ヤコブ・M・ラブキン氏は、旧ソ連レニングラード(現サンクトペテルブルグ)に生まれ、歴史学を修めた後、カナダに渡った経歴を持つ。歴史学者として研究・教育活動を行う一方、ユダヤ教徒であるラブキン氏は、著書『トーラーの名において』で、パレスチナにおけるイスラエル国家建設に帰結したシオニズム運動に対して強い批判を展開している。
イスラエルによるガザ侵攻、ウクライナでのマレーシア機の「撃墜」事件など、世界を揺り動かす出来事が立て続けに起きている。これらをどう読み解けばいいのか。岩上安身のインタビューに応じたラブキン氏は、「免責性」「不均衡」という二つのキーワードを用い、現在の世界で何が起きているのかを明快に論じた。
なお、ラブキン氏は当日のインタビューが白熱したためこの一回きりでは終わらず、議論の継続を岩上安身に約束。生中継中に次回インタビューの日程(8月5日の夜)が決定されるという、嬉しいハプニングがあった。
■イントロ
■アメリカの何をやっても罰せられない「免責性」とは
■「ヒトラーは解放者だった」戦勝記念日集会でのウクライナナショナリストの発言について
■アメリカは何故ウクライナの民族主義者に「肩入れ」をするのか?
- 日時 7月23日(水)
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
「イラク戦争前」と同じ状況
マレーシア航空機の「撃墜」事件に関して西側メディアは、ウクライナ東部の親ロシア派による「誤射」という論調一色に染まっている。ラブキン氏は、この出来事が「極めて政治化されている」とし、「まだ状況が明確に判明していないにもかかわらず、西側の各国政府やメディアがロシア批判を爆発させています」と語った。
ブラックボックスの解析がされないうちに、西側ではロシアへの制裁が盛んに主張され、西側、とりわけ日本の主要メディアは「親ロ派が地対空ミサイルで撃った」という米政府の発表を、検討も、留保もつけずにそのまま報じる。当たり前のように飛び交う「親ロ派」という言葉一つをとっても、すでに特定の西側の視点に影響されているものだとラブキン氏は指摘する。
このように流される情報をそのまま信じていいのかとラブキン氏は疑問を呈し、「西側、米国のメディアの論調が、イラク戦争前の状況をなぞっていることを、強調しておくべきだと思います」と語った。
「免責性」とは~何をやっても罰せられない
ジョン・マケイン米上院議員は昨年12月にすでにウクライナを訪れ、2月政変後に首相となるアルセニー・ヤツェニュク氏や、極右政党スヴォボダの指導者であるオレフ・チャフニボク氏と会談。ヤヌコヴィッチ政権の瓦解を見越してか、当時の反政府派の支持を表明していた。
政変後には、ジョー・バイデン副大統領の息子のハンター・バイデン氏が、ウクライナで最大の民間ガス関連会社の取締役会の一員として迎えられている。ウクライナは、まるで米国の植民地ではないか、という批判の声が上がっても平然とやり過ごしている。
このように、米国のウクライナに対する干渉は、非常にあけすけなものだ。まるで、米国には、よその国に何をしても許され、誰からも罰せられることのない特権が許されているかのようだ。ラブキン氏は、この状況を、「免責性」という表現を用いて説明した。
「米国務省国務次官補のヴィクトリア・ヌーランドさんと駐キエフ米国大使との会話が流出しましたね。どのマリオネットが米国に都合がいいか、相談しているようでした。
ここには(自分たちのやっていることについて)何の正当化もありません。何の説明もありません。あるのは、『免責性』の感情だけです。『我々は、自分たちの好きなことができる』というわけです」
「免責性」はそこかしこにある。マレーシア航空機墜落事故に関して、ロシア防衛省はウクライナに対して、的確な10の質問を出したが、ウクライナ側はこれに答えていない。駐日ウクライナ大使が東京で記者会見を行った際、IWJの記者がこのロシア側からの質問について、たずねたが、ウクライナ大使の答えは「私は知らない」というものだった。これは、ガザ空爆に対してたずねられた米国務省サキ報道官が、「何か具体的な出来事や事件がありますか?」と木で鼻をくくったような回答をしたのと、まったく同じだ。
ブッシュ・ドクトリンの再生
>誰からも罰せられることのない者がいる
日本も同じだ。原発ぶっ飛ばしても誰も罰せられない
西側、米国のメディアの論調が、イラク戦争前の状況をなぞっている。
カナダ・モントリオール大学教授・ヤコブ・M・ラブキン氏。西側メディア偏向報道についても踏まえ 明快に論じてらっしゃる!