「辺野古を差し出して、尖閣をめぐる中国との戦争に、あわよくば、アメリカが加わってくれればいいな」――。
対米従属に突き進もうとする日本政府の思惑を推し測り、その楽観的態度に厳しい警鐘をならす佐藤学・沖縄国際大学教授。「沖縄からオスプレイが飛んで、占領された尖閣に兵を降ろして奪還するということなどできないのに、アメリカは『できる』とほのめかす」。果たして、辺野古に基地を置くことによって、アメリカは尖閣を、日本を、守ろうとするだろうか。
安全保障上の根本的な疑念が拭えないままに傾斜していくアメリカ追従の姿勢は、沖縄県民の生活を犠牲にした戦前の外交姿勢と一致する。アベノミクスの失敗をひた隠しにし、行き詰まる国内経済の打開策として、尖閣諸島問題を火種にした日中危機を煽る安倍政権。本土からの「遠隔地」としての沖縄における「限定的」戦争をも辞さない強硬的な態度をとることによって、視野狭窄に陥った保守層の歓心を買いつつ、アメリカとの一体化を目指す昨今の姿勢は、沖縄県民の目にどう映るのか――。
若者の歴史的認識の欠如と、県知事選の結果を憂いながら、自身の沖縄への想いを語る佐藤学教授へのインタビューは、来るべき投開票日を一ヶ月先に控えた2014年10月16日(木)、岩上安身によって行われた。
- 日時 2014年10月16日(木) 20:00〜
- 場所 沖縄国際大学(沖縄県宜野湾市)
※以下、実況ツイートをリライトし再構成したものを掲載します
歴史修正主義の氾濫に抗する沖縄教育とジャーナリズム
岩上「主要候補4人のうち仲井真さんが私の取材を受けない、と。スケジュールが合わないという言い訳だけではなく、IWJのホームページを見て、考え方と違うから受けない、と。県民の皆様にお伝えしたいのが、仲井真さんは私の取材から逃げたということ」
佐藤教授「11人の市長のうち9人は仲井真支持なんです。30の町村長もほとんどが知事支持です。翁長さんは『金はいらないから基地を持っていけ』と言ったのです。これを保守の政治家が言ったということは、沖縄の戦後の政治のなかで画期的だったのです。
普天間返還の話が出てきたのは、95年に少女暴行事件があり、県民大会が行われて、保守まで怒ったということで、日米政府が慌てたんです。嘉手納が安定的に運用できなくなったら大変だから、ということがきっかけ。
若い世代は基地や県知事選に関心が薄い。普天間にはもともと人が住んでいなかったとか、そういうデタラメをネットで見て、信じこんでいたり、歴史をほとんど知らない。米軍の専用施設の74%が沖縄にあるという事実に文句をつけてくるものもいる」
岩上「ある世代がいなくなると、ある事実が完全になかったことになってしまう。オーラル・ヒストリーとして、丹念に聞き取り、文字にして、我々がやっているように動画にして残すということが重要。歴史修正が図られようとしている」
アメリカ頼みの対中強硬姿勢の危うさ、その犠牲となる沖縄
佐藤教授「海兵隊がいて、オスプレイがあるから、中国は攻めてこない、アメリカが守ってくれるとか、信じている人がいっぱいいる。沖縄からオスプレイが飛んで、占領された尖閣に兵を降ろして奪還するということなどできないのに、アメリカは『できる』とほのめかす。
『そのために普天間に新たな基地が必要なのです、自国からは金が出ないので、(日本政府には)基地を作って』とアメリカは言う。そしておめでたい日本人がいて、『守ってくれる海兵隊の基地だから(作ってあげよう)。中国怖いし。沖縄はごちゃごちゃ言うな』そんなことではないんだということが、全然伝わらない」
岩上「政府、センターパワーが本気でそのことを理解して、本気で伝えようとすれば、伝わると思うんですよ。でもそんな意志がない」
佐藤教授「『あわよくば、辺野古を差し出せば、アメリカが尖閣の戦争に加わってくれればいいな』と。そんな金があれば、北米本土に作ってあげればいい。嘉手納は残るということだけでも、沖縄は応分以上の負担をしている、ということを言い続けてきたが、誰も聞いていない。
『海兵隊が戦争の技術を教えます』という家庭教師のパックを、アメリカが日本に売り込んでいる。日本は『それを買わないとアメリカは機嫌を悪くするだろうな、買えば、戦争に加わってくれる』と考えている」
岩上「保守は本気でそんなこと考えているんですかね? そんなことありえないでしょ。自民党内から漏れ伝わるのは、『アメリカなど信用できないが、アメリカを戦争に巻き込むために、ここ(沖縄)に基地をおいておくんだ』という思惑です」
佐藤教授「中国とアメリカが戦争したら両国と日本の経済も崩壊する。尖閣でドンパチしたら、株価暴落ですよ。世界恐慌になる」
岩上「アベノミクスは、ほぼすべての指標がマイナスになっているが、唯一株価だけが高い。株価だけで良しとしようというマジックが行われている」
佐藤教授「沖縄が一発でも打たれたら、翌日から観光客ゼロですよ。食糧、燃料を運ぶ貨物船も止まり、県民は生活できない。国民避難計画では、10万人を県外に連れて行くということになっているが、訓練も計画もない。何処へ連れて行くというのか」
岩上「原発の再稼働と同じですね。まったくの無責任」
佐藤教授「福島県で20万人、陸続きの場所で避難させるだけで大変。誰も、避難のことを考えもしていない。
保守の、自称リアリストは、戦闘部隊、自衛隊を前線に送ることは考えても、市民を避難させることは、ほとんど考えを出せていない」
佐藤教授「なにかが一発あった時のことを考えろよ、というのがリアリズム。『軍事力で何とかしよう』という人も、平和ボケしている」
「限定的」戦争の舞台となったフォークランドと沖縄の相違点
岩上「戦争を(地域的に)限定して行いたい、という思惑が自民党にあるとして、その考えはどこからヒントを得たのか? 第一次安倍政権のときに、サッチャー政権時のフォークランド紛争という遠隔地の戦争について研究しにいったという報道があります。
遠隔地で限定的な戦争をするというのは、本土の人間にとって、高みの見物ができて、わくわくできて、(フォークランド戦争の場合は)相手(アルゼンチン)が弱いから確実に勝てた。これを政治的に利用して、(イギリス・サッチャー)政権の安定につながった」
岩上「でも、尖閣の場合、フォークランドとは条件が違いすぎる。(イギリスにとって)フォークランドは地球の裏側だった。死闘を繰り返すということはあり得ない。でも日中は隣り合わせ。いつも張りつめた関係にある。
にも関わらず、沖縄が日本の中枢から遠い距離にあるからといって、フォークランドにたとえて、『そこで限定的な戦争ゲームをしよう』だなんて、相手は『なんで尖閣だけでやらなくちゃいけないんだ』と言って、こちらに届くミサイルを打つ。こちらからは届かない」
アベノミクスによる失望の矛先をそらすために煽られる右傾化と、無謀な言論人の視野狭窄
佐藤教授「アベノミクスは第三の矢のうち、第二まで出した。金融緩和と公共事業をやった。次の見通しはない。国立大の予算を削り続けながら、国際競争ランキングをあげようとしている。基礎研究をするアメリカには世界中から優秀な人材が集まるというのに、日本はそうでない。
規制緩和として、構造改革して首をきりやすくする。労働市場を流動化すると長期的にはいい、持続的成長につながる、と保守派はいう。でも国民は幸福にはならない。政府が主導して、経済を引っ張るという時代ではない。不満が高まると戦争という古典的な手段へ」
岩上「まさに今、そうなっているんですね。『今だったら(中国に)勝てる』というのを耳にします。でも一発やってあとどうするんだ、というのがノープランですね。一発やって、相手がひるまなかったら」
佐藤教授「第二次世界大戦の時と同じ。本当におめでたい人がいる。生身の人間が死ぬ話であって、兵隊も、民間人も死ぬ。経済全体にも大打撃があることまで考えなければ。『とにかく戦争はしちゃいかん』という合意が、今、日本では消えている。『とにかくけしからん中国を一発たたいてやろう』とみんな思うようになっている。
中国が米軍基地を叩いたら、もう核戦争ですよ。それをどこまで考えているのか。アメリカ国内には、日本を守って中国と戦わなくちゃという議論などない。米中は(相互)依存関係ですから。中国の経済は今がピーク。それを中国もわかっている。
内陸部には貧乏な人がまだまだいて、彼らはこれから豊かになると思っている。低賃金の労働力を売りに高めてきた経済力を、今後、その手法が使えないとなると、国内の不満が高まる。その不満をどうするか。アメリカと戦っていては、経済が持たない」
岩上「劇的に中国とロシアが接近して、内陸にパイプラインを通してしまえば、中国の唯一の弱みだったエネルギー問題が解決される。同時に工業力と技術力のないロシアは、資源を中国に売る。売手と買手が出会い、アメリカはあせることになるでしょう」
佐藤教授「中国、韓国、ロシアと対立して、日本はどうやって生きていくのでしょう? モスクワ・オリンピックや、前の前の(東京)オリンピックはどうだったか、考えた方がいい」。岩上「行き詰まったから、隣国とチキンレース。そのダシに沖縄が使われている」
岩上「今の保守派は、かなり大衆化されていて、『WILL』を読んで頭に叩き込んでいる。編集長・花田凱紀氏と櫻井よしこ氏、百田尚樹氏が3人とも『国連なんか出てしまえ』と囃し立てている。ネトウヨと変わらない知性が今、日本の外交を支配している」
佐藤教授「にも関わらず、そういう人達が、辺野古に反対する沖縄県民を批判する。もしも腹をくくってアメリカの(作った)秩序(=国連)をひっくりかえせ、と考えているなら、『米軍は沖縄から出て行け』と言わないのはおかしい。愛国右翼の人ならそれがスジ」
岩上「そもそも原発を抱えて、どうやって戦争するんだ? 原発を地上に晒しながら、『今から核武装する』なんていう国を、なぜ(日本の核武装が完成するまで)相手国が待つんだ? 先に斬られるに違いない」
佐藤教授「人権、言論の自由を普遍的価値とする合意を日本は作ってきた。『明治に戻ることが日本の伝統に戻ることなんだ』という主張は違う。私は『日本おだやか貧乏党』を作ろうかと考えている。おだやかに貧しくなっていく、というのが日本の将来像となるのでは」
岩上「財界などは、武器輸出三原則を緩和してアメリカと一体化、イスラエルと組む、という防衛産業の将来に注目している。原発もそうだが、アメリカの部品の下請け会社のように。
『ずっとイスラムを叩き続けていればいい』というアメリカ、他の国にちょっかいを出しているアメリカに加われば、日本もたちまちテロの標的になるでしょうね」
佐藤教授「一発当てて経済成長すれば、って(そんな可能性は)もうない。原発をばんばん他国に売って、戦争して儲けるだなんて、(そんな可能性は)もうない」
ウチナンチュの未来にたちこめる暗雲と、ヤマトンチュにも落ちる影
岩上「こんな話を沖縄の若者にしてどれくらいわかってもらえるのでしょうか?」
佐藤教授「彼らの身につまされる話なら、わかってもらえると思う。どれだけ政府が借金を積んでいるのか、とか、沖縄から観光客が来なくなる、とか」
岩上「東京でヘイトスピーチが横行している。カウンターが出てくることが救いだけれども、警察はどちらを取り締まっているのか。一方で権力の中枢にいる人たちが、ヘイト団体とつながり、(ヘイト団体が)本当に力を持ってしまっている。
そんななか、沖縄県民の正気ぶり、というか、『戦争をしたらアウトなんだぞ』という気持ちに触れることは希望を感じる。それを伝えていきたいと感じる」
佐藤教授「(仲井真知事が)再選されたら、沖縄には何も残らない。十年経った時の沖縄に、非常に懸念している。(沖縄の)事実、歴史を知らなくて、今カネが来ているからといって(仲井真知事を)選んでしまったら、その先に何があるのか。沖縄の人達にとっていい未来が来るとは思えない。
民意がそうだったと判断するしかないとして、私は辺野古はだめだと言い続けていく。沖縄を出て行くつもりはない。沖縄で骨を埋める。そのくらいでないとモノは言えない」。岩上「沖縄の問題だけではなく、本土の私たちにも振りかかる問題」
(了)
「県民の生活を犠牲にした対中強硬姿勢をあらためよ」佐藤学・沖縄国際大学教授、辺野古をめぐる沖縄の将来の懸念を岩上安身に語る http://iwj.co.jp/wj/open/archives/183157 … @iwakamiyasumi
有無を言わさぬ対米従属がはたして、国益に適うのか?これは沖縄だけの問題ではない。
https://twitter.com/55kurosuke/status/583188931966988289