【IWJ検証レポート】イスラエル新基本法――イスラエルは「ユダヤ人の」国家、植民活動は「国家の価値」と憲法規定! イスラエル、フランスのメディアで報じられた海外記事からその危険性と極右政権の本質を読み解く! 2018.8.26

記事公開日:2018.8.26 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(記事構成:IWJ編集部 文責:岩上安身)

特集 中東

 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三つの宗教の聖地を擁し、様々な民族が独特の共存社会を築き上げてきたパレスチナの地において、1948年5月14日にイスラエル国が建国を宣言し、今年でちょうど70年の節目を迎える。このイスラエルの建国がそこに暮らす人々の意思と祝福によって実現したものではないことは、今ではよく知られた事実である。

 パレスチナの先住民を力ずくで追放するなどして、イスラエルが建国を押し通しえたのは、その後ろだてとなったイギリスの三枚舌外交の存在があった。

 第一次大戦に際して自国の戦争遂行を有利に運ぶため、イギリスはアラブ人・仏露・ユダヤ人のそれぞれに各々独立国家の建設や領土分割を約束した。このイギリスの身勝手かつ無責任な三枚舌外交(フセイン=マクマホン協定、サイクス・ピコ条約、デルフォイ宣言)によって、オスマン帝国の分割にあずかりたい列強各国だけでなく、アラブ人にも期待をさせ、同時にユダヤ人に「ナショナルホーム」の建設を約束したことで、パレスチナ人の運命はその後、長きにわたり振り回されることとなった。

 さらに第一次大戦後の1920年に発足した国際連盟が、地域の特性も住民の声も無視して、いかに恣意的かつ不公平にパレスチナを分割しようとしたか、この点は特筆しておかなくてはならない。

 1947年11月29日に可決した「国連総会決議第181号」によると、パレスチナ全土の6%以下の土地しか所有せず、人口のわずか30%を占めるにすぎなかったユダヤ人が、パレスチナ全土の半分以上の領土を、それも最も肥沃な土地の大半を与えられるというのが、国連の提案であり、当然先住民のパレスチナ人としては到底受け入れることのできないものだった。

 なによりも、パレスチナの人々がイスラエル建国記念日を「ナクバ(大災厄)の日」と呼び、いまなお追悼と抗議行動をやめないことからもわかるとおり、そうして分譲された「約束の地」をユダヤ人だけの国家にするため、シオニスト指導部がいかに冷酷非道なパレスチナ民族の浄化作戦に手を染めたか(「ダレット作戦」)、IWJも岩上安身による識者へのインタビューや講演会の中継を通じ、最新の研究成果と分析を視聴者にお伝えしてきた。

 かくも暴力的な建国が、70万人ものパレスチナ難民を生み出しただけでは終わらなかったことも周知のとおりである。『不在者財産取得法』と『帰還法』(1950年。1952年に『国籍法』となる)を通じて、世界に散らばっていたユダヤ人のパレスチナ移住を促すと同時に、戦火や迫害を避け一時的に故郷を離れていた難民キャンプのパレスチナ人数十万人の国籍を剥奪。彼らの帰郷を阻害し、土地、財産を収奪したのみならず、追放をまぬがれてパレスチナに留まり、イスラエル国民となったパレスチナ人を「在留者」とし、住居、就職、教育などあらゆる社会的領域でこれを差別・排除する社会的構造を作り上げた。

▲西岸地区に築かれた分離壁(Wikipediaより)

 その一方で、シオニスト政権は拡張政策を推進し地域全体のユダヤ化を画策した。1967年に不法占領したヨルダン川西岸地域や東エルサレムに次々とユダヤ人入植者を送り込み(入植活動は、1949年のジュネーヴ条約も禁じているとおり、また、近年では国連安全保障理事会決議第2334号でも再確認されたとおり、国際法に違反する行為である)、パレスチナ人コミュニティを内側から破壊しながら同地の乗っ取りを継続中である。『イスラエル内パレスチナ人』を執筆した、ジャーナリストのベン・ホワイトが評しているとおり、建国以来のイスラエルの70年の歩みには、この地に「権利があるのはユダヤ人だけで、アラブ人は(条件付きで)国内に住まわせてやっているというイスラエル指導者の図々しい考え」が深く刻印されている。

 このような侵略者然とした振る舞いが、「(委任統治パレスチナの住民は)設立される国家の国民となり、そこで居住し、完全なる市民的・政治的権利を有する」という『国連総会決議第181号』にもとづくパレスチナ分割の際の取決めはもとより、「何人も現在の自国を含め、いかなる国からも出国し、自分の故郷である国へ帰る権利を有する」と定める『世界人権宣言』13条にも違反することは明らかである。

 そもそもイスラエルは、中東地域における最初で唯一の民主主義国家であり、他のアラブ諸国とは一線を画す「先進国」であることを国内外に長年にわたって喧伝してきた。事実、イスラエルはその『独立宣言』において、「宗教、人種、あるいは性にかかわらず、すべての住民の社会的、政治的諸権利の完全な平等を保証」し、国際社会の一員として「国際連合憲章の原則に忠実でありつづける」ことを厳かに誓ったはずである。

 しかし、そんな高らかな建国の理念を掲げながら、他方では、パレスチナ人の民族浄化を推し進め、彼らの生命、土地、財産、帰還や居住をはじめとするあらゆる権利を今なお奪い続けている。そんなイスラエルという国家の「正当性」が、一体どこにあるというのであろうか。

 ようやく近年、イスラエル国内から、さらには同国に好意的であった欧米諸国からも、イスラエル政府を非難する声が上がるようになった。だが、シオニスト極右政権はこれに耳を貸さないばかりか、パレスチナ自治区への無差別空爆や抗議デモ参加者に対する暴力行為など、その民族浄化政策をますますエスカレートさせている。

▲アルジャジーラ、2018年4月9日付記事 より

 そしてこのたび、イスラエルはとうとう民主主義の建前すらかなぐり捨てた。クネセト(イスラエル議会)は2018年7月19日未明、非ユダヤ人の排除およびユダヤ人社会の拡張を国是とする「基本法:ユダヤ民族の国民国家たるイスラエル」を、賛成62・反対55で可決したのである。

 この新法の制定について、日本ではいくつかのメディアが国際面で簡単に触れるのみにとどめた。しかし、欧州では可決以来連日のように取り上げられている。この基本法の制定がパレスチナ和平の歩みに、さらには国際社会に及ぼすであろう影響の大きさを物語る。日本の主要メディアの「不都合で厄介なことは見て見ぬふり」という姿勢の報道だけを見ていると、日本人は国際情勢をまったく見誤ることになる。

 この基本法の制定がいかにパレスチナ人の人権を蹂躙するものか、またその思想や思考様式がアーリア民族の優越を説いたナチス・ドイツの自民族中心主義を彷彿とさせるものであるか、また、日本会議のような極右団体に支えられる日本の安倍政権にいかに似通った点があることか、仏メディアを中心に海外の報道・分析を紹介しながらここで皆さんとともに考えてみたい。

記事目次

  • 将来制定されるべき憲法の各章を構成するものとして漸次制定してきた基本法。13番目となる新基本法「ユダヤ民族の国民国家たるイスラエル」日本語訳
  • 「民族自決権はユダヤ人のみ」「アラビア語は(公用語たるヘブライ語に対し)『特別』な地位」−−非ユダヤ人は国民に非ずと宣告し、人種差別を制度化する「アパルトヘイト」法!?
  • 「入植活動は国家の価値」!? ユダヤ人の権利と利益を守るためなら、非ユダヤ人のそれを犠牲にすることは厭わない!? 地域間の対立を煽り国際和平を阻害する危険な法!
  • 証明された極右政権の欺瞞!立ち上がるマイノリティ! 極右政権による蹂躙を許す日本人に、何かを感じ取る矜恃はあるか!?
  • ユダヤ人国家にとって「良き同化の模範例」、13万人のイスラム教ドゥルーズ派の決起に動揺するシオニスト政権! ユダヤ人にとってシオニズムは得策だったのか!?

将来制定されるべき憲法の各章を構成するものとして漸次制定してきた基本法。13番目となる新基本法「ユダヤ民族の国民国家たるイスラエル」日本語訳

 イスラエル国は成文法としての憲法を持たない。1948年5月14日の独立宣言は憲法について、「選出された憲法制定議会によって同年10月1日までに憲法が制定される」と定めていたが、建国と同時に勃発した中東戦争ゆえに果たされなかったのである。

 翌1949年2月には最初のクネセト(イスラエル議会)が開かれ、憲法制定委員会が発足した。しかし、トーラー(ユダヤ教の律法)以外の法を国家の最高法規に据えることを拒否する宗教諸政党の猛反発にあい、ダヴィド・ベングリオン初代首相は憲法制定を断念。1950年6月30日の「ハラリ決議」により、クネセトが未来の憲法の各章となるべき「基本法」を漸次制定してゆくことになった。

▲1949年1月20日、クネセト選挙のための演説を行うベン=グリオン(Wikipediaより)

 絶対過半数(120議席中61議席)の賛成で制定あるいは改定できるとされるこの基本法、1958年の「クネセト(国会)」を皮切りに、これまでに12の基本法〔「土地」(1960年)、「大統領」(1964年)、「政府」(1968年成立、1992年および2001年改正)、「国家経済」(1975年)、「軍」(1976年)、「イスラエルの首都エルサレム」(1980年)、「司法」(1984年)、「国家会計検査官」(1988年)、「人間の尊厳と自由」(1992年)、「職業の自由」(1992年)、「国民投票」(2014年)〕が成立。建国の理念を集約した『イスラエル独立宣言』(1948年)、世界に散らばる離散ユダヤ民族の連携および集結(移民)の促進を国家の主務と定めた『世界シオニスト機構=ユダヤ機関(地位)法』(1952年)、そして、すべての離散ユダヤ人を「移民(アリヤー)」として受け入れることを宣言した『帰還法』(1950年制定、1970年改正)とともに、憲法の代替として機能してきた。

 そして、建国70年の節目となる今年2018年に制定されたのが、その13番目となる「ユダヤ民族の国民国家たるイスラエル」なのである。以下にクネセトの公式英訳からの日本語訳(ライターによる仮訳)を示しておこう。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページより御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録

関連記事

「【IWJ検証レポート】イスラエル新基本法――イスラエルは「ユダヤ人の」国家、植民活動は「国家の価値」と憲法規定! イスラエル、フランスのメディアで報じられた海外記事からその危険性と極右政権の本質を読み解く!」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    この基本法の制定がパレスチナ和平の歩みに、さらには国際社会に及ぼすであろう影響の大きさを物語る。日本の主要メディアの「不都合で厄介なことは見て見ぬふり」という姿勢の報道だけを見ていると、日本人は国際情勢をまったく見誤ることになる。
    https://iwj.co.jp/wj/open/archives/430189 … @iwakamiyasumiさんから
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1034020475502874624

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です