「集団的自衛権と子宮頸がんワクチン、そして原発は、同じ次元の話なのだ。みんな同じ力学で動いている」──。
2014年7月9日、東京都渋谷区代官山のカフェラウンジUNICE(ユナイス)で、「第33回ロックの会」が行われた。前半は、LGBT(セクシュアルマイノリティ)をテーマに、オーガナイザーの松田美由紀氏、岩井俊二氏(映画監督)、2名のゲストが話をした。後半は、IWJの岩上安身が登場。7月1日に閣議決定された集団的自衛権の行使容認について、その背景や今後の展開について解説した。
LGBTとは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー(性別にとらわれない人)の意味。「セクシュアリティを考える時のキーワードは『目に見えない』ということではないか」と語ったのは、性同一性障害の当事者である杉山文野氏。セクシュアリティの多様性を説明した上で、LGBTマーケットのポテンシャルや、セクシュアルマイノリティの自殺リスクの高さ、海外と日本との比較にも言及した。
岩上安身は「今、3.11の頃より大手メディアがひどくなっている。憲法をねじ曲げるのに、政府が堂々とウソをつき、マスコミは言いなり。恐るべき事態。結局、ファシズムだ」と語り、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定が、日本にもたらす危険について警鐘を鳴らした。その上で、「日本のネットメディアを警戒し始めたアメリカの圧力によって、IWJも弾圧されるかもしれない」と危機感を表明した。
- ゲスト
杉山文野氏 (元女子フェンシング日本代表。引退後、歌舞伎町まちづくりなどに参加。自叙伝『ダブルハッピネス』を講談社より出版。以降、講演活動や世界を旅しながら環境活動に参加。2013年までNHK教育新番組「Our Voices」で石田衣良氏と共に司会をつとめる)
室井舞花氏 (国際NGOピースボートで働く。これまでに地球を5周。「知らないこと」や「違うもの」と出会い、多様性が認められる社会を目指す。企画/イベント運営など。同性愛当事者)
- 登壇 松田美由紀氏(オーガナイザー)、岩上安身
27通りの性別がある、と考えてみよう
女性として生まれた杉山文野氏は、性同一性障害の当時者で、現在は男性として暮らす。室井舞花氏は同性愛者で、昨年、女性と結婚した。
杉山氏は、性の要素を、生物学的性(カラダの性)、性自認(ココロの性)、性指向(スキになる性)の3つに分けて説明した。その上で、どの要素にも、男・女以外の「第3の性」を定義。「3×3×3で27通りの『性別』があるのではないか」と述べ、男・女という枠組みをはずして考えてみることを提案した。
「昨年の電通総研の調査で、LGBTの出現率は5.2%だった。この数値は、AB型、左きき、または『佐藤、高橋、田中、鈴木』などの姓を持つ人とほぼ同じ、670万人にあたる。個人消費市場規模は5.7兆円という試算もあり、LGBTマーケットは注目され始めている」と述べた。
次にマイクを握った室井氏は、「女性の自分が、女性を好きだということは誰にも言えなかった」と話す。「しかし、10代でピースボートに乗った時、レズビアンの女性が大勢の前でカミングアウトするのを見た。それがターニングポイントになった。自分で、自分を認めることができた」と振り返った。
日本では同性婚が法的に認められていないので、現在、室井氏はパートナーとは事実婚状態だという。「年末調整を受ける時などは、配偶者がいないことになり、複雑な気持ちにさせられる」と悩みを口にした。
LGBTが幸福に生きている例を示していく
戸籍は女性のままだという杉山氏は、「性同一性障害者は、診断や手術などの条件をクリアすれば、戸籍の性別変更は可能だ。日本では『性同一性障害』という言葉の認知度は高いので、周囲にきちんと伝えれば問題はないが、やはり、就職などの際はハードルが高い」と話す。
松田氏は「男性、女性、もうひとつ、3つめの性にふさわしい言葉が必要ではないか」と提案。また、「LGBTに対する社会的承認の低さから、カミングアウトには不安がつきまとうと思う。差別や偏見、収入などの面で苦労が予想されるので、親には反対されるのかもしれない」と述べた。杉山氏は「LGBTがハッピーに生きているモデルケースがあれば、世の中の目も変わってくるだろう」と話した。
岩井氏は「基本的人権にかかわることなので、国が、あらゆるバリエーションに対応する必要がある。同性婚が、当事者以外の他人にどんなデメリットがあるのだろうか。今、マイノリティの方がエネルギーが満ちていて、マジョリティの人たちの方が去勢されている印象を持っている」とコメントした。
アメリカの連帯保証人になってしまった日本
テーマが変わり、松田氏が「私がフェイスブックで、集団的自衛権の行使容認に異議を唱えたら、『イイネ!』が6000以上クリックされて驚いた。この問題への人々の関心はとても高い」と語り、岩上安身をステージに呼び込んだ。
岩上安身は、まず、集団的自衛権と個別的自衛権の違いから話し始めた。「日本は憲法9条で、軍隊を持たないこと、戦争をしないことを決めている。交戦権は持たないけれど、他の国が攻めてきたら戦うことはできる。そのために自衛隊がある。つまり、個別的自衛権は持っている。今回の集団的自衛権とは、よその国の戦争に参加する話だ。アメリカの連帯保証人としてハンコを押したようなものだ」。
「集団的自衛権の真意は、アメリカの軍事予算の削減分を、日本が肩代わりするということ。だが、日本には憲法の縛りがあるので、近隣諸国との問題にすり替えて、法の網の目を逃れることを画策した。石原元都知事が、アメリカのヘリテージ財団のセッティングで『尖閣買い取り発言』をしたのが導火線となり、日中関係は急速に緊張した」。
さらに、「その石原発言から数ヵ月後、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員が、『今回の尖閣問題は、日米同盟の政策目標を達成する絶好の機会である』と発表した。つまり、『日本はアメリカの言いなりだ』と喜んでいる。だから、安倍首相は中間管理職。日本政府は傀儡(かいらい)政府なのだ」と続けた。
「ちなみに、アメリカは中国とは戦争をしたくない。実は、アメリカと中国は非常に仲がいい。今年、リムパック(環太平洋合同軍事演習)に中国海軍が初参加し、米軍と一緒に演習している」と話し、「日本は下っ端の鉄砲玉なのだ」とヤクザ社会にたとえて説明した。
やっていることはヤクザそのまま「集団的パシリ権」
最近の国際情勢について、岩上安身は「米ソ冷戦終結後、NATOは仕事がなくなり、ロシア方面に進出。その結果が、今のウクライナ紛争だ。日本は、そのNATO加盟を強く勧められている。安倍首相は4月のヨーロッパ訪問の際、NATO軍への協力をあちこちで約束してきた。NATOはアメリカと一体だから、対ロシア戦争が起きれば、日本は自動的に参戦することになる」。
「中近東では、アルカイーダから分かれたISIS(イラクとシリアのためのイスラム国家)が登場。バグダット占領まで迫ってきている。アメリカは、まだ態度を明らかにしていないが、今後、アメリカがコミットする戦争には、日本は無条件で付いて行かなくてはならない」。
「これからは、世界中に自衛隊を派兵しなくてはいけない。すると、日本は手薄になって、まったく自国防衛のためにはならない。だから、日本は嵌められたのだ。集団的自衛権は『集団的パシリ権』。パシリとして使い切られ、上納金は取られ、命を落とす。やっていることはヤクザそのもの。大日本帝国時代は自国のための戦争だったが、今回はアメリカのためなのだ」と力説した。
日本の権力の本質は「組長・アメリカ」への服従
松田氏が「安倍さんは、なぜ、そんな話を受けてしまうのか」と疑問を呈すると、岩上安身は「それが、この国の権力の本質だから。日本でもっとも強く権力を持ちたかったら、アメリカの言いなりになること。ただ、対米従属がバレないように、靖国参拝や慰安婦問題などを持ち出して愛国者を装っている」と断じ、次のように続けた。
「安倍さんは、日本人の命をアメリカに差し出して、自分の権力を守ってもらっている。しかし、さすがに真の右翼の人たちには、そのウソがバレてきたようだ」。