【ガザを伝える「第三の目」〈4〉】「恒久的」なガザ停戦合意は本物か!? ~「お願いだ、もう止めてくれ」ハマスのロケット弾とイスラエルの「レイシズム」に怯えるイスラエル人ジャーナリストの叫び 2014.8.31

記事公開日:2014.8.31 テキスト
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(翻訳:服部綾乃、文:佐々木隼也、文責:岩上安身)

特集 中東

 イスラエル側の死者69人、 パレスチナ側の死者2143人。「虐殺」とも呼べるイスラエル軍の一方的な攻撃に晒されていたガザ地区に、ひとまずの平和が訪れた。

 イスラエルとパレスチナは8月26日、ガザ地区における長期的な停戦に合意し、同日午後4時(日本時間27日午前1時)に発効した。7月8日から50日続いた戦闘は、とりあえずの終息をみせた。

 合意によれば、イスラエル側は「パレスチナ人の漁業権の拡大」や、「ガザへの人道援助、救援物資、再建のための建設資材の搬入」を認めることに同意し、2007年から続けていた経済封鎖を緩和したという。

 しかし、イスラエルが求めるガザの非武装化や、ハマスが要求するガザの封鎖解除などの重要懸案については、「1カ月以内の交渉再開」と実質先送りとなった。

 この停戦についてパレスチナ側は「恒久的」とし、イスラエル高官は「無条件かつ無期限」と述べた。しかしガザの惨禍が終わった、とはまだ言いがたい。交渉がまとまるまで、そして両者が完全に武装解除にいたるまで、予断は許さない。これまでも停戦に合意するたびに、「ハマスによるロケット弾の報復」として、何度もイスラエル軍の攻撃が再開されてきたからだ。

 つい先日、8月19日にも、停戦期間の失効を待たずに、「8発のロケット弾がイスラエルに向けて発射された」として、イスラエル軍が報復攻撃をガザ市10カ所に行ったばかりだからだ。

 27日に演説したイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスに大打撃を与えたと勝利宣言をしたうえで、「イスラエルは正統性を認められた」と語った。一方、ハマスの最高指導者メシャル氏は「全要求が満たされるまでイスラエルへの抵抗を続ける」と宣言した。両者の隔たりが埋まったとはとても言えない。

 「恒久的」で「無条件かつ無期限」の平和が訪れる日は来るのだろうか――。

 「だれかが私たちの命を駒がわりにチェスを楽しんでいるのか、と思うこともあります。私たちは戦争には反対です。少しでも良識のある人間だったら、誰だってそうでしょう。でも軍のリーダーたちは違います」

 これは、ガザの救急医療センターで決死の救援活動を続けているサバニ医師の言葉だ。ハマスの「抵抗」と、イスラエル軍の「報復」で殺されているのは、ほとんどが民間人だ。

鳴り響くロケット弾飛来を知らせるサイレン ~スペイン語圏の記者が伝える、イスラエル市民の日常

 スペイン語圏の記者たちの取材記事を邦訳して紹介する【ガザを伝える「第三の目」】シリーズの第一弾では、このサバニ医師の苦悩を伝えた。

 サバニ医師は、「なんでイスラエルは僕たちを殺すの?なぜ?」という自身の子供の問いに「分からない」と自問自答する。そして、「イスラエル人たちは、その答えを分かっているのでしょうか。それも私にはわからない」と、記者に問いかけている。

 「イスラエル人はなぜパレスチナ人を殺すのか」――。スペイン語圏の記者たちは、この問いかけに対する、イスラエル人の「答え」の一つを提示している。

 コロンビアの「エル・エスペクタドール紙」は7月26日、イスラエルで独立系メディアを立ち上げたイスラエル人ジャーナリスト、アミ・カウフマン氏の寄稿を掲載している。「イスラエル人記者の心の叫び“どうかお願いだ、もう止めてくれ”」と題する寄稿でアミ氏は、自身もハマスのロケット弾の恐怖に怯え、憤りを感じながらも、自身の娘たちの顔にガザで死んだ多くの子供たちを重ね、「一体どちらがテロリストなのだろうか?」と苦悩する。

 アミ氏は、今回のガザ攻撃の経緯を解説しながら、イスラエル側の犠牲者についての報道に終始するイスラエルのメディアの問題、そしてイスラエル社会に蔓延しつつあるレイシズムの恐怖を綴っている——。

 寄稿は、ハマスのロケット弾の飛来を知らせるサイレンが鳴り響く中、急いで避難するアミ氏一家の生々しい描写から始まる。

 「うえの娘に目をやる。六歳になったばかりだ。私と娘は、マンションの階段の踊り場に立っている。疲れているだろうに、娘は目を大きく見開いている。すでに時刻は12時を回った。私は、この街、テルアビブの郊外にあるバット・ヤムニに、ロケット弾の飛来を知らせるサイレンが鳴り響くのを聞き、急いで娘を起こしてきたのだ。

 ハマスがロケット弾を発射した場合、私たちはおよそ一分のあいだにどこかに避難しなければならない。我が家は集合住宅の三階だ。おまけに子供たちがいる。一分間で地下まで避難するのは難しい。だから私たちはこうして廊下に出て近所の人たちと一緒にじっとしている。なかには、シャワーの途中だったと見え、タオル一枚で飛び出してきた人もいる。パジャマ姿の人。顔の知らない人たちも混ざっている。みんなで微笑みあい、わざと冗談を言い合う。

 とそのとき、建物の真上で、バン! もう一度、バン!何かにロケットが命中したのだろうか。いや、おそらくはイスラエル軍のミサイル防衛システム、アイアンドームがロケットを撃墜したのだろう。

 この数週間、この音を何度聞いたことだろう。だが何度聞いても慣れるものではない。私は長女をぎゅっと抱きしめ、妻は下の娘を抱きかかえている。この子の方はすやすや寝ている。それが私たちには救いだ。こんな風に夏を過ごすことになるとは、いったい誰が想像していただろう。外にでかけ海で泳ぐはずが、私たちは毎日、部屋に閉じこもり、夜になるとこうして通路に集まっている。

 私は毎日、娘たちをサマーキャンプに送っていき、そこから車で30分の距離にある事務所に向かう。その車の中で私はいつも、不安で押しつぶされそうになっている。ああ、そんな思いをすることになるとは…。

 娘たちと離れている時にサイレンが鳴ると、唯一の頼りはワップアップだ。サイレンがやむとすぐに私は、キャンプのインストラクターにワップアップで連絡を取り、娘たちの無事を確かめる。『全員、防空施設に避難しています。子供たちは大丈夫です。何も心配いりません』、たいていはそういう答えが返ってくる。だがそれでも、私は心配でたまらない。

 いったいなぜこんなことになってしまったのか?境界防衛作戦が始まってから850人のパレスチナ人と、35人のイスラエル人、タイの民間人一人が死亡し、犠牲者の数はなおも増え続けている。いったいなぜここまで来てしまったのか?」

 この疑問に対し、アミ氏は「最近の出来事だけに限って見てみると、事の経緯ははっきりしている」と語り、今回のガザ攻撃の背景を説明する。

 イスラエル側が、パレスチナとの和平に向けた話し合いを断ち、パレスチナにファタファとハマスの統一政権が出来ることを断固として認めないという態度が、これまでにないほどの両国間の緊張を生んでいた、と振り返るアミ氏は、「 イスラエルは、最初からイスラエルは戦争拡大を目指していたわけではないという。だが間違いなくイスラエルは、そうなるよう目論んでいた」と断言する。

「モラルが高い」と自ら豪語するイスラエル軍の戦争犯罪

 今回のガザ攻撃の発端となった、ヨルダン川西岸地区でのイスラエル人少年三人の誘拐事件。イスラエルのネタニヤフ首相はすぐに、誘拐をハマスの仕業と断定し、遺体が発見されてからもハマスへの糾弾を続けた。しかしこの事件をめぐっては、「ハマスがやった」という証拠は未だに見つかっていない。

 この事に触れてアミ氏は、誘拐事件を利用した「ガザへの憎悪」の煽動を指摘する。

 「ネタニヤフ首相は、誘拐された当初から少年三人はすでに死亡しているとの情報をつかんでいたにもかかわらず、捕虜救出作戦だとして誘拐された三人の捜索を三週間にもわたって続けた。その間も首相はハマスへの糾弾を続け、それを、文字通り全パレスチナ人に対して戦争宣言を行うための機運づくりに利用した。その一方でイスラエルは、ヨルダン川西岸地区で何百人というパレスチナ人を捉え、ガザでは、暗殺を繰り返していた。 

 イスラエル政府によるこうした扇動は、イスラエル国民の間に、国内に暮らすアラブ人に対する憎悪を掻き立て、それがあの、残酷な殺害事件を引き起こすことになる。極右の六人のユダヤ人が、東エルサレムのシュアファット(Shuafat)で、16歳のアラブ人少年を誘拐し、近くの森に連れて行き、殴り、火を点けて殺害した。これは、この国で起きた殺人事件としては最も残酷なもののひとつだ。事件が明らかになるや、東エルサレムと、イスラエル国内のパレスチナ人居住区でも暴動が起きた」

 こうした緊張状態のなか、ガザから掘られたトンネルの中でハマスの戦士9人がイスラエルにより殺害されるという事件が起きた。これに対しハマス側も、猛攻撃を開始した。ハマス側からの何百発ものロケット弾攻撃、イスラエルによるガザ空爆、ハマスのイスラエル領内への侵入、イスラエル軍の地上侵攻と、戦争は拡大の一途をたどっていった。

 その結果、「モラルが高い」と自ら豪語するイスラエル軍がガザで多くの民間人を殺害していることについて、アミ氏は厳しく批判する。

 「結果は、すさまじいばかりの破壊。一方は地球上で最も裕福で強力な軍隊で、一方はゲリラグループという、戦いとも言えないこの争いの結末としては、こうなることは容易に予測できたはずだ。

 国連の発表によると、ガザの犠牲者の80%近くは民間人だ。イスラエルは、民間人への危険を最大限避ける努力をしていると明言するが、この数字の前には、イスラエル政府の主張は何の説得力も持たない。それだけではない。200人以上の子供が殺害され、そのなかには少なくとも11人の赤ん坊が含まれている。 そしてそのすべてが、“世界で最もモラルが高い”と自ら豪語する軍隊がガザで行っている事なのだ」

 アミ氏は、7月20日にイスラエル軍がハマスの戦士を狙った砲撃により、罪もない25人の民間人(うち18人は子供と幼児で1人が妊婦)の命も奪われた出来事を紹介。 「イスラエルによる、まさに戦争犯罪と呼ぶべき攻撃」と評したうえで、こうしたイスラエル軍による民間人殺害が、イスラエルのメディアでほとんど報じられない異様さについて言及する。

 「イスラエルのメディアは、この出来事についてほとんど伝えていない。完全に、イスラエル側の犠牲者についての報道に終始している。もちろん、自軍に関心が向かうのは理解できる。だがそれでも、このような民間人の犠牲者が出たという事は広く伝えるべきではないのか。

 どうやらイスラエル人は、こうした犠牲については些末的なものだと考えている節がある。例えば、ある将軍が、“その建物の中に、たしかに25人の無関係の者がいた。だが、ハマスのメンバーの命と同じようにその者たちの命だって奪っても構わない”と言ったとしても、イスラエルの人々はさして問題発言だとも思わないかもしれない。

 こうした考え方はイスラエル軍の中では当たり前のものなのだろうか? 個人的な意見だが、これほどのモラルの低さは、何代にもわたってイスラエル社会の中に植え付けられてきたレイシズムと、教育システムによってもたらさられたものなのではないのか。

 我々イスラエル人は、 “あの者たちへの見せしめ”のためにイスラエル軍が130人の子供たちを殺しているという事実に対しても平然としていられるのは、レイシズムの考え方がそこにあるからに他ならない」

イスラエルに蔓延する「レイシズム」の恐怖

 続けてアミ氏は、このイスラエルに蔓延するレイシズムについて綴っている。そして同時に、イスラエルの姿勢を批判する自身にも身の危険が迫っている「恐怖」についても語っている。

 「この何週間、大砲が放たれ、レイシズムがすさまじい勢いで表に出始めている。ユダヤ教のラビ、ドブ・ライオルが、ガザの破壊を命じ、無実の市民の虐殺を許可すると声明を出した。

 また、イスラエルの軍事作戦への抗議を行っていた左翼活動家らが右翼活動家から暴行を受けた。ガザ連帯を口にしていた著名人たちも当初の勢いを失い、自らへの支援を失うという危機に瀕し、連帯の言葉を翻さざるをえない状況に追い込まれている。

 私ですら、いまは、自分の意見を言う相手を慎重に選んでいる。私の意見については、多くのものから、過激、あるいは裏切り行為だと非難を受けている。正直、恐怖を感じている」

「一体どちらがテロリストなのか?」

  ここまで数か月間に起こったこと、とりわけ数週間の経緯と境界防衛作戦に焦点をあてて述べてきたアミ氏は、「だが実際の話、誰が最初に石を投げたかなどもはや、大した問題ではない」と続ける。

 「大事なのは、一歩引いて、全体像を眺めてみることだ。50年に渡って続けられている占領、何百万というパレスチナ人に対する基本的人権の拒否、土地の強奪、アパルトヘイト政策。イスラエルはいわば、何百万という人々を軍政のもとに支配してきたようなものであり、そして世界はそれにたいして何もしてはこなかった。

 むろん、ガザを支配しているのはハマスだ。だがそれは、世界で最も大きな野外刑務所としてのガザを支配しているだけだ。ガザに何を入れるか、どのくらい、何人をガザにいれるのか、そうしたことをすべてコントロールすることで外から実質的にガザを支配しているのはイスラエルだ。

 ヨルダン川西岸地区の一部はいま、パレスチナ自治政府が管理している。だがある面では、それがイスラエルの占領政策を容易にしているともいえる。なぜなら、イスラエルは自治政府に管理を任せることで、パレスチナ市民のさまざまな問題に直接かかわらずに済んでいるからである。もしだれかが限度を超えた行動に出れば、イスラエルはほんの少しだけ、“鞭による愛情”を示す。今も現にそうしたことが起こっている。これからもそれは続く」

 イスラエルによるパレスチナの占領支配の実態を「鞭による愛情」と皮肉めいた表現で批判したアミ氏は、ハマスの危険性を強調しつつも、「一体どちらがテロリストなのか?」と、決定的な問いを投げかける。

 「一つだけはっきり言っておく。私はハマスがロケット弾をイスラエル市民に向けて発射している事を肯定しているわけではない。私の家族や私のような市民を標的にするなどとんでもない。それもまた戦争犯罪であり、ハマスが危険な組織であることも確かだ。

 それでも、一つだけ確かなのは、少なくともハマスは、どこかの軍隊のように、世界で最もモラルの高い軍隊だと豪語するような真似はしていないという事だ。ハマスは三十人の兵士と三人の市民を殺害し、いっぽうイスラエル軍は何百人もの人々を殺害し、しかもその大半は民間人である。どちらがテロリストと呼ばれるにふさわしいのか?」

 アミ氏は再度、死にゆくガザの子供たちのに思いを馳せる。そして、一人の父親、人間としての当たり前の苦悩、憤りをぶつける。

 「もう一度、マンションの通路で娘たちの顔を見る。建物の上空に、ハマスからミサイルが飛んでくる。私は思う。この数日間で、F16戦闘機が投下した一トン分の爆弾によって、娘たちと同じ年ごろの子供たちが何十人と亡くなったのだ、と。両親たちはその手で、瓦礫の下に埋まった自分の子供たちを救いだそうとしている。母親たちは、掘り出された子供のボロボロになった衣服にすがりつき泣き叫んでいる。 

 心の中に怒りが込み上げてくる。『お願いだ、もう止めてくれ』私は何度もつぶやく。

 我が同胞たち、パレスチナ人にも私は同じ言葉を言いたい。『お願いだ、もう止めてくれ』と」

 「もう止めてくれ」。これがパレスチナの、そしてイスラエルに生きる市民の率直な思いなのではないか。彼ら市民の頭越しに、無用な殺戮が煽られ、繰り返される。

 日本では、武器輸出三原則の緩和で、イスラエルにも間接的な武器輸出の可能性が浮上している。イスラエルと「価値観を共有」しているという安倍総理は、果たしてイスラエルの「誰」と、思いを共有しているのだろうか。少なくとも「もう止めてくれ」と叫ぶアミ氏のような一般市民でないことは確かだ。

    • アイキャッチ画像:Wikimedia Commons Fotografia: Muhammad Sabah ; desenho: Servitiuowner ; editor:Eugenio Hansen, OFS

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