律的な個人として、自由と生存を確保し、尊厳を持って生きるための不可欠な利益』。尊厳を持つ、あるいは自由というのは、これは人としてのプライドを持って生きるために不可欠な利益です。性質は、『人権が憲法や天皇から恩恵として与えられたものではなく、人間であることにより、当然に有する権利であること』。これを固有性と言います。

 人間であることにより当然として有する権利であることであり、『原則として公権力(行政、立法、司法)によって侵害されない』という不可侵性の性質を持っている。それから人として当然持っているんですから、『人種、性、身分などの区別に関係なく、人間であることに基づき、当然に享有できる』。つまり普遍性ですね、そういう性格を持っている。固有性や普遍性、不可侵性という性格を持っています」

岩上「自民党には、今日の日本国憲法はとんでもない憲法であって、天賦人権説(※43)に基づいているから、天賦人権説をやめるというようなことをツイッターに堂々と書いちゃう片山さつき(※44)みたいな議員がいるのです。天賦人権説を否定するということを堂々と言っている。

 天賦人権説とするのは王権神授説(※45)です。人権は天皇、つまり王権ですが、王から恩恵として与えられたものであるという限定的なものです。その天皇の権利は、神から授けられたもの、神聖なもので、その神のもとの臣民(※46)、その臣民に恩恵として、お前たちの人権を一応与えてやるぞと。それは天皇の恩寵であって、その臣民でしか国民じゃない。大日本帝国憲法はそのようなものだったわけですよね」

永井「そうです。そのとおりです」

岩上「ここの『固有性』、これがいったいどういう意味か、大日本帝国憲法を全然知らない人もたぶんいっぱいいると思うので、ちょっとそこのところを教えていただけますか」

永井「はい。大日本帝国憲法というのは要するに天皇が主権者であるということで、権利、国民の、臣民の権利ですね。先ほどおっしゃいましたけど、それはもう、権利という言い方をしていいのかどうかという程度のものです。分限(※47)という言い方すらしていて。要するに、天皇のもとで法律によって与えられたものだと。したがって、法律によって簡単に奪うことができる、という考え方なわけです。

 それに対して、日本国憲法の基本的人権というのは、要するに近代憲法の歴史の中で、長い間かかって、いろんな国で闘争しながら、手に入れて考えられてきたものですから、これは人として生まれたものである以上、誰もが生まれながらにして持っているもの。だからこれは、憲法よりも前にあるものだから、憲法によって当然奪うこともできないし、憲法に基づいて制定された法律によっても奪うことができないと。そういうものです」

岩上「これが天賦人権説ということですよね」

永井「そうです」

岩上「天が与えたものであって、ある国家が誕生したから、あるいはある王権が成立したから、その王権やある国家によって、恩寵として、お前たちに臣民の権利を与えてやるぞ、みたいなものじゃないと。生まれながらにして人間は人間であると。すごく当たり前のことなんですけどね。この当たり前のことを認めるまでに人類史というのは膨大な歴史を重ねてきたわけです」

永井「たくさん血を流して、一生懸命戦って獲得してきた権利なわけですよね、これって」

岩上「それをもう一度転覆しようというと、とんでもないクーデターを自民党はやろうとしているということじゃないですか」

永井「あとでご説明しますが、まさにおっしゃるとおり。まさに国家緊急権とはそれなんです」

岩上「なるほど。クーデターですよね」


(※43)天賦人権説:すべて人間は生まれながらに自由かつ平等で、幸福を追求する権利をもつという思想。ジャン=ジャック・ルソーなど、18世紀の啓蒙思想家により主張され、アメリカ独立宣言やフランス人権宣言で具体化された。日本では明治初期に福澤諭吉・植木枝盛・加藤弘之らによって広められた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Qn0O8B

(※44)片山さつき:自由民主党所属の参議院議員(1期)。元衆議院議員(1期)。元大蔵省主計官。株式会社片山さつき政治経済研究所・元代表取締役。行政書士。

 2012年12月7日、自身の公式ツイッターアカウントで『国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました』とツイート。片山氏本人および自民党の見解について議論がわき起こった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XwVnJO)(参考:Togetter【URL】http://bit.ly/1LS2nLH)。

(※45)王権神授説:「王権は神から付与されたものであり、王は神に対してのみ責任を負い、また王権は人民はもとよりローマ教皇や神聖ローマ皇帝も含めた神以外の何人によっても拘束されることがなく、国王のなすことに対しては人民はなんら反抗できない」とする政治思想。王権神授説をはじめて唱えたのは、16世紀フランスの法学者・経済学者として知られるジャン・ボダン。絶対王政の時代、王権は実際には微妙な均衡の上に立っており、みずからの支配権は神によって授けられたものであるという王権神授説によって、自己の権力の正当化をはかったとされている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XwVnJO)。

(※46)臣民:大日本帝国では、大日本帝国憲法に「臣民」という語が用いられ、天皇と皇族以外の、国民を指して用いられた。ただし、皇族でも軍人としては「臣民」であるとされた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1v2MBKc)。

(※47)分限:旧憲法下では,文官分限令(1899年公布の勅令)に基づいて行われた官吏の身分上の変動(免官,休職,転職等)の総称を指す(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XwVnJO)。

現行の日本国憲法は立憲主義にもとづいた「大人の憲法」~一方で国民を「幼稚な状態」に戻すことを狙う前時代的な自民党憲法改正草案

岩上「では次ですが、『近代憲法、国家の役割』についておうかがいします」

永井「近代憲法の国家の役割。『人は生まれながら自由かつ平等であり、生来の権利を持っている』と。先ほどの基本的人権ですね。『その権利を確実なものとするために、社会契約を結び政府に権力の行使を委任した』。つまり、国家というのは、基本的人権を実現するために作ったものなのです。

 ところが国家というものは、権力を持ってしまう。そうすると、国家の権力は強大になっているので、権力を濫用し、国民の人権を侵害してしまうと。これまでそういう歴史があったので、国家をわざと『立法、行政、司法』の三つに分離し、相互に牽制させた。これが権力の分立です」

岩上「なるほど。そして、国家がある種超越的なカリスマ性を帯びるのも問題ですね。歴史の果て、ずっとはるか過去、神話的な過去からつながっていて、その歴史性ゆえに、支配層が権力を持っているんだ、みたいなことを言い出す。

 そういう時に宗教というのは動員されたりするわけです。だから宗教と国家と、つまり政治というものを分離するということも、ここで非常に重要な原則になった。政教分離(※48)というのは重要であると。

 それをもう一回、だいたい自民党の改憲草案は明治憲法に戻そうと、天皇を元首にしてしまおうとしているわけですから、一応『主権は国民』と書いてあるんですけど、これを段階的に変えていっちゃう可能性がありますね。先ほどもお話に出ましたが、明治憲法では主権者は国民じゃなかったわけですよね。天皇が主権者であって、そこに戻してしまう可能性すらなくもない」

永井「そうですね」

岩上「ちょっと考えられないくらいアナクロニズムといいますか」

永井「恐ろしいですね」

岩上「恐ろしい。21世紀にあり得るのかというぐらいの話ですけれども」

永井「先ほど言った人権を制約して、権力を集中するという国家緊急権、そうした権力を律する趣旨は何かというと、三つあるんです。

 まず自由主義ですね。権力の濫用から国民の自由を守る。

 それから消極性です。権力を集中したほうが効率がいいはずなんですが、あえて分離して摩擦を起こさせることによって、国民を濫用から救う。

 三つめが一番大事で懐疑性です。人はいつも権力を獲得したがる弱点があるし、権力を握ればそれを濫用する性向がある。これはジョン・ロック(※49)などが言っていることです」

岩上「なるほど。これは『人間性への深い反省』と書いてありますが、本当に人間というのはしょうもないところがある、そういう人間観。完璧な性悪説ではないにしても、半分は性悪説といいますか、うっかりすると人間というのは権力を握ったらそれを手放さない。権力を持ったら悪用する可能性がある。そういうふうに見ている憲法観なんですね」

永井「そうです。つまり大人の制度なんです。これが権力分立なんです。立憲主義というのはその考え方に基づいて、要するに憲法で国家権力を縛ると。それで国民の自由を守るという考え方なんですね」

岩上「なるほどね。大人の憲法」

永井「大人の制度です。権力分立というのは人間というのは弱いものなんだよ。安きに流れちゃうものなんだよというのを前提にして、だからそれを防止しようというので、わざと分けて作ってある」

岩上「なるほど。これは教育観とかそういうこととも影響しますね。国民を子供のままに据え置き、お上というのは素晴らしいものだと無理矢理にでも信じ込ませ、お前たち国民は一人一人未熟な存在だから大人の言うことを聞け、お上の言うことを聞け、というのは子供の政治観みたいなものです。近代憲法はまさに大人の物の見方なんだけど、明治憲法下における臣民の状態というのは、子供のようにお父さんの言うことを聞く、まだ成熟していない子供のような状態に国民を置く。

 ダグラス・マッカーサー(※50)が日本人を12歳の子供と言った(※51)というのは、まさにドンピシャじゃないですか。だから幼稚な状態に国民を戻そうと」

永井「そういうことですね」

岩上「自民党が企んでいると。自分たちも相当幼稚ですよ。相当幼稚な連中たちが、国民を幼児化してしまおうとしている。大学の文系学部をなくす(※52)というのもそういうことと比例しているんじゃないですか」

永井「そうですね」

岩上「並行関係にありますね」

永井「要するにこういうものを大学で学ばない、学ばせないということです。民主主義社会というのは国民が主権者ですから、国民は自ら判断するために、相当な教養を持っていなきゃいけないわけですよ。社会のあり方とか、政治の仕組みとか、法律を知らなきゃいけない。文科系をなくしてしまうというのは、そもそも民主主義社会の基本に反することだと思います」

岩上「IWJは放送大学を作んなくちゃいけないですね。大人の放送をちゃんとやって、そこで学んでいただこうと」

永井「けっこうだと思います」

岩上「ネットが規制されるようなことが起こったら大変なんですけどね。ネットが規制されない間はやりますよ。はい」


(※48)政教分離:政教分離は国によって程度が異なっている。国家への宗教の影響や、宗教の国家への影響を認めない厳しい政教分離を規定する国もあれば、イラン等の国のように宗教と強く結びついた国家も存在する。アメリカ、フランス、メキシコ、日本などでは政教分離が憲法や法律によって定められている。また、政教分離といっても、宗教の特権や権力行使を認めない厳格な分離(分離型)、英国などに見られる緩やかな分離(融合型)など、各国によって違いがある。信教の自由の制度的保障として捉えられる。

 ちなみに安倍総理は、同盟国である米国に対して、親近感と紐帯を示すために、「リベラルデモクラシー」という「共通の価値観」で結ばれていると、しばしば強調するが、自民党の改憲案通りの改憲が行われれば、それはもはや「リベラルデモクラシー」とはいえず、米国と「共通の価値観」を有してはいないことになる。

 大日本帝国憲法第28条では「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」と定められている。しかし信教の自由、および“安寧秩序”“臣民の義務”という定義自体が不完全なものであり、「神社は宗教にあらず」と言いながら、神道は実質的に国教(国家神道)化されていた。

 神社への崇敬は臣民の義務とされ、家庭や公共機関などに神札を祀ることが奨励され、これに反する宗教は弾圧を加えられることもあった。なお、岩上安身は2014年11月22日、尚絅(しょうけい)学院大学准教授である上村静にインタビューし、この問題を取り上げている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1HvlSJN)。

・2014/12/22 【饗宴アフター企画】「上から目線(ヘイト)は、16世紀に渡来したキリスト教宣教師が日本に伝えた」 岩上安身による上村静氏インタビュー(前半)(【URL】http://bit.ly/1Uj05MA

・2014/12/22 【饗宴アフター企画】「人生に意味はないが、価値はある。生きているだけで充分に幸せだ」 岩上安身による上村静氏インタビュー(後半)(【URL】http://bit.ly/2390emj

(※49)ジョン・ロック:イギリスの哲学者。哲学者としてはイギリス経験論の父であり、政治哲学者としても知られている。

 主著『人間悟性論』(『人間知性論』)では経験論的認識論を体系化した。また『統治二論』などにおける彼の自由主義的な政治思想は名誉革命を理論的に正当化するものであり、その中で示された社会契約や抵抗権についての考えはアメリカ独立宣言、フランス人権宣言に大きな影響を与えた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/23KJ14B)。

(※50)ダグラス・マッカーサー:アメリカの陸軍元帥。連合国軍最高司令官を務めた。連合国軍最高司令官として日本占領に当たった。マッカーサーにはトルーマン大統領から全権が与えられていた。天皇と日本政府の統治権はマッカーサーに隷属しており、その権力を思う通りに行使できた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/23OYPn4)。

(※51)日本人を12歳の子供と言った:総司令官解任後の1951年5月3日から、マッカーサーを証人とした上院の軍事外交共同委員会が開催された。主な議題は「マッカーサーの解任の是非」と「極東の軍事情勢」についてであるが、日本についての質疑も行われている。

 公聴会3日目となる5月5日の午前10時35分から、マッカーサーの日本統治についての質疑が行われた。

 マッカーサーはその質疑の中で、次のように語っている。

 『アングロサクソンが科学、芸術、神学、文化において45才の年齢に達しているとすれば、ドイツ人は同じくらい成熟していました。しかし日本人は歴史は古いにもかかわらず、教えを受けるべき状況にありました。現代文明を基準とするならば、我ら(アングロサクソン)が45歳の年齢に達しているのと比較して日本人は12歳の少年のようなものです。他のどのような教えを受けている間と同様に、彼等は新しいモデルに影響されやすく、基本的な概念を植え付ける事ができます。日本人は新しい概念を受け入れる事ができるほど白紙に近く、柔軟性もありました。ドイツ人は我々と全く同じくらい成熟していました』(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/23OYPn4)。

(※52)大学の文系学部をなくす:第2次安倍内閣は、教育改革の実現を主要な政策として掲げており、特に大学をはじめとする高等教育機関の改革を重視。こうした状況の下、2013年6月14日に「教育振興基本計画」が閣議決定され、同日に閣議決定された「日本再興戦略」でも、日本の教育改革の必要性が盛り込まれた。

 2015年6月8日、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」と題した文部科学大臣決定が公表された。この文部科学大臣決定には、国立大学の組織の見直しが盛り込まれ、特に文学部などの人文科学系学部・大学院、法学部や経済学部などの社会科学系学部・大学院、ならびに、教育学部などの教員養成系学部・大学院について「組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努める」と明記された。

 人文科学系や社会科学系の学部・大学院の廃止や転換を求めた理由について、文部科学省では「大学は地域や産業界のニーズにあわせた人材の育成が求められているが人文社会科学系は専門性や進路との結びつきが見えにくい」と説明している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1SGrYZw)。

 安倍政権が打ち出した「英語教育改革実施計画」では、2020年、小学校5年から英語を正式教科にし、中学・高校の英語の授業はすべて英語だけで授業を行うと謳っている。岩上安身のインタビューにこたえた『英語化は愚民化』の著者で、九州大学大学院准教授の施光恒氏は、「日本人は国語を失い、知のレベルが低下する。20年後には、深く思索することができない、日本語も英語もあやしいグローバル・エリートたちが、国を動かすようになってしまう」と懸念を示している。

国家緊急権の源流には「英米型」と「大陸型」がある~自民党改憲草案の緊急事態条項は国王の権力を例外的に保留するために生まれた「大陸型」

岩上「では次です。『近代憲法―人権思想と国家緊急権』。先ほどのお話、ちょっと図でまとめてみました。図の左側が今の人権思想です。一番大事なのは基本的人権。これを実現するために国家を作ったと。濫用しないように権力を分立した、というのが人権思想で、左側が民主主義社会の憲法です。

 対して右側の国家緊急権、これは人権思想とは真逆です。一番大事なのは国家ですと。国家のために基本的人権を制約するよと。国家のために権力は分立じゃなく、集中するよという制度なんです。これはフランス革命(※53)の前の絶対主義王政と同じ構造なんですね。ここに国王と入れてみれば分かりますよね。ですから、真逆だという、かなり危険な制度なんです。

 ここにもちろん『天皇』と入れても、そうなります。天皇制ファシズムになりますし、『総統』を入れれば、ナチスになるわけだし」

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▲「人権思想」と「国家緊急権」の対比

永井「そうです」

岩上「今度はここに『安倍』と入るんですかね。『晋三ファシズム』ですよ。本当に相当恥ずかしいです。みなさん、ちょっと考えてみましょうね」

永井「せっかく人権思想って出てきたのに、なぜ国家緊急権なんてものが生まれてきたのか。日本が継承した法律には二つの流れがあって、一つは英米、アメリカ・イギリス型です。もう一つは大陸法型でこちらはドイツ、フランス型です」

岩上「大陸というのはヨーロッパ大陸のことなんですね」

永井「アメリカ・イギリス型の国家緊急権というのは、マーシャルロー(戦時法規)(※54)と言うんですね。不文法(※55)が適用されるところで、非常時に国民が軍の法規命令、刑罰に服すると。通常の裁判権が排除されるとあるんですが、どういうことかというと、南北戦争(※56)の時なんか、アメリカ自体が戦場になっちゃったんですね。そういうところでは統治権、司法、行政、立法が司令官に帰属するというのが慣習的に出てきた。これがアメリカ型」

岩上「だから、不文法」

永井「そうなんですね」

岩上「今も成文法(※57)ではないんだ」

永井「今でも成文法ではないです」

岩上「『マーシャルロー』というタイトルのハリウッド映画(※58)もありました」

永井「そうですね。そのとおりです」

岩上「そのまま『戒厳令』と訳されるようですが、そういうふうに思っていていいわけですよね」

永井「そうです。次に大陸型です。大陸型は実は国民主権の原理に対抗して、国王の権力を例外的に保留するために生まれました。つまり、元々生まれが国民主権と真逆なんです。国王のための制度だった。それがずーっと未だに遺物のように残ってしまったものなんです。

 ですから英米法型は個人の権利が尊重されているかどうかという面、法の支配があるのかという目で見られているのに対して、大陸型では、支配する側からものを見てしまうという形なのです。この系統の国家緊急権というのが、ワイマール憲法(※59)の国家緊急権、日本帝国憲法の国家緊急権、そして自民党改憲案の緊急事態条項です」

岩上「これがなんと、これもお話があとで出てくると思いますが、ワイマールをもう一回見直さなければいけない。いみじくも、麻生太郎副総理(※60)が、『ナチスの手口を真似たらどうか』(※61)と。この発言を、あの人は、教養のない人だから、少しおバカさんだから、またまた失言しているよと、多くの人がそう思い込む。ところが自民党や改憲勢力の間では、ちゃんと意味が通じていて、そうかナチスの手口を真似るのかと。今回、本当に手口を真似ようとしているわけです」

永井「そうです」


(※53)フランス革命:18世紀にフランスで起きた市民革命。世界史上の代表的な市民革命で、前近代的な社会体制を変革して近代ブルジョア社会を樹立した革命である。

 18世紀のヨーロッパ各国では、自然権や平等主義、社会契約説、人民主権論など理性による人間の解放を唱える啓蒙思想が広まっていた。諸外国の進歩と異なり、フランスでは18世紀後半でも、君主主権が唱えられブルボン朝による絶対君主制の支配(アンシャン・レジーム)が続き、国民が不満を鬱積させていた。

 国王ルイ16世はこれを緩和するために漸進的な改革を目指したが、特権階級と国民との乖離を埋めることはできず、1789年7月14日のバスティーユ襲撃を契機としてフランス全土に騒乱が発生。平民らによる国民議会が発足し、革命の進展とともに絶対王政と封建制度は崩壊した。

 革命の波及を恐れるヨーロッパ各国の君主たちがこれに干渉する動きを見せ、反発する革命政府との間でフランス革命戦争が勃発。フランス国内はカトリック教会制度の見直し、ルイ16世の処刑などのギロチンの嵐、ジャコバン派の恐怖政治、大量殺戮などによって混乱を極め、最終的な決着は、第三共和政の成立を待たねばならず、革命勃発より80数年がかかった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1VuoCjn)。

(※54)マーシャルロー:いわゆる戒厳令のこと。戒厳とは、戦時において兵力をもって一地域あるいは全国を警備する場合に、国民の権利を保障した法律の一部の効力を停止し、行政権・司法権の一部ないし全部を軍部の権力下に移行することで、本来は極端な治安悪化や暴動を中止させるために行われる。しばしば、非常事態宣言と共に、軍部によるクーデターで使われる。

 フランス革命中の1791年にフランスで施行された「戦場及び防塞の維持区分、防御工事等の警察に関する法律」がもととされている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1VuoCjn)。

(※55)不文法:不文法とは、文章で成り立っていないが、「法」として人を拘束するもの。不文法の種類としては、慣習・条理・判例がある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/20XslFh)。

(※56)南北戦争:1861年~1865年にアメリカ合衆国とアメリカ連合国との間で行われた戦争。奴隷制存続を主張するアメリカ南部諸州のうち11州が合衆国を脱退、アメリカ連合国を結成して、合衆国にとどまった北部23州との間で戦争となった。終戦後、北アメリカは安定した情勢を保ち、国力も増大した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1N5876o)。

(※57)成文法:成文法とは、権限を有する機関によって文字によって表記される形で制定されている法である。文字による表記がされていないが法として存在する不文法に対置される概念(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qZC7ub)。

(※58)マーシャルローというタイトルのハリウッド映画:1998年に製作・公開されたアメリカ映画。オリジナルタイトルの”siege”は「包囲」を意味し、戒厳の前提状態の一つである「合囲状態」を意味するフランス語の「État de siège」に通じる。「マーシャル・ロー」 は邦題である。監督エドワード・ズウィック、主演デンゼル・ワシントン。

 ニューヨークで大規模なテロが多発した時、警察やFBI、軍隊はそれにどう対処するべきか、自由の意味、法の価値などを主題とした映画である。映画公開の3年後、ニューヨークでアメリカ同時多発テロ事件が発生した。

 なお、日本映画にも『戒厳令』(1973年公開)というタイトルの映画があり、二・二六事件により処刑された北一輝について扱っている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XzwIo2)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qEW49o)。

(※59)ワイマール憲法:ワイマール憲法は、第一次世界大戦敗北を契機として勃発したドイツ革命によって、帝政ドイツが崩壊した後に制定されたドイツ国の共和制憲法。1919年8月11日制定、8月14日公布・施行。

 ワイマール憲法は、国家主権者を国民とする、財産に制限をつけない20歳以上の男女平等の普通選挙をおこなう、国民の社会権を承認するなど斬新性があったが、同時に有権者の直接選挙で選出されたドイツ国大統領に、憲法停止の非常大権、首相の任免権、国会解散権、国防軍の統帥権など、旧ドイツ皇帝なみの強権が授与されていた。

 ヒトラー内閣成立後間もない2月22日、国会議事堂放火事件が発生。 ヒトラーはヒンデンブルクに迫って民族と国家防衛のための大統領令とドイツ国民への裏切りと反逆的策動に対する大統領令の二つの大統領令(ドイツ国会火災規則)を発出させた。これにより、ワイマール憲法が規定していた基本的人権に関する114、115、117、118、123、124、153の各条が停止。この状況下で制定されたのが『全権委任法』である。

 ヒトラーは憲法改正立法である全権委任法の制定理由を「新たな憲法体制」を作るためと説明した。この法律自体ではワイマール憲法自体の存廃、あるいは条文の追加・削除自体は定義されなかったものの、政府に憲法に違背する権限を与える内容であった。こうして事実上ワイマール憲法による憲法体制は崩壊した。

 ナチス・ドイツ期において憲法は明文化されたものではなく、「民族の種に根ざして形成される共同体の生」、つまり「民族共同体」こそが憲法とされ、実際の統治に当たっては、「民族共同体の意志」を体現する総統による指導(指導者原理)が行われることとなっていた。すなわちナチス・ドイツ時代の「憲法体制」とは、アドルフ・ヒトラーの人格を介したナチズム運動と国家との結合という前例のない体制であった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1DssMuN)。

(※60)麻生太郎副総理:元内閣総理大臣。衆議院議員。首相退任後、2012年12月26日に第2次安倍内閣で副総理兼財務大臣兼金融担当大臣として再入閣。第3次安倍内閣でも副総理、財務大臣、内閣府特命担当大臣(金融担当)を担当している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1E9LLeB)。

(※61)ナチスの手口を真似たらどうか:2013年7月29日、極右の論客・櫻井よしこ氏が理事長をつとめる国家基本問題研究所が開いた憲法改正についてのセミナーで、麻生太郎は改憲積極派に向けて、ナチス政権を引き合いに出し、「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」と発言。この発言について各新聞社が報道し、麻生氏に対する批判が相次いだ。

 この発言は海外の一部メディア・ユダヤ系人権団体らが一斉に批判。7月30日、ユダヤ系人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターが『Which ‘Techniques’ of the Nazis Can We ‘Learn From'”?(一体どんな手口をナチスから学べると言うのか)』と題して声明を発表。発言の真意を説明するよう求めた。8月1日、これをうけ麻生氏は「誤解を招く結果となったので、ナチス政権を例示として挙げたことは撤回したい」と述べた。

 野党側は8月7日に閉会する臨時国会中に、予算委員会での集中審議を求めていたが、与党側は「一応の決着をみた」として審議を拒否。7日に民主党など5野党は麻生の辞任、または罷免を求める声明を発表し、同日首相官邸に声明を届けようとするも、官邸は受け取りを拒否した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1E9LLeB)。

国家緊急権の4つの危険性、「不当な目的」・「期間の延長」・「過度な人権制限」・「司法の抑制」~一見便利な緊急権が恒久的なファシズムにつながる可能性が

永井「次にいきましょう。『国家緊急権の危険性』です。国家緊急権は諸刃の剣と言われており、平時の制度では対処できない非常事態に対処するためのもので、便利な点もあるのですが、一方で立憲的憲法秩序、人権保障と権力分立を停止しちゃうということで、やはり危険性のほうがはるかに大きい制度です。国家緊急権は歴史的にみても実は多くの国で、野心的な軍人や政治家に濫用されてきました。危険性は四つあります。

 第一が『不当な目的』。政府は緊急事態の宣告が正当化されない場合でも宣言しがちです。つまり、非常事態ではないのに、非常事態だと言ってこれを使ってしまう。

 二つ目が、『期間の延期』です。政府は戦争その他の危険が去ったのちも、緊急措置を延長しがちです。つまり、一回握った権力を離さない。

 三番目は、『過度な人権制限』。政府は緊急事態に対処するため人権を過度に制約しがちであること。

 四つ目は、『司法の抑制』、裁判所が遠慮しちゃう。緊急状態に裁判所は、政府の判断を尊重して、平時に比較して、市民の権利保護を抑制する傾向にある。緊急権に対する司法統制が充分に行われない。これはアメリカでもイギリスでもそうなんです」

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▲国家緊急権における「4つの危険性」

岩上「なるほど。暴力というか、むき出しの力が表れた時には、やっぱり司法権力、裁判官の弁護士も検事もみんな萎縮しがち。その時の権力に寄り添いがちだと。やっぱりそうなってしまうんですよね」

永井「そうですね」

岩上「そして、過度の人権制限というのは当然国民一人一人に多大な損失というものをもたらすんですけど、同時に、人権を制限することによって、対抗権力が生まれないようにする、反対派勢力を一掃し、鎮圧してしまう」

永井「そのとおりです」

岩上「そして、緊急権と言っているんですけど、緊急のうちに反対派を一掃すれば、そのあとにさらなる恒久的なファシズムとか、恒久的な独裁とかの確立は可能になるということですよね」

永井「可能になります。それがこっち、『期間の延長』にいっちゃうんですね」

岩上「延長するよっていうのは、いつまでかというと、ずっと、みたいなことになるわけですよね」

永井「そうです」

岩上「騙されちゃいけない。本当に。一時的な話じゃない。しかも不当な目的。自分たちの野心のためとか、そういうくだらないことで」

永井「おっしゃるとおりです」

岩上「本当に頭の悪い奴が、原発抱えておきながら戦争しよう、なんていう大バカ野郎の目的のために。先生、笑いごとじゃないですよ、本当に。日本は大バカ野郎が、原発抱えて戦争(※)しそうに今なっているんです」

(※)「【IWJブログ】原発を抱えたまま戦争の準備を進める愚かしさ~岩上安身による京都大学原子炉実験所・小出裕章氏インタビュー 2013.10.7」、【URL】http://huff.to/1SR0weX

永井「そうですね」

岩上「そんなバカな目的のために、緊急事態宣言を行って、誰も反対できなくなったら、どうするんですか?と。国破れて山河あったんですよ。第二次大戦の時は。今度は、『国破れて放射能あり』、です」

永井「そうですね。うまいこと言いますね」

岩上「いえいえ。先生、残留放射能(※62)のあるところに住めますか?」

永井「本当ですね」

岩上「大変なことになっちゃうんですよ」

永井「おっしゃるとおりですね」


(※62)残留放射能:土壌や食品などに残留した放射性物質が放射線を出す現象、またはその性質(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/1SPYubZ)。

 米軍が広島への原爆投下による被害状況を調査するために設立したABCC(原爆障害調査委員会)とその後継組織である放射線影響研究所は、広島市における残留放射能の影響について調査・分析を行った。

 この調査の中で、内部被曝の影響が政治的に捨象されていった経緯について、岩上安身は『核の戦後史 Q&Aで学ぶ原爆・原発・被曝の真実』(創元社)著者の木村朗氏と高橋博子氏にインタビューを行っている。

ナチスは国家緊急権で権力をほぼ手中にしてから全権委任法を成立させた~同時多発テロ事件以降、フランスでは令状によらない何百件もの逮捕拘束が

永井「次に、ナチスの例を挙げます」

岩上「ここは重要です」

永井「先ほどワイマール憲法の話をしました。ワイマール憲法がどうなったのか。最も民主的なワイマール憲法とありますけど、第一次世界大戦で、ドイツは敗れて、じゃあ理想的な憲法を作ろうというので、ワイマール憲法ができたわけですね。最も民主的だったとありますが、大統領は直接公選制で、20歳以上の男女が普通選挙権を持っているという、当時一番進歩的な憲法だったんです」

岩上「その当時それが進歩的だったというのは、今日本で当たり前になっている20歳以上の普通選挙権が、男女平等に与えられていること、これを我々は当たり前だと思っているんですけど、それは人類史の中ではもう本当にごくごく最近確立されたものであって。その先駆けとなったのがワイマールだったんだ」

永井「そのとおりです。ところがです、この憲法下でナチス・ドイツが合法的に独裁権を取っちゃった。『え、なぜ?』というと、ワイマール憲法48条に、恐ろしい国家緊急権が定められていたからなんです。『大統領に公共の安全、秩序に重大な障害が生じる恐れがある時、人身の自由、意見表明の自由など7か条の基本権』、つまり基本的人権ですね、その『全部、または一部を一時的に停止できる』。これだけ見ると、何かな、と思うけれども」

岩上「これは一時的にだし、しかも人権のすべてではない、しかも『公共の安全・秩序に重大な障害が生じる恐れがある時』とある。そりゃあ何か起きる可能性はあるだろうし、騒乱とかいろんなことがありうるだろうと、だから『一時的だったらいいだろう』とか、そういう風にみんな少しずつ油断したと。その少しずつ油断したものが大統領令であると。

 ここがすごく重要で、だいたい多くの人が本を読んでもあるいは学校で習っても、最近では習わないかもしれませんが、ワイマール憲法は立派だったけど、その中で合法的にナチスが権力を掌握した。民主主義は独裁を生むんだと、簡単にそういうことを言っちゃう人が多いんです。

 でも、緊急令の発令のあとに手に入れたものがいわゆる全権委任法だった。全権委任法で確立したんだと。ところがその前に、実は緊急令でほぼ手中にしちゃって、それから全権委任法を成立させた。そういう順番があるんですね」

永井「そうです」

岩上「全権委任法をいきなりワイマール憲法下の議会で成立させたのではなくて、その前に、緊急令によって緊急事態宣言を全土に布告して、そして先ほどの人権の侵害というのがありましたけど、大弾圧を行ってというとこなんですね。二段階になっている。ここすごく重要ですよね」

永井「はい」

岩上「みんな、この程度なら大丈夫だろうと許すと、もう二度と立ち上がれなくなっちゃうよと」

永井「そのとおりです。全権委任法というのは、要するに国会の立法権を全部政府に移しちゃうという法律なんですが、普通だったらそんな法律を議会が通すわけがない。

 けれどもどうやってそれを通したかと言うと、いまおっしゃったとおり、国家緊急権を使ったからなんです。1933年2 月にナチス・ドイツの政権下で国会議事堂が放火されました。これは合法的に、ナチスのヒトラー総統が、首相になっていた時に」

岩上「しかもまだ、国会の中でナチス党は少数与党であって、連立を組んでどうにかこうにかヒトラーは首相に任命されていたという状態。しかし、今の自公政権というのは、もう衆議院は議席の3分の2を取っていますから。その状態に比べれば、実はヒトラーの力はまだまだ弱かった。そういう時に、緊急大統領令というのが悪用されたわけですね」

永井「そうですね。国会議事堂が何者かによって放火され、翌日これは共産党の犯行だとナチスが断定した(※63)。共産党というのは、当時の反対政党です。そして緊急大統領令によって、言論、報道、集会、および結社の自由、それから通信の秘密を制限した。そして令状によらない逮捕拘束を可能にした、ということで、当時西ヨーロッパで一番大きかったドイツ共産党(※64)は事実上これで壊滅しちゃった。

 多数の共産党員と、そして社会民主党員、これも反対党ですが逮捕、拘束されて、それで事実上壊滅した。そこでナチスは徹底した監視をした中で選挙を行なった。この選挙でやっぱり国民は不安に思ったんでしょう。ナチスは第一党になったけど、過半数を取れなかった。共産党も81議席取れた。ところが議席を取っても登院できない、身柄を拘束されていますから。その中で授権法が強行採決されてしまったということなんです」

岩上「だから共産党員を縛っちゃえばいいよという話だったわけです」

永井「そうですね。あと、ナチスが怖いと迎合した党と連立を組んだということなんですけど、それでここで授権法が強行採決されて、ここで独裁を確立したわけです」

岩上「よくナチスの悲劇といいますか、ナチスがやった蛮行を振り返ると、なんであんなに理性的なドイツ人がこんなものを生み出したんだ言われています。しかし、こんなものを生み出したもなにも、一瞬の隙を突いて一挙に・・・。

 これは偽旗作戦ですよ、国会議事堂放火なんて。こんなものナチスがでっちあげていくわけじゃないですか。共産党に罪をなすりつけていくわけじゃないですか。共産党はそんなことをやっても、何のプラスにもなりません。それで一挙に言論も報道も集会も結社の自由も、通信の秘密も制限すると。

 そして、令状によらない逮捕、拘束ということで、プロイセン州で5000人くらい逮捕したそうですけれども、行方不明がほとんどだということだそうです。

 僕らは言論活動やっていますし、報道もやっています。SEALDsみたいな団体の集会を撮りに行っていますし、様々な結社の人たちを、様々な集会が行われているところを撮りに行っています。IWJも一種の結社です。そして通信。これも秘密を制限されたら仕事になりません」

永井「これはインターネットですよね」

岩上「ネットです。おまけに令状によらない逮捕拘束を僕がされたらどうするんですかという話です。IWJやっていけないじゃないですかと」

永井「でもこの時代だと、そういうことが起きちゃった」

岩上「やだな。半年後ですよね」

永井「本当に政権取ってから一瞬の間にダダダダッと、こういうふうになっていっちゃった」

岩上「みなさん、これを忘れているといけないんですけど、衆院では三分の二を自公および改憲勢力がすでに取っている。そして、参院はあとたった11議席です」

永井「そうですか」

岩上「先生、カウントしてなかったですか?カウントすると、あと11議席です。たった11議席。おおさか維新の会(※65)と日本を元気にする会(※66)とか、これは改憲を連呼していますから。

 民主党(現・民進党)の中でも改憲が必要だと言っているのが45人ぐらいいる。今こぼれ落ちそうなのがいっぱいいるわけです。というか、その人間たちが、民主党の中心を担っている。早い話が前原誠司(※67)さんや細野豪志(※68)さんのような人たちがいる。

 これを御覧になっているみなさん、本当にことが緊迫していると分かりましたでしょうか? だから、明日の『饗宴Ⅵ』にも来ていただきたいんですが、大変な状態です。僕もこの『令状によらない逮捕』になっちゃうかもしれない」

永井「本当に。一応、我が国の憲法では、令状によらない逮捕は、現行犯逮捕しかないわけですが、この現行犯というのをものすごく拡大しちゃうような形で法律を作ってしまえば、そしたら事実上は令状によらない逮捕に近いことができてしまうということになる。それが国家緊急権を導入すれば容易にできる方向になります」

岩上「フランスではあの同時多発テロ事件以降、令状によらない逮捕拘束、これが何百件も行われているわけです。そのことについての報道がほとんどない。僕らは、フランスに今在住の人たちに臨時通信員になってもらって、情報をもらっています。こういうことが起きている、という話が次から次へと送られてくるんですが、フランスでまともに報じられていない。そうしたことは日本でも報じられていないのです。

 これはパリに真似ようと今考えているからで、それにできるだけ国民が気づかないようにNHKや読売のみなさんなどは努力をしている(※69)わけです。この問題を真剣に取り扱わないようにしている。恐ろしいです。あと11議席ですからね。そしてこうやって逮捕拘束されて、登院できない状態にしてしまった上で、全権委任法が強行採決された。

 全権委任法をみんな喜んでやったわけじゃなかったということですよね。だから、問題は国家緊急権なわけです。緊急事態宣言ができるような条項を憲法に書き入れてしまったら、ここまでダーッといってしまう。大変です。あとわずか11議席で」

永井「先ほどの危険性で言えば、まず不当な目的ですね。ナチスに反対する政治勢力を弾圧するためで、全然緊急事態は起きていない。それから期間の延長。この全権委任法、授権法の制定によって緊急措置が固定化されてしまった。法律自体は3年の期限のはずだった。でもそれが固定化された」

岩上「先生、あとで触れると思いますが、自民党の改憲草案はもっとひどいんですよね。もっとひどい。みなさん、続きを見てくださいね」

永井「あと人身の自由、表現の自由、政治活動の自由などの人権が過度に制約された、ということですね」

岩上「もう政治活動ができなくなると、あとはもう一瀉千里(※70)ということですよね」


(※63)国会議事堂が何者かによって放火され、翌日これは共産党の犯行だとナチスが断定した:1933年2月27日の夜にドイツの国会議事堂が炎上した事件。2月27日の午後9時30分頃、議事堂のそばをとおりがかった帰宅途中の神学生が、火のついたものを持った人影を見て、警官に通報した。現場には国会議長兼プロイセン州内相ヘルマン・ゲーリングが向かい、議事堂財産の避難と捜査に当たった。

 あたりを捜索したところ、焼け残った建物の陰に半裸でいたオランダ人でオランダ共産党員のマリヌス・ファン・デア・ルッベが発見された。ルッベは放火の動機を「資本主義に対する抗議」と主張。プロイセン内務省のディールス政治警察部長も「一人の狂人の単独犯行」と推定していた。

 しかしヒトラーはこの事件を「共産主義者による反乱計画の一端」と見なし、「コミュニストの幹部は一人残らず銃殺だ。共産党議員は全員今夜中に吊し首にしてやる。コミュニストの仲間は一人残らず牢にぶち込め」と言い、単独犯行であるとするディールスの意見を退けた。

 ゲーリングはプロイセン州警察の公式発表に介入し、犯人が用意した放火の材料100ポンドを1000ポンドに無理やり訂正させ、「2人の共産党議員」が共犯だと書き加えた。その日のうちにプロイセン州警察は共産党議員や公務員の逮捕命令を出し、共産党系の新聞はすべて発行禁止になった。

 その後共産党議員団長であるエルンスト・トルクラーや後にコミンテルン書記長を務めるゲオルギ・ディミトロフ、ディミトロフと同じブルガリア人の共産主義者であるブラゴイ・ポポフとヴァシリ・テネフの4名が共犯として逮捕された。2月28日、ヒトラーは閣議でコミュニストと法的考慮に左右されず決着をつけるためとして、 「国民と国家の保護のための大統領令(ドイツ語版)」と「ドイツ国民への裏切りと反逆的策動に対する大統領令」の二つの緊急大統領令の発布を提議し、これにより言論の自由や所有権は著しく制限され、政府は連邦各州の全権を掌握できるようになった。

 3月1日、ゲーリングはラジオ放送で「共産主義を我々の民族から抹殺することが、私の最も重要な責務だ」と述べ、政府によるテロを宣言。共産主義者は次々と警察によって予防拘禁され、2日後には無政府主義者、社会民主主義者も対象に加えられた。また共産主義者の襲撃が起きるというデマが流されたため、共産党や民主主義政党の集会がナチス党の突撃隊に襲撃され、逮捕者や死者が続出した。

 続いて行われた選挙の結果では、100議席を持っていた共産党は81議席へと後退。一方ナチス党は199議席から288議席へと躍進した。しかし当時の『ロンドン・ニューズ・クロニクル』紙は「ドイツ共産党員が議事堂の火事と何らかのつながりを持っているという主張は、何の根拠もないたわごとにすぎない」と公式発表を批判。

 海外では火事がナチスの仕業であるという報道が流れはじめ、議長公邸から国会議事堂の間に地下道が存在するという事実がそれをさらにあおった。9月21日からはライプツィヒの最高裁判所で裁判が始まったがナチス党の思うようにいかず、ルッベ以外の被告4名はすべて無罪となった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1We8Mb3)。

(※64)ドイツ共産党:主にヴァイマル共和政期のドイツで活動した。しかしヒトラー内閣成立後の1933年に解散させられている。第二次世界大戦後一時復興したが、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)では1956年に連邦憲法裁判所から禁止命令が出されて解散させられた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/20XuFMx)。

(※65)おおさか維新の会:2015年11月に維新の党から離党した議員が結成した日本の政党。略称は維新。所属国会議員数では民進党、日本共産党に次ぐ野党第3党。

 まず2010年(平成22年)4月19日、橋下徹氏を代表として8名の府議会議員を加え、地域政党として「大阪維新の会」が創設された。その後、2012年(平成24年)10月に国政に進出する全国政党として「日本維新の会」が設立。2015年8月、大阪維新の会の上部組織である維新の党が内紛をおこし、橋下・松井の両氏が維新の党の役職を辞任して離党。

 ただし、橋下・松井の両氏は大阪維新の会の役職は続けており、大阪維新の会を母体とする新しい国政政党を結成することを表明した。これが「おおさか維新の会」(「おおさか」がひらがな表記)であり、漢字表記の「大阪維新の会」はその大阪府総支部ということになった。2016年4月6日時点での参議院議席数は8(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1V6PaXr)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Ndivwz)。

(※66)日本を元気にする会:2014年11月28日に解党したみんなの党に所属していた6名の無所属議員で、12月18日に参議院院内会派として結成され、参議院事務局に届け出された。その後、2015年1月1日に政党を組織し、1月8日に田中茂氏と行田邦子氏を除く4人と、次世代の党に離党届を提出していたアントニオ猪木氏の計5名で、東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に政党として設立を届け出た。いずれも代表者は松田公太氏。2016年1月13日時点での参議院議員数は3(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1W3Yzhc)。

(※67)前原誠司: 民新党所属の衆議院議員(8期)、凌雲会会長(第2代)。日米同盟強化・中国脅威論、集団的自衛権の行使及び日本国憲法第9条改正の必要性、武器輸出三原則の見直しなどを明確に打ち出している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Zpgnlx)

(※68)細野豪志: 民進党所属の衆議院議員(6期)、自誓会会長。前原誠司は京都大学法学部の先輩にあたる。当選後は前原グループに所属し、前原の党代表時代に党役員室長に任命された。前原誠司が主宰する防衛研究会に参加しており、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使に賛成している (参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Q2Flor)

(※69)パリに真似ようと今考えているからで、それにできるだけ国民が気づかないようにNHKや読売のみなさんなどは努力をしている:産経ニュースでは、『日本は「非常事態宣言」ができるか 憲法への緊急事態条項創設が課題』という記事が掲載されている。同記事では、「治安当局が令状なしで家宅捜索に踏み込むなど対テロ作戦を遂行している」という記載があるものの、「非常事態宣言」のメリットと日本における緊急事態条項創設の必要性のみを強調しており、デメリットには全く触れていない(産経ニュース、2015年11月19日【URL】http://bit.ly/1qM4cVG)。

(※70)一瀉千里:物事が速やかにはかどり進むこと(参考:コトバンク【URL】http://bit.ly/1rknNx2)

大日本帝国憲法下にあった4種類の国家緊急権~関東大震災で実際に虐殺につながった戒厳令

永井「では大陸法の影響を受けた大日本帝国憲法はどうだったか。国家権力が過度に強くて人権保障が十分じゃなかったところで。そこに国家緊急権が加わり、濫用された。国家緊急権は大日本帝国憲法には四つあったんですが」

岩上「4つあった。戒厳令というイメージが大きいですけど、実は大日本帝国憲法では戒厳令以外にもいろいろあった」

永井「あったんですね」

岩上「それが『緊急勅令』だったり」

永井「緊急勅令、これは緊急事態の時、議会の閉会中。法律に代わる勅令を発することができた。勅令は次の会期の議会の承認がない時は、将来に向かって効力を失うと」

岩上「一応、こういう制約はあったんですね」

永井「あった。2つ目の『緊急財政処分』は、これも非常事態の場合、議会を招集できない時、財政処分ができる。次の会期に議会の承認を必要とするけど、承認がない時は効力はなくなるという規定はなかった。

 3つ目の『戒厳』ですが、天皇が戒厳を宣告する、そうすると国の統治作用、司法、立法、行政の大部分が司令官に移るというものです。

 4つ目が『非常大権』で、戒厳を超える国のスーパー権力です。ただ、よかったことにこれは一度も行使されなかった」

岩上「戒厳令のイメージといえば、明治時代の日比谷焼き討ち事件(※71)。それから、大正の関東大震災(※72)。それから、2.26事件(※73)。こういうイメージがあるんですけれども、これは戒厳だったのか、それとも緊急勅令で、行われたんでしょうか?」

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▲日比谷焼打事件で焼き討ちにあった施設(Wikipediaより)

永井「まず、緊急勅令からいきましょう。

 緊急勅令というのは、政府が国会の法律に代わる政令、勅令によって、法律に代わるものを制定できる制度です。例えば、これは濫用されて、緊急時にしかできないはずなのに、平常時に緊急だと言って乱発され、どんどん使われてしまった。

 例えば、治安維持法(※74)の重罰化改正法。これ、上限を死刑にする。この時は議会で審議未了で廃案だったんですが」

岩上「つまり、これは当時の帝国議会ですら、治安維持法で、死刑だなんて、そんなのはけしからんということで、スムーズに通ったわけじゃなかった。やっぱり反対する人たちもいた。そしたら、緊急勅令でやっちゃった」

永井「そうです。政府は緊急勅令で通した」

岩上「最初は治安維持法って小さく、たいしたものじゃないものとして生まれ、よく今日の政治家や官僚も『小さく生んで大きく育てる』と。危険な法律はそういうふうに言っているんですが、今次々危険な法律が生まれているわけです。治安維持法的なものを小さく生んでおいて、緊急令で改正していくことがありうる、そう言えますでしょうか」

永井「そうですね。治安維持法は最初いわゆる共産主義者を対象にしていたのが、どんどん拡大され、自由主義の人も対象になって、最後は厳罰で上限が死刑になっちゃいました」

岩上「すさまじい」

永井「戒厳については、適用の要件効果は法律で定めるということで、その法律は戒厳令というもの、それを使ったということなんですけど、一応、戦争もしくは事変というのを要件にしていて、事変というのは武力による衝突、ということで事実上は内乱です。

 戦争と内乱を要件にしていたわけなんですが、これが脱法的に拡大され、天災とか災害まで含まれるようになってしまった。

 だから先ほどおっしゃった日比谷の焼き討ち事件。あれは内乱には当たらないから、本当なら適用外なんですが、適用された。そして関東大震災にも適用されてしまった。それから2.26事件ですね、あれも内乱までには当たらない。内乱と言ったら、西郷さんがやった西南戦争のような、ああいうことですね」

岩上「あれは内戦ですよね」

永井「そうです。2.26事件は、ここで言う内乱に当たらないんですが、あれにも適用された」

岩上「クーデターぐらいのものですね」

永井「そうです」

岩上「大変なことではありますけど。天災等にも勅令によって、戒厳を実施した。ちょっと待ってください。緊急勅令で、戒厳を実施したと。戒厳を行なうのは、戒厳令という法律に基づいて動かさないといけないんだけど、その戒厳令を出さないで、緊急勅令によって戒厳しちゃった。ややこしいですね。これちょっと難しい」

永井「戒厳令という法律があってこれについては動かさないで、緊急勅令によって戒厳令を広げて臨時にこの時に使うという形にして適用しちゃった。だから緊急勅令と戒厳ですね、この両方を組み合わせて、脱法的にできちゃった」

岩上「この緊急勅令によって、そして戒厳に値する軍事官憲を動かして完全に非常事態を作りだし、国民を統制下に置くような強力な権力の行使を行なったということですか」

永井「本来は戒厳令で、戦争もしくは事変と要件があるんですが、これを緊急勅令で拡張してしまったということなんです」

岩上「なるほど。要件を拡張してしまって、そして戒厳を実施したと」

永井「はい、そういうことです」

岩上「要件を変えた。だからやっぱり戒厳令だったんですね。あの時は戒厳だったんですね」

永井「戒厳です」

岩上「あの3つは」

永井「ただ通常戒厳といえば軍事戒厳のことなのですが、これは行政戒厳だよという言い方をしていました。しかしやっていることは同じです」

岩上「なるほど。関東大震災の時にも戒厳が実施された。軍の自警団への指示権の付与。市民が組織した自警団で朝鮮人の大量虐殺。これ大変なことですよね。軍が指示した自警団が朝鮮人を虐殺した・・・」

永井「つまり自警団という自主的な団体が、軍の下部組織に組み入れられてしまったわけなんです。軍も武器を使ってたくさんの朝鮮人を殺したのですが、それと同じようなことを一般の市民の自警団が検問を作って、武器を使って殺害してしまった。

 だからよく関東大震災でパニックが起きて、市民の間でああいうことが起きたと言われるんですが、そうではなく戒厳が適用されて、警察による通常の治安維持ができなくなったために起きた」

岩上「流言飛語によって、民衆というのはなんと恐ろしいことをするんだろうと言われたりして。一般の民衆はとても自律などできない、セルフコントロールできない存在だと言われる、その根拠として使われることが多くなったんですが、実は違う」

永井「違いますね」

岩上「軍が指示した。ところがその軍の役割というのは伏せられ、指弾を免れてしまった」

永井「そうです。だから本来災害に適用しちゃいけない戒厳を実施したからああいうことが起きたわけです」

岩上「また宣伝タイムみたいになっちゃうんですけど。先生、これが先ほどもお話に出ました『前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』の新版、増補改訂版です。この本の共著者である梓澤先生が、日弁連の関東大震災調査委員会というのを組んで、その委員長をやっていた(※75)」

永井「そうですか」

岩上「梓澤先生はこの問題にすごく詳しくて、実は軍が最も率先して、まず虐殺をし、そしてこうした影響下でもって大量虐殺が行なわれたという話をこの間もなされていたばかり(※76)です。先生のお話と言いますか、すごく重なって、とっても頭がすっきりして、頭はすっきりしても、心は晴れないですからね。当たり前ですけど。無残極まる話で」

永井「そのとおりです」

岩上「恐ろしいことですよね」

永井「そうです」

岩上「本当に恐ろしいことが起こったという話です」


(※71)日比谷焼き討ち事件: 1905年9月5日、東京市麹町区日比谷公園で行われた日露戦争の講和条約ポーツマス条約に反対する国民集会をきっかけに発生した暴動事件。1905年のポーツマス条約によってロシアは北緯50度以南の樺太島の割譲および租借地遼東半島の日本への移譲を認め、実質的に日露戦争は日本の勝利に終わったが、同条約では日本に対するロシアの賠償金支払い義務はなく、そのため多くの犠牲者を出し、膨大な戦費を支出したにも関わらず、日本は直接的な賠償金が得られなかった。

 これに対し世論の非難が高まり、暴徒と化した民衆によって内務大臣官邸、御用新聞と目されていた国民新聞社、交番などが焼き討ちされる事件が起こり、戒厳令(緊急勅令)が敷かれた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/20IpNuE)。

(※72)関東大震災:大正関東地震による地震災害。甚大な被害をもたらし、日本災害史上最大級の被害を与えた。震災発生後、混乱に乗じた朝鮮人による凶悪犯罪、暴動などのデマが行政機関や新聞、民衆を通して広まり、民衆、警察、軍によって、朝鮮人、間違われた中国人、日本人(聾唖者など)が殺傷される被害が発生。

 警視総監・赤池濃は警察のみならず国家の全力を挙げて、治安を維持するために、「衛戍総督に出兵を要求すると同時に、警保局長に切言して」内務大臣・水野錬太郎に戒厳令の発布を建言した。

 これを受け、2日には東京府下5郡に戒厳令を一部施行。3日には東京府と神奈川県全域にまでその範囲を広げた。戒厳令により警官の態度が高圧的になったとの評価もある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1ACP51s)。

 IWJでは、関東大震災に乗じた朝鮮人虐殺事件に関して、『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』の著者である加藤直樹氏へのインタビューを配信した。

(※73)2.26事件:1936年(昭和11年)2月26日から2月29日にかけ、日本の陸軍皇道派の影響を受けた青年将校らが1483名の兵を率い、「昭和維新断行・尊皇討奸」を掲げて起こしたクーデター未遂事件。

 大日本帝国陸軍内の派閥の一つである皇道派の影響を受けた一部青年将校らは、かねてから「昭和維新・尊皇討奸」をスローガンに、武力を以て元老重臣を殺害すれば、天皇親政が実現し、彼らが政治腐敗と考える政財界の様々な現象や、農村の困窮が収束すると考えていた。

 当初警視庁や海軍は軍政につながる恐れがあるとして戒厳令に反対していたが、すみやかな鎮圧を望んでいた天皇の意向を受け、枢密院の召集を経て27日早暁に戒厳令(行政戒厳)が施行された。

 26日午後、参謀本部作戦課長の石原莞爾大佐が、川島義之陸軍大臣をつかまえて、事件の飛び火を警戒して日本全土に戒厳令を布くことを強く進言。石原莞爾らが強引に推進した戒厳令の施行が、翌27日からの電話傍受の法的根拠につながった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1cl9wla)。

(※74)治安維持法:国体や私有財産制を否定する運動を取り締まることを目的として制定された法律。1920年(大正9年)より、政府は治安警察法に代わる治安立法の制定に着手した。1921年(大正10年)8月、司法省は「治安維持ニ関スル件」の法案を完成し、緊急勅令での成立を企図。

 しかし内容に緊急性が欠けていると内務省側から反論があり、1922年(大正11年)2月、過激社会運動取締法案として帝国議会に提出された。この法案は「無政府主義共産主義其ノ他ニ関シ朝憲ヲ紊乱」する結社や、その宣伝・勧誘を禁止しようというものだった。

 また、この法案では結社の集会に参加することも罪とされ、最高刑は懲役10年とされていた。しかし具体的な犯罪行為がなくては処罰できないのは「刑法の缺陥」(司法省政府委員・宮城長五郎の答弁)といった政府側の趣旨説明は、結社の自由そのものの否定であり、反発を招いた。

 また、「宣伝」の該当する範囲が広いため、濫用が懸念された。結果として、修正案が可決されたが、衆議院で廃案になった。

 1923年(大正12年)に関東大震災後の混乱を受けて公布された緊急勅令「治安維持ノ為ニスル罰則ニ関スル件(大正12年勅令第403号)」も治安維持法の前身の一つである。治安維持法は1925年に大正14年4月22日法律第46号として制定された。

 1928年(昭和3年)に緊急勅令「治安維持法中改正ノ件」(昭和3年6月29日勅令第129号)により、改正が行われた、この改正では法の構成要件を「国体変革」と「私有財産制度の否認」に分離され、「国体変革」については最高刑が死刑に変更された(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1er5KqB)。

(※75)梓澤先生が、日弁連の関東大震災調査委員会というのを組んで、その委員長をやっていた:梓澤氏は関東大震災事件調査委員会に所属し、2003年8月27日付けの報告書をネット上に掲載している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/23LG4Rp)。

(※76)軍がもっとも率先して、まず虐殺をし、そしてこうした影響下でもって大量虐殺が行なわれたという話をこの間もなされていたばかり:2015年12月9日、岩上安身がオーガナイザーを務めた「ロックの会〜IWJ Night」で梓澤氏は次のように語っている。

 「知られていませんが、関東大震災で民衆が激昂し、朝鮮人を追いかけて殺したと物語られているが、実はそうじゃない。先頭に立ったのは、戒厳令下に敷かれていた軍。軍が最初に中国人、朝鮮人を銃剣で刺殺したんです。それは全部、軍法会議がありながら、裁判はまったく行われず、軍隊は『朝鮮人と中国人がかかってきたから刺殺したんだ』と言った。また、軍隊の流した情報で、民衆は朝鮮人が襲ってくると信じこまされて、それで朝鮮人を殺したんだということもあります」。

「参議院の緊急集会」と「政令の罰則委員会」――日本国憲法には災害対策の制度がすでに2つある~権力濫用の危険性から日本国憲法では国家緊急権を規定していない

永井「日本国憲法を作る時には、ナチスの体験もあり、大日本帝国憲法の体験もあったので、そうした経験からあえて国家緊急権の規定は設けなかった。だったら災害のことを何も考えてないかというとそんなことはなく、災害の時のために二つの制度を作ったんです」

岩上「なるほど」

永井「一つが『参議院の緊急集会(※77)』でもう一つが『政令(※78)の罰則委員』です。

 まず参議院の緊急集会は、国会の法律と予算は、衆議院と参議院が審議して議決するわけですが、衆議院が解散された時、その時は衆議院がなくなっちゃっているんですが、その時に大災害が起きたという時はどうするか――衆議院議員の総選挙ができないわけです。そういう時、国会が動かない時に、参議院に一時的に国会の代わりをさせる」

岩上「衆議院の代わりですね」

永井「衆議院と参議院の代わり、要するに国会全体の代わりをする。国の緊急の必要がある時、内閣は参議院の緊急集会を求められるということで、国会が機能しない時、参議院がその代わりを一時的にします。緊急集会で採られた措置ですね。これは法律の議決あるいは予算の議決は、次の国会の開会の後、10日以内に衆議院の同意がない時には効力を失うということなんです。

 これについてじゃあ、例えば永田町に直下型地震が起きて、参議院の緊急集会も請求できない時はどうするかという場合、そういう時には国会が動かないわけですから、内閣が政令を定めて対処するしかない。この場合罰則を設けられないと事実上の効力が発揮できない。ただしそれをやると濫用の危険があるので、法律の委任がある時にはじめて内閣は罰則付きの政令でできるという制度を作った。これが『政令の罰則』です。

 永田町に直下型地震などが起きて緊急集会を求められない時には、政令で対処するのですが、特に法律の委任がある場合を除いて政令では通常は罰則を求めることができないことになっています」

国家緊急権は平時の統治機構でも対処できない場合に発効されるが、そんな事態はほとんどない~第二次大戦中も実は選挙を行っていた

岩上「一つ質問があります。永田町と霞が関というと別の場所にあるかのようですが、永田町が直下型地震でもう国会議事堂が壊滅するような状態に仮になったとします。国会議事堂はかなり頑丈な建物です。それほどの地震なのに、すぐ隣の霞が関の官庁街が無事に存在しているというのはちょっと考えにくいんですが、お隣に官庁、あるいは官邸があります。官邸も道路一本隔ててすぐ側にある。

 現実的にはもうそこまでの破壊だと、官邸、国会議事堂、霞が関――国会議事堂の中にはいつも国会議員が常駐しているわけじゃありませんが、議員会館もすぐ官邸の並びにありますし、それから議員宿舎も近隣にあるわけです。このあたり一帯が本当に壊滅してしまうような事態に陥ったら、いったい誰が政令を出すのかなと僕なんかは思っちゃうんですけど。こうした場合はどうなるんでしょう。例えば本当に内閣の重要な要人がその地震に巻き込まれてしまった場合には」

永井「国家緊急権とは、戦争、内乱、恐慌ないし大規模な自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態という場合――そうするとこの『平時の統治機構』ってなんだろうと。

 これは、国民が選挙によって国会議員を選んで国会ができる、国会ができてその国会が法律を制定する、そして制定した法律に従って、内閣が執行する、そして裁判所がその法律に従って法律を行なう。つまりこれが平時の統治機構です。

 国家緊急権っていうのは、平時の統治機構をもってしても対処できない場合にはじめて発動されるべきものなんですが、実は平時の統治機構が機能しないということはほとんどない。例えば、関東大震災の時にも、内閣などはちゃんと動いていました。第二次世界大戦の時も選挙をやっていた(※79)」

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▲国家緊急権の定義

岩上「空襲があんなにあったのに」

永井「ええ」

岩上「選挙もできた」

永井「選挙もやっていました。だからそういう面で、実は例えば国会議事堂がぶっ潰れた時、あるいはなにかほかの場合、というのはかなり空想に近い話なんです」

岩上「なるほど。じゃあこれは僕の心配のしすぎで、永田町の直下型地震っていうのは、これは相当あり得ないくらいの事態を想定して言っていることで」

永井「過去にこの参議院の緊急集会というのは、憲法を作ってから2回しか請求されていないのです。その2回(※80)とも、5日以内と4日以内に召集されていて、しかも実は緊急事態というよりは、別の用事で召集されている。そういうことです。

 それからもう一個、『災害対策基本法の緊急政令』、政令の罰則の趣旨に基づいて、災害対策基本法ができ、後で説明しますが、4つの事項に関して、緊急時には内閣に一時的に立法権が帰属すると。そういうシステムがあるんですが、それはこの法律を制定して以来、一度も使われたことがないのです」

岩上「なるほど。東日本大震災、1000年に一度の地震と津波なんていうことがあっても、別段永田町も霞が関もびくともしなかったわけですから、そんなに心配する必要もない。これをはるかに上回る緊急事態とか、国家機能が麻痺するだとかいうことを考えなくても、まず大丈夫だということですね」

永井「そうです。あとで日本国憲法の趣旨に触れますが、日本国憲法ではよく考えられているわけなんです。

 『国家緊急権を設けない趣旨』。これについては明確に言っている、というのは大臣答弁で言われており(※81)、はっきりと議事録に書いてあります。

 4つの趣旨があります。

 第一に『民主主義』ですね。民主政治を徹底させて、国民の権利を十分擁護するためには、非常事態に政府の一存で行う行為は極力防止しなければいけない。

 2つ目は『立憲主義』ですね。非常という言葉を口実に、政府の自由判断を大幅に残しておくと、どのような精緻な憲法でも破壊される可能性がある。

 それから3つめですね。『憲法の制度』。特殊の必要があれば、臨時国会を召集し、衆議院が解散中であれば、参議院の緊急集会を招集して対処できる。

 4つ目は『法律などによる準備』で、特殊な事態には、平常時から法令などの制定によって濫用されない形で完備しておくことができる。要するに、事前に法律で完備しておくことができるということですね」

岩上「事前の備えがなければ、地震が来た時に避難もできませんから、それと同じことで、国家だってその憲法を停止するという前に、法律でそもそも準備するという細やかな対応が必要になる」

永井「そうです。ですから濫用の危険から国家緊急権は憲法に規定しないと。しかし、非常事態の対処の必要性から、平常時から厳重な要件で法律を整備しておく。濫用されないという形で、ということです」

岩上「とにかく一番危険なのは、国家が濫用することだよと」

永井「そうです」

岩上「お上というのは一番危ない奴なんですよ、ということですよね。そこを疑っておかなきゃいけない」

永井「これが憲法の趣旨なんです。我が国の憲法は、こういうちゃんとした理由で国家緊急権をあえて置いてない」

岩上「極めて健全な懐疑精神ですよね」

永井「そうです」

岩上「そのもとで用心深く考えてある。自民党はよく、国をなんでも家族に例えたりします。変な大家族主義みたいな漫画を作ったりするじゃないですか。それを例に考えると、たとえばうちの父ちゃんは、いざという時に信用おけない奴だから、日頃からやっぱりへそくりをしっかり貯めておこうとか、そういうふうにきちんと考えられている。そういうものですね」

永井「まあ、父ちゃんか母ちゃんか、あれですけど」

岩上「父ちゃんが立派で、非常時には常に家族を全員従えることができる、でもそれがDV親父だったらどうするんだ、という話ですよ」

永井「親父と違うわけで。要するに、民主主義社会ですから、国会議員とか」

岩上「例え自体が間違いなんですけどね。間違いなんですけど、自民党はそういう例えが大好きですから」

永井「大好きですね。全然、あれは見当違いの話だと思います」

岩上「見当違いの話」

永井「1回権力を握ったらどういうふうになるか分からないというのが、それが日本国憲法のもとの考えであり、日本国憲法の考え方なんです」


(※77)参議院の緊急集会:衆議院解散のため衆議院が存在せず、国会が開催できない場合において、国に緊急の必要が生じたために、参議院で開かれる国会の機能を代替する集会。内閣の求めにより開かれ、両院制の同時活動の原則の例外に位置づけられる。国会の会期ではないため、天皇による国事行為としての国会召集は行われない(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22B3bLW)。

(※78)政令:日本国憲法第73条第6号に基づいて内閣が制定する命令。行政機関が制定する命令の中では最も優先的な効力を有する(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1SgDmhK)。

(※79)第二次世界大戦の時も選挙をやっていた:1942年(昭和17年)4月30日に行われた第21回衆議院議員総選挙。一般に翼賛選挙の名称で呼ばれる(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/23LG4Rp)。

(※80)二回行われた参議院の緊急集会:1952年(昭和27年)8月31日、中央選挙管理会の委員及び予備委員の任命で行われたほか、1953年(昭和28年)3月18日~1953年(昭和28年)3月20日に、昭和28年度一般会計暫定予算など計3暫定予算の件と国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律の一部を改正する法律など計4法律に関する決議のために行われた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22B3bLW)。

(※81)大臣答弁で言われており:日本国憲法に国家緊急権を設けない理由に関する答弁の記録が、昭和21年7月15日の第13回帝国憲法改正委員会の議事録に明記されている。同議事録に記載されているのは金森徳次郎国務大臣による答弁。1)民主主義、2)立憲主義、3)憲法の制度、4)法律等による準備、の4点が理由とされている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22B3bLW)。

自民党・近藤三津枝議員の誘導的な質問と、それに対して十分な回答ができなかった野田佳彦総理~法律が完備されている日本では大災害が起きても国会は運営可能

永井「憲法審査会(※82)で、こんなことを言った人がいます。近藤三津枝(※83)衆議院議員ですね」

岩上「自民党の」

永井「はい。近藤三津枝議員の『大災害が国政選挙の公示日直前に発生した場合、法律で選挙期日の延長と、議員の任期延長ができますか?』という答弁。

 当時、野田佳彦(※84)総理の政権でしたが、野田総理は『できない』と言っただけです。これ自体はおかしくはない。少なくとも衆議院を解散して選挙をする場合であれば、40日以内に総選挙を行うという規定が確かにある。あるいは議員の任期に関しては、憲法上参議院議員であれば6年、衆議院議員であれば4年、または解散までという規定がある。それは正しい。

 ただしそのあと選挙の実施一つをみても、非常事態の規定が現行憲法でなされていない。これは明らかに誤りです」

岩上「この答弁、ここで質問して、『確かにできません』ということを言わせて、そこから誘導しようという方向性が見え見えです。

 要するに、実際には衆議院が解散した時でもまず緊急集会ができるし、参議院でできる。それからなにしろ、政令も出せるようにできているし、十分手当てしてあるじゃないか。しかも日頃から法律をきちんと完備していれば、非常事態が起きたって、想定できているんだから、各自治体やそれぞれの救助組織は機能して動く」

永井「そのとおりです。いろんな場合、一応全部想定しました。4通り考えられる」

岩上「近藤さんは『選挙の実施一つを見ても非常事態の想定が現行法でなされていない』と言っていますが、国会は機能するわけですね」

永井「はい。まず衆議院の総選挙の直前で、衆議院を解散して総選挙の直前に大災害が起きたとしても、先ほど話に出たように、参議院の緊急集会は求められます」

岩上「はい、そうですよね」

永井「次に参議院の任期満了の通常選挙の直前で大災害が起きたとしても、衆議院は残っているわけです」

岩上「残っている」

永井「参議院は非改選参議院議員が2分の1(※85)いますが、わざと半数改選と作ってある」

岩上「なるほど」

永井「定足数は3分の1で足りるわけですから、国会事態はちゃんと機能するわけです」

岩上「作った人、頭いいですね」

永井「日本国憲法って調べれば調べるほど、周到に作ってあることがわかる」

岩上「すごいじゃないですか」

永井「そして3つ目です。じゃあ衆参のダブル選挙の時に、大災害が起きたらどうするのか」

岩上「今度、利用されるかもしれないですね。来年(2016年)の夏、その直前になにか『偽旗作戦』の一つでもやられたら、国民はあっという間に持っていかれます。今のうちに言っておきますけど」

永井「ダブル選挙というのは衆議院を解散し、参議院の任期満了の時に、衆議院・参議院の選挙をした時ということですね。そうすると衆議院がなくなっているけど、参議院の非改選の議員が二分の一残っているから、これによって参議院緊急集会を求めることができるということですよね。

 それで、今ここで自民党が言っていることというのは、衆議院の任期満了による選挙直前で大災害が起きた時にどうするかといったことですが、まず衆議院の任期満了による選挙というのは憲法を作ってから今まで一度しかありません。ほとんどないこと、しかもそこに大災害が起きるというレア中のレアなことを挙げて、今おっしゃっているわけです」

岩上「ものすごい確率ですね。68年間で一回しか起こらないのに、千年に1回の津波みたいな話です」

永井「そういうことです。しかも、もしその場合であっても、公職選挙法を改正して早めに選挙を実施し、任期満了の直後に就任できるようにしておけば、空白の期間は空かない。それが第一点です。

 でなければ、さっきの参議院の緊急集会というのは衆議院の解散の時の規定なのですが、あれは要するに国会が機能しない時に、参議員を国会の代わりに機能させる制度ですから、この場合にも任期満了で衆議院が機能しないという時に参議院の緊急集会をここで召集することはできると考えられる。

 もちろん、これは私の意見じゃなく、複数の憲法学者にヒアリングをして、みなさんそういうふうにおっしゃっている。ですから、これで全然問題はないわけです」

岩上「野田総理はなぜ返答しなかったんですか。なんで『できない』としか言わずに。『いやいやあなた、近藤さん、選挙の実施一つ見ても、非常事態の想定が現行憲法でなされていない、大間違いのこと言うんじゃないよ』と野田さんが言って、先生みたいな説明をバーッと言ってくれたら、ことはすんでいる」

永井「まあ、そうだと思います。

 それで、もう一つ言うと、要するに憲法は最高法規であって、すごく簡単にいじるべきものではなくて、本来はまず法律の運用、あるいは制定によって対処できる時はそれでやると。それでもダメな時は憲法の解釈で対処する。

 それでもダメな時は憲法の改正という話になると思うんですが、今のこの例は法律の改正、公職選挙法の改正で対処できるし、それが嫌でも憲法の解釈だって対処できるわけです。だからそれで十分対処できるわけなんですね」

岩上「なるほど。68年に1回と、千年に一回の津波プラスアルファみたいなことが起きたらどうするんだと言っても、いやいや、多重防護できていますからと」

永井「できています」

岩上「原発どころじゃない。ちゃんと多重防護できているんですよ憲法は、という話ですね」


(※82)憲法審査会:2007年の国民投票法の成立を受けて、新たに衆参両院に設置された機関。 両院にはこれまで、憲法一般について「広範かつ総合的な調査」を行う「憲法調査会」、次いで国民投票法を議論する「憲法調査特別委員会」が設けられてきた。 憲法審査会はこの2つを引き継ぐ機関であり、初めて「憲法改正原案、憲法改正の発議」を審議できると規定され、憲法改正を具体的に進めていく場と位置づけられている。 ただし、公布後3年間は改憲原案の国会への提出、審議は凍結される(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/22B3bLW)。

(※83)近藤三津枝:自由民主党所属の元衆議院議員(2期)。学校法人甲南女子学園理事。キャスターやジャーナリストを経て、2005年の第44回衆議院議員総選挙に自由民主党から比例近畿ブロック単独で出馬し、初当選。

 2014年の第47回衆議院議員総選挙では、比例近畿ブロックの名簿で、小選挙区との重複比例候補者に次ぐ単独では1位に登載されたが落選している。著書に『女子会「憲法」サークル』(PHP研究所)がある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Qdb03g)。

(※84)野田佳彦:民進党所属の衆議院議員。民進党最高顧問。千葉県議会議員(2期)、財務大臣(第14代)、内閣総理大臣(第95代)、民主党国会対策委員長(第7代・第10代)、民主党代表(第9代)、民主党最高顧問などを歴任。野田内閣は民主党と国民新党の連立政権であり、2011年(平成23年)9月2日から2012年(平成24年)1月13日までという短期に終わっている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1V7PUeI)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1r13bti)。

(※85)参議院は非改選参議院議員が2分の1:日本国憲法第46条では、参議院議員の任期について規定がなされていて、参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選することが決められている。

 これには参議院議員の任期について、衆議院議員より長い6年の任期を保障するとともに、3年ごとの議員半数改選を規定することで、議員の身分の安定を図りながら急激な議院構成の変化を和らげる目的がある。結果として参議院では、衆議院と異なり、長期的かつ安定的な視点から参議院での審議が図られる(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1r13bti)。

緊急事態宣言による議員の任期延長が起きれば民主主義の根幹が崩れかねない~日本国憲法がワイマール憲法のように徐々に効力を失う危険性

岩上「気になるのは、選挙期日の延長と議員の任期延長はできるか、という点ですよね。議員の任期延長ができるかどうかというのはすごく重大な問題を孕んではいないでしょうか。つまり、非常事態宣言の時でも、衆議院というのは任期満了がきてしまったら、選挙をやらなきゃいけなくなる。

 もし任期延長ができるようなことになったら、この同じ国会議員構成で、終身議員状態になって、ずーっと永続緊急事態宣言なんていうことになる。

 この間、『永続敗戦論』で有名になった白井聡(※87)さんにインタビューしたばっかり(※88)なんですけど、それこそ永続緊急事態宣言レジームというものになって、議員の身分が終身のような状態になりかねないのではないか。これがちょっと気になるんですけど」

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▲白井聡氏

永井「要するに、民主主義社会というのは治者と被治者の自同性、統治する者と統治される者が同じだよという、それが民主主義の原理なんですね。ですから立場の交代可能性がなきゃおかしいわけです。だから終身議員というのは、そもそも民主主義の根幹に反するということになります」

岩上「それを緊急事態だから、解除できないからと言って、ずーっと永続していってしまったら、それが平時になってしまう」

永井「それはもう民主主義に反するものですし、それからその一部の人たちだけが権力を独占することになりますから、権力分立にも反することになります」

岩上「権力分立がいかんよというのは、現行憲法を根拠にして我々は言っているわけだけれど、それ自体を変えてしまわれたら。ワイマール憲法というのは改正されたわけじゃない。ワイマール憲法というのは事実上効力を失っていったのですが、それと同じようなことが起こっていっちゃう。日本の憲法がそういうことになるわけです」

永井「そうです、そうです」

岩上「大変なことですよね」

永井「憲法は、危険性があるから国家緊急権をあえて制定しない。だけど、法律によって準備すると言っているわけですが、じゃあ災害に関して本当に準備されているのかどうかということですが、実際に完備されています」

岩上「素晴らしいじゃないですか。ただ運用が悪いだけなんだ。一部官僚のもたつき。なんでSPEEDI(※89)公開しないんだとか、色々ありますよね」

永井「それはでもおっしゃるとおりです。運用が悪いのは事実。法律の制度がきちんと整備されている。だけど運用が悪かったというのは、実はおっしゃるとおりなんですね」

岩上「官僚はひどいですよね。自分たちのせいなのに憲法のせいにしますから」


(※87)白井聡:思想史家、政治学者、京都精華大学専任講師。専門は社会思想、政治学。

 白井氏は著書『永続敗戦論』で、戦後の日本は対米従属的な政治体制により、日本人の歴史的意識から敗戦の事実を追いやり、戦争責任を否定することが可能となって、それにより対米従属的な政治権力の正当性を保つことができたと指摘。この対米従属と敗戦の否認という相補関係によって成り立つ日本の政治体制を「永続敗戦レジーム」 と呼んだ。

 この永続敗戦レジームがもたらしながら同時に隠蔽してきた代表的な問題として挙げているのが領土問題と米軍基地問題である(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Nb3ZyD)。

(※88)インタビューしたばっかり:本インタビュー収録の二日前、2015年12月17日(木)、東京都港区のIWJ事務所にて、岩上安身は京都精華大学専任講師・白井聡氏にインタビューを行っている。これ以前からIWJは白井氏の活動に注目し、日本の対米従属や大阪府知事・市長選選挙などについての講演などをとりあげている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1WgzakD)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XLRuAR)。

(※89)SPEEDI:System for Prediction of Environmental Emergency Dose Informationの略称、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム。原子力施設が事故を起こして自然環境の中に多量の放射性物質が放出された時の災害対策として、日本原子力研究所を中心に気象研究所などの協力を得て開発された、計算による環境影響の予測を迅速に行う計算システム。

 2011年の東日本大震災の際、すぐに国民に公開せず、実は米軍にだけ情報を出していたことが明らかに。岩上安身は当時の平野博文文科相に「主権者は誰なのか」と質問した。平野文科相は弱々しく「国民です」と答えたが、主権者たる国民から重要な情報が隠され、国民に犠牲が生じたことは、国民の主権が侵害された重大事であり、看過できないはずである。であるにもかかわらず、この点への追及は、他のメディア、知識人とも弱い。

 2014年10月8日、原子力規制委員会は原子力発電所の重大事故での住民の避難範囲を決める際、このSPPEDIの計算結果は利用しないと決めた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Wx4ZpP)。

災害は基本的に地域限定的で起こるので国土全体に緊急事態宣言する必要はない~権限の集中とその暴走を止める準備が憲法ではすでになされている

永井「統治機構です。権力の集中。それに近いことが実はされている。災害が異常・激甚などの時、非常事態等の布告を内閣でやります。その時は、実は内閣に立法権が一時的に移転します」

岩上「なるほど」

永井「『内閣は国会閉会中、あるいは衆議院解散中、臨時会の招集あるいは参議院の緊急集会の請求を求めるいとまがない場合、緊急政令を制定できる』。4つの事項、限定されていますが、まず『生活必需物資の配給、譲渡、引き渡しの制限禁止』、次に『物の価格、役務その他の給付の対価の最高額』の決定、要するに物価の再上限の決定ですね。あるいは3つ目に『金銭支払いの延期、権利保存期間の延長』、そして最後は『被災者の支援にかかる外国からの救助の受け入れ』。

 この4つに関しては、一応、法律に代わる政令を制定できます。さっきの罰則付きの政令の法律の委任がある場合。だから政令には罰則を付せる。ただし『直ちに国会の臨時会を招集し、又は参議院の緊急集会を求め、国会の承認がなければ、政令は効力を失う』ことになる」

岩上「ちゃんとストッパーがここにはある」

永井「あるんです」

岩上「日本のどこかで甚大な災害が起こったとします、たとえば東日本大震災が起こった直後、私は関西に行っていたのですが、関西はまったく変わらず、吉本新喜劇のテレビ番組を放送していました。あの時は東京も震度5ですから大変な状態だった。しかも東北に行ってから関西に行ったんです。

 そしたらちょっと、一時的に神経がくらくらする状態になりましたね。言いかえると、それは阪神大震災の時も同じで、阪神全域にわたって大変な目に遭ったのに、関東の人がそれを同じように感じなかったんじゃないか。そういうふうに言われたことがずいぶんあります。

 でも、それが現実だと思うんですよ。やはり被災地というのは地域限定的です。国家全体、国土全体に緊急事態宣言をする必要は何もない。人権の制約をする必要は全然ない。

 それにもかかわらず、どんな激甚災害でも地域限定的であるはずなのに、全国土を戒厳令同様の状態にしてしまう。これは悪質な悪乗りとしかいいようがない。そこはやっぱり見ておく必要がある。災害ってやっぱりローカルなものなんだ。そして安全な地帯があるからこそ、そこから支援ができる。そこで自由が、生産活動の自由とか、そんなものが保障されていなかったら、逆にうまくいかない」

永井「そうです。そのとおりです」

岩上「そういうことを考えても、ちゃんとこれ、よくできているじゃないかっていうことですよね」

永井「はい。内閣総理大臣の権力の集中という話です。実はそれに近いものはあります。『国民に物資をみだりに購入しないことの協力要求』とか、あるいは

『関係指定行政機関の長』、これは省庁のことですけど、『地方公共団体の長、その他の執行機関、関係指定公共機関、関係指定地方公共機関に必要な指示』と書いてある。指示というのはお願いに過ぎないです、法的には。だけど大災害が起きた時に、内閣総理大臣からやってくださいと言われたら、事実上の効力があります。これによって一種ピラミッド型に、内閣総理大臣には大きな権限が持たされるようになっている。

 次ですが、『防衛大臣に自衛隊法8条に規定する部隊等の派遣を要請』。本来は防衛大臣にあるのが、事実上、内閣総理大臣に帰属すると。

 あと『警察庁長官を直接指揮監督し、一時的に警察を統制』する。これも警察長官にあるのが内閣総理大臣に事実上帰属しちゃう。

 それから『市町村長、都道府県知事に対し』、これは原発事故の時ですけど、『居住者などに対し避難の為の立ち退き又は屋内退避のための勧告、指示を指示する』ことができる。

 指示を指示するっていうのは何かというと、本来、市町村長、都道府県知事にあるものが事実上、内閣総理大臣に帰属すると。このことが指示するよう指示する、ということなんです」

岩上「なるほど。これを見ても、十分権限が集中している。怖いくらいです。権限を移しすぎなんじゃないかと。もうちょっと緩和したほうがいいんじゃないかぐらいの感じですけど。

 内閣総理大臣に権限が集中するわけでしょ。安倍さん、甲府の大雪害の時に天ぷら(※90)食べていましたから。災害時に天ぷらを食べているような内閣総理大臣に権限集中しても。その人間がさらなる強大な権限を持ったものを要求するという厚かましさ。尋常な神経じゃありません」

永井「本当ですね。これ、ものすごい権限ですからね。本当にびっくりするぐらい」

岩上「これだけでも大変な権限です」

永井「さらにすごいのがあるんですよ」

岩上「そうなんですか」

永井「人権の制限に関しては、この後すごいのがあります。『防衛大臣は、都道府県知事の部隊の派遣要請があった場合には派遣することが出来る。但し要請を待ついとまがない場合は、要請を待たないで部隊を派遣できる』。これも権限の集中ですね。」


(※90)あの大雪害の時に天ぷら:2014年2月16日、大雪災害が発生し、自衛隊の到着も遅延するなど、甲府を中心に雪害が深刻化していった。時事通信がこの日の安倍首相の動静として、東京・赤坂の天ぷら料理店「楽亭」で食事をしたことを報じたところ、ネット上で安倍首相を批判する声があがった。

 IWJでは、この雪害について、被害にあった現地住民に取材し、レポートとしてまとめている。

罰則つきで従事命令が出せる都道府県知事の強制権~現行法で対応可能どころか、すでに行きすぎの感も

永井「次に『人権の制限』です。ご存知ない方が多いかもしれないですけど、都道府県知事の強制権ですね。『医療、土木建築工事又は輸送関係者を救助に関する業務に従事させる』。つまり、医師に対して、被災地で医療の業務、被災者のための支援活動をしなさいと、従事命令が出せます。『これには罰則がある』となっている」

岩上「結構大変ですね」

永井「はい。違反すると処罰されてしまう。それから、『救助を要する者、その他近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる』。

 これはまだいいとしても、3番目。『病院、診療所、旅館等を管理し、土地家屋物資を使用し、物資の生産、集荷、販売、配給、保管、もしくは輸送を業とする者に、物資の保管を命じ、収用できる』。『これには罰則がある』ということです」

岩上「なるほど。これ、相当強力じゃないですか」

永井「さらに4番目です。『職員に施設、土地、家屋、物資の所在場所、保管場所に立ち入り検査させることができる』し、これにも『罰則がある』わけです。それで医師に対する従事命令、罰則付きですが、これは憲法18条の奴隷的拘束および苦役をさせてはいけないという、その苦役に当たるんじゃないかというのが、問題になったんですが、苦役というのは苦痛を伴う労役を言うんであって、それには該当しないんだというのが政府の答弁なんです」

岩上「たとえばですが、個々人の避難の権利の問題がありますよね。もし原発事故のような災害が起こり、目に見えない放射能が降り注いでくる場合、放射能の影響についてはいまだに影響がないかのように言いたてる人間がいるわけで、議論が分かれる。そうした場合、放射能の危険性はどう認識するのかというと、人によって違う。

 もちろんそうした場合には、医者がその場にとどまって、そこで奮闘してくれなきゃ困るし、土木関係者、輸送関係者、診療所、旅館、こういう人たちにも頑張ってもらわないと本当に困ります。医者にも土建屋さんにも、人権がある。火山の爆発の溶岩流とか火砕流とか、そうしたものは目に見えて誰でも危険性の認識が一致できますよね。これはやっぱり逃げるのが先でしょ、といった場合、そこにとどめて使命に従事せよ、というのはなかなかきわどいところじゃないですか」

永井「この条項には、実は憲法違反の可能性があるというのは確かにこの審議の過程でも問題にはなって、現実のその災害の現場の運用では、これをストレートに適用するんじゃなく、やはり本人の任意というか同意を得て、それで行ってもらうというのが事実上の扱いですけれども」

岩上「先ほど梓澤さんらにお話をうかがったことについて少し触れましたが、この間、『ロックの会』という会を開催しました(※91)。梓澤さんと澤藤さんとディスカッションしたり話をしたりした。

 その時に出たと思うんですけど、戦前、あるいは戦中の太平洋戦争末期に空襲を受けていた。空襲を受けることが分かっているなら、逃げればいいじゃないかという話ですが、逃げることを許さず、消防法というのでしょうか、子供は疎開させるけれども、動かないで消防に当たれと、そういうことを強制されたりと」

永井「防空法(※92)か何かですかね」

岩上「防空法ですか。『消火に当たれ』と命令され、言われたとおりそういうふうにして、そして大変な数の人々が焼け死んだ。それに近いなと、嫌な書き方だなという気がするんですよ。これ、罰則どうなのと。これのエスカレートに今度の緊急事態令があるようなことになっちゃうと、本当に大変なことに」

永井「だからこれを積極的に肯定するわけでもないのですが、少なくとも現行法ではちゃんとここまで整備されている」

岩上「ということですね」

永井「だから、憲法を変える必要がない、そういう趣旨ですね」

岩上「現行法でも行き過ぎなくらいということですね」

永井「そうですね。おっしゃるとおり。現実にはさっき申し上げたとおり、ご本人の任意で、OKな時に働いてもらう。本人がその気になってないとやっぱりちゃんとした活動はできないですから。だから現実にはそういう運用がなされている」


(※91)『ロックの会』という会を開催しました: 2015年12月9日、岩上安身がオーガナイザーを務めるかたちで、東京都内で「ロックの会〜IWJ Night」が行われ、多彩なゲストが自民党改憲草案にある「緊急事態条項」の危険性について警鐘を鳴らした。梓澤氏、澤藤氏のほか、クロストークでは社民党・福島みずほ参議院議員、東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩氏、日体大教授清水雅彦氏、明日の自由を守る若手弁護士の会・武井由起子弁護士が登壇している。

(※92)防空法:航空機の来襲によって生じると想定される被害軽減のため「軍以外の者」がおこなう「灯火管制、消防、防毒、避難及救護並ニ此等ニ関シ必要ナル監視、通信及警報」を「防空」と定義し、その実行に必要な防空計画を、地方長官や地方長官指定の市町村長防空委員会の意見を元に勅令に従って策定し、主務大臣と地方長官が認可する(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1WytSRO)。

 戦時中の防空法に関しては、2016年2月13日に行われた岩上安身による早稲田大学教授・水島朝穂氏インタビューの中で詳しく取り上げた。

災害時には自治体が動くのが一番効果的~災害を口実に国家緊急権を導入する考えは非合理的~「国家緊急権は、被災者のことを全然考えていない」

岩上「もう一つ質問したい点は、これが都道府県知事の強制権であるということです。なぜ、国家でなく地方自治体の強制権なのか、というところですが、おそらくほとんどの非常事態は、やっぱりローカルなものであって、その被災現場が一番情報を持ち、適切な判断ができるという前提があるからこういうことになったということでしょうか」

永井「まさにおっしゃるとおりなんです。要するに災害の場合に大事なことは、被災者に一番近い自治体が権限を持って対処するというのが、最も迅速で効果的な方法なんです。自治体は住民のことを一番分かっているし、環境もよく分かっている。災害対策基本法(※93)もそういう構造になっている。第一次権限は市町村にあって、都道府県はそれを後方支援し、国はさらにその後方支援をする。そういうシステムになっている」

岩上「なるほど。これは真っ当に、理性のある時に考えられたわけですね」

永井「真っ当に考えられた。もちろんそのとおりです」

岩上「理性がない時に考えついた、知性がない人の発案した国家緊急事態宣言。この緊急事態条項、非常時が起きた時に、まず市町村が当たる、現場が当たるというところをひっくり返して、国家が全権を握ってしまうということは、災害対策基本法の趣旨をまったく転倒させるようなものだということですよね」

永井「そうです。もし、その市町村が機能しない時は、都道府県がそのぶん代わりに活動すると。あるいは広域になってしまった場合、それで動かない時には国が出るとか、そういう補完的な条項がありますから、基本的には今言ったような形になっています。それが最も効果的」

岩上「それをひっくり返してしまう国家緊急権というのは、もう全然被災者のことなど考えていない」

永井「はい。災害で一番大事なのは、現場です。現場で目の前の被災者をどうやって救うかというのがすべての出発点。そこから被災者の話を聞いて、現場を確認して、課題を確認して、対策を考える。災害が起きた時は、その準備に基づいて、被災者に一番近い自治体が被災者支援活動を行なう。これが一番大事なこと」

岩上「そうですね。私ども、この東日本大震災の時も現場の取材をずいぶんしましたが、現場のニーズというのも刻々と変わるんですよ」

永井「そのとおりです」

岩上「今一番必要なことは、ただ逃げることだと。逃げた直後に、必要なものがまた出てくるとか、ニーズが狂う、ニーズと供給のミスマッチが起こると、何の役にも立たなかったりします」

永井「そうです。結局国というのは公平性、画一性、それが求められる。だから対処する時、『そうだな、では釜石市ではこうやって…』とか、そういう話になるんですけれども、その視点だと領域が広すぎる。現に目の前にいる人たちのニーズというのは本当に狭い領域ですから、それに対処できるのが市町村という形になる」

岩上「考えれば考えるほど、災害を口実に国家緊急権を導入しようという流れは詐欺の手口であることが明確に分かりました、本当に。

 先生、これ詐欺でしょう。詐欺って言葉はちゃんと法律用語で、弁護士はそうそう迂闊に使えないというふうに思うんですけれども、かぎかっこつきの詐欺じゃないですかね。国家による詐欺。でも、国家を疑えというのが憲法の精神だと思うんですよ」

永井「そのとおりです」

岩上「私、健全な懐疑精神を発露しているんです。いかがでしょう」

永井「詐欺というのは相手方を騙して財物を取得する場合ですから、一応詐欺そのものではないけど、相手方を騙したという」

岩上「相手方を騙して我々の主権を収奪しようとしているんですから、とてつもない詐欺じゃないですか。我々の人権をはく奪するすさまじい話ですよね」

永井「次です。今のは都道府県知事の話ですが、実は市町村長もいろんな強制権限を持っています」

岩上「さらにあるんですね」

永井「はい。『設備物件の占有者、所有者または管理者に対して、その物件の除去、保安その他必要な措置を取ることが指示できる』。あるいは『居住者等に対し、避難のための立ち退きを勧告し、立ち退きを指示する』。また、『居住者等に対し、屋内退避、その他屋内における避難のための安全措置を指示できる』。『警戒区域を設定し、立ち入りを制限、禁止、退去を命ずる」と。

 それから『他人の土地・建物その他の工作物を一時使用し、土石竹木その他の物件を一時使用し、もしくは収容できる』。『現場の災害が受けた工作物または物件の除去』、もう目の前に船があったらそれをどかしちゃうことができる。『その他必要な措置を執ることができる』。『住民又は現場にある者を応急措置の業務に従事させることができる』。これだけの強制権を持っているわけです」

岩上「道なんかが寸断されたら、四の五の言ってないでまずは土石や壊れた残骸の車などをどかさないと復旧ができない。まずそれが一時的に必要なことだと。倒れた家屋それから車、その他いろんなものがあるでしょう。そうしたものをどかすとか、そうした緊急的な権限を市町村長が持たないと何もできない。そういう話ですよね」

永井「よく災害が起きた時、そういう大変な時、どうしようもないから国家緊急権をつくらなきゃいけないという人がいるんですが、ちゃんと整備されています。だからいらない」

岩上「市町村長にこんな強制権があって、地方自治体の長、知事が強制権を持っているのに、そのうえで国家が持って、地方自治体の権限を一時的に停止するといったら、この強制権には何の意味もなくなっちゃうじゃないですか」

永井「今これをやらなきゃいけないというニーズを分かっているのは市町村ですから」

岩上「ですよね。おかしなことばっかりになっている」


(※93)災害対策基本法:1959年(昭和34年)に愛知県、岐阜県、三重県及び紀伊半島一帯を中心として全国に大きな被害をもたらした伊勢湾台風を契機に制定。

 国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1WytSRO)。

災害時に最も大切な自治体の権限が、自民党の改憲草案では奪われる~国家緊急権に相当する制度は日本では法律でもう十分制定されている

岩上「では『外国の国家緊急権』です」

永井「はい。外国の状況ですが、ドイツ、フランス、イギリスなどを見ると、明確に災害の場合の国家緊急権を定めたところはそんなに多くありません。ドイツには、ナチスがあったでしょ。だから論理的で、戦争があった時、この時はこれだけのことができる、内乱があった時にはこれだけしかできないと。災害の時はこれだけだよと、そういう類型化をして、できるようになった。

 ドイツ基本法の国家緊急権は「自然災害・特に重大な災害事故」。災害の時、あるいは特に重大な災害の事故の時は、このパワーポイントでいうところの(ア)と(イ)ができる。(ア)は、『州は他の警察力、行政機関』、これ消防ですよ、『連邦国境警備隊、軍隊の人員、物的手段を要請できる』。(イ)が、『危険が1州の領域を超える場合は』、つまり広い時ですね、『連邦政府は、他の州の警察力を使用するように指示し、警察を支援するために連邦国境警備隊および軍隊を投入できると定める』。これだけです。定まっているのは」

岩上「なるほど。実にシンプルですね」

永井「別に、政府に立法権が帰属するとか、書いていない」

岩上「総統が必要だとかも書いていない」

永井「これらは日本では現行の『災害対策基本法』、『自衛隊法』、『警察法』、『災害救助法』で規定されています。それでできてしまっている」

岩上「日本のほうがよっぽど手の込んだものをいっぱい用意している」

永井「そのとおりです」

岩上「確かに、日本は自然災害が多いですから、これだけ慎重になったり、屋上屋を重ねるようにいろんなものを作ってきた。分かります。でも、僕は今見ただけで、作りすぎじゃないかなとさえ思います。要するに運用が下手なだけ。

 天ぷら食っているからいけないだけだという話で、担当者によって一生懸命頑張る人と、サボタージュしている奴がいるというだけの話を、サボタージュしている奴がいるのにうまくいかなかった話を全部法律のせい、憲法のせいとか、そうやってすり替える話なんだなというのがすごくよく分かってきました」

永井「ちょっとだけ付け加えると、(ドイツでは)災害関連の法規というのは州ごとに」

岩上「州ごとに憲法があるんですか?」

永井「連邦国家ですからあるんです。もちろんそれは自治権と言いますか、その範囲内ですが。しかし、国のものはこれだけしかない」

岩上「ドイツで各州の自治権が強いというのは、ナチ以前からずっと強かったわけですよね。統一国家を作る前に、それぞれ国が分立していたこともあるし。

 ナチスの、さっき話題にあがった国会放火事件。直後の大統領緊急令。あの時最初にやったことがいくつかあるのですが、1つは共産党をはじめとする政治的な反対勢力を弾圧することだった。そしてもう一つは地方政府、地方自治体の権限というものを奪っていく、停止させていくということだったそうです。

 そう考えていくと、やっぱり地方自治というものがとても大事ですね。災害時には地方自治が非常に重要で、その権限を整備していくことがとても大切。地方の権限を停止させるようなナチスの緊急権のあり方、あるいは自民党の改憲草案のあり方は、その重要な点とは全く逆の方向を向いていることになります」

永井「そのとおりです。さらに日本では町村合併によって自治体が広域になってしまったために、各所にあった小さい自治体がなくなってしまった。あれがいろんな悲劇を生んでいます。災害の時に。その地域を把握できる自治体がなくなっちゃっている。だから、実は町村合併っていうのは少なくとも災害を考えたら」

岩上「よろしくなかった」

永井「よろしくなかった。全然よろしくない。やっぱり、災害というのは現地の市町村、そこが一番、機能して被災者が救われる」

岩上「例えば、中山間部なんていうのは特に災害が起きやすいわけですよね」

永井「そうですね」

岩上「台風で崖が崩れた。雪害が大変だ。寸断されます。寸断された時、小さな自治体単位であれば、どうサバイバルするのかとか、そういうことができたはずなのに集落が孤立して、でもその集落は、自治機能を持っていないというようなことが起きちゃう」

永井「そうです。水道がひけないとか、そういうことになっちゃう」

岩上「備蓄がないとかね」

永井「そうです」

岩上「その単位ごとの備蓄がなかったりとかすると大変ですもんね」

永井「ところで1990年から2008年制定の93ヵ国の憲法のすべてに国家緊急権があるが、日本には国家緊急権がない(※94)という見解があるんです。西修(※95)さんという」

岩上「はいはい。有名になった例の三人(※96)のうちのひとりですね」

永井「ただ、この西さんの本を拝見したんですが、93ヵ国がどんな憲法を持っているのかがどこを見ても書いていない。この見解自体、ちょっと検証しなきゃいけないかなとは思うんです。他の国にはあるんだけど、日本にないという。日本人はよく、こういう言い方でちょっと、『あ、そうなのかな』と思いやすいんですけどね。だから、『いや、俺んちだけだよ、ないのは、他のうちはみんな持ってるよ』っていう言い方をよく使う。さっきから見ていて分かるとおり、日本では憲法との関係は十分審議して、厳格な要件のもと実質的には災害時の国家緊急権に相当する制度や法律でを制定している」

岩上「素晴らしい。自治体緊急権ですよね。ミクロでやればやるほど、例えば被災者に対するケアや、救命可能性が高まるわけですから、よりいい制度とも言える」

永井「どうしても権限を集中したいというのであれば、一応権力集中にかかわるようなシステムもあるし、人権も十分制約しています。

 何回も戻って申し訳ないのですが、さきほどの国家緊急権の定義を見ていただいたら分かると思うんですが、国家緊急権というのは、立憲的な憲法秩序を一時的に停止して非常措置を取る権限と書いてあるだけで、憲法で定めた権限とは書いていない。法律で定めた国家緊急権というのはあるわけで、後でまた触れますが、例えばフランスの場合、今回発動されたのは法律に基づく非常措置制度で憲法上の国家緊急権じゃない(※97)」

岩上「しかし捜索令状なき捜索を行ったり、かなり強権を発動しています」

永井「日本の場合は法律で国家緊急権に相当する制度は、少なくとも災害に関しては、良い悪いはありますがもう十分認められていると。そういう理解でいいと思います」

岩上「なるほど。実際にはもうかなり強権だって発動できちゃう。部分的にはという話ですね」

永井「そうです」

岩上「だけど、根本的なところまで」

永井「国家緊急権に相当する制度は法律でもう十分制定されています。国家緊急権と言ってもいいと思う」

岩上「もうおなか一杯ってことですよね」

永井「おなか一杯です」

岩上「ちょっと食いすぎじゃないかなというところなのに、まだ貪欲に権力を求めようという。本当に果てしない欲です。西修さんのことをさっき三人のうんぬんと言いましたけど、この人たちは『集団的自衛権行使についてOK』と言っているだけでなくて、『徴兵制もOK』」と言っている。

 ネトウヨのみなさん、よく聞いておいてください。この3奇人の人たちは、あなた方を徴兵するのを『OK』と言っている人たちです。それを忘れないでいただきたい」


(※94)日本には国家緊急権がない:2015年11月19日の産経ニュースでは『西修・駒沢大名誉教授の調査によると、1990~2014年に制定された102カ国の憲法の全てに、国家非常事態に関する規定があった。しかし、日本の憲法にこうした規定はない』とある(産経ニュース、2015年11月19日【URL】http://bit.ly/1qM4cVG)(産経ニュース、2013年8月10日【URL】http://bit.ly/1TctgyC)。

(※95)西修:法学者。駒澤大学名誉教授。防衛法学会名誉理事長。比較憲法学会副理事長。専門は憲法・比較憲法学。2001年4月から2009年3月まで駒澤大学法学研究所所長を務めた。

 改憲を主張する立場から、日本国憲法の制定過程の問題点を多く取り上げた著書もあり、論憲・改憲の立場に立つ「21世紀の日本と憲法」有識者懇談会運営委員長でもある。2007年4月から、日本の集団的自衛権保持の可能性を考える内閣総理大臣の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」有識者委員。平和安全法制についても百地章・長尾一紘と共に合憲の立場を採る(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1NvrpQQ)。

(※96)有名になった例の三人:菅義偉官房長官が「安保法案は合憲」とする憲法学者として名前を挙げた、西修・駒沢大名誉教授、百地章・日本大教授、長尾一紘・中央大名誉教授の3人のこと。

 95%以上の憲法学者が「安保法案は違憲」とする中、「安保法案は合憲」論を主張していた3人は、2015年6月19日の衆院特別委員会で徴兵制について述べ、「徴兵制は違憲」とする政府判断を「間違っている」として「徴兵制合憲論」を主張した。

 3人を推した菅官房長官はこれについて、「徴兵制は憲法上許容されるものではない」と否定した上で「(3人の主張について)知らなかった。あくまでも憲法学者のひとつの意見だろう」と話した。一連の流れについて立正大法学部名誉教授の金子勝氏は「日本は戦争を放棄し、戦力を放棄しているので、徴兵制を問題にすること自体あり得ない」としている(日刊ゲンダイ、2015年6月21日【URL】http://bit.ly/1MWXyRq)。

(※97)フランスの場合、今回発動されたのは法律に基づく非常措置制度で憲法上の国家緊急権じゃない:フランス憲法では国家の非常時、大統領に強大な権限が集中する「非常措置権」や、秩序維持の権限が行政から軍隊に移される戒厳状態が認められているが、今回のパリ同時多発テロにともなって出された「非常事態宣言」はこのどちらでもなく、憲法に明文規定はない。

 この「非常事態宣言」の根拠は1955年に制定された「緊急状態法」という法律であり、アルジェリア独立戦争を受けて制定されたもの(Wikipedia【URL】http://bit.ly/23Pww7R)。

災害時に起きた「双葉病院事件」と「釜石の悲劇」、その原因は事前準備の不備~国家緊急権は災害時には何の役にも立たない、むしろマイナスに働く可能性がある!

永井「そもそも災害に対して国家緊急権が必要なのか、というお話です。災害対策というのは『事前の予防対策、直後の応急対策、事後の復旧対策』の3つに分けられます」

岩上「緊急性の高い時の応急対策の話ばかりしてきましたが、予防も復旧も大事だし、その時に国家緊急権などいるのかというお話ですね」

永井「そのとおりです。国家緊急権が問題になるとすれば直後の応急対策ですよね。でも災害対策の原則は準備してないことにはできない」

岩上「確かに。現実に備蓄してないのに、国家緊急権を定め、雪害で孤立した集落に備蓄しろよと決めたってしょうがない」

永井「災害対策は過去の災害を検証し、これにもとづいて将来の災害を予想し、その効果的な対策を準備することなんです。国家緊急権というのは何かと言えば、災害が発生したのちに、いわば泥縄式に強力な権力で対処する制度です。想定していない事象に対しては、いかに権力を持ってしても対処しえないですよね」

岩上「確かにそのとおりです」

永井「実際に、東日本大震災の件で見ていきましょう。双葉病院事件というのがありました。事案の概要ですが、福島第一原発4.5キロの双葉病院その経営する介護老人保健施設で、高齢患者の440人がいました。避難の最中、寝たきり高齢者180人のうち50人が亡くなった。

 まず3月11日に震災が発生し、停電、断水が起きました。3月12日にはバスが到着して、寝たきり老人は当然動けませんから、移動できない。そこで寝たきりでない方が乗って、バス発進後に1号機が水蒸気爆発し、内閣総理大臣が20キロ圏内に屋内・屋外待避を指示した。

 3月14日の未明までに4人亡くなりました。停電で断水なのでこういうことになってしまう。このままだとまずいと。避難指示も出たということで、寝たきり高齢者のバス移動を決断し、自治体からバスが来たのですが、すごい混乱状態で、どこに行くのか分からない。

 院長先生は、バスが発進したあと、また戻ってくると思って待っていたのですが、ついにバスは戻ってこなかった。院長先生さえ置き去りにされちゃった。そういう混乱状態です。そして行き先不明で発進し、まず行ったのが30キロの保健福祉施設、スクリーニング会場です。

 ここでは、この人たちは収容できないというので、医療施設のあるところで次に行ったのが、いわき市の光洋高校体育館。これは原発から20キロ圏外を迂回したので6時間かかりました。ところがここは医療施設じゃなくもちろん器材、薬品なしということで、移動中・移動後に46人が亡くなりました」

岩上「この6時間に人が亡くなっていく」

永井「バスの中で、亡くなっていた」

岩上「寝たきりの高齢者というのは、とても脆い状態にある」

永井「なぜこんなことが起きたのか。原因ですが、国には『防災基本計画の策定義務』があって、指定行政機関(省庁など)あるいは指定公共機関(日本赤十字など)は、これにしたがって防災業務計画を作らなきゃいけない。都道府県・市町村もこれにしたがって、地域防災計画を作らなければいけない。原子力事業者もこれにしたがって原子力事業防災計画を作らなきゃいけない。指定行政機関や自治体の長は防災教育の実施に務め、防災訓練の実施義務がある。だけど、地震による原発事故は起きないことになっていた」

岩上「え?地震で原発事故が起きないことに?」

永井「地震では、原発事故が起きないということになっていた。そう想定していた。だから病院では地震があった時に屋外に出るというマニュアルしかなかったのです。

 自治体、国、事業者、事故が発生した場合の避難ルートの策定、これは県境を越えた避難ルートの策定、車両をどうやって確保するか、ドライバーをどうやって確保するか、あるいはスクリーニング会場、どこに置くか。逃げた先の避難所をどうするか。高齢者・障害者を収容する避難場所をどうするか。これらについて事前に計画を作って、他の市町村、自治体と連携して、住民が参加した訓練、教育、実施しておくべきだったのに、それがまったくなかった」

岩上「なるほど。これが原因なわけですね。わけても原発事故が起きないという誤った前提」

永井「そうです。つまり、法律や制度は整備されている。ただ、運用についての事前の準備がまったくされていなかった」

岩上「なるほど。原発の無謬(※98)性とか、原発の安全性とか、そういう過度な安全性神話、思い込み。これらによって、きちっと作られていた避難計画のための法的な仕組みが全然機能しなかった」

永井「ですから災害が起こった後、憲法停止しても、何の意味もないんです」

岩上「この後、憲法停止しちゃったとしても、ただどうしようもないよと。無秩序が広がるだけです」

永井「そうです。何の意味もないんです」

岩上「おそらくは、こういうこの事件の状態について報道することをやめさせることだと思います」

永井「そうですね。もう一個例を出しましょうか」

岩上「釜石の悲劇」

永井「釜石の奇跡と、2つあるんですよ。

 悲劇のほうですが、釜石市鵜住居防災センターというところに推定244人が避難して、全員が、ほぼ全員が死亡した事件です。これは、釜石市の死者行方不明者の1000人のうちの4分の1です。

 なぜ、こんなことが起きたのか。これ、避難場所と避難所の違いを知ってほしいわけです。避難場所というのは、災害時に危険を避けるための避難先のことです。津波なんかだと、高台にある。

 対して、避難所というのは危難が去った後の仮の生活の場のことです。これは便利なように平地にあったりします」

岩上「なるほど」

永井「で、この鵜住居防災センターは、平地にあったから避難所だったけど、避難場所ではなかった。避難場所は高台にあったんです。福祉施設で。

 だけど、住民には高齢者が多いから、訓練をやっても参加しない。そこで町内会長さんが、市に対して、高齢者があんな高台に避難するのは大変だから、鵜住居防災センターに避難する訓練をしたいと釜石市の防災課長に言ったら、課長が『いいですよ』と了承して参加率が上昇した。ところが市は、ここが避難場所じゃないことを市民に告知していなかった」

岩上「この鵜住居防災センターが低地にあったということですね。高台ではなかった」

永井「そうです」

岩上「本当は津波が襲った後、津波が引いたあと、ぐしゃぐしゃになった、家がもう潰れて、帰る家がない状態の時、仮の生活の場に使うべきところに避難しちゃったから、津波で持っていかれてしまった」

永井「そうです。平成22年の2月1日に防災センターを設置して、平成23年3月に、この訓練をやった。そうしたら101人集まりました。そして8日後の3月11日に東日本大震災が発生した」

岩上「訓練直後ですね」

永井「推定244人が避難して流されてしまった。不適切な訓練によって、多数の命が失われたわけで、法律や制度の適正な運用がなされなかったことが原因です。憲法止めてもしょうがない」

岩上「憲法止めて、これがどうにかなるのか、という話ですよね。一人一人には人権があるわけです。でもその人権をきちんとやらなかったから、こんなことになったんじゃないか――という異議申し立てができなくなることだけです。基本的人権がもうないからね、みたいな」

永井「そうですね。被災者の人権を守るのが憲法ですから」

岩上「被災者の人権を守りません、という建前にしちゃえば、もう文句は出ないだろうみたいな乱暴な話です」

「釜石の奇跡」~「想定にとらわれるな。ハザードマップも信じるな。最善を尽くせ」、マニュアルの縛られない精神によって、2921人の小中学生が津波を逃れて生きのびた

永井「本当にそういうもんですね。同じ釜石ですが、『釜石の奇跡』と呼ばれる出来事もあった。同じ釜石市で、小中学生2921人が津波から逃れたのです。生存率99.8%でした。さっき、大人がたくさん亡くなったのに、子供は生きのびた。

 なんで、こういうことが起きたのか。釜石東中学の生徒は、地震後すぐに津波が来るぞと叫びながら、避難場所の介護施設に逃げた。逃げる中学生を見て、鵜住居小学校の児童らも後を追いかけ、避難場所に走った。ここも危ないと判断した子供らはさらに高台に避難した。津波は小中学校、介護施設を襲ったけど、子供たちは助かった」

岩上「これは子供たちの判断なんですか」

永井「なぜなんでしょうか。見てみましょう。平成20年ですね。津波教育が実施されていないことに危機感を持った市の教育委員会がアンケートをして、群馬大学の片田敏孝(※99)教授を呼んで話を聞いた。教師たちの意識が変わり、平成22年3月、教師による津波教育の手引きが完成し、防災教育に取り入れました。その翌年、津波があった」

岩上「うわあ、これはすごい、なんというんですかね。劇的な」

永井「そのとおりです。この片田教授の津波避難の三原則の一番目ですが、『①想定にとらわれるな。ハザードマップも信じるな』とあります」

岩上「へえ」

永井「今の、釜石東中学はハザードマップでは浸水区域外だったんです」

岩上「そうだったんだ」

永井「その2です。『②最善を尽くせ。津波が来たら最善を尽くす』と。子供たちはいったん避難場所に行きましたが、さらに上のほうに逃げた」

岩上「つまり最善を尽くすというのは、こういう事前計画があったら、それに従って動くんじゃなくて、現実を見て、自分の頭で判断してこんなもの信じるんじゃねえぞと。これも瞬間的な懐疑の精神ですよね」

永井「そうです。そのとおりです」

岩上「これは、今起きている事態は、今まで教えられたことと違う、と。手順を変えようと自分たちで判断する」

永井「そのとおりです」

岩上「素晴らしいですね」

永井「そうです。よく、『アホにマニュアル持たせるな』っていう話があるんです。マニュアルっていうのは効果的迅速に物事を処理する制度なんだけど、逆にそれにとらわれて失敗しちゃうことがある。片田教授の津波避難の三原則では、それとは逆の考え方を取っている。3番目が、『③率先避難者たれ。一生懸命逃げる姿が周囲の命を救う』と。釜石東中学の生徒が逃げるのを見て、鵜住居小学校の生徒は逃げたわけです」

岩上「さっきの医療者はとどまれという話がありましたけど、医者が逃げるのを見たら患者も逃げますもんね。でも動けない人は別です。動けない人はちゃんと乗せていかなきゃいけない。率先避難者たれというのも大事なのです」

永井「そうです。そのとおりです」

岩上「まず逃げろ。まずお前が逃げろと。そうしたら、他の奴らも助かるという話ですよね」

永井「そうです。要するに、釜石東中学の生徒は、教えを忠実に実行したもので、これは奇跡でもなんでもない。つまり、命を救うのは法律や制度、防災教育、避難訓練の適正な運用による事前の準備です」

岩上「それが大事なんだけれども」

永井「災害後に憲法を停止しても何の意味もないということです」

岩上「何の意味もないですよね」

永井「はい。そういうことです」

岩上「個々人が判断して、最善を尽くせという判断の仕方を、いやいや、国民は国家に服従せよという内容が、逆に、自民党の改憲草案には書かれていた。個人が最善を尽くしたら罰せられるかもしれないような社会にするということじゃないですか。狂っていますね、本当に。あの改憲草案を書いた奴は。こういうこととまったく真逆のことにしようとしてるわけじゃないですか」

永井「そうですね」

岩上「でも、これは素晴らしいですね」

永井「はい。素晴らしいです」

岩上「彼らは本当にこういう入念な準備をしたから、ハザードマップを見ているわけじゃないですか」

永井「そうです」

岩上「ハザードマップすら見ないような、準備も全然してないような人もいるわけですけど、見て準備したうえで、なお今の状況を見て、これはやばいと。避難場所も知っているから、避難場所まで駆け上がったけど、ここでもまずいかもしれないと判断したわけです」

永井「こんなことです。現地に行って見て知っていますからね。そこは」

岩上「いやあ、すごい。やっぱり個々が現場で、つまり局所の知恵というのが一番重要で、遠い、遠方の国家の中心から発せられる命令に従えというのは大間違いだということですよね」

永井「そうですね。要するに災害に関して、国家緊急権は役に立たない」

岩上「あるいは、かえって危険も招くかもしれない」

永井「そうです。おっしゃるとおりです」

岩上「国家への服従を強制するものですけど、国家への服従なんかしている暇はない。生き残るためには」


(※98)無謬:判断に間違いがないこと(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/23Lub1e)。

(※99)片田敏孝:防災研究者。群馬大学工学部社会環境デザイン工学専攻教授。自然災害に対する防災研究、とりわけ、ハザードマップの作成など自然災害のシミュレーションや、災害時の情報伝達などの研究を専門とする。特に、最近は「避難勧告を出しても避難しない人たち」に対する対策の立案研究にも取り組んでいる。岩手県釜石市防災・危機管理アドバイザー(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/20NbDIF)。

国家緊急権は人権を守る制度ではなく、国家を守るために人権を制限する制度~民主党議員の何割かは実は改憲勢力

永井「政治家の方はなんと言っているか。民主党の衆議院議員で元検事の山尾志桜里(※100)さんです。2011年12月1日の衆議院憲法審査会で、『3.11を経験し、いかなる努力をもっても防ぎきれない非常事態が現に起きることを目の当たりにした。非常事態に危機にさらされる国民の生命財産などの人権を守るため、内閣総理大臣に権限を集中して、人権を制約することが必要だ』と語っています」

岩上「最大限人権を尊重するために、内閣総理大臣に権限を集中するんじゃなくて、個々の避難ができるだけスムーズにできるような仕組みを整えておくこと、そうした訓練を積んでおくことが大事なのに、なんでこういうことを言っているんでしょう」

永井「いかなる努力をしても防ぎきれない非常事態じゃない。第1に法の適正な運用による事前の準備を怠ったことが原因だったのです。準備していれば、十分対処できた」

岩上「責任逃れですよね」

永井「2つ目、国家緊急権は人権を守るための制度ではなく、国家を守るために人権を制限する制度なのです。このトリック」

岩上「人権が尊重されている状態だと、いろんな異議申し立てだのなんだのが出てくるからうるさいので、抑え込んじゃおうと。どんな悲劇があっても伝えられない状態がいいんじゃないか」

永井「国家緊急権が災害時に必要だと主張する人たちはみな、このように『災害では予想できない事態が生じる』というような、抽象的な言葉を使います。抽象的な言い方で国家緊急権を導入せよと説いている。

 けれども申し上げたとおり、災害では、国家緊急権は実際には役に立ちません。それでこの抽象的な『予想できない事態』という言い方がよく出てくる。だけど『予想できない事態』とは何か。さきほど、国会議事堂の爆発の話もありましたが、九州が沈んだらどうなるのか、宇宙人が攻めてきたらどうなるのか、あるいは隕石が飛んで来たらどうなるのか。

 そういう到底予想できないことを理由にしてその先に制度を設けたとしたら、さらに予想できないことが出てくる可能性があります。そうしたら、さらにその先にまた予想できないことで制度を設けなきゃいけない。そうすると権力がどんどん強くなり、条項の規定が抽象的になる。それが危険だというので国家緊急権を設けない、というのが日本国憲法の趣旨なんです」

岩上「これは意味がちゃんとあってやっていることで、現行の日本国憲法のほうがはるかに優秀で正しい制度じゃないですか」

永井「そうです」

岩上「しかも現実にそれが立証されている」

永井「そうです。知れば知るほど、日本国憲法はすごい」

岩上「山尾志桜里衆議院議員。検事だったからしょうがないのかもしれませんけど、こういう人間にうっかりと衆議院議員をやらせてしまい、賛成まであと11議席足りないので民主党から何人か転んでくれ、と言われたら転ぶ可能性のあるのが何人かいるわけです」

永井「そうですか」

岩上「います。ゴロゴロいます。この間の1万人も集めた武道館での改憲集会(※101)。櫻井よし子さんがやって。そこに堂々と松原仁(※102)さんが行っていますからね。自民党の改憲草案、憲法改正に賛成と堂々と言っている。そんなの何人もいます」

永井「うわあ」

岩上「うわあですよ。民主党ならすべて安全だなんてとんでもない話です。民主党の何割かを改憲勢力が占めているわけですから」

永井「じゃあ、自民党も行ってみましょうか」


(※100)山尾志桜里:検察官。民進党所属の衆議院議員(2期)。民進党政調会長。2014の衆院選に際する毎日新聞の候補者アンケートでは憲法改正と集団的自衛権の行使には反対であると回答していた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1QTRf2Y)。

(※101)1万人も集めた武道館での改憲集会:2015年11月10日、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が主催した憲法改正派の大規模集会が、日本武道館で開かれた。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は日本会議の田久保忠衛会長(杏林大名誉教授)、ジャーナリストの櫻井よしこ氏らを共同代表とし、昨年10月に発足した。この日の模様をIWJは動画と文章で報じている(朝日新聞、2015年11月11日【URL】http://bit.ly/1ljs6Fl)(IWJ、2015年11月12日【URL】http://bit.ly/1QfI4HZ)(IWJ、2015年11月10日【URL】http://bit.ly/1SeO9H1)。

(※102)松原仁:民進党所属の衆議院議員、民主党国会対策委員長、民主党東京都連会長。南京事件や慰安婦の旧日本軍による組織的・計画的な強制連行を否定している。また、国家公安委員長を務めていた2012年に靖国神社参拝を行ったが、これは2009年の政権交代以来、初の民主党現職閣僚による終戦の日の靖国参拝だった。また、憲法9条の改正や首相による靖国神社参拝に賛成している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1CPuGLf)。

自然災害は絶対に止められないが、テロは政策によって予防できる~テロには常に「偽旗事件」の可能性があり、単純な報復は禁物

永井「その前に少し長くはなるんですが、簡単にテロの話をしても大丈夫でしょうか」

岩上「大丈夫です。テロの話いっちゃいましょう。災害の話、これまでの話は、実は口実に過ぎない。狙いは戦争とか、そっちだろうということで、テロの話は非常に重要だと思うんです」

永井「テロを理由にした国家緊急権です。これは今までの話を聞いてお分かりと思いますが、創設すべきじゃない。一つ目の理由として、憲法政策の話で考えると、テロは自然災害と異なり、当然に発生するものではないので、政策によって予防できるということです。一方、災害は絶対に止められない」

岩上「テロ防止は政策によって可能ですね。イスラム国とケンカ上等とか言ったバカな総理大臣(※103)がいましたね」

永井「大事なのは、まず中立性の維持です。これまでは紛争当事者がいたら、いずれの側も敵・味方にするんじゃなく、いずれの側にも立たないということでやってきた」

岩上「集団的自衛権の行使なんてとんでもない話だと」

永井「その次に、紛争の平和的な解決のためへの時間をかけた努力が大切です。日本が紛争の両当事者を日本に招き、話し合いの場を作るとか、これは最初は相手にされないかもしれないけど、ずーっと声をかけていれば、やはりそれはある程度の信頼関係が出てくる可能性もあるし、他の国にも評価されるし、10年ぐらい経ったら実現するかもしれないし。その時であればテロの原因である紛争自体が解決する。そういう可能性があるわけです。ですから、憲法政策がまず第1だと思います。

 2つ目の理由は、日本国憲法の趣旨ですね。濫用の危険性から国家緊急権は憲法に規定しない。だけど非常事態への対処の必要性から、平常時から厳重な要件で法律で定めておくんだと。このとおりなんです。ですから別に憲法に設ける必要はない。

 3つ目です。テロ対策について、私はテロの専門家じゃないので、あまり大きなことは言えませんが、テロにも災害と同じように、事前の予防と直後の応急対応、事後の復旧復興があると思います。

 おそらく最も重要なのは、事前の予防じゃないかと思うわけです。国家緊急権はテロが発生したのちに権力を集中する方法です。例えばフランスなんかの場合、終わった後に軍隊を投入しています。これは治安の維持にはなるかもしれませんが、起きてしまったテロ自体はもう回復できない。テロは同時多発的に起きますから、事後に権力を集中するという国家緊急権は、性質の上でも効果的なのかなと考えます」

岩上「なるほど。健全な懐疑が重要であるので、私は健全な懐疑者として申し上げておきたいのですが、このテロというものが本当に名指しされている敵によるものなのか、これを常に疑うべきだと。

 テロというのは常に『偽旗作戦』の可能性があって、自作自演が行われる。柳条湖事件(※104)も一種のテロじゃないですか。満鉄の施設を爆破した。ある種のテロ行為で、あれは中国側がやったんだと言って満州事変を起こしていった。独断先行で広げていったわけですけれども、なんてことはない。自作自演もいいとこだった。

 アメリカはトンキン湾事件(*105)を理由に北ベトナムに対して北爆を開始しました。トンキン湾事件はのちに米軍の自作自演だったことが判明しました。常にテロの事件が起きたら、あれは本当かと。たとえば本当にIS(*106)がやったのか、と疑う姿勢が大事です。その時に、言論とか報道を規制することが行われたら、まずもってそれは怪しいと思うべきだし、その怪しいことが9.11以降、ずっと起きている(*107)」

永井「そうですね」

岩上「そうした言論、報道の規制、あるいは対抗的な政治勢力の規制などを伴うような場合は、このテロの当事者が、実は国家そのものであるという実例が現実にあるわけですから。大日本帝国もやらかしたんですから」

永井「そのとおりですね」

岩上「アメリカもやらかしてきた」

永井「そうですね」

岩上「日米でやっているんですから。自分たちの国家権力の強大化を狙って、これを引き起こすという可能性は全然陰謀論ではなく、歴史の事実としてありうるので、これはこういうことが起きたからとパニックを起こして、国家に権力を集中するというのは絶対やっちゃいけないんじゃないかと思ったりしますね」

永井「この対談の最後のほうで詳しく申し上げると思うのですが、実はテロは国家緊急権の対象にはならないんですよ。そのお話はまた後でしましょう」


(※103)イスラム国とケンカ上等とか言ったバカな総理大臣:イスラム国に拘束されていたジャーナリストの後藤健二さんを殺害したとする動画が公表された直後、安倍晋三首相が談話で、「その罪を償わせる」と語り、国内外で波紋を呼んだ。この発言を「報復」の宣言だと受け取った海外メディアも少なくなかったとされている(J-CASTニュース、2015年2月4日【URL】http://bit.ly/1TZI4CZ)。

(※104)柳条湖事件:関東軍の謀略によって起こった、満州事変の発端となる鉄道爆破事件。1931年(昭和6年、民国20年)9月18日、満州(現在の中国東北部)の奉天(現在の瀋陽市)近郊の柳条湖付近で、日本の所有する南満州鉄道の線路が爆破された。関東軍はこれを中国軍による犯行と発表することで、満州における軍事展開およびその占領の口実として利用した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Skm1EB)。

(※105)トンキン湾事件:1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件。これをきっかけに、アメリカ合衆国政府は本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。

 しかし、1971年6月『ニューヨーク・タイムズ』が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手。事件はアメリカ合衆国が仕組んだものだったことを暴露した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1r681ph)。

(※106)IS:Iいわゆるイスラム国。ISはIslamic Stateの略。サラフィー・ジハード主義を標榜し、イラク、シリア周辺地域の国家を自称する武装組織。ISIS:イスラム国は英語圏では「Islamic State of Iraq and Syria」(「イラクとシリアのイスラム国」の意)の名称でも知られていたが、2014年6月29日、イスラム国家の樹立を宣言し、組織名ISIS/ISILの名を廃止して、「Islamic State イスラム国」 を国名として採用すると宣言した。

 ISILが現れた当初から表記は一定していなかったが、ISILが樹立宣言で「イスラム国」を名乗るようになるとその変更に従うメディアと、従わずに従来の表記を使い続けるメディアが混在するようになった。国際連合、日本国政府、アメリカ合衆国連邦政府は「国家としての独立を宣言した、過激派組織を認めない」とする立場から、名称の変更を認めず 「ISIL」 を使用している。戦闘員の人数は最小で3万、最大で15万人との推計もある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1NhPXC7)。

(※107)9.11以降、ずっと起きている:2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件がアメリカによる『偽旗作戦』だったとする意見は少なくなく、今も論争が続いている。背景には、このテロが低迷していたブッシュ政権に高い支持率を与え、アフガニスタン戦争とイラク戦争のきっかけとなり、それが軍需産業へ利益をもたらした経緯がある。またアメリカの政治家ジャック・リンドブラードは、9.11やシャルリー・エブド事件でもそうだったように、パリ同時多発テロ後の現場にパスポートが見つかったことの不自然さを指摘し、『偽旗事件』の可能性を示唆している(Independent、2015年1月15日【URL】http://ind.pn/23cjhyT)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22ELHhQ)。

テロと国家緊急権に関する制度は充実しているので、現行憲法で問題ない~そもそもテロは国家緊急権の発動に当たらない

永井「ではテロと国家緊急権の関係における法律の制度についてです。法律が現状どうなっているか。見てみると実際はわりと整備されている」

岩上「かなりある」

永井「『国民保護法(※108)』、これには異論が色々あります。武力攻撃事態の時に対処する法律ですが、武力攻撃事態に関する面で言うと、色々異論がある。現にある法律なのでよく見てみると、実はテロ対策基本法の性質があるわけです。これと『武力攻撃事態国民安全確保法』、両方合わせると、実はテロ対策基本法に近い面があって、これは『災害対策基本法』と『災害救助法』を手本に作ってあります。武力攻撃事態については、これは大きな話ですが、その中で『緊急対処事態』とある。実はこれはテロの話なんですけど」

岩上「テロも局所的なもんですからね」

永井「そうですね。そのことに関して、条文の一部だけポンポンと適用されるようになっている。統治機構に関して言うと、また権力の集中がわりとあるのですが、『災害対策本部長(内閣総理大臣)は、都道府県知事に対して、措置を取ることを指示できる』と指示権があったり、あるいは『市町村長および指定公共機関は、情報を速やかに届け、県知事に報告して、都道府県知事はこの情報を速やかに総務大臣に報告して、総務大臣は速やかに対策本部長に報告する』。

 要するに、情報が集中するようになっているわけですね。あるいは、『対策本部長は緊急の必要があると認める時は、防衛大臣に自衛隊の派遣を求めることができる』。この派遣というのは治安出動じゃなくて、被災者の救護、そういうことですね。実は人権に関する強制権もある」

岩上「強制権もあるんだ」

永井「まず(ア)として『避難・誘導・交通』についてです。

 『都道府県公安委員会は、緊急車両など以外の車両の道路の通行を禁止し、または制限することができる』。あるいは、『避難住民を誘導する者(職員、消防職員、自衛官等)は、必要な指示または警告ができる。また、危険な場所への立ち入りを禁止し、退去させ、車両その他の物件の除去などをすることができる』。それから、『都道府県知事または市町村長は運送業者である指定公共機関または指定地方公共機関に避難住民の運送を求めることができる』。

 さっきの財産権とか、あれに近いこと。(イ)『知事の強制権』です。

 『①救援の実施に必要な物資、医薬品、食品などで生産、販売、輸送などを業とする者の取り扱い品は、所有者に売り渡しを要請し、収用し、保管を命ずることができる』。あるいは、『②避難民などの収容施設または医療施設のための土地、家屋等を所有者、占有者の同意を得て使用し、または一定の場合、同意を得ずに使用できる』と。その③として『①収用、保管命令、②の土地等の使用のため職員を立ち入り検査をさせることができる』と。

 ここらへんは罰則ないですけど。『医師、看護師などの医療関係者に医療の実施を要請できる。一定の場合は指示できる』。さっきみたいに命令じゃなく、これも罰則ない。ちょっと軽いですが、こういうところがある。

 あとは『刑罰法規、爆発物取締規則、刑法、ハイジャック防止法』、あるいは事前に資金を断つというんで、『テロ資金提供処罰法、組織犯罪処罰犯罪収益規制法』。こういうのがあるんですね。現行法は一応、応急対応、復旧には対処するが予防は充分といえるのか、と。もし法律が足りないというなら、予防に関する法律、そうしたものを作ることは考えてもいいかな、という程度だと思うんです」

岩上「でもこれを『OK』というと、共謀罪(※109)をやらかしかねないから、怖い」

永井「だから、ここについては、現行憲法のもとでということで」

岩上「ですよね」

永井「共謀罪の話があるからね」

岩上「あれは内面の自由を奪うような話じゃないですか」

永井「あれはテロと本来関係ない話なんですよね」

岩上「ですよね。共謀罪について言えば、たとえば誰でも上司の悪口ぐらい言う可能性はあるわけです。酔っぱらって。『あいつの頭一発かち割ってやりたいな』なんて飲み屋で言って、『そうだな』と言ってそれで処罰されたら大変じゃないですか」

永井「予防は十分といえるかという点でも、現行憲法の、例えば表現の自由とか人権、特に人身の自由、要するに刑事手続き。そういうものに関しては安直に緩和するようなことは絶対にやっちゃいけない」

岩上「そうですよね」

永井「さきほど少し触れましたが、そもそもテロが国家緊急権の発動の場合に当たるのかというと、実は当たらないんですよ」

岩上「当たらない?」

永井「当たらない」

岩上「国家緊急権とテロがかなり結びついたかたちで、みなさんの頭に叩き込まれていると言ってたんだけど、入らない」

永井「入らない。国家緊急権の定義でいえば、平常時の統治機能では対処できない非常事態の場合、実施されるわけですよね。

 平常時の統治機構、これはさきほど言いましたが、たとえば国民が国会議員を選挙で選出する、国会が法律を作る、内閣が法律を執行する、裁判所が法律で裁判する、ということですよね。テロというのは単なる犯罪ですから『平常時の統治機構』は機能している」

岩上「確かに。警察なんて全然ぴんぴんしている」

永井「そうです。国家緊急権の適用場面じゃないんです」

岩上「なるほど。この点はうっかりすると忘れてしまいそうですね。素晴らしい。これ本当に、うっかりすると、『そうだよね』と言ってしまいがちな点ですよね」


(※108)国民保護法 :正式には「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」。武力攻撃事態等において、武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活等に及ぼす影響を最小にするための、国・地方公共団体等の責務、避難・救援・武力攻撃災害への対処等の措置が規定された法律(参考:内閣官房国民保護ポータルサイト【URL】http://bit.ly/1U6HKlG)。

(※109)共謀罪:2000(平成12)年11月に国際連合総会で採択された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国際組織犯罪防止条約)が、重大な犯罪の共謀、資金洗浄(マネー・ロンダリング)、司法妨害などを犯罪とすることを締約国に義務づけた。このため同条約の義務を履行しこれを締結するための法整備の一環として、本法を改正して組織的な犯罪の共謀罪を創設する提案がなされたが、2005年8月の衆議院解散により廃案。同年の特別国会に再提出され、審議入りしたが、2009年7月21日衆院解散によりふたたび廃案となった。共謀罪の創設によって主要な犯罪類型のほとんどが、実行行為が存在しなくても処罰可能となる。そのため従来の刑法学の基本的発想が崩れてしまう可能性があるとして反対意見も多い(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1U1fS2u)。

オウムのサリン事件でも広島・長崎の核爆弾投下でも統治機構は動いていた~戦争や内乱、恐慌を口実に国家緊急権を設けるするのはもはや国家犯罪

永井「すいません、もう一度、冒頭に紹介した国家緊急権の定義のパワーポイントに戻ってくれますか。はい。『国家緊急権とは、戦争・内乱・恐慌ないし大規模な自然災害など』と書いてあります。テロとは書いていません」

岩上「なるほど。テロは犯罪ですからね」

永井「そうです。ただの犯罪です。対象となるのは、『平常時の統治機構をもってしては対処できない非常事態』です。ですからこれにテロは含まれない。これは別に私の意見じゃなく、高名な憲法学者に何人もヒアリングしていますが『テロは入らない』ということでした」

岩上「やっぱり911以降、テロ=WARというふうに結びつける。あれは事故が起こった直後からWAR、WAR、WARというふうにFOXテレビ(※110)なんかが言って、そのままなだれ込むように、愛国者法(※111)などが制定され、2001年からのアフガニスタン紛争(※112)につながっていったわけです。

 あっという間に一種のパニック的な心理を利用して、アメリカの国権強化、そして二つの戦争、アフガン、イラク戦争(※113)。イラク戦争に至っては、もう本当に滅茶苦茶な理由で突っ込んでいったわけですけど、そういうことをするために国権を強化し、テロを口実として利用する。どうもそうしたきらいがある。この自民党の改憲草案を導入経緯から見ているとですね」

永井「そのとおりです。だから、国家緊急権というのはもちろん、日本国憲法では否定されていますが、仮に肯定する立場に立ったとしても、平常時のシステム、統治システムでは対処できない時の例外的場合です。テロはただの犯罪ですから、全然例外事情ではない」

岩上「地下鉄サリン事件(※114)はテロでしたよね。中枢が狙われました。しかしじゃあ警視庁は機能停止に陥ったか。全然陥らなかった。もちろんあのようなことを見逃してしまったのは失敗だったかもしれないけれども、もっと早いうちに、オウムの危険性を察知でき、実行させないほうがよかったかもしれない。

 松本サリン事件(※115)で気づいていればよかったかもしれないけれども、ああいうことが起きてもなおきちんとオウムの教団に捜査が入って、壊滅させてきたわけですから。そういうことを考えてみたら、対処できるじゃないのということですよね」

永井「統治機構はふつうに動いていましたから」

岩上「そうですよね。それから、例えばオウムは国内にいるけれども、じゃあISだったらどうよという話になる。その場合は確かに問われるかもしれないけれど、だからと言って国内のすべての人権を停止にしたらISのテロが防げるるのか、という話です」

永井「ちゃんと統治機構は動いています。国会は要するに議員も選挙もあり、国会は法律を作り、内閣は法律を執行し、裁判所は裁判をする。これが通常の平常時の統治機構ですから」

岩上「それを止めてしまうって話ですからね。国家緊急権っていうのは」

永井「それはもうむちゃくちゃなことが起きた場合、さっきも言いましたけど、関東大震災の時にも内閣などはちゃんと動いていた、平常時の統治機構が動いていた。第二次世界大戦の時でさえ動いていた」

岩上「太平洋戦争末期、あれほど空襲が雨あられと降り注ぎ、広島長崎に核爆弾2発落とされて。だけどあの当時のあの時代の統治機構は動いていた」

永井「そうです。だから本当によっぽどの場合なんです」

岩上「よく考えてみると、全然いらないじゃないかという話ですね」

永井「大阪大学名誉教授の棟居快行(※116)先生は、これ全部当たらないとおっしゃっています」

岩上「なるほど。結局のところ、実際必要だという論理はいらなくて、戦争とか内乱とか恐慌を口実に国家が権力を収奪したいというか、一手に握りたいというためにあるのであって、それは国家側の犯罪じゃないですか。権力者側の犯罪なのであって、権力の犯罪類型にこれは入れたほうがいいんじゃないですか。権力犯罪の一つとして国家緊急権を要請するという。国家緊急権を求めるなどということは国家犯罪であると。国家による犯罪であるというふうに考えると、すっきりするんじゃないかという気がしてきました。ちょっと先にまいります」


(※110)FOXテレビ:アメリカ合衆国のニュース専門放送局である。1996年にメディア王のルパート・マードック所有のニューズ・コーポレーション(現21世紀フォックス)が、当時NBCの経営者ロジャー・アイレスを社長にして設立。保守的・共和党寄りであり、2000年代前半には視聴率競争でCNNを打ち破り、「FOX効果」が注目された。

 ルパート・マードックの意向もあってアメリカ同時多発テロ事件を機に、愛国心一色の報道姿勢を明確にした。イラク戦争の放送ではCNNより多くの視聴者を獲得している。

 Newsweekでは、ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)がFOXニュースの偏向報道を批判する記事を書いた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1U1fS2u)(Newsweek、2009年10月19日【URL】http://bit.ly/1r8F63Y)。

(※111)愛国者法:正式名称は『2001年のテロリズムの阻止と回避のために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを統合し強化するための法律』(英: Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism Act of 2001)。通称は愛国者法であり、正式名称の頭文字をとってPatriot Actとして知られる。2001年10月26日、ジョージ・W・ブッシュ大統領によって署名され、発効したアメリカ合衆国の議会制定法。

 愛国者法は、テロリストによる2001年9月11日の攻撃に対応するため、特に法執行機関のアメリカ国内における情報の収集に関する規制を緩和し、財務長官が持っている資産の移動、特に外国の個人または存在が関与している場合、に対する規制の権限を強化し、当局がテロ行為に関係があると疑われる人物の拘留または移民を国外に追放するための規制を緩和するもの。

 同法施行後、アメリカ政府は国内で交わされる全通信に対して、当局による盗聴を開始。国民の個人情報は一元化され、約5億6千万件のデータ・ベースを50の政府機関が共有した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1U1fS2u)。

(※112)2001年からのアフガニスタン紛争:アフガニスタンで断続的に発生している紛争のうち、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の首謀者として指定されたアルカイダの引き渡しに応じなかったタリバン政権に対し、アメリカ合衆国が主導する有志連合諸国および北部同盟(2001年以降はアフガニスタン暫定政府、2004年以降はアフガニスタン政府)がアフガニスタンにおいてタリバン勢力、アルカイダ、その他武力集団との間で行っている武力衝突。

 この攻撃はアメリカ合衆国政府によって「対テロ戦争」の一環と位置づけられ、国際的なテロの危機を防ぐための防衛戦として行われた。イギリスを始め多くの国がこのアメリカ政府の攻撃に賛同した。この対テロ戦争の動きは更に、イラン、イラク、北朝鮮の3ヵ国を悪の枢軸であるとするブッシュ米大統領の発言に発展し、2003年3月にはイラク戦争が始まった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1VxiRBv)。

(※113)イラク戦争:アメリカ合衆国が主体となり2003年3月20日から、イギリス、オーストラリアと、工兵部隊を派遣したポーランド等が加わる有志連合によって、イラク武装解除問題の進展義務違反を理由とする『イラクの自由作戦』の名の下に、イラクへ侵攻したことで始まった軍事介入。

 ブッシュ大統領は2002年初頭の一般教書演説において悪の枢軸発言を行い、イラク、イラン、北朝鮮は大量破壊兵器を保有するテロ支援国家であると名指しで非難した。特にイラクに対しては、長年要求し続けた軍縮の進展の遅さと、大量破壊兵器の拡散の危険を重視し、2002年に入って政府関連施設などの査察を繰り返し要求した。

 なお、米英が主張した開戦事由は、「イラクは大量破壊兵器の保有を過去公言し、かつ現在もその保有の可能性があり、世界の安保環境を脅かしている」。「独裁者サッダーム・フセインが国内でクルド人を弾圧するなど多くの圧政を行っている」。「フセインとアルカイダが協力関係にある可能性がある」などだった。

 しかし終結後、大量破壊兵器はイラクで確認できなかった。ブッシュ政権は、開戦の理由はイラクが大量破壊兵器の保有に対する無条件査察を認めないことであり、イラク国内に大量破壊兵器が存在するからという理由ではないと主張したが、開戦前にブッシュ大統領やチェイニー副大統領が「イラクは大量破壊兵器を保有している」とメディアを通して繰り返し広言したため、大量破壊兵器が発見されなかったことでこの戦争の『大義』が失われたという批判が巻き起こった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qAF6ZD)。

(※114)地下鉄サリン事件:1995年(平成7年)3月20日に、東京都の帝都高速度交通営団で、宗教団体のオウム真理教が起こした神経ガスのサリンを使用した同時多発テロ事件。霞が関や国会議事堂・永田町など、国家の中核を支える重要な地点が標的にされた。

 1994年(平成6年)に発生した松本サリン事件に続き、大都市で一般市民に対して化学兵器が使用された史上初のテロ事件として全世界に衝撃を与え、世界中の治安関係者を震撼させた。

 オウム真理教教団は、地下鉄で通勤してくる警察官が多い警視庁本庁も間接的に攻撃できると考えていたとされている。乗客や駅員ら13人が死亡、負傷者数約6,300人。事件から2日後の3月22日、警視庁は新興宗教団体オウム真理教に対する強制捜査を実施し。事件への関与が判明した教団の幹部クラスの信者が逮捕され、林郁夫の自供がきっかけとなって全容が明らかになり、5月16日に教団教祖の麻原彰晃が事件の首謀者として逮捕された。

 2010年(平成22年)2月22日、共同通信は、事件当時の警察庁長官だった国松孝次が地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人である高橋シズヱのインタビューに答えて「警察当局は、オウム真理教が3月22日の強制捜査を予期して何らかのかく乱工作に出るという情報を事件の数日前に得ていた」と発言した報道を配信。国松は「情報に具体性がない」ために予防措置を講じることは不可能だったとの認識を示しているが、共同通信は「当時の捜査があらためて問われそうだ」としている。

 なお、事件の2日後の3月22日に予定されていた教団施設への一斉捜索に備え、地下鉄サリン事件の直前の教団幹部の動きはすべて警察によって把握されていたはずだとも言われている。さらに、事件前日に自衛隊が朝霞駐屯地でガスマスクを着けてサリンに対応した捜索の演習を行っており、警察は地下鉄サリン事件が起こる前にオウムがサリンを持っていることを把握していたはずだという指摘がなされている。

 この事件後、全国の多くの駅ごみ箱が撤去され、営団地下鉄はこれ以降全車両のドアに「お願い 駅構内または車内等で不審物・不審者を発見した場合は、直ちにお近くの駅係員または乗務員にお知らせ下さい」という文面の警告ステッカーが貼りつけられた(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qAF6ZD)。

(※115)松本サリン事件:1994年(平成6年)6月27日に日本の長野県松本市で発生したテロ事件。警察庁における事件の正式名称は、松本市内における毒物使用多数殺人事件。

 オウム真理教教徒らにより、神経ガスのサリンが散布されたもので、被害者は死者8人、重軽傷者660人に及んだ。戦争状態にない国において、サリンのような化学兵器クラスの毒物が一般市民に対して無差別に使用された世界初の事例であり、同じくオウム真理教による地下鉄サリン事件を除けばその後も類がない。

 無実の人間が半ば公然と犯人として扱われてしまった冤罪未遂事件報道被害事件でもあった。背景には、ずさんな捜査を実施した警察とマスコミのなれ合いがあったとも言われている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qAF6ZD)。

(※116)棟居快行:憲法学者。国立国会図書館専門調査員(主任)。成城大学法学部教授、北海道大学大学院法学研究科教授を経て、2006年10月大阪大学大学院高等司法研究科教授に就任。現在は名誉教授。専門は憲法(特に人権論)。関西学院大における国家緊急権を考える勉強会に呼ばれた際には、棟居氏は「国家緊急権とは、憲法を超えた存在である」と位置づけた。また、「国家緊急権が創設されたところで、災害が起きて実際に動くのは地元の人、その場の判断で動くので、本当に権利を行使できるかは難しい」と話した。

 また棟居氏が、平成24年5月30日(水)に行われた、第6回参議院憲法審査会に参考人として招致された際、自然災害防止や災害復興を行う国家と、国民の権利行使の調整主体としての国家とは相入れない緊張関係に立つという認識を示した。また、憲法第十三条に規定する幸福追求権の規定内容に生命、自由、幸福追求の順で価値の序列を設け、防災や復興のために人権制約が行われる場合にはこの序列にしたがってなされることが必要だと述べている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qAJacl)(参考:関学新月tribune【URL】http://bit.ly/1NwECZE)(参考:参議院憲法審査会【URL】http://bit.ly/1U1rUJg)。

今回フランスは緊急状態法という法律を適用しているだけで憲法上の国家緊急権を発動しているわけではない~言論の自由・表現の自由を停止する緊急権には思考停止を招く側面が

永井「では、フランスの場合はどうか。分類で言うと、『憲法上の国家緊急権』と『法律による国家緊急権』があるという言い方がされるのですが、要するに憲法上の国家緊急権というのは大統領の非常措置権ですね。あるいは『合囲状態』というのがあって、『法律による国家緊急権』で『緊急状態法』があるという言い方がなされるんですけど」

岩上「『合囲』というのは珍しい字ですけど、合わせて囲む、どういう意味でしょうか」

永井「これは戒厳ということです」

岩上「そういう意味なんですか」

永井「要するに『大統領緊急措置権』というのはものすごいスーパー大権で、ドゴール大統領(※117)が一回行使した(※118)だけです。こっちの戒厳も、憲法制定されて一度も実施されたことがない。これを国家緊急権という言い方をする人もいますが、要するに緊急状態法という法律を適用することなんです。だから別に憲法上の国家緊急権は発動していない。テロの場合は。

 だから例えば、この戒厳の時というのはどういう時かというと、大日本帝国憲法の時みたいに戦争あるいは武力による内乱の場合に適用される。ですから元々国家緊急権の対象になっていない。法律によってテロは規制されている。フランスでも、ということです。

 『公の秩序に対する重大な脅威の切迫した危険』、これは武力による内乱に至る以前のものということだと思います。あと、『公の災害の性質の事件の場合に、大臣会議を経たデクレ(執行決定)で宣言』されます。『車両の通行禁止、滞在が規制される安全地帯の設定、滞在の禁止、居所指定、一定の集会禁止、デクレまたは法律で家宅捜索、新聞、出版、放送の規制可能』であると」

岩上「ここが怖いんです」

永井「『日本でも、令状なしの捜索、集会の禁止の意見』があるけど、だけどこの緊急状態法も、ここに書かれている要件をみれば分かるように、テロよりも大きなものを対象にしている。ですから実質的には内乱、武力の衝突による内乱には至らないような、例えば暴動などのようなことも対象にしているのではないかと思われるわけです。ですからテロよりも広い色々な規制が敷かれているのではないかと思いますね」

岩上「とにかく日本の近代では西南の役(※119)ぐらいしか思いつくものはないと」

永井「そうそう」

岩上「という話ですよね」

永井「だから、日本で法律でテロに対処するとしても、単純に同じようなものをそのまま導入することはできない。それから異議申し立て手続きがあります。テロの場合でも令状なしの捜索とか集会禁止が本当に必要なのか。立法事実(※120)というのは法律の正当性を支える社会的事実ですけど、そういうものが」

岩上「集会を禁止する必要性はないじゃないですか」

永井「ないですね。令状なしの捜索だって必要性がない」

岩上「そうですよね。令状もってやればいいじゃないか、という話です」

永井「そうです。人身の自由、表現の自由の趣旨――日本国憲法の人身の自由というのは刑事手続きにおいては、国家との関係で最も人権が制約されてきた。だから令状主義で、裁判所が事前に発行した場合、初めて対応ができると。そういう形で人身の自由を保障しているわけですから、簡単にこれを変えることは間違いです。

 表現の自由だって、民主主義社会の根幹をなすわけですから、簡単に他国のものを安直に真似してはいけない。やっちゃいけない」

岩上「だから今フランスで行われているということは重大な問題をはらんでいます。あれは、フランスがやっているから、うちでやってもいいだろうというのは、とんでもない話です。よくよく批判的な検討を加える必要がある。あまりまだ行われていませんが、あの直後に戦争と、空襲と結びつける、空爆の正当性と結びつけて、オランドはシリアに対して空爆を行なっている(※121)わけじゃないですか。

 だから、戦争を自分たちが主体的に起こすことの積極的な理由として、あの事件を利用している側面だってあるわけですよ。過去の事実に遡ってみて考えた時、先ほどの柳条湖とか、あるいはトンキン湾事件などを含めて考えると、後々、歴史的に本当に裁かれる可能性もある。あれは正しかったのか。あんな非常事態宣言は正しかったのかと言われる可能性ありますよね」

永井「あります」

岩上「相当慎重にやるべきですよね」

永井「今回フランスで軍隊を派遣したり、あるいは大統領府に要人を集めたりしていますが、わりとデモンストレーション的なところがある。テロを防げなかったことを、あれでごまかしているような感じです」

岩上「強権的な態度を見せて」

永井「こう言ったら失礼になるかもしれないけど。そういうふうに見えなくもない。だから、要するにこの程度で足りるところをここまで広げちゃっているように見えるのです」

岩上「『偽旗作戦』でなくても、『偽旗作戦』を疑われても仕方ないような事案なんです。そうでなく、あれが本当にISが起こした事件だとしても、相当疑うべきところがあるわけです。ISだってすぐ犯行声明出していませんでしたし、なによりもあれをやることによる彼らの利益ってなんなんだということを考えると、とても利益なんて考えられない。空爆を呼び込むだけなんですから。

 だからバカみたいな話ですよ。誰の利益なのあのテロ行為は、という話です。そういう意味で非常にクエスチョンマークがつく。冷静に検討しなきゃいけないことなのに、その冷静な検討をしないことのために、緊急権が使われている気がしてならない。

 さらにはそこで軽率な行為がたくさん続き、重ねられているんですが、テロに対する反撃による損害について誰が責任を持つのか。もしその反撃が誤解だということに気づいたら、誰が償うのか、本当に一つのテロから連鎖的にカウンター攻撃みたいなことをやった時に、あ、間違ってました、で済む話じゃない」

永井「そのとおりですよね」

岩上「すさまじい問題をはらんでる。思考停止におとしいれるための緊急権という側面があるじゃないですか。この国家緊急権っていうのは」

永井「そうですね」

岩上「言論の自由、表現の自由、こういうものを停止するということは思考停止に陥るということですよね。社会がね。だから非常にこれは危険。真似るべきことではないという気がしますね」

永井「凶悪な犯罪が起きた時には、やはり規制する側に国民の意思とか、為政者も回りやすいわけですけど、やっぱりそういう時に冷静に判断しなければいけないと思います」

岩上「冤罪の可能性ってありますから」

永井「ありますから、本当に」

岩上「その時に、逆にものすごく攻撃をかけていろんな人を殺していった時に、それらは全部間違いでしたといった時に、原状回復なんかできないわけですからね」

永井「そのとおりですね」

岩上「フランスの空爆によって、今たくさんのシリア人が命を落としている。しかし、それは正しかったのと後で言われたらどうするのかという話ですよね」

永井「ですからもう一度確認すると、テロに関していえば、そもそもが国家緊急権を肯定する見解であったとしても、国家緊急権が発動されるべき場面ではない。加えて言えば、日本国憲法の趣旨からすると、国家緊急権なんか設けるべきではもちろんない。フランスでは何か色々と言っていますが、フランスは法律による緊急事態の規定を適用しているだけです。フランス自体が憲法上の国家緊急権を持っていますけど、別にそれを発動しているわけではない。そういうことです」

岩上「そこをよくよく考えなければいけない」


(※117)ド・ゴール:フランスの陸軍軍人、政治家。フランス第18代大統領。第二次世界大戦においては本国失陥後ロンドンに亡命政府・自由フランスを樹立し、レジスタンスとともに大戦を戦った。戦後すぐに首相に就任した後、1959年には大統領に就任して第五共和政を開始し、アルジェリア戦争で混乱に陥っていたフランスを立て直している。

 シャルル・ド・ゴールの思想と行動を基盤にしたフランスの保守派政治イデオロギーをド・ゴール主義と言う。ド・ゴール主義の主張は外国、主に英米の影響力から脱し、フランスの独自性を追求することであり、またド・ゴール主義は哲学的な形で社会や経済にも及んでおり、政府による市場や経済への積極的な介入を志向している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Llm3q6)。

(※118)ド・ゴール大統領が一回行使した:1961年のアルジェリア危機の際、ド・ゴール大統領はこの非常措置権を行使したが、内乱が終息して5か月を経ても非常措置権を解除しなかった。

 弁護士の海渡雄一氏はこの時のことを例にあげ、緊急事態条項は濫用される危険性があり、権力の座にあるものに抑制が欠けているときには、立憲主義を崩壊させる劇薬になりうると述べ、自民党の改憲案を批判している(News For the People In Japan、2016年1月26日【URL】http://bit.ly/1Qh0s3l

(※119)西南の役:1877年(明治10年)に現在の熊本県・宮崎県・大分県・鹿児島県において西郷隆盛を盟主にして起こった士族による武力反乱。明治初期に起こった一連の士族反乱の中でも最大規模のもので、2016年現在でも日本国内で最後の内戦となっている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Smfd9x)。

(※120)立法事実:法律の制定を根拠付け、法律の合理性を支える社会的・経済的・文化的な一般事実(参照:弁護士ドットコム【URL】http://bit.ly/1VcPBzq)。

(※121)あの直後に戦争と、空襲と結びつける、空爆の正当性と結びつけて、オランドはシリアに対して空爆を行なっている:パリ同時多発テロの実行犯はイスラム国を標的とするシリア空爆への仏軍参加について批判していた。

 フランスは9月、シリア内戦や難民・移民流入問題の打開が見通せないのを受け、イラクに限定していた空爆をシリアに拡大。それが今回のテロの引き金になった可能性があるとの見方がある。

 一方、オランド政権は市民が無差別に狙われたテロを、シリア空爆参加の報復ではなく、「自由」「平等」「博愛」との国の根幹をなす価値観への挑戦とみており、そのため国民生活に一定の制約を課すことになっても、「戦い」に打ち勝たねばならないとの判断をしている(産経ニュース、2015年11月15日【URL】http://bit.ly/26a5kms)(産経ニュース、2015年11月22日【URL】http://bit.ly/1Qh7pkX)。

国家緊急権濫用の4つの危険性――閣議決定が法律に代わってしまいかねない~緊急措置の期間制限に規定がない自民党案では、期間が恒久的に延びてしまう危険性が

岩上「次は、国家緊急権が濫用される危険性について、お話いただけますでしょうか」

永井「はい。『濫用の危険』です。国家緊急権の濫用の危険性は四つあると最初のほうで申し上げました。その見方で見ると、第一に『目的の不当性』の可能性がある。

 要するに国家緊急権の要件を法律で定められる、としているわけです。つまり憲法で限定的に列挙するのではなく、国会の過半数で決められる。そうするといくらでも後から中に入れられる。憲法で列挙する場合には、憲法の改正手続きを取らなきゃいけない」

岩上「非常に厳しいわけです」

永井「厳しくなるわけです。そうすると、例えばテロも入れてしまう。先ほども言いましたけれども、国家緊急権がそもそも発動される場面ではないのにテロも対象に入れてしまう。あるいは大規模なストライキ、あるいは集団示威運動。デモが大規模にあったとか、こんなことまで過半数の決議で入れちゃう。どんどん適用範囲を拡大できちゃうことになる」

岩上「金曜日官邸前抗議行動であるとか、これは反原発ですね。首都圏反原発連合(※122)が主催してきて、一時期は大変な人を集めました。あるいはSEALDsが安保法制に対して反対の呼びかけをして多くの国民が集まった。学者の会、ママの会、そうした人たちも一緒に、あるいは総がかりも一緒になって、この安保法制に反対の声をあげました。デモはテロだと言った政治家もいましたけども。そういう扱いになりかねない」

永井「そうですね」

岩上「集会の自由が制約される恐れがある」

永井「集会の自由自体が、表現の自由です。それが制限されるだけじゃなくて、簡単に国家緊急権が発動できるようになってしまう」

岩上「これを理由に、じゃあ国家緊急権しいちゃうもんねと言ったら、デモには人っ子一人いなくなる。民衆は声を上げることもできない。ウッともアッとも言えない。とんでもない」

永井「とんでもないです」

岩上「次に緊急措置の期間ですね」

永井「さっき申し上げましたけど、期間について。自民党案には期間の制限の規定がない」

岩上「すごいことですよね」

永井「例えば10日以内のあいだに、とか、国会の承認を10日以内に受けるまでは、とか、そういう限定がないんですね。期間というのは本来厳格に定められなきゃいけない。それなのにこの自民党案だといつまでもできてしまうことになる」

岩上「恒久。緊急じゃなく、恒久的な状態になる可能性がある」

永井「そういうことです。しかも、『100日を基準に継続すること』を予定している。100日ってあまりにも長すぎるわけです。参議院の緊急集会すら請求できない場合に本来実施すべきことなんですね。

 参議院の緊急集会は過去に2回開催されています(※123)が、最初は請求されてから5日目です。2回目は、請求されてから4日目に開催されています。だから本当に短い期間にならなきゃおかしいはずなのに、100日間というのはあまりにも長すぎる」

岩上「そしてこれをさらに延ばすこともできるわけです」

永井「そうです。要するに更新できますから、100日で更新してさらに100日、さらに100日と。一個の単位が長すぎますけども、そういうことができる。そうすると何年もできることになってしまう」

岩上「その間に法律を変えるなり、なんなりして、これをもっともっと恒久的なものにすることだってできなくない」

永井「要するに閣議の決定で、法律に代わるものができてしまう」

岩上「政令で出せるわけですから」

永井「そうですね。よく言われるのは、いや、だけど、日本は議員内閣制を持っているんだから、そしたら、国会で法律を作るとしても、それは国会の多数派が内閣を構成するわけだから、内閣が提出する法案が結局は国会で通っちゃう、内閣が作る政令が法律と同じ効力を持っていても、同じじゃないのか、と意見を言う人がいる。でもそれは全然違います。

 この前の安保法制の時を思い出していただければ分かると思います。国会では、圧倒的多数の与党がいた。でもあの時何が起きていたか。政府の答弁の態度、ああいうのを見て、国民の世論がだんだんだんだん、国会の状態を見ておかしいじゃないかと湧き上がってきて、あれだけの運動になった。あるいは国会での質問で事実がいっぱい分かってきた。あるいはあの国会に法案提出する前に国会での審議を予想して、あそこで法案のいろんな検討修正がなされている。つまり国会であれが出たおかげで国民の世論が喚起され、国民も関心が持て、しかも情報が収集でき、さらに野党の方向を向いた修正がなされた(※124)。

 ところがこれがもし内閣で政令を制定し、それが法律と同じということになったとしたら、閣議決定で国民が知らない間にできちゃうことになります。つまり何の情報も出てこない。国民の世論も形成されないということになって、全く違うことになってしまう」

岩上「国会は必要ないという話になっちゃいますもんね。内閣を形成するために国会が必要で、でも内閣が作られたらあとは国会がいらないんだと。でも本当は前に良かれと思っていても、情報が更新されたら、ちょっと待てよ、違うんじゃないかって、みなさん考えを改める自由もあって、色々意見を変える自由もあって、意見を交換しあったり討論をする自由もあって、そのあげくに、いややっぱり間違っていたなと態度を改める自由もあるわけです。

 投票時の考えと、それから国会が進んでいくうちに、新聞を読んでるうちに、あるいはIWJを見ているうちに考えが変わることがあっていいわけで。先生との対論によって、小林節先生が考えを改めた。改める自由がある」

永井「そのとおりです」

岩上「例えば小林さんがある時点で態度を決定したら、その後それがずっと続かなきゃいけないという、そういう理屈じゃないですもんね。だから投票時、その国会の議席配分が決まり、誰が首班に指名されるか。それはある時点での世論の決定、意思が反映されているのだろうけど、その後にもやっぱり変化は起こりうるわけで。だから国会の意味があるわけです」

永井「そうです。そこに議会の意味があるわけです。少数派が多数派になる可能性もある。少数派の意見を入れて多数意見が変更されることもある。その討議というのは、そうやって国民の意思が反映されていくわけですから、それ自体を捨ててしまうというのは民主主義に反するし、もちろん権力分立にも反する」

岩上「社会を思考停止状態にしてしまうようなものなんです、これが。本質的に」

永井「そうですね」

岩上「どこかある時点の思考停止で、そこから先はもう考えない。怖いですね。そして過度の権力の集中と人権の制約。これもさんざんお話をしてきた話でありますが、このように期間を定めていない。恒久的なものになってしまうよと。これは声を大にして伝えないといけないですね」


(※122)首都圏反原発連合:反原発を掲げた市民グループや個人有志の無党派のネットワーク組織である。福島第一原子力発電所事故を契機に2011年9月に設立。Act 311 Japan、安心安全な未来をこどもたちにオーケストラ、「怒りのドラムデモ」実行委員会、エネルギーシフトパレード、くにたちデモンストレーションやろう会、脱原発杉並、たんぽぽ舎、TwitNoNukes、NO NUKES MORE HEARTS、野菜にも一言いわせて!原発さよならデモ、LOFT PROJECTのほか、個人が有志で参加している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qSypCM)。

(※123)参議院の緊急集会は過去に2回開催されています:初例は第14回国会閉会後。昭和27年8月26日、内閣は中央選挙管理会の委員の任命を目的として緊急集会を請求。参議院は同月31日に緊急集会の会議を開き、中央選挙管理会の委員及び予備委員を指名し、同日、緊急集会は終了した。

 2例目は第15回国会閉会後。昭和28年3月14日、内閣は、昭和28年度一般会計等の暫定予算及び法律案4件についての議決を求めることを目的として緊急集会を請求。参議院は同月18日に緊急集会の会議を開き、これらの議案をすべて可決し、同月20日、緊急集会は終了した(参考:参議院【URL】http://bit.ly/23RNti8)。

(※124)国会であれが出たおかげで国民の世論が喚起され、国民も関心が持て、しかも情報が収集でき、さらに野党の方向を向いた修正がなされた:2015年の安保法制審議は3か月に及んだ。今回の審議で安倍政権は、従来の憲法解釈では禁じられていた集団的自衛権の行使を法案に盛り込んでいた。

 日本が直接攻撃を受けていなくても、他国への攻撃で国の存立を脅かす明白な危険がある「存立危機事態」と認められれば、自衛隊が海外で武力を使えるようになるのだが、この「存立危機事態」の範囲について与野党間で議論がなされた。

 また、同じように地球のどこでも米軍などの後方支援が可能になる「重要影響事態」の認定基準、補給・輸送面では弾薬の提供や発進準備中の軍用機への給油などが論争の対象になった。

 自民・公明の与党両党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の野党3党は採決直前の9月16日、後方支援について、実施区域は「活動を行う期間に戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を指定する」、弾薬の提供は「拳銃、小銃、機関銃など(中略)生命・身体を保護するために使用されるものに限る」、輸送については「大量破壊兵器やクラスター弾、劣化ウラン弾の輸送は行わない」などとし、閣議決定や国会の付帯決議で国会関与の強化を担保することで合意。19日未明、参院本会議で賛成多数で可決され、法案が成立した(朝日新聞、2015年9月19日【URL】http://bit.ly/1SNbbE4)。

期間にも対象にも制限がなく、大日本帝国憲法下よりもコントロール不能な自民党案~今の自民党案は国会の立法権を内閣に事実上移すようなもの

岩上「さて、いよいよ自民党の国家緊急権案です」

永井「自民党の国家緊急権というのは、非常事態があった時、内閣が非常事態の宣言をすると。宣言をした場合、内閣は法律に代わるものとして、政令を制定できるというものです。そういうシステムになっています。

 ただし、これに関しては、色々危険なところがあります。第一は、内閣は法律と同等の効力を有する政令が制定できると。これは事後に国会の承認をするとしているのですが、承認が得られない場合に効力を失うという規定がない」

岩上「それじゃ全く意味がないじゃないですか」

永井「財政処分についても同じ規定がある。大日本帝国憲法でさえ、先ほど言った緊急勅令、それから事後に国会の承認が得られない時には議会の承認、将来に向かって効力を失うという規定があった。だから今回の自民党案は大日本帝国憲法よりもコントロールができないものなのです」

岩上「いったんやってしまったら・・・」

永井「そうです。政府の立法と財政処分に対する国会の統治、統制が全く及ばないということです」

岩上「事後に、『これはダメよ』とキャンセルするようにと言っても、『いやいやそれはどうかな』ということになっている」

永井「事後に国会の承認をする。国会が承認しなかった時には、これについて政治責任を負うということですが、法的な効力は何も起きない。だから国会が総理大臣やめろと言って、いや、私は責任を負うためにやめませんと言ったらおしまいです」

岩上「しかも国会を解散しない。解散しないどころか、国会の自動的な、先ほども言いましたが、任期切れが来ても、延長もできると。さっきちらっと入っていましたね。なんとかさんという自民党の。任期の延長ができると」

永井「近藤三津枝さんですか」

岩上「近藤三津枝さん。なかなか知恵者ですよね。ずーっと国会をそのままにすることもできる。国会の塩漬け。すごいですね」

永井「そうですね。塩漬けとか生殺しですね。任期はあって、国会はあるように見えるけど、現実に法律を作るのは内閣がやる」

岩上「承認しないぞと言っても、だからどうしたと言われて終わりになるわけです」

永井「そうですね」

岩上「これは大日本帝国憲法よりひどい、最悪の内容を含んでいる」

永井「そうですね。あと、政令で制定できる対象の限定がない」

岩上「これもすごいですね。無制限」

永井「そうです。例えばさきほどの災害対策基本法の場合、四つの場合のみ緊急政令が制定できるとあったのですが、これには何の制限もない。すべての人権を制限できるし、またすべての法律について制定できる」

岩上「気が遠くなりますね」

永井「すべての事項について政令を制定できるので、国会の立法権を内閣に事実上移すものです。要するに」

岩上「しかも緊急事態と言っていますが無制限ですから、もう緊急じゃなく恒久状態になるわけですね」

自民党の国家緊急権はナチス以上の独裁条項~国防軍審判所の案で司法が完全な治外法権になってしまう可能性が

永井「どのような場合に緊急事態になるか、これは憲法で列挙するのではなく、法律で定められると書いてあります。そうすると憲法を停止できる場合が、法律で定められることになります。要するに国会の両議院の過半数で憲法停止ができる場合を定められる。すごくゆるゆるになる。

 そうするとそれは場合によってはいろんなものを入れていける。テロがあった場合、大規模なデモ行進・ストライキ、インフレ・経済恐慌があった場合、そういうのをどんどん入れていけちゃう。国会の過半数によって憲法停止できるような要件がどんどん入れられちゃう」

岩上「それは現状の三分の二。あの人たち、終身議員状態になった。いくらでもやっていくことができる。国会が機能しないから、国会の承認も必要ない。とするとこの内閣、議員内閣制だから一応今の国会から生まれたという形になるわけでそこから塩漬けにしておくということになるんでしょうが、その内閣はずーっとそうしたことができる。法律を変えちゃう」

永井「そうです。さっきの話に戻るのですが、すべての対象について政令制定できるわけです。災害時に治安目的で『戒厳』を実施することも政令で制定できる。『戒厳令』が制定できる。たとえば災害があった時には自衛隊の治安出動ができる」

岩上「例えばそれが伊勢湾台風(※125)のような時には、名古屋地域などに集中しているけど北海道から九州までを戒厳令状態に置くことができる。そういう話ですよね」

永井「そうですね。適用範囲とか時間というのは、その戒厳令で定めることができます」

岩上「恣意的にできるわけですから」

永井「例えば災害が起きた時、流言飛語を招かないように報道を制限する。通信の秘密を禁止することも出てくる」

岩上「まず私の口はふさがれると」

永井「その可能性はありますね」

岩上「先生に頷かれても(笑)。弁護して」

永井「いやいや、それはあかんよということで(笑)」

岩上「それはあかんよになっちゃうんですか、先生。僕が訴追された時の弁護士をやっていただこうと思ったんですけど、あかんよって言われて(笑)」

永井「あかんってことは関西弁でダメだよということですよ(笑)」

岩上「ああ~あかんね~。そうですか。それでナチスと同様の『授権法(全権委任法)』」

永井「そうですね。全権委任法を与えるものです。政府の独裁を容認するもの。この自民党の国家緊急権、これは独裁条項だと思います」

岩上「すさまじいです。先ほどナチスは二段階でやったと言いました。だから気をつけなきゃいけないよと。全権委任法が成立する前に国家緊急権でだいたいのことがやられちゃって、勝負が決してしまって、それから全権委任法をナチスは手にいれたのだと言ったけれども、ナチスと同じ、その授権法レベルのことを一発目でやっちゃうという話ですね」

永井「そうです。ナチスの場合には国家緊急権を使って、反対派の政党の人たちを逮捕、拘束して、国会に出席できない状態にし、強行採決して授権法を成立させたわけです。ところがこれ(自民党の緊急事態条項)は国家緊急権の中自体に、授権です。要するに国会の立法権が内閣に移転するんだと書いてありますから、これ自体がもう授権規定になっている」

岩上「しかも国民は服従すること、と書いてあるわけですからね」

永井「ありますね」

岩上「公の権力に服従しなければいけない。地方自治も全部そうですね」

永井「そうですね。だからナチスより危険な条項ですね」

岩上「ナチスの手口を真似るじゃなくて、ナチスを超えようとしていた。本当に信じがたい」

永井「もう笑うしかない」

岩上「笑うしかないって言いますか。この問題をNHKから読売新聞から、どこもかしこもやらないわけです。この危険性について。真剣な討議が足りないじゃないですか。先生何か以前にNHKにお出になられたという話が」

永井「3年ぐらい前ですね」

岩上「3年前の話なんですか」

永井「去年、一昨年、3年ぐらい前(※126)」

岩上「他の圧倒的多数が、必要だと主張しているメンバーでそのなかで先生がたった一人で孤軍奮闘した討論会だったと聞いていますが」

永井「あの時は江川紹子(※127)さんがいて、憲法学者の高見勝利(※128)先生がいて、それで私がいて、あとすいません、名前は出てこないけど、お歴々がおりました」

岩上「お歴々、誰だろう。『そういう番組があったので、永井先生の名前を覚えている』というツイートがあったり、ここにご登場いただくことを告知したら、『永井先生ならNHKの番組で見た』という情報をお寄せいただいたり。大変失礼ですが、私はその番組を見逃していたのですが、孤軍奮闘されていたと書いてあったのを読んだので」

永井「あの時は、私がかなりしゃべった」

岩上「ですよね。これは頑張っていただかないと。でもこれが全然伝わっていない。これ、おかしいですよ」

永井「そうですよね」

岩上「途方もなく危険です」

永井「そうですね」

岩上「最近のNHKで『ハートネットTV(※129)』などで、ナチスが全権を握る状態、あの前夜、そしてナチスが権力を握って最初にやったことが何かといえば、障害者などの人たちを抹殺することからまず始めた(※130)という内容の番組を放送していました。

 ユダヤ人虐殺の前に障害者を殺すということをやって、そこで虐殺のシステムを確立し、東方に戦線が伸び、ポーランドなどを支配下に置いて行った時に、こういう暗殺チームが東方に移動し、ユダヤ人の虐殺を手掛けていく、その予行演習をやったと」

永井「そうですね」

岩上「ものすごく危険なことなわけです。こういうこの時期のこと―その話、その障害者なんかを殺したという話をNHKETVのハートネットTVだったと思いますが、詳しくやっていました」

永井「やっていますね。あれえらいですね」

岩上「やっているんですけど、『日本もこうなりますよ』とは一言も言わない。言えない。だから常にNHKというのは、片一方ではある種の良心があって、でも一方では平気で国策に協力していくような体質がある。特に政治部はひどい。もう本当に。

 立派な番組を作ってはいますが、それでもたとえば後で『あの人はいい人だったのに惜しいことしたね』と言いながら、でも目の前にいる『助けて』という人を助けない、NHKはそういうことをするんで、私は厳しく批判しているわけです。

 『真に受けちゃダメよNHK』と申し上げているんですが、あるいはもしかしたら、そうした部署にいる良心のある人たちが、今一生懸命サインを出しているのかもしれない。このサインをみなさん受け取ってもらいたいですよね。まさにこの授権法前夜なんだよという」

永井「NHKも現場にいる方々は本当にやりたいんだけど、上層部が以前のようにはやらなくなってしまっている。局内で苦しんでいる方々は多いんですよ」

岩上「それならあらゆる方法、手立てを取れ、と申し上げたいんです。言い訳はいくらでもできる。丸ごと流されていっちゃえば、本当におしまいなんです」

永井「それはたしかにそのとおり。おっしゃるとおりです」

岩上「みなさんに『じゃあフリーになってやらないの?』と言うと、『だって生活が…』と言うんです。『じゃあ生活が』と言うのは分かるけど、緊急事態宣言やった挙句、原発抱えて戦争やったら国敗れて山河なしですよ。本当に生活丸ごと、どこにも住むところなくなります」

永井「本当におっしゃるとおりです。正しい」

岩上「いえいえそんな。僕が正しいわけないです。僕は先生のおっしゃることを聞いて、『そのとおりだ。大変なことだ』と。今僕は先生に教えていただいているわけですから。ただ『王様は裸だ』と言っているだけに過ぎないので。いやいやいや。これ授権法、全権委任法の中身がありますよね。含まれちゃっている」

永井「特に戒厳なんか制定すると、結局、国内で動乱があるんじゃなくても、自衛隊が外国に行った時、何らかの形の紛争、武力紛争になっちゃった時、戒厳を国内で敷くってことはありうるわけですよね」

岩上「なるほど。これは思いつかないな」

永井「その時は自衛隊、治安出動ですから。ただ武器を所持できるし、使用できるわけですね。治安出動の場合は。防衛出動と違うから。

 例えばいろんな場所でさっきの関東大震災の時みたいに、要するにあの時は自警団を軍隊の下部末端組織に組み入れたけど、NPOなどを末端組織に組み入れる形になる可能性はあるわけです。大変怖い事になると思います」

岩上「なるほど。怖いですね。いやあ、シミュレーションしていくと、あらゆる手があって」

永井「そうです。例えば自民党の自衛隊に関する改憲案、9条の2第5項、国防軍審判、いわゆる軍法会議(※131)についてですね。そうすると戒厳の場合は統治権が軍隊です。要するに仮に自衛隊に移るということになった時には、立法、行政だけじゃなく、国防軍審判所という司法もそちらに権限が移ってしまう可能性が出てくる」

岩上「まさに今、本当にデジャブのようでしたけど、梓澤先生、澤藤先生、両弁護士がそれについて言及していました。国防軍審判所で裁かれる可能性があって、つまり司法も完全な治外法権になってしまう可能性がある。そういう危険性があると。今こうして永井先生からも同じことをお聞きして、違う文脈で先生方から同じ点を指摘されるとすごくリアリティが出てきます」

永井「そうですね。すごく危険だと思います。過去を見れば予想できることです」


(※125)伊勢湾台風: 1959年(昭和34年)9月26日に潮岬に上陸し、紀伊半島から東海地方を中心とし、ほぼ全国にわたって甚大な被害を及ぼした台風。伊勢湾沿岸の愛知県・三重県の被害が特に甚大であったため、「伊勢湾台風」と呼ばれることになった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1J3Xegv)。

(※126)3年ぐらい前にNHKに出た:2012年5月3日(木)、NHK総合で放送された1時間半の討論番組、『憲法記念日特集 「震災と憲法」』。永井氏以外の出演者は石原信雄(元官房副長官)、江川紹子(ジャーナリスト)、高見勝利(上智大学教授)、増田寛也(野村総研顧問)、森本敏(拓殖大学大学院教授)。巨大地震の可能性が指摘される日本で、東日本大震災からどのような教訓を学び、危機管理を行うべきかを討議した(参考:NHK ONLINE【URL】http://bit.ly/1QhmKSo)。

(※127)江川紹子:オウム真理教の取材で知られるジャーナリスト。。その活動がオウムに疎まれて暗殺計画がなされ、就寝中に部屋にホスゲンガスを注入されたが、音に気づき電灯をつけたところ犯人たちが逃げ、噴霧された量が少なくて済んだため難を逃れた。

 1995年(平成7年)、オウム真理教の取材に関して菊池寛賞を授与される、その後は週刊文春にオウム裁判のルポを連載。そのほか、オウム問題のみならず、国際情勢や国内の様々な問題について論評している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1StHwTo)。

(※128)高見勝利:法学者。法政大学法学部非常勤講師、小樽商科大学商学部助教授、筑波大学社会科学系助教授、九州大学法学部助教授・同教授、北海道大学法学部教授を経て、現在は上智大学教授。安保法制の折には、日刊ゲンダイにて「徴兵制も現実の話になる」と警鐘を鳴らした(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/26fdSbF)(日刊ゲンダイ、2015年8月2日【URL】http://bit.ly/1gAiR1H)。

(※129)ハートネットTV:「生きづらさ」を抱える人に向けたNHK教育テレビジョンの福祉番組。2012年4月2日放送開始。リハビリや介護、障害はもちろん貧困など様々な社会問題に対する生き方・解決法を福祉の視点から探っている。本対談で話題に上っているのは、『シリーズ戦後70年 障害者と戦争―ナチスから迫害された障害者たち (1)20万人の大虐殺はなぜ起きたのか』(参考:NHK福祉ポータル【URL】http://bit.ly/1TezHkz)(参考:NHK福祉ポータル【URL】http://bit.ly/1J1salY)。

(※130)そしてナチスが権力を握って最初にやったことが何かといえば、障害者などの人たちを抹殺することからまず始めた:「戦争は不治の病人を抹殺する絶好の機会である」とアドルフ・ヒトラーは、提言し、身体障害者や精神障害者は社会には「無用」であり、アーリア人の遺伝的な純粋性を脅かすため、生きる価値なしと見なした。

 第二次世界大戦が始まると、知的障害、身体障害、精神障害のある人は、ナチスが「T-4」または「安楽死」プログラムと呼んでいた殺害の標的とされた。

 1941年の市民の抗議デモにもかかわらず、ナチスの指導者は終戦までこのプログラムを密かに続行し、1940年から1945年にかけて、約20万人の心身障害者が殺害された(参考:ホロコースト 学生のための教育サイト【URL】http://bit.ly/1MItnmb)。

(※131)自民党の自衛隊に関する改憲案、9条の2第5項、国防軍審判、いわゆる軍法会議:自民党は改憲案の一つとして、9条の2第5項に、軍事審判所の規定を置き、軍人等が職務の遂行上犯罪を犯したり、軍の秘密を漏洩したときの処罰に関しては、通常の裁判所でなく、国防軍に置かれる軍事審判所で裁くという案を盛り込んでいる。詳しくはリンク先PDFのQ.12(p17)を参照のこと(参考:自民党【URL】http://bit.ly/1mHg0Vv)。

自民党改憲案にある「9条改憲」以上に怖いその他の条項の改正点~憲法を軽視する内閣の怖さ

岩上「この自民党の改憲案全体を我々は検討していったのですが、そのうちの一つに緊急事態条項がある。緊急事態条項だけでもう十分本当にお腹いっぱい。破裂するほどの参った感があるわけですけれども、改憲案の中で別の項を見ると、国防軍(※132)についての記述があり、国防軍審判所についての記述もあり、これらを全部やる気でいるということですよね」

永井「そうだと思いますよ」

岩上「かつ憲法36条で公務員の残虐な刑罰および拷問はこれを絶対に禁ずる、と書いてある日本国憲法。この『絶対に』を取っちゃっている(*133)わけですから」

永井「要するに軍隊を作る場合、結局軍隊というのは命をかけてルールを守らなきゃいけない。ですから、ルールを守らせるシステムが必要なんです。軍法会議というのは軍隊であれば、不可欠になる。日本の自衛隊の場合、現時点では比例原則(※134)を取っているわけなんです。要するに相手方から攻撃された時に、必要最小限で反撃すると。他に取るべき手段がない時だけ武力を使えるということになっていますよね。ですから、警察と実質は同じで、まだ軍隊にはなってない。軍隊の場合には、比例の原則は使えませんからね」

岩上「比例原則というのは」

永井「要するに、必要な措置に対しては必要な範囲だけ行使する、というものなんです」

岩上「なるほど。必要な措置に対して必要以上のことができるのが軍隊ということですよね」

永井「そうです。自衛隊の場合、相手から攻撃された時、他に措置がない、取るべき手段がない時、現時点では最小限の反撃しかできない。その他の戦力に当たらないことになっていますから。だから、そういう面では、まだ軍法会議までは必要ないかなという話になっているのではないかなと思うのですが、だけどこれが普通の軍隊になったら、もう軍法会議は必然的に必要になってくる、そう考えると思います」

岩上「そして同時に緊急事態宣言を発令でき、さきほど話題にのぼった国民、社会の思考停止、それを招くような状態に置いて、国民の目・耳をふさぎ、何が起きているのかを知らせず、大本営発表のでたらめな報道が、戦時下のところでは流されていたわけですけど、あのようなプロパガンダだけが流されるようになる。事実を伝えることができなくなっていっちゃう。SNSや自発的な集会もおそらくは制限されるでしょう。そういう状況下で、闇雲な戦争に突入していく可能性がある」

永井「ありますね」

岩上「でなければ、ここまで用意する必要はないですもんね」

永井「はい」

岩上「原発を抱えながら戦争に」

永井「それ、狂気の沙汰だと思いますよ」

岩上「狂気の沙汰、それをやろうとしている。狂気の沙汰のことをするために、こういうことをやろうとしている」

永井「常識で考えたら狂気の沙汰ですよね」

岩上「しかも、ナチスも大日本帝国も、国家主権は確かにその国の国家主権ではあったわけですが、今度自衛隊を国防軍にするにしろ何にしろ、自衛隊の中央指揮所には、米軍の司令官が常駐する(※135)。自衛隊の兵器も艦船も、データリンク(※136)というものですべてコントロールをする。

 リンク16(※137)というデータリンクがあって、そこから米軍の情報をもらって動くわけです。そのデータリンクを遮断されたら、自衛隊というのは全部神経系がないただのオモチャになってしまうんです。だから、神経系統はすでに完全に米軍の下部組織として、組み込まれている、そういうスーパー属国状態なんです。

 属国の中のファシズム、完全に米軍の意のままに動かせる軍隊なのであって、実際のところ例えば安倍さんがヒットラーになるかというとそうではなく、日本がアメリカにとって都合のいい戦争マシーンになるわけです。そんなの聞いたこともない話ですよね。バナナ共和国(※138)ならともかく。極東のバナナ共和国ですよ、日本は。主権が偽装主権ですから」

永井「有事に関しては、そうだと思うんですが、それ以外に関して言えば、少なくとも総理が独裁者になるわけですよね。これは結局、憲法自体を破壊する制度ですから、もう9条改憲より怖い」

岩上「そうですね。9条改憲だったら国民の反対は絶対にある。先生が冒頭おっしゃったように、9条じゃ正面からやったらダメだなと。しかも9条だけ変えたいんじゃないんだと。自民党改憲草案を見ると、9条だけじゃない。ありとあらゆるものを変えたいんだよね、ということじゃないですか。

 肝心の国防軍化も、その前身の自衛隊が米軍統治下にある。指揮権が米軍にある状態なわけです。これではただの鉄砲玉です。思考力のない、主体性を欠いた鉄砲玉にさせられる」

永井「そうですね」

岩上「恐ろしい事態だと思いますよ」

永井「はい」

岩上「政令で規定できる対象の限定がないと。ここは見ていましたね」

永井「『なお、14条、18条、19条(※139)、21条、その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない』と書いてある。例えば、21条の表現の自由とか、14条の平等の原則とか。けれどもこれらが何の役に立つのか。これさえあれば内閣の自己抑制が機能するのか。

 というのも、現内閣は憲法を軽視してきています。閣議・立法によって解釈改憲しちゃおう、あるいは四分の一以上の議員による臨時国会開催の要求を無視しようとしている(※140)、そうしたものをほったらかしにしている内閣なわけです」

岩上「秋から冬にかけて。本当は国会を開くべきであってにもかかわらず、開かなかったと」

永井「そうですね。要請があったら召集しなきゃいけないと書いてあるわけですから、ある程度裁量というのがあるにしても、すでに裁量権を逸脱している。完全に無視していますから」

岩上「これは違憲ですよね」

永井「もちろんそうです。憲法を軽視しているし、人権を極度に制約する法律を作ると。特定秘密保護法(※141)ですね。これに関しては表現の自由はもちろん、何をしたら処罰されるのか分からないような法律です。こうした法律を簡単に作っちゃう。こういう内閣に自己抑制を期待できるのか。無理でしょう」

岩上「無理ですね」

永井「私の政治的な意見を言っているというより、法律家であれば誰でもそう言うと思います。じゃあ、事後の司法審査で機能するのかどうか。つまり違反した時に裁判所が違憲判決を簡単に出してくれるかどうかという点です。通常、政府の行為の追認や判断の回避している」

岩上「情けない」

永井「憲法が改正されたらさらに抑制し、統制はたぶん期待できないと思います。ですから、上記の条項は機能しない」

岩上「最大限に尊重しなければならないといっても、抑制する気のない行政権。それから、救済のために積極的な機能をする期待の持てない司法」

永井「はい」

岩上「ちょっと痛いどころじゃないですね。まずい国ですね」

永井「まずいですね」


(※132)国防軍:国防軍はしばしば「Defence Force」や「National Defense Force」などの英語名称を持つ組織の訳語として用いられる。

 ただし、「国防軍」という名前であっても専守防衛に徹しているわけではない。たとえばナチス・ドイツ時代のドイツ軍はドイツ国防軍であった。自民党の国憲法改正草案では「自衛隊を国防軍にする」と明記されている。安倍首相はこれについて「自衛隊の名は自分を守る利己的な軍隊だとの印象がある」と述べている。

 法学館憲法研究所顧問の浦部法穂氏は、「自衛隊」と「国防軍」のちがいについて、「自衛隊」であるがゆえに、課されてきたさまざまな「制約」が「国防軍」になれば全てなくなると指摘。同氏は自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」にとどまらなければならないという制約、あるいは自衛隊が自衛隊であるかぎりその行動・活動が、「自衛」の範囲に限定されなければならないという制約がなくなるとしている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1Sut00U)(参考:法学館憲法研究所【URL】http://bit.ly/26epgEF)。

(※133)憲法36条で公務員の残虐な刑罰および拷問はこれを絶対に禁ずる、の『絶対に』を取っちゃっている:現行憲法では「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」となっているが、自民党の改正草案では「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する」となっている。現行憲法で「絶対に」という激しい否定の言葉が使われているのは103ヶ条ある条文の中でここだけ(ハフィントン・ポスト、2013年6月20日【URL】http://huff.to/1NPLKQH)。

(※134)比例原則:達成されるべき目的とそのために取られる手段としての権利・利益の制約との間に均衡を要求する原則。「雀を撃つのに大砲を使ってはならない」という例えで説明される(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qDq05J)。

(※135)自衛隊の中央指揮所には、米軍の司令官が常駐する::2015年4月28日、しんぶん赤旗などが、27日のガイドライン改訂について報道した。この記事のなかで、自衛隊の事実上の最高司令部である自衛隊の中央指揮所(東京都新宿区市谷本村町)に米軍幹部常駐が検討されていることが報じられている。

 8月11日、日本共産党の小池晃議員は国会で自衛隊の内部資料を暴露。中谷元防衛大臣は答弁できずに審議がストップする事態が起こった。IWJはこれについて報じ、翌12日には岩上安身が小池議員に緊急インタビューを敢行。小池議員はこのインタビューのなかで、米防衛協力指針(ガイドライン)および安全保障関連法案を受けた今後の方向性」と題した資料をもとに、日本の独立と主権を蔑ろにする異常な対米従属について指摘している(しんぶん赤旗、2015年4月28日【URL】http://bit.ly/1Y4R1sH)(IWJ、2015年8月【URL】http://bit.ly/1lItiCm)。

(※136)データリンク:軍隊の作戦行動に用いられる情報を伝達、配信及び共有するためのデータ通信システムの総称。戦術データリンクを用いることで情報の共有化が容易になり、使用する組織においては効率的な指揮管理能力が得られる。

 戦術データリンクの装備の有無、バージョンを探れば、その兵器の能力、任務、指揮官からの期待値等がおおむね推測可能であり、近代戦においては必須の装備といえる。アメリカ合衆国の軍隊による軍事における革命では、中心的な役割を果たす技術となっている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1OQHOEG)。

(※137)リンク16:北大西洋条約機構で用いられる戦術データリンクのフォーマット。統合戦術情報伝達システム上で運用され、従来は同義に使用されてきたが、現在はNATOにおいて、同様の接続を実現する多機能情報伝達システムが開発され、順次実用化されている。海上自衛隊とアメリカ海軍は、現在リンク16で防空対戦所を共有しているが、データ16にリンクしないと、飛行機艦船なども神経系統がないのと同じで、全く動かせない(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1W08IIR)。

(※138)バナナ共和国:バナナなどの第一次産品の輸出に頼り、主にアメリカ合衆国などの外国資本によってコントロールされる政情不安定な小国を指す(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1XI3JhU)。

(※139)19条:思想・良心の自由についての規定。民主主義・民主制が機能するための最低限の自由としての側面も有する(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1qDsbWR)。

(※140)四分の一以上の議員による臨時国会開催の要求を無視しようとしている:臨時国会は日本国憲法第53条に規定されている。2015年秋に発足した第三次安倍改造内閣だが、本来であれば、続いて「秋の臨時国会」が開かれ、首相による所信表明演説が行われ、与野党による質疑応答が本会議や各委員会で順次行われるところだ。

 しかし安倍政権は首相の外交日程等を表向きの理由として、この臨時国会を開催しない方針であり、菅義偉内閣官房長官は、「過去には開かれなかった例もある」などとして臨時議会の要求を無視する構えをみせた。

 これが明確な憲法違反であったため、九州大学法学部教授の南野森らによる批判がなされた。新閣僚のスキャンダル、政治献金問題、TPP、安保法制、2017年からの消費増税に向けて低所得者への対応をどうするかなどの問題について、野党からの追及を避けたいのが本音であるとも言われる(Yahooニュース、2015年10月24日【URL】http://bit.ly/1RwBEa3)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1MHowBH)。

(※141)特定秘密保護法:特定秘密の保護に関する法律。2014年(平成26年)12月10日施行。日本の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものの保護に関して、必要な事項を定めることを目的として作られた。反対意見も少なくなく、2015年11月18日に東京地裁で、フリージャーナリストや編集者ら42人が国を相手に法律の無効確認と損害賠償を求めた訴訟が行われた。

 原告は「特定秘密保護法は表現や報道の自由を侵害し憲法違反」「秘密指定で行政機関への取材が難しくなり、取材や報道自体が萎縮する」と主張したが、谷口豊裁判長は「取材活動が制約されたとは認められない」「原告らの利益を侵害していない」として原告敗訴の判決を言い渡した。

 米国では市民が直接に政府機関に秘密解除請求できるが、日本では市民に秘密解除の請求権が無い。米国国内の秘密保護法案では行政の非効率や過誤の隠蔽に批判防止の目的など不当な秘密指定を禁止しているのに対して、日本では禁止するのは違法な秘密指定だけで不当な秘密指定を禁じる規定がないなどの問題がある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1O36Z5r)(参考:内閣官房【URL】http://bit.ly/1YGpXRI)。

日本と違い、アメリカは国民の意識が高くかつ司法が機能している~文化が優れていても、権力の程度が低い日本

岩上「では次に『厳格な要件での国家緊急権』」

永井「これについては、おかしいんだと申し上げても、『いや、立憲主義からすれば、厳格な要件のもとで国家緊急権を設けるべきだよ』という意見もある。ある政党のある人のある説なのですが、個人的な意見だと思います」

岩上「誰の意見ですか」

永井「まあいいじゃない。それで」

岩上「先生、落選運動というのは国民に持たされた権利なんですよ。先生、せめて政党名だけ教えてください。自民党ですか、自民党じゃないでしょうこれは。というのは自民党はあからさまに突破しようと、中央突破を図っているわけですから。維新あたりですか」

永井「いやいやいや。それで、さきほど言ったように、日本国憲法では国家緊急権はそもそもダメなんです。だからこの意見は日本国憲法とは別の見解だと言えます。要するに不文の国家緊急権を作られるより、要件を厳格にしてこういう時にだけは国家緊急権が使えるんだとやれば、それは憲法が破壊されないし立憲主義にかなうんだという考え方なのです。

 それで、『例えば、a国家緊急権の終期は発動時に明定する』と。例えば5日間にしますとか。あるいは『b緊急権の行使後に調査・責任追及の制度を設ける』という意見もあります。だけど、国家緊急権にはさきほど述べたように四つの危険性があるわけですが、それで考えるとまず事前に終期を定めたとしても、為政者がスルーしたら、おしまいです」

岩上「おしまいですよね」

永井「四分の一の議員が臨時議会を開いてくださいと言っても、スルーされたらおしまいですよね」

岩上「おしまいです。マスコミも右にならえですから」

永井「これを全然大問題にしていないでしょ」

岩上「全然していませんね」

永井「全くとんでもない話ですね」

岩上「マスコミがとっくに緊急事態条項の中にありますから」

永井「あと『b緊急権の行使に、調査、責任追及の制度を設ける』ということですが、設けるといったって、緊急権を行使して、行使がおかしい場合であっても、刑罰が科されるとか、損害賠償責任を負うということは、法的にはないので、結局、“政治責任”で終わりです。

 政治責任で、『あなた、総理大臣辞めなさいよ』と言っても、『いや、責任を取って辞めません』、でおしまいです」

岩上「おしまいですよね」

永井「じゃあ、仮に、法律を作ったとしましょう。こういう時は賠償金100万円を払う。あるいは刑罰を科されると、そういう法律を作ったとしましょう。今度は裁判所がちゃんとした判断を下すかどうかです」

岩上「期待持てないですね」

永井「持てない。国家緊急権でも制定されてしまったら、裁判所は抑制します、一方的に。いずれも、しかも事後的な措置です。もう侵害されてしまったら人権や、そういうのはもう回復できないわけです」

岩上「そうですよね」

永井「これに関して、仮に設けるなら、立憲的コントロールによる復元力がある場合であれば、可能じゃないのとある学者がこういうことをおっしゃっている」

岩上「誰ですか」

永井「まあ、そこはやめておいてください。この人、この人の評価をちょっと見てみましょう」

岩上「憲法学者ですか」

永井「憲法学者です。じゃあ、まず『復元のシステムがある』と。しかも、一番大事なのはシステムがあるかないかより、これを支える『国民の意識』ですよと。主権者たる国民の。この2つでちょっと見てみましょうということで、まずアメリカの場合で見てみます。

 不文の国家緊急権があって、何回か行使されていますから、一応適正に行使されていると考えられます。復元のシステムがあるかですが、厳格な権力の分立があります。大統領は議会に法案の提出権さえない。あるいは戦争をやる時には議会が宣戦布告し、大統領が軍隊を指揮するということになっていて、一応権力分立している。

 それから司法審査では、『ミリガン事件の違憲判決(※142)』というのがある。この事件はリンカーン(※143)大統領が南北戦争の時に、まだ戦地になってないインディアナ州に、この国家緊急権を適用したのですが、そこにいた一般市民が軍事法廷で死刑判決を受けた。それに対して、最高裁が、憲法違反だという判決をちゃんと書いている。あのリンカーンにです。

 あるいは1929年の世界大恐慌の時、ルーズベルト(※144)大統領のニューディール政策(※145)。これは戦争だと言って、国家緊急権を行使した」

岩上「ほお」

永井「ニューディール政策に関しては大統領令でボンボン出して、それで実施した」

岩上「あ、それは知らなかった。知らない人、多いんじゃないですか。ニューディール政策のイメージというと、内需がものすごく不振な状態にあるから、ここは国が積極的な財政、公共事業をやらなきゃいけない、それの行使の見本みたいなイメージですよね。ところがそれをやるにあたって大統領の緊急令、そういうものを乱発してやったんだ」

永井「国家緊急権を行使した。それで大統領令で全部やっていった。本来は議会の決議が必要なものを」

岩上「なるほど」

永井「それに対してアメリカの連邦最高裁は片っ端から違憲判決を出していったんです」

岩上「すごい」

永井「大統領にはそんなことできないと言った」

岩上「なるほど」

永井「だから、そういう面で言えば、アメリカというのは司法権の統制が働いている国なんです」

岩上「強いですよね。日本の司法は、違憲判決を下す以前に、憲法裁判所のような機能がそもそもない。憲法裁判所がない。憲法そのものを、違憲か違憲でないか判断するようなところがない。こんなことがよく言われますね」

永井「もっとも裁判所の形自体は、アメリカの裁判所も日本の裁判所も同じなんですよ」

岩上「運用が悪いんですか」

永井「日本では運用する気がない」

岩上「する気がないんですね」

永井「ちゃんと違憲判断する気がない。アメリカのも、日本のも、いわゆる憲法裁判所じゃなくて、通常の裁判所なんです」

岩上「ドイツなんかには連邦憲法裁判所(※146)がありますよね」

永井「憲法裁判所というのは法律が憲法違反かどうかを判断するわけですが、日本の裁判所は通常の裁判所ですから、具体的なある事件において、特定の部分で特定の法律を適用していいのかどうか、この法律は憲法に違反するから適用できない、あるいは適用できるのかという判断をします。そこでは同じです。要するに運用する人が違うということです」

岩上「伊達判決(※147)をひっくり返した統治行為論(※148)。あれ以来もう司法は、最高裁は寝ていると。ずーっと眠って、永遠の眠りについている状態。これも米国の影があります」

永井「政治的にはですね。ただ裁判所も全然違います。アメリカの裁判所と日本の裁判所。統治行為論というのは高度の政治性を有するものに関して裁判所の判断を控えるというものですが、そんなもの憲法の中に」

岩上「だって、これ政策に関する判断をバンバン下しているわけじゃないですか」

永井「そんなものは憲法の条文の中にない。あんなもの、あの判断自体が憲法違反だと思います」

岩上「統治行為論でひっくり返した」

永井「統治行為論で憲法判断を」

岩上「なるほど。そう考えていくとまだアメリカのほうがましだと」

永井「アメリカの場合、国家緊急権は、そういうふうに普遍のシステムがある。あとは国民の意識です。これを支える主権者。アメリカはイギリスから独立しているわけです。血を流して。憲法を自分たちで作って制定した歴史がある。権力に対する警戒心があるわけです」

岩上「はい。ありますね」

永井「例えば、オバマさんが、健康保険を国で作ろうとしたら、アメリカ人は嫌がります(※149)。ああいうものを。政府というのはちっちゃいものでなきゃダメだという。

 あるいはアメリカというのは人権尊重の度合いが高いと一般に言われています。ですから、アメリカには立憲的コントロールによる復元力がある。だから、このように何回も行使できるとこの学者は考えている。

 対して日本はどうでしょうか。統制システムですが、国会の統制はこれ議員内閣制ですから、国会の多数派が政府を形成する。そのため、国会による統制というのはなかなか難しい。政府の統制です。

 では司法の統制はどうか。現在でも政府追認です」

岩上「そうですね。なさけない」

永井「憲法判断を回避していて、しかも公共の福祉による人権制約が大きい。だからもし国家緊急権を創設したら統制機能はなくなるでしょう。人権意識。あんまりこういうのは言いたくないんですが、日本は文化程度が高いのは間違いない。だけど、一応、独立・革命の歴史はない」

岩上「明治維新(※150)は革命とは言わない?」

永井「あれはクーデターでしょう。支配する側が交代しただけですから」

岩上「そうですね。レジストレーションですよね」

永井「縦社会とか、中央集権になじみがあって」

岩上「そうですね。まつりごとですからね。もう政治というのはまつりで、奉る。まつろうというものですから」

永井「人権意識が高いとは言えない、という言い方はよくないかもしれないですが、ただ日本では政府に対する警戒心というのはありますか。我が国の国民は。例えば、国がやるから信用できるというような」

岩上「そうです。お上の言うことを信用する」

永井「あるいは、とりあえず任せておこうとか。だから、国に対して要するに監視しなきゃいけないとか、あるいは国を警戒しようというのが一般の人にあるかというと」

岩上「薄いですよね」

永井「なかなかね。そうすると立憲的コントロールによる復元力はあるのか。私はいったん行っちゃったら、この国の場合戻ってこないと思います」

岩上「戻ってこないですね。さっきアメリカの話で出ましたが、この点、権力に対する警戒心、権力を持った人間が権力に対して警戒心を持っていた。建国の父、独立宣言を書いたのはトーマス・ジェファーソン(※151)じゃないですか。トーマス・ジェファーソンについて、少し調べたら、いくつもいくつも出てくる。報道の自由のないところに、民主主義は存在しない、報道の自由を奪う、制約するような政府は人民の手でひっくり返すべきだと。そこに最大限の警戒をせよと。

 国民に十分な情報と知識がある時にのみ、民主主義が有効であって、その政体は認められるけど、そうでない場合はひっくり返せというふうに、少しでも言論、報道、情報を制約するような権力は認めるなと、何か所も書いている。そういうことを。

 権力者じゃないですか、彼は。勝ち得たわけですからね。戦争で勝ったわけですから。そういう人が自ら言っている。全然日本と違います」

永井「ジョージ・ワシントン(※152)もそうですね。あの人は将軍だったでしょ。ワシントン将軍は、イギリスに勝ったわけじゃないですか」

岩上「王様になれって話も」

永井「だけど、ワシントンはそれを辞退したのに、どうしてもなってくれと言われて大統領になって、二期で自分で辞めたわけですね。あの二期の先例というのは、彼が作った。

 同じような時期にフランスで、有名な将軍が交代になりましたが、ナポレオン(※153)とは全然違うわけです。ワシントンは、キンキナトゥス(※154)という人を尊敬していた」

岩上「キンキナトゥス?」

永井「キンキナトゥスというローマにいた人で、この人は、ローマの農夫なんですが、戦争がものすごくうまい。

 ローマでは面白いシステムがあって、外国が攻めてきたりなんかした時には独裁官というのを作る。彼は独裁官に任ぜられ、二ヵ月ぐらいの期間なんですが、それよりも前に相手を打ち負かし、それでさっさと自分で辞め、もう1回農夫に戻った。

 これをもう1回やっている。もう1回、独裁官になってくれと言われて、なって戦ってもっと早い時期に戦って勝って、また農夫に戻った。ワシントンはこのキンキナトゥスをずっと尊敬していたんです」

岩上「ワシントンもある種、軍人ですもんね」

永井「そうですね。ちなみにキンキナトゥスは英語で言うと、シンシナティです」

岩上「あ、そうなんですか」

永井「いろんな場所に名前が残っています」

岩上「シンシナティ・レッズとか、ありますけど。そうなんですか」

永井「そうなんです」

岩上「やっぱりなんていうのか、文明の底力みたいなもの、歴史を辿っていった時に何か非常に重要な叡智のソースみたいなものを持っているとそういうものを引き出せるわけです。民主主義につながるような。

 一時期は権力が集中して、敵を倒すけれども、そのあと必ず権力がもう一度分散する。あるいは自らがその権力の座から降りる。しかし遡っていってもそういうものが見いだせない場合」

永井「そうそう」

岩上「これが本当の潔さです。戦に負けたから腹を切るのが潔いわけじゃない。そもそも戦に勝てよ、お前らと。勝ったうえで辞めろよという。キンキナトゥスは農夫に戻った。いいですね」

永井「すごいですね」

岩上「これが本当の美学です。玉砕するというのは最低です。玉砕する策をしいたなんて、最低の権力だと思います。しかしそうした歴史から、キンキナトゥスのは他国の歴史かもしれないですけど、人類の歴史ではありますから、我々が学び取ればいいわけです」

永井「そうですね」

岩上「いいですね。シンシナティ。キンキナトゥス。勉強になりますね、先生。本当に教養ある。キンキナトゥスについてはちょっとどこかで使わせていただきます。日本の文化程度は高いって、先生本当にダメですよ。ちょっとリップサービスが過ぎます」

永井「いやいや日本の文化はすごいと思いますよ」

岩上「先生は京都の方でしたっけ」

永井「いや私は神戸です。本当のところ生まれは東京なのですが」

岩上「あ、そうなんですか」

永井「生まれと育ちが東京です」

岩上「関西の先生ではないんですね」

永井「いや、震災が起きる前の年に関西に行った。それでそれ以降、神戸にずっといて」

岩上「神戸は文化程度高いかもしれないですけど」

永井「日本全体文化のレベルは高いと思いますよ」

岩上「本当ですか?」

永井「はい。自信持ちましょう」

岩上「そうですか。確かに個々人について言えば、例えば災害が起きた時の振る舞いなど本当に素晴らしいと思うんです。

 東日本大震災が起きた時も、神戸の震災が起きた時も、本当の日本市民の文化程度というのは本当に高いと思う。あの時に火事場泥棒をやって暴動が起きたり、そんなものが大きな規模で起きたかというと、起きていない。政府が適切な情報をくれない中、みんなで助け合い、できるだけ適切な行動を取るために一生懸命やった。素晴らしいと思うんです。

 でも我が国の政府は程度が低い。程度の低い権力。やっぱり庶民の文化の程度が高くても、権力の程度が低いわけですから、これに対して適切な懐疑意識を持つという動きをもっと育てるべきではないかなと」

永井「そう思いますね」

岩上「一言申し上げて、失礼ながらものすごく程度低いんですよ。わが権力は」

永井「わが権力はね」

岩上「わが権力は」

永井「私は愛国者ですから、愛国者というのは、国土、国民、国の文化を愛している。けれど国家は愛していません。当たり前です、あんなもの。国家というのは政府と議会と裁判所です。あれは愛する対象じゃない」

岩上「やっぱり監視すべき対象であったり」

永井「そうです。私たちのためにあるんだから」

岩上「そして、叱咤をしなくてはいけない。しっかりしろよとか。『天ぷら食ってんじゃねえよ』とか」

永井「天ぷら食うのはいいけど、別に。天ぷら以外のことは言うべきだと思いますけどね」


(※142)ミリガン事件の違憲判決:南北戦争中、ラムディン・ミリガンは反逆罪の容疑で逮捕され、1864年10月に軍法裁判で裁かれ、1865年5月19日に絞首刑に処せられることが宣告された。

 ミリガンは合衆国巡回裁判所に人身保護令状を請求。最高裁は、軍法の無軌道な行使は憲法によって保障された公平な裁判を受ける権利を侵害し、単に非常時であるという理由で自由が無効にされることはないと宣告し、さらに軍法は通常の裁判所が改定されている場では存在せず、実際に戦争が行われている場に限定されるとした。

 ミリガンの刑は大統領により終身刑に変えられ、1866年4月10日、最高裁の判決に基づいて釈放された。1868年3月13日、ミリガンは不法監禁の故を以って損害賠償請求訴訟を起こした。裁判の結果、一部の損害賠償が認められた(参考:アメリカ大統領研究【URL】http://bit.ly/23JmSal)。

(※143)エイブラハム・リンカーン:弁護士、イリノイ州議員、上院議員を経て、1861年3月4日に第16代アメリカ合衆国大統領に就任。「奴隷解放の父」、有名なゲティスバーグ演説、南北戦争による国家分裂の危機を乗り越えたことなどが評価され、歴代大統領ランキングではしばしば“最も偉大な大統領”の一人に挙げられる。

 奴隷制の拡張に反対するリンカーンの大統領当選は南部諸州の反発を招き、合衆国を二分する南北戦争に結びついたが、北部連邦をよく指揮し勝利へ導いた。しかし、南部連合総司令官のロバート・E・リー将軍が降伏した6日後の1865年4月15日、ワシントンD.C.のフォード劇場で観劇中にジョン・ウィルクス・ブースの凶弾に倒れた。これにより、リンカーンはアメリカ史上最初の暗殺された大統領となった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/21AdCRw)。

(※144)フランクリン・ルーズベルト:民主党出身の第32代大統領(1933年 – 1945年)。第26代大統領セオドア・ルーズベルトは広義の従兄に当たる。世界恐慌、第二次世界大戦時のアメリカ大統領であり、ニューディール政策と第二次世界大戦への参戦による戦時経済はアメリカ合衆国経済を世界恐慌のどん底から回復させたとされることが多い。一方、ルーズベルトの評価は立場で大きく分かれる。小さな政府を唱える保守派はニューディールにきわめて否定的な評価をしており、民主党のニューディール連合を崩すことで1980年代以降の共和党の勢力拡大は成功したとも言われている。ニューディール政策については、現在でも経済学者の間でその評価は分かれている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/21AdCRw)。

(※145)ニューディール政策:アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトが世界恐慌を克服するために行った一連の経済政策。それまでアメリカの歴代政権が取ってきた、市場への政府の介入も経済政策も限定的にとどめる古典的な自由主義的経済政策から、政府が市場経済に積極的に関与する政策へと転換したもの。世界で初めてジョン・メイナード・ケインズの理論を取り入れた政策と言われている。ルーズヴェルト大統領による国家緊急事態宣言後のいわゆる「百日議会」において、経済議会において、経済危機を克服し、復興と改革をもたらすのに必要な緊急措置法が次々と成立し、連邦の規制権の拡大や大統領への広範な委任立法をもらたした。

 大統領は就任以来15か月の間に674もの行政命令を発したが、司法権は、これらニューディール立法に対して、厳しい態度をもって臨み、相次いで違憲無効にしていった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/26evioN)(参考:国立国会図書館調査及び立法考査局【URL】http://bit.ly/1NkXsbu)。

(※146)連邦憲法裁判所:ドイツ連邦共和国における憲法を取り扱う憲法裁判所。ドイツ連邦共和国基本法における抽象的規範統制、具体的規範統制、憲法異議、連邦制的紛争を取り扱う。裁判官は、ドイツ連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)から選出されて構成される。法廷は2つ存在し、各法廷に8名ずつ、計16名の裁判官が所属している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/20WohoP)。

(※147)伊達判決:砂川事件に対する第1審,東京地方裁判所の判決。1957年7月東京都下砂川町で米軍立川基地の立入禁止区域に入った基地拡張反対闘争の7人が,刑事特別法第2条違反で起訴された。

 この事件について 59年3月,第1審裁判長伊達秋雄は,「日米安全保障条約に基づく駐留米軍の存在は,憲法前文と第9条の戦力保持禁止に違反し違憲である」として無罪判決を下した。しかしその後検察側が一気に最高裁に持ち込む「跳躍上告」を行うと、最高裁は一転して一審判決を破棄し、7人全員の有罪が確定した(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/22N55t7)。

(※148)統治行為論:“国家統治の基本に関する高度な政治性”を有する国家の行為については、法律上の争訟として裁判所による法律判断が可能であっても、これゆえに司法審査の対象から除外すべきとする理論のこと。日本の判例において、統治行為論に言及したものは非常に少ないが、最高裁判例では、砂川事件上告審判決と苫米地事件上告審判決がある(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1DwE4hA)。

(※149)健康保険を国で作ろうとしたら、アメリカ人は嫌がります:多くのアメリカ人は現在でも保険に入っており、自分たちは医療費の心配は余りしなくてよい状況にある。加えて、オバマによる医療改革では、民間の医療保険に微妙な「不利益変更」がある。

 例えば、民間の保険の場合には一部で保険料がアップするという現象も起きているうえ、全体の制度改訂の中には「医療費抑制策」も入っており、そこに引っかかると「過去に受けられていた治療が受けられない」というケースもある。

 つまり、元々民間の保険に入っていた人間には、今回の医療改革には基本的にメリットが少なく、そのため批判が多い(Newsweek、2013年10月10日【URL】http://bit.ly/22N7wM6)。

(※150)明治維新:江戸幕府に対する倒幕運動から、明治政府による天皇親政体制の転換とそれに伴う一連の改革。その範囲は、中央官制・法制・宮廷・身分制・地方行政・金融・流通・産業・経済・文化・教育・外交・宗教・思想政策など多岐に及んでいるため、どこまでが明治維新に含まれるのかは必ずしも明確ではない。一般的にはその前年にあたる慶応3年(1867年)の大政奉還、王政復古以降の改革を指す(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1QmgNUv)。

(※151)トーマス・ジェファーソン:アメリカ合衆国の政治家で第3代アメリカ合衆国大統領。ジェファーソンが最も明確に説いたのは「自由」の権利だった。「合法的な自由は他人の平等な権利によって我々の周りに引かれる制限内で我々の意思による妨げられることのない行動である。法は往々にして暴君の意思であり、それが個人の権利を侵犯する時は常にそうなので、私は『法の範囲内で』という言葉を付け加えない」と自由を規定している。

 政府は自由の権利を「創り出せ」ないが、それを侵犯できるというのがジェファーソンの考えだった。ジェファーソンにとっての適切な政府は、社会を構成する個人が他人の自由を侵すことを禁じるだけでなく、個人の自由を縮小しないよう「政府自体」を拘束するものだった。アメリカとしては初の重要な海外戦争となった第一次バーバリ戦争(1801年-1805年)を指揮してこれに勝利している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1SuIjqd)。

(※152)ジョージ・ワシントン:アメリカの初代大統領。司令官としてアメリカ独立戦争を戦った。二期目の大統領選出馬には、気乗りがしていなかったという。結局ワシントンは、3期目の大統領選出馬を拒否し、大統領職は2期までという慣習的政策を作った。この政策はのちにアメリカ合衆国憲法修正第22条によって法制化された(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22NaH6y)。

(※153)ナポレオン:フランス第一帝政の皇帝にも即位した。フランス革命後の混乱を収拾して、軍事独裁政権を樹立。戦勝と婚姻政策によって、イギリスとオスマン帝国の領土を除いたヨーロッパ大陸の大半を勢力下に置いたが、最終的に敗北して失脚した。

 ナポレオンは、1804年12月2日に即位式を行い、「フランス人民の皇帝」に就いた。英雄が独裁的統治者となった。それまで、戴冠式ではオスマン帝国やロシアをのぞく欧州の皇帝は教皇から王冠を戴くのが儀礼として一般的な形であったが、ナポレオンは教皇の目の前で、自ら王冠をかぶった。政治の支配のもとに教会をおくという意志のあらわれであった(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1LrqVOm)。

(※154)キンキナトゥス:ルキウス・クィンクティウス・キンキナトゥス。共和政ローマ前期に登場する伝説的人物。

 東部のアエクイ族、南西部のウォルスキ族がローマに攻めてくると、自ら農作業を行っていたキンキナトゥスは元老院より独裁官に指名され、独裁官として軍勢を率いて敵を打ち破ると、半年の任期だった独裁官の地位を16日間で返上した。

 また紀元前439年に平民階級が反旗を翻そうとしている際にも再び独裁官に就任するよう要請され、反乱を抑えると再び返上し、農作業を行う身に戻った。

 ワシントンの熱心な支持者の間ではワシントンを永久的な統治者にしようという動きがあったが、多くのアメリカ合衆国建国の功労者同様、ワシントンはそうした考えを嫌悪した。こうしたワシントンの考え方は、権力を拒否した古代ローマ共和制の理想的市民指導者キンキナトゥスの例に倣ったものだったと言われている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1StpVvT)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/22NaH6y)。

災害やテロをダシに憲法を改正してはならない

永井「平成27年から、阪神淡路を経験した兵庫県、中越地震(※155)を体験した新潟県、それから東日本大震災の被災地3県、岩手、仙台、福島、その東北弁護士会連合会。あとは26年に土砂災害の起きた広島(※156)。そのあと、要するに被災した県は、みんな反対している。県の弁護士会が、ということですね。

 それからさらに支援している関東の埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、それから静岡も災害が予想されているところですから。山梨、長野、青森、埼玉、徳島の18会、あ、ごめんなさい。埼玉は2回重複してるから17です」

岩上「こう見てみると、いかに大阪と東京がダメか分かりますね」

永井「反対する理由です。まず『法律が整備されているので必要ない』と。次に国家緊急権は『災害には全く役に立たない』。3つ目に『憲法に入れることは危険であるまたは危険性の議論が十分ではない』ということですね。

 それで、さっきも言いましたけど、災害で重要なのは現場です。現場で、目の前にいる個々の被災者をどうやって救済するかがすべての出発点なんです。そこから被災者からヒアリング、あるいは被災の現場を見て、そしてその課題を見て、将来の災害についての対策を立てる。それが災害対策です。

 ひとたび災害が起きた時は、準備に基づいて、被災者に一番近い自治体が権限を持っている。そして迅速な対応をする。これが災害対策です。最も被災者に近い自治体がやることで、迅速で効果的な支援ができる」

岩上「だからここですよね。『災害やテロをダシにして憲法を改正してはならない』」

永井「『災害をダシにして、憲法改正してはならない』というのは宮城県の被災者が言っていたことです」

岩上「これは火事場泥棒でしょう。最低な行為です」

永井「はい」

岩上「やっぱり、素晴らしい国民と最低の権力の組み合わせで、我が国は成り立っておりますから。本当に最低だと思います、これだけ立派な被災者の人たちの振る舞いを前にして、こういう緊急権が必要だと言いだす奴というのは。やっぱり国民を侮辱していると思うんです。

 白井聡さんが、ご本の中で、『我々は侮辱されている』と。『耐え難い侮辱の中にある』とお書きになっているわけですが、今回のこの憲法改正、緊急事態条項の提案提出そのものが、大変な国民に対する侮辱だと、僕は感じます。

 失礼極まりない話じゃないか。これで終わりということになりますね。先生、本当に網羅的にPPTをお作りいただきありがとうございました。すごい。これだけのことをいろんなところで講演されて――」

永井「5,6回はやっています」

岩上「5,6回ですか。先生、来年の夏まではもっとお忙しくしていただかないと。ぜひ、全国のみなさん、永井先生の講演をそれぞれの地域で催していただきたいと思います。先生の法律事務所はなんという法律事務所ですか。連絡先は」

永井「神戸にあるアンサー法律事務所(※157)です」

岩上「アンサー法律事務所。『お答え』の意味の『アンサー』」

永井「この名前は息子がつけてくれたんですよ。中学生の時に」

岩上「『アンサー』。どういう意味でつけられたのですか」

永井「アンサーは、「答えを出す」のアンサーですね。それから、『解決する』という意味もあります」

岩上「なるほど。アンサー法律事務所まで講演の申し込みを、ぜひよろしくお願いしたいと思います。先生、本当にお疲れで大変かもしれませんが、あらゆるところでこの話をしていただきたいです。これはひどい、国民を侮辱しているでしょうと」

永井「来年、岩波のブックレットになる(※158)んですけど」

岩上「なるんですか。来年、何月ですか」

永井「いや、まだ原稿書いている最中で」

岩上「先生、急いでくださいよ。本当に」

永井「今日もこれから、帰って原稿書こうかなと」

岩上「先生、明日は『饗宴VI』に出るのですから、よろしくお願いします。じゃあ、岩波のブックレットが間に合わないあいだは、うちのインタビューをできるだけみなさんに見ていただき、拡散していただくと。

 長時間に及びましたから途中で離脱した人もいると思うので、ぜひ繰り返し見ていただきたいと思います。先生、今日は時間たっぷりでしたけど、明日はそんなには時間がないので、起承転結の『結』から入っていただきたいと思います」

永井「『結』からですね。分かりました」

岩上「もう最初から、『これは災害やテロダシにしたとんでもない話です』、ということから言っていただかないと時間がない。明日はよろしくお願いいたします」

永井「分かりました。こちらこそ明日はよろしくお願いします」

岩上「まさかこんな番組とはと」

永井「いやいや。いきなりネクタイの話されるとは思わなかったですが。本日はありがとうございました」

岩上「いえいえ、とんでもない。IWJをこれからご贔屓にいただければ。よろしくお願いします」

永井「こちらこそ、ぜひよろしくお願いいたします」

岩上「ということで、永井幸寿先生にお話をうかがいました。本日の永井先生の話、大変重要です。できるだけみなさんに拡散していただきたいと思います。

 今、たくさんのイシューに取り組んでいらっしゃる方がいるわけですよ。例えば原発、被曝の問題、あるいはGMO(※159)、あるいは沖縄、辺野古の基地問題(※160)。

 でも、どれもこれもあれもそれも、こんな緊急権をやられたら、なんでもやられちゃいます。すべてのマルチイシューの上に君臨するとんでもないイシューが現れたと。しかもそれを7ヵ月後に本気でやる気だということです。これを天ぷら総理がやるかという話です。

 本当によくも厚かましくもという感じなんですが、みなさん、真剣にこの7ヵ月、一緒になって考えて、これをひっくり返したいと思います。私、日頃は中立ぶっているんですよ。ぶっていると申し上げておきますけれども、やっぱり報道ですからね。

 でも時には、自分の意思決定、自分の判断を明確に示す必要が絶対あると思うんです。7ヵ月後にこんなものが通ってしまったら、IWJは続けられないだろうし、令状なき捜索がかかるだろうし、逮捕・拘束されて行方不明になったらたまったもんじゃない。この国が原発抱えて戦争なんて、もっとたまったもんじゃない。孫もいますんで。これはもう、ちょっと断じて見過ごすわけにはいかないと本当に思います。ということで先生。これからもぜひよろしくお願いします」

永井「はい。よろしくお願いします」

岩上「永井幸寿先生にお話をうかがいました。永井先生、本日は本当に長時間ありがとうございました」

永井「ありがとうございました」


(※155)中越地震:新潟県中越沖地震。2007年(平成19年)7月16日10時13分に発生した、新潟県中越地方沖を震源とする地震。マグニチュード(M)は6.8、中越地方では2004年(平成16年)の新潟県中越地震以来のマグニチュード6以上および震度5弱以上を観測した地震となった。死者:15名、重軽傷者:2,316名、建物全壊:1,319棟(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1nuRSAa)。

(※156)26年に土砂災害の起きた広島: 2014年(平成26年)8月20日に広島県広島市北部の安佐北区や安佐南区などの住宅地を襲った大規模な土砂災害で、平成26年8月豪雨に伴い発生した。被災地域での死者は74人、重軽傷者は44人。死者74人という数は、土砂災害による人的被害としては過去30年間の日本で最多となる(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1UP3nU4)。

(※157)アンサー法律事務所:所在地は兵庫県神戸市中央区中町通2-1-18 日本生命神戸駅前ビル2階。連絡先はTEL078-366-6370、FAX078-366-6371(参考:弁護士・法律事務所データベース【URL】http://bit.ly/1TiHXQF)。

(※158)来年、岩波のブックレットになる:永井幸寿 (著)『憲法に緊急事態条項は必要か』のこと。2016年3月5日に岩波書店より無事刊行された。なおIWJは発売後にブックレビューを公開している(IWJ、2016年3月12日【URL】http://iwj.co.jp/feature/book/archives/1393)。アマゾンのリンクと紹介文は以下のとおり。永井幸寿 (著)『憲法に緊急事態条項は必要か』(岩波書店、2016年3月)紹介文:災害やテロを理由に憲法を改正し、緊急事態条項を入れようという動きがある。そもそも、緊急事態条項とは何か、他国の憲法ではどうなっているか、憲法に入れれば本当に国民の生命・財産が守られるのか―緊急事態条項を知るために最適な入門書 (【URL】http://amzn.to/1Vj9Zil)。

(※159)GMO:Genetically Modified Organismの略称。遺伝子組換え作物。安全性、生態系破壊などさまざまな面で問題が指摘されている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1UP3nU4)。

(※160)沖縄の基地問題:1995年9月に発生した「米兵少女暴行事件」をきっかけに、普天間飛行場をめぐる基地問題解決の気運が高まったが、移設計画は一向に進まないまま、2004年8月13日、沖縄国際大学の構内に普天間基地所属の米軍ヘリが墜落。人口過密地域に基地があることの危険性がクローズアップされ、普天間基地の閉鎖を求める声がさらに高まった。そうしたなか、日米両政府は2006年、「再編実施のための日米のロードマップ」を発表し、住宅の上空の飛行ルートを回避するV字滑走路は、辺野古岬とそれに隣接する大浦湾と辺野古湾を結ぶ形で合意。

 しかし2009年、「普天間基地の県外、国外移設」を公約に掲げた鳩山由紀夫代表率いる民主党が政権を獲得すると、既定路線となっていた辺野古移設案は白紙に戻された。鳩山政権はおもに県外移設案で検討するも、具体的な代替案を打ち出せずに迷走し、最終的にはアメリカに押し切られる形で、移設先を「辺野古周辺」とする日米共同声明を発表。2015年10月13日に翁長雄志知事は第三者委員会の報告書を根拠として、辺野古埋め埋め立て承認の取り消しを行った。一方の日本政府は「行政不服審査法に基づく不服審査請求」などの対抗措置を取る構えを示しており、両者の間での法廷闘争が避けられない状況となっている(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1W9cPrc)。

(了)

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「【第254-260号】岩上安身のIWJ特報!災害対応に「緊急事態条項」は不要! ~安倍政権の卑劣な「惨事便乗型全体主義」を警戒せよ! 永井幸寿弁護士インタビュー」への2件のフィードバック

  1. yu より:

    自民改憲がなぜ危険かつ不要なのか?
    立憲主義ってなんなのか?
    どうすればいいのか?
    これらが全部わかるのがこのインタビューだと思います。
    動画公開して下さい! 動画にすぐリンクできるようにして下さい!
    選挙前に大量の文字起こしを公開されてますが、全部よめない。。
    周りの人におすすめするなら、とやかく言わずにこのインタビュー動画みろ、と言いたいのです!
    ちなみに私もこの動画を見るまでIWJはうさんくさいと思ってましたが、視聴後に考えを改めました

    1. appo より:

      私もyuさんの意見に賛成です。IWJはこの動画を、新聞で言えば「号外」級の扱いにすべきだと思う。つまり無料で特別公開すべきだと思う。IWJは自民党の「緊急事態条項」案の危険性を指摘している。この指摘は、正に的を射ている。しかし、これを有料で公開することは、ジャーナリズムとしての社会的責任、つまりIWJ自身の存在意義を失うことになる。
      日頃、IWJはこの条項の危険性を声高に唱えているが、無料公開しないのは、その本気度を疑う。本音は単に、金儲けしたいだけではないのか。
      最も無料公開しただけでは、この情報が広がるとは思えない。こんな時間の長い動画では、誰も見る気が失せる。無料公開した上で、キャッチフレーズを考えてそのキャッチフレーズの拡散を視聴者にお願いしたらどうか。そのキャッチフレーズもワンクリックで簡単にフェイスブックやツイッターに拡散できるようにしたらどうか。
      ジャーナリズムとしてのIWJの存亡を賭けて社会に公開すべきである。IWJさん、ご検討をお願いします。

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