我々日本人の「言論空間」「報道空間」には、イスラエルのガザ侵攻の模様は、そのほとんどが「英語」のフィルターを通して届けられる。しかし、世界には多種多様な言語があり、ガザにも英語圏だけではなく、様々な国の記者・ジャーナリストが入り、取材し、発信している。とりわけ熱心に、そしてイスラエルや米国に対し厳しい視点で報じているのが、スペイン語圏のメディアである。
「英語」の報道とは対照的に、ガザの一般市民の人々の生活に寄り添い、イスラエル・米国の姿勢を、常に懐疑的な立場から見据えるスペイン語圏の報道に、我々は一度目を向けてみる必要がある。それによって、パレスチナで何が起こっているか、我々が知っている「リアル」とはまた違った実相が見えてくる。
米国・イスラエルを厳しく批判する中南米諸国
7月18日にイスラエルがパレスチナ・ガザ地区への地上侵攻を開始してから、15日が経過した。8日の空爆開始から数えると、この25日間でパレスチナ人の死者は1300人を超え、負傷者は7000人以上に達している。犠牲者の大半が一般市民である。
国連の常設機関である人権理事会は23日、イスラエルのガザ侵攻を非難し、調査委員会を派遣することを決議した。非難決議は理事国47カ国中、唯一「反対」を掲げた米国に対し、29カ国の「賛成」多数で採択された。5月に、日イスラエル首脳会談でネタニヤフ首相と「価値観を共有する」ことを確認しあったばかりの日本は、フランス、イギリス、ドイツ、韓国などと足並みを揃え、米国に追随するかたちで「棄権」に回った。
▲国連人権理事会決議、日本は「棄権」
逆にラテン諸国では、すべての国が「賛成」の票を投じた。
ラテン諸国はこのガザ侵攻に対し、イスラエル非難の姿勢を取り続けている。
エクアドルとボリビアは駐イスラエル大使を召還し、ボリビアのエボ・モラレス大統領は国連にイスラエルへの制裁を提案。モラレス大統領はイスラエルを「テロリスト国家」と厳しく糾弾し、イスラエル人が同国を訪問するには査証が必要になると発表した。
さらに、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領もイスラエル非難の声明を発表し、イスラエルとの外交関係を断っている。
エルサルバドルとチリ、ペルーの3カ国もそれぞれ、駐イスラエル大使を自国に召還した。
そして、同じラテン諸国であり、中南米で影響力の大きいブラジルも、駐イスラエル大使の召還に踏み切った。これに続くように、チリもイスラエルとの経済関係の凍結を決定した。
米国に追従するかたちで自国内で新自由主義政策を進めるメキシコでさえも、国連人権委員会のイスラエル非難決議では「賛成」に回った。
スペイン、ポルトガルなどの植民地として虐げられ、その後は米国の「裏庭」として、帝国主義の犠牲となってきたラテン諸国は、米国の「正義」に対し、常に懐疑的な視線を注ぐことを欠かさない。
特に、世界20カ国以上、4億2000万人が暮らすスペイン語圏では、連日、ガザ侵攻がトップニュースで扱われている。多くの記者がガザに現地入りし、現場の生々しい惨状を伝えている。
ガザの「日常」と「非日常」に寄り添うスペイン語圏のメディア
スペインの新聞「ペリオディコ」は、23日の一面大見出しで「世界の恥;15日間で600人もパレスチナ人が亡くなった。だが欧米諸国は沈黙」と、ガザ侵攻を続けるイスラエル、そしてイスラエルを「非難しない」欧米諸国の姿勢を批判している。
ガザをめぐるスペイン語圏の報道は、生々しい惨状を伝えるものだけではない。スペインの衛星放送「ETB」は、ガザ空爆下での人々の日常生活の様子を動画で配信している。
「パンと燃料の価格はハマースによって統制されているものの、市場は物が溢れている」「空爆によって牧場が破壊され、肉が高騰し、果物もスイカの値段が倍になった」。戦争状態においても、人々はそこで日々生活している。そうした当たり前の情景を伝えている。
「なぜイスラエルは僕たちを殺すの?」子供の問いに答えられない医師の絶望
イスラエルを「非難しない」という政府の方針に沿うように、日本の大手メディアはパレスチナで起こっている悲劇をほとんど報道しようとしない。いや、日本の大手メディアの記事でも、パレスチナで妊婦や赤ちゃん、何の罪もない人々が日々犠牲になっているという報道は目にする、という反論があるかもしれない。しかし、以下に紹介するスペインの新聞「エル・ディアリオ」の記事を読むと、いかに日本の大手メディアが、パレスチナで起こっていることを「報道していない」かが分かる。
「ガザ、人間らしさが失われていく街」と題する7月18日の記事は、書き出しから、筆致から、日本の新聞記事とは、アクチュアリティーも、リアリティーも、まったく違う。
最初に、電気が切られた。イスラエルが、ガザ北部への電気の供給を絶ったのだ。そしてイスラエル軍の戦車が現れ、歩兵隊を引き連れガザの領内に入ってきた。ガザ上空は炎で真っ赤に染まっていた。イスラエル空軍は、ほとんど威力のないハマースからのロケット弾発射に、激しい空爆で応えていた。“人道的休戦”とやらがその数分前に終わったばかりだった。
ガザ地区全域が、イスラエルによる激しい空爆にさらされていた。ガザというのは、世界でもっとも人口密度の高い都市の一つだ。このときすでにイスラエルによるガザへの地上侵攻が始まっていた。
イスラエル陸軍が攻撃に加わった。すさまじい音が響いていた。爆発が起きるたびに空が燃え上がった。
ハマースは、ガザを実効支配する、いわばガザの主だ。アラブの春以降、変わりつつある中東の地政学的状況の中で生き残る道を探るハマースは、これまでイスラエルに対し、ガザ市街地への攻撃をそそのかすような行動をとってきた。
いっぽうイスラエル側は、それを、ガザのすべてを攻撃対象とする口実に利用してきた。そしてイスラエルは常にその口実で、ガザ民間人の殺戮を正当化してきた。7月17日の夜から18日早朝にかけて、ガザではたった一晩で30人以上が殺された。死者の数はすでに260人にのぼる。
この記事の記者は、イスラエル地上軍の侵攻の模様を書き記したあと、ガザ最大の病院であるシファ病院の救急医療センター長のアイマン・アル・サバニ(Aymán al Sabani)医師へのインタビューを綴っている。
「『なんでイスラエルは僕たちを殺すの? なぜ?』、 私の子供たちは、毎日のように私にこう聞きます。
私も、それと同じことを自問します。でも、私には分からない。イスラエル人たちは、その答えを分かっているのでしょうか。それも私にはわからない。だれかが私たちの命を駒がわりにチェスを楽しんでいるのか、と思うこともあります。人間は理性の生き物です。その人間が人間を殺すには、たいていの場合は、それなりの理由があるものではないのでしょうか」
サバニ医師の、この数日間の働きぶりはすさまじい、と記者は書く。「世界中でも、これほど過酷な労働現場で働く者はいない」と畏敬の念を込めつつ、一睡もせずに治療に当たっているサバニ医師の疲れ果て、絶望している様子を紹介している。
「今はもう、神の助けを望むこともできない。いや、いまだけではない。おそらくずっとそうなのだろう。それどころか、どんなに祈りを捧げようが、どんなに良い行いをしようが、私の人生は悪くなる一方だ」
「私たちは戦争には反対です。少しでも良識のある人間だったら、誰だってそうでしょう。でも軍のリーダーたちは違います。支持している?冗談じゃない。殺されているのは、何の関わりもない市民たちです。子供に女性、老人たち。この11日間で多くの負傷者を診ましたが、その中に負傷した兵士が何人も含まれていた、などという事はありませんでした。犠牲者の80%以上が民間人です。
昨日(17日木)だけで、8人の遺体が運び込まれてきました。5人は小さな子供でした。その中には、海岸でサッカーをして遊んでいてイスラエルの攻撃を受けた子供たち4人の遺体もあります。
子供たちが攻撃されたのですよ。どんな言い訳も許されない。海岸には軍事目標になるようなものはなにもありませんでした。外国人ジャーナリストたちが宿泊しているホテルから100メートルのところで爆撃されました。みんなの目の前で。それでも、何も変わらないのです」
「4人の子供たちが犠牲になったのは悲しい。とんでもないことです。でも、ガザでは決して珍しいことではない。私の心は沈んでいます。あの子供たちの代わりに私の子供が犠牲になっていたかもしれないのですから。なぜイスラエルは私たちの子供たちを殺さなければならないのか?そう、いつも叫んでいます。だが誰の耳にも届かない」
記事は、負傷者がひっきりなしに運び込まれてくるシファ病院の様子を紹介し、その中で指示を出し続けるサバニ医師の、悲痛な言葉を伝えている。
「医師たちはみな、睡眠不足で目の下に隈を作り、疲れ果てている。それでも24時間働き続けている。みんなの命を救っている。医師たちのエネルギーはまだ残っている。だが病院にはもはや、基本的な医薬品ですら残っていない。新たな補給もない。なにも来ない。
木曜日の停戦のときにも、海外のNGOはどこも助けに来てはくれなかった。このままイスラエルの攻撃がもう数日続けば、私たちはもはや負傷者の命を救うこともできなくなる。犠牲者の数はすさまじい勢いで増えていくでしょう。これが私たちの運命なのです」
「爆撃は子供たちを殺す」避難民であふれる国連学校で見た、暴力の連鎖
記者は、ガザ市にある国連の小学校を訪れ、爆撃の激しい地区から逃れてきた数千の人々が身を寄せて生活している様子も取材している。記事は、避難してきたジンタンさん一家へのインタビューを掲載している。
「ガザの北部にある家に戻りたいのに、大人たちがダメだっていう。イスラエルに殺されてしまうからって。戦争が終わらないと言うの」
ガザ市にある国連の小学校で、ダウラト・シンダーンさんは言う。その小学校には、爆撃の激しい地区から逃れてきた数千の人々が身を寄せている。この10日間で、国連の機関に避難した人の数は22000人を超えている。シンダンさん一家は、子供を含む23人全員が、イスラエルの空爆が始まって三日目に、家を捨てこの小学校に逃げ込んだ。家の前に、すぐに避難しろ、と書かれた文書が置かれていたのだという。
シンダンさん一家がこうした避難を余儀なくされているのは、これが三度目。最初に経験したのは2008年だったという。
子供たちはみな疲れた表情で、心に傷を負っているのが傍目にもはっきりとわかる。子供たち同士で取っ組み合ったり、汚れた壁によじ登ったりしていた。古い教室は人であふれ、ひどく暑かった。
「この子たちには心のケア―が必要です。それもすぐに。子供たちの多くは夜中にオネショをしてしまいます。眠れない子もいます。みんな、怯えています。それに、新鮮なミルクと飲み水も必要です。ここの水はよくありません」
そう語るのは、子供たちの叔父だ。爆撃が始まる二日前に一家を訪ねてきていた。
「どうやら家は持ちこたえたようだが、動物はすべてやられたらしい。俺たちの生活の糧がすべて殺されてしまった。隣人の一人が村の様子を見に行って、それで教えてくれたんだ。作物もすべて吹き飛ばされた。俺たちは百姓だ。これからいったいどうすればいいのだ。イスラエルの侵攻のせいで、俺たちはもう村には帰れなくなってしまった。いったいどうしたらいいのか」と、シンダンさんは言う。
学校の前にはサッカーコートがある。小さな子供たちが遊んでいる。女の子たちは皿を洗っている。この二週間でも最も穏やかな時間が流れていた、と記者は書く。
ガザ市民の中には、持ち前の楽観主義で、爆撃で壊された家屋を直そうとしているものもいた。inshallah、なんとかなるさ、と。筆者はその強靭な、決してへこたれない態度に、90年代初めのサラエボの女性たちの姿を思い起こしていた。あの頃女性たちは、セルビアに包囲された街のなかを、いちばんいい洋服を着てせいいっぱいの化粧を施し歩いていた。それが女性たちなりの抵抗運動だった。
だがガザで逃げまどうバッチさん一家たちは、そうした抵抗をすることすら許されなかったと、記者は記す。
あっという間のことだった。先週の土曜日(12日)、イスラエルによるツファ村攻撃で、バッチさん一家のうち18名が殺害された。他にも親戚30人が負傷し、何人かは重症だ。サカリアさん、30歳、も、大火傷をおいシファ病院に運び込まれた。まだ、口を聞ける状態ではない。目の焦点も定まらない。
一家の住まいは粉々に破壊された。四つの家屋に共有の庭のある住まいは、夜の礼拝が終わった直後に、五発のミサイルが撃ち込まれた。この攻撃についてイスラエル側は、一家の長であるタイシール・アル・バッチさんがガザの警察庁長官であることを理由に、正当な軍事目標を狙ったものだと主張している。だがタイシールさん自身は無事で、犠牲になったのは女性と子供たちだ。ガザで行われている攻撃では、いつもそうなのだ。
今度の戦いでは、子供たちこそが最も多く犠牲になり、もっとも傷ついている。爆撃は子供たちを殺す。そして殺されなかった子供たちの胸に深い傷を残し、憎しみを植え付けている。そう、大きな憎しみを。「最悪だ。悲劇だ。私は、この二か月間、ガザの平和プロジェクトを進めてきたのに」と、NGOのメンバーであるアレックスは唇をかむ。「子供たちはガザの海岸で、平和、と書いた凧を揚げていた。でも今は、その同じ子供たちが手に、銃に見立てた棒を持ち、お前はユダヤ人だろ、と叫んでいる」、と。なんと悲しいことか。戦争と暴力の負の連鎖だ。
暴力の行使は、子供たちに犠牲を強いて、その子供たちの中から、復讐を誓う次世代の戦士が生まれる。果てしない繰り返し、悪循環が続く。だが、イスラエル側は、そんなことは先刻お見通しなのかもしれない。だからこそ、次世代を産むパレスチナ人の母親をすべて、「皆殺しにせよ」と主張する女性国会議員もあらわれる。
イランの動きはどうなのでしょうか。
イラクをめぐって米国との関係が変化したことで、これまであった「パレスチナを攻めたらイランからイスラエルにミサイルが飛んでいくる」可能性が低くなったということでしょうか。
此れは、背後に石油利権者の歴史的な背景が有りますね( *`ω´)彼らは金儲けしか頭が無く、戦争を金儲けに利用している⚡︎早く世界がそれに気づきエネルギー変換革命を起こすべきでしょう!
欧米メディアとは違うスペイン語圏の報道。これは近代の歴史に根ざしているのだろう。
暴力の行使は、子供たちに犠牲を強いて、その子供たちの中から、復讐を誓う次世代の戦士が生まれる。だからこそ、次世代を産むパレスチナ人の母親をすべて、「皆殺しにせよ」と主張する女性国会議員もあらわれる。
[スペスペイン、ポルトガルなどの植民地として虐げられ]たラテン諸国。 世界20カ国以上、4億2000万人のスペイン語圏では、連日ガザ侵攻がトップニュース。多くの記者がガザ入り、現場の惨状を伝える。
なぜ彼らが遠い極東の震災の追悼(凧揚げ)をしてくれるのか、解った。彼らは侵攻で死に直面し、何度も何度も避難生活を強いられて来たのだ。
英語圏の視点が全てではないのだ