【IWJ検証レポート】米国のイラン核合意離脱にサウジが核武装を宣言!「イラン問題」は中東の火薬庫! 米国・イスラエルのイラン敵視政策は、中東のさまざまな対立関係に火を点ける! 日本の中東政策は相変わらず米国・イスラエルへの追随のみでいいのか!? 2018.7.12

記事公開日:2018.7.12 テキスト
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(文・英語翻訳:尾内達也 フランス語翻訳:辻部亮子 文責・岩上安身)

特集 中東

 米国は、2018年5月8日に、イラン核合意からの離脱と、イランへのさらなる制裁の強化を表明した。オバマ大統領がまとめたこのイラン核合意からの離脱は、トランプ大統領の選挙公約の実行でもあった。このタイミングで公約を実行した背景には、11月6日の中間選挙に向けて、トランプの支持基盤であるバイブルベルト*の支持者の支持を確実なものとする意図があったと言われている。

 大統領自身の地位を確かなものにする政治的な自己保身が、イランとの対決姿勢を崩さないイスラエルへの極端な「偏愛」姿勢へとつながるのはなぜか。米国の、異常なまでの「イスラエルびいき」は、これまでにも見られた傾向ではあったが、トランプ政権ほど、外交バランスを無視してまでイスラエルに傾斜した大統領は過去に例がない。国際社会で孤立を深める米国とイスラエルは、今や同盟国以上の関係である。他の同盟国や大国との関係を悪化させ、孤立主義的傾向を深めるトランプ外交において、イスラエルは例外中の例外である。

 これはなぜなのか。そして「イスラエル偏愛」外交が、どうして米国内のトランプの支持基盤を強固にすることにつながるのか。

注)バイブルベルトは、キリスト教福音派(クリスチャン・シオニストと重なりあう)の白人労働者が多く居住する南部の地域のこと。

記事目次

米国とイスラエルは、核合意の枠組みを解体するだけでなく、欧州はじめ世界各国とイランとの平和的な通商関係を破壊し、最終的にイランを壊滅させる武力行使を目標とする

 米国のイラン核合意離脱表明前後に、英国やフランス、ドイツなどの西欧の首脳たちから一斉に懸念と批判の声が上がった。

 「この困難な情勢において、イラン核合意から離脱しイランへの制裁を強化することは誤りだろう」(ボリス・ジョンソン英外相)

▲ボリス・ジョンソン英外相(Wikipediaより)

 「米国がどう決定しようとも、我々としてはこれ(イラン核合意の枠組み)を維持するつもりである」(ジャン=イヴ・ル・ドリアン仏外相)

▲ジャン=イヴ・ル・ドリアン仏外(Wikipediaより)

 「ドイツ外相も、この合意がなければ『世界の安定は脅かされる』と延べ、『一つの失策がエスカレートする』ことの懸念を示した」(ハイコ・マース独外相)

▲ハイコ・マース独外相(Wikipediaより)

 「いつかこれに代わるよりよい合意が成立するなら、それは結構なことだろう。だが、これに代わる良い解決策もないのに、これを破棄すべきではない」(グレーテス国連事務総長)

▲グレーテス国連事務総長(Wikipediaより)

 「これ(トランプの核合意からの離脱決定)はイラン・イスラーム共和国との貿易・外交関係を再建するために長年かけて入念に築き上げてきたものをぶち壊すような振る舞いだ」(在テヘランの欧州の外交官たち)

 米国のイラン核合意離脱表明は、2018年4月13日の米軍によるシリアへの国際法違反のミサイル攻撃や、5月14日の米国大使館エルサレム移転強行、5月18日のイスラエルのガザ攻撃に関する国連調査決議での反対表明、6月19日の国連人権理事会からの米国の離脱表明(イスラエルによるガザでの虐殺などを一方的に批判している、というのがその理由)など、中東における米国の孤立化の流れの中にあり、その流れはイスラエルの意向とぴったり一致している。

 米国はこれまで覇権国らしく、建前だけであれ、イスラエルとアラブの間の「中立の仲介者」の立場を取り続けてきたが、米国大使館のエルサレム移転の強行によって、「中立な仲介者」という建前すら捨て、世界中を敵に回しても、イスラエルとともに歩む、という姿勢を鮮明にした。

 なぜそこまでイスラエルに肩入れするのか、というのが第一の疑問である。

米国の核合意離脱に対するイランの激しい反発

 当然のことながら、イランは、米国の核合意離脱に激しく反発している。イラン指導部からは次々に非難や対抗措置の声が上がっている。

 中でも最も政治的な影響力があるのは、イラン最高指導者アリー・ハメネイ師の発言である。

 「ワシントンが核合意離脱という行動に出るならイランも同合意を離脱する」

▲アリー・ハメネイ師(Wikipediaより)

 「米国が核合意から離脱するなら、我々もそこにとどまる理由はない」(アリー・アクバル・ヴェラーヤティー最高指導者国際問題担当顧問)

▲アリー・アクバル・ヴェラーヤティー最高指導者国際問題担当顧問(Wikipediaより)

 「ドナルド・トランプ大統領の『過激主義政権』は『国際社会も外交的勝利と評価しているこの合意』を破棄した」とザリーフイラン外相は、口をきわめて非難した。

 2015年に合意した「イラン核合意」は、イランの核開発を制限しただけでなく、イランと欧州の間にビジネス上の共益関係を築くことにもなった。今や数多くの欧州企業がイランに投資している。このため、経済上の理由からも、欧州は米国の核合意離脱に反対している。中東の平和が脅かされるのは、大きな経済リスクになる。

 別の視点から言い換えるならば、トランプと米国のトランプ支持者、そしてイスラエルにとって、欧州はじめ世界各国(その中にはイランからの石油輸入を必要としている日本も含まれる)が、平和のうちに貿易、通商関係を築き、イランを含む各国が豊かになることは非常に都合が悪い、ということだ。

 ザリーフ・イラン外相はすでに脅しとも警告ともとれる発言をしている。

 「米国による経済制裁にも関わらず、イランとの商取引を維持するという確かな保証を欧州が提示しない限り、イランは『無限に』ウランの『工業的濃縮』を再開する準備に入る」

 イラクが、シリアがどうなったか、イランは目の前でよく見ている。北朝鮮と同じことをイランの首相もまた考えるだろう。米国に力でつぶされないためには核保有しかない、と。

 経済制裁の果てに、米国とイスラエルが描く最終シナリオに「平和的解決」があるとは到底、思われない。イランがハマスやヒズボラを手仕舞いにし、政府をひっくり返して親イスラエル国家となるのであればともかく、プライドの高いイランにそんな可能性はありそうもないので、そうであれば米国とイスラエルの手元には、イランを粉々にすりつぶすシナリオしか残っていないであろう。

 イランにとって重要なことは、米国が核合意からの離脱だけでなく、イランを追い詰めるべく、さらなる経済制裁の強化を表明していること、そして自国だけでなく、欧州諸国をはじめ日本を含む全ての国々へ、この制裁に従うこと、従わない場合、米国がそうした国々の企業にペナルティーを課し、米国内の市場から事実上締め出すと、露骨な脅しをかけていることである。

 前述のように、イラン核合意の枠組みに参加している欧州各国首脳は表面的には米国の離脱を非難し、この核合意を米国抜きでも維持すると表明しているが、こうした政治的意志も、自国企業が米国市場から締め出され、窮状を訴えられたら、そのスクラムは内側から揺さぶられることになる。

 その点を、すでにイランは見越している。欧州企業が、米国からの脅しに屈して、イランとの取引を断念することを想像した発言もあらわれている。

▲ザリーフ・イラン外相(Wikipediaより)

 「5月12日、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師のインスタグラムに発表された1枚の写真には、トランプ大統領を批判するマイケル・ウルフの著作『炎と怒り』のペルシャ語版を繙いている師自身の姿があった。この写真は数時間で10万を超える『いいね』を獲得した」と、仏のリベラシオン紙は伝えている。イランは米国からの圧力にもかかわらず、「意気軒昂」である、ように見える。

▲『炎と怒り』(日本語版)

 『炎と怒り』は、2018年1月に米国で発売と同時にベストセラーになった本で、日本語版は早くも1か月後の2月に発売されている。この本の中には、トランプ大統領が就任直後から、米国大使館をエルサレムへ移転し、イスラエルとの一体化を進めてゆくことが、首席戦略官(当時)のスティーブン・バノンの口からはっきり述べられている。そして、トランプ政権がイスラエル以外の中東の人々の生活を、いかに無責任にしか考えていないのかも手に取るようにわかるのである。

 「就任初日に、我々は米国大使館をエルサレムに移転するつもりだ。これにはネタニヤフも一枚かんでいる。シェルドン(カジノ王シェルドン・アデルソン、極右の親イスラエル派でトランプ支持者)も。この点に関して、自分たちがどこに向かっているかはわかっている」(『炎と怒り』日本語版p.23)

 「ヨルダンにはヨルダン川西岸地区を、エジプトにはガザを取らせればいい。それぞれ彼らに任せておけばいい。あるいはそうしながら倒れるのに任せておく。サウジアラビアもエジプトも崖っぷちに立っていて、どの国もペルシア(イラン)を死ぬほど恐れている……イエメン、シナイ半島、リビア……けっしてよい状態ではない。……だからロシアが鍵を握っている。……はたしてロシアはそんなに悪者なのか。たしかに連中は悪者だが、それをいうなら世界は悪者だらけだ」(同書p.23)

イランと米国の対立はイランと欧州の両義的な関係を浮き彫りにする!

 イランと米国の対立は、イランと欧州の両義的な関係を顕在化させている。先述の通り、イランと欧州の関係は、お互いにビジネスパートナーという面があり、米国がどのようにタクトをふるおうとも、米国のような単純な対立関係にはならない。欧州の関心は、自国企業の利益を、米国の制裁を回避しながら、いかに守るかという点にある。

 5月9日付けの『リベラシオン』は、米国の孤立化を浮き彫りにすると同時に、「イラン核合意」が欧州にとっていかに大切なものかをよく伝えている。

 「欧州諸国は米国抜きで議論に入った。ロンドンは米国に対して『他国の核合意維持の動きを妨げるような行動は一切控えるよう』求めた」

 「欧州諸国はしたがって、各々の企業を守り、イランの期待に応えるための方策を見つけなければならない。イランと商取引のある欧州の企業が米国の制裁を免れるよう、ワシントンへの働きかけを始める」

(…会員ページにつづく)

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