「イスラム国は悪なのか? アメリカやヨルダンが行う空爆は正義なのか? どうしたら負の連鎖を止められるのか」――有識者・ジャーナリストらが提言~第39回 ロックの会 2015.2.9

記事公開日:2015.2.16取材地: テキスト動画独自
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(テキスト・スタッフ 関根かんじ)

特集 中東

※2月16日テキストUPしました!

 「『イスラム国』のやっていることは、悪の社会的包摂だ」──。香山リカ氏はこのように指摘し、世界各地の若者が「イスラム国」に引き寄せられることについて、「疎外された若者が抱えるネガティブな感情の『居場所と出番』が『イスラム国』にはある、という幻想を見ている。だから、『イスラム国』を壊滅させても問題は解決しない。社会に適応できない若者の受け皿についても、並行して考えなければいけない」と語った。

 2015年2月9日、 東京都渋谷区のカフェラウンジUNICEにて、「第39回 ロックの会―『イスラム国』人質事件をどうみるか?」が開催された。この日のオーガナイザーは、女優の松田美由紀氏とピースボート共同代表の吉岡達也氏。ゲストとして、中東問題の専門家で放送大学教授の高橋和夫氏、フォトジャーナリストの豊田直巳氏、「I am Kenji」というアピールを行って注目を集めた東京大学大学院教授のロバート・キャンベル氏、精神科医の香山リカ氏が登壇した。さらに、福島みずほ参院議員、ミュージシャンの佐藤タイジ氏も飛び入りで参加した。

 今回、人質となった2人の日本人に対して、救出を願うさまざまなアクションが起きたが、同時に「自己責任、自業自得」などの批判的な言葉も飛び交ったことにショックを受けたという松田氏は、「日本人にとって、自主規制が一番危ない。人に迷惑をかけない、空気を読むというのは、日本の良き文化だが、全員が悪い方向に一斉に流れる危険もある。自分がどう思うか、怖がらずに考えることが一番大事なことだと思う」と力を込めた。

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2015年2月9日(月) 20:00~
  • 場所 カフェラウンジ UNICE(東京都渋谷区)
  • ゲスト 高橋和夫氏(放送大学教授)、豊田直巳氏(フォトジャーナリスト)、香山リカ氏(精神科医)、ロバート・キャンベル氏(東京大学教授)

「イスラム国」の中身はサダム・フセインの旧体制

 はじめに中東の地図を見せた高橋氏が、「この中東に引かれた国境を消す、というのが『イスラム国』の主張です」と切り出し、「イスラム国」が誕生した背景を、こう説明した。

 「2011年に米軍がイラクから撤退して、イラクとシリアの双方に、中央政府のコントロールが及ばない地域ができた。そのエリアで成長したテロリスト・グループが『イスラム国』だ。急成長した理由のひとつは、この地域で不満を抱いている人たちが集まったこと。アメリカはサダム・フセイン政権をひっくり返し、軍隊や警察、官僚制度も解体した。フセイン体制を支えた優秀な人たちは路頭に迷って『イスラム国』に集まった」

 だから、「イスラム国」の見かけは新しいが、中身はサダム・フセインの旧体制なのだ、と高橋氏は指摘した。

後藤さんに伝わっていた? 仲間たちの想い

 次に、今回の人質事件で殺害された後藤健二さんと知り合いの豊田氏がマイクを握り、身代金要求が出てすぐ、フリーランス中心の日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)が、「人質を殺さないように」と呼びかける緊急声明を出した経緯を語った。これは、暴力では問題の解決にならないことを「イスラム国」と日本政府の両方に呼びかける内容であり、イラクのテレビでは、アラビア語でメッセージがオンエアされたという。

 そのあと、「イスラム国」が公開した後藤さんと思われる声の英文メッセージの中には、「インディペンデント・プレスの仲間は、日本政府に圧力を」とあり、豊田氏は、「インディペンデント・プレスとは、後藤さんがひとりでやっている会社。『インディペンデント・プレスの仲間』が僕らを指しているのなら、緊急声明は向こうに伝わったのかもしれない。だが、後藤さんは救われなかった。全面的な敗北だ」と悔しさをにじませた。

彼の生命との連帯感──「I am Kenji」

 キャンベル氏は、2014年8月に湯川遥菜さんが「イスラム国」に捕らわれた時に、報道番組でシリアの事情などを的確にコメントしていた後藤さんを知ったという。「それ以後、紛争地の子どもたちの状況を伝える後藤さんの著書を取り寄せて読んでいた」と話し、このように続けた。

 「それが1月20日に、あのような2人の映像が出た。その後、湯川さんが殺害されたとする写真を持った、後藤さん単独の映像が流されて、『72時間以内に……』と。そのニュースを見ながら、パリ襲撃事件での『私はシャルリー』のプラカードを思い出し、自分が今できることとして、『I am Kenji』のプラカードを持った写真をフェイスブックに載せた。その時は知らなかったが、私より早く、同じことをニューヨークで始めていた人たちもいた」

 翌日から、その意味を問うマスコミの取材がキャンベル氏に殺到し、それが3日間ほど続いたという。「私は、後藤さんの生命との連帯感を表現したかった」とキャンベル氏は言う。

 また、「この言語パフォーマンスだけで終わっては、社会に風を起こすことはできない」と考えたキャンベル氏は、後藤さんのブログの英訳を始めた。ジャーナリストとしての後藤さんの考え方、人間性を世界に拡散する試みで、それに対する反応も大きく、中東諸国も含めた世界各国の人から賛同のコメントが寄せられたという。

自己責任論が浮上、踏み絵になる人質事件

 「I am Kenji」のアピールが広がる一方で、インターネットを中心に、2人が人質となったことへの自己責任論も浮上した。

 松田氏は、「彼らが捕まったのは自業自得だ、という声が上がったことが、とてもショックだった」と振り返る。

 香山氏も同意し、「今、たとえば、『イスラム国』という表記の仕方ひとつで、『(過激派を)国だと認めるのか』と攻撃されたり、今回の事件の前に安倍首相がエジプトで演説したことに言及すると、『政権批判に利用するな』と言われたりする。人質事件の本質を外れて、まるで踏み絵のようになっている」と、現在の日本社会の空気を語った。

 吉岡氏は、「2004年に、高遠菜穂子さんらが誘拐されたイラク日本人人質事件があった。高遠さんたちは解放されたが、そのあとに捕まった日本人青年は殺害された。今回の事件も急に起きたわけではなく、2004年からのつながりがあると思う」と話す。

 それについて高橋氏は、「現地の有力者らとのパイプがあった高遠さんらの時とは違い、今の『イスラム国』指導者のバグダディは、自らカリフと名乗るなど、伝統的なイスラム世界とは背反する。それは、解放交渉のできるイスラム有力者とのコネクションがないことを意味する。だから、今回、外務省も何もできなかったのだろう」と見解を述べた。

 さらに高橋氏は、「バグダディは、預言者ムハンマドを真似て黒いターバンを巻いて登場したり、サダム・フセインやマリキ前首相に比べてスピーチがうまくて、カリスマ性がある。それは、イラクの歴史では目新しいことだ」と話し、外部への情報発信が巧みなことや、迅速な意思決定がなされていることから、「『イスラム国』幹部に、元イラク政府の情報担当などの優秀な人間がいて、仕切っているのではないか」とした。

「憎悪と報復の連鎖を断ち切ろう」と言える日本に

 途中から参加した福島みずほ議員は、湯川さんと後藤さんを救出できなかった無念さを訴えた上で、「日本政府は身代金要求の動画が公開されるまで、(2人の拘束を知りながら)現地の対策要員を増やしていなかった。この事件への政府の対応が適切だったのか、検討しなくてはいけない」と述べた。

 また、「イラク戦争の結果として、モンスターのような『イスラム国』が生まれたことを踏まえて、日本政府も憎悪と報復の連鎖ではなく、違う方法を模索すべきだ」と主張した。

 福島議員は、「4月26日に統一地方選挙があり、5月の連休明けには、集団的自衛権の行使を自衛隊法に書き込むなど、戦争関係の法案がたくさん出てくる。安倍総理は『イスラム国』空爆の後方支援はしないと言いながら、憲法上は可能だとも答えていて、とても不安に感じる。70年間、殺すことも殺されることもなかった日本は、『憎悪と報復の連鎖を断ち切ろう』と言える国でありたい」と語った。

 ロックバンド・シアターブルックでギターボーカルを務める佐藤タイジ氏もステージに呼ばれ、自己紹介として、3.11のあと、ソーラーエネルギーだけを使うロック・フェスティバルを開催していることなどに触れ、このように話した。

 「フェスは小さなコミュニティだから、先進的な実験ができる。未来の国のサンプルだと思う。90年代のフジロック(フェスティバル)は、ゴミの分別を浸透させた。今、太陽光だけでフェスができるのだから、一般社会もそれでやっていけるはずだ」

 そして佐藤氏は、「戦争をやって日本がよくなるのだろうか。3.11を体験した日本人が、ここで戦争を完全に否定しないと、生きている意味がぼやけてしまう」と口調を強めた。

中東というスクリーンに映し出されたヨーロッパの鬱屈

 来場者から、「皆さんの本音を聞きたい。『イスラム国』は悪なのですか? そうならば、アメリカやヨルダンが行う空爆は正義なのか。どうしたら負の連鎖を止められるのか」という質問が寄せられた。

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