国連人権高等弁務官事務所・パレスチナ被占領地区副事務所長として、2009年から5年間パレスチナで活動してきた高橋宗瑠氏が7月24日、「軍事占領下のパレスチナ 人権の今」と題した集会で、「国際社会がなぜガザに対してもっと効果的な手を打てず、国連はなぜ何もできずにいるのか」というテーマで報告を行った。
(IWJ・原佑介)
特集 中東
国連人権高等弁務官事務所・パレスチナ被占領地区副事務所長として、2009年から5年間パレスチナで活動してきた高橋宗瑠氏が7月24日、「軍事占領下のパレスチナ 人権の今」と題した集会で、「国際社会がなぜガザに対してもっと効果的な手を打てず、国連はなぜ何もできずにいるのか」というテーマで報告を行った。
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■ハイライト
占領地への入植活動は重大な国際法違反であるにも関わらず、国際社会は効果的な手を打てずにいる。そんな中でガザの人々は、衝突が起こるたびに人権侵害の被害者になる、と高橋氏は言う。
その上で高橋氏は、「国際法上、戦争で民間人を標的にしてはいけない、軍事目標でも、民間人に大きな被害が見込まれる場合には攻撃してはいけない、という決まりがある」と説明し、「ガザの衝突による犠牲者の80%近くが民間人だというデータがある。あきらかに攻撃の仕方がおかしい」とイスラエルを非難した。
なぜ、国際法が無視され、人権が蔑ろにされておきながら、国連は有効な手を打てずにいるのか。
国連の頂点に君臨するのが、第二次世界大戦の戦勝国からなる「安全保障理事会(米国、イギリス、フランス、ロシア、中国)」で、その下に「総会」「人権理事会」「経済社会理事会」「国際司法裁判所」があるが、決議に法的拘束力を持たせることができるのは、安全保障理事会のみである。
安全保障理事会の決議は、常任理事国と非常任理事国の15カ国の票決でなされる。しかし、拒否権を持つ常任理事国5カ国のうち、1カ国でも拒否権を行使すれば、その決議は承認されない。高橋氏は次のように明かす。
「何があっても米国はイスラエルを可愛がる。これまで米国はイスラエルを守るため、パレスチナ寄りの決議を全力で潰してきた。これまで拒否権を使った数は、他の4カ国を合わせた数よりも米国一国で使った数のほうが多く、そのほとんどすべてをパレスチナ関連で使っている。だから安保理でパレスチナのことを話しても、米国が拒否権をチラつかせると話はそこで止まる」
では国連は、何ができるのか。
高橋氏は、「国連はNGOなどとともに、人道主義の名の下、パレスチナ難民を中心に支援する機関作りや、食糧配給、学校運営、医療施設を運営している」としつつ、「しかし、そういった支援は国際法上、イスラエルが占領している以上、イスラエルがやらなければいけない。それを結局、国連が肩代わりしてやっている」と指摘する。
目前の食事を与える、学校を作る。こうした国連の支援は悪いことではないが、根本的な政治解決にはつながっていない、と高橋氏は述べた。
2006年のパレスチナ総選挙で、ハマスが圧勝し、第一党に選ばれた。特に選挙に不正があった、という話もない。これは正当なパレスチナの意思表明である、と高橋氏は言う。
しかし当時、国際社会は選挙結果に背を向け、米国を筆頭にガザへの開発援助を打ち切った。そしてイスラエルによるガザ封鎖に暗黙の了解を与え、ハマスとの直接交渉の回路を閉ざした。高橋氏は、「国連も同じだった」と振り返る。
「国連は世界中、どこでも中立なのが鉄則。でもパレスチナでは、国連の方針で、ハマスへの支援はすべて禁じられている。話をしてもいけない。公的に折衝してもいけない」
続けて、「これにはNGOも苦しんでいる。米国の支援金で運営しているNGOが配る援助物資がハマスにいっていたら、一瞬で米国の支援がなくなる。それどころか、逮捕もある。NGOも国連も、ハマスに支援できない状況がある。政治的にここまで露骨な横槍は、パレスチナだけ。米国が諸悪の根源になっている」と実情を明かした。
(…会員ページにつづく)
今こそ読むべき、見るべき記事です!
なぜ国際社会がここまで無力なのか?米国がイスラエルを何が何でも可愛がる。
「政治的にここまで露骨な横槍は、パレスチナだけ。米国が諸悪の根源」