ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三つの宗教の聖地を擁し、様々な民族が独特の共存社会を築き上げてきたパレスチナの地において、1948年5月14日にイスラエル国が建国を宣言し、今年でちょうど70年の節目を迎える。このイスラエルの建国がそこに暮らす人々の意思と祝福によって実現したものではないことは、今ではよく知られた事実である。
パレスチナの先住民を力ずくで追放するなどして、イスラエルが建国を押し通しえたのは、その後ろだてとなったイギリスの三枚舌外交の存在があった。
第一次大戦に際して自国の戦争遂行を有利に運ぶため、イギリスはアラブ人・仏露・ユダヤ人のそれぞれに各々独立国家の建設や領土分割を約束した。このイギリスの身勝手かつ無責任な三枚舌外交(フセイン=マクマホン協定、サイクス・ピコ条約、デルフォイ宣言)によって、オスマン帝国の分割にあずかりたい列強各国だけでなく、アラブ人にも期待をさせ、同時にユダヤ人に「ナショナルホーム」の建設を約束したことで、パレスチナ人の運命はその後、長きにわたり振り回されることとなった。
さらに第一次大戦後の1920年に発足した国際連盟が、地域の特性も住民の声も無視して、いかに恣意的かつ不公平にパレスチナを分割しようとしたか、この点は特筆しておかなくてはならない。
1947年11月29日に可決した「国連総会決議第181号」によると、パレスチナ全土の6%以下の土地しか所有せず、人口のわずか30%を占めるにすぎなかったユダヤ人が、パレスチナ全土の半分以上の領土を、それも最も肥沃な土地の大半を与えられるというのが、国連の提案であり、当然先住民のパレスチナ人としては到底受け入れることのできないものだった。
なによりも、パレスチナの人々がイスラエル建国記念日を「ナクバ(大災厄)の日」と呼び、いまなお追悼と抗議行動をやめないことからもわかるとおり、そうして分譲された「約束の地」をユダヤ人だけの国家にするため、シオニスト指導部がいかに冷酷非道なパレスチナ民族の浄化作戦に手を染めたか(「ダレット作戦」)、IWJも岩上安身による識者へのインタビューや講演会の中継を通じ、最新の研究成果と分析を視聴者にお伝えしてきた。
- (再掲載)【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む第1弾!】パレスチナ問題の原点であるイスラエルによる「民族浄化」の真実を暴く!~岩上安身によるインタビュー 第842回 ゲスト 東京経済大学准教授(※収録当時、現在は教授)早尾貴紀氏 2018.1.25
- 【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む第2弾!】イスラエルの暴力的建国は公文書によって裏づけられた!ガザ弾圧の起源!~岩上安身によるインタビュー 第861回 ゲスト 東京経済大学准教授(※収録当時、現在は教授)早尾貴紀氏 2018.4.14
- 【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む第3弾!】~『大災厄(ナクバ)』の日70年を目前に米大使館がエルサレムに移転!ガザでは今日もイスラエルが非武装の市民を殺戮している!~岩上安身によるインタビュー 第870回 ゲスト 東京経済大学准教授(※収録当時)早尾貴紀氏 2018.5.14
- 【シリーズ『パレスチナの民族浄化』を読む第4弾!】民族浄化を開始したのは第一次中東戦争よりも前!1947年11月末の国連による「分割決議」直後から!~岩上安身によるインタビュー 第875回 ゲスト 東京経済大学 早尾貴紀准教授 2018.6.4
かくも暴力的な建国が、70万人ものパレスチナ難民を生み出しただけでは終わらなかったことも周知のとおりである。『不在者財産取得法』と『帰還法』(1950年。1952年に『国籍法』となる)を通じて、世界に散らばっていたユダヤ人のパレスチナ移住を促すと同時に、戦火や迫害を避け一時的に故郷を離れていた難民キャンプのパレスチナ人数十万人の国籍を剥奪。彼らの帰郷を阻害し、土地、財産を収奪したのみならず、追放をまぬがれてパレスチナに留まり、イスラエル国民となったパレスチナ人を「在留者」とし、住居、就職、教育などあらゆる社会的領域でこれを差別・排除する社会的構造を作り上げた。
その一方で、シオニスト政権は拡張政策を推進し地域全体のユダヤ化を画策した。1967年に不法占領したヨルダン川西岸地域や東エルサレムに次々とユダヤ人入植者を送り込み(入植活動は、1949年のジュネーヴ条約も禁じているとおり、また、近年では国連安全保障理事会決議第2334号でも再確認されたとおり、国際法に違反する行為である)、パレスチナ人コミュニティを内側から破壊しながら同地の乗っ取りを継続中である。『イスラエル内パレスチナ人』を執筆した、ジャーナリストのベン・ホワイトが評しているとおり、建国以来のイスラエルの70年の歩みには、この地に「権利があるのはユダヤ人だけで、アラブ人は(条件付きで)国内に住まわせてやっているというイスラエル指導者の図々しい考え」が深く刻印されている。
- ベン・ホワイト著、脇浜義明訳『イスラエル内パレスチナ人−−隔離・差別・民主主義』法政大学出版局(サピエンティア51)、2018年
- (再掲載)イスラエルは今、「アパルトヘイト」国家へ!?「反ユダヤ」でも「パレスチナ側」でもない「平和側」によるイスラエル批判~ 岩上安身によるインタビュー 第840回 ゲスト ユダヤ人家具作家ダニー・ネフセタイ氏 2018.1.23
- 立ちふさがる分離壁!イスラエルの占領と入植によって恋愛も普通の生活もかなわないパレスチナの若者の現実!~岩上安身によるインタビュー 第638回 ゲスト 映画『オマールの壁』主演俳優アダム・バクリ氏〈予告編付き〉 2016.4.16
このような侵略者然とした振る舞いが、「(委任統治パレスチナの住民は)設立される国家の国民となり、そこで居住し、完全なる市民的・政治的権利を有する」という『国連総会決議第181号』にもとづくパレスチナ分割の際の取決めはもとより、「何人も現在の自国を含め、いかなる国からも出国し、自分の故郷である国へ帰る権利を有する」と定める『世界人権宣言』13条にも違反することは明らかである。
そもそもイスラエルは、中東地域における最初で唯一の民主主義国家であり、他のアラブ諸国とは一線を画す「先進国」であることを国内外に長年にわたって喧伝してきた。事実、イスラエルはその『独立宣言』において、「宗教、人種、あるいは性にかかわらず、すべての住民の社会的、政治的諸権利の完全な平等を保証」し、国際社会の一員として「国際連合憲章の原則に忠実でありつづける」ことを厳かに誓ったはずである。
しかし、そんな高らかな建国の理念を掲げながら、他方では、パレスチナ人の民族浄化を推し進め、彼らの生命、土地、財産、帰還や居住をはじめとするあらゆる権利を今なお奪い続けている。そんなイスラエルという国家の「正当性」が、一体どこにあるというのであろうか。
ようやく近年、イスラエル国内から、さらには同国に好意的であった欧米諸国からも、イスラエル政府を非難する声が上がるようになった。だが、シオニスト極右政権はこれに耳を貸さないばかりか、パレスチナ自治区への無差別空爆や抗議デモ参加者に対する暴力行為など、その民族浄化政策をますますエスカレートさせている。
- (再掲)ガザ封鎖と民族浄化 「パレスチナ人は芝のように刈られる」〜岩上安身によるインタビュー 第442回 ゲスト 岡真理・京都大教授 2014.7.26
- 【ガザを伝える「第三の目」〈4〉】「恒久的」なガザ停戦合意は本物か!? ~「お願いだ、もう止めてくれ」ハマスのロケット弾とイスラエルの「レイシズム」に怯えるイスラエル人ジャーナリストの叫び 2014.8.31
- イスラエル兵の実弾がパレスチナ人の無防備な身体と「衝突」!? BBCはイスラエルがガザで犯した残虐行為を正当化している!早尾貴紀氏が注目したハミド・ダバシ氏による「『西側メディア』と大衆欺瞞」をIWJが一挙仮訳! 2018.5.13
- 「帰還の大行進」ではわずか1日で58人死亡、2700人以上が負傷!これはデモ隊とイスラエル軍との「衝突」ではなく、「虐殺」である!! 〜5.27 志葉玲パレスチナ・イスラエル取材報告会 2018.5.27
そしてこのたび、イスラエルはとうとう民主主義の建前すらかなぐり捨てた。クネセト(イスラエル議会)は2018年7月19日未明、非ユダヤ人の排除およびユダヤ人社会の拡張を国是とする「基本法:ユダヤ民族の国民国家たるイスラエル」を、賛成62・反対55で可決したのである。
- 「ユダヤ人国家」法、イスラエル国会が可決 批判相次ぐ(朝日新聞、2018年7月20日)
- 「イスラエルはユダヤ人国家」基本法案を可決 アラブ系反発(東京新聞、2018年7月20日)
この新法の制定について、日本ではいくつかのメディアが国際面で簡単に触れるのみにとどめた。しかし、欧州では可決以来連日のように取り上げられている。この基本法の制定がパレスチナ和平の歩みに、さらには国際社会に及ぼすであろう影響の大きさを物語る。日本の主要メディアの「不都合で厄介なことは見て見ぬふり」という姿勢の報道だけを見ていると、日本人は国際情勢をまったく見誤ることになる。
この基本法の制定がいかにパレスチナ人の人権を蹂躙するものか、またその思想や思考様式がアーリア民族の優越を説いたナチス・ドイツの自民族中心主義を彷彿とさせるものであるか、また、日本会議のような極右団体に支えられる日本の安倍政権にいかに似通った点があることか、仏メディアを中心に海外の報道・分析を紹介しながらここで皆さんとともに考えてみたい。
この基本法の制定がパレスチナ和平の歩みに、さらには国際社会に及ぼすであろう影響の大きさを物語る。日本の主要メディアの「不都合で厄介なことは見て見ぬふり」という姿勢の報道だけを見ていると、日本人は国際情勢をまったく見誤ることになる。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/430189 … @iwakamiyasumiさんから
https://twitter.com/55kurosuke/status/1034020475502874624